アナザー11   作:諸々

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アナザー11その5

漸く月が出た。あの女は気になるが、持ってやがった不気味な力が不明な内は手が出せねぇ。

オッタルでも呼び出されたらシャレにならねえ。

それよりアイズだ。しばらく探してようやく見つけた。

血だまりの前でたたずんでいる。ただし灰や死体は見当たらねえ。

俺には気づいているはずだが抜き身の剣を持ったまま動こうとしない。

思わず「いいのか?」と聞いた。

時間がかかったが返事をしたので少し安心した。

「俺は先に戻るぞ。まだあの黒い奴は出て来てねえ。気が晴れたら戻って来い。」と言ってやった。

何故か感謝されたが俺の部隊へ戻った。

 

ブレスレットを着けたエイナは、旅の荷解きをしていた。

洗濯をし、部屋を粗方掃除して、そろそろベル君に会いに行こうかと家を出ようとした時に爆発音が聞こえた。

ギルド職員としての義務感と、言いしれない不安からエイナは現場へ駆け出した。

有事の際なのでギルド職員の制服に急いで着替えてから。

ダイダロス通りはパニック状態だった。夜間という事もあり矢を十分に持っている冒険者は少ない。

魔法は建物が邪魔で撃つことが難しい。

エイナは必至で誘導しようとしていた。群衆の中に種族も性別も違う3人の子供を見つけた。

思わず駆け寄ろうとした時、それは現れた。石の体、異形の顔、鋭い目だ。

目があったと思った瞬間、モンスターは鋭い雄叫びを上げた。

明らかに自分を狙っている。エイナの体は凍り付く。

ゆっくりと旋回してエイナに飛びかかって来る。エイナはそれをただ見ているしかできない。

もうだめ、と思った瞬間、白い影が横切った。それはモンスターの攻撃からエイナを守った。

ベルだ。そう思った瞬間、エイナの心は弾けて何も考えられなくなった。

 

部隊へ戻った俺はその時を待っていた。遠くで騒動が発生している。

だがあの黒い奴じゃねえ。ここからでも飛んでいるのが見えやがる。

ザコはザコに任せようと思っているとアイズが来た。

てっきりアマゾネスどもの所に行くんだと思っていた俺は少々驚いた。

どこに居ても情報は変わらねえかと思い直し、じっと待つ。

体感的には長かったがおそらくそれほど時間は経っていない時に知らせが来た。

アイズと共に急いで現場に向かった。

だが途中で邪魔が入った。いけすかねえエルフどもだ。

だが奴らの指し示す方向を見てすべてを悟った。

「ちっ……」思わず舌打ちをする。

アイズも同じだったみたいで動きを止めている。

正にあの9階層の再現だ。あの時の様にただ見つめる。

俺はこの時、次は奴を何と呼ぼうかとぼんやりと考えていた。

 

次に気が付いたのは見知らぬ冒険者の腕の中だった。

声をかけられるけれどまともに返事が出来ない。

ベル君が何かと戦っている。今度は黒い何かだ。集まってきた冒険者が一斉に襲い掛かる。

その時黒い何かは咆哮を放つ。たちまち周囲のほぼ全員が停止してしまう。

停止させられた冒険者が木の葉のように宙に舞う。

その中でベルだけが、ベル君だけが一人黒い怪物に立ち向かう。

人々の悲鳴も止んで恐ろしさだけがその場を支配する。

その時、大声がする。ベルにエールを送る声だ。

決してきれいな声ではなかったがそれを機にエールが増えていく。

やがて戦いは場所を替える。先ほどの冒険者に連れて行ってもらう。

ギルドの制服はこういう時にも役に立つ。

恩恵を受けていないエイナには戦いの様子がはっきりと見えるわけではない。

ただベル君の武器に付く血が、防具の傷が、戦いが拮抗している事を教えてくれる。

負けないで、その時強くそう思った。

だけども決着の時は来る。

ベル君は舞い上がり怪物と共にバベルの中へ。

負けた。誰の目にも明らかだった。

私はバベルに駆け込んだ。誰かが何か言っている様だがすべて無視した。

その途中、旅での事が次々とよみがえってくる。

ドジでレフィーヤさんにいつも怒られているベル君、女性に慣れていなくって恥ずかしがりやなベル君、

優しいベル君、田舎暮らしに慣れていない私を助けてくれたベル君、強いベル君、ちょっぴりエッチなベル君。

そのどれもがいとおしく感じてしまう。

居た、見つけた、……生きてる!!!

だけど泣いている、近づいてそっと手を握る。

助けが来るまでずっとそのままに。

 

その後、グロス達と合流できた。

彼らには感謝の言葉もない。

帰還途中でベルさんの事を聞いた。

私たちを助けたことで罰を受けていた事。

あれからかなり時間が経っても悪評は消えていない事。

皆は言葉を失った。

そんな中ウィーネが話し出した、ベルたちから聞いた話を。

『雪精霊の恩返し』という話だ。

助けてくれた人に、ありがとうっていろんなものを返すという話だそうだ。

そして自分の体験(子供を助けたら見逃してもらえた)を話して最後にこう言った。

「だからいつか、ベルたちをいっぱいたすけてあげよう。」と。

皆は元気を取り戻し「そうだ!」の声を上げた。

「ウィーネ、強クなりマしたネ、今度リド達にモ聞かせてアげマしょうネ。」

 

ギルドはようやく地上進出したモンスターたちの討伐を宣言した。

隠れ家を急襲、それを逃れた4体が最後の反撃に出たというシナリオだ。

ただし、黒のモンスターは賞金首になったが。

 

ベルがオラリオの外に出た3か月、変わらない物も有るけれど、確かに変わってしまった物も有る。

そしてヘスティアファミリアはベルを中心にまた走り出す。

 

 




漸く完結しました。最後の方はツンデレさんとクーデレさんメインでの話になってます。
終わりの方は駆け足になってしまって申し訳ありませんでした。
楽しんでいただけた方が一人でもおられたら幸いです。
つぎはこの物語のその後、レフィーヤさんとリリちゃんの話です。
レフィーヤさんの望みは意外な形で叶う。乞うご期待。
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