GIRLS und PANZER 〜夢の末路〜   作:なめろうP

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黒森峰の場合

先日の大学選抜との試合は楽しかった。久しぶりにあの子と一緒に戦えて嬉しかった。あの子はとても生き生きとしていた。...悔しいけれど、黒森峰にいた頃よりもずっと。あの子の居場所を守る手助けができて良かった。もっとも、私たちの戦車は途中で撃破されてしまったけれど...。それでも、私たちはみんなあの結果に満足していた。大学生に勝ったのだという誇らしい気持ちと、昔の仲間の居場所を守る事ができたという達成感。...そう、私たちはみほの居場所を守った。廃校という危機から。しばらくの間満足感に浸っていた私たちを、誰が責められるだろう。

 

 

 

 

「エリカ、少しいいか?...話がある。」

いつものように訓練と反省会を終えて自室に戻ろうとしていた矢先のこと。私は隊長から呼び出された。隊長からの呼び出しは珍しいことではない。ただこの時は、いつもの作戦会議の招集のような声のトーンではなかった。

いつものように隊長の部屋にお邪魔する。憧れの先輩の部屋というのは何度訪れても緊張するもので、私は緊張を紛らわすために周囲を見回した。ふと、隊長の机の上にある書類に目がとまる。これは...?

「今回来てもらったのはそれのことについてなんだ。まあ、読んでもらったほうがわかりやすいかもしれないな。」

読んでくれ、という隊長に言われるまま書類に目を通す。そこに書かれていたのは、文科省からの通告だった。

『先日の大洗女子学園の廃校撤回に伴い、戦車道関連の予算、並びに国際試合への準備についての大幅な変更が決定した。ついては貴校においても調整を受け持ってもらうこととなったのでこれを通告する。黒森峰女学園においては____』

「お言葉ですが隊長、わが校は私立高校です。公立ならともかく、わが校が文科省の影響を受けるとは...。」

「戦車道は非常に金がかかる競技だ。我が校でも少なからず文科省や戦車道連盟からの支援を受けている。...とりあえず最後まで読め。話はそれからだ。」

言われるままに続きを読み進める。

『保有戦車の四割を他校に無償で譲ること、それに伴い、その車両の搭乗員を提供先の高校へ転校させること。これらは来る戦車道国際試合に向けて選手を育成する目的で行われる。なお、期日については後日連絡するので準備を進めておくこと。』

絶句した。誰が見てもわかるほどの無理難題だ。こんな条件が認められるわけがない。かといって断れば我が校への予算はなくなると思っていいだろう。

「隊長はどうするつもりなんですか?こんな条件をのむなんて言いませんよね?」

「この要求を断れば、確実に戦車道の活動に支障が出る。」

「じゃあ____!」

「エリカ、気持ちはわかるが落ち着け。どうやら他校にも同じような通達がいっているようだ。それらと結託して嘆願すれば何とかできるかもしれん。」

そう言葉を発する隊長の表情は、非常に険しい。大洗を2度も、それも2度目は西住流を敵に回してまで廃校にしようとしていた文科省を相手に、私たちがどれだけ嘆願したところで願いが受け入れられるはずがない。隊長もそんなことは分かっているはずだ。

しばらくの沈黙の後、隊長が口を開いた。

「...エリカ。体育館に戦車道履修者を集めろ。私の考えを話す。その前にこの紙の内容を皆に知らせること。いいな?それと______」

少しだけ間をおいて、隊長はこう続ける。

「とある独裁者がこう言ったそうだ。...『平和は剣によってのみ守られる』。」

反射的に背筋が伸びた。普段の練習の時よりも更に冷徹な声。隊長の目は、ひどく冷たく、残酷で、それでいて情熱的であった。まるでかつて、世界を敵にまわして戦った独裁者のように。

 

 

 

 

「______以上。隊長が来るまでは休めの状態で待機!」

講堂に集められた隊員たちに、一通りの説明を終える。皆、隊列を組みながらもどことなく落ち着かない雰囲気だ。憤りを露わにするもの、不安そうな表情のもの、呆然としているもの。それもそうだろう、いきなりあんな要求を言われてすぐに受け入れられるはずがない。体育館に、彼らのざわざわとした声が反響する。嘆願しようという者、殴り込みに行こうという者...。声は、隊長が姿を見せてもしばらく続いた。隊長は彼女らが静まるのを待ち、こう切り出した。

「_______諸君。文科省は主張している。」

講堂中に、隊長の凛とした声が響いた。激しい怒気を孕みつつも極めて冷静に語りかけてくる声に、講堂中の全ての人間が聞き入る。

「我々の大洗女子学園救済計画が、隊員諸君の反感を買っていると。...諸君が抵抗ではなく、かの条件の受諾を望んでいると!」

「でたらめだ!」「そんなものは望んでいません!」

隊員達が口々に否定の言葉を述べる。

「では、諸君は________総力戦を望むか?」

総力戦。その言葉に、隊員達は沈黙した。この言葉がどれほどの意味を持つのかを、ドイツをモデルにしている我が校では嫌というほど教わった。他所の高校ではともかく、我が校では迂闊に口にできない言葉なのだ。では隊長はどのような意図で言ったのか。私たちに、条件に反対する気をを無くさせる為か?それともほかの意図が?...きっと皆、既に結論に至っているはずだ。ただ、第一人者になるのが嫌なのだ。それなら_______

「望む!」

私がなってあげようじゃない。黒森峰の運命を決める発言に賛同する、第一人者に。

「の、望む!」「望みます!」「望む!」

私の言葉を皮切りに、次々とみんなが賛同する。

「諸君に問う。必要とあらば_______想像を超えるほど全面的、徹底的な総力戦を望むか?」

「望む!」「望む!」「望む!」

一度賛成してしまえば、後は簡単だ。もはやこの体育館に、総力戦に疑問を呈する人間や、反対する人間はいない。

「勝利を勝ち取るため、私に従う決意はあるか?苦難を共にし、最も重い負担に耐える覚悟はあるか?」

「もちろんです!」「耐えてみせます!」

「では、これより我々のスローガンはこうだ。『黒森峰よ、立ち上がれ!そして嵐を起こせ!』」

「ハイル!」「ハイル!」「ハイル!」「ハイル!」

もはやこの黒森峰女学園の戦車道履修者において、総力戦という言葉、ましてや隊長の発言に疑問を持つ人間はいないだろう。演説を聞き終えた隊員達は、眼を輝かせて頬は上気し、どこか酔っているようでさえあった。

 

 

 

 

自室に戻り、今日の振り返りをする。講堂での演説はおそらく、演説としては大成功だと言ってよいだろう。聴衆という個々の存在の全員を同じ意見にまとめ上げただけでなく、タブーとされている言葉に賛同までさせたのだから。...もっとも、たとえこの計画が成功したとしても、計画の首謀者が処分を免れることはほぼないと言っていい。聴衆を扇動するということがこの学校においてどのような扱いを受けるのかなど、わかりきったことだ。

コンコン、と短いノックの音がする。入れ、というと扉が開き、予想通りの人物が入ってきた。

「失礼します、隊長。お疲れさまでした、素晴らしい演説でした。」

場を作ってくれたのは貴女よ、と告げると少し嬉しそうにしていたが、すぐに表情が変わった。

「隊長、本当にやるおつもりなんですね?」

腹心の部下からの言葉に私は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「エリカ、やはり私は間違っているのだろうか?もしそうであると思うなら、今ここで私の目を覚まさせてくれ。」

そう言って彼女の右手をとり、拳を握らせる。彼女はきっと私を止めないだろうが、何か苦言を呈してくれるだろう。そうなれば彼女が首謀者側として扱われる可能性を低くできる。しかし私の予想に反して、彼女は静かに私の手を払い、右手をおろした。

「とんでもありません。私たち黒森峰戦車道履修者は、常に貴女とともにあります。そして、もし彼女らが貴女のもとを離れたとしても_________私は常に、貴女とともにおります。」

賢い彼女のことだ、『【私】とともに』という言葉が何を意味するかなど分かりきっているだろうに。それでもどうやらこの健気な銀髪の副隊長は、私とともに修羅の道を歩んでくれるつもりらしい。良い後輩に恵まれたものだと思いながら、私は二人分のコーヒーを淹れるために立ち上がった。

 




前回からの期間空きすぎですね...新しく書いたほうが、とも思いましたがせっかくなのでこのまま続けていきたいとおもいます。
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