起きたら八雲だったけど、姓が貰えないんだが…   作:柱の男の娘

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ひっそり細々とやっていきます。


私は誰? アナタは私?

ㅤ起きたら全くの別人になっていた。

 

ㅤそんな奇天烈な出来事を信じるだろうか、俺は否と答える。

 

ㅤ理由は簡単で、誰も経験したことがないからである。していたらきっと掲示板で冷めない議題として騒がれるだろうと考えるからだ。

 

ㅤ故にそれは起こることがないと確信できていた。

 

──昨日の夜までは…

 

 

──────────────────────

 

ㅤ最初に感じた感覚は「いい匂い」だった。

 

ㅤ香水や柔軟剤よりも控え目で、尚且つ其れ等よりも際立つ匂い。

大きく息を吐き、また大きく吸った。

ㅤ朝だということもあってか、リラックスしてかはよく分からないが、身体が弛緩し二度寝ができる体勢になる。

 

「んぅ…」

 

ㅤ余っ程気分がいいのか寝返りの際に艶っぽい声が出る。

ㅤ声は平均より若干高い程度だが、その声はそれでも高いと思った。

だがそんな事は最重要事項でもなく、微睡に従うことにした。

 

「紫様、春ですから起きて下さい」

 

ㅤ障子が開く音と共に女性らしい声が聞こえた。

 

ㅤ開かれた所から、初春のひんやりした空気が顔に触れた瞬間、人間技ではない速度で頭まで布団に潜り込んだ。

 

「「あと5分」」

 

「ベタなセリフを… 一番信用できないやつじゃないですか」

 

「「じゃあ一年…」」

「増やすな!!」

 

ㅤそこで、仕切りに居た女性は障子を全開にし、残酷にも布団を剥ぎ取りに掛かる。

ㅤそこで抵抗しない二人(・・)ではない。

 

ㅤ手足で布団の端を掴み、抵抗する。

 

「子供じゃ無いんですから速く起きて下さい!」

 

「心は何時でも子供よ!」

「禿同!!」

 

「「ん?」」

 

ㅤまず此処で整理しよう。今ここに、この部屋に居る人数は三人である。此処に住んでいる人数は二人である。確かによく一人増えたりはするが、基本的に二人なのである。

 

ㅤ分かる通りこの時点で可笑しい。

 

ㅤ一人多い。

 

ㅤ布団で寝ていた女性も気付いたのか裏切り者として布団を剥ぎ取る。

ㅤ二人で支えていた均衡は、その裏切りによって簡単に崩れ去り、隠されていた身体に多大なダメージが入る。

 

「布団を取り去るなんて何て残酷な事を…… お前ら人間じゃねぇ!」

 

「人間じゃ無いのよねぇ…」

「…ですね」

 

ㅤこれが俺の目覚めである。

 

「紫様、またですか?」

 

「あら、決め付けるのは頂けないわ藍」

 

ㅤ俺が空気っていうか置いてけぼり何ですが…

 

「自己紹介をしましょう。 私は八雲紫、こっちが式の藍よ」

 

「八雲藍です。 貴女の名前を聴かせてもらえますか?」

 

ㅤ今、アナタのニュアンスが違う気がした。にしても綺麗な人? たちだな…金髪美女二人、それも片方は尻尾が生えてるときた。

それより、名前を言わないと不自然か。

 

「俺の名前は…名前は?」

 

「聞かれても分からないわよ」

 

「記憶喪失ですかね?」

 

ㅤ記憶喪失、詰まりは自分が何者なのか分からない。覚えていることは、男だった事と一般教養だったり、無駄な知識だけだった。

 

ㅤ俺が考え込んでいる間に事態は収束に近づいて行ったようで、紫と藍こちらをチラチラ見ながら頷き会っている。

 

「貴女はたぶん私の子供ね」

 

「はい?」

 

「まぁ子供の様なもの。 と言うのが正しいのだけれど、まぁ説明はするわよ。 貴女に理解できるかどうかは保証できないけど」

 

ㅤそう言って紫は虚空に手を伸ばし眼鏡を取り出した。

 

「先生、それは何ですか?」

 

「これはスキマと呼称された私の空間。 私の能力の根源に近いナニカよ」

 

「へぇー」

 

「じゃあ貴女の説明をします」

 

ㅤ俺は藍が持ってきた煎餅を齧りながら紫の話を聞いた。

 

まとめてみると…

 

・俺は紫の痕跡に意思を持たせた妖怪であり、紫の子供とは詰まりそういうことである。

・今まで男だと思っていたが実は、紫そっくりな美幼女である。

・記憶が無いのではなく、最初から無い。余計な知識は紫以外の意志が、存在の構築がされる前に混入した為。

 

「なるほど分からん!」

 

「無理もない。 ほらお茶でも飲みなさい、落ち着くだろう」

 

「ありがとう藍」

 

「貴女たち馴染むの速くないかしら?」

 

「見た目が紫様とそっくりなもので」

「紫の痕跡ならしょうがない気がする…」

 

ㅤそう言うと紫は何やら拗ねている。誰かは分からないが、俺の人格部分は男らしい。見た目が一緒な事を考えなければ素直に可愛らしいと評価するだろう。

 

「どうしたの紫」

 

「それよそれ! 何で下の名前!?」

 

「いや何でと言われても、八雲じゃ藍も含むじゃん。 それに何か距離を感じるし…」

 

「違う、そうじゃない。 私が言いたいのは何で親子なのに下の名前呼びなの!? 普通そこは『お母様』でしょ!!!」

「寧ろ距離を縮めてきた!?」

 

「いくら何でも『お母様』はどうかと思いますよ」

 

ㅤ藍がこちらにウィンクしてきた。援護射撃をしてくれた様だ、此処は乗って無難な所に…

 

「そこは『ママ』でしょ!?」

「流石ね藍!!」

 

ㅤこの主従はもうダメだ速く何とかしないと……と言うか『お母様』も『ママ』もどっこいどっこいじゃねぇか!?何でウィンクしてきたんだあの狐は!?

 

「さぁさぁ、速く言いなさい『お母様』」

「『ママ』でも可です。 選択肢は広げましたよ」

 

ㅤもうやだこの妖怪…

 

「じゃあ『母上』で」

 

「「good!!」」

 

ㅤ金髪美少女三人が互いにサムズアップをするこの状況はきっとシュールな現場だろう。

 

ㅤしかし、紫への呼称より大事な事案を思い出した。

 

ㅤ名前である。名前とは個人の存在を確立し、縛り付けるモノである。

 

ㅤ紫に聴いてみると、待ってましたと言わんばかりに笑顔になり、手を叩く。

 

「決めてたのよ!」

 

「嫌な予感…」

「奇遇ですね私もです」

 

黒無(クロナ)よ!!」

 

「「うわぁ……」」

 

ㅤ何かキラキラした名前を貰って俺こと『黒無』の妖怪生は幻想郷にて展開する。




次回も期待せず待ってくださいませ〜
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