……ふあぁ。大きなあくびを1つ。なんだか、よく眠ってた気がする。
眠気まなこをこすりながら、辺りを見回す。あまりの汚らしさに、思わず手で目を覆う。やがて目が慣れてくると、そこには、膨大な量のガラクタが広がっていた。本に雑誌にCDにDVDにゲーム、化粧品に整髪スプレーに制汗スプレー。あらゆるものが散らかり放題。まさにゴミの海。うーん。気持ち悪い。鬱屈した朝だな。
…………。
……は? なんだこれ?
あたし、目をぱちぱちさせ、改めて辺りを見回す。
目の前に広がる広大なゴミ草原。見間違いかと思ったけど、そうではないらしい。
ここ、どこだ――なんて考えるまでもなかった。あたしの知る限り、こんな汚い場所は2ヶ所。ゴミ集積場か、美咲の部屋かだ。
――と、言うことは?
元の世界に戻ってきたんだ!!
ああ、ついにまともな生活を送ることができる! もう眠るのにお金を払って宿屋に泊らなくていい。外を歩くのに聖水を使う必要も無い。全滅してお金が半分になることも無い! なんてすばらしい世界なの、ここは!
「移動にルーラが使えないのが、ちょっと不便ですけどね」
ごそごそと、ゴミの中から現れた人影。もちろん美咲だ。
「確かにね。あれがあれば、遅刻しなくて済むのに」
「キメラの翼を持って帰るべきでした」
「あ。だね。失敗したわ」
2人で笑う。
と、テレビから。
ダダッタダダッタダダッタダダッタダーンダダダン!
例の音。一瞬びくっとなったけど、今度は、何も起こらなかった。
ただ、テレビの画面には。
『おきのどくですが
ぼうけんのしょ1ばんは
きえてしまいました』
と、表示されていた。
そっか。さっきの音楽。ずっと、どこかで聞いたことがあると思ってたけど、思い出した。あれは、冒険の書が消えたときの音楽だ。
「データ、消えちゃったね」美咲に言った。もう、勇者たちに会うことはできない。
「まあ、しょうがないですよ。古いゲームですから。電池切れですね。そもそも、データが生きてたこと自体が奇跡です。それに――」
「それに?」
「また最初から遊べばいいだけです。RPGって、そういうものですから」
美咲、明るい口調。あたしは、そうだね、と、笑顔で応えた。
…………。
電池が切れてるのに、どうやって最初から遊ぶつもりなんだろ?
ふとそう思ったけど、ま、美咲のことだ。分解して電池を交換するとか、クリアするまでずっと電源入れっぱなしとか、それぐらいのことはやりそうだ。
「でも、しばらくドラクエはこりごりです」美咲は、ファミコンからドラクエ3のカセットを抜くと、段ボールにしまった。
「へぇ。美咲でも、懲りることがあるんだ」
「どういう意味ですか。あたしだって、ちょっとは懲りますよ。それに、ドラクエ3は名作ですけど、やっぱり、全体的に古臭いですね。システムとか、テンポとか、すごく悪くて、今遊ぶとイライラすることもあります」
「そりゃそうでしょ。何十年も前のゲームだもん」
「やっぱり、今遊ぶならパズルゲームですね」そう言って美咲は、別のゲームを取り出し、ファミコンに挿した。「昔はこういう、じっくり考えるタイプのゲームがどうにも苦手でしたけど、今遊ぶと、その奥深さに感心します。これが、大人になったってことなんですね」
しみじみと語る美咲だけど、ヴァルキリーズでは妹キャラで通っている美咲には、大人要素はまるで無いように思う。
ぽち。電源を入れる。タイトル画面が表示された。
「……って、掃除はどうなったの? まだ途中でしょ?」
「あれ? そうでしたっけ。まあ、いいじゃないですか」
美咲は構わずゲームを続ける。しょうがないな。あたしも画面を見る。マシュマロが帽子をかぶったようなキャラと、ナメクジのようなキャラが追いかけっこをしていた。マシュマロ帽子が主人公で、ナメクジもどきが敵のようだ。単純そうなゲームだな。あたしでもできそうだ。
「ねぇ、ちょっとやらせてよ」
「へ? いいですけど、若葉先輩にできますかね?」
「できるわよ。簡単そうじゃん。あのナメクジから逃げればいいんでしょ?」
「うーん、ちょっと違いますけど、まあ、とりあえずそれでやってみてください」
美咲からコントローラを受け取ると、ゲーム開始。早速追いかけてくるナメクジ。あたしは逃げる。すぐに画面の端に追いつかれた。
「Aがジャンプです。飛び越えてください」
美咲が言うので、そうする。ナメクジに向かって行き、ぶつかる手前でジャンプ! お? うまく行ったぞ。あたしもなかなかやるじゃん。
と、思ったのもつかの間。
突然、マシュマロ帽子の前に爆弾が現れた。かわすことができない。そのまま突っ込む。どっかーん。爆発。
――――。
その爆発は、画面の中だけで起こったものじゃなかった。
なんと、部屋そのものが爆発したのである!
そして、あたしたちは閃光に包まれる!
……って、おい! これはまさか、また!?
あたしは、意識を失った――。