起きたら八雲だったけど、姓が貰えないんだが… 作:柱の男の娘
ㅤ紅い、紅い、紅い。
ㅤ視界は紅に染まる。此処は紅魔館、悪魔が住まう館である。
しかしてその実態は吸血鬼の少女を主とする幻想郷の勢力の一つ。
ㅤ霊夢と黒無は銀髪のメイド、十六夜咲夜に連れられ此処紅魔館へとやって来た。その理由というのも、どうやら当主である吸血鬼が霊夢とお茶会に興じたいとのことだ。
ㅤ霊夢は拒む理由が無いためここまで来たのだが…何故か無関係な黒無まで来ることになった。
「メイドさん、俺も来ちゃって良かったのかい? いや中に入ってから話すことじゃ無いんだろうがさ」
「良いのよ別に、減るもんじゃ…いや減るわね。 主に私の分のお茶請けが!」
「何で貴女が答えるのかしら?…… でもまぁそうね、お嬢様は気にしないわ、自分から宴会等にも参加するような方だから」
ㅤ黒無は若干の安堵を覚えたと同時に焦りを感じた。
(此処の主ってレミリア・スカーレットで、いいんだよな…。 俺の風貌を見てどうなる事か…)
ㅤ黒無の母、と言うよりも八雲家と紅魔館に確かな確執が生まれていた場合、八雲紫そのもの(中身以外)の黒無は即刻首を跳ねられそうだと言う事実が黒無の中で浮上する。
ㅤだが、咲夜の警戒心の無さから徐々にその疑惑さえ薄れていく。
ㅤしかし、物事とはそう易々と上手くいくものでは無い。そうだ、ヤツらが来る。
『おい、お前ら起きろ! ロリが来るぞ!!』
『合法だ、合法だぞぅ!!』
『剥ぐ時にニーソは残すんだ、いいね?』
(俺もロリッ娘っちゃロリッ娘なんだが…と言うか何で脱がす前提で話が進んでんだ!?)
ㅤ意思たちは言うのだ『ロリ×ロリ』は合法だと…
ㅤそんな黒無の葛藤があり現在、これまた紅い両開きの扉の前へとやって来た。
「お嬢様、お客様をお連れしました」
「入っていいわよ」
ㅤ咲夜はノックをして問いかけ、返事が帰ってきたことを確認したあと扉を開く。
ㅤ中は暗すぎず、明るすぎないもので、光源は吸血鬼の館には予想外な太陽光であり、壁紙も赤と言うよりはピンク、奥の方を見るとパラソルの付いた円卓が見え、その上にはケーキスタンドに三人分のティーセットが並んでいた。
ㅤそして、その円卓の椅子には1人の少女がいた。
パラソルの下から空を眺める少女、この光景を絵に描けばさぞ素晴らしい物になるだろう。
ㅤ少女は首だけ扉に向けて、見かけに合わない妖艶な笑みで隣人にあったように気軽な挨拶をしてくる。
「ようこそ霊夢。 それとはじめまして、そしてようこそ紅魔館へ、歓迎するわ
ㅤ少女、改めてレミリア・スカーレット、言わずと知れた吸血鬼。彼女は獲物を見定めた瞳を持ってして黒無を見る、オノマトペで表すとしたらギラギラやキラーン等だろうと想像出来る。
ㅤだが獲物を見定めたのはレミリアだけではなかった。
『跪け!』
『手の甲に口付けを!!』
『甘い言葉を囁くんだよ!!!』
(連携…だと?)
ㅤ凶悪な連帯感を持って黒無は為す術もなく一歩を踏み出してしまう。既に聞くだけで恥ずかしい、甘ったるい言葉は絶対厳守の指令として意思たちに提出されてしまった。
ㅤ最早これは呪いとして作用している、逃れようにも既に遅い、黒無は臆面も関係無く敷かれたレールを進むしかないのだ。
この行動に不幸が舞い降りない事を祈りつつ。
ㅤ黒無はレミリアの前で片膝を付き手をとる。その行動に場は一気に静寂と言う空間へと作り替えた、そこには少ないが感情が確かに渦巻いただろう。
ㅤ困惑、或いは悦び……
ㅤ手に口付けをすれば黒無の唇にヒンヤリと血の通っていない肌の質感を覚えさせた。黒無の顔に羞恥心の色は存在しない、今現在貼りついているのは僅かな微笑、目は細められている。黒無に身近な例えを出すならば、八雲紫が黒無に降りてきた様なもの、違う所を出せば紫はレミリアに絶対に跪かない事だろう。
「私は妬ましい…」
ㅤ黒無は現在口調まで強制されて台詞を紡いでいく。霊夢も咲夜もいきなり変わった黒無に強ばった身体を更に強ばらせる、この場で平静を保てて居たのはレミリアだけ。黒無自体この状況では内心発狂気味である。
(もうヤダ…お家帰りたいよぉ)
『まだ逝ける!』
『もっと色っぽく、アダルティーに!!』
『ベットインまでの道は長い、滾る、滾るぞぉ!!!』
ㅤ意思たちの賑わいから黒無の憂鬱は続く。
「私は私を魅了する貴女が、私の視線を独占する貴女が妬ましくてたまらない。 嗚呼、貴女のきめ細かい肌も、宝石を嵌め込んだ様な瞳も、濡れた唇、匂い、雰囲気さえも妬ましい…」
ㅤ黒無はこの歯の浮くような台詞を言い切る、その顔には少しの羞恥も感じないが、やはり内心叫びたい気持ちでいっぱいである。
ㅤレミリアはと言うと、口は三日月のように歪み、愉悦の笑みを零していた。
ㅤ一言で彼女の状態を言い表すとしたら、『ノリノリである』、だ。
「そんなにも貴女を魅了していたなんて…ごめんなさいね。 でもどうしようもないわ、これが私の常だから。 だから、好きなだけ見るといいわ。 貴女が飽きるまでではなく、私が貴女に飽きるまで…じっくりと、貴女が見たい所を、貴女が触れたい所を……」
ㅤ少女は見つめ合ったまま。
ㅤレミリアは片膝を付いている黒無に手を伸ばし、金糸のような髪を掻き分け頬に手を添え自身の顔に固定する。正に目と鼻の先にお互いの顔がある。
ㅤ黒無は紅き瞳に吸い込まれる感覚を味わう。レミリアは黒無の均整の取れた貌に見惚れる。
ㅤだが黒無は皮肉にも意思たちによって引き戻される。
『ちょろイン』
『吸血鬼一匹GETだぜ!』
『もう一押しで堕ちるな(確信)』
(こ・い・つ・ら!!)
「来てやったのに肝心要のお客様の私にはお茶の一つも出ないの?」
ㅤ更に場の空気さえも再起した霊夢の一言で終息へ向かった。
「あらあらもしかしてこの娘に嫉妬したの霊夢? いや、私にしたのかしら?」
「バッカじゃないの!?」
「もしかして図星? 冗談で言ったのだけれど…」
ㅤ霊夢は懐から札を取り出し始める。レミリアはトレーを載せたカートを運んで来た咲夜に目配せし、霊夢を拘束させた。
ㅤ目配せだけで主の言いたい事が分かったのはメイド故か、それともわかり易かったのかは言うまでもないが咲夜は確かに優秀である事は此処に記しておく。
「離しなさい咲夜!! またソイツを退治してやるんだから!!」
「主を傷付けるってわかっているのに正直に離すメイドはいない」
「ちょっと見てアレ、顔真っ赤、霊夢カッワイ〜」
ㅤレミリアは霊夢を煽る、霊夢は完全にリミッターを外し咲夜の拘束を無理矢理解こうとする。
「ちょっ!? お嬢様煽らないでください!」
ㅤこの時点で黒無は空気でありソッと椅子に座っていた。無言で居るのは単純に疲れたからだ、主に心が…
「良いの霊夢、私を退治して。 霊夢の為に咲夜にケーキとか、スコーンを用意させたのに…」
「食べ物ごときで私が釣れると思ってんの?」
「ふぅーん、いらないならしょうがない。 スコーンは私とその娘で食べちゃうわね…ジャムとクリームを好きなだけ乗せて、ね?」
「っ! 食べないなんて言ってないじゃない!」
ㅤ巫女は吸血鬼に屈した。痛ましい事件だったと後に巫女は語った。
ㅤ今までの過程を経て、現在は皆が大人しくお茶会を楽しんだ。黒無の中の意思たちも今だけは大人しく、黒無も純粋に楽しめていた。
ㅤ話す内容も特別なものでも無い、黒無の自己紹介やら質問、最近の出来事、霊夢の愚痴と平凡なもの。
ㅤだがここでレミリアが萌え滾る(誤字にあらず)
「それで、霊夢は神社に帰るとして、クロナは泊まっていくわよね? 行く所も無いんでしょう? 私、貴女が気に入っちゃったから居ても良いよ」
ㅤ意思たちは萌え上がる(誤字にあらず)。
『やっぱりちょろインじゃないか』
『勝ったな…』
『あぁ……』
ㅤ黒無は意思たちの好きにはさせまいと抵抗するが、否定の言葉を口にすることが出来ない。まるで縫い付けられたかのように口が開いてくれないのだ。
「……お願い…します」
ㅤレミリアは満足そうに頷き霊夢を咲夜に任せて送らせた。霊夢はレミリアに持たされたケーキを持ってホクホク顔であった。
ㅤ部屋は二人きりになる。
ㅤレミリアと黒無である。
ㅤ物音が全くしなくなった時、レミリアは黒無に迫る。僅かに円卓が揺れ、カップと皿が擦れ合う音がした。
「夜中に私の部屋に来なさい」
ㅤレミリアは黒無の耳元でそう囁き、部屋を後にした。
ㅤ黒無は気恥しさと意思たちの雄叫びへの煩わしさに挟まれ、言葉を発する事はなかった。
ㅤレミリアが出ていって3分後、咲夜が部屋を案内に入室するまで黒無が動くことは無かった。
次回も気分が乗ったら書きます。
期待せずにお待ちくださいまし。