Fate/effortful spirit   作:車輪軸

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根性の実力

 例えばここにアイスピックが一本と普通の人間がいるとしよう。そしてそのアイスピックを人間の心臓に突き立てるとどうなるか、間違いなく絶対的に否応なしに絶命するだろう。

 ただこの仮定は人間が『普通』であることで成り立つ。ではもし人間が『普通』でなければどうなるか、不可視のエネルギーを発し謎のカラフルな爆発を起こす自称『超能力者』の人間であった場合どうなるか。答えは簡単だ、『普通』で死ぬのならその反対に『普通』でない者は死なないだろう。

 そうなるとアイスピックで心臓を刺されても死なず不可視のエネルギーを発し謎のカラフルな爆発を起こす自称『超能力者』である削板が、一撃でその体を十数メートル吹き飛ばしてしまうような攻撃を受けるとどうなるか。もはや考えるまでもない、『その程度』の攻撃で削板軍覇という男がどうにかなるわけがないのだ。

 

 「痛たた…危ないじゃねえか!」

 

 いや…多少の痛みくらいはさすがにあったようだ。

 

 「ちょっとあんた大丈夫なの!?」

 

 規格外の力を持つサーヴァントの中でもおそらくさらに規格外であるバーサーカーの一撃を受けにも関わらず何事も無かったかのようにして戻ってきた削板を見て、凛は優雅であることを忘れてただ慌てていた。

 

 「おう凛! 心配するな。なかなか根性の籠もった一撃だったが、俺の中で滾る根性にはまだまだ及ばないぜっ!!!」

 「はあ…確かにいろいろあれな奴だとは思ってたけどここまでくると規格外を通り越してるわね。もはや例外ね…」

 

 そんな呆れるような会話をしている隣では士郎がセイバーからお説教を受けていた。

 

 「マスター!何故あんな危険な事をしたのですか!」

 「何故って…目の前で女の子が死にそうな目にあってるんだから当たり前だろ?」

 「私の事を一人の女性として見てることがそもそも間違いです! 私は騎士であり、あなたの剣です! それに私はあの程度では多少のダメージはあるでしょうが、そう簡単に死ぬようなことは決してありません!」

 「いやでも…」

 

 二人の話している内容は衛宮士郎という人間の根幹にある重要な問題なのだが、誰も怪我をしていないことと凛と削板の会話が呆れるようなことであるから、そこまで大層な話であるように見えない。

 ぶっちゃけ凛と削板はコント、セイバーと士郎は親に叱られる子供、そんな風にしか見えなかった。いやむしろ士郎とセイバーは主人(マスター)従者(サーヴァント)との関係から子供に叱られる親の構図になっている。

 

 「ちょっとこっちを無視しないでよ!!」

 

 自らのサーヴァントを殴り飛ばされ、挙句の果てにあほみたいな会話を繰り広げて完全に眼中から外されていたバーサーカーのマスターが苛立つのも無理のないことだった。

 吹っ飛ばされたバーサーカーのもとに走り寄り、その巨体に縋り付いて削板達のほうを見ている様子は、さっきまでと違って外見相応にかわいらしく見えた。

 

 「■■■■■■■■■■■ーーー!」

 

 そんな彼女に答えるようにバーサーカーが咆哮と共に起き上がってきた。その体には削板同じように傷一つ無かった。

 

 「おっと、やっぱり起き上がってきたわね。『不死』か『蘇生』かそれともただ単に回復力が速いだけか…どうであるにしろ生半可な攻撃が効きそうにないわね」

 「どうするのですか凛?」

 

 起き上がるバーサーカーの姿を見たセイバーは士郎に話はまた後でと言って凛のもとに来ていた。その後ろでは捨てられた子犬のようにしゅんとしていた士郎を削板が肩ポンポンと叩き慰めていた。一見すると凛がセイバーのマスターで、士郎が削板のマスターのようにしか見えなかった。

 

 「う~ん…削板は確かに規格外で例外だけど、あそこまで厄介な奴が相手だとさすがに厳しいかしらね…そういうあなたはあいつを一発でぶっ飛ばせるような何かはないのかしらセイバー?」

 「ないこともないのですが…」

 

 セイバーはちらちらと後ろの士郎と凛を見ながら口ごもっていたが、凛はその意図に気がついたようで。

 

 「まあそりゃそうよね、私達は一応敵同士な訳だしそうそう自分の手札を見せびらかすようなことはしたくないわよね」

 「はい…申し訳ないのですが…」

 「いいのよ、むしろそれが当たり前なんだから。どっちかっていうと私とは戦いたくないとか言っている衛宮君のほうがおかしいんだから。でもそうなると手詰まりかしらね…ひとりじゃ厳しそうだけど、あなたと削板の二人掛かりならそれなりに戦えそうだし、とりあえずは様子見かしらね。後ろの馬鹿二人もいい加減こっち来なさい」

 

 凛は冷静に会話をしているように見えて内心焦っていた。バーサーカーはもう立ち直っておりマスターの指示があればすぐにでも襲い掛かってくるからだ。それに二人掛かりならなんとかなるとは言ったが、あのバーサーカーは英霊と呼ばれる程の存在が二人掛かりになって初めて『それなり』に戦える相手なのだ。

 

 後ろの馬鹿二人もとい士郎と削板が戻ってきて、士郎の前にセイバー、凛の前に削板が並び立ち正しい主従の立ち位置になりバーサーカーと対峙する。今だにセイバーが自分の前で戦うことが不満なのか、士郎は足を前に出したり引っ込めたりと隙あらば前に飛び出ようとしていた。

 それに対し白い少女とそのサーヴァントであるバーサーカーも意思の無い瞳で削板達を睨んでいる。

 

 「一触即発ってこんな雰囲気のことを言うのかしらね…」

 

 凛の言うようにこの状況ではどちらかが動けば即座にもう一方も動く。よほど速さに自信がある場合を除き、痺れを切らして先に動いたほうが動作を見切られる可能性が高いので不利になる。歴戦の騎士であるセイバーにしてみれば幾度と無く経験したことがあるであろう状況、それ故セイバーはただ相手を見つめ隙を窺いつつも微動だにしない。

 バーサーカーも狂化し理性は失ってはいるが戦士としての本能からか、それとも理性を失っているからこそマスターの命令を忠実に待ち続けているためか、まったく動こうとしない。

そして我らが削板軍覇はというと、こちらも微動だにせずバーサーカーの方を向いているのだが、その表情には経験だとか本能だとかいう様子は見られない。おそらく何も考えてはいない。

 

 「帰るわよバーサーカー」

 

 突然白い少女はそういった。

 セイバー達があっけに取られているのを尻目にバーサーカーは白い少女を優しく抱きかかえると自らの肩に乗せた。

 

 「…どういうつもりかしら?」

 

 今の状況では圧倒的とまでは言わないがある程度バーサーカーの方が有利であったことは誰の目から見ても明らかだったにも関わらず、帰るという少女の発言に凛は当たり前の疑問を口にした。

 

 「勘違いしないでよ、別に見逃すわけじゃないんだからね。バーサーカーも一回殺されちゃったし、飽きたから今日はもう帰るのよ。心配しなくてもあなた達はちゃんと殺してあげるんだから」

 

 少女はバーサーカーに指示を出し、そのまま夜の闇に消えていった。

 

 「凛、追いかけるか?」

 「駄目よ、向こうがどういうつもりかは知らないけど不利なのは私達だったわけだし、深追いすべきではないわ」

 「なあ遠坂、あの子もマスターってことでいいのか?」

 「そうでしょうね。どこの英雄かは知らないけど、あれほどの力を持っているのをバーサーカーとして使役してるなんて並の魔術師じゃないわ。…ところで衛宮君、ちょっと相談があるのだけれど」

 「なんだ?」

 「私達と同盟組まない?」

 「…は?」

 

 先ほどまでは戦争だ殺し合いだ明日からは敵同士だと言われてきて、ここにきての突然の同盟の申し込みに困惑する衛宮士郎だった。

 




一ヶ月ぶりの投稿、なんだかどんどん間が空いていく気がする。
次はもう少し早く出来るようしたいです。

それではまた次回。
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