凛と士郎が教会の中に入っていった頃、削板とセイバー二人のサーヴァントは外で待機させられいた。
削板は騒がしいから来るなと凛に言われたため。
セイバーは周辺の警戒と削板を見張るためある。
「…軍覇といいましたか、あなたは見たところ現代の英雄のように思えますが何を望んでこの戦いに?」
周辺警戒といってもこの教会は聖杯戦争では中立地であるためいきなり敵が襲ってくるようなことはまず無い、それよりも削板のほうが警戒する要素は大きい。
現代において英雄にまで登りつめることが出来る人間は少ない、そのためセイバーは学ランを羽織ったいかにも現代風の服装をしている削板のことが気になり、警戒の意味があまり無いこともあって削板に声をかけた。
「望み? なんだか分からんがここに来れば根性のあるやつと戦えるって聞いたからな! あと何かを頼まれたような気がするんだが忘れた!」
「強者と戦うためですか…、ではあなたは聖杯には何の望みも無いというのですか?」
「無い!」
「…あなたは変わった人だ、騎士のような気高いな精神を持っているかと思えば、戦いに熱を上げる狂戦士のようでもある。それにあなたは強い、その力だけでなくその心が強いと私の直感が告げている。このような戦争の場でなければぜひ一度正式に正面から手合わせしたかった」
セイバーはまだ実際に削板の戦闘をよく見ているわけではないが、削板からは何かしらの気迫のようなものを感じていた。達人のように鋭く研ぎ澄まされたものではない、人の上に立つ者のように重く押し潰されるようなものでもない、どこまでも不安定だがどこまでも真っ直ぐに固いものだ。
「こうしてここで会えたんだから、またどこかでそんなチャンスもあるだろ」
「やはりあなたはおかしな人だ…」
会話が途切れた後、セイバーはこちらから聖杯への望みを聞いたのだから当然削板も同じようなことを聞き返してくるだろうと思っていた。しかし削板は腕を組んで教会の方を見つめるだけで何も聞こうとはしなかった。
「…何も聞かないのですか?」
「ん? 何を聞けばいいんだ?」
そんな削板の態度にセイバーは呆れてしまった。
「私のことをです。私はあなたにあなたの願いを聞いた、それならばあなたも私に同じような問いかけをするのが当然ではないのですか?」
「そうなのか!? 俺としたことが一般常識が抜けていたみたいだ、まだまだ根性が足りないな」
「いえ…一般常識とかそういうものではないと思うのですが…」
「あーそれでなんだっけ? 望みがどうのこうのってやつだっけ? それならお前はいったい何を望むんだ?」
削板の聖杯に対するなんとも軽い態度に、自らの望みを馬鹿にされているのような気がして少し苛立ちを覚えたセイバーは少し怒気を含んだ声で返した。
「…私はとても大切なある選択を間違えてしまった、その選択をやりなおしたい。あの時私以外の者がその選択をしていたならきっと結末は変わっていた」
普通はあまり声高に話すようなことでは無いのかも知れないが、削板の人柄に対するある程度の信頼と怒り、あとついでに馬鹿そうな感じに、セイバーはある程度口が軽くなっていた。
「私の選択が多くの悲劇を生んだ、私の思い上がりが幾人もの人間を巻き込んだ。だから私は聖杯に…唯一の希望である万能の願望器に願いを託したい…」
「なるほど、よくわからんがようするに失敗したからもう一回挑戦したいわけだな! 諦めずに根性見せてリベンジを果たしたいんだな!」
少しずれた返答をする削板だった、セイバーにとってのやり直しとはもう一度挑戦することではなくあったことを無かったことにするものだ。
しかしセイバーはそれを聞いて削板に自分のやっていることは間違いではないと言われたように感じて少し微笑んだ。
「ええ、そんなところです」
そしてまた二人の間には静寂が訪れる。勘違いしてはいけないのは二人は一時休戦中なだけであって、本来なら敵同士であり仲良く談笑するようなことはないのである。
二人はそれからしばらくじっと待っていた。
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その頃教会の中では、神父であり聖杯戦争の監督役を務めているのにどこか胡散臭い男、『言峰綺礼』と衛宮士郎が対峙していた。
「以上が聖杯戦争における規定だ、何か質問はあるかね?」
「いえ…」
魔術師たちが自らの欲望のために生み出した聖杯、それを聞いて士郎は戸惑うばかりだった。衛宮士郎にとって魔術師とは自らの養父であり正義の味方を志していた衛宮切嗣のことであった、魔術師たちのことを聞いて父のあり方を否定されたような気がしていた。
「そうか、それでは本題に移ろう。此度の聖杯戦争において君は自発的にではなく偶然的に参加することになった。勿論聖杯に選ばれた以上は仕方の無いことではあるが、君が望むならこの聖杯戦争の参加証ともいえる令呪を剥奪し、戦争終了までの間ここで匿うことも出来る。参加するか棄権するかは君の自由だ、さてどうする少年よ?」
「……前の、一つ前の聖杯戦争はどういう結果になったんですか?」
言峰の問いに答える前に士郎は気になっていたことを先に聞くことにした。聖杯戦争がここ冬木で行われている以上、ここに住んでいた切嗣もなんらかの関与をしていた可能性があることだ。
「前回の聖杯戦争において明確な勝者は存在しない、聖杯も魔力が暴走しこの地に大災害を引き起こしうやむやの内に終了した」
士郎にとって大災害と聞いて思い浮かぶのは10年前の大火災であり、衛宮士郎という少年が生まれた場であった。正義の味方を志す士郎にとって、聖杯戦争によって多くの命が失われたという事実は大きな意味を持っていた。
「そうですか…なら俺は参加します」
「本当にいいのかね?」
「はい。俺はまたあんな災害が起こることを阻止したい、そのために俺は参加します」
士郎にとって聖杯に叶えてもらえる願いなどどうでもよかった、ただ多くの人を救えればそれでよかったのだ。
「よろしい、それでは魔術協会は君を正式なマスターとして認めよう」
言峰は監督役として正式にマスターが決まったことによる喜ぶからか、うれしそうに士郎を認めた。
「あんたそんなにあっさり決めちゃって本当にいいの?」
「大丈夫だよ遠坂、俺はもう決めたんだ」
「はあ~あんたも馬鹿ね。まああんたが決めた私がとやかく言えることでもないんでしょうけどね」
いままで言峰から離れて端っこの方にいた凛が士郎に近づいて話しかけた。
「とりあえず話すこと話したんならとっとと帰るわよ」
「凛、その少年は存外脅威になるやもしれんぞ?」
「言われなくても分かってるわよ、こんなんでも一応セイバーのクラスを召還してるんだから…」
ふっと意味深な笑みを浮かべ言峰は二人を見送った。
「此度の聖杯戦争、イレギュラーなサーヴァントである削板軍覇だけだと思っていたが、『衛宮』まで参加することになるとはな…」
二人の姿が教会の外に消えたあとも、言峰はクッっと不気味な笑みを浮かべて教会の中で佇んでいた。
今の所まだ正史とあまり変わりないですが、そろそろ変化していく予定です。
削板さんには口で語るより拳で語るほうが向いていると思うので、戦闘に入ってからが本番です。