ラナークエスト   作:テンパランス

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#098

 act 36 

 

 理不尽な破壊神により新たに召喚されるのは高さで言えば五十メートルにもなる四足獣。それがリ・エスティーゼ王国の西方附近、比較的人が居ない地域に落下してきた。

 遥か上空というわけではなく、獣の身体の二倍程度の高さだ。だが、それでも地面に激突する際の衝撃は大きい。

 地域全体に伝わる地震の規模は物体の大きさに比例でもしたのか、近隣の村や都市から悲鳴が聞こえるほど。

 その獣は全体的に白銀の体毛で覆われおり、先端部分が赤みを帯びていて、見ようによれば桜色に近い。

 生物で言えば獅子。猫科の動物に酷似する。

 その獅子の身体を守るように奇怪な模様が刻まれた重厚な鎧がまとわれていた。

 

「グウゥゥ」

 

 体勢を立て直し、大地に足を付ける獅子。その設置面には複雑な模様の魔方陣が一歩踏み込む度に発生し、消えていく。

 自分がどうしてこの世界に落とされたのか。そして、この世界は何なのかを理解しようと辺りに顔を向ける。しかし、獅子の記憶には無い風景で戸惑いを覚える。

 まず最初に何をすべきなのか、巨大な身体を持つ獅子はとりあえず、大きな都市に向けて進む事にした。

 それと同じ頃に王国領大都市の一つ『エ・レエブル』にて新たな転移者達が大地に降り立つ。今までの者とは違い、落下というよりは魔方陣からそのまま移動してきた感じで扱いに差別を感じる。

 ぞんざいに扱ってはいけない人物だから、とも言えなくはない。

 

「……紛うことなき異世界って奴だね」

 

 赤黒い髪を持つ元気だけがとりえの男性が辺りを一瞥して感想を述べる。

 風景だけを見れば異世界と断ずるには材料が足りない。

 

「……兎伽桜さんですね。こんな悪戯をするのは……」

 

 眉間に皺を寄せるのは三十代半ばの女性。

 普段着のまま呼ばれた事に軽い頭痛を覚える。

 

「おっと、地震か……。っていうより見えてんじゃん。あれ『さくら』だよ」

「……ここからでも見えるとは……。相当育ってんな~」

 

 彼女の側に居るのは弟と妹。年齢的には十代後半から二十代になりたて、というところだ。

 顔立ちは多少似ている程度でそれぞれ個性を出すための衣装を着ていた。とはいえ、着替える事になるので描写的には意味がなくなるけれど、ジャケットやジーンズのようなものを着ていると思えばいい。

 

「……ただの一般人を異世界に呼んで何をさせたいのやら。……都合がいい事に非番だし」

 

 異世界召喚どの作品であっても理不尽なものが多い。

 

「……わー、空気が綺麗……」

 

 更に後から現れるのは全身を黒い包帯で包み隠した腰まで長い黒髪を持つ何者か、としか言いようがない風貌の人物。それとその人物の服を掴む男の子と女の子が一人ずつ。更に先ほどの妹と呼んだものに顔がほぼ瓜二つの女性がもう一人現れる。こちらは周りを気にして神経質に怯えを見せていた。

 

「まるで神崎一家ご招待って感じだな。……オチが見えたぞ」

「と思いきや、(わらわ)も呼ばれたようだ」

 

 扇子を降りつつ現れたのは妙齢の女性と呼ぶにはまだ歳若い姿の人物で中華系の服装に身を包んでいた。

 実際には雰囲気に合っている、という理由で着ているだけで自国の民族服ではない。しかし、その民族服は中華圏のものと多少は似ているところがあるかもしれない、と思わないでもない。

 最後に転移の魔方陣を固定化するように巻きつく鎖が現れた後で出て来たのは黒い学生服姿の女性だった。

 露出している手足には包帯が巻かれ、顔も絆創膏や包帯で巻かれた痛々しい姿になっていた。

 見た目には歳若い女性。

 平均的な日本人の容貌で腰まで長い黒髪が特徴的だが、こちらは怨念が全身から滲み出しているような暗い雰囲気を発散させていた。

 彼女が降り立った後で魔方陣は消えるのではなく、砕け散った。

 

「……見つけましたよ、オリヴィス……」

 

 地獄の底から追いかける悪魔の怨念のような呻き声が響く。

 

「……怖い怖い……。平泉先輩ってそんなキャラでした?」

「……自分のホームグラウンドに帰ってきたって感じで……、つい」

 

 ウヘヘと気持ち悪い笑みを浮かべる平泉と呼ばれた女性。

 どう見ても異世界で活躍できるような人物はおらず、ただの団体旅行客にしか見えない。

 

「えっ? 俺、たぶん強くて戦えるよ」

 

 と、女性陣が多い中で二人しか居ない男性の一人が言った。というよりはもう一人の男性はどう見ても子供だ。

 あと、登場予定であった『神儀羽累鳳(かぎうるふ)ゼノス』君と『ミストラル=ユニ=ノールンレッゼ』さんは諸事情により来られなくなりました。というより兎伽桜が来させないようにしたとしか思えない。

 彼らは単独でも異世界に来られるので別に強制参加させる必要性は皆無だけど。

 

          

 

 リ・エスティーゼ王国の王都リ・エスティーゼに迫る巨大生物。

 顔立ちは凶悪な獅子。しかし、その身体は五十メートルほどの巨大なもの。

 今まで何処に生息していたのか信じられない巨体を持つモンスター。それを高みから警戒していた兵士達が見つけて慌てふためく。

 すぐさま王都の中は大混乱かと思われたが高い城壁のお陰か、人々の中で巨大な獅子に気づいたものは殆ど居ない。せいぜい地響きが少しずつ大きくなっている事に気づいて立ち止まる者が増えてきた程度だ。

 都市内を走り回る兵士達が慌てず、冷静さを装おうとするが冷や汗が止まらないのか、身体を震えさせていた。それでも避難誘導に勤めていたのは立派だと言える。

 出来るだけ天井の無い広場に移動するように人々に触れ回る。

 

「出来るだけ広い場所に移動してくださいっ!」

 

 地響きなど王都で起きる事は殆どない。けれども絶対に無いとは言い切れない。

 強大な魔法やモンスターの突進などでも家は揺れるものだ。

 避難誘導が順調に(おこな)われている頃、王が待機する謁見の間、または玉座の間と呼ばれる部屋に様々な情報が集められてくる。

 迫る巨大モンスターは一定の速度を維持している。特に大きな咆哮は上げていない。

 真っ直ぐに王都を目指している、などなど。

 

「推定五十メートルの獅子型か……」

 

 と、難しい顔をするのは特別に飛ばれた王国最強と名高い戦士長の『ガゼフ・ストロノーフ』だ。

 厳つい顔だが三十代ほどの男性で軽装鎧をまとっているが、鍛えられた身体の筋肉は今にも軽装鎧を弾きそうなほど膨らんでいた。

 相当な鍛錬を積み重ねた結果が窺い知れる。

 

「……戦争時に現れたモンスターの五倍は大きいと……。これは難敵ですな」

「……うむ」

 

 難しい顔で相槌を打つのはリ・エスティーゼ王国国王のランポッサ三世

 六十代を超えたばかりの年齢だが未だ現役で政治を取り仕切っている。

 王様一人で国を支えているわけではなく、六大貴族と言われる六人の大都市を管理する貴族達と共に国を運営していた。

 大貴族王派閥貴族派閥があり、土地の占有率から七割方を貴族派閥が占めているので発言権が彼らの方が大きい。

 いくつかの事象により現在は王の発言権は以前より増しているけれど、まだ少し貴族達が有利であった。

 

「あれほどとなると討伐隊を差し向けてもどうにもならないだろうな」

「今のところ人的被害は無く、ただ歩いているとのことです」

 

 と、会議している間も次々とそれぞれの貴族達が抱える従者達の報告が届けられる。

 

「相手は獅子。言葉が通じるとは思えませんが……。あれで人間を食料にしたりするのでしょうか?」

「あれだけの巨体で胃を満たすとなると大都市ひとつ分は必要かもしれないが、であれば海沿いのリ・ロベルは陥落していないと……」

「遠目ですが、リ・ロベルから煙りは上がっていないとのことです」

「……仮に人間以外が目的ならば……、無理に慌てず大人しくするのも手かと」

「とにかく、避難勧告を各地に伝達せよ。場合によれば国を放棄することも想定しなければならない」

 

 建物が壊れるだけならば建て直せばいいだけだ。

 優先すべきは民の命。それに関して貴族達に異論は出なかった。

 

「あれも魔導国のモンスターという事は無いのか?」

「出現場所から考えて妙です。しかし、あの国がいきなり宣戦布告もなしにモンスターをけしかけるでしょうか?」

 

 というより先月、会談を持ったばかりだ。

 いわゆる貿易協定に関するもので、互いに不足している作物の状態や取り引きに関する相談ごとなどが主な議題となった。

 それ自体は特に問題なく終わった筈だ。

 

「それにトブの大森林から現れる方が自然で……。意表を突くにはいい手かもしれませんが……」

 

 疑えばきりが無いのは分かっている。何かに責任を転嫁したい気持ちが強くなったためだと国王は思う。

 

「歩く速度に変化なし」

「嵐が過ぎ去るまでじっとしている方が得策か。それとも……地下から逃げる手を使うか?」

 

 地下施設に避難するとしても巨大モンスターが建物を破壊していった場合、生き埋めにされる恐れがある。

 王都は周りが平原になっていて脱出先に意外と不便であった。

 

          

 

 巨大な獅子が王都の外延部にたどり着くと、外壁を乗り越えて街中を覗き込むように顔を入れる。

 顔だけでも相当な大きさがあり、街中に居た人々が悲鳴を上げる。

 今まで見たこともない巨大生物なので驚かない人間はほぼ居ないと思われる。

 兵士達の武器でどうにかなるとは到底思えない。

 一気に飛び込まれたら王都は一瞬で壊滅する。

 

「おいおい、聞いた以上にデケーじゃねーか」

 

 街の外延部に作られた高い塀に甲冑姿の異形が腕を組んで巨大な獅子を見上げる。

 腰には2メートル以上の長さの太刀が横向けに()げられていて、頭部には釣り針に似た刺々しい角が三日月を形作るように生えていた、というよりは頭を貫通しているように見える。それと口の両端にも上向きに大きな牙があった。

 この異形は至高の四十一人武人建御雷(ぶじんたけみかずち)』という。

 

「敵意ハ感ジマセヌ。……シカシ、人間共ガ慌テフタメイテケガ人ガ出始メテオリマス」

 

 武人建御雷の側には2メートル以上の大きさの氷で出来たような身体に見える虫系モンスター『コキュートス』が控えていた。

 左右二本ずつの腕には本来は武器が握られているのだが今は邪魔なので無手となっている。

 棘の付いた尻尾を器用に動かしつつ自分の主である武人建御雷に報告をしていた。

 

「あっちはチグリス達に任せているから、こっちは侵入を防止するだけだ」

「畏マリマシタ」

「……世界級(ワールド)エネミーじゃないよな? あんなの知らねーぞ」

 

 確かに巨大モンスターはいくつか知っているけれど、久しぶりに見ると脅威だと武人建御雷をもってしても思った。

 一人で戦いたくないな、という気にさせる迫力は感じた。

 

「最低でも2チームだ。……それから王様に連絡はついたのか?」

「モウスグ報告ガ届クカト……」

「そうか。あちらさんの疑心暗鬼は想像つくが……。魔導国はこんな無茶はしないぞ」

 

 地盤固めをしている最中に強引な手法を取る、ような事は自分達の国王であるアインズ・ウール・ゴウンはしない。まして交流を持った相手にケンカを売るのは自分達でも酷いと思う。

 ユグドラシル時代に他のギルドと連合を組んだ時でさえ礼儀は(わきま)えた。

 だからこそ、礼節に(もと)る事はしない。

 

「お、お待たせしました」

 

 と、言いながら荒い呼吸を静める為に深呼吸をするのは白銀の全身鎧(フルプレート)をまとう青年騎士『クライム』だ。今は貴族との連絡係の仕事の為に奔走していた。

 

「ご苦労さん。こちらは見張っているから避難は任せるが……。魔導国はあんなモンスターは知らないからな」

「そ、そうですか」

「間違いなく攻撃したらこの都市はヤベー事になる。迂闊に手を出さないのが懸命だな。……というか俺達でもためらうレベルだわ」

「それほどまで……。はい、分かりました」

 

 クライムと話しながらも顔はずっと巨大モンスターに向けられていた。

 今は注意をそらす事はとても危険だと武人建御雷は思っていた。

 

          

 

 王国が誇るアダマンタイト級の冒険者は全て別件で留守にしていた。なので現在、国民を守れるのは実質王国戦士長率いる団体と護衛騎士団だけだ。

 戦力としては貧弱。もちろん、巨大モンスターに対しての基準だが。

 どう考えても立ち向かうだけ無謀と言わざるを得ない。

 

「……これまた巨大な生物でござるな……」

 

 建物の間を器用に飛び跳ねつつ移動するのは忍者(ニンジャ)のような人物だった。

 覆面を被っているが武人建御雷と同じく至高のメンバーの一人で『弐式炎雷(にしきえんらい)』という。

 その彼と共に移動するのは修道女(シスター)のような姿でありながら褐色の肌を持ち、素早く移動する弐式炎雷のあとを懸命に追っていた。

 編んだ赤い髪の毛をツインテールにした『ルプスレギナ・ベータ』という女性は戦闘メイド六連星(プレアデス)』の一人だ。

 末妹を加えた場合は『七姉妹(プレイアデス)』となる。

 

「ルプー、無理しなくていいでござるよ」

「そういうわけには……、参りません」

 

 身体能力では至高のメンバーが(まさ)っているのでルプスレギナが遅れを取るのは仕方が無い。けれども一般の人間からすれば彼女の身体能力もまた遥かに高いものだ。

 

「対象は獅子と聞いていたでござるが……。正しく巨大な獅子……。しかし……、あんなモンスターは見た事が無い……」

「……ふぅ。今のところ……建物の被害は無い、とのことです」

「あんな巨大なものが相手では……。我々でも逃げ出すレベルだ。……しかし、かっこいいでござるな」

 

 建物の屋上から見える獅子の顔。

 口から炎を吐いたりしないが、大人しいところが逆に怖いといえる。

 前足を街の中に入れて何かを取ろうとする姿はじゃれる猫そのものなのだが、まさかそんなことはないよな、と弐式炎雷は疑問に思う。

 けれども、もし単なる興味だけで街を眺めているのであれば別の方法で気を逸らさないと建物が色々と潰されてしまう。

 

「……猫じゃらし……、といえばるし★ふぁーか……」

 

 犬派が多いギルドの中にあって猫派の『るし★ふぁー』に連絡を取り、すぐ来いと命令する。それに対してルプスレギナが驚くが無視する。

 

「る、るし★ふぁー様、怒るんじゃないっすか?」

「知るか。あいつも少しは外で働くべき、でござる。インドアは陽の光りを浴びて浄化されなければ不健康極まりない」

 

 ふん、と鼻息のようなものを出しつつ憤慨する弐式炎雷。

 メンバーの中でも仲が良い者も居れば、悪い者も居る。それでも全員がまとまっているのは()()()()()()()が居るからこそ、だ。

 

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