ドラクエ探偵倶楽部   作:ドラ麦茶

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プロローグ #01

 ……ここをぐるっと回して……よっと。それから結んで……と。よし、できた!

 

 ふう、上出来。あたしの目の前には、ビニール紐で縛られた雑誌の山が7つ。よくこんなにためたもんだよ。縛るのもひと苦労だ。手、痛くなっちゃった。でもまあ、こうやって眺めてると、なんだか気持がいい。

 

「あ、雑誌まとめるの、終わったんですね。ありがとうございます! じゃあ、次、掃除機かけてください」

 

 あたしが達成感に浸っていると、後ろで美咲が言った。言葉とは裏腹に、大して感謝をしてないような顔。

 

「てかさ、なんでせっかくの休みに、あんたの部屋を掃除しなきゃなんないのよ」あたしは不満をぶつけた。

 

「いいじゃないですか。若葉先輩、どうせヒマだったんでしょ? お願いします。あたしは押し入れの中整理しますから」悪びれた様子もない美咲。

 

 休日の昼過ぎ、突然美咲に呼び出されたあたし。何の用かと思って1人暮らしの彼女の部屋を訪ねると、そこはゴミ屋敷だった。部屋の真ん中には、いつから敷いているのか判らないような布団があり、その周りを、雑誌、CD、DVD、衣類、その他イロイロ、とにかく、足の踏み場が無いほどいろんな物で埋め尽くされていた。で、美咲は一言。部屋片付けるから手伝ってください。そのまま帰ればよかったんだけど、あまりに突然の展開に脳がうまく働かず、気がついたら手伝わされていた。確かに今日は特に予定はなったけど、何が悲しくて人の部屋を片付けなきゃならないのよ。まったく。

 

 美咲は押し入れを開け、中から掃除機を出してあたしに渡した。まあ、今さら文句を言っても仕方が無い。あたしは諦め、コンセントを刺してスイッチを入れた。動き出した掃除機で畳をなぞる。美咲は押し入れ中を整理しはじめた。

 

 

 

 

 

 

 ここら辺で、ちょっと自己紹介をしておこうかな。

 

 あたし、遠野若葉。女性アイドルグループ『アイドル・ヴァルキリーズ』の一期生で、メンバー最年長の25歳。

 

 アイドル・ヴァルキリーズとは、「歌って踊れる戦乙女」をコンセプトとした、全48名の大型アイドルグループだ。今やテレビで見ない日はないというほど大人気だけど、今回はその設定はあまり関係ないので、省略させていただく。

 

 もう1人。今、押し入れに頭を突っ込んでごそごそやってるのは、桜美咲。同じくアイドル・ヴァルキリーズのメンバーで三期生。あたしの後輩。身長150センチの小柄な体にサイドテールの髪型がトレードマーク。妹系キャラながら空手の達人で、高校時代、全国大会で2位になったこともある。その辺のギャップがファンの間にウケて、人気が爆発。今やヴァルキリーズの中心メンバーの1人である。

 

 美咲は地方出身で、現在このアパートで1人暮らしをしている。あたしはよく遊びに来るけれど、いつ来てもこの部屋はめちゃくちゃのぐちゃぐちゃで、片付いているところなど見たことがない。そして、先輩であるあたしに遠慮なく掃除の手伝いをさせるという性格。ガサツで無神経で厚顔無恥で傍若無人な娘だ。

 

「……先輩、何か言いました?」

 

 美咲、突然振り返ったので、あたしは首を振る。「ううん。何も」

 

「そうですか? なら、いいですけど」

 

 ……ついでに地獄耳。

 

 と、まあそんな感じかな。とりあえず、よろしくね。

 

 

 

 

 

 

「うわ、これ、こんな所にしまってたんだ。懐かしいです」

 

 しばらく掃除機を掛けていると、美咲が何やら嬉しそうに言った。

 

 ぽち。あたしはスイッチを切る。「どうしたの? 何が懐かしいって?」

 

「ん。これです」美咲は押し入れの中から段ボールの箱を取り出した。ファミコン一式、と書かれてある。

 

「ファミコンって、あのファミコン?」

 

「どのファミコンか判りませんけど、多分そのファミコンです」そう言って美咲は段ボールを開けた。赤と白のシンプルなデザインが懐かしいファミコン本体と、色とりどりのカセットがたくさん入っていた。

 

 あえて説明するほどのことでもないけど、ファミコンとは、現在DSやWiiで大人気のゲーム会社・任典堂が、20年以上前に発売したテレビゲーム機だ。当時大ブームで、あたしもよく遊んだものである。

 

「ちょうど遊びたかったんですよね。探す手間が省けました」と、美咲。

 

「遊びたかったって、こんな古いゲームを?」

 

「はい。先輩、知らないんですか? 今、レトロゲームって、結構ブームなんですよ?」

 

「知らない。そうなんだ」

 

「はい。Wiiとかでもダウンロード販売してます。ファミコンだけじゃなくて、スーファミとか、メガドラとか、MSXとかも。あたしもよく利用してます。グラディウス2、やりたかったんですよね。IIじゃなくて、2ですよ。グラディウス2とグラディウスIIは全く別の作品ですから、間違えないでくださいね。どちらも名作ですけど」

 

「よくわかんないけど、今さらそんな昔のゲームで遊んで面白いの?」

 

「当たり前じゃないですか! 時は流れても、ゲームの面白さの本質は同じです。何十ギガバイトの大容量を使って、美麗なムービーとオーケストラ調の音楽で豪華に演出しても、数メガビットにも満たないこのファミコンのゲームたちと、何も変わらないんです。いいえ。当時のゲームクリエイターは、本当にわずかな容量の中で、試行錯誤を繰り返し、自分の情熱を形にしていたんです。ゲーム制作に対する愛は、今とは比較になりません。ファミコンは、いわば、究極のゲームの形なんです」

 

 まるで舞台の上でオペラでも歌っているような雰囲気で、美咲は大いに語った。けど、何を言ってるのかはよく判らない。それに美咲は以前、パソコンのOSで有名なマイロクソフトの、なんとかボックスってゲーム機を絶賛してたように思う。

 

 ま、要するにこの娘は、古かろうが新しかろうが、とにかくゲームが大好きなのだ。

 

 美咲はかなりのゲームオタクで、その辺もファンから人気を得ているの理由のひとつだ。コンサートやテレビ番組のトークの時など、ゲームの話をよくするのだけれど、マニアックすぎてメンバーや出演者の誰も理解できないことが多い。しかし、そのテのマニアの人たちにはこれが大好評らしいのだ。『妹系ゲームオタク』。それが、美咲に付けられたキャッチコピーである。

 

 子供のころはあたしも友達とゲームで遊んだけれど、大人になるにつれ、いつの間にかゲーム離れをしていた。今持ってるゲーム機はDSくらい。それも、脳トレのゲームや森の中で暮らすゲームを、仕事の合間のちょっと空いた時間に遊ぶくらいだ。

 

「それにしても、ホントに懐かしいですね」美咲、次々とカセットを手に取っては、昔の恋人や親友の写真でも見るみたいに、物思いにふけっていく。「あ、ドラクエ3だ。多分、あたしがファミコンで1番遊んだゲームですよ」

 

 ドラクエか。あたしも友達に勧められて、一時期ハマってた。一応、5くらいまではクリアしたはずだけど、どんな内容だったかは、もう覚えていない。

 

「よし。ここで巡り合えたのも何かの縁です。ちょっと遊んでみましょう」

 

 そう言って美咲は、段ボールから本体を取り出し、慣れた手つきでテレビに接続し始めた。

 

「ちょっと、まだ掃除終わってないんだよ?」

 

「いいじゃないですか。休憩ですよ、休憩」

 

 と、あたしのことなんて無視して、あっという間にセッティングを終えた美咲は、ファミコン本体にドラクエ3のカセットを差し込み、スイッチを入れた。暗い画面に浮かび上がる「DORAGON QUEST III」の文字。大作ゲームにしては地味すぎるオープニングだ。そう言えば、あんなのだった。

 

「ゲーム本編に容量を使いすぎて、タイトル画面に凝った演出ができなかった、ってのは、有名な話ですね」美咲が言った。

 

 ……有名なのかな? あたしは知らない。

 

「おお! データが生きてます! 昔はしょっちゅう消えてたんですけど、意外とやりますね。その根性を、あの当時出してほしかったです」

 

 どうやら1人の世界に入ってしまったようだ。完全に掃除のことなんて頭から無くなっている。しょうがないな。ま、お昼からずっと掃除してたし、ここらで休憩するのも悪くはないかな。

 

「じゃ、あたしコーヒーでも入れるよ」

 

「あ、お願いします」

 

 あたしはキッチンへ行く。美咲の部屋だけど、そこは勝手知ったる他人の家。やかんに水を入れ火にかけると、食器棚からティーセットを取り出して、ささっと準備する。

 

「お待たせ」

 

 部屋に戻ると、美咲はすでに臨戦態勢。見覚えのある懐かしいモンスターと戦っている。

 

「うわぁ。しょぼい画面だね」テーブルの上にコーヒーを置き、あたしは美咲のそばに座った。最近のゲームに疎いあたしでも、そのチープさが判る。

 

「何言ってるんですか。それこそが最大の魅力ですよ。当時のゲーム開発者は、与えられたしょぼい環境の中でも最高のものを作るため、努力をしてたんです。例えば、マリオがひげを生やしたのは、このドットの粗さが原因なんです。左右どちらを向いているのか、プレイヤーに判りやすくするためだったんですよ。ひげが生えている方が前。判りやすいでしょ?」

 

 ふーん、そうなんだ。その知識が今後の人生でどれだけ役に立つのかは判らないけど、とりあえず感心しておく。

 

「お、来たぁ! はぐれメタル×6! パルプンテかドラゴラムか、悩みどころですね」

 

 はぐれメタルがものすごくおいしい敵だった、ってのはなんとなく覚えてるけど、それ以外は何のことかよく判らない。

 

「バラモスブロスVSバラモスゾンビ!? 田舎街の闘技場なのに豪華な対戦カードですね」

 

 闘技場というのは、モンスター同士を戦わせ、それにお金だかメダルだかを賭ける所だったはずだ。バラモスなんとかという名前には効き覚えがある。確か、ボスクラスの敵だったように思う。

 

 美咲はニヤリと笑った。「いい試合ですけど、結果は見えてますね。所詮、バラモスブロスがバラモスゾンビに勝てるわけはないんです」

 

「それってつまり、ミルク・クロコップがエメリヤーエンコ・ヒュードルに挑むようなもの?」なんとなく思いついたことを言ってみるあたし。

 

「――ちょっと何言ってるか判らないですけど、たぶんそうです」美咲に適当に聞き流されてしまった。もはやゲームに没頭してしまっている。『何言ってるか分からない』はこっちのセリフだけど、これ以上話しかけると「先輩、今大事な所なので、話しかけないでください」とか言い出しそうなので、黙ってコーヒーを飲むだけのあたし。

 

 しかし。

 

 よく考えてみれば、美咲はまだ18歳。おそらくプレステ2やゲームボーイアドバンスなんかで育った年代ではなかろうか? ヴァルキリーズ最年長のあたしですら、物心ついたころはスーパーファミコンが主流だった。ファミコンが現役だった頃、美咲はまだ生まれてもいないはずだ。なのにこの知識量。さてはコイツ、年齢を詐称しているな。週刊誌にリークすれば、ひと儲けできそうだ。

 

「そんなわけないじゃないですか」と、美咲。

 

 ……あたし、何も言ってないはずだけどな。どうやら表情を読まれたらしい。あたしはよく、「考えていることがすぐ顔に出る」と言われる。普段から気を付けてはいるんだけど、これがなかなか治らない。

 

 美咲は言う。「今大人気のゲームの中には、1作目がファミコンでの発売だったってゲーム、結構多いじゃないですか? ドラクエはもちろん、FFとか、マリオとか。リメイクもされてますけど、やっぱり、オリジナルをやらないと、そのゲームを語ることはできません。だから、買ったんですよ」

 

 そういうものなのだろうか。ゲームに疎いあたしにはよく分からないけど。

 

「ほら。先輩の好きな、映画で例えると、判りませんか?」と、美咲。

 

 ああ。ナルホド。確かに、リメイク版の映画を見ておもしろかったら、オリジナルも見てみたくなるよな。納得。

 

 と、そんな話をしながら、しばらくテレビ画面をぼーっと見てると。

 

 

 

 ダダッタダダッタダダッタダダッタダーンダダダン!

 

 

 

 突然不安感をあおるような音楽が流れ、画面が真っ暗になった。

 

「え? 何、いきなり?」声を上げる美咲。

 

 画面は、そのままうんともすんとも言わなくなった。壊れたかな。

 

「まあ、古いゲームだからしょうがないんじゃない? ちょうどいいじゃん。掃除再開するよ」

 

「えー。イイトコだったのにー」

 

 ばしっ。軽くファミコン本体を叩く美咲。いい歳して物に当たるところがなんとも美咲らしい。

 

 と。

 

 

 

 ダダッタダダッタダダッタダダッタダーンダダダン!

 

 

 

 またあの音楽が鳴った。何の音楽かは忘れちゃったけど、聞くと妙に不安になってくる。何か、大切なものを失ってしまったような、取り返しのつかないことになったような、そんな感じ。

 

 

 

 ダダッタダダッタダダッタダダッタダーンダダダン!

 

 

 

 まただ。これは完全に壊れちゃったかな。ま、叩いたりするから、自業自得だろう。

 

 

 

 ダダッタダダッタダダッタダダッタダーンダダダン!

 

 

 

 まだ鳴ってる。これはちょっと、おかしいような……。あたしの胸で、不安が膨らむ。それをさらにあおるように、その音楽は何度も繰り返される。音も大きくなっている。

 

「ちょっと。スイッチ切った方がいいんじゃない?」あたしは美咲に言った。

 

「いえ、切ってるんですけど……」

 

 美咲の手元を見た。確かにスイッチは切れている。でも、その音楽は消えない。さらにどんどん大きくなっていく。まるで何かに呪われてしまったかのように。

 

「コンセント! コンセント抜いて!」

 

 叫ばなければ声が届かないほど、その音楽は大きくなっていた。美咲はコンセントを抜いた。

 

 でも、音楽は止まらない。

 

 これはいったい何? 何でコンセント抜いても鳴ってるのよ!?

 

 さらに音楽は大きくなった。耳をふさぐ。それでも頭が割れそうなほどの大音量だ。気が遠くなってきた。気のせいか、テレビの画面が光っているように見える。眩しい光だ。とても見ていられない。思わず目を閉じた。

 

 

 

 そして。

 

 

 

 部屋中が呪いの音楽と眩しい光に包まれた瞬間、あたしは意識を失った――。

 

 

 

 

 

 

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