「……衛宮君大丈夫?」
「大丈夫だ………たぶん…」
士郎はセイバーとの話し合いを終えた後、セイバーを離れの部屋に押し込み、せめてまともな朝食の用意をと思ったのも束の間、ランサーによって破壊された居間を見た藤村大河と間桐桜の二人への誤魔化しの為に時間を割いてしまい、そうこうしているうちに登校時間になってしまった為に徹夜と朝飯抜きという苦行を味わっていた。
壊れた居間の誤魔化しについては、忘れ物を取りに学校に行って帰ってきたらこの有様だった、泥棒かとも思ったけど取られた物もないしたぶん酔っ払いでも紛れ込んだんじゃないか、と居間の惨状からするとあまりにも無理がありそうな言い訳で強引に納得させた。
そんな状態でなんとか学校まで辿り着き午前の授業をうとうとしながらもなんとか乗り切ったところで凛に屋上に呼び出された。
「まあ大丈夫ならいいんだけど…。それにしても驚いたわ、昨日あれだけの事があったからてっきり欠席か、良くて遅刻ぐらいするかと思ってたんだけど」
「学校をさぼるわけにはいかないだろ、そういう遠坂こそ大丈夫なのか?」
「大丈夫よ、自分の身体の管理ぐらい出来ないようなら魔術師は名乗れないわよ」
そんなもんか、と士郎は納得し辺りを見回して何かを探していた。
「…あそこよ」
とその探し物に心当たりがあるのか凛は屋上の出入り口のその上を指した。
その先には白い学ランをはためかせ、腕を組んで仁王立ちをしているいつものスタイルの削板の姿があった。
「何やってんだあれ?」
「偵察よ。これは私の見立てだけどおそらくこの学校にはマスターはいないわ、そうなると必然的に外部からの敵襲に備える必要があるからその為にね。まあさすがにこんな真昼間から神秘の秘匿も無視して堂々と襲ってくるような阿呆な魔術師はいないでしょうから単なる保険だけど」
「どうして魔術師がいないって言い切れるんだ?」
「私は前々からこの時の為に準備をしてきたのよ? 自分の生活圏内にマスターになりそうな人物がいないかリサーチするのは当然じゃない」
学生にとって主な生活圏はもちろん学校、それと自宅だろう。自宅ならば言うまでも無いが学校となると話は別である、同程度の年代の人物が数百人規模、大きな所であれば千人を超える人数が集まる上に教師も含めると多種多様な人間が入り混じる場である。そんな中から魔術師=マスターはいないと断言できるのは凛がそれだけ優れた魔術師ということだろう。
「でも俺はどうなるんだ? 俺だって成り行きとはいえマスターになったわけだし遠坂は俺が魔術師だって事は知らなかったんだろ?」
「まあそれに関しては私のミスかしらね。ただ言わせてもらうと、あんたみたいなへっぽこ魔術師なんて気がついていたとしても無視してたわ、少なくとも聖杯戦争の間はね」
確かに士郎が碌な魔術も使えないへっぽこであることは事実だが、あんまりな言い分に少しばかりへこんでいた。
「さて、昼休みの時間は有限なんだからそろそろ本題に入るわよ。私達が同盟を組む上での協定は三つ」
言いながら凛はびしっと指を三本立てて士郎に突きつける。
「一つ、お互いのサーヴァント及びマスターに対する戦闘の禁止」
「二つ、他サーヴァント及びマスターとの戦闘における無条件での協力」
「三つ、同盟期間はバーサーカーまたはそのマスターの消滅、死、無力化のいずれかにおいて満了とする」
三つを要約するとバーサーカー陣営を倒すまでは仲良く戦いましょうということである。
「大体分かったけどさ…俺は三つ目には賛同出来ない」
「あら? もしかしてこの期に及んでまだ私とは争う気が無いとでもいうつもり?」
「違うよ、確かにその事もあるけど俺が言いたいのはマスターの死を持ってっていうところだ」
それは聞いた凛は一瞬呆けた表情をした後、頭に抱えて溜め息を漏らした。
聖杯戦争とは戦争であり殺し合いだ、それに対して殺したくないなどと甘いことを言う士郎に呆れているようだ。
「あんた昨日の今日でよくもそんなことが言えるわね? これは戦争、殺し合いなのよ、殺さなきゃ殺される、そんな至極簡単なルールよ」
「それでも俺は…」
「ああはいはい分かったわよ。誰も絶対に殺さなきゃいけないなんて言ってないでしょ?殺さずに無力化出来るって言うんなら私としてもそっちのほうが良いわよ、でもそれが儘ならない状況だって起こりえる事だけは覚悟しておきなさい」
「…分かった」
「とりあえず今話しておくべきことは以上よ。というわけでまた放課後にね」
やれやれセイバーに釣られて同盟を組んだのは間違いだったかしらねえ、なんて事を言いながら屋上を後にする凛を見送り、士郎は一人冷たい風に晒されながら凛の言った覚悟について悩んでいた。午後の授業の予鈴がなったところでとようやくぼとぼと屋上を後にする士郎の姿があった。
因みにその間、我らが削板軍覇は律儀に意味の無い偵察を続けていた。肩に掛けてあるだけの学ランに半袖シャツだけで寒くないのかとツッコミたくなるが、その事を訊ねてみても返事の内容は決まっているだろう。
「根性だ!!!」と…
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放課後、さて下校だと鞄を持って教室を後にしようと思った士郎であったが、そういえば同盟を組んでいるんだし一緒に帰ったほうが良いのかな、と凛の姿を探すが既にその姿は無かった。仕方ないと一人で校門を抜けて少し離れた所で様子を窺っていたセイバーと共に帰路に着いた。
「…シロウ、私の後ろに」
と家の前に立った途端にセイバーが何かを察知したのか臨戦態勢を整える。士郎も何となく違和感を覚えたが、セイバーを前に出す事を渋って横に並び恐る恐る家の中に入っていく。もしやまたランサーの襲撃かと、戦々恐々としながら少しずつ廊下を進んでいくと居間の中から人の気配を感じたセイバーが立ち止まる。
緊張からか士郎の頬を冷たい汗が流れ落ちる。
長い静寂が続く中、セイバーが一思いに居間に飛び込んだ、一瞬遅れて士郎も後に続く。
「あら衛宮くん遅かったわね」
「おう邪魔してるぞ」
そこにいたのは凛と削板だった。勝手に人の家でお茶を淹れて寛ぐ二人を見て勢い余ってずさあっと士郎はすっころんだ。
「なんで遠坂が家にいるのさ!?というかなんで勝手にお茶淹れて寛んでのさ!?」
先ほどまでは鬼が出るか蛇が出るかと身構えていた士郎の言い分も最もである。
「ああ心配しないでこのお茶は私が自分の家から持ってきたやつだから」
「そうなのか、それならいいんだ……ってそうじゃないだろ!?」
「ああそうね、お湯は衛宮くんの家のを勝手に拝借したわ、悪かったわね」
「そうそう、謝ってくれるならそれでいいんだ……ってそれも違うだろ!?」
見事なノリツッコミをみせる士郎に凛はふうっと一息入れてから冗談よと言った。
「はあ…全く悪ふざけは止めてくれよ…」
士郎は見てみろこのセイバーの姿をと言いながら、臨戦態勢を持って突入したはずなのに何故か和んでいる様子からどうしたものかと士郎と凛を交互に見ながら困った表情を浮かべて固まっているセイバーを指差す。そんな状況でも武器を手放さない辺りはさすがである。
「冗談はこの辺にして本題に入りましょう」
「それで何で遠坂が家に……」
「削板が勝手に納戸の中のお饅頭を食べちゃった事よね」
「なにっ!?あれはいつ虎が襲撃してきてもいいように備蓄していた非常食なんだぞ!!くっ…急いで買い足しておかねば………って違うだおおおおぉぉぉ!!!」
うがあと頭を抱えた士朗を見てようやくセイバーは武器を降ろし、凛は士朗が落ち着くまで終始笑い続けていた。
「凛、俺は饅頭の盗み食いなんて根性無しな真似はしてないぞ」
「そんなこと分かってるわよ」