Sperareー稀望の物語ー   作:雪宮春夏

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外伝 風紀財団の懐事情

「さぁ! 極限に今日こそ決着をつけようではないか!! 雲雀!」

「懲りないね、相変わらず。僕は一向に構わないよ。嚙み殺してあげる」

 ぽかぽかと暖かい日向日和。小鳥も囀る音が聞こえてきそうな長閑な午後に、この場所だけは、人々の笑い声ではなく、叫び声が木霊しそうだと、風紀財団副理事長、草壁哲矢は冷や汗を流した。

(全く、どうして大人の方は昔から一度会えばこの状態なのか……!!)

 ここは彼の主にして風紀財団理事、雲雀恭弥の屋敷。そして現在、その彼と対峙しているのは、彼の幼い頃より度々この屋敷に侵入……もとい、殴り込み、もしくは乱入している、現在は彼とある目的において協力関係を結んでいる笹川了平である……が。

「極限にこの拳、防ぐ物なし!!」

「来なよ。噛み殺す」

 二人に流れる空気が一気に変動するのを、草壁は肌で感じる。

 恐怖感はあるがとめなければならない。でなければ、この屋敷が半壊になるだけでは済まないからだ。

「だからここでは止めてください!! やるならどうか地下の修錬場でお願いします!」

 戦うことそのものをとめないのは既に草壁がこの十数年で学んだ妥協点である。

 現状での彼らのストレス解消法は専らこれしかないのだ。しかも双方ともかなりの実力者なので生半可な相手ではそれが解消されるまで相手の体がもたない。

 その点、彼らは互いに実力は申し分ないし、余計な気遣いは必要ないため思う存分やりあえる。

 まぁ、どちらも相手に勝ちを譲ってやる殊勝な性格はしていないため、本気でしかしあわないのだが。

「ほっときなよ、哲」

 どう誘導すべきかと悩んでいた草壁にかけられた声は気にしないというよりも諦めの色が濃い。

「龍真さん……」

 振り向いた先には、嘗ての雲雀がいた。

 そう言いきれるほど、彼は遠き日の雲雀に瓜二つだった。

 雲雀龍真。今年で…齢16を迎える、雲雀の唯一の家族である。

「本当に壊したら困るものは置いてないんだし、好きにさせたら良いさ。補修代は財団持ちでよろしくね。こっちから出す気ないから」

 諦めと呆れの混じった声音には嘗ての雲雀と違い、戦いに対する意欲というものは少ない。

 そこが彼との明確な違いだろうか。

 今の龍真にとっては「並盛の秩序」というのは父から受け継いだ役目で有り、戦いはそれを円滑にするための手段の一つにすぎない。

 近頃は必要以上に関わるほど嗜好として好んでいるわけではなかった。

 これが雲雀本人の場合であったなら、二人の間に喜々として加わっていっただろう。

 それに対して龍真の方は溜息一つで邸宅の中へ入っていく。

(達観というか。大人びすぎているというか……)

 或いは父親があのような性格故に、そうならざる負えなかったのか、そこまで考えて己がかなり雲雀に対して無礼な事を考えていると気づいた草壁は、慌てて思考を打ち消した。

 それと同時に、庭の一部が音を立てて粉砕する。

「恭さん!!!!」

 どうやら、気づかないうちに始まっていたらしい。

 どこからか「極っ限ーっ!!」と、猛々しい声が響く。

 ……ああなっては、もうとめられない。

(あぁ、修繕費にいくらかかるのだろうか?)

 思わず遠い目になる草壁に、助けてくれる人物はあまりに少ない。

 元々、こうなった二人を止められる程の猛者はボンゴレ側にも守護者たちしかいないのが現状だった。

 龍真からの言質の通り、恐らく風紀委員会からは一銭も出ないことは確定と言って良いだろう。

(あぁ……また、内職生活か……)

 己の運命を悟ったかのような何とも遠い目をして、草壁は一人黄昏れたのだった。

 

 

 

 


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