ドラクエ探偵倶楽部   作:ドラ麦茶

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第2話・不可能な殺人 解決編

 あたしたちはさっそく戦士と僧侶と魔法使いを部屋に呼んだ。別に僧侶と魔法使いを呼ぶ必要は無いのだけど、人数が少ないと盛り上がりに欠けるとのことで、美咲があえて呼んだのだ。

 

「わざわざ呼び出して、いったい何の用ですの? こう見えても私、忙しいのですよ?」

 

「そうよ。あんたみたいな素人探偵が、いったい何をしようというのよ」

 

「そうだ。まさか、まだ俺のことを疑ってるんじゃないだろうな? 冗談じゃないぜ」

 

 みんな、口々に文句を言う。美咲はひと通りみんなの文句を聞き終えると、満足そうに頷き、そして、咳払いを1つ。

 

「皆さんにお集まりいただいたのは他でもありません。今回の犯人が判りました」

 

 美咲の言葉に、3人がまた騒ぎはじめる。それを制し、美咲は続ける。

 

「犯人はもちろんあなたです」そう言って、戦士を指差した。

 

「フン。バカなことを言うな。呪文が使えない俺に、どうやって勇者を殺せると言うんだ? 勇者はベホマを使うことができるんだぜ? どう考えたって、俺に勝ち目は無いだろ?」不敵に笑う戦士。

 

 それに対し、美咲も口元に笑みを浮かべる。「そうですね。あなたの言う通り、まともに戦えば、どう考えても勇者の方が勝ってしまいます。だからあなたは、実に巧妙な方法を用いて、勇者を殺害したんです」

 

「へぇ。面白いね。じゃあ、その巧妙な方法っていうのを、聞かせてもらおうじゃないか」

 

「いいでしょう。まず、2人が戦った場合、勇者最大のアドバンテージは、呪文が使えることです。勇者は攻撃呪文から回復呪文まで、実に様々な呪文を使いこなすことができます。特に、HPを最大値まで回復させるベホマは、勇者最大の武器と言っていいでしょう。他にもラリホーやライデインなど、強力な呪文は数多いです。戦士が勇者に勝つためには、まずはこれらの呪文をどうにかしないといけません」

 

「そうだ。でも、そんな方法があるかい? 俺は呪文を封じる道具なんて、持ってないぜ」

 

「そうですね。仮にそういう道具を持っていたとしても、呪文を封じ込める確率は決して高いとは言えません。戦士が勇者に勝つためには、もっと確実に、100%呪文を封じ込める必要があります」

 

「そんな方法があるのなら、ぜひとも教えてほしいね。今後の冒険が、格段に楽になる」

 

「もちろんあります。でも、この先の冒険には使えませんけどね」

 

「だから、早くその方法を言ってみろよ!」

 

 のらりくらりと説明をする美咲に、戦士はいら立ちを隠せず、言葉を荒らげた。美咲は特に動じた様子もなく、相変わらず余裕の笑みを浮かべている。それがまた、戦士の感情を更に逆撫でするのが判った。

 

 やがて美咲は、ゆっくりと口を開いた。「1つ質問があるんですけど、あなた、その命の石は、どこで手に入れました?」

 

 その瞬間、戦士の顔色が明らかに変わった。核心に触れられたような、そんな表情。

 

「どうしました? 言えませんか?」ネズミをいたぶるネコのような表情の美咲。

 

「これは……その……拾ったんだ。モンスターを倒したときに……」平静を装おうとする戦士だけど、動揺は隠しきれない。

 

「そうですか。何のモンスターですか?」

 

「そんなの、いちいち覚えてねぇよ!」

 

「教えてあげます。命の石を持っているモンスターは、爆弾岩とホロゴーストと魔王の影の3匹です。このラダトーム周辺で現れるモンスターはそのうち1匹だけですけど、どのモンスターでした?」

 

 ホント、そういうことよく覚えてるよ。相変わらずのムダな記憶力に感心するあたし。逆に戦士は、そのムダな記憶力のおかげで追い詰められようとしている。額に玉のような汗を浮かべ、目の下がぴくぴくと震えている。

 

「判りませんか? でしょうね。あなたはその命の石を、モンスターを倒して手に入れたわけじゃない。宝箱に入ってたんです。このラダトーム周辺で命の石が入ってる宝箱があるのは、どこでしょう?」

 

「――――」

 

 戦士は答えない。その場所が今回の事件に大きくかかわっているのだろうか? 恐らく、そうなのだろう。

 

 僧侶と魔法使いは顔を見合わせ、どこだったかしら、と、記憶を探っている。さすがにそこまでは覚えていないようだ。もちろん、あたしに判るはずもない。

 

「じゃあ、もっと判りやすい質問に変えましょう。勇者の装備している盾――勇者の盾は、どこで手に入れました?」

 

 美咲の言葉に、僧侶と魔法使いの表情がはっとなる。戦士は悔しそうな表情で唇を噛んだ。やっぱりあたしだけがついて行けない。

 

 美咲は、うろたえる戦士を満足げに見つめ、そして。

 

「そうです! 勇者の盾が手に入るのは、ラダトーム北の洞窟――通称『魔王の爪痕』です!」

 

 ばーん! という効果音が聞こえて来そうな勢いで宣言する美咲。相変わらずあたしには、それがどういうことなのか判らないけれど、僧侶と魔法使い、目からうろこが落ちたみたいに感心している。

 

「判ってない若葉先輩のために説明すると、『魔王の爪痕』とは、大魔王ゾーマがこの世界に現れたときにできた、全てを拒む底なしのひび割れがある洞窟です。勇者最強の盾、勇者の盾がある洞窟なんですが、その洞窟の最大の特徴は、洞窟内は呪文が一切使えない、ということです」

 

 呪文が一切使えない? そんな場所、あったかな?

 

「他には、ピラミッドの地下があります。黄金の爪が手に入るところです。こっちの方が有名ですね」

 

 少し考えて思い出した。確かにそんな場所があった気がする。そうだ。何も無いところを調べると、階段があるんだ。そこを下りると、黄金の爪という高価な武器があるけど、その武器を持ってると、やたらとモンスターが現れるんだ。呪文が使えないうえにモンスターが大量に現れるから、ものすごくキツイんだよね。あたし、全滅した記憶がある。

 

 美咲は、視線を戦士たちに戻した。「勇者は、その『魔王の爪痕』で殺されたんです。勇者は焦ったでしょうね。普通に戦えば戦士に負けるはずは無い。でも、魔王の爪痕では、全ての呪文がかき消されてしいます。当然薬草なんて持ってないでしょう。対する戦士は、ベホイミの効果を発揮する力の盾を持っています。完全に戦士の方が有利です」

 

 美咲の言葉に、戦士は悔しそうに首をうなだれた。ついに観念したか? そう思ったとき。

 

「フ……そんなの、ただの推理でしか無いな」戦士は肩を揺らし、不敵に笑った。「俺の守備力を見ろよ。たった130しかないんだぜ? 対する勇者は、攻撃力は98だけど、はやぶさの剣の効果で2回攻撃できる。力の盾がベホイミの効果を発揮するとは言っても、その回復量は所詮100にも満たない。これじゃ、とても回復が追いつかないぜ。そして、素早さじゃ圧倒的に勇者の方が上なんだ。攻撃はまず、勇者の方から始まる。俺は常に後手に回らないといけない。だったら、呪文が使えなくたって、勇者の方が有利だろ?」

 

 戦士の言葉に、僧侶と魔法使いは、確かにそうだわ、と、頷いた。それを見て、戦士は、満足げに微笑んだ。

 

 だけど、美咲の余裕の笑みは消えなかった。「それが、この事件の最も巧妙なところですね。賢さ28なのに、よく考えたと思います。敵ながら、あっぱれとしか言いようがありません」

 

 何? と、美咲の言葉に期待感を膨らませる僧侶と魔法使い。

 

 美咲は言葉を継いだ。「あなたが勇者を呼び出したからには、先頭を歩いていたのは、当然あなたですよね?」

 

「そうだ。でも、別に今回だけじゃない。俺はいつも先頭さ。勇者が2番目。それがどうしたって言うんだ!」

 

 美咲は、余裕に満ちた目で戦士を見つめ、そして、ゆっくりと口を開いた。「先頭を歩いているあなたは、防御攻撃を行うことができるんです!」

 

 ばばーん! 部屋の中にさらなる衝撃が走る。戦士は、「な……何故それを……」と、言葉を失った。当然のことながらあたしには何のことか判らないので、美咲の説明を待つ。

 

「防御攻撃とは、防御と攻撃を同時に行う方法です。コマンドのとき、1度防御を選んでおいて、その後すぐキャンセルし、それから、戦うなり、呪文なりの通常の行動を選ぶんです。そうすると、防御しながらそれらの行動を行うことができます。ドラクエ3じゃ、有名なウラ技ですね」

 

 へぇ。そんなのがあるんだ。知らなかった。防御は確か、ダメージを半分に減らせることができる行動だ。防御しながら攻撃できるのなら、便利すぎる技だな。

 

「この技の最大の欠点は、最後尾の人は使えない、ということですね。最後の人が防御を選んでしまうと、その時点で戦闘が始まってしまいますから。そうですよね?」美咲は魔法使いに同意を求めた。彼女は、常に最後尾を歩いているのだ。

 

「その通りよ。最後尾は最も攻撃されにくいけど、最もダメージが大きいの。いつも迷惑してるわ」不満そうに言う魔法使い。

 

 戦士はぎりぎりと奥歯を噛み、悔しそうに美咲の姿を見つめている。

 

 その姿を見て、美咲は満足げに笑った。

 

「あなたは勇者を誘い、2人で魔王の爪痕に行きました。先頭を歩くのはあなたです。2人しかいませんから、最後尾は勇者ということになります。防御攻撃をすることはできません。どうです? 力の盾に、呪文を使えない場所、そして、あなただけが行える防御攻撃。これだけ条件がそろえば、あなたにも勇者を殺害できます。さあ、観念してください!」

 

 美咲の言葉に、戦士はついに諦め、

 

「そうだ……俺がやった……俺がやったんだ!」

 

 涙を浮かべ、ガックリと膝をつき、罪を認めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後、戦士は勇者殺害の動機を告白した。

 

「例えば、新しい街に着いて、店に強力な武器が売ってるとするだろ? そうすると、その武器を装備するのは、いつも勇者が先なんだ」

 

 戦士は、そのことを常に不満に思っていたと言う。

 

 そう。戦士と勇者の装備できる武器や防具は、ほとんど共通している。でも、高価な武器や防具を2つも買う余裕はそうそう無く、購入されたものは、まず勇者が装備するというのが、パーティー内の暗黙の了解だったのだ。

 

「俺の装備は、いつも勇者のお下がりさ。使い古されたボロボロの装備を使う俺の気持ち、あんたたちに判るかい? でも、勇者はこのパーティーのリーダーだ。優先権がヤツにあるのは仕方が無い。そう言い聞かせ、俺は今まで我慢してきたんだ。でも! 今回、あいつは2万5千ゴールドも出してはやぶさの剣を買ったのに、それまで装備していた稲妻の剣を、俺に回さなかった。ついに、俺にはお下がりすらも回ってこなくなったんだ!」

 

 戦士は、たまった不満をぶちまけるかのように叫んだ。

 

「まあ、そうなりますね」美咲が言った。「はやぶさの剣は強力ですが、攻撃力自体は低いので、敵によっては効果が得られない場合もあります。予備の武器として稲妻の剣を持っておくのは、仕方ないと言えば仕方ないですね」

 

「おかげで俺は、いまだに市販品のドラゴンキラーだ。もちろんこれも、勇者のお下がりさ。情けないったりゃ無い」

 

 あたしは1人っ子だから判らないけど、常に兄姉のお古を着るはめになる弟や妹たちは、そのことをすごく不満に思っている、というのは、よく聞く話だ。

 

「それに、俺は聞いたんだ!」ドン! と、戦士は壁を殴りつけた。「勇者が……あいつが、俺のことを、のろまの役立たずだ、と、陰で言っていたのを!」

 

 のろまの役立たず……そりゃちょっとヒドイな。殺人は悪いことだけど、戦士の気持ちも判らないではない。

 

 戦士――体力と攻撃力に優れ、常にパーティーの先頭に立ち、戦いのときは、常に敵の攻撃にさらされている。彼の仕事は、みんなの代わりに敵の攻撃を受け止めることだと言っても過言ではない。高いHPは、そのためのものなのだ。

 

 でも、その心は、ガラスのようにもろいのかもしれない。

 

 のろまの役立たず――勇者は、大して悪意も無く、何気ない気持ちでそう言ったのかもしれない。でも、その言葉がどれだけ戦士を傷つけるのかは、本人でないと判らないのだ。

 

 あたしには、戦士が傷ついた気持ちが、痛いほど判った。

 

 と、美咲が戦士のそばに立った。

 

 そっと、肩に手を置く。

 

 そして、まるで聖母のように優しく微笑んだ。

 

「美咲さん――」

 

 戦士の顔に希望が宿った。その心が癒されていくのが判る。思いがけず差しのべられた救いの手――戦士はそう感じているに違いない。

 

 美咲は、戦士に向かって言った。

 

「まあ、それも仕方が無いですね。勇者は序盤、レベルアップが格段に遅いですが、後半はものすごく速くなります。レベル30を超えたあたりから、力やHPも戦士とあまり変わらなくなりますし、武器防具に関しては、戦士よりもはるかに強力なものが揃ってます。対する戦士は、この辺りからあまり役に立てなくなるんですよ。攻撃力もパッとしなくなりますし、何より、素早さが低いのが致命的ですね。HPが高くても守備力が低いからあんまり意味がありませんし、攻撃するのも遅いですし、その攻撃力も大したことが無い。あたしも、武闘家を仲間にしておくべきだったと、何度も後悔しました」

 

 美咲の言葉は、まるで毒針の急所攻撃のように、戦士の弱い心に突き刺さったのだった。

 

 トドメをさしてどうする……。

 

 

 

 

 

 

 その後、勇者はやっぱり教会に運ばれ、無事に生き返ることができた。

 

 今回の事件は戦士の情状が酌量され、罰金はナシ。蘇生料金1090ゴールドの負担だけで許された。

 

 そして、役立たずではあるものの、やはり今、戦士を仲間から外し、新しい仲間を育てるのは面倒だ、という理由で、戦士はパーティーに残ることとなった。でも、魔王を倒した後、どうなるかは判らない。

 

 

 

 ぎくしゃくした状態のまま、あたしたちの冒険は続くのだった――。

 

 

 

(第2話・不可能な殺人 終)

 

 

 

 

 

 

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