ドラクエ探偵倶楽部   作:ドラ麦茶

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第3話・湯けむり殺人紀行 ~マイラ温泉が血に染まる? 愛情と淫欲の果ての悲劇! 名探偵とおとぼけ助手が見た真実とは!?~ #01

「誰が名探偵だ! 誰がおとぼけ助手だ!」思わず声を荒らげるあたし。

 

「……いきなり何怒ってるんですか、若葉先輩?」びっくりした口調の美咲。

 

「これが怒らずにいられるかっての! なんなのよ? おとぼけ助手って。それに! 何? この安っぽい2時間ドラマみたいなタイトルは?」

 

「それは、そういうことですよ。今回は、この温泉街で殺人事件が起こるんんじゃないんですか?」美咲は、足でお湯をばしゃばしゃさせながら、のんきな声で言った。

 

 あたしたちは今、マイラという小さな村にいる。アレフガルドの北東に位置する、温泉で有名な村だ。この村の西に、この世界を創った精霊ルビスが閉じ込められていて、それを救い出すのが目的だ。まあ、もちろんそれは勇者たちの仕事で、あたしたちには関係ない。だからこうして、温泉につかり、勇者たちの帰りを待っているというわけだ。元の世界に帰る方法はいまだに見つからないと言うのに、のんきなものだ、と、自分でも思う。

 

 あたしたちがこのドラクエ3の世界に来て、もう1カ月が経つけど、元の世界に帰る方法は一切判らないままだ。大魔王ゾーマを倒さないと帰れないというのが美咲の意見で、恐らくそうなのだろう。大魔王を倒すのにはそれなりの手順が必要なのは判っているけど、どうしても美咲のようにお気楽になることはできない。

 

「まあまあ、そうかっかしないでください。あたしたちが焦ったって、どうなるものでもないですよ? せっかく温泉に来たんですから、のんびりしましょう」相変わらず緊張感のない美咲。

 

 まあ、確かに美咲の言うことはもっともだ。焦ったってしょうがない。せっかく温泉に来たんだから、今はそれを満喫しよう。ちゃぽん。お湯につかるあたし。ふう。日ごろの疲れが抜けてくねぇ。極楽極楽。さっきまで怒りはすっかり忘れて、のんびり浸っている。

 

 がらがら。お風呂のドアが開いた。入って来たのは、僧侶と魔法使いだった。

 

「あ、ルビスの塔から戻ってきたんですね。おかえりなさい。どうでした?」美咲が訊いた。

 

「それが聞いてよ!」と、魔法使いが応えた。「乗ると回転する床があってさ! 何度も下の階に落ちて、もう大変だったわ!」

 

「でも、無事に精霊ルビス様を救い出すことができましたわ」にっこりと笑う僧侶。「聖なる護りと光の鎧も無事入手できました」

 

「それはいいんだけど、その後がまた大変よ」と、魔法使いが疲れを隠せない口調で続ける。「あたしも勇者もMP使い果たしちゃって、ルーラが使えないの! しょうがないから船で帰ってきたんだけど、途中でモンスターに襲われてね。クラーゴンとかキングマーマンとか。普通なら大した敵じゃないんだけど、呪文が使えないから、結構危なかったわ」

 

「でも、みんなで力を合わせて、なんとか乗り切ることができましたわ。これも神のお導きでしょう」僧侶は天に向かって祈った。

 

「じゃあ、次は雨雲の杖ですね」と、美咲が言う。「それが手に入れば虹のしずくが手に入って、魔の島に渡るんですね」

 

「ええ。雨と太陽が合わさるとき、虹の橋ができる。古い言い伝えです」

 

「いよいよ決戦ね。腕が鳴るわ。あたしのありったけの魔法をぶつけてやろうじゃないの」

 

 楽しそうに話す、美咲と僧侶と魔法使い。

 

 関係ないけれど、ここは温泉なので、当然みんな裸だ。いわゆる、お色気シーンというやつである。もっとも、あたしと美咲はヌードはNGの清純派アイドルなので、普通だったら絶対に怒られるであろう、厚手のバスタオルを身体に巻いての入浴が許されている(もちろんタオルの下は水着だ)。しかし、僧侶と魔法使いは腰に短いタオルを巻いているだけだ。そのスレンダーなボディを惜しげもなく見せているけど、18禁小説じゃないので詳しくは書けない。

 

 と、そのとき。

 

 がらがら。またドアが開いた。そして現れたのは、素っ裸の戦士。

 

 一瞬にして凍りつく空気。

 

「あ……男湯と間違えちまった」

 

 戦士の言葉を合図に、4人の黄色い悲鳴と、飛び交うお湯、風呂桶、火の玉、真空の刃、吹雪、死の言葉。そして、最後に戦士は僧侶のバシルーラで遠くへ飛ばされたのだった。

 

 ……てか、このシーン、必要か?

 

 

 

 

 

 

「ぷっはぁ! この一杯のために生きてるぅ!!」

 

 風呂あがり、美咲は腰に手を当ててフルーツ牛乳を飲み干すと、定番のおやじくさい台詞を口にする。ま、確かに、風呂上りのフルーツ牛乳ほどおいしいものは無いけどね。あたしも一気に飲み干し、喉を潤した。

 

「さあ、ゲームコーナーへ行きましょう! こういう温泉宿には、結構古いゲームが、普通に置いてあったりするんですよね。バブル期の遺産ってやつですか? それを発掘するのが、温泉旅行の醍醐味です。さあ、どんなレアゲームがあたしを待ってるんですか!?」

 

「……そんなもの、あるわけないでしょ。ここ、ドラクエの世界だよ?」

 

「えー。そうなんですか? じゃあ、卓球やりましょう! 卓球! 温泉と言えば卓球です!」

 

 だから、そんなもん無いっつーの。ムダにテンションの高い美咲に呆れる。

 

「あの……若葉さん」僧侶が話しかけてきた。

 

「ん? 何?」

 

「これ、良かったら、もらってください」そう言って僧侶は、小さな青い石を差し出した。「命の石です。今日、魔物を倒したときに、手に入れたものです」

 

 命の石。前回の事件のとき、美咲が説明してたな。たしか、即死系の呪文から身を護る道具だ。

 

「え? いいの? あたしなんかが持ってて。あたし、戦いには参加しないのに」

 

「ええ、構いません。このレベルになると、もうザキ系の魔法は、あまり効かなくなるんです。もし効いたとしても、蘇生の呪文やアイテムもありますからね。それに、若葉さんと美咲さんには、今まで随分とお世話になりましたから」

 

「そんな大したことはしてないけど――じゃあ、遠慮なく貰うね。ありがとう」

 

「いえ。では……」

 

 僧侶はぺこりと頭を下げ、そして、魔法使いと一緒に行ってしまった。

 

 …………?

 

 なぜだろう? 僧侶の背中が、妙に小さく見えた。

 

「何ですか? 今の。何かの伏線ですか?」美咲、命の石と僧侶の後姿を交互に見る。

 

「いや、伏線とかじゃなくてね……でも、なんか僧侶、変だったね」

 

「これは、何か起きるんですかね? あーあ。せっかくのんびりできると思ったんですけど」

 

「あんたはまたそういうことを言う……」

 

 でも、ホントに、何だったのかな。

 

 あたしは、じっと命の石を見つめる。

 

 彼女の後ろ姿――妙に寂しそうだった。なんだか、これが別れになるような……そんな気がしてならない。

 

 …………。

 

 ううん。そんなはず、ない。

 

 ただの気のせいだよ。うん。悪いことなんて、何も起こらないよね。

 

 胸の内の不安を拭い去るように、あたしは、命の石をぎゅっと握りしめ、

 

「よっしゃ! じゃあ、美咲! 卓球で勝負よ!」

 

 ちょっとムリして、大声で言った。

 

「どうしたんですか? 急に。卓球なんて無いって、今先輩が言ったばかりですよ?」

 

「無くても大丈夫! ボールとテーブルとスリッパがあれば、そこがあたしの卓球場よ!」

 

「お? 先輩にしてはいいこと言いますね。でもまだまだです。突然現れて得点係をやるおせっかいなおじさんがいないと、真の温泉卓球とは言えません!」

 

 むう。さすが美咲。温泉卓球は奥が深い。

 

 などとくだらないことを言いながら、あたしはなんとか胸の内の不安を追い払い、そして、夜は更けて行った。

 

 

 

 

 

 

 しかし。

 

 

 

 不安は、的中してしまう。

 

 翌朝、事件は起こった。勇者が、他殺体で発見されたのである――。

 

 

 

 

 

 

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