ドラクエ探偵倶楽部   作:ドラ麦茶

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第4話・そして、伝説へ……? 解決編

 と、言うわけで。

 

 あたしは今、とある街の森の中に隠れている。ここに、もうすぐ勇者が現れると、美咲が言うのだ。いつものこととは言え、どういうことか全く判らないあたし。まあ、今まで美咲が間違っていることは無かったし、信じて待つしかない。

 

 すると。

 

 美咲の言う通り、勇者が現れた。

 

 ばっ! 美咲と一緒に、勇者の前に立ちはだかる!

 

「若葉さん……美咲さん……」突然現れたあたしたちに、驚きを隠せない勇者。

 

「ここに現れると思いました。勇者、観念してください。あなたがどうやって最後の鍵の扉を開けたのか、ようやく判りました」

 

 美咲が言うと、勇者は、フフッ、と笑った。でも、それは絶海の孤島ルザミで見せた、あの挑発的な笑いではなかった。全てを諦めたような、寂しい笑い。

 

「……若葉先輩、勇者の持ち物を調べてください」

 

「あ、うん」

 

 美咲の言われ、勇者の持ち物を調べる。勇者は抵抗しなかった。王者の剣に光の鎧、勇者の盾など、おなじみのアイテムが出てくる。

 

「――――」

 

 と、最後に出てきたアイテムを見て、あたしは言葉を失った。目玉をイメージした宝石と翼の装飾が施された鍵――最後の鍵だ。何故勇者が? この鍵は、美咲が持ってるはず。振り返った。美咲も鍵を見せた。それは間違いなく、最後の鍵。

 

 ――まさか、最後の鍵が2つ? 1つしかないはずなのに?

 

「やはり……あなたはもう1つ、最後の鍵を持っていたんですね。このランシール神殿の、禁断の技を使って!」

 

 美咲が背後を示した。森の中には大きな神殿がそびえ建っている。

 

 ここは、アリアハンのすぐ西にある島・ランシール。巨大な神殿があり、そこでは、己の力を試す試練を受けることができる。そして、その試練を乗り越えると、重要アイテム・ブルーオーブが手に入るのだ。

 

「ランシール神殿の試練を受けるのは1人だけです。たった1人でダンジョンに行き、オーブを手に入れなければいけません」

 

 美咲は、ゆっくりと語る。

 

 ドラクエ3は、仲間と共に冒険するのが普通だ。このランシール神殿の試練を受ける場合、自動的にパーティーの先頭の人が選ばれる。以降は1人で行動するわけだけど、このとき、2番目の仲間が邪魔になって、後戻りすることができない。

 

 でも、1人で神殿を訪れた場合、通常はできない後戻りが、できてしまうというのだ。

 

「プログラマーも、そこまでは想定していなかったんでしょうね」美咲、遠くを見る目で語る。「些細なミスですけど、これが原因で、ドラクエ3は、ファミコン史上最多と言われるほど、裏ワザの宝庫になってしまったんです。いきなりゴールドを99999にしたり、歩くたびにレベルアップさせたり……このランシール神殿は、ホントに様々な裏ワザに派生します。あたしも、当時はいろいろやりました。そして、これらの裏ワザの中で恐らく最も有名なのが――アイテム増殖」

 

 アイテム増殖? そんなことまでできるの?

 

 勇者を睨む美咲。勇者はただ立ちつくし、美咲の言葉を聞いているだけだ。

 

 美咲は言葉を継いだ。

 

 ランシール神殿を1人で訪れ、試練を受けることに同意する。通常仲間といる場合は引き返すことはできないけど、1人の場合は引き返すことができるので、ダンジョンには行かず、街を出る。そのままアリアハンに戻り、ルイーダの酒場で仲間を加えたら、その仲間が持っているアイテムを受け取り、再びランシール神殿に行く。

 

 すると、仲間が消えてしまうのだ。

 

 そこからまたアリアハンに戻ると、消えた仲間が酒場にいるので、再び仲間に加える。なんとその仲間は、受け取ったはずのアイテムを持っているというのである!

 

「あなたは、この技を利用して、最後の鍵を増殖したんです!」

 

 美咲は、これが最後、と言わんばかりに、森中に響き渡るほどの大声で、そう宣言した。

 

 それまでじっと黙って美咲の説明を聞いていた勇者は、顔を上げると、再び寂しそうな笑顔を浮かべた。

 

 そして。

 

「……さすがは美咲さんですね。あなた騙すことはできないと思いましたよ。その通りです。僕は、このランシール神殿を利用した裏ワザで最後の鍵を増殖し、みんなを殺したのです」

 

 罪を認めたのだった。

 

「動機は、これまでの恨みですね」美咲の口調は、どこか優しげだった。

 

「そうですね。僕ばかりが3度も殺されたのです。これじゃあ、リーダーとしての……いえ、勇者ロトとしての威厳がありません。だから、みんなに復讐したのです」

 

「それで、気は晴れましたか?」

 

 勇者は答えず、ただ黙って、首を振った。

 

 復讐なんて空しいだけ。

 

 その寂しげな笑顔が、そう語っていた。

 

 風が吹き、森の樹々が揺れた。それ以外は何も聞こえない。静寂が、妙に心地よかった。

 

 やがて、勇者が口を開いた。「今からルザミに戻って、みんなを生き返らせます。そして、今回のこと、謝ります。許してくれるかどうか判りませんけど」

 

 そう言って笑った顔には、さっきまでの寂しさは無かった。なんだか吹っ切れたような、いい笑顔だった。

 

「大丈夫だよ」あたしは勇者の肩に手を置く。「みんな、長い旅を共にしてきた仲間でしょ? 心配無いって」

 

「そうですね」

 

 最後にもう1度笑い、勇者はルザミへと旅立って行った。その背中を、あたしたちはじっと見つめていた。

 

「……あそこはルーラで行くことができませんから、不便なんですよねぇ」

 

 美咲、いい雰囲気をぶち壊すようなことを言う。

 

「あんたには感動とか余韻とか無いの?」

 

「感動ですか? こんな茶番に、何を感動しろって言うんですか」

 

「茶番って……そもそもあんたが始めたんでしょうが」

 

 呆れるあたし。この世界に来て、何度目だろう?

 

 ――と。

 

 

 

 ダダッタダダッタダダッタダダッタダーンダダダン!

 

 

 

 突然、辺りに聞き覚えのある音楽が響き渡った。

 

 この音楽はもしや!? 辺りを見回す。森と神殿。他は何も無い。でも。

 

 

 

 ダダッタダダッタダダッタダダッタダーンダダダン!

 

 

 

 まただ。この音楽。忘れるはずもない。あたしと美咲がこのドラクエ3の世界に取り込まれたときの音楽だ。

 

 音楽は何度も繰り返される。同時に、地面が揺れ始めた。地震? いや、違う。揺れているのは地面だけじゃない。樹々も、神殿も揺れている。それだけなら当たり前だけど、空も揺れているのだ。この空間――世界そのものが揺れている。

 

「何? 何が起こったの!?」激しい揺れに、とても立っていられないあたし。尻餅をついて倒れた。

 

「世界の崩壊が始まったんです!」美咲も膝をつく。

 

「世界の崩壊!?」

 

「そうです。勇者のやったアイテム増殖技は、バグを使った禁断の技。使うと、何が起こるか判りません。最悪の場合、ゲームの進行が止まってしまい、そして――」

 

 突然、あたしたちの周りにノイズが走った。その中に飲み込まれる美咲。姿が消えて行く。手を伸ばしたけど、あたしの手もノイズに包まれていた。

 

 美咲とあたし、そして、世界の全てがノイズに包まれたとき――。

 

 

 

 あたしは、意識を失った――。

 

 

 

 

 

 

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