時計を確認すると時刻は午前4時に指しかかっていた。
そんな時間帯に俺はクラスメートの女の子と一つ屋根の下で話し込んでいる。別に俺がいやらしい目的で連れ込んだわけじゃない、むしろ俺が連れ込まれた側だ。というよりもこの状況でいやらしい方向に持っていけるような勇気は俺には無い。そんな事をすれば即座に、後ろからは切りつけられ前からは呪いが飛んでくる。
深夜の時間帯に一つ屋根の下とは言っても別に二人きりというわけじゃないからな。それにそもそも最初からそんな気は無い。
「それで同盟を組むっていうのは具体的にどういうことなんだ?」
俺達が話しているのは至極真面目な話だ。
相手の女の子、遠坂からこれからは敵同士だと突き放されたと思ったら、バーサーカーとの戦いの後すぐに同盟の話を持ち掛けれた。遠坂とは戦いたくないと思っていたから願ったり叶ったりではあるが、突然すぎてまだ事情が飲み込めていない。その為の話し合いにどこか落ち着けるところでと、比較的近い位置に合った我が家に強引に引っ張り込まれた。
因みに遠坂のサーヴァントであるところの削板は屋根の上で絶賛見張り中だ。
「簡単よ。さっきの戦いで私達が得た物が二つあるわ、一つはバーサーカー陣営の情報ね。バーサーカーの能力の一部とマスターが分かったこと。まあこれは後回しでいいわ。大事なのはもう一つ、私達がバーサーカーの標的にされるという厄介極まりないものね」
「それでどう同盟と繋がるんだ?」
「まず大前提としてバーサーカーはかなり強さを持っているわ、少なくとも、まだ全力は見せてないんでしょうけど最良のサーヴァントであるセイバーが多少押されるくらいの力は持っているわ」
遠坂の言葉を聞いて俺の後ろに控えていたセイバーが頷いた。
「バーサーカーのマスターはバーサーカーがセイバーに切りつけられた時『まだ一回しか死んでない』と言ってたわ、これは単に物凄い再生力の比喩、もしくはそのままの意味で蘇生能力の可能性があるわ。どちらにしろ致命傷を負っても問題無いような能力ね。それでこれほどの厄介な能力を持っていることをマスターは自分からヒントになるような発言をしていたわ。これは単にうっかりと口を滑らしたか、それを知られても余裕でいられるような強力な手札をさらに持っているか。前者はさすがにありえないと思うわ、彼女は文字通り狂っているバーサーカーをちゃんと制御出来ていた、それほど優秀な魔術師がそんなうっかりをするとは思えない」
「蘇生能力よりも強力な手札って…」
一応俺だって魔術師の端くれ、致命傷を物ともしないような再生力や蘇生能力がどれだけ常軌を逸しているかは理解できる。ただそれよりも強力な物となると想像もつかない。
「確かに蘇生能力はかなり高いランクだとは思うけどそれより上が無いわけじゃないわ。それでここから本題、まず恥ずかしい話なんだけど私は削板の能力を全て把握しきれていない、だから削板をバーサーカーに当てるのは不確定要素が多すぎるのよ。そこで同盟よ、私達は共通の敵に狙われている、その敵はまだ手札を持っているかもしれない、お互いに自分のサーヴァントを一対一でバーサーカーと戦わせるには不安要素がある」
「それでバーサーカーを倒すまで強力しようってことか」
「そういうこと、敵の敵は味方ってやつね」
俺の目的はこの戦争を止めること、少しでも早く誰も犠牲にならないように終結させること。遠坂の提案は願ったり叶ったりだ、味方になるならお互いに戦う必要も無く終わりへの道のりも短くなる。
「分かった、その提案受けるよ」
「そう、一応言っとくけどこれはただの口約束で正式な契約でもなんでもない、衛宮君が油断したところを私が背後からぐさりといくかもしれないわよ? それでも本当にいいのね?」
遠坂がナイフを持って俺に向かってくる様子を想像すると、足音を立てないようにそおっと歩いている姿がなんだか獲物を狙う猫みたいでかわいらしく思えて、思わず笑みがこぼれた。
「何がおかしいのよ?」
「いやなんでもないよ。俺は遠坂はそんなことするようなやつじゃないと思ってるから大丈夫だよ」
「私じゃなくてもサーヴァントまでそうとは限らないわよ?」
「サーヴァントって……削板はむしろそういうことは絶対にしそうにないように思えるぞ」
「…はあ、随分とお人好しな性格ね。削板に関しては私もまあ同意出来るけど、そんなんだといつか身を滅ぼすことになるわよ。まあいいわ、じゃあ一時的とはいえ仲間になるんだから改めてよろしくね衛宮君」
「ああこっちこそよろしくな遠坂」
改めて自己紹介をし、お互いに握手を交わしたところで思わず欠伸が出た。学校内を走り回って、家の中ではランサーと戦い、バーサーカーとも対峙したことを考えると疲れていないほうがおかしい。よくよく考えてみると今夜は馬鹿みたいに濃密な夜だったな。
「それじゃあ私達はひとまず帰るわ」
「送ろうか?」
女の子がこんな時間を外を出歩くのは聖杯戦争とか関係なくやっぱりよろしくないだろう。
「あら思ったより気が効くじゃない。でも大丈夫よ、腕っぷしだけは強いボディガードがいるからね」
それもそうか、削板が付いてたな。正直まだ英霊とかいわれてもよく分かっていないけど削板なら大丈夫な気がする。
「そうだったな。それじゃあまた」
「ええ」
玄関まで遠坂を見送り、居間に戻るとセイバーが目を瞑り正座をして待っていた。詳しくは知らないけどたぶん西洋人っぽいのに凄く様になっている。そういえばセイバーのこととかランサーのせいで荒れ放題の部屋とか、藤ねえや桜になんて説明すればいいんだ……
とりあえず今から寝れば一時間程は睡眠が取れる、たとえ一時間でも取るのと取らないのでは大違いだ、仕方ないから諸々の事は朝になってから考えよう。
セイバーは睡眠はどうするのかと聞こうとしたところでセイバーの目がすうっと開かれ、射抜くような視線が俺を捉えている。その視線を受けてつうっと汗が垂れる。
嫌な予感が……
「シロウ、話があります」
「は、はいっ!」
ランサーに追いかけられた時に劣るとも思えないような気迫に一瞬体が凍る。
「先程の戦闘ですが何故あの剣戟の中に割って入るような真似をしたのか、私が納得のいく説明をお願いします」
「ええっと……もう夜も遅いし…明日じゃ駄目か?」
「心配には及びません。まだ夜明けまでは一時間以上あります」
俺に睡眠という選択肢は残されていないらしい……
その後は、女の子が戦うなんて間違っているという俺の意見と自分は騎士であり剣を振るうことが本分だというセイバーの意見は平行線のまま夜明けを迎えた。このままではきりがないので朝食の準備ということで話を終わらした。夜更かしをする事はよくあるけど、徹夜をしたのは久しぶりだったせいでとにかく眠い。
あっ……結局この状況二人にはなんて説明すればいいんだ……
遅くなりました18話です。