妹尾佳織のお姉ちゃん!   作:kachiku

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第3話

 東一局は佳織の三倍満で幕開けとなった。佳織は和のリー棒分を含め、25000点もの点棒を増やし、50000点となった。流れは確実に佳織にあり、咲の点棒は僅か1000点。和と衣は必然的にツモ和了りが封じられた形となる。佳織は圧倒的に有利な状況であった。

 

 しかし、事はそのまま佳織のペースとはいかなかったようだ。

 

 東二局0本場 親・咲

 

 北家 原村和(+エトペン)24000

 東家 宮永咲 1000

 南家 天江衣 25000

 西家 妹尾佳織 50000

 

 (いらないよね……?)

 「カン。ダブ東混一色嶺上開花。責任払いで12000です」

 「はっはいぃ」 

 

 咲の大明槓嶺上開花で佳織に親満責任払い。この時点で衣と和のツモ和了りが解禁となる。

 

 

 東二局1本場 親・咲

 

 北家 原村和(+エトペン)24000

 東家 宮永咲 13000

 南家 天江衣 25000

 西家 妹尾佳織 38000

 

 「カン。ツモ嶺上開花。60符2飜・2000オールの1本場は2100オールです」

 「うぅ」

 

 再び咲の暗槓からの嶺上開花。槓ドラが乗らなかったことがせめてもの救いか。

 

 

 東二局2本場 親・咲

 

 北家 原村和(+エトペン)21900

 東家 宮永咲 19300

 南家 天江衣 22900

 西家 妹尾佳織 35900

 

 「ツモ、リーチ平和一盃口ドラ1。2本場は2200・4200です」

 「また和了られちゃった……」

 

 和が10巡目で咲の親を流し満貫ツモ。衣を抜いて二位につく。

 

 

 東三局0本場 親・衣

 

 西家 原村和(+エトペン)30500

 北家 宮永咲 15100

 東家 天江衣 20700

 南家 妹尾佳織 33700

 

 「わーい衣の親だ~!」

 「――ッ」

 

 衣の可愛らしい声から始まった今局。この局から天江衣の支配というものが始まる。

 

 (進まないなぁ)

 (このままじゃ、海底コースッ)

 「リーチッ」

 (――ッ)

 

 17巡目衣リーチ。海底ツモはこのままいけば衣が引く。そして。

 

 「ツモ、リーチ一発海底撈月。4000オール」

 「……海底撈月ってどういう役ですか?」

 「山の最後の牌でツモ和了りするとつく役で、1飜です」

 「そんな役があったんだぁ」

 「佳織……、かわいいなぁ」

 「美織さん……」

 

 必然。衣がファイナルドローで親満ツモ。海底撈月という役を知らなかった佳織は和から講釈を受け、その存在を知る。

 

 

 「海底撈月!」

 「嶺上開花!」

 「海底撈月!」

 「嶺上開花! 責任払い!」

 「ロン、断么九ドラ2。3900です」

 「ひぃぃっ」

 

 と、やりたい放題やないかといった具合に局は進んでいき、そして終局を迎える。

 

 「カン。ツモ、嶺上開花ドラドラ。2000・4000です」

 

 南四局0本場 親・佳織

 

 南家 原村和(+エトペン)23200

 西家 宮永咲 35400

 北家 天江衣 34500

 東家 妹尾佳織 7900

 

 咲の暗槓からの嶺上開花で衣を抜き、咲がトップで終局となった。リー棒一本分もない衣と咲の激戦に、美織は間近で見れてよかったと心から思った。特に宮永咲に関して、間近で見ないと分からない情報、そして相手に佳織がいたことで分かった情報が知れた。これはかなり今後を有利に進められると、美織は口元を釣り上げる。

 

 「うぅ……」

 「どしたの佳織?」

 「全然和了れなかったよぉ」

 

 下を向いて落ち込んでいる佳織。そんな妹を見て、美織は横に移動し佳織を片腕で肩に寄りかからせて、頭をポンポンと叩いてあげる。

 

 「佳織、この面子相手に点棒が残っただけでもすごいことなんだよ?」

 

 個人戦を勝ち抜いた咲と和に、去年インターハイで大活躍の衣と卓を囲んで、一体何人の初心者が生きて帰ってこられるだろうか。

 

 「うぅ、でも……」

 「でもじゃないの。佳織はちゃんと成長してる」

 「ほんと?」

 「ホントホント。だからそんなに落ち込まないの。いい?」

 「……うんっ。ありがとうお姉ちゃんっ」

 「フフ、いい笑顔」

 

 美織の言葉に安心したのか、体を預けてくれる佳織の頭を撫でる。

 

 佳織に言った言葉は嘘でも何でもない。事実、団体戦決勝の場でやっていたような、みっつずつ、みっつずつ、という手を分かりやすくする手を取ってない。あれはあれですごく可愛いのだが、やはり勝負には不利になってしまうため、佳織に止めるように言っておいたのだ。それに、ちゃんと役を言えていたみたいだし。

 

 「まあでも、頑張らなきゃいけないところもあるんだけどね」

 「うぅ、頑張ります……」

 

 

 

 

 (佳織さん、いいなぁ)

 

 妹尾姉妹の仲よさげな光景を見て、宮永咲は羨ましいと感じていた。姉である美織は妹の佳織に甘々でありながら、きちんと教えるところは教えていて、佳織はそれを信頼して受け止めているのが咲には分かるのだ。自身は妹であり、姉という唯一無二の存在がいるのだから。

 

 その光景は在りし日の自分たち姉妹を思い起こさせる。麻雀を一緒に覚え始めた時、卓に座りながら役を勉強している時、実際に打っている時、姉が初めてトップに立って自分のことのように喜んだ時。咲の中でかけがえのない思い出。

 

 そして、今では考えられない寂しい思い出。

 

 どこか寂しい、そしてそんな姉妹に嫉妬してしまう、複雑な気持ち。拳はギュッと握られ、表情も呼応して、笑顔とは程遠い。無意識の内にため息をついてしまう。

 

 「宮永さん」

 「へっ」

 

 気づかないままに俯いてしまっていた。急に上から声を掛けられて驚いてしまい、変な声が出た。上を向くと、先程まで対面の佳織の横に座っていた美織がこちらに来ていた。

 

 「なっ何ですか? わっ美織さん……っ」

 

 驚きをまだ引きずっているのか、言葉が詰まってしまう。そんな咲を見て、美織は微笑み、そして少し乱暴に頭を撫でた。

 

 そんな美織に、咲はなぜか懐かしさを感じる。

 

 「フフ、トップおめでとう。でも次は負けないよ?」

 「――ッ」

 

 美織の言葉で、自分がなぜ懐かしさを覚えていたのかを思い出した。その言葉は、かつての姉の言葉。

 

 「咲さんどうして泣いているんですか?」

 「へ? あれ? 何で。どうしてだろう」

 「……これ使って」

 「え、……ありがとうございます」

 

 和の言葉で自分の瞳から涙が零れていることに気付く。慌てて涙を拭おうと、手を目に擦り付けようとすると、美織からハンカチが差し出された。目を押さえると、香水ほどではない、仄かにいい匂いがする。

 

 「これ、洗って返します」

 「えっ、洗うって。今合宿中だよ?」

 「あっ、そうでした。でも、どうしよう」

 

 美織の言葉で思い出す。どうやら思考がいつものように出来ていないようで、自分が合宿中であることが頭から抜けていたようだ。少しだけあたふたしてしまう。

 

 そんな咲を見て、美織は優しく微笑む。

 

 「あげるよ、それ」

 「えっ、そんな」

 「いらないなら捨ててもいいからさ。あっ、別に押し付けたわけじゃないよ?」

 

 美織が少し笑いながらそう言う。先程涙を拭いた時には見ていなかったが、かなり素材がいいように思える。どこかのブランド物、高級品のような手触りだ。そんなものを頂いていいのかと、咲は少し逡巡していると、

   

 「宮永さん。麻雀をやる目的、あるんでしょ?」

 

 そんな言葉を掛けられる。どこでそんなことに気付いたのだろうか。

 

 「……はいっ」

 「じゃあ、それはお守り。その目的が果たせるように、幸運のお守りにしてよ」

 「……はい、じゃあいただきますね」

  

 咲は美織のハンカチを折りたたみスカートのポケットに入れる。先程までの暗い気持ちはすっかり晴れた。自然な笑みが溢れる。

 

 強い人と戦えることにワクワクして浮ついていた自分の気を引き締め、一方で自分の嫉妬めいた感情を察したのか、優しくしてくれる美織のお陰で、より全国優勝、そして姉との仲直りという目標がより強固になったと、咲は密かに美織に感謝し、ハンカチに優しく撫でたのであった。

 

 

 ◇ ◆

 

 

 「さてと、佳織。あと少しでゆみが来るから、来たらお風呂いくよー」

 「うんっ。あ、お姉ちゃん。ちょっと」

 「いいよ、行ってきな」

 

 佳織が大部屋から出ていく。恐らくトイレ。佳織を見送る。

 

 佳織たちが打っている時にゆみには大部屋にいると連絡していた。その返信がきて、どうやら帰ってくるらしい。

 

 「あなたたちはまだ打つの?」

 「ええ、まだここで打っていたいですから」

 「衣もまだ打ち足りない」

 「私ももう少し……」

 

 美織の質問にそれぞれが返す。半荘一回程度で満足するわけもなく、全員が残るようだ。

 

 (うーん、途中で抜けるのは失礼だな)

 

 このまま抜けると面子が足りなくなってしまう。しかし、ここで佳織にもう一回打ってもらうのも、ゆみが来るまでには終わらずに途中で抜けることになってしまう。誰かを探すのが一番なんだろうが、都合よくいるかは分からない。

 

 (まあ、それならやることは一つだね)

 

 ポケットにあるモノの存在を確かめると、口元が釣り上がる。

 

 「そっか。私たちはゆみが来たら出るからさ、今入っちゃうと途中で抜けなきゃいけないんだよね。それは流石に失礼というか、あまりよろしくないからさ」

 「はい、大丈夫ですよ。私たちは気にしないでください」

 「うむ。衣たちは誰かが来るまでおしゃべりしているから大丈夫だっ!」

 「おしゃべりって……。でも、和ちゃんと衣さんが言うように、誰かが来るのを待ちますよ」

 

 和の言葉に賛同する咲と衣。やはり、ここで出ていったら暇になってしまうらしい。

 

 「フフ、ならさ。誰かが来るまで、これで暇つぶしをしない?」

 

 美織がポケットから出したのはトランプ。ケースに入っている。

 

 「とらんぷっ! さきっ、ノノカっ、衣はとらんぷをやりたいぞっ!」

 

 雀卓から身を乗り出して言う衣に、咲と和は顔を見合わせた。この合宿は麻雀の合宿。なのにトランプで遊ぶとは思っていなかったようだ。面をくらった2人はどうしようか迷ったが、衣の純真無垢な笑顔にノーの返事なんて出来るわけもない。

 

 「やりましょうか、衣さん」

 「やろう衣さん」

 「やったーっ!」

 

 咲と和の返事に衣は両手を上げて喜ぶ。美織は衣が本当に高校生なのか、非常に疑問だったが、その笑顔を見て考えるのを止めた。

 

 「それで、何をしますか?」

 「ばば抜きかっ? 七並べかっ? 衣はなんでもいいぞーっ」

 「フフ、実はもうやるのは決めてあるんだ」

 「何ですか?」

 

 咲が美織に聞くと衣と和も美織に目を向ける。美織はフフンと得意気な表情になり、口を開く。

 

 「『ラミー』ってゲーム知ってる?」

 「「「『らみー』?」」」

 

 首を傾けながら美織に尋ねる3人。その愛らしさに思わず鼻血が出そうになりかけた美織。

 

 「麻雀に近いトランプゲームでね。まぁルールは簡単だから初めてでも大丈夫」

 

 指を一本立てて説明する美織に頷く3人という構図が出来上がる。

 

 

 

 

 ラミーとは同じ数字のカードを3枚以上、もしくは同じマークの連続した数字(KとAは連続しない)のカード3枚を一組として集め、捨てていくゲーム。手札は4人なら7枚。

 

 手札をプレーヤーに配ったら残りは裏返して中央に置き、一番上のカードをめくって隣に置く。ここは捨て札ゾーンとなる。

 

 順番を決め、1番目の人が裏側で積まれたカードを上から1枚引くか、もしくは捨て札ゾーンにある1番上のカードを引く。次に手札に、上記のように揃っている一組があれば捨てることができる。(ちなみに一組を捨てるこの行為は『メルド』といい、『メルド』したカードが置かれる場所を『メルドエリア』という)『メルド』してもしなくても、その後1枚捨て札ゾーンに捨てる。

 

 次の人も同様に裏側のカードか捨て札ゾーンのカードの1番上を引き、手札の揃っているカードを可能な限り捨てる。その後1枚捨て札ゾーンに捨てる。これを順番に繰り返す。

 

 これが基本ルール。そして『メルド』に加えてもう1つ、カードを捨てる方法がある。それが『付け札』。自分の順番で、『メルドエリア』にあるカードに、自分の手札を付け足すことが出来る。例えば『5が3枚』のメルドがある時、自分が5のカードを持っていたら、自分の番の時、それを捨てて付け足せる。

 

 メルドが、同じマークで連続した数字のカードの組でも同様。自分の順番で捨てて付け足すことが出来る。例えば『ハートの345』のメルドがある時、自分の手札にハートの2、6があれば自分の順番で1枚捨てられる。

 

 付け札は最初に1枚引いた後出来る行為で、付け札をしてもしなくても、その後1枚捨て札ゾーンに捨てる。またメルドをした後に付け札をしてもよく、逆もまた然り。

 

 これを繰り返して、組を作って捨てていき、最終的に1番早く手札がなくなった人が勝ちとなる。2位3位4位は残っている手札の数字を足して、少ない順に2位3位4位となる。(ちなみにジャック、クィーン、キングは10とする。)

 

 ちなみに、ゲーム中に一度もメルドや付け札せずに、最後に手札をいっぺんに公開してあがることをラミーといい、その際相手の残り手札の数字の和は倍になる。

 

 今回は3ゲームを1セットとし、1セットで最も残り手札の和が少なかった人が1位になる。またジョーカーは入っていない。メルドは1順に1組のみとする。(ラミーを除く)

 

 ゲームが山札を最後まで引いても終わらなかった場合は、残ったカードの数値をそのゲームの数字とする。またその時、仮にメルド出来る状態でも数字は加算される。

 

 

 

 

 「こんなルールだけど、分かった? 麻雀で言えば暗刻か槓子を作るか、同じ色の順子をつくって捨てていくって感じかな」

 「うむ、衣は領解したぞーっ!」

 「はいっ、私も大丈夫です」

 「やりましょう」

 「じゃあまずはデモンストレーションでやってみよっか」

 「はいっ」

 「うんっ」

 「はい」

 

 ―――デモンストレーション終了

 

 「もう大丈夫そうだね」

 「はいっ今度は負けませんっ」

 「私は私のラミーを貫きます」

 「衣も負けないぞーっ!」 

 

 「フフ、それじゃあ――」

 

 全員デモンストレーションでルールが分かったようだ。美織の目に真剣さが宿り始める。それはかつて、桃子と入部を懸けてサイコロ勝負をした時のよう。

 

 「――一勝負、運試しと行こうか」

 

 

 ◆ ◇

 

 

 トランプゲーム・ラミー勝負

 

 第一ゲーム 捨て札ゾーン:♣4

 

 衣→和→美織→咲の順に決定。カードを7枚ずつ、それぞれに配り、ゲームが始まる。

 

 

 ♥1♣1、♠3♥3、♥7、♦Q、♣K

 

 美織、最初の手札。1と3の対子があるが、あまりいい手札とは言えない。順子が作りにくいカードが集まっているからだ。このゲームでは3から11までのカードが順子組を作るのに有利だ。

 

 例えば7で順子を作るならば、5、6と8、9の4枚が使える。12ではどうだろうか。10、11と13、つまり3枚が使える。13では11、12の2枚しか使えない。

 

 このことは麻雀をやっている人間なら感覚的に分かることで、当然咲や、衣、また普段から精度の高いデジタル打ちの和は知っていることだろう。

 

 (さて、どうしていこうか)

 

 ちらりと自分の前の順番である和を見る。まだ手札を整理していて、あまり慣れてない様子が伺える。

 

 (フフ、……まあ、最初に引くカード次第)

 

 咲と衣を伺いつつ、美織はカードにゲームに集中し始めた。

 

 

 

 (おおっ、最初から『メルド』ができるぞ!)

 

 捨て札ゾーン[♣4]

 [♦7♦8♦9]、♥2、♠6、♠7、♣8

 

 衣、最初の手札からダイヤ789の組、またスペード67の塔子が出来ており、の強運を発揮している。

 

 「じゃあ衣ちゃんから、はじめようか」

 「みおり、ちゃんではなく」

 

 美織のちゃん付けの呼び方に若干の引っ掛かりを覚えるが、年齢的に1歳年上に当たるのでなんとも言えないので強くは返せない衣。

 

 (捨て札ゾーンはクローバーの4、衣の手からは必要のないカード)

 

 衣は捨て札ゾーンのクローバー4を取らずに、裏側に積まれたカード、山札から一枚引く。

 

【♦7♦8♦9】♥2、♠6、♠7、♣8

 引き[♣7]捨て[♥2]

 

 引いたカードはクローバーの7。これによりクローバーの78の塔子が出来たことになり、衣、俄然有利となる。

 

 「『メルド』するぞっ!」

 

 衣は【♦7♦8♦9】の組を『メルド』、そして孤立しているハートの2を捨てて残り枚数4枚とする。最終形はこれ。

 

 【♦7♦8♦9】♠6、♠7♣7、♣8

 

 

 

 (衣さん、早速ですか)

 

 捨て札ゾーン「♥2」

♠2、♥4、♦5、♣6♦6、♦J、♥Q

 

 和、最初の手札がこれ。6の対子以外は完全にバラバラ。上がり手がまったく見えない手札である。6の対子も運が悪いことに、衣の【♦7♦8♦9】の『メルド』に付け札すれば、浮いてしまう。また付け札は1ターン1枚なので、ダイヤの5を付け札するにはもう1順かかる。

 

 (捨て札のハートの2を取れば2が対子になりますが)

 

 麻雀同様、同数カードを集めるより、順子を作ることが確率が高い。よって和は山札から引くことを選択する。

 

 捨て札ゾーン「♥2」

【♦6】♠2、♥4、♦5、♣6、♦J、♥Q

 引き[♦10]捨て[♥Q]

 付け札【♦6】

 

 「衣さんの【♦7♦8♦9】に【♦6】付け札します」

 「むむ、ノノカも手が進んだか」

 

 和、ダイヤの6を衣の『メルド』に付け札。そしてダイヤの10を引き、ハートの12を捨てる。衣の『メルド』に付け札できるカードが増え、コツコツとカードを捨てていく方向に進むことを決めた。残り枚数6枚で最終形はこれ。

 

   【♦6】♠2、♥4、♦5、♣6、♦10、♦J

 

 

 

 (流石麻雀少女。やっぱり()()()()()なのかな)

 

 捨て札ゾーン「♥Q」

 ♥1♣1、♠3♥3、♥7、♦Q、♣K

 引き[♣3]捨て[♣K]

 

 美織、捨て札ゾーンのハートの12を拾って12の対子を作ることを選択せず、山札からクローバーの3を引き、3の暗刻を作る。しかし、『メルド』はしない。『メルド』をすることで起こりうるデメリットの1つは、相手に付け札のチャンスを与えることだ。美織は3の暗刻なのでそれほど心配ないが、衣のように順子の『メルド』だと、相手の手が進む確率が高い。

 

 (フフ、私なら来ると思ったよ)

 

 クローバーの13を捨てる。『メルド』をするかどうかは自由なので、様子見といったところか。最終形はこれ。

 

 ♥1♣1、♠3♥3♣3、♥7、♦Q

 

 

 

 (ラミー。美織さんが言っていたように麻雀に似てるなぁ)

 

 捨て札ゾーン「♣K」

♣2、♥8、♥9、♣9、♠10、♠Q、♦K

 引き[♠J]捨て[♣2]

 

 咲の最初の手札がこれ。全体的に高めの数字が並んだ。そして山札からスペードの12を引いたことで【♠10♠J♠Q】の組が完成する。

 

 「『メルド』します」

 「フフ、みんな手が早いね」

 「このまま衣が鏖殺(おうさつ)するぞーっ!」

 「言葉が過激すぎますっ!」

 「あはは……」

 

 衣の言葉を聞いて、和は衣を軽く叱る。ちなみに鏖殺とは皆殺しにするという意味である。

 

 咲の残り手札は衣と同じく4枚となる。最終形はこれ。

 

【♠10♠J♠Q】♥8、♣9♥9、♦K

 

 

 

 (みおりに動きがないのがやや気になるが、ここは押せ押せだーっ)

 

 捨て札ゾーン「♣2」

 【♦7♦8♦9】♠6、♠7♣7、♣8

 引き[♥J]捨て[♥J]

 

 2順目に入る。衣は捨て札ゾーンのクローバーの2を取らず、山札から1枚引く。引いたのはハートの11でムダヅモ改め無駄引き。そのまま捨て札ゾーンへ捨てる。

 

 衣の上がりへの道は実は厄介で、仮にスペードの5を引いて【♠5♠6♠7】をメルドし、1枚捨てる。今回はクローバーの7を捨てるとしよう。そうなれば残りは1枚となる。つまり、メルドへの付け札以外では上がれないということになる。

 

 もちろんゲームが終わらなかったときのことを考えれば、残り手札を減らすのは良いことであるが。

 

 

 

 (なかなか一気にはいけないものですね)

 

 捨て札ゾーン「♥J」

   【♦6】♠2、♥4、♦5、♣6、♦10、♦J

 引き[♠4]捨て[♥4]

 付け札【♦5】

 

 和、2順目。山札からスペードの4を引き、スペードの3のカンチャン待ちを作る。ここで再び衣のメルドにダイヤの5を付け札。残り手札を5枚とし、着々と手札を減らしていく。最終形はこれ。

 

    【♦5♦6】♠2、♠4、♣6、♦10、♦J

 

 

 

 (残り山札20枚。……私なら問題ない)

 

 捨て札ゾーン「♥4」

 ♥1♣1、♠3♥3♣3、♥7、♦Q

 引き[♣10]捨て[♣10]

 

 美織、2順目。山札から引いたのはクローバーの10。手札に使えないのでそのまま捨てる。最終形はこれ。

 

 ♥1♣1、♠3♥3♣3、♥7、♦Q

 

 

 

 (あっ、どうしよう)

 

 捨て札ゾーン「♣10」

 【♠10♠J♠Q】♥8、♥9♣9、♦K

 

 咲、2順目で手が止まる。咲が今迷っているのは、美織が先程捨てたクローバーの10を引き入れて9、10の塔子を作るか、普通に山札から引くかどうか。9の暗刻を作るより、順子の方が確率は今は高い。なぜなら和が衣のメルドに付け札でダイヤの9を捨てている。つまり残り1枚。一方8と11ならばまだ場には見えていない。

 

 (……よしっ、ここは安全にいこう)

 

 捨て札ゾーン「♣10」

 【♠10♠J♠Q】♥8、♣9♥9、♦K

 引き[♣10]捨て[♦K]

 

 「初めて捨て札ゾーンからカードが引かれましたね」

 「おーさきが初体験だっ!」

 「うぇっ!?」

 「確かに初体験だね、宮永さん」

 「いやぁ、あはは」

 「さきは何をそんなに驚いたんだ、ノノカ?」

 「サキサンガハツタイケンサキサンガハツタイケン」

 「和ちゃん?」

 

 結局捨て札ゾーンのクローバー10を手に入れる。

 残り手札4枚で最終形がこれ。

 

 【♠10♠J♠Q】♥8、♣9♥9、♣10

 

 

 (咲がクローバーの10を手中に収めたということは……、クク、衣には分かったぞ)

 

 捨て札ゾーン「♦K」

 【♦7♦8♦9】♠6、♠7♣7、♣8

 引き[♣Q]捨て[♣Q]

 

 3順目。衣、引きは良くないが咲の手札に見当がつく。咲が捨て札ゾーンから前順引き入れたのはクローバーの10。捨て札ゾーンから引き入れるのは、山札から引くのと少し違う点がある。それは相手に与える情報量。全員がそれが何かを確認しているものを引き入れるため、必然的に引き入れたカードの周辺を持っているということである。

 

 もちろんそれを逆手に取り、意味もなく捨て札ゾーンから引き入れるという可能性もあるが、1ゲームがかなり限られているラミーではあまり良い手とは言えない。ましてや咲は今日ラミーを知ったのだ。そこらへんは素直にくるだろう。

 

 (10を引き入れたということは8、9か11、12辺りを持っているということ。しかしクローバーの8は衣が既に持っている。ならば有り得る手は9、10、11、12。しかし12は今衣が捨てたカード。つまり9、10、11となる。ならば衣はそれに合わせるまで)

 

 最終形はこれ。

 

 【♦7♦8♦9】♠6、♠7♣7、♣8

 

 

 

 (咲さんに動きが見られますね)

 

 捨て札ゾーン「♣Q」

 【♦5♦6】♠2、♠4、♣6、♦10、♦J

 引き[♠1]捨て[♣6]

 付け札【♦10】

 

 「ダイヤの10を衣さんの『メルド』に付け札です」

 

 和、3順目。スペードの1を引き、クローバーの6を捨てる。そして付け札。次順、仮にスペードの3を引ければ【♠1♠2♠3♠4】の『メルド』で残り1枚のダイヤの11を捨てて上がりになる。和はそれを期待、次順に懸ける。最終形はこれ。

 

 【♦5♦6♦10】♠1、♠2、♠4、♦J

 

 

 

 

 (フフ、ようやくきた)

  

 捨て札ゾーン「♣6」

 ♥1♣1、♠3♥3♣3、♥7、♦Q

 引き[♦3]捨て[♦Q]

 

 美織、3順目。ここで最後の3を引き、ようやく動きを見せる。

 

 「『メルド』」

 「――ッ」

 

 【♠3♥3♣3♦3】♥1♣1、♥7、♦Q

 

 4種の3を一度に『メルド』。これが何を意味するか。

 

 (私の待ちが潰されたッ)

 

 和の持つ半分のカードにほとんど意味がなくなるということである。その反応を美織は横目で見ると、ダイヤの12を捨てて、後はその瞬間を待つだけとなる。残り3枚で最終形はこれ。

 

 【♠3♥3♣3♦3】♥1♣1、♥7

 

 

 

 (美織さん、何か狙ってるのかな) 

 

 捨て札ゾーン「♦Q」

 【♠10♠J♠Q】♥8、♣9♥9、♣10

 引き[♣J]捨て[♥9]

 

 咲、3順目。ここでクローバーの11を引き、

 

 「『メルド』します」

 

 迷わず『メルド』。【♣9♣10♣11】の組みができ、ハートの9を捨てる。残り1枚となり、引く札に咲は勝負をかける。最終形はこれ。

 

 【♠10♠J♠Q】【♣9♣10♣11】♥8

 

 

 

 (クク、衣の欲しかったカードがきたぞっ!)

 

 捨て札ゾーン「♥9」

 【♦7♦8♦9】♠6、♠7♣7、♣8

 引き[♠8]捨て[♣7]

 

 「『メルド』だっ!」

 

 衣、4順目。衣が引き入れたカードはスペードの8。つまり【♠6♠7♠8】でメルドが出来、残りは♣の7と8。捨てるのはもちろん7。なぜなら、咲の『メルドエリア』に先程できた【♣9♣10♣11】のメルド。それに次順付け札をして上がりになるからだ。

 

 これは衣の狙い通りである。咲がクローバーの10を捨て札ゾーンから引き入れた時から思い描いていた上がりへのプロセス。それがまさに思い通りに通った形なのだ。

 

 (次順、衣の上がり。あとは待つのみだぞーっ!!)

 

 心のなかで叫ぶ衣。その最終形はこれ。

 

 【♦7♦8♦9】【♠6♠7♠8】♣8

 

 

 

 (衣さん、表情のまま読み取るならば、上がりを確信しているのでしょうか?)

 

 捨て札ゾーン「♣7」

 【♦5♦6♦10】♠1、♠2、♠4、♦J

 引き[♠5]

 付け札【♦J】

 

 「ダイヤの11を衣さんの『メルド』に付け札です」

 

 和、4順目。山札から引き入れたのはスペードの5。その後、ダイヤの11を衣の【♦5♦6♦7♦8♦9♦10】の『メルド』に付け札。7並べのようになってきている。

 

 (私が上がるには次順、衣さんの【♠6♠7♠8】にスペードの5を付け札、その次順4を付け札しなければいけないことになりますね)

 

 和の上がり手は衣と美織によって潰されているため、かなり遠回りしなければならない。

 

 (まあひとまず捨てましょう)

 

 捨て札ゾーン「♣7」

 【♦5♦6♦10♦J】♠1、♠2、♠4、♠5

 引き[♠5]捨て[♠1]

 付け札【♦J】

 

 

 

 「フフ、どうやら私の勝ちのようだね」

 「――ッ」

 「何ッ」

 「えっ」

 

 美織は手札の2枚を見せる。それはハートとクローバーの1。そして和が捨てたカードはスペードの1。つまり捨て札ゾーンの1を引き入れ、

 

 「『メルド』」

 

 3枚の1を『メルド』。そして、残り1枚のハートの7を捨てる。結果美織の最終形はこれ。

 

 【♠3♥3♣3♦3】【♥1♣1♠1】

 

 「これで上がり」

 「そんにゃぁぁぁあああ」

 

 衣、次順に持ち越せば上がり確定だったが、その前に上がられ慟哭。持ち札を全て捨てた美織、第一ゲームの勝者となる。

 

 

 ◇ ◆

 

 

 2ゲーム目

 

 「わーい衣の上がりだーっ」

 

 3ゲーム目

 

 「フフ、上がり」

 

 2ゲーム目は衣、3ゲーム目は美織が上がりトランプゲーム・ラミーが終了する。3ゲームでの残り手札の和である最終結果はこうなった。

 

 衣・8+0+10=18

 和・11+7+3=21

 美織・0+4+0=4

 咲・8+5+1=14

 

 「フフ、1位は私だね」

 「ぐぬぅ、咲に麻雀だけでなくらみーでも負けるとは……」

 「あはは、たまたまだよ」

 「4位……、麻雀ではないとはいえ悔しいですね」

 

 トップが美織、2位が咲、3位が衣、4位が和。

 

 「ラミー、意外と楽しかったでしょ?」

 「うんっ、衣は負けてしまったがなかなか楽しめたぞ」

 「私も楽しかったです」

 「フフ、ならよかった」

 

 美織は卓上のカードを一纏めにして、ケースにしまってポケットに入れた。

 

 「お姉ちゃん、もうやらないの?」

 「ん? そろそろ来るからね」

 

 美織の答えに佳織はえっ、と声を漏らす。すると大部屋の扉が開いた。入ってきたのは鶴賀の麻雀部メンバー。ゆみと智美に睦月、そして桃子だ。

 

 ゆみが卓上に麻雀牌が無いことと、美織が座っていることから何をやっていたのかを察し、呆れたような表情を浮かべる。

 

 「美織、お前ここでも勝負やってたのか」

 「あっバレた」

 「当たり前だ」

 「ワハハ、まあ今日は自由時間だからなー」

 

 麻雀部の合宿なのにと嘆くゆみとそれを宥める智美。そんな彼女たちの後ろから顔を出した桃子が、美織の横に腰を下ろす。

 

 「みおりん先輩何やってたっすか?」

 「あぁ、ラミーだよ」

 「うっ、あんまりいい思い出がないゲームっすよ、それ」

 「フフ、私にステルスは通用しないからね」

 

 桃子の頭を軽くポンポンと叩いて上げると、桃子はふんっと少し不満げに顔を横にそらす。しかし、そういう時の桃子は嬉しいけど素直には出せず、頬を軽く染めて恥ずかしがっているのだと美織は知っている。桃子の犬っぽいのに、猫のようなつれないその反応に、美織はクスクスと声を漏らす。美織が桃子の髪を軽く手櫛で整えてあげると(くすぐ)ったそうに桃子は目を細めた。 

 

 さて、と美織は立ち上がり、手を引いて桃子を立ち上がらせる。

 

 「私に付き合ってくれてありがとね」

 「あぁ、私からも、美織の勝負に付き合ってくれて感謝するよ」

 「いえ、私たちも楽しんでましたから」

 「うむ、まこと愉快な時であったぞ」

 

 美織とゆみは軽く頭を下げて礼を言うと、和と衣がそう言う。

 

 「じゃあ私たちはお風呂に行こうか」

 「うんっ」

 「はいっすっ」

 

 美織は佳織と桃子の手を握って部屋から出ようとする。そこで元部長である智美が、このままでは面子が3人で足りなくなることに気付く。

 

 「あれ、これじゃ面子足りないぞー?」

 

 美織は僅かに頬を緩めると、その問いに答える。

 

 「フフ、面子は揃うよ。ほら」

 

 大部屋の扉が開かれると――

 

 「衣ー、ここにいますのー?」

 「あっトーカにはじめっ!」

 

 ――龍門渕透華と国広一がちょうどのタイミングで入ってきた。衣を見つけて一安心した透華が一息つき、衣の元へ行こうと前を向いた。その視線に美織が入る。

 

 「あら、あなたは」

 「また会いましたね、龍門渕さん。それではまた」

 

 軽く頭を下げて、その横を通り過ぎた。

 

 ――お待ちくださいまし、と透華は名前を聞くために美織を引き留めようと声を掛けようとするが、

 

 「あの、美織さんっ」

 

 咲が一足先に声を掛け、透華はその言葉を飲み込んだ。その咲は頭を下げて言う。

 

 「あの、ハンカチありがとうございましたっ」

 

 その言葉に美織は笑みを浮かべて返し、佳織と桃子を引き連れて大部屋からでた。その後をゆみ、智美、睦月も追いかけるように出て行った。

 

 「美織さんも佳織さんも、いい人だったなぁ」

 「ええ、とても気遣いが上手な方でしたね」

 「みおりのお菓子も美味しかったぞ」

 

 咲、和、衣の3人は美織のことを楽しそうに話していた。その様子を見た龍門渕透華。やけにもやもやしたような表情を浮かべ、口を開く。

 

 

 

 「名前を聞く前に名前を知る、なんというネタバレ感ですわっ」

 「いや透華、それよくあることじゃ……」

 

 

 




佳織かわいい衣可愛い
咲さんかわいいコモンセンスだよ~
和さん空気でごめん
美織のポケットにはなんでも入ってます。
ラミーは面白いです。ゲーム内表現で麻雀用語を使ってますがご了承を。
ゲーム表現が上手く出来てるかかなり心配です。というか分かりやすく表現できない……。麻雀描写と違ってなかなか飛ばせないし。
※彼女たちがたった1回のデモでラミーを理解しているのは仕様です。
※付け札は何枚でもOKというルールもあります。また麻雀のように相手の捨て札を使ってポンが出来るルールもあります。メルドを1順で可能な限りできるルールもあります。つまり基本以外は自由にできます。
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