新世紀エヴァンゲリオン 連生   作:ちゃちゃ2580

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5.She vomited lie.

 一一〇〇(ヒトヒトマルマル)

 綾波ちゃんが搭乗する事になるエヴァ零号機の再起動実験の為、彼女のコンディションチェックが行われました。起動実験自体は何度かやっているのですが、今日はその本命の日。わたしが来る前、一度失敗したからか、万全を期す為に、態々午前中から彼女の最終チェックが行われたのです。

 

 これによって、わたしは今日の訓練がありません。

 ミサトさんやリツコさんと一緒に、綾波ちゃんの実験を見学する立場です。つまるところ、更新カードさえ渡したら、学校に戻っても良かったのですが、折角の起動実験だからとずる休みです。

 今は木崎さんと二人、管制室の端っこで、椅子に腰掛けています。リツコさんに用意して貰ったカフェオレを飲みながら、綾波ちゃんのデータが表示されているスクリーンをぼーっと眺めていました。いやはや、只今絶賛大忙しなリツコさん達には申し訳ないですが、ようやっと落ち着いてきました。

 

 前回、失敗したという起動実験は、危うくパイロットを一人失うかという程の惨事になったそうです。それ故に、再起動実験はとても慎重に行われています。何日にも分けていたり、コンディションチェックを行ったり……有事だったとはいえ、ぶっつけ本番で搭乗したわたしとは大違いですね。

 搭乗後のわたしの扱いに関しても、すぐにシンクロテストや訓練が始まっていて、エヴァとの適性を改めて確認するような機会は一切ありませんでした。シンジくんの記憶がある以上、それを不思議に思うことは無いのですが、改めて思い返すと違和感満載です。やっぱり、初号機って特別なものなんでしょうか……。

 

 確か、零号機はプロトタイプ。

 初号機もその域を抜け出ないのですが、後継機である筈の弐号機とは大きく異なる点を幾つか思い起こせます。

 

 先ず、初号機の血は赤色。零号機は直接血を流している記憶は無いのですが、こちらも赤色だという記憶があります。対して弐号機や参号機、そしてその後継機となる白い胴長のエヴァ――って、うえっ。トラウマが蘇ってきそう。あれを思い起こすのは無し、無し――は、赤というより、紫色の血を流しています。

 理由は単純。

 零号機と初号機は、リリスを基にして造られたのです。対して、それ以後の機体はアダムから造られているんだとか。だから、前者二機は日本で建造されて、後者は外国で建造されたとか、何とか……。まあ、それは兎も角として、つまるところ弐号機以後の機体は、使徒を基にしているのと同じです。対する二機は、人類と同じ存在と言って過言ではありません。そうは見えないけど。

 

 そうそう。

 だから使徒が現れた時の警報って、『パターン青』なんですよね。彼等の血が青いから。……っていうと、語弊があるかな。正確には波長パターン。人類の祖であるリリスも、『パターン青』なんだし。

 因みにエヴァの波長パターンはひっくるめて判別不能(オレンジ)。そこにルーツの差が無いことは釈然としませんが、逆に差があったらあったで、誰かしら疑問に思うかもしれませんし、ある程度誤魔化す為なのかもしれませんね。ただ、シンジくんのATフィールドを差して『パターンレッド』って言われた記憶――と言っても、これは補完された方の良く分からない知識ですが――もあるので、いよいよ訳が分かりませんね。

 

 って、思考が逸れた。

 つまるところ、初号機が特別だとすると、その理由はリリス由来の機体である事が挙げられます。

 同様の零号機は、シンジくんの記憶上、一六使徒戦の際に自爆して失われているので、補完計画の際、初号機は唯一のリリス由来の機体でした。でもって、白いエヴァは態々弐号機を破壊して、初号機を待っていた様子――って、ああ……気持ち悪い。あの時を詳しく思い起こせないのって、ほんとトラウマが邪魔してる気がする。

 

 何にせよ。

 一つの仮説が生まれるのです。

 

 初号機じゃなくて、零号機が中心でも、補完計画は出来るのかもしれない――と。

 

 まあ、だからといって深い意味は無いんだけど……。

 ちらりと、視線を泳がせます。

 誰もが綾波ちゃんの状態を映すスクリーンを見守っている中、やはりその男もスクリーンを見ています。唯一周りと違う事と言えば、彼女が成功する事を信じて疑わないように、何時も通り、顔の前で手を組み、悠然としている事でしょうか。

 

 そう。

 諸悪の根源はあの男。わたしの父。

 その目的は、初号機のコアに眠るお母さんと再会する事で、間違いない――って、あれ? 何か、可笑しくない?

 

 ふと過ぎる疑問。

 思考に何か引っかかる点を感じて、わたしは俯きます。

 

 何だろう。

 何か見落としてる気がするんだけど……。

 

 特別重要な事が引っ掛かっているようには感じられず、だからと言って軽視出来たものではないような気がしました。わたしは自らの唇に指を押し付け、「うーん」と唸ります。

 とすれば、様子に気が付いたらしい木崎さんが、何とも怪訝そうな顔をして、こちらを見てきました。ハッとしたわたしは手を振って誤魔化し、唇の動きで『気にしないで』と伝えます。昼間の一件で、普段以上にわたしの状態を気にかけてくれているようですが、思考癖は何時もの事です。決して珍しいものではありません。

 朗らかな表情で返した事が奏功したのか、木崎さんは小さく頷いて、警戒を解いたようでした。

 

 再度思考の海へ。

 とすれば、仕切り直しで着眼点が変わったのか、不意に光明が現れました。

 脳裏にフラッシュバックする記憶は、まるで鏡を見ているかのように、わたしと瓜二つなお母さんの顔。しかし、その顔はすぐに変化して、空色の髪を持った少女の顔に。

 薄らと微笑むその顔は愛らしいのに、何処か神秘的に思えるような雰囲気を持っていました。っていうか、透けて見えました。妄想だとか、記憶だとか、そういったものの所為ではなく、透けた姿を記憶していたのです。

 

『碇くん。わたしとひとつになりたい?』

 

 短い問いかけ。

 彼女はその後、それはとても気持ちの良いことだと言いました。

 

 その記憶、その光景、確かに見覚えがあります。

 そしてその時、シンジくんは……。

 

 長い潜水の後、水面を割って浮上するような感覚。

 ハッとしたわたしは、違和感の正体に気が付きました。

 

 あ、そっか……。

 お父さんのやりたい事って――。

 

 ちらりとお父さんを見やって、その後自らの手へ視線を降ろします。

 今、目に映るこの手は間違いなくわたしのものですが、視線の焦点はわたしの手を認めていませんでした。記憶の中、夢の中、シンジくんの世界に居る時を思い起こして、彼の手を思い浮かべていました。

 

 第一四使徒戦の後、身も心もエヴァと同化してしまっていたシンジくん。しかし彼は、約一月の時間が経過した後、物質へと戻ったのです。自らの形、自らの心を取り戻し、文字通りヒトの形へと回帰しました。

 俗に言う『サルベージ』。

 それを行ったのは、他でもないリツコさんでした。

 そしてそのリツコさんの師にあたるのは、赤木ナオコ博士。母の親友で、リツコさんを凌ぐ天才だったとも聞きます。MAGIの製作者であると言えば、どれ程偉大な人物かは分かるでしょう。

 

 シンジくんのサルベージ計画と、赤木親子。

 あまり関係が無いような二点ですが、お父さんの目的を念頭に置いて考えると、大きな矛盾を孕んでいるように思えました。

 

 わたしの母、碇ユイの魂は、リビドー反応が臨界点を越えず、サルベージ出来なかったのです。

 こういった事へ無知であるシンジくんを、サルベージさせたのはリツコさん。その彼女を凌ぐ天才だと謳われたナオコさんでしたが、結果は母のサルベージに失敗しています。これだけ見れば、技術的な進歩もあったと思えます。しかし、わたしはシンジくんの記憶を持っているので、彼がLCL化していた際、朧気ながらも自我を持っていた事を覚えています。事実、今現在、わたしがいるこの現行世界でも、初号機()の自我はあるようです。

 リビドーという生への執着が重要になるサルベージにおいて、対にあたるデストルドーに呑まれる……つまり、死を受け入れてしまうという事が、成功率に直結します。それはナオコさんが提唱した事のようですが、母も同じく天才と謳われた身。LCLに溶けてしまう危険性を持った実験に挑む以上、心得ていた事でしょう。

 

 つまり、母自身が『生きたい』と思えば、サルベージ出来たのでは? と、思えるのです。

 裏を返せば、まるで母がエヴァに取り込まれたいと願って、件の事故が起こったように思えてしまいます。腑に落ちません。漠然とした疑問から、あまり嬉しくない考察が成り立ってしまいます。

 

 もしも仮に、母が望んでエヴァの中に居るとするのなら――何で? と考えれば、わたしやお父さんと一緒に生きる事より、優先すべき事があったから。という回答が考えられます。

 確かに人類は、使徒が来る事を知っていました。だからエヴァを建造し、わたしを寄越したのですから。直前になって呼び出したあたり、使徒襲来の詳しい日時まで知っていたようです。

 その有識者の中には、エヴァを作っていた母も含まれるでしょう。むしろ知らない訳がありません。

 

 なら、母は使徒の殲滅の為、尊い犠牲となったのでしょうか?

 それは少し、無理がある気がします。実際のところ、第三使徒が襲来したのはつい最近の話。母がエヴァに取り込まれたのは一〇年も前の話です。一〇年もあれば、より良い手段を思いつくとは、凡人のわたしでさえ気が付く事。事実、パイロット側の魂を誤魔化すダミープラグは、近々作成される筈。母が存命なら、もっと早くにそれらの技術が進歩していたでしょう。

 

 何より、母がいなくならなければ、父が暴挙に出る事は無かったのです。

 母がそこまで予期していたとは思えませんが、父に野望を持たせたのは母だとさえ、言えてしまうのです。……いや、もしかしたら、お父さんの事だから、元々性根が腐っていたのかもしれませんけど。

 

 何せ、母を対象としたサルベージ計画は実際に行われましたし、微量ながらも遺伝子が回収が出来たからこそ、綾波レイという存在があるのです。だけど、やはり腑に落ちない。だって、アスカの母は――精神こそ欠如していましたが――肉体が帰ってきているのですから。此処まで考えてしまうと、母に『戻る気が無かった』としか思えないのです。

 おまけに、母はそれまで人工進化研究所に連れて来なかったわたしを、あの日に限って連れて行ったのです。つまり、事実上ほぼほぼ黒です。

 

 まあ、でも……何だかんだ言って、わたしってお母さんっ子なんですよね。

 仮にお母さんが悪い人だったとしても、お父さんが人類補完計画を提唱するように、自らの命までかけて誘導していたとは思えません。副司令から聞いた『生きていれば何処だって天国になる』との、母の遺言を思い起こせば、自分の命を粗末に扱う人じゃないとも思います。子供のわたしはこんなですけど……。

 つまり、お母さんが諸悪の根源とは思えない訳で。何かしら意味はあったんだろうけど、凡人のわたしには到底及びつかないって形に行き着くのです。

 

「……はあ」

 

 思考はどん詰まりに。

 最早恒例の溜め息タイムです。

 

 どだい考えても、わたしに他人の気持ちが分かる筈は無く。強いて言うなれば、シンジくんの記憶でサードインパクトを経験した癖に、父や母と補完されていない事を恨みました。……そう。そもそも、これも可笑しな話なんですよね。

 他の事は内容は兎も角、知識としてきちんと補完されているのに、どうしても父や母との補完が思い出せないのでしょうか……。

 

 ま、いっか……。

 順当に行けばきっと何処かで会えるだろうし、直接聞いてみよう。

 

 やがてわたしは疑問を放り投げて、面を上げます。

 視界に映る管制室は、何処かホッとしたような雰囲気に包まれていました。どうやら綾波ちゃんのコンディションチェックが全て済んだようです。スカートからスマートフォンを取り出してみれば、時刻は一一時半を示していました。予定より少し早く済んでいるあたり、けちのつけようが無い程、万全な状態のようですね。




これも先以って補足しておきますが、エヴァ零号機はルーツが明らかではなく、流血描写もわたしが覚えている限りでは存在しません。でもレンが知っていないのは可笑しいですし、本作ではリリス由来として扱います。
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