……ふあぁ。大きなあくびを1つ。なんだか、よく眠ってた気がする。
眠気まなこをこすりながら、辺りを見回す。陽射しの眩しさに、思わず手で目を覆う。やがて目が慣れてくると、そこには、広大な草原が広がっていた。風が吹きわたり、頬を撫で、草を波立たせる。うーん。気持ちいい。さわやかな朝だな。
…………。
……は? なんだこれ?
あたし、目をぱちぱちさせ、改めて辺りを見回す。
目の前に広がる広大な草原。見間違いかと思ったけど、そうではないらしい。
ここ、どこだ?
どう見てもあたしの部屋ではない。美咲や他のヴァルキリーズメンバー部屋でもなく、実家の部屋でもなく、もちろんホテルや旅館とかでもない。まったくの外、屋外、室外、英語で言うところのアウトドア。人が目覚めるのに適した場所ではない。
まさか、やってしまったか。背筋が凍る。
これはいわゆる、お酒を飲んでべろんべろんに酔ってしまい、家に帰る途中でそこら辺に倒れ込み、そのまま眠ってしまい、朝を迎える、というやつではないだろうか? うわー。またやってしまったか。少し前に同じようなことをやらかしてしまい、大問題になったことがあるのだ。あの時、お酒を飲みすぎないように注意しなければ、と思ったのにな。
あ、でも、その割には頭がスッキリしてるな。こんなときは、二日酔いで頭がガンガンする、ってイメージがあるけど。
それに、そもそもあたし、お酒なんて飲んでないと思う。
えーっと。何でこんなことになってるんだっけ? 考える。
…………。
……確かあたし、美咲の部屋を掃除してたような。そしたら、美咲がゲーム始めちゃって。ファミコンのドラクエ3。しばらくそれを見てたら、何だかよくわかんないけど、ゲームがおかしくなったんだよね。
で……どうなったんだっけ。そこから記憶が無いな。
と、言うことは、あのまま眠っちゃったのだろうか?
そして、目が覚めたら草原のど真ん中にいた。
……意味わかんない。何が起こったってのよ。
うーむ。これは、考えても答えは出そうにないぞ。とりあえず、ここがどこか確認するのが先決かな。
どっこいしょっと。おやじくさい台詞を吐きながら立ち上がり、改めてあたりを見回す。本当に広い草原だ。向かって右側は、はるか向こうに森が見え、左と後ろは、空に薄い稜線がわずかに見えるけど、前は本当に何も無い。生まれて初めて見る地平線だ。
……この街に、こんな所あったっけ?
美咲の住んでいるアパートがある所は、都心から少し離れているけれど、そこそこ賑わっている街だ。はずれの方に行けば、大きな川が流れていて、それなりに自然にあふれているけれど、それでも地平線が見えるなんてことは無いはずだ。
そもそも、日本は狭い。地平線が見えるところなんて、ものすごく少ないんじゃないだろうか? それこそ、北海道とか千葉とかじゃないと。
じゃあ何? あたし、眠ってる間に北海道か千葉に運ばれたってこと?
……そんなバカな。
あり得ないでしょ? あたし、どちらかと言うと眠りは浅い方だ。ちょっとのことでも目を覚ましてしまう。眠っている間に北海道や千葉まで運べるとは思えない。
と言うことは、あたしが知らないだけで、ここはやっぱり、都内なのだろうか? そうは思えないな。
ま、いいや。とりあえず人を探して、ここがどこか聞いてみよう。そうすれば、なんとかなるでしょ。
でもこれ、どっちに行けばいいんだろ?
あたしの目に映るのは、地平線、森、山、山。どの方角に進めば人と出会えるのか、見当もつかない。うーん、困ったぞ。何だか急に不安になってきた。
と、そのとき。
「……う……ん……先輩。この肉まん、干からびてて、食べられないです……」
人の声がした。近くに誰かいたんだ。これぞまさしく天の助け。ありがとう神様。あたしは軽く祈りをささげ、声のした方を見た。ぱっと見、草しかないけど、よく見ると、草の陰に誰か倒れてる。誰か……何だか見覚えのある姿だ。それに今の声は。
あたしは近づき、草をかき分けた。倒れていたのは、よだれをたらし、ニヤニヤしながら幸せそうに眠っている、あたしの後輩だった。
「……あ。じゃあ、こっちの大根にします……」
寝言だ。どうやら夢の中で何かを食べてるらしい。あーん、と口を開け、そのまま勢いよく右手にかぶりついた。
…………。
「いったーい!」
飛び起きる美咲。何やってんだ、この娘。
「あれ? 若葉先輩?」あたしと目が合い、美咲はぱちぱちと瞬きする。
「おはよ。目、覚めた?」
「あ、はい」曖昧な返事をしながら、右手とあたしを交互に見る。「……先輩、今、あたしの手、かじりました?」
「かじるわけないでしょ、そんな汚いモノ」
「失礼ですね。汚くないですよ。あたしは家に帰ったら、必ず手を洗うんですから」
「それより! これ、どういうこと?」
そう言って、あたしは手を広げて周囲を示す。美咲は、また何度も瞬きをして、「何ですか? これ?」
「あたしが訊いてるの。あんたがあたしを運んだんじゃないの?」
「えぇ? なんであたしがそんなことするんですか? 大体、ここ、どこですか?」
「あたしが知るわけないでしょ。あんたじゃないの?」
「あたりまえじゃないですか。何でそんなことする必要があるんです?」
「あんただったら、これくらいのことやりかねないでしょ」
「そんなぁ。いくらあたしでも、そんなイタズラはしませんよ。……どっこいしょっと」
美咲もおやじくさい台詞を吐きながら立ち上がる。そして、辺りを見回した。
「……東京じゃないみたいですね」
「やっぱ、そう見える?」
「はい。東京で地平線が見えるところなんて、聞いたこと無いです」
「やっぱりそうだよね。じゃあ、どこなんだろ?」
「うーん」考え込む美咲。あたしも考える。目が覚めると、広大な草原にいた。どう見てもここは東京じゃない。でも、美咲はともかく、あたしを眠った状態で運べるとは思えない。ま、何らかの事情で、かつてないくらい深い眠りについていたとしても、それでも都外に運び出す、なんてのは、ちょっと考えにくい。だとすると、ここはどこなんだ?
と、美咲がぱっと顔を明るくさせる。「そっか。これ、CGですよ」
……は? 何言ってんだ、この娘。
「CGですよ。CG。コンピュータ・グラフィックス。一見外にいるように思えますけど、実は部屋の中なんです。壁と天井に映像を映し出してるんですよ」美咲、大真面目な顔。
あたしは改めて辺りを見回す。青い空、眩しい太陽、吹きわたるさわやかな風。この全てが作りものだって言うのだろうか? とてもそうは思えない。あたしは疑惑のまなざしを向ける。
「絶対そうですって。ちょっと歩けば、すぐ壁か出口がありますよ」そう言って、美咲は歩き始めた。
うーん。疑わしい限りだ。でもまあ、眠ってる間に北海道や千葉まで運ばれたと考えるよりは、現実味があるような気がする。とりあえずここは、美咲を信じてみるか。あたしは後を追った。
でも。
ちょっと歩いてみたけど、壁やドアは現れなかった。
「おかしいですね……そんなに広い部屋なんでしょうか? まさか、体育館とか?」そう言いながら、美咲はさらに歩く。あたしも続く。でも、歩けども歩けども、風景は変わらない。一面に広がる草と、遠くに見える地平線と森と山。
「体育館でもなさそうだね」あたしは言った。もう、2~300メートルは歩いたと思う。
「と言うことは……空港?」
おっと。そう来たか。確かに空港のターミナルは広いけど、数百メートルもあるかな? それ以前に、なんで空港がこんなことをしなきゃいけないの。
「……よく判りませんけど、ドッキリとか?」と、美咲。
ドッキリか。ありえない話ではないな。一応あたしたちは人気アイドルグループの中心メンバーだ。テレビの企画でドッキリをしかけられることは少なくない。でも、お仕事がお休みの日にドッキリをしかけたりもしないだろう。それに、いくらなんでもこれは手が込みすぎている。
あたしたちはさらに歩く。1キロほど歩いたけど、やっぱり景色は変わらない。空港でもなさそうだ。
「まさか……ここはマクロスの中!?」
……何、マクロスって?
「マクロスですよ! 超時空要塞マクロス! 全長1200メートルの巨大宇宙戦艦です!」
……もはやツッコむ気にもなれない。
大して歩いてないのにやたらと重い足を引きずりながら、さらに歩くこと1キロ。それでも景色に変化は無い。
「次は何? デス・スター?」あたしは皮肉っぽく言った。
「なるほど。デス・スターの直径は、確か120キロ。それならつじつまが合いますね」
どこが合ってるんだ、どこが。
「……冗談ですよ。どうやら、建物の中じゃないのは確かですね」
ようやくCGという推理を捨てたらしい。
とは言え、それで問題が解決したわけではない。結局、ここがどこかは判らないままだ。
改めて辺りを見回す。2キロほど歩いたけど、相変わらずの草と、はるか先の地平線と森と山。まあ、地平線が見えてるくらいだから、たかだか2キロで何かが変わるはずは無いんだけどね。
「一体どうなってるんでしょうね……。あのー! 誰かいませんか!? 誰かぁ!?」美咲、突然叫ぶ。声は辺りに響き渡った。
すると、うおおぉーん、と、まるで美咲の呼びかけに応えるかのように、動物の遠吠えのような声が聞こえた。
「何? 今の?」あたしはきょろきょろとあたりを見回す。イヤな予感がした。
「さあ……これだけ広い草原ですからね。トラとかライオンとかいるのかもしれません……」
「ま……まさかぁ」と、言いつつも、ここがどこだか判らない以上、それもあり得ない話ではないような気がしてくる。
しばらく静寂。聞こえてくるのは、風が揺らす草の音だけ。空耳だったのかな?
そう思った瞬間!
がばっ! と、どこから現れたのか、突然目の前に巨大な影が立ち塞がった!
クマ!? それが第一印象。身長は2メートルをはるかに超えていて、全身灰色の毛皮、両手には鋭い爪があり、大きく開けた口からは、これまた鋭い牙が見えている。
…………。
第一印象じゃない! これはどう見ても、本物のクマだ!
逃げなきゃ! と思った。でも、クマが、がうっ! と、大きな声で吼え、それであたし、金縛りにでもあったかのように動けなくなる。
「灰色のクマって、グリズリーでしたっけ?」事態を把握していないのか、のんきな声で言う美咲。
「クマの種類なんてどうでもいいでしょ! 逃げないと!」
「ダメですよ。クマは本能的に、逃げるものを追いかけるんです。だから、ヘタに逃げると、逆に襲われます。ちなみに、クマは100メートルを7秒台で走るそうです。先輩、逃げ切れる自信ありますか?」
7秒……もちろんムリだ。「じゃあ、どうするの? 死んだふり?」
「逃げるよりはマシだと思いますけど、クマは好奇心旺盛ですからね。死んだふりをしたら、いじくりまわされると思いますよ?」
いじくりまわされる……それもイヤだな。
じゃあ、戦うか?
一応あたしたちは、歌って踊れる戦乙女・アイドル・ヴァルキリーズのメンバーである。戦乙女の名が示す通り、ヴァルキリーズのメンバーは、ほとんど全員、なんらかの武術の心得がある。美咲は空手の達人だし、あたしは剣道二段だ。とは言え、今は竹刀も木刀も持っていない。美咲は空手家だから武器は必要ないけれど、それでも本物のクマ相手に戦うなんてムリだろう。
「クマに遭ったときは、とにかく刺激をしないようにして、ゆっくりと後じさりする……だったと思います」
だったと思います、ってところが何とも頼りないけど、ここは美咲を信じるしかなさそうだ。あたしは、動かない身体に懸命に脳から指令を送り、ゆっくりと後退する。
でも。
がぁ! クマがよだれを垂らしながら大きく吼え、そして、右手を振り上げた。ヤバイ! あんな大きな手で殴られたら、頭がい骨陥没、もしくはその鋭い爪で八つ裂きだ!
「ダメです! 逃げてください!」
と、美咲が叫んだので、瞬間、あたしたちは駆け出した。まさに間一髪。ブン! と、クマの腕が空を切り裂いた。
なんとか強烈な一撃をかわすことはできたけど、相手はあのウサイン・ボトルよりも2秒も早く100メートルを走ることができるらしい。あたしなんかに逃げられるか? なんて、今さら考えても仕方が無い。とにかく逃げろ!
しかし、あたしの目の前に、別の巨大な影が立ち塞がった。またクマ!? と思ったけど、今度のはもっと大きかった。クマの倍以上はある。つまり、5メートル近い? ありえないでしょ!?
あたしと美咲、呆然とその巨体を見上げた。緑色の毛皮に覆われたその動物は、大きさを無視すればサルのようだった。
「大昔の映画で、こんなのいましたよね。少し前にリメイクされたヤツです」と、美咲。
そんなわけないでしょ、と、ツッコむことはできない。だって、目の前のその大ザルは、色こそ違うけど、まさに映画のキングコングそのものだ。
緑キングコングは雄叫びをあげながら両手で胸を叩くと、あたしたちに向かって、その巨岩のような拳を振り下ろしてくる! これまた間一髪で、あたしたちは避けた。ズン! と、地響きを立て、拳が地面に食い込んだ。
これは、いったい何なの!? 前門のトラ、後門のオオカミ、ならぬ、前門のクマ、後門のキングコング!? ワケわかんないけど、とりあえず逃げ道は横しかない! あたしたちは同時にかけ出した。
イヤな予感はしていた。そして、それが的中。
がばっ! っと、またまた目の前に現れる影!
……でも、今度の影は小さい。あたしたちとあんまり変わらない。だけど、その姿はクマやキングコング以上にわけが判らなかった。現れたのは老婆だった。しわだらけの顔に、長い鉤鼻、円錐型でつばの広い帽子とブカブカの赤い服。それだけならただの派手なバアさんだけど、おかしいのは顔色。なんと、濃い紫色をしている。冬の海で泳いだってあんな色にはならない。さらにおかしなことに、何とこのバアさん、ほうきにまたがって空を飛んでいるのだ。
それは、童話なんかに登場する魔女の姿そのままだ!
もはや完全にパニックに陥ってしまったあたし。ムラサキバアさんはあたしに人差し指を向け。何やらぶつぶつと呟いた。次の瞬間、指先から炎が噴き出した! ちょっと! ウソでしょ!?
「危ない!」
美咲が叫び、あたしを押し倒した。またまた間一髪で、なんとかあたしは丸こげにならずに済んだ。
でも、これはいったい何なのよ!? クマにキングコングに魔女!? 誰でもいいから説明して!
「グリズリーにコングにまほうおばば……? これはまさか!?」
いや、前言撤回! 美咲以外の誰か、説明して! 今、この娘のボケにツッコミ入れる余裕なんて無いの!
そんなあたしの心の叫びは、もちろん届かない。
「これはまさか……ドラクエ3のモンスターでは!?」
どうだ! と言わんばかりの美咲を無視し、「で!? これからどうするの!?」
後ろからはクマと緑キングコングが迫る。目の前には炎を操るムラサキバアさん。まるで状況が理解できないけど、まさしく絶体絶命!
「大丈夫です! 相手がドラクエ3のモンスターなら、きっと、勇者たちが助けてくれます!」
「んなこと言ってる場合じゃなあーい!」
あたしが叫ぶと同時に、クマと緑キングコングとムラサキバアさんが一斉に襲いかかる! もうダメだ! あたしは目を閉じた。
でもそのとき、奇跡が起こった。
ガン! 鈍い音。
でも、どこも痛くない。何も感じなかった。クマや緑キングコングに殴られたわけじゃなさそうだ。恐る恐る目を開けると。
そこには、2人の男の人がいた。
クマと緑キングコングの一撃を受け止めてくれている。
助かった! と、思ったけど。
その2人の恰好を見て、あたしの混乱は、さらに大きくなる。
1人は、がっしりした体格の人。なんと、金属製の鎧に身を包み、頭には兜、右手には巨大な斧、左手には、緑キングコングの一撃を受け止めた盾。中世ヨーロッパの騎士のような格好だ。
もう1人はスラっとした長身の少年。鎧こそ着てないけど、青と黄色の服は、どこか中世の時代を思わせる。右手には幅の広い剣、左手にはやっぱり盾を持って、クマの攻撃を受け止めていた。髪の毛は逆立ち、額には青い宝石のはめ込まれたバンドをしている。
この格好は、まさか!?
「戦士と勇者ですね!?」美咲が叫んだ。
そうなのだ。彼らは、美咲が遊んでたドラゴンクエスト3の戦士と勇者の恰好そのままだ!
これは一体、何が起こったの?
頭をよぎる、1つの仮説。
まさかここは、ドラクエ3の世界では!?
――――。
いやいやいや。あり得ないでしょ。この2人は、ただのコスプレマニア。そうに決まってる。そういうことにしよう。うん。
ドラクエ3の戦士と勇者のコスプレをした男の人は、うりゃぁ! と気合を入れ、クマと緑キングコングを押し返す。ずしん、と、地響きを立てて地面に転がる2匹。ドラクエ3の戦士と勇者のコスプレをした2人(めんどくさいから、「戦士」と「勇者」と呼ぶね。でも、信じてるわけじゃないよ)は、それぞれの獲物に向けて武器を振り下ろした。 ザシュ! 飛び散る血しぶき……と思ったけど、実際は何も飛び散らなかった。2匹は断末魔の悲鳴とともに、まるで煙のように消えてしまった。何が起こったのか、さっぱり判らない。
――そうだ。ムラサキバアさんは?
振り返ると、そこには2人の女の人が、ムラサキバアさんの前に立ちふさがっていた。その姿を見て、頭が痛くなった。1人はドラクエ3の僧侶のコスプレ、もう1人は、同じく魔法使いのコスプレだった(これも面倒なので、「僧侶」と「魔法使い」と呼ぶ)。
魔法使いが何か呟いている。それを見たムラサキバアさんも、負けじと何か呟く。さっきの炎を出すのか? でも、魔法使いの方が早かった。杖から、巨大な火の玉が吹き出した。それがムラサキバアさんを包み込む。悲鳴を上げるムラサキバアさん。トドメは僧侶だ。同じく何か呟いた。それは鋭い風だった。刃となり、ムラサキバアさんの身体を切り裂いた。丸コゲの上にバラバラ。グロいな……と思ったけど、こっちもさっきの2匹と同じで、煙のように消えてしまった(もちろん燃え尽きたってことじゃないよ)。
全ては、あっという間の出来事だった。どうやら、助かったようだ。
「2人とも、大丈夫ですか?」勇者が言ったけど、混乱状態のあたしは、反応することができない。
代わりに美咲が応える。「はい! 大丈夫です! ありがとうございました!!」
「ここは凶暴なモンスターが出没して危険です。近くにサマンオサの城下街がありますので、ご案内しましょう」
……サマンオサ? 聞きなれない地名だ。少なくとも、都内には無いと思う。って言うか、サマンオサって変な地名だな。まるで、外国みたい。
でも。
なんとなく聞き覚えがあるような。うーん。何だっけ?
「はい! お願いします!」
あたしと違って、美咲は、まるで全てを理解しているかのような口調だ。
「では、こちらへ」
勇者一行は歩き始めた。その後に美咲が続く。1人取り残されるあたし。
「若葉先輩? 何やってるんですか? 行きますよ?」
美咲に呼ばれ、我に返る。慌てて追いかけた。
あたしは勇者たちには聞こえないように、美咲に訊く。「ねえ。これ、何なの? いったい何が起こってるの?」
「何って、ですから、ドラクエ3ですよ。あたしが遊んでたじゃないですか」
「ドラクエ3は知ってるわよ。あたしが訊いてるのは、今、あたしたちの周りで何が起こってるのか、ってこと」
「ですから――」美咲、まるで小さな子供に諭すかのような口調で言う。「ここは、ドラクエ3の世界なんです」
「――――」
言葉が出ないあたし。
実はあたしも、さっき、それを考えた。勇者と戦士の姿を見たとき、一瞬頭をよぎった。
でも、そんなことってあり得ないでしょ?
美咲は続ける。「さっきのモンスターは、グリズリーにコングにまほうおばば。ドラクエ3の敵です。あの4人は、勇者、戦士、僧侶、魔法使い。ドラクエ3では一番オーソドックスなパーティですね。で、サマンオサは国の名前。マップで言うと、右下の方にある街です。覚えてないですか?」
そう言われて、おぼろげながら思い出す。確かにそんな名前のモンスターがいたし、あたしもその4人でパーティーを組んで冒険したし、サマンオサって国があったような気がする。
じゃあ、何? これってつまり、あたしたちは、ドラクエ3の世界にいるってこと!?
「そうですよ。それ以外に考えられないじゃないですか」当然、という顔の美咲。
そ……そ……。
「ん? 何ですか?」
「そんな……バカなああぁぁ!!」
地平線の彼方まで届くほどの声で、あたしは叫んだ――。