ドラクエ探偵倶楽部   作:ドラ麦茶

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第2話・不可能な殺人 #01

 勇者が宿屋で殺される、なんて異常事態はあったものの、なんとか王様に化けていたモンスターを退治した勇者一行は、さらに旅を続ける。そして、幽霊船や、火山のそばの長い長い洞窟などの難所をくぐりぬけ、不死鳥ラーミアの背に乗って魔王の城を襲撃し、ついに、魔王バラモスを倒したのだった。

 

 もしかしたらこれで元の世界に帰れるか? とも思ったけれど、そう甘くは無かった。まあ、それも当然だろう。物語は、これで終わりではないのだ。

 

 喜び勇んで故郷の街・アリアハンに戻った勇者たちを待ち受けていたのは、真の魔王・ゾーマの登場だった。世界はまだ救われていない。勇者一行はそのゾーマを追い、バラモスのお城のそばにあるギアガの大穴という場所から、別世界・アレフガルドへ降り立った。当然あたしたちも、元の世界に帰る手段を求め、彼らの後を追った。

 

 

 

 

 

 

「――それにしても、アリアハンの人たちも、勇者一行も、かわいそうと言いますか、めでたいと言いますか。この後大魔王・ゾーマが現れるというのに、みんな、あんなにはしゃいじゃって。何度も教えてあげようと思いましたよ」

 

「そういうことを言わないの。みんな一生懸命やってるんだから」

 

「大体、普通気付きませんか? 魔法だって全然覚えてないですし、1と2にだって、真のラスボスが登場してるんですから」

 

「そんなことよりさ。あたしたち、一体いつになったら元の世界に帰れるの?」

 

「まあ、そう心配しないでください。そのうち何とかなりますよ。せっかくここまで来たんですから、最後まで行ってみましょう」

 

 相変わらずこの世界の生活を満喫している美咲。まあ、かく言うあたしもだいぶ慣れては来たけれど、それでも帰る手段がいまだ不明と言うこともあり、不安は消えない。

 

 今、あたしたちはラダトームという街の宿屋にいる。勇者たちとは別行動中。彼らは、街の近くでモンスターと戦い、レベル上げ作業をしている。それにあたしたちが同行してもしょうがないので、こうして宿屋でのんびりしてるってわけ。

 

「そろそろ、みんな戻ってくるんじゃないですか?」

 

 美咲が言ったので、あたしは時計を見た。夕方5時過ぎ。でも、窓の外は真っ暗だ。

 

 あたしたちがこの世界に来てから5日経つけれど、その間、太陽が昇ることは無かった。もちろん、極夜(北極圏や南極圏で、冬、夜が明けないことをこう呼ぶらしい。要するに、白夜の反対)というわけではなく、ここ、アレフガルドは、魔王のせいで、決して朝が来ない世界になってしまったのだ。ま、そのおかげで、以前の世界のように、ルーラの呪文を唱えるたびに時計が狂うということは無くなったけど、でも、ずっと夜だと、どうも調子が狂う。早く魔王を倒して、朝が来るといいな。

 

「そして、魔王を倒すと、今度は夜が来なくなるんですけどね」

 

 美咲が笑う。そう言えば、このドラクエ3の物語は1と2に続いていて、その2作には昼夜の概念は無かったかな。

 

 なんてことを言ってるうちに、窓の外に、勇者たちが帰って来る姿が見えた。あたしたちは宿のロビーまで迎えに行く。たくさんモンスターを倒してきたのだろう。みんな、ズタズタのボロボロだけど、顔は満足そうだ。いい感じでレベルアップできたみたいだ。

 

「おかえりなさい。調子はどうでした?」と、美咲。

 

「ああ。若葉さん、美咲さん。まあまあですよ」勇者が嬉しそうに答えた。「上の世界と比べて敵は格段に手ごわいですが、その分獲得できる経験値が多く、今日1日で、全員がレベルアップできました。お金もかなり貯まったので、新しい武器も買えました。見てください」

 

 そう言って勇者は、1本の剣を取り出した。細身で軽そうな剣だ。あたしみたいな素人が言うのもなんだけど、ものすごく弱そうな剣だ。お金を貯めてまで買うような品物には見えない。

 

「はやぶさの剣ですよ」と、美咲が言った。「攻撃力は低いですが、1ターンに2回、攻撃できるんです。条件にもよりますが、防御力の低い敵に対しては、あらゆる武器の中で最強です。値段は2万5千ゴールド。売ってる武器の中では、3番目に高価な品物ですね」

 

 相変わらずムダに豊富な知識をひけらかす美咲。へえ、と、とりあえず感心だけしておく。

 

 勇者たちはそのまま宿屋のカウンターへ行き、チェックインを済ませた。

 

「では、明日も朝9時に集合ということで」

 

 そして、勇者は2階の部屋へと上がって行った。その後に、僧侶と魔法使いが続く。

 

 さて、あたしも部屋に戻ろうかな。そう思ったけど。

 

 カウンターの前で、戦士が立ちつくしていた。じっと、何かを見つめている。それは、睨んでいると言ってもいいような、鋭い視線。

 

 視線の先を追うと……2階へ向かう勇者がいた。

 

 勇者を見ている……? まあ、彼らは仲間同士だから、別に見てもいいんだけど……なぜだろう。その戦士の目を見ていると、妙に不安になってくる。その視線には、憎しみとか、殺意とか、そんな負の感情が込められているような気がする。

 

「あの……どうかしましたか?」思い切って戦士に声を掛けた。

 

「え? あ、いや」戦士は、慌てて勇者から目を逸らした。「失礼。なんでもないんだ。さて、俺も部屋に戻るとするか」

 

 そう言って、戦士も階段を上がって行った。あたしの胸には、言いしれぬ不安だけが残った。

 

 戦士の後姿を見ながら、美咲がニヤリと笑った。「今夜、何か起こりそうですね」

 

「何かって、何が?」

 

「もちろん、事件ですよ」嬉しそうな口調だ。

 

「そういうこと言わないの。まるで、悪いことが起こるのを期待してるみたいよ?」

 

「みたい、じゃなくて、期待してるんです。だって、あのサマンオサの事件以来、何も起こらないんですもん。もう退屈で退屈で。明日の朝が楽しみですね。ひっひっひ」

 

 悪趣味な笑い声を上げながら、美咲も2階の部屋へ戻った。何という不謹慎なヤツだろう。あんな娘と仲間だと思うと恥ずかしい。元の世界に戻ったら、縁を切った方がいいかも。

 

 ま、不安だけど、心配してもしょうがない。あくまでも悪い予感がするだけだ。当たるとは限らない。前回の事件以降は、みんな仲良くやってきたんだから、大丈夫でしょ。そう自分に言い聞かせ、あたしも部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 でも――。

 

 あたしの不安と美咲の期待は、残念ながら当たってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

「若葉さん! 美咲さん! 大変です!」

 

 朝、僧侶が部屋のドアを叩く音で、あたしたちは目を覚ました。美咲は「待ってました!」とばかりに跳び起き、ドアを開ける。

 

「勇者が! 勇者が!」僧侶はかなり焦っていた。

 

「落ち着いてください! 勇者が、どうしたんですか!?」心配そうなセリフとは裏腹に、目は輝いている美咲。

 

「勇者が――部屋で死んでいるのです!」

 

「なんですって!?」

 

 一応驚いた演技だけをして、美咲は部屋を飛び出して行った。はあ。やっぱりこうなったか。仕方が無い。あたしも美咲を追って、部屋を出た。

 

 勇者の部屋は201号室。前回のサマンオサの宿と同じような4畳半ほどの狭い部屋に、ベッドがあるだけ。その上に、全身傷だらけの勇者が倒れていた。そのそばに戦士と魔法使い。戦士と目が合う。彼は首を振り、目を逸らした。美咲が勇者の死体を確認する。「第1発見者は、誰ですか?」

 

「俺だ」戦士が手を上げた。

 

「状況を詳しく説明してください」

 

「ああ。今朝、いつものように勇者と一緒に朝食を食べようと、部屋に迎えに行ったんだ。だが、何度呼びかけても返事が無い。不審に思いドアノブをひねると、鍵はかかってなかった。中を見ると、勇者が死んでいたので、慌てて僧侶と魔法使いを呼んだってわけさ」

 

「ドアに鍵はかかってなかったんですね?」

 

「ああ。その通りだ」

 

 美咲は部屋を見回す。前回事件が起こったサマンオサの宿と違い、この部屋には窓もあり、そこも鍵はかかっていなかった。どうやら今回は密室殺人ではないようだ。

 

「勇者が殺された原因に、心当たりがある人はいますか?」

 

 美咲の質問に、みんな首を傾けた。見当もつかない、そんな表情。

 

「そうですか……判りました」美咲は勇者の死体を振り返る。「かわいそうですね……いったい誰が、こんなヒドイことを……」

 

 いったい誰が……言葉とは裏腹に、目はすでに1人の男を疑っているように見える。その男とは、もちろん戦士。それも、理論的な推理に基づくものではなく、昨日、ロビーで勇者を睨んでいた、というだけの理由だろう。

 

「安心してください、あなたを殺した犯人は、必ず、この美咲ちゃんが見つけてみせます!」

 

 美咲は高らかに宣言した。

 

 

 

 

 

 

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