ヴェルフは内心焦っていた。リリスケには事有る毎に『ベルの装備は俺が作る』と言ってきた。
だがベルの成長は凄まじい、半年もすれば確実にレベル5になる。レベル5の冒険者の装備は、第一等級が適正になる。
命の装備として作った、中々の出来の寅弐郎が第三等級だったことを考えると、第一等級の装備を作れるのは当分先の事だろう。
ヴェルフは己の作った武器が深層のモンスターに脆くも壊される姿を幻想した。これでは魔剣と変わりがない。
だが今はリリスケの悩みの方が優先だ。ベルの邪魔にならない様に強くなる方法が解らないこと。
鍛冶師としての経験で言うと、基礎は実家で、手伝いをしながら見て覚えろだった。ただ適時助言は有った。
リリスケはあの運営に興味がなかったソーマファミリア出身、冒険者としての教育は受けていないだろう。
何ができるか考えていると、つい自分について疑問が出てきた。ヘファイストスの所でも個別の工房で、孤独に研鑽していた。
今までこの事に疑問を抱かなかったが、これでは個人の才能に依存しすぎている。
これでは結局ソーマファミリアと同じ事で、安定したファミリア運用は難しいのではないか?
考え事をしながら歩いていたせいか、古巣の工房近くに来ていた。そこに椿が元ヴェルフの工房から現れて言った。
「なんじゃ辛気臭い気配を感じて出てきてみればヴェル吉ではないか、どうしたんじゃこんなところで?」
考えが纏まらないヴェルフは椿に相談してみることにした。ひとしきり話を聞いて椿が言った。
「ヴェル吉もようやく気が付いたか、ぬしの頑固な頭ではまだ当分先だと思うておったが。」ヴェルフの頭をワシャワシャと撫でた。
「今『も』と言ったな、何か方法が有るのか?」頭を撫でられうっとおしそうにヴェルフは言った。
「有る、じゃが鍛冶ファミリアの秘術になる、部外者には教えられんな。もう少し早ければ…、もったいない奴じゃ。」と椿。
そういわれては引き下がるほかなく、ヴェルフはリリの事も聞いた。
「知り合いの冒険者が伸び悩んでいる、なんか良い方法は無いか?」
「鍛冶師の領分の事なら、大方その者の武器や防具が合っておらんのではないか?
大方適当に選んだものを使っておるのであろう。種族、性別などにより大まかには判るが個人差が大きい。
ほれフレイヤの所のブリンガル4兄弟が居るじゃろ、じゃがそれぞれ得物は違う。結局すべて試してみるほかない。
だから手前はあらゆる武器を作り、そして試し切りしてきた。」と椿。その答えにヴェルフは唖然とした。
「もう終わりか、次はもっとましな話をきかせよ。」笑いながら椿は工房へ戻っていった。
ヴェルフは恥ずかしくなったか足早にホームへ走って帰った。
もしその場に留まって居ればこんな会話が聞こえたはずだった。
「話の腰を折り申し訳ない。」「いやいや愚孫の事ゆえお気になさらず。」
「では続けて初代の話をお願いする、数百年に渡り打ち続けた男の物語を。」
「祖父の話では、あ奴にどことなく似ているようです。愚直に鉄を打ち続けたと聞いています。
ただ、たかが50年ほどしか生きられない我々には理解できないことも多いです。
がそれでも良ければ身代金の一部としてでも聞いてくだされ。」
「それこそが手前の聞きたいこと、あやつめほんとにもったいない奴じゃ。」
風呂から上がり自室に戻って命は、リリの言葉を考えていた。
自分は期間限定のファミリアだ、そのことを悪い意味で忘れていた。
リリ殿に釘を刺されたが、ヘスティアファミリアの秘密に触れることは控えなければならない。
それとコンバージョン時の話、『ベル殿達に借りを返したい、そしてともに助け合う。』と今考えるとある意味大見得を切った。
戦争遊戯で少しは返せた心算だったが、極上の檜風呂で相殺された気がする。
それに同室の春姫をちらっと見て、さらに大きな借りが出来てしまったと思った。
自分や千草では春姫の心を開くことも、助けることも出来なかった。
ベル殿が居てくれたからこそ昔のように笑いあえる様になった事は確かだ。
この先ベル殿とはステータスの差は開く一方、自分の力で恩を返せるチャンスは限られるだろう。
このままでは壮行会まで開いて送り出してくれたみんなに合わす顔が無い。
それにこんな気持ちでは、再コンバージョン後にタケミカズチ様に告白なんて出来ないだろう。
とにかく明日千草に相談してみようと思いながら就寝した。
翌日さっそく千草を呼び出しリリの事を相談した。もちろんベルのスキルは話していない。
千草は初めはおとなしく話を聞いていたが、話が進むにつれて身を乗り出してきた。
「アーデさんですよね?サポーターとしては優秀だと思うんだけど、レベル1でも中層なら何とか成るのでは?」
「千草殿も知ってると思いますが、このままだとすぐ中層を突破しそうです、そうなると…。」
「ならタケミカヅチ様にご指導して戴くのが良いんじゃないかな。神様同士も仲がいいんだから。」
「それは私も考えましたが、ベル殿のスピードに付いて行けないでしょう。」
「適正の高い武術なら可能性は有るんじゃないかな?それにサポータなら同じレベルの必要もないし。」
成る程とリリ殿に提案しようと思った。次に自分のことを相談した。今度は千草がみるみる萎んでいった。
いきなり如何したのかとハラハラする命を前に千草はぽつりぽつりと語りだした。
「ベルさん達と知り合うきっかけとなったあの日、ダンジョンから帰って手当を受けてから桜花とタケミカヅチ様と話し合ったんだ。
あの件で命ちゃんが責任を感じる事は無いよ。あの件は私のミス、借りはわたしがなんとかするから。……
話し合いでタケミカヅチ様が言われたの。何もダンジョンだけが役に立つ方法じゃないって、月詠様の元へ帰っても良いって。」
「お、桜花殿は何と?」
「桜花は『俺は何も言えない』って。あの時、ベルさん達を囮にして私たちは助かった訳だけど、
もしあの時ベルさん達に出会わなかったら逃げ切れなかった。…」
それを聞いて命は悟ってしまった。その場合は誰かが囮にならなければならなかったと。桜花の気持ちが理解できた気がした。
「でもお二方に『お前が決めろ』と言われた。だからわたしは桜花と一緒にいることを選んだ。
命ちゃん達の悩みは私なんかよりはるかに深刻、だからファミリア全員で話し合った方がいいと思うよ。」
ここでまたザッピング、旅立ちを描く予定です。ミィシャ、ラウル達は?