ドラクエ探偵倶楽部   作:ドラ麦茶

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第2話・不可能な殺人 #02

 捜査を開始したあたしたちは、宿屋のおじさんから、いきなり有力な情報を聞くことができた。昨夜、戦士と勇者が2人だけで出かけるのを見たと言うのだ。

 

「夜の8時過ぎだったと思います。見かけただけなので、どこに出かけたのかは判りません。帰って来たのは11時少し前でした。戦士が棺桶を引きずって、2階に上がって行くのを見ました」

 

「棺桶? それは間違いありませんか!?」驚いて訊くあたし。

 

「ええ。間違いありません」

 

 あたしたちはその情報をもとに戦士を問い詰めたが、戦士は否定した。

 

「俺が勇者を殺したと言うのか? 冗談じゃない」

 

「でも、宿屋のおじさんが、あなたが勇者と2人で出かけて行ったのを目撃しているの。帰って来たときは、あなたが棺桶を引きずっていた、とも言ってるわ」あたしはさらに問い詰めた。

 

「何かの間違いだろう。確かに俺は昨夜、勇者と2人で出かけた。でも、俺はすぐに宿に戻った。確か、8時半前だったかな? 勇者とは途中で別れたんだ。別れた後、あいつがどうしていたのかは知らない。俺はずっと部屋にいたからな」

 

「宿屋のおじさんは、間違いなくあなただったと言ってるわ」

 

「だから、見間違いだって言ってるだろう。大体、俺に勇者を殺せると思うかい?」

 

「――どういうこと?」

 

「俺と勇者が戦った場合、どちらが勝つと思う?」

 

 どちらが勝つか、と言われても、あたしに判るはずが無い。助けを求めるように美咲を見る。

 

 それまで黙っていた美咲、大きく息を吐くと。「あたしも、それをずっと考えていたんですよ。確かに、戦士に勇者を殺せるとは思えません」

 

「そうなの? 勇者って、そんなに強いの?」

 

「はい。パラメーター的にはいい勝負だと思いますけど、決定的な違いは、勇者は呪文を使える、ということです。どう考えても、戦士に勝ち目はありません」

 

 そういうものなのだろうか? なんか腑に落ちないけど、美咲が言うのならそうなのだろう。

 

 戦士は満足げに頷いた。

 

 結局あたしたちはそれ以上戦士を追求することはできず、釈放するしかなかった。その後も捜査を続けるけど、他に有力な手掛かりを得ることはできず、捜査は暗礁に乗り上げてしまった。

 

「うーん。お手上げだね。今回の事件は、外部の者の犯行として取り扱った方がいいかもね」部屋で捜査の資料を整理しながら、あたしは言った。

 

「そんなわけないじゃないですか。犯人は戦士に決まってます」断言する美咲。

 

「でも、戦士が勇者を倒すのは不可能なんでしょ?」

 

「それはそうですけど、あくまでも、まともに戦ったら、の話です。何か、戦士でも勇者を倒す方法があるのかもしれません」

 

 美咲、あくまでも戦士犯人説を捨てないらしい。まあ確かに、事件に関する証言が宿屋のおじさんの証言しかない以上、それを信じて捜査するしかないような気はする。

 

「で、その方法って?」あたしは訊いた。

 

「それを今から考えるんです。とりあえず、2人に関する資料を見せてください」

 

 言われ、あたしは資料を取り出した。2人のパラメーター、いわゆる「強さ」に関する資料だ。

 

 

 

▼戦士▼

 

性別:男

レベル:33

HP:300

MP:0

力:123

素早さ:30

体力:158

賢さ:28

運の良さ:29

最大HP:300

最大MP:0

攻撃力:200

守備力:130

EX:275853

E ドラゴンキラー

E 大地の鎧

E 力の盾

E 鉄仮面

  最後の鍵

  命の石

 

 

 

▼勇者▼

 

性別:男

レベル:33

HP:0

MP:96

力:93

素早さ:130

体力:131

賢さ:50

運の良さ:74

最大HP:264

最大MP:96

攻撃力:98

守備力:210

EX:277489

E はやぶさの剣

E 刃の鎧

E 勇者の盾

E 鉄仮面

E 星降る腕輪

  稲妻の剣

  祈りの指輪

  オリハルコン

 

 

 

「戦士は力の盾を持ってるんですね。一応、回復はできるわけですか……」資料にざっと目を通した美咲が言った。

 

「力の盾って?」

 

「盾の中では最高級の物の1つです。守備力も高いですが、最大の特徴は、戦闘中に使うと、ベホイミの効果が得られる、ということですね」

 

「ベホイミって、回復呪文だよね。じゃあ、戦士にも勝ち目があったってこと?」

 

「いえ、それは無いです」美咲は即座に否定した。「勇者のレベルは33。すでにベホマを覚えているレベルです。回復系最強の呪文ですね。1度唱えるだけで、最大HPまで回復することができます。対する力の盾は、回復量は約85。勇者の攻撃力を考えると、とても回復が追いつきません。これだけじゃ、戦士が勝てるとは思えませんね」

 

 よくわかんないけど、とりあえず頷いておくあたし。

 

 …………。

 

 なんだ? 美咲、じっとあたしを見つめている。

 

「何? 気持ち悪い」

 

「何、じゃないですよ。早く推理してください」

 

「そんなこと言われても、あたし、ドラクエのこと、そんなに詳しくないし、わかんないよ」

 

「わかんなくてもやるんです。じゃないと、話が進まないじゃないですか」

 

 またか。美咲は、あたしを引き立て役だと思っている。要するに、間違った推理をして捜査を混乱させるのが、あたしの役目ってわけ。

 

 はあ。しょうがないな。あたしは資料を見て、無い知恵を絞る。

 

 まず、2人の攻撃力に注目してみた。攻撃力は、敵に与えるダメージの目安だ。高ければ高いほど、高いダメージを与えることができるはず。

 

「戦士の攻撃力が200なのに対し、勇者の攻撃力は98。ずいぶん低いよね。これだと、大きなダメージを与えられないから、戦士にも勝ち目はあるんじゃない?」とりあえず適当なことを言う。

 

「いいえ、ムリですね。確かに攻撃力は低いですが、それは、はやぶさの剣を装備しているからです」

 

 そっか。昨日言ってたな。その剣を装備すると、攻撃が2回できるようになるんだ。

 

「それに、勇者は稲妻の剣も持ってます。ドラクエ3では戦闘中にも武器の変更ができますから、はやぶさの剣で思ったようにダメージを与えられなかった場合は、装備を変更すればいいんです。稲妻の剣装備なら、攻撃力は178。戦士の守備力を考えれば、十分すぎる数値ですね」

 

 どうやって178という数値を出したのかは判らないけど、まあ、美咲の言うことだから間違ってはいないだろう。だとすると他には……うーん。

 

 あたしは戦士の持ち物に注目した。「この、『命の石』っていうのは何? なんか、強いアイテムなの?」

 

 その名前から、持っていると死ななくなるとか、そんなイメージが沸く。

 

「『命の石』は、ザキ系の呪文から身を護るためのアイテムです」

 

「ザキ系?」

 

「即死の呪文です。どんなにHPが高くても、その呪文が効くと、1発で死んじゃうんです。でも、命の石を持っていた場合、石が身代わりになって砕け、助かるんですよ。便利な道具ですが、今回の事件とは関係ないでしょうね。勇者はザキ系の呪文は使えません。命の石は、ザキ系の呪文以外には、全く何の効果もない道具ですから」

 

 そっか。うーん。難しいな。

 

 他に戦士に勝ち目があるとしたら……。

 

 …………。

 

 そうだ。確か、ごく稀に、通常の攻撃力以上に高いダメージを与えることができる攻撃があったはずだ。えーっと……。そうだ。会心の一撃とか、痛恨の一撃とかいうやつ。戦士の攻撃が、たまたま会心の一撃だった、ってのはどうだろう? それなら、勇者を倒せるかもしれない。

 

「うーん。それも考えられません」美咲、やっぱり否定する。「武闘家ならともかく、戦士が会心の一撃を出す可能性は極めて低いです。そんな運任せで、戦いを挑んだりはしないでしょうから」

 

 まあ、それはそうだな。

 

「それに、仲間同士の攻撃で、会心の一撃は出ないようになってるんです」

 

「へ? そうなの?」

 

「はい。子供のころ、眠った仲間を起こそうとして攻撃したら、会心の一撃や、あるいは毒針の急所突きが出て、死んでしまった、なんてことを言ってた子がいましたけど、あれは全部ウソなんです。そうならないようにプログラムされてます」

 

 よく判らないけど、とりあえずあたしは、「そうなんだ」と、頷いておいた。

 

「……まあ、先輩の推理ならそのあたりが限界でしょうね。お疲れ様でした」美咲、相変わらずの上から目線で言った。なんだかあたしの推理を否定するとき、嬉しそうなのは気のせいか。

 

 まあいいや。やっとあたしの推理タイムが終わった。わかりっこないのに推理するのは、意外と大変なんだよね。まして、考えてる間、美咲はずっと、「正しい推理はしないでくださいね」という目で睨んでいるのだ。

 

 そう。あたしの役目はあくまで間違った推理をすることであり、万が一にも正解を導き出してはいけないのだ。そんなことをすれば、美咲が泣くのは目に見えている。それが余計なプレッシャーとなり、疲れは倍増するのだ。

 

「で? あんたの推理はどうなの?」あたしは一応、訊いてみる。

 

「それが、さっぱり判りません」当然のように答える美咲。

 

「まあ、そうだろうと思ったけどね」

 

「実におもしろいです」

 

「おもしろくない。いい? あんたが事件を解決しないと、物語が進まないの。つまり、元の世界に帰れないのよ? ちゃんとマジメにやりなさい」

 

「判ってますよ。ええっと……」美咲は、再び資料に目を落とした。「パラメーター的にはほぼ互角。……いいえ。星降る腕輪を装備してますから、素早さと守備力は圧倒的に勇者の方が上。どんなに戦士のHPと攻撃力が上回っていても、これじゃあ戦士に勝ち目は無いんです。勇者が呪文を使うまでも無いんですよ」

 

 どうやら今回はかなり難しいようだ。パラメーター的にも勇者は戦士よりも強い。まして勇者は、ベホマをはじめとする各種呪文を使うことができる。この状態で、戦士はどうやって勇者を殺害することができたのか。謎は深まるばかりだ。

 

「何らかの方法で、勇者を眠らせたり、呪文を封じたりはできないの? そういうアイテムとか、ない?」あたしは思いついたことを適当に言う。

 

「眠らせたり、呪文を封じたり、ですか……」美咲、少し考える。「一応、夢見るルビーと妖精の笛がラリホー、雨雲の杖がマホトーンの効果を発揮しますけど……でも、そのセンもないでしょうね。夢見るルビーはとっくにエルフの女王に返してるはずですし、妖精の笛と雨雲の杖は、まだ取ってないはずです」

 

「そう。じゃあ、違うかな」

 

「そうですね。それに、仮に持ってたとしても、それだけじゃ決め手にはなりにくいと思います。ラリホーもマホトーンも、必ず効果が現れるわけじゃありません。確実性に欠けます」

 

 確かにそうだな。戦士は勇者と2人きりで出かけている。多分、最初から殺すつもりだったんだろう。恐らく、綿密に殺害の計画を立てたのに違いない。ラリホーやマホトーンなんて運任せの方法を選ぶとは思えない。もっと、確実な方法で、眠らせたり呪文を封じ込めたりできないと。

 

「……先輩、今、なんて言いました?」突然美咲が目を輝かせる。

 

「へ? えっと……もっと、確実な方法で、眠らせたり呪文を封じ込めたりできないと、って言ったけど」

 

「確実な方法で呪文を封じ込める……」

 

 突然、美咲の目つきが変わった。

 

「どうしたの、急に?」

 

 あたしの声に、美咲は答えない。何か考えている。

 

 そして、ペンを取り出し。

 

 床に何か書き始めた。

 

 

 

 3(x-1)-2(x+3)=6-(2x+3)……。

 

 3x-3-2x+6=6-2x-3……。

 

 …………。

 

 …………。

 

 

 

 なぜここで中1レベルの方程式が出てくるのかは謎だけど、美咲、真剣な表情で式を解いて行く。

 

 ものすごくゆっくりだけど。

 

 

 

 3x-2x+2x=6-3+3-6……。

 

 3x=0……。

 

 x=0……。

 

 …………。

 

 …………。

 

 …………。

 

 

 

 そして――。

 

 中学生なら数分で解いてしまう問題を、たっぷり10分かけて計算し終えた美咲。立ち上がり、顔に手を当て、ポーズを決めた。「トリックが判りました」

 

「答え間違ってるよ。x=4でしょ。てか、この方程式、何の関係があるの?」

 

 あたしのツッコミを、美咲はまたまた思いっきり無視をして続ける。「――この方法なら、戦士にも十分に勝ち目があります。いいえ。ほぼ100%、戦士の勝ちですね。早速みんなを集めてください」

 

 

 

 

 

 

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