目を覚ますと、石畳の床に、石造りの建物、武器屋、道具屋、宿屋……。
これはもしや、またもやドラクエの世界!? なんてことなの!? せっかく元の世界に戻ることができたのに!
……いや、待てよ。
あのときあたしたちは、ドラクエで遊んでなかったと思う。何のゲームか知らないけれど、確か、マシュマロ帽子とナメクジもどきが追っかけっこするゲームだ。
きょろきょろとあたりを見回すと、すぐそばに美咲が眠っていた。肩を揺する。
「……う……ん……この肉まん、干からびてますね……マズそうです」
「それはいいから。さっさと起きろ!」
ばし。脳天チョップをくらわすと、すぐに目を覚ました。「いったーい。何するんですか」
「何するんですか、じゃない。これ、どういうこと?」
辺りを示す。美咲、目をぱちくりさせて。「あらら。また来ちゃったんですね」
「どうすんのよ! あんたがまたファミコンやり始めたせいだからね!」
「そんなこと言われても、あたしはただ、ファミコンで遊んだだけです。それに、先輩も遊んでたじゃないですか。先輩が爆弾避けないのがいけないんじゃないんですか?」
むう。そうなのかな。確かにトリップの直前、ゲームをやってたのはあたしだけど、でも、あたしのせいなのかな。
まあいい。起こってしまったものはしょうが無い。その場でボーっとしてても始まらないので、あたしたちはとりあえず、宿屋に向かった。おなじみのおじさんが出迎えてくれる……と思ったら。
「こんにちはだピョン。ここは旅人の宿屋だピョン。一晩、アメ2つだけど、泊まっていくかピョン?」
腰が砕けるかと思うような口調で出迎えてくれたのは、緑色のオタマジャクシみたいなモンスターだった。ドラクエのモンスターをすべて覚えているわけじゃないけど、見覚えが無い。と、言うより、デザインそのものが違う。これは、ドラクエのモンスターじゃないぞ?
「あなたはまさか……オタピョン!?」美咲が声を上げる。
「そうだピョン。よく判ったピョン」
あたしは美咲に訊く。「……どういうこと? だれ? このオタマジャクシ」
「オタピョンです。ドアドア最強の敵です」
「ドアドア?」
「あたしたちがさっきやってたゲームです。敵をドアの中に閉じ込めるアクションパズルゲームで、ドラクエの発売会社エニックスの、ファミコン参入第1弾ソフトなんです!」
熱く語る美咲だけど、全然知らない。聞いたことも無いゲームだ。
「まあ、ドラクエ1が発売される1年も前のゲームですし、当時は家庭用ゲーム業界ではほとんど無名のメーカーでしたから、若葉先輩が知らないのもムリはないですね。でも、歴史の残るパズルゲームなんですよ」
なんだかよく判らないけど、すごいゲームのようだ。
「で、どうするピョン? 泊まるピョン?」
オタマジャクシにせかされたので、泊まることにした。幸いあたし、いつものど飴を持ち歩いている。それを2個渡した。
「じゃあ、案内するピョン。部屋は3階だピョン。ついてくるピョン」
オタマジャクシの案内で階段を上がり、まず2階へ。そこには、さらにモンスターがいた。見覚えのあるマシュマロ帽子にナメクジもどき。そして、タコの化け物と青いアメーバだ。
「紹介するピョン。順番に、チュンくん、ナメゴン、インベくん、アメちゃんだピョン。みんな2階に泊まってるピョン」
「よろしくチュン」
「よろしくナメ」
「よろしくだベ」
「よろしくアメ」
オタマジャクシに紹介され、みんなが一斉にあいさつした。
「すごいです……。『○○は言った』みたいな表現をしなくても、誰がしゃべってるのか判るなんて……これは新発見ですね」
ワケの判らない感動をする美咲。
「これが感動せずにいられますか? 作者は会話シーンが大の苦手なんですよ? 大勢が喋るシーンは、特に。そのため、登場人物自体を極力減らす、なんて、苦肉の策で小説を書いてるんですよ? そんな自分を何とかするため、『アイドル・ヴァルキリーズ・オブ・ザ・デッド』では、登場人物全48名なんて無茶に挑戦しましたけど、結果、大惨敗だったじゃないですか。40万文字以上書いて総合評価100ptにも満たないって、どういうことですか? 大体、キャラの書き分けができてないのに、あんな大人数の作品を書くこと自体が――」
急にスイッチが入って熱く語り始めた美咲はムシし、あたしはオタマジャクシについて3階へ向かう。階段のそば、303号室があたし、304号室が美咲の部屋だ。
「あれ? ツインじゃないんだね」
「そうだピョン。うちの宿屋はシングルだけだピョン」
「まあ、たまにはいいミサッキー。1人でぐっすり眠れるミサッキー」美咲が突然壊れた。
「……何言ってるの?」
「だってミサッキー、後はあたしと若葉先輩の口調に違いをつければいいだけミサッキー。これで判りやすいミサッキー」
「うっとうしいからやめろ」
「そうですか? じゃあ、先輩が『○○だワッカバー』って言ってください」
「お断りだ」
「ワガママですね」
「じゃあ、ゆっくりするピョン。ボクはフロントに戻るピョン」
「ほら、判りやすいミサッキー」
「そんなことより! これからどうなるの!?」
「どうなると言われても。判るわけないです。まあ、なるようになるしかないですね」
ようやくまともな話し方に戻ったけど、お気楽な性格はそのままだ。
「まったく……美咲に付き合うといつもこうなんだから。いい加減にしてよね!」
「人聞きの悪いこと言わないでください。これ、あたしが悪いんですか?」
「そうに決まってるでしょうが。大体、あたしが今まで、どれだけ迷惑して来たと思ってるの? ううん! あたしだけじゃないわ! あんたには、ヴァルキリーズのメンバー全員が迷惑してるのよ!」
「へ? あたしがなにしたって言うんですか?」
「忘れたとは言わせないわよ! オータム号での4日目! あんたがホテルの部屋に置いてきたゲーム機を取りに勝手に操舵室を出て、みんな、『美咲がいなくなった』って大騒ぎだったんだから!」
「何言ってるんですか。あれは、あたしが外に出たから、燈先輩や遥ちゃんを見つけることができたんじゃないですか。むしろ、あたしの働きを評価してほしいくらいです」
「あんたを評価? バカ言わないで。大体、あんたがもっと早く事件の真相に気づいていれば、被害は少なくて済んだのに、何で6日目なんて、話の終わりの方で気づくのよ!?」
「それは物語の構成上、仕方がないじゃないですか? 初日に気づいてたら何の事件も起こりません。みんなで楽しくハワイに行きました――そんな小説、誰が読むんですか? それに、若葉先輩がもっと強ければ、助かったメンバーもいたと思いますよ? と、言うか、若葉先輩、あの事件で何したんですか? メンバーを導いたのは由香里チーフですし、亜夕美先輩を助けたのは深雪先輩ですし、真理ちゃんたちを助けたのはエリ先輩と遥ちゃんですし、タンクを倒したのは燈先輩ですし、ラスボス捕まえたのはエリ先輩です。若葉先輩、主人公なのに、ただ走り回ってただけで、結局何もできなかったじゃないですか?」
「あ……あ……それ言っちゃうんだ? あたしがすごく気にしてるのに、それ言っちゃうんだ? だったら7日目のあんたは――」
ところどころにさりげない本編の宣伝をはさみながら、このケンカは深夜の3時まで続いたのだった。
で、翌朝。
寝不足気味の充血した眼をこすりながら部屋の外に出ると、ばったり美咲に会う。気まずい雰囲気……は、無く。
「あ、おはようございます、先輩」
「ん、おはよ、美咲」
お互い何事も無かったかのようにあいさつを交わす。
まあ、あたしたちの付き合いは長い。あんなケンカはしょっちゅうだ。今さら険悪な仲になったりはしない。詳しくは本編の――。
「大変だピョン! 大変だピョン!」
さりげない宣伝を邪魔したのは、例のオタマジャクシだ。宿屋の主人。血相を変えて階段を上がって来た。
「オタピョン。どうしたんですか? 慌てて。何かありました?」美咲が訊く。
「チュンくんが、チュンくんが……部屋で殺されてるピョン!」
「なんですって!?」
あたしと美咲は、ワザとらしく同時に声を上げた。2人とも、こういう展開になると薄々感じていたのだ。
普通ならここで章が変わるのだけど、今回は番外編なので、このまま続けさせていただく。
死体発見の状況はこうだ。朝8時。宿屋の主人のオタマジャクシが被害者のマシュマロ帽子の部屋に朝食を届けに行った。でも、何度呼びかけても返事が無い。それで鍵を使って部屋に入ると、後頭部をかじられて死んでいるマシュマロ帽子の姿を発見した、ということだ。
その後の調査で、死亡時刻は夜11時から翌深夜1時の間の2時間と判明した。その事実をもとに、あたしたちはさっそく捜査を開始した。まず、第1発見者であるオタマジャクシに話を聞く。
「昨日は若葉さんと美咲さんがチェックインして以降は、お客は来なかったピョン。ボクはずっとフロントにいたピョン」
「ずっといたのね? 誰か通ったってことは無い?」
「無いピョン。誰も2階に上がらなかったし、誰も下りてないピョン」
「そう。ついでに、この宿屋の見取り図と、客の名簿を見せてくれる?」
「いいピョン。はいだピョン」
オタマジャクシは宿屋の見取り図と名簿を取り出した。あたしたちはまず、見取り図を見る。
宿屋は3階建て。1階はフロントと食堂と主人の部屋で、客室は無い。2階と3階は客室で、全てシングル部屋。各階に6部屋。フロアの中央に階段があり、西と東に各3部屋ずつ、という作りだ。
続いて名簿を見る。宿泊客はあたしたちと例の4匹。被害者のマシュマロ帽子の部屋は204号室。階段をはさみ、203号室がアメーバ、202号室がタコ、201号室がナメクジの部屋だ。
「今回は犯行時刻が判ってるから、きっとアリバイトリックね。さっそくみんなにアリバイを聞きましょう」あたしが2階に向かおうとすると。
「いえ、その必要はないです」美咲がニヤリと笑った。
「へ? どうして?」
「犯人は、もう判りました」自信満々で宣言する。
「そんなわけないでしょ。まだ見取り図と名簿見ただけだよ?」
「それだけで十分なんです。フッ……自分の才能が恐ろしいです」
「……一番犯人らしくない人が犯人だ、とか、そういうのじゃないでしょうね」
「当然ですよ。名探偵が、そんな非論理的な推理で犯人を特定するわけないじゃないですか」
よく言うよ……今まで散々そんな感じでやってたくせに。
「さあ、2階に行きましょう。犯人は、アイツ意外にあり得ません。それを証明してみせます」