何か大きな物が地面にうずくまっている。
こちらが気が付いた事を悟ったかうなり声を上げ威嚇を始めた。
ナイフを構えてにらみ合いになった。
不意にナイフが熱を持ったように感じた。
思わず「お前は何だ。」とククリのように叫んでいた。
すると何かは唸るのを止めた。
「しゃべった。…うなり声には思えん。」こう呟いた。
ベルはその言葉に驚いて問うた。
「もしかしてゼノス(異端児)ですか?」
「本当なのか、…すまない、その言葉は知らない。本当にお前は言葉を理解できるんだな。」
「僕はベルと言います。あなたの名前は?」
「話が通じるみたいだな。だが済まない、名前とは何だ?」
「他と区別するための物です。一人一人別に持つ呼び名です。」
「ずっと一人だった。だからそんな物は無い、必要無かったからな。」
ここでようやくベルの目が慣れ対峙する者が分かった。
ワイバーンの様だ、ただ翼が岩に挟まれて身動きできないでいる。
「どうしたんですかその翼。」
「わからない。目覚めたらこうなっていた。自分で暴れたんだろうか、と思っている。」
「『思っている』って?」
「最近、目覚めると狩った覚えのない獲物が有ったりする事が有る。
長く生きてきたがこんな事は初めてだ。」
「どのくらい長く生きているんですか?」
だが回答は要領を得なかった。どうやら1日の概念では動いていないらしい。
普段は寝ていて腹が減ったら起きて狩りをする、そんな暮らしだそうだ。
「ここで生まれたんですか?」
「いや、少し離れた所の深い深い穴の奥だ。」
様子を聞くとやはりオラリオのダンジョンの様だ。
だけどあそこから出てきたのなら大騒ぎになっているはず。
そう思って聞いてみると、どうやら黒竜が出てきた時らしい。
それを基準とすると50年以上生きている計算に、もしかすると100年かもしれない。
「とりあえず岩をどかしますね。」いきなり襲ってくることは無いだろうと判断して言った。
「済まない、妙な所が挟まったのと、腹が減って力が出なかったんだよ。」
その言葉を聞いて慌てて坑道に引き返し、倒したモンスターを持ってきた。
それらを食べると今度はベルの事を聞いてきた。
だがここでも良く解らない様だった。親と言う概念が無いから祖父は何の事か不明だ。
食べ物も植物を育てる事も何の事だか解らない様だった。
だが熱心に話を聞いていた。ただしダンジョンの事では少し話が盛り上がった。
話を進めるとやはりリドさん達とは会っていない様だ。
ひとしきり話をしているとぽつりと一言漏らした
「傷の直りが遅い、治っていればお前を外に運んでやろうと思ったんだが。
そろそろ眠くなってきたよ。今回は本当に楽しかった、次回が有れば良いんだが。」
その一言でベルは当初の目的を思い出した。
別れを告げて壁を見つめる。登攀ルートを見つける為だ。
若干オーバーハング気味だが、チョッカイをかけて来るのがいなければ大丈夫。
レベル3は伊達じゃ無い、するすると壁をよじ登っていく。
その時何かが天井の穴から落ちてきた。