ドラクエ探偵倶楽部   作:ドラ麦茶

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第4話・そして、伝説へ……? #03

 翌朝、あたしたちが見たものは、開けられた僧侶の部屋と、鋭い刃のようなもので斬り刻まれた僧侶の姿だった。

 

「『2人の英雄が島にやって来た。僧侶が風に斬り刻まれ、1人になった』……もう間違いない。これは、この島に伝わるあの唄の通りに殺人が行われているんですよ!」

 

 頭を抱え、ガックリと膝をつく勇者。もちろんそれが演技なのは見え見えだ。

 

「ふざけないで! 犯人があなたなのは判ってるのよ!」あたしは思わず叫んでいた。

 

 勇者は、いかにも心外だ、という顔をし、

 

「僕が犯人? おかしなことを言いますね。いったい、何を証拠に」

 

 それまでの絶望に満ちた顔から一転、口元に不快な笑みを浮かべ、挑発するような顔で言った。むっかー。腹立つな。あたしは僧侶の死体を指差し、

 

「見て。僧侶の身体は、鋭い刃のような物で斬り刻まれている。これは、バギクロスの呪文よ。あなたの持つ、その王者の剣。道具として使えば、バギクロスと同じ効果があるのよね? それが証拠よ!」

 

 あたしは、一昨日の美咲の推理を言った。これは間違いないことだ。

 

 でも。

 

「確かにそうですね。僕の王者の剣には、バギクロスの効果があります。でも、僕はどうやってこの部屋に入ったんです? この部屋には鍵がかけられていた。最後の鍵の扉です。僧侶に、扉には鍵をかけて、誰が来ても、絶対に部屋の中に入れてはいけない、と言ったのは、若葉さんたちでしょう?」

 

 ぐっ。言葉を失うあたし。

 

「僕は鍵を持っていません。扉を開けることはできない。だから、僕は犯人じゃないということです。恐らくこの屋敷には、僕たち以外の誰かが潜んでいるのでしょう。ヒャド系、ギラ系、バギ系、そして、アバカムの呪文を使える、誰かがね」

 

 はらわたが煮えくりかえるほど不愉快な笑顔であたしたちを一瞥すると、勇者は部屋に戻った。ガチャリ。鍵のかかる音。

 

「ぬがあぁ! 何? あの態度? 腹立つわねぇ! 完全に犯人の態度でしょ、今の! あれが証拠よ! 逮捕よ! 逮捕!!」荒れるあたし。

 

「ムチャ言わないでください。少し落ち着きましょう」

 

「これが落ち着いていられる!? 美咲は腹立たないの!? 完全にバカにされたんだよ!? あんなビキニセクハラ野郎に!」

 

「怒ったってしょうがないですよ。僧侶はしっかり扉に鍵をかけた。最後の鍵はあたしがずっと持っていた。勇者の言う通りです。彼に扉を開けることはできません」

 

「じゃあ何? ホントに他の誰かが犯人だって言うの?」

 

「今の段階じゃ、それも視野に入れる必要がありそうですね」

 

「そんなわけないでしょ! 絶対あいつが犯人よ! それに、最後にひょっこり現れた人が犯人だったら誰も納得しない、って言ったの、美咲でしょ!?」

 

「そうですね……まあ、とりあえずこの部屋を徹底的に調べてみましょう。それで、何か判るかもしれませんし」

 

 言われ、あたしたちは僧侶の部屋を調べた。鍵を使わず扉を開ける手段が無いか、秘密の抜け道は無いか、勇者の使う呪文や持ってる道具を応用して部屋の中に入る方法は無いか、部屋に入らず、中の人を殺す方法は無いか。もちろん、この部屋だけでなく、戦士と魔法使いの部屋もとことん調べたけど、結局、謎を解く手がかりになりそうなものを見つけることはできなかった。

 

 そして、夜が明け。

 

 朝、勇者の部屋を見ると、もぬけの殻だった。屋敷中さがしたけど、どこにもいない。一応勇者の部屋も徹底的に調べたけど、やはり何の手がかりも見つけられなかった。

 

「『1人の英雄が島にやって来た。勇者が故郷に帰り、そして、伝説が始まった』。結局、最後まで唄のとおりでしたね」美咲が自虐的に笑う。

 

「笑ってる場合じゃないでしょ。このままじゃ、完全犯罪だよ? それに、あたしたち、どうやって帰るのよ?」

 

 船も無い。ルーラも使えない。キメラの翼も無い。まさしく取り残されてしまった。このままじゃ、いつか飢え死にだ。

 

「まあ、帰る手段は後で考えるとして、今は、どうやって勇者は、みんなを殺したのか、ってことですね」

 

「何か、謎を解く手掛かりはあるの?」

 

「ぜーんぜんないです。困ったものですね」

 

 美咲はお手上げ、と言わんばかりに両手を上げ、ひらひらと振った。まあ、いつものことと言えばいつものことだけど、今回ばかりは、本当に判らないらしい。

 

 扉を開けるためには最後の鍵かアバカムの呪文が必要。最後の鍵は美咲がずっと持っていたし、勇者はアバカムの魔法を使えない。部屋に抜け道なども無く、扉を開けずに中に入る方法は無い。もちろん、外から中の人間を殺すことも不可能。これは本当に、勇者以外の人が犯人なのだろうか? 誰も納得しないかもしれないけど、それ以外には考えられないのだ。

 

「……1つだけ、みんなが納得する推理が残されてますよ?」美咲が言った。

 

「何……?」

 

「あたしが共犯だった、ってことです」

 

「――――」

 

 言葉を失うあたし。

 

 美咲が共犯?

 

 考えてもみなかったことだ。

 

 ――でも。

 

 確かに、それならつじつまが合う。

 

 勇者は、初めから最後の鍵を持っていた。最初の夜、魔法使いを殺し、さらに次の日の夜、戦士を殺す。このとき、最後の鍵は戦士に渡しておく。朝、戦士の死体を調べた美咲が最後の鍵を見つける。美咲が持っていれば、勇者は僧侶に手出しできない――そう思わせて、実は美咲と勇者はグル。美咲が扉を開け、勇者が殺す。最後に勇者がルーラでアリアハンに帰れば、今回の事件は完成だ。

 

 そうだ。

 

 なんで今まで、そのことに気がつかなかったんだろう。それ以外には考えられないじゃない!

 

 ――――。

 

 なんてね。

 

「そんなわけないでしょ。ありえないよ」

 

「そうですか? なんでです?」

 

「簡単よ。あんたは、そんなことをするような人じゃない」

 

「――――」

 

 そう。

 

 ガサツで無神経で厚顔無恥で傍若無人で腐れ外道な娘だけど、美咲は、人殺しに手を貸すような人じゃない。たとえそれが、ゲームの世界であっても。

 

「もう……相変わらず、先輩は甘いですね。瑞姫さんが聞いたら、鼻で笑いますよ? そんなの、何の根拠にもならない、って」美咲、照れくさそうに笑う。

 

「何言ってるの。これ以上の根拠は無いでしょ」あたしも一緒になって笑った。

 

 あたしと美咲は、決して長い付き合いではないけれど、同じアイドル・ヴァルキリーズのメンバーとして、多くの苦楽を共にしてきた。お互い、深い絆で結ばれている。それは、本編の『アイドル・ヴァルキリーズ・オブ・ザ・デッド』を読んでもらえば判るだろう。

 

 …………。

 

 さて、さりげない宣伝も終わったし、推理に戻るか。

 

「ていうか、腐れ外道は言いすぎじゃないですか? さすがに傷つきます」むくれる美咲。

 

 ……そうだ。地獄耳だった。気をつけないと。

 

 なんとか美咲に機嫌を直してもらい、改めて推理に取り掛かる。

 

「扉が開いていたということは、やっぱり勇者は、何らかの方法で鍵を開けたんですよ」美咲、それしか考えられないというふうに言った。

 

「でも、鍵は美咲が持っていた。うーん。あたしたちが寝ている間に、そっと鍵を盗んだってことはない?」

 

「ないと思います。あたしたちの部屋にも鍵はかけてありましたし」

 

「そっか。そうだよね。なら、うーん」あたしは改めて考える。「扉を開ける鍵は1本しかないんだよね?」

 

「そうですね。魔法の鍵や盗賊の鍵がありますけど、この屋敷の扉を開けることができるのは、最後の鍵だけです」

 

「最後の鍵って、どこで手に入るんだっけ?」

 

「北の海のど真ん中です。浅瀬が密集してる場所があって、渇きの壺を使うと、干上がって、祠が現れます。そこの宝箱に入ってます」

 

「もう1度そこに行ったら手に入るってことは無い?」

 

「無いですね。鍵は1つしか手に入りません。ドラクエ3以降はバックアップ機能が付きましたから、宝箱は1度しか開けることができません。その祠へ行っても、空っぽの宝箱があるだけです」

 

「そうだよね……鍵をたくさん持てる作品もあったと思うけど、あれは?」

 

「ドラクエ1ですね。シリーズ中異例の、鍵を店で買うというシステムでした。1度使った鍵は、壊れて使えなくなるという設定ですよ。以降のシリーズでは採用されていません。今思うと、何だったの? って感じです」

 

「そうだよね。鍵は2つ持てないのが普通だよね」

 

 と、あたしが何気なく言ったとき。

 

「……先輩。今、なんて言いました?」美咲が言った。

 

 こ、この台詞は? ついに美咲、謎を解いたのか!?

 

「えっと、『腐れ外道』って言ったわ!」

 

「…………」

 

「ゴメン。えっと、『鍵は2つ持てないのが普通』って言ったけど、それが?」

 

「鍵は2つ持てない……普通は」

 

「うん。でしょ?」

 

「じゃあ、普通じゃなかったら……?」

 

「……どういうこと?」

 

 美咲は答えず、いきなり部屋を飛び出した。

 

「ちょっと! どこ行くのよ!?」あたしは慌てて追いかける。

 

「アリアハンに戻るんです! もしかしたら、勇者は鍵を持っていたのかもしれません!」

 

「なんで? 鍵は美咲が持ってるでしょ?」

 

「説明は後です! とにかくアリアハンです! ルイーダの酒場に戻りましょう!」

 

 ルイーダの酒場。確か、仲間を入れたり外したりする場所だ。あそこに、いったい何があると言うのだろう?

 

 美咲はフィールドに出ると、近くを飛んでた青い鳥2匹を捕まえた。ヘルコンドルというモンスターらしい。その鳥にバシルーラの呪文を唱えてもらい、あたしたちはアリアハンまで飛ばしてもらった。

 

 酒場に行くと、美咲は早速、女主人のマダム・ルイーダに話を聞いた。

 

「勇者の仲間の入れ替え履歴? 判るけど、ちょっと待ってね」マダムはカウンターの下から帳簿を出し、1枚1枚ページをめくっていく。

 

「……どういうこと? 仲間の入れ替え履歴なんて見て、どうするの?」ワケが判らず、美咲に訊くあたし。

 

「あたしの推理が正しければ、勇者は、1度仲間を全員外しているはずです」

 

「…………?」

 

 ますます意味が判らない。仲間を全員外すと、どうなるんだろう? それと最後の鍵に、どういう関係があるのだろうか?

 

 考えていると、やがてマダムの手が止まった。「あったわ。確かにあなたの言う通り、勇者は2週間前、1度メンバーを全員外してるわね」

 

「その後、戦士だけを仲間にしてませんか!?」美咲、興奮を抑えられない様子

 

「ええ。その通りよ。……あら?」マダムが声を上げた。「変ね。記録によると、その後勇者は戦士を仲間から外していないのに、別の日、もう1度同じ戦士を仲間にしてるわ。記入ミスかしら」

 

「……いいえ。記入ミスなんかじゃありません。ありがとうございます」

 

 美咲、マダムにお礼を言う。

 

 …………。

 

 と、何だ?

 

 突然、辺りが真っ暗になった。そして、まるでスポットライトが当たるかのように、美咲の周りだけが明るく照らされる。

 

 美咲が振り返った。

 

「えー、今回は非常に難しい事件でした。勇者は、かつてないほど巧妙なトリックを駆使したようです。これは、使ってはいけない禁断のトリック。早く勇者を止めないと、この世界が大変なことになってしまうかもしれません。解決編はこの後――桜美咲でした」

 

「……誰に言ってるの?」

 

「先輩、いちいちツッコまないでください」

 

 

 

 

 

 

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