アナザー11   作:諸々

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ヴェルフ03

椿は雑多なお荷物が無くなりさっぱりした自身の工房で、一人鎚をふるっている。

伝え聞いた初代クロッソ言葉に引っかかるものがレベル5、マスタスミスの椿には有ったからだ。

一族の長老でさえ理解できない様だったが、初代の言葉、しかも繰り返し聞かされていたらしく無事その言葉を椿は聞けたのだった。

初代クロッソの言葉に導かれるように椿は鎚をふるう。

そして一つの作品が完成した。

「なるほどなるほど、そう言う事じゃったか!」椿は一人呟き大きく頷いた。

 

実のところ椿は行き詰まりを感じているのだった。

ファミリアに入門した時、神ヘファイストスの作品に魅せられた。

神の力を封印してもなおその作品は素晴らしかった、神ならぬ身に宿る可能性を示しているように感じたのだった。

そしてガムシャラに修練する日々が始まった、先ずはマスタースミスを目指して。

あの頃はそうヴェル吉の様に何も知らなかった、神の領域というそのはるかなる高みを。

例えるなら高い山のふもとに立ち、山とその上に輝く月を見上げる事に似ているだろうか。

すると山頂にかかる月が見える、どちらもふもとからははるかな高みだ。

そしてふもとから見れば山頂も月も高さはほとんど変わらない、山頂に立てば月に手は届く、そう思っていたのだ。

いや山頂に上れは月に手が届く、は言い過ぎだとしても道ぐらいは見えるだろうとふもとにいる時はそう考えていたのだ。

そして大変な思いをして山頂(マスタスミス)に登ってみた、そこにはふもとで見たのと変わらない月(神)があるだけだった。

更には月に続く道なんてものはどこにも無く、それどころかそこより先は踏みしめる物すらなかった。

鳥ならぬ身では月に近づくには、自ら塔を山頂に築きあげるほかないようだった。

 

山頂での建設作業は登頂とは比べ物にならない程の作業量がある、まさに賽の河原の石積みだった。

そんな時、ふもとに飛べる(隔絶した鍛冶の技を持つ)奴が現れたと話題になった。

興味を惹かれ会いに行ってみたが、確かに奴の作る魔剣はマスタスミスである自分を超える物だった。

椿はその技をぜひ習得したいと思ったがそれは不可能、それは体に流れる血によるものだったのだ。

そしてそ奴も椿自身と同じ夢を抱いていた、もっともファミリアに入るものは殆どその夢を抱くのだが。

だが奴はその翼を使わないと言う、その言葉に椿は複雑な思いを抱いた。

椿の目から見て奴の鍛冶の技自体はは大したものではない。

神々の住まうオラリオに集う精鋭たちの中では平凡なのも仕方が無い事ではあるのだが。

(地元の学校一の秀才と呼ばれていたが、東大に入ると下位だった様な物だ。)

特にネーミングセンスは致命的だ、ファミリアの作品として平凡と合わせて全く売れていない様だった。

売れないから金策に手間を取らされる、鍛冶にかける時間が無くなるから伸びない。

同期に入った者たちは殆どレベル2になっているのに、長くレベル1のままだった。

それでもなお奴は神へ至る事をあきらめてはいなかった、しかも飛ばずにだ。

この事に椿は矛盾した思いを抱いたのだった。

己が持つすべてを賭してなお神へ至る事は不可能に近い、それなのに飛ばずにそれを成そうとする、思い上がりだ。

椿は飛ぶことが出来ない、だが奴は飛ぶことを封印してなお神へ至ろうとする。

あえて椿と同じ土俵の上で勝負すると言うのだ、その意味でだけは大した奴だ。

奴がその言葉通り魔剣に頼らずどこまで行けるのか、椿はそれを知りたいとも思っていた。

そう、椿にとってヴェルフとはいろいろな意味で気になる存在なのだった。

 

神タケミカヅチがヴェルフを連れて行ったのはあのバベルの8階だった。

ヴェルフは客として来ることはあんまりなかったからきょろきょろとあたりを見回している。

様々な種類の武器、防具が有りヴェルフの興味を引き付けたのだった。

今までは売る側だった事もありカウンターの店員へ直行、用事だけ済ませて工房へとんぼ返りをしていた。

余談だがこの時リド達に渡すものはここの物でも良いのではないか、とも思っていた。

 

タケミカヅチはそんなヴェルフを気にも留めずに大剣コーナーへ向かう。

少し遅れてヴェルフがタケミカヅチを見つけた時は体験場(試着室の様なものだ)でいくつかの大剣を振っている所だった。

そしてタケミカヅチは一本の剣を選び出し残りをお買い得品の籠に戻してヴェルフに言った。

「これを買ってくれないかい。」

そしてタケミカヅチはそそくさと店を後にした。

ヴェルフは慌てて金を払ってタケミカヅチを追いかける。

この時ヴェルフは店員が良い顔をしなかった事が気にかかった。

 

二人でホームの中庭に戻って来た。

春姫はもうそこにはいない、自主練メニューを終えメイドに戻ったのだろう。

早速ヴェルフは買ってきた剣をふるった。

だが自分向けに調整していない剣では違和感しか感じられない。

ヴェルフは買ってきた剣を見つめる、何の装飾もないまるで初心者向けのお手本のような剣だ。

現物を見てなお首を傾げているヴェルフにタケミカヅチは言った。

「ヴェルフ君、一度本格的に剣術を学んでみないか?」と。

 

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