ISアドベンチャー 聖騎士伝説   作:イナビカリ

64 / 133
第060話:力と専用機の意味

「どう言うつもりですか!!」

 

「どうって?」

 

 自分を放ったらかしにしてラウラとシャルロットのISを調整しようとする束に箒が食って掛かった

 

「私のISです!!そいつ等の機体を弄る前に私の専用機を出して下さい!!!」

 

 すると自分の専用機を出せと言って来た

 箒は未だに自分のISが用意されていると思っていた

 そんな箒に対して束は…

 

「…そんな物造って無いよ?」

 

「なっ!?…造って…無い…だと!?」

 

 ハッキリと用意していないと言った

 

「な、何故だ!!あの時造ってくれと言った筈だ!!」

 

 自分のISは無いと言われキレた箒は何故造らないのかと怒鳴りながら問い質した

 そんな箒に束は冷静に答えた

 

「確かにそう言われたね?」

 

「なら何故造って無いんだ!!あの時造ると「そんな事言って無いよ。」…え?」

 

「束さんはあの時『考えておく』って言ったんだよ?『造る』なんて一言も言って無いよ?」

 

「!?」

 

 束にそう言われ箒も思い出した

 確かにあの時、束は『考える』と言っただけで『造る』とは口にしていなかった

 

「そ、そんな…で、でも…今日は…」

 

「今日?今日は箒ちゃんの誕生日だね?でもそれと専用機を持って来る事と何の関係があるの?」

 

「!?」

 

「まあいいや…後で二人きりになった時に渡そうと思ったけど此処でいっか。はいコレ♪誕生日プレゼントだよ♪」

 

 そう言って束は懐から綺麗に包装された細長い箱を出した

 箒はそれを受け取ると中身を空けた

 

「コレは…」

 

 中に入っていたのは赤いリボンだった

 束はこの日の為にわざわざ変装までして箒のプレゼントを探しに出かけていた

 だが、そんな束のプレゼントを…

 

 バンッ!

 

全員

「!?」

 

 箒は地面に叩きつけた

 

「私が…私が欲しいのはこんな物じゃない!!ISだ!!私だけのISが欲しいんだ!!!」

 

 束からのプレゼントを受け取らず箒はISを寄越せとしか言わなかった

 そんな箒の態度に…

 

 パンッ!!

 

「!?」

 

 太一が箒の頬を叩いた

 

「何をする!!」

 

 叩かれた頬に手を当てながら太一を睨む箒だが太一は更に睨み返し…

 

太一

「何を…だと?お前こそ自分が何をしたのか分かってるのか!!」

 

「な、何だと!?」

 

太一

「お前は束のプレゼントを束の目の前で投げ捨てたんだぞ!!それが贈り物をくれた人に対する人間のする事か!!!」

 

 自分がやった事を問いかけた

 尚、このやり取りを見ていた一夏は箒をビンタした太一に険しい表情をしていた

 今のやり取りは明らかに箒の方に否があるのだがこの男は『男が女に手をあげた』と言う所しか考えていなかった

 尤も、そんな一夏の事など誰も相手にしていないので放置されていた

 そんな一夏が太一を批難しようと喰ってかかろうとした時…

 

「だ、黙れ!!私が姉さんから欲しかったのはISだ!!それ以外の物など必要無い!!!」

 

 箒が再び騒ぎ出し一夏は乱入するタイミングを失ってしまい、そのまま見守る側のままになってしまった

 一方で箒は束から受け取りたかったのはISとしか言わなかった

 そんな箒の答えに周りにいるマドカ達は激しい怒りを覚えた

 それは余りにも身勝手すぎる上に相手の気持ちを平然と踏み躙っているからだった

 そしてそれは、このやり取りを見ていた他の生徒達も同様で口々に『ヒドイ!』『最低!』と口にしていた

 

太一

「貴様…(やはりコイツが【()()】か!)」

 

 そんな箒に太一は怒りながらも冷静に箒の観察をしていた

 その結果、このやり取りを見て箒こそが【傲慢の魔王】を宿す人間だと改めて確信した

 それは千冬とオータムも同様だった

 しかし、それは別にしても今の箒の返答に対して太一はもう一度叩こうとした

 だが…

 

「いいよたっくん…」

 

 その手は束によって止められた

 

太一

「束…だがコイツは…」

 

「気にしなくていいよ…こうなるだろうとは思ってたからね…」

 

太一

「………」

 

 そう言いながら笑ってプレゼントを拾う束だが明らかに無理をして笑っていた

 それは太一だけでなく千冬やマドカ達にも分かるものだった

 だが、分かっていない奴もいた

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

一夏

「あ~良かった…気にしてないんだ…」

 

 束の痩せ我慢を一夏は分かっておらず、そのまま真に受けて安心していた

 更にさっきまで太一を批難しようとしていた事も忘れてしまっていた

 そんな一夏の呟きを聞いて…

 

「コイツも最低だったわね…」

 

セシリア

「ええ、救いようがありませんわ…」

 

ラウラ

「私でもアレが痩せ我慢だと分かるぞ…」

 

シャルロット

「アレをどう見ればそう思えるんだろう…」

 

 代表候補生4人は軽蔑した眼で一夏を見ていたのだが、当の本人はいつもの様に都合の悪い事はシャットアウトしているのか聞こえていない様子だった…

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 一方、束と箒はと言うと…

 

「…そんなにISが欲しいの?」

 

 拾ったプレゼントを懐に仕舞いながら束が問いかけて来た

 その質問を聞いた瞬間、箒の表情は一変した

 

「そうだ!!!」

 

「はぁ…分かったよ…」

 

「!?」

 

 束が分かったと言った事で今度こそISを用意すると思ったのか笑みを浮かべていた

 だが…

 

「ただし!」

 

「!?」

 

「これからする束さんの質問に答えて貰うよ?その答えに束さんが納得出来たら箒ちゃんの専用機を造ってあげるよ。」

 

 そう簡単に上手くいく筈なかった

 

「くっ…分かりました…」

 

 箒は舌打ちをするが質問に答えるだけで造ってくれるならとその提案に乗った

 だが、太一達は確信していた

 束が何を聞くつもりなのか分からないが箒では確実に束の満足する答えを出せないと

 

「まず最初に…箒ちゃんにとって『IS』って何?」

 

「『力』です!」

 

「その力で何がしたいの?」

 

「私の前に立ち塞がる奴、邪魔をする奴、そう言った目障りな奴等を先ずは排除します!!」

 

(目障りね~…間違いなくその中にたっくんが入ってるね…)

 

 箒の答えを聞いて束は箒がISを手に入れれば太一に襲い掛かる姿が浮かんだ

 それは千冬やマドカ達も同じだった

 その後も束はいくつかの質問を箒にしていった

 だが、箒の答えは誰がどう聞いても自分勝手なものばかりだった

 そして…

 

「じゃあ、束さんがISを造ったとして…それは専用機になる訳だけど…専用機の意味は?」

 

「専用機の意味?量産機より強い機体と言うだけです!!だから私は専用機が欲しいんです!!」

 

専用機持ち達

「!?」

 

 束の質問に答えていく箒の答えを聞く度に専用機を持つ代表候補生の4人は表情を険しくしていった

 そして専用機の意味と言う質問の答えを聞いた瞬間、その表情は怒りで染まった

 箒は専用機の意味を理解していないからだった

 

「………」

 

「コレでいいんですか!まだ何か聞く事があるんですか!」

 

「…もう無いよ…」

 

「では結果を聞かせて下さい!」

 

「…やっぱり予想通りの答えだったよ…」

 

「なら…」

 

「うん…箒ちゃんにはISを持つ資格は無い!!!」

 

「!?」

 

 束の答えは箒にはISを持つ資格が無いと言うものだった

 

「な、何故だ!!私はちゃんと姉さんの質問に答えたんだぞ!!」

 

 だが、それに箒は納得がいってなかった

 

「その答えが間違いだったんだよ!外れも外れ、全部大外れの答えばかりだったよ!!」

 

「私が何を間違えたと言うんだ!!」

 

「なら教えてあげるよ。最初の質問で箒ちゃんはISを『力』って言ったね?その後の質問ではその力で気に入らない相手を叩き潰すって言ったよね?」

 

「それの何がいけないんですか!!今だって…」

 

「そう、今も同じ事をしている連中はこの世界には腐るほどいる…そいつ等のせいでこの世界は【七大魔王】に目を付けられる原因になった。」

 

「!?」

 

「でもね?箒ちゃんが同じ事をやるのは自由だよ?けどね、周りがやってるからって自分もやっていい理由にはならない。そいつ等を理由に自分を正当化する事は出来ないよ。」

 

「ぐっ…」

 

「それに気に入らない相手を潰すって要するに暴力で黙らせるって言う事でしょ?そこにISまで持ち出すなんてさ…それって人として最低な事じゃ無いの?」

 

「さ、最低!?わ、私が…最低な人間だって言うんですか!!」

 

「あの答えじゃそう受け取れるんだけど?ちーちゃんはどう思う?」

 

千冬

「私も同意見だ。」

 

 束は隣の千冬に意見を聞いて来た

 そして千冬の答えも束と同じ考えだと言うものだった

 

「ち、千冬さんまで!?」

 

「箒ちゃん…いくら相手が妹だからってISを暴力の為にしか使わない人に生みの親の束さんが渡すと思ってるの?そのくらいの常識は束さんにだってあるんだよ?」

 

「ぐっ!」

 

千冬

「………」

 

 束の口から『常識』と言う言葉が出た瞬間、千冬は目を見開いていた

 束ほど常識と言う言葉が似合わない人間はいないと千冬は思っていたからだった

 それは妹の箒も同じ考えだったが、今は束の方が正しい事を言ってるので何も言えずにいた

 その後も束は箒の答えの間違いを指摘して行った

 

「そして最後の質問…コレは束さんじゃなくてセシリアちゃん達代表候補生に言って貰った方がいいね。」

 

セシリア&鈴&シャルロット&ラウラ

「え?」

 

「じゃあよろしく~。」

 

 そう言って束はセシリア達に話を振った

 最初はいきなり話を振られ驚いていた4人だがすぐに気を取り直した

 一方で専用機持ちに聞けと言われた箒はセシリア達を睨みつけた

 

セシリア

「コホン…では篠ノ之さん…貴方は専用機を量産機より強いだけの機体と仰いましたね?」

 

 そんな箒に睨まれながらセシリアが口を開いた

 

「ああそうだ!何が違うんだ!」

 

「フン!大間違いよ!専用機って言うのはあんたの『我儘』を通す為の道具じゃ無いのよ!」

 

「わ、我儘だと!?」

 

「あんたがさっきから言ってる事が我儘以外の何だって言うのよ?馬鹿の一つ覚えみたいに専用機を出せ出せって駄々を捏ねて恥ずかしく無いの?」

 

「だ、駄々だと!?」

 

シャルロット

「篠ノ之さん、確かに君の言う通り専用機は量産機より強いよ?でも僕達が専用機を持っているのは自分の実力が認められたからなんだよ?」

 

「何?」

 

「専用機って言うのはそれぞれの国や企業から自分の実力を認めて貰った者だけが持つ事を許された物なのよ!つまり努力の結晶って事よ!」

 

シャルロット

「君は博士に専用機を頼む以前に『()()()()』で手に入れる努力をしたの?」

 

「ぐっ…」

 

ラウラ

「している訳無いよな?今迄のISの実習を見ていればお前がそんな事をしているとはとても思えん。ISに乗っても基本しか出来ないんだろ?」

 

「ぐうっ…」

 

 箒はシャルロットとラウラの言葉に言い返せなかった

 箒はISを上手くなる為の努力など今まで一度もしていなかった

 一夏との訓練も簡単な基本的な動きだけでしてきたのだ

 そして、そんな箒と訓練していた一夏も当然ながら上達などする筈は無かった

 

セシリア

「それから織斑さん…コレは貴方にも言ってますのよ?」

 

一夏

「…え?」

 

 すると突然セシリアが今迄蚊帳の外になって見ているだけだった一夏に声を掛けた

 

セシリア

「貴方も専用機を持っているでしょう?貴方は専用機の意味を理解しているんですか?」

 

一夏

「え、あ、いや、それは…」

 

 突然の質問に一夏は狼狽えるだけで答えられなかった

 それもその筈、一夏は理解していないからだ

 その事にセシリアは元より鈴達も初めから分かっていたのだが、確認をする為にセシリアはこの質問をしたのだ

 

セシリア

「専用機とは先程鈴さんが仰った様に自分を認めて貰った証…わたくし達は専用機を託されると同時にそれぞれの国や企業から誇りと未来も託されます。」

 

一夏

「誇り…未来…」

 

「そうよ!その想いに恥無い為にも私達は日々の鍛練に励んでるのよ!それが専用機を与えられた人間の義務よ!」

 

ラウラ

「織斑一夏、お前が専用機を持っているのは『男』と言う理由だけだ。託された物が無いお前に私達の誇りや未来を理解しろとまでは言わない。お前にそこまで求めてはいないし、理解出来るとも思っていないからな。」

 

一夏

「ぐっ…」

 

ラウラ

「だがな、せめて『専用機を守る』くらいの事は理解しろ。」

 

一夏

「専用機を…守る?」

 

 ラウラの『専用機を守る』と言う言葉の意味を一夏も箒も理解出来なかった

 

セシリア

「それすら理解していませんか?」

 

一夏

「うぐっ…」

 

 専用機を守る事さえ理解していない一夏に4人は揃って溜め息を吐いた

 そんな4人に一夏は言い返したかったが、理解していないのは本当なので何も言えなかった

 

「なら教えてやるわよ!あんたのそのすぐに忘れる『穴だらけの脳味噌』にしっかりと記憶しなさいよ!」

 

一夏

「なっ!?何だと!?」

 

「フンッ!」

 

 鈴の言い方に一夏は睨みつけるが鈴はそんな一夏を鼻で笑うだけだった

 

「あんた達、専用機と量産機の一番の違いが何か分かる?」

 

一夏&箒

「え?」

 

 そんな鈴の突然の質問に二人は答えられなかった

 それも当然だった

 箒は専用機は量産機よりただ強いだけの機体と認識しているだけだった

 そして一夏はそもそも違いが分かっていなかった

 

ラウラ

「分からないか?それでよく専用機を寄越せなどと言えたな?」

 

「ぐっ!」

 

シャルロット

「専用機と量産機の違い…それは使われている『技術』だよ。」

 

一夏&箒

「技術?」

 

ラウラ

「そうだ、量産機はその名の通りコストを重点に置いて造られた物の事だ。その為、使用される技術はそれほど重要なものは使われていない。」

 

セシリア

「それに対して専用機はコスト面を無視した所謂一点物の事です。当然開発に使われる技術もそれぞれの所属にとって最重要の物が使用されます。わたくしの使っている『ビット』、鈴さんの『衝撃砲』、ラウラさんの『AIC』、これらがそれに当たります。…それらはわたくし達の所属にとって最重要の技術…それは決して『奪われてはならない』物なんです。」

 

一夏&箒

「………」

 

「一夏…アンタの【白式】の【零落白夜】だって当然の事だけど例外じゃ無いのよ!」

 

一夏

「!?…びゃ、【白式】も!?」

 

「当たり前でしょ?それが専用機なんだから。ましてやアンタのISは織斑先生の【暮桜】と同じ能力を持ってるのよ。男の操縦者のアンタ自身も含めてその技術を狙ってる連中なんていくらでもいるわよ!」

 

一夏

「!?」

 

シャルロット

「これだけ言えば分かるよね?『専用機を守る』意味が?」

 

セシリア

「もし分からないのでしたら織斑さん…貴方に専用機を持つ資格などありません。そして篠ノ之さん…篠ノ之博士に造れ等と言う事も出来ません。」

 

一夏&箒

「………」

 

 2人は何も言えなかった

 セシリア達はこの2人でも分かるようにかなり分かり易く話していた

 そのお陰で専用機を守るという事を理解する事は出来た

 セシリアが最後にそう締めくくると4人は束に視線を向けた

 その視線を受けた束は頷くと…

 

「以上の事から箒ちゃんにはISは造りません!諦めてね!」

 

「ぐっ…ぐうぅ…(こうなったら!!)」

 

 今度はハッキリと造らないと宣言した

 だが、あれだけ言われ、諦めろと言われても、それを素直に受け入れて引く箒でも無かった

 その為、今度は力づくで束に造らせようと考え襲い掛かろうとしたのだが…

 

真耶

「た、大変で~~~すっ!!!」

 

全員

「ん?」

 

 真耶が慌てて走って来た

 そのお陰で箒はタイミングを失い何も出来なくなってしまった

 そんな箒を誰も気にかける事も無く、千冬とオータムと話す真耶を全員が見ていた

 そして…

 

千冬

「本日のテストは中止にする!!専用機持ちは全員集合!!それ以外の者はISを片付けた後は旅館の自室で待機!!許可なく外に出た者は問答無用で拘束する!!以上!!!」

 

 テストの中止が宣言された

 この臨海学校で、またもや事件が起きたのだった…

 

 




 <予告>

 テストが中止され集められた専用機持ち達

 すると太一達に暴走したISを止めろと言う委員会からの指令が下される

 太一達はどのようにして暴走したISを止めるのか?



 次回!!

 ISアドベンチャー 聖騎士伝説

 暴走IS!銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)!!

 今、冒険が進化する!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。