あれ? おれ生きてるのか?
ついさっき謎の槍男に胸を突き刺されたはずだったのに、血の一滴も出ていなければ体に穴も空いてない。気がついたら学校に倒れていた。夢でも見ていたのだろうかと思った。だけど刺されたところの服は破けて、周りに赤黒い血が散乱しているからやっぱり現実か。
外は暗く街灯の灯りと幾つか点々と家の明かりも見える、時間が遅いこともあってかほとんどの家は暗かった。槍の男と学ランが異常な戦いを繰り広げていたとは到底考えれない静けさだった。
やっぱり夢だったんだ、きっと疲れてうとうとしてしまったんだ、この血もたぶんペンキかなんかだろ。そう思い込むことにした、とてもじゃないけど自分の見たものを信じることは出来なかった。だからあれは夢だ、そうに違いない。そうと決まったら早く帰って休もう。
夢の恐怖からか、階段や曲がり角でつい警戒してしまう。どこか闇の中からあの槍が襲ってくるような気がした。びくつきながらもなんとか外まで辿りついた、そこでグラウンドのほうを確かめたが、どこにも戦いがあったような痕跡は見えなかった。これは本当に夢だったみたいだ。少し安心したけど、それでもまだ闇の向こうに何かが潜んでいるような気がした。あまり周りを見ないようにして走って家まで帰った。
学校から家までの間に何か起きるようなことは無かった。家の前に着いて走るのを止めて呼吸を整える。
「ふう……」
やっぱりあれは夢だったんだと再認識して、早く休もうと家に入ろうとした。
「よう、また会ったな」
「っ!!!」
後ろから声がした、夢の中で聞いたあいつの声だった。
「せっかく助かったところわりいが、死んでもらうぜ」
おそるおそる振り返ってみると、どこから現れたのか夢の槍男が街灯の下に立っていた。その手に持つ槍が光に照らされて鈍く輝いていた。
「……なんでさ」
あれは夢だったんじゃないのか!
男が一歩前に出た、二度目だったからか、それとも生物の本能からか、それと同時に走りだした。捕まったら今度こそ殺されてしまう。玄関の前に立つが鍵を開けてるような時間は無い、そのまま素通りして中庭のほうに向かった、縁側のほうから雨戸に体当たりして無理矢理に家のなかに入った。家に飛び込む直前、あいつが追いかけてきているのが目に入った。
一番近かった居間に飛び込んだ、襖をそっと閉め息を殺して外の様子に耳をたてる。壁の向こうから縁側の床板が軋む音がする。音はこの部屋の前を素通りして奥に進んでいった。
「っはあ……」
足の力が抜けて、壁を背にして座りこんだ。その瞬間、頭の上数センチの所から槍が突き出てきた。もし立ったままだったら刺さっていた。相手が壁のすぐ向こうにいることに気がついて、とっさに右に倒れこむ。今度はちょうどもたれていたあたりから槍が出ていた。そのまま転がり壁から距離を取る。木が割れる音と空気が裂ける音がした。壁をみるとさっきの二つの突きで出来た穴に加えて、幾つもの穴が空いていた。槍が振るわれた過程は見えなかった、ただ穴が空いているという結果から槍が振るわれたと理解した。
逃げれない。このまま逃げ回っていてもすぐに捕まって殺される。それなら覚悟を決めよう、おとなしく殺される覚悟じゃない、立ち向かう覚悟だ。何か武器になりそうな物はないか、部屋の中を見渡す。そこで自分のすぐ隣に置いてあった物に気がついた、それを拾いながら隣の部屋に飛び込む。次いで槍の男も入ってきた。
「なかなかしぶとい野朗だな、いいかげん楽になっちまえばいいもんを」
槍の男の言葉を無視して部屋にあった小型の机を槍男の顔目掛けて投げつけた。
「そんなもんくらうかよ!」
一瞬で机は粉々にされてしまった。
「俺と戦おうってのか? おもしれえじゃ……なんだ?」
机が破壊される一瞬、槍男の視界が塞がれたその一瞬の隙をついて何とか縁側のほうに逃げ延びた。
「ちっ! ただの目くらましかよ!」
そのままもう一度居間のほうに戻った。そこでさっき拾った物、ポスターを丸めて棒状にした物に意識を向けた。
「――――
槍の男は俺が居間に戻ったことに気がつかずに一度部屋の外へ出た。
「――――構成材質、解明」
男はすぐに俺の声に気がついたようで、こちら向かってくる足音がする。
「――――構成材質、補強」
居間に入ってきた男は流れるような動きで槍を横殴りに振った。
「――――
俺は持っていたポスターを『強化』して、体の横に縦向きにして構えた。
そして槍とポスターがぶつかり合った。ポスターは破けてしまうようなことは無く、金属同士を叩き付けたような甲高い音が響いた。おれは槍の勢いに押され、隣の部屋まで大きく吹っ飛ばされる。槍男の表情が驚愕に染まっていた。
「てめえ……!」
ゆっくり話している暇は無い、槍男が呆けている隙に中庭へ飛び出す。そのまま中庭の隅にある土蔵に向かう、あそこなら丈夫に出来てるから少しは安心だろう。槍の男が飛び出してきたのは俺が土蔵に入るのとほぼ同時だった。
扉を施錠して倒れこむようにして、床に転がった。頬に石の冷たさが伝わってくる。しばらくは大丈夫だろうし、今の内に何か対策を立て……
パキッ
「えっ?」
扉に穴が空いていた、かなり厚く鉄で出来ているはずの壁にだ。
「なんでさ……」
考えが甘かった、相手は完全に化物だ。しかも土蔵の中に他の出入口は無く、自ら袋小路に飛び込んでしまったことに気がついた。みるみる内に穴は増えていった。
もう駄目だ。
半ば諦めかけてたその時、急に土蔵の中が光に包まれた。
「!!!」
光源は足元だった。床に魔方陣が描かれていた、それが光輝いている。どんどん光は増していき、光で何も見えなくなっていく。そして全ての暗闇が光に払拭されたその瞬間、カッと輝いて、急に光が消えた。
「問おう――」
魔方陣のあったところから誰かの声が聞こえた、暗くてよく見えない。そこでちょうど扉が破壊された。外から月灯りが差し込んできた。扉の前には槍の男が土蔵の中を睨みつけていた。
「汝が我がマスターか?」
声の主が月灯りに照らされる、そこには鎧を着込んだ人間が立っていた。
その姿はどこまでも、気高く凛としていて神秘的で優雅で輝かしく孤高で至高で最上で、そして他の何よりも美しかった。
やっとのことでセイバー召還まで漕ぎ着けました。
まだまだ先は長いですけど頑張って書いていきたいと思います。
ある方の指摘で文章が短いというものがあったので、次回からは今までの三話分くらいを一話に纏めたいと思います。
そのため少し更新が遅くなるかもしれませんが、ゆっくりと待っていただければと思います。
それではまた次回。