「じゃあ衛宮君、私はここで」
「ああ、ありがとうないろいろ」
聖杯戦争、冬木の大災害の真実を俺は知ることが出来た…俺はもう二度とあんなことが起こって欲しくない。
そのためにこの戦争に参加することに決めた、遠坂も同じ参加者でありながら俺にいろいろ教えてくれたことには感謝しないとな。
「いいわよ別に…ただ何も知らない素人にいきなり戦いを挑むのも気が引けただけよ。次に会った時は敵同士だからね」
「俺は遠坂とは戦いたくないな…」
何も分かっていない俺をここまで導いてくれたし、元々顔見知りだったわけだし、そんな遠坂が他の魔術師のような私利私欲な人間だとは思えない。
「何甘いこと言ってるのよ、いいこれは私のほんの気まぐれ、私はいつだってあんたと戦う覚悟はできてるんだからね」
「それでも俺は遠坂とは戦いたくない…それに遠坂のサーヴァント、削板だってそんなに悪い奴には思えないしさ」
「はぁ、そんなのであんた大丈夫なのかしらねぇ…、まあ衛宮君がどう思っていようと私達は敵対するしかないのよ」
敵対するしかないなんてなんだか悲しくなってくるな…俺はこの戦争を終わらせるためだけに参加する、だから誰も殺したくなんてない…セイバーにもそんなことはさせたくない…
「じゃあ私がここで殺してあげるね」
「っ!!」
突然後ろから声が聞こえた、かわいらしい女の子の声だったが後ろにいたのはかわいらしいなどとはかけ離れた姿だった。
「マスターッ!下がってください!」
「でっかいやつだな!相手にとって不足無しだ!凛離れてろ!」
巨人と形容できるほどの巨体に黒ずんだ肌、全身を覆う岩のような筋肉、そいつを一言で表現するなら『化物』というのが一番しっくりくる。そこに立っているだけで圧力を感じる、ランサーの持っていたものとは違ってただただ重い圧力。
まさかこんな『化物』もサーヴァントなのだろうか…
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
巨人が声にならない叫び声、いや『咆哮』を上げた。空気が震えて体が痺れたような感覚に襲われた。
「くっ…!」
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
その『咆哮』にセイバーも一瞬たじろいでいたが、もう一人の遠坂のサーヴァントである削板は対抗するように叫んでいた。
『化物』の声に怯んで足を後ろに下げていた遠坂が今度は削板の声に耳を塞ぐ。
「うるさいっのよあんたら!削板も馬鹿みたいなことで対抗してんじゃないわよ!」
「いいや凛!これは俺とあいつの根性のぶつかり合いだ!決して馬鹿なことじゃない!」
「その根性精神が馬鹿だって言ってんのよ!」
なんというかこの二人は緊張感が無い気がする…
「くすすす、おかしなサーヴァントね…」
よく見ると『化物』の傍らに小さな女の子がいた。『化物』の大きさが際立っているためにその小さな存在に気がつかなかった。
まるで雪のように溶けてしまいそうな白い髪が印象的な少女は隣の『化物』とはまさに正反対な存在だった。
「ほら見なさい敵にまで笑われてるじゃない!」
「関係ない!凛こそよく見てみろ!あっちのでかいほうは笑わずに俺を見ているぞ!」
「いやあれたぶんバーサーカーだから…あんた見て笑うとかそんな感情ないでしょきっと…」
「二人共いい加減にして下さい!」
セイバーのほうはいつのまにか臨戦態勢を整えており、いつまでのコントのようなやり取りをしている遠坂達を注意する。
「そうね…いつまでもこんなことしてらんないわ。もういいわ、やっちゃえバーサーカー!」
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
クソッ!まさかこんなに早く戦いが始まるなんて思っていなかった!
「はああああぁぁぁ!!」
セイバーがバーサーカーに向かって突撃していった。
バーサーカーはその手に持っていた、その体躯に見合ったサイズの石剣を乱暴に振り回した。
定まった剣技があるようには見えなかったけど、その一振りはとにかく重いと感じられた。
対するセイバーは何も持っていない手で何かを握るように、それこそまるで剣を握っているかのようにしたままバーサーカーの懐に入る。その時ゴキンと何かが割れるような音が響き渡った、そしてさらに次の瞬間にはセイバーとバーサーカーの二人の間で風と振動が発生した。
その時俺はセイバー握っているのは目に見えない棒状の何かだろうと分かった。
「セイバーッ!」
そんな連打が一度で終わるはずもなく、何度も何度も打ちつけあう音が響き渡る。二人の戦いは互角とは言えず、バーサーカーが力任せに足元のセイバーを押し潰そうとしているのに対してセイバーがなんとか耐えてるといった様子だ。
「ねえ衛宮くん、一ついいかしら?」
「なんだ遠坂こんなときにっ!」
「見れば分かると思うけどあのサーヴァントは強いわ、セイバーもかなりのもんだとは思うけど正直厳しいわね」
確かに遠坂の言う通りセイバーは明らかに押されている。
「そこで相談なんだけど、私達は一時停戦ってことであいつを倒すのに協力しない?」
「わざわざ聞かなくても俺は遠坂と戦う気は無いって言ってるだろ!」
「そう、なら決まりね。いきなさい削板」
その言葉を聞いて待ってましたと言わんばかりに削板が飛び出していった。バーサーカーとの間の距離を一気に走破し、あろうことか素手でバーサーカーの石剣を殴り飛ばした。石剣はバーサーカーの手から離れることはなかったが、大きな隙を生じさせた。
「はあッ!!」
その隙を逃すことなくセイバーがバーサーカーの体に目に見えない何かを振るった。一瞬間を開けた後バーサーカーの体にピシッとした線が通りそこから一気に血が噴出して倒れた。明らかに致命傷だ。
「よっしゃ!」
俺の隣では遠坂がガッツポーズを取っていた。セイバーと削板もやったと言った顔しているのが分かる。
「へえ、すごいねそっちの白い奴…」
みんなが勝利の瞬間をかみ締めようしていたにも関わらず少女は焦ることなくクスリと笑った。
「ちょっと油断していたからってまさかこんなに早くバーサーカーを殺しちゃうなんてね…」
少女の異常にどこかのほほんとしていた削板以外の全員が気づいた。
「でも残念…まだバーサーカーは一回しか死んでいないよ?」
それの反応が一番遅れたのは削板だった。腕を組んでこちらを向いて仁王立ちをしていたその体に石剣の横殴りが入った。一番初めに反応していたセイバーは石剣が振られることによって生じた圧力に耐えるので精一杯だった。
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
セイバーの攻撃をくらい倒れていたはずのバーサーカーがいつの間にか起き上がっていた、しかもその体は全くの無傷、セイバーがつけた傷はどこにも見当たらなかった。
「そんなっ!?」
十数メートル程の距離まで殴り飛ばされていった削板の姿を見て遠坂は驚いていた。
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
「くっ…!!」
再びバーサーカーの猛攻が始まった、一度目の連打で消耗していたセイバーの上に容赦なく石剣が振り下ろされる。セイバーは目に見えない何かで必死に防いでいるがバーサーカーの勢いに押されて不安定になっている。
無尽蔵に振られ続ける剣にセイバーがついに膝をついた、そこを目掛けてバーサーカーが剣を振ろうとした。俺はその様子を見て何かを考えることは無かった、ただ思い浮かんだ『救う』ということが。
「セイバァァァーーー!」
迫り来る石剣とセイバーとの間に割って入った。セイバーと遠坂が目を見開いて俺のほうを見ている。さっきまですごい速さで振られていた剣の動きがひどくゆっくりに思えた。ゆっくりとゆっくりと剣が俺の横腹に押し付けられていくのが感じ取れた。セイバーが何かを叫びながら俺に手を差し伸べてきたけど、もう間にあわない。
石で出来た剣はひどく冷たく感じた…
「すごいパーンチ!!!」
突然体に当たっていた冷たい感覚が引き剥がされた。見るとセイバーと遠坂はポカンとした顔をしていて、バーサーカーの巨体が宙を舞っていた。『化物』じみたバーサーカーの体を人間離れした能力で殴り飛ばした犯人は削板だった。
バーサーカーの馬鹿力で殴り飛ばされたにも関わらず、削板の体には傷一つ無く、羽織っているだけのはずの真っ白な学ランも、ここが俺の席だと言わんばかりに削板の肩にしっかりと掛かっていた。
「根性の籠もったいい打撃だったぞっ!だが俺の中に漲る無限の根性の前にはまだまだ及ばない!」
そんなことを言ってのける削板に、味方はおろか敵である少女も何が起こったのか分かっていないようにポカンとしていた。
生い立ちからして根性の塊みたいなバーサーカー、たぶん狂化していないほうが強いんじゃないかと思う今日この頃…