Fate/effortful spirit   作:車輪軸

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根性と騎士

 削板とランサーは10メートルほどの距離をとり睨みあっていた。おもわず凛は息を飲む。ランサーの殺気と、削板の殺気とは異なるが何かよく分からない大きな威圧が空間に満たされている。

 

 先に動いたのは削板だった。一瞬でランサーとの距離を詰める。その速さは音速を超えていた、削板がランサーの前に現れたと同時に空気が張り裂ける音が鳴り響いた。通常物体が音速を超える速さで移動すればソニックムーブ、衝撃波が発生してしまい人間を含むやわらかい物体であるならば粉々になってしまう。ところが削板には傷一つなく衣服ももとの通りであった。

 ランサーは削板がなんらかの不可思議な力を使っていることには気がついていたが、おそらくその元々の身体は人間のものであったと予想していた。よって削板が音よりも速くしかも全くの無傷で動いたことには驚いた。

 手を広げて顔に摑みかかってこようとしていた削板をランサーは槍を振るい弾き飛ばし、削板に向かって突撃する。

 

 その時、ランサーはこの場に凛と削板と自分を除いたもう一人の人間の気配を感じ取った。

 

 「チッ! 面倒くせえな」

 

 一瞬だけそちらに視線をやると、グラウンドの隅、校舎の脇に誰かが立っているのが見えた。ランサーは削板に向かうことをやめ、後ろに大きく跳んだ。

 

 「わりいな白いの、邪魔が入ったみてえだ」

 「なんだと?」

 「俺はいいんだがようマスターがうるせえからな、この勝負預けといてもらうぜ」

 

 じゃあなと言い残してランサーは校舎の方に駆けていった。その方向を見て凛もようやく校舎の脇にいた人物に気がついた。

 

 「まずい! 追いなさい削板!」

 

 魔術とは秘匿されるべき神秘である、しかも今は聖杯戦争という戦いの最中だ。そんな物を魔術を知らない、普通の人間が目撃してしまうと、その結末は証拠隠滅のために良くて記憶消去、最悪の場合は抹殺されてしまう。ランサーの様子だときっと後者だろう。

 遠坂凛という少女は生粋の魔術師であったが、あっさりと殺人を容認ほど非人道的では無かった。だからさっきの人物がランサーに殺される前に何とかしなければならないと思った。

 

 すでに二人は校舎の中に入っていたようで姿が見え無かった、それに遅れて削板も後を追う。人間でしかない凛がかなり遅れて着いた時には三人の姿は見えなかった。一人になってしまったことに気がついて、慌てて残りの魔力を込めた宝石の数を確かめる。いざとなれば令呪を使い削板を呼び寄せればいいのだろうが、隙を突かれて使う前にやらてしまうことも考えられる。

 慎重に辺りを警戒しながら校内を探索するが誰の姿も見つけることは出来ない。凛の足音だけが長い廊下に響き渡る。

 

 「すごいパーンチ!!!」

 「っ!!!」

 

 ちょうど凛がいるところの真上のあたりから削板の声が聞こえた、おそらく一つ上の階だろう。凛は急いで階段を駆け上がった。

 

 上階で凛がまず目にしたのは白く輝いて見える削板の背中だった。次にその左後ろ、壁にもたれかかって座っている削板の服とは対照的に真っ赤な血の色に染まった人間がいた。

 

 「ランサーは!?」

 「たぶん逃げた、根性の無いやつだ」

 「そう、ならいいわ」

 「それより凛! そいつが!」

 

 凛は削板の言葉を聞くまでもなく、被害者のもとへ駆け寄っていた。

 

 「っ! なんでよりにもよってあんたが……」

 

 その顔を見て凛はひどく驚いた、そこにいたのは彼女も知っている人物、『衛宮士郎』だった。

 凛はさっと士郎の怪我を確認するととりあえず安心した。出血は多いものの傷自体は浅くすぐに治療すれば間に合うレベルの怪我だった。

 

 「まったく、感謝しなさいよね」

 

 凛は一瞬だけ名残惜しそうに自らの宝石を見たが、すぐに治療魔術を開始した。宝石に込められた魔力が減少していくのと引き換えに傷は癒えていった。

 

 「はあ……ほとんど使っちゃったわね」

 

 この宝石は何年もの間凛が魔力を込め続けたもので、聖杯戦争においてもそこそこのアドバンテージになるだろうと思っていただけに落胆の色を隠せないでいた。

 

 「そう落ち込むな凛、こいつが助かったんだからそれでいいだろ」

 「そうね、それにしても秘蔵の宝石は使っちゃうしランサーには逃げられるしついてないわね、もういいわ今日はさっさと帰りましょう」

 「こいつはいいのか?」

 「ほっとけばいいわよ、気を失ってるだけみたいだから目が覚めたら自分で帰るでしょ」

 

 そう言ってその場に士郎を残し、二人は帰路についた。だがこの時凛は大切なことを忘れていることに気がついていなかった。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 「それじゃあ私はとっと寝るから大丈夫だと思うけど一応家の周りを警戒しててね」

 「よし任せろ!」

 

 初戦を終えた疲れからか凛は家に帰りつくなりベッドに倒れこんだ。しかしそのまま瞼がゆっくりと閉じようとした瞬間、急に跳ね起きた。慌ててドアを開けて削板を呼ぶ。

 

 「どうした! 敵か!」

 「違うわ! とにかく行くわよ!」

 

 凛は苦虫を潰したような顔をして、自らの失態を悔やんでいた。

 

 「行くってどこにだ?」

 「衛宮くん……さっきの被害者の所よ」

 「なんだ? 凛の知り合いだったのか」

 「そうだけど、今はそんなこと関係ないわとにかく急いで!」

 

 凛の失態とはすなわち、衛宮士郎の処置であった。傷だけを治してそのまま置いて帰ってしまったのだが、それがいけなかった。魔術を知らない普通の人の末路は記憶消去か死のどちらか、それを忘れていたのだ。つまり衛宮士郎の記憶が残っているとランサーのマスターに知られてしまえば、必ずもう一度ランサーに襲わせる。そのことに気がついて、削板だけを引き連れて家を飛び出した。

 

 あれからしばらく経っている、おそらく衛宮士郎ももう目覚めて、何もなかったなら家に帰りついている頃だろうからと凛たちは直接彼の家に向かった。衛宮邸が見えたところで凛は削板に先に行くように指示する、削板は迷うことなくそれに応じて2、3メートルはありそうな塀を軽々と飛び越えた。

 

 「おい! 槍の奴!」

 

 そこには隙間から光が漏れている土蔵とその土蔵の扉を破壊しようと躍起になっているランサーの姿があった。削板が声を掛けながら突っ込むのとランサーが扉を破壊するのと光が唐突に止むのは同時だった。ランサーは一瞬だけ土蔵の中を見て驚いた顔をしていたがすぐに削板に気がついた、削板の方に意識をやった瞬間に土蔵の中から何かが飛び出してきてランサーを襲う。

 

 「チッ! ついてねえな!」

 

 ランサーは悪態をつきながらもなんとか土蔵の中からの襲撃に対応した。突然の攻撃に無理な防御をしてしまい体勢を崩したランサーの元に音を超える速さで削板が飛び込んだ。削板の拳は見事にランサーの横顔に突き刺さりランサーを弾き飛ばしたが、ランサーは削板の拳が当たる寸前に自ら反対側に跳んでダメージを軽減していた。

 

 「新手か!」

 

 土蔵から飛び出した何者かは第三者の介入に警戒して距離を取る、勿論ランサーを視界から外すようなことはしない。

 削板はいつのまにか拳を解いて、腕を組み仁王立ちで二人から距離を取った位置に立っていた。

 ランサーは自前の槍を肩に担ぎ飄々とした態度で二人を見ていた。

 しばらくの間三人はお互いに睨み合い、空気が緊張に包まれていた。時間が止まったかのように固まっていた三人だったが、その緊張をランサーが破る。

 

 「こいつは分が悪いな、俺は退かせてもらうぜ」

 「待てっ!」

 

 ランサーは素早く反転し塀を飛び越えその姿が見えなくなる。土蔵から出てきた何者か、鎧に身を包みきっちりと背筋を伸ばして立っている姿は騎士というものを想像させた、その騎士がランサーを追おうとしたのだが、削板の存在がそれを邪魔した。ランサーの気配が完全に消え去ると諦めたように、削板のほうに向き直す。二人は共に沈黙し、互いに睨みあう。

 

 「削板!」

 

 そこに遅れて凛が入って来た。ちなみに凛はどうせ誰も知らないだろうし、クラス名もよく分からないからと自らのサーヴァントのことは直接名前で呼んでいた。

 

 「っ! 新しいサーヴァント!」

 

 てっきりランサーと戦闘を行っているものだと思っていた凛は新たな敵の存在に驚く。騎士は凛の登場に少しだけ意識を向けたが、おそらく削板のマスターだろうと思い意識から外す。

 互いに睨みあい一触即発の空気が流れる。

 

 「遠坂っ!?」

 

 そんな空気を土蔵の中から出てきた空気の分からない男、衛宮士郎がぶち壊した。




思ったより早く投稿出来ました、代わりに睡眠時間が削られてしまいましたけど。

ランサーが削板さんの音速に対応していますけどきっと英霊ならそれくらいできるだろうと思っています。

前回の後書きでも言いましたがこれからはこれくらいのペースで上げていくことになると思いますのでよろしくお願いします。

それではまた次回。
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