まどかの初恋   作:完熟たまご

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出会い

「何よぉ!まどかが先に吹っかけてきたんじゃない!」

 

「ち、違うもんっ!さやかちゃんが先に言い出したんだよっ!」

 

「いいやまどかだ!!」

 

「さやかちゃんだもんっ!!」

 

「……ふんっ!あたしは違うから!そっちから謝るまでは口きいてあげない!」

 

「べ、べつにいいもんっ!!それじゃあねっ!!」

 

 

なんて、喧嘩をして早数時間。

 

夕日が沈もうとしている時間帯、放課後。

 

まどかはうなだれるように公園のベンチにポツリ、座り込んでいた。

 

「はぁ……」

 

かれこれ何回目になるだろうか、ため息をつき、今日の喧嘩の情景を頭の中で再生していた。

 

きっかけは本当にくだらないもので、猫のどこが可愛いか、という話題からだった。

 

まどかは猫が爪を研ぐところが、さやかは猫が顔を擦るところがそれぞれ好きで、それから先はどちらの方が可愛いだの、可愛くないだのでヒートアップし、今に至る。

 

(ほんとに、何でこんなことで言い争いになっちゃったんだろう・・・・・・)

 

まどか自身、猫が好きで絶対に譲れない部分が、不運にもかち合ってしまったからなのかもしれない。

 

しかし、今となっては後の祭り。ここでつまらない意地を張り続けるよりは・・・・・・

 

(よしっ!明日きちんとさやかちゃんに謝ろう!!)

 

つまらない意地を張り続けるよりは、きちんと謝ってさやかと和解する方が断然いい。

 

まどかはそう決心して、長時間座っていたベンチを立とうとした。

 

その時だった・・・・・・

 

 

「あれっ?君見滝原の生徒だよね?こんなところでどうしたの?一人なの?」

 

「……えっ?」

 

気が付けば、まどかの周辺には三人柄の悪そうな男がたむろしていた。

 

三人のうちの一人が、まどかに話しかけ、不敵な笑みを浮かべる。

 

「あっ・・・・・・えっと・・・・・・」

 

気が付けば日はとうに暮れ、辺りは暗闇が支配していた。

 

暗闇、そして人通りのほとんどない公園で、見ず知らずの男達に囲まれている状況。

 

そんな今をまどかは時間の経過とともに徐々に体感し、体が震えはじめる。

 

「何々?もしかして怖がってる?」

 

不敵な笑みを浮かべながらまどかに近づいてくる男。

 

まどかは直感で逃げなければと思ったが、考えていることに反して体は動いてくれなかった。

 

(あ、足が・・・・・・)

 

まどかの身体は既に恐怖に蝕まれており、その場から動くことさえ困難なほど、足がすくんでしまっていたのだ。

 

徐々に近づく距離、早まる鼓動。

 

気が付けば、まどかは恐怖のあまり、瞳から涙をこぼし始めていた。

 

「えっ泣いてんの!?マジウケるんだけど!!」

 

男はまどかが泣いていることに気が付くと、下賤な笑い声を上げながらお腹を抱え始める。

 

よく見れば残り二人の男たちもこちらの方を面白そうに遠くから眺めていた。

 

(だ、誰か助けてっ……!!)

 

無駄だとは分かっている。

 

でも、今のまどかにできることなど、誰かの助けを求める以外にはない。

 

しかも恐怖により声を上げることもままならないので、頭や心の中で奇跡を信じるしかなかった。

 

「大丈夫だって!俺ら怖くないからさぁ、ちょっとお話でもしよーよ」

 

近づいてきた男が、硬直したまどかに手をかけようとした、その刹那、まどかは男の後ろから小さな悲鳴を聞いた気がした。

 

小さなうめき声にも聞こえたソレは、眼前にいる男にも聞こえたようで、その男が後ろを振り向くとほぼ同時の事、

 

彼の身体は宙へと舞った。

 

 

「がはっ……!?」

 

男は地面に勢いよく倒れこむと、浅い呼吸を数回繰り返した後、ぐったりと動かなくなってしまう。

 

(えっ……?ええっ……!??)

 

目の前にいたはずの男が、突然宙を舞ったかと思うと、地面に突っ伏して気絶した。

 

そんな珍妙な現実を目の当たりにして、まどかはおもむろに自分の頬を軽く抓ってみる。

 

「い、痛た……」

 

ヒリヒリとする痛みが、現実を現実だと教える。鹿目まどか自身が正気だと言い聞かせる。

 

ならば、この光景はいったい……?

 

いつの間にか身体を支配していた恐怖は解け、冷静に辺りを見回す。

 

「アンタも、こいつらの仲間なのかい?」

 

その時まどかは、初めて彼女と出会ったのだった。

 

佐倉杏子。それはどこか可笑しくて、どこか放っておけない女の子との出会い。

 

 

 

 

「なるほどね~、こんな時間にこんなところで一人ならそりゃ絡まれるさ」

 

「あ、あのっ!本当にありがとうございました!!」

 

まどかは自身を助けてくれた少女に何度目かのお礼を言う。

 

「いいって!別にあんたを助けようとしたわけじゃないんだし。たまたまさ」

 

少女はそういうと、先ほどまでまどかが座っていたベンチに腰掛け、軽く背伸びをした。

 

「ここの前を通りかかったらさ、あの二人が食べ物で遊んでてさ、それで〆とかないとって思ってね」

 

「あ、あはは……」

 

少女は退屈そうにもう一度背伸びをすると、勢いよく立ち上がり、まどかの方に向き直る。

 

「事情は大体聞いたし、時間も時間だ。付近まで送ってってやるよ」

 

「えっ!?そ、そんな!悪いですよ……」

 

「絡まれてたやつがよく言えるね。いいから、早く案内しな」

 

「えっと……でも……」

 

「いいから早くしろ!!」

 

「は、はひっ!!」

 

しびれを切らした少女の怒鳴り声で、まどかは足早に歩を進め始める。

 

それに並ぶようにして、少女はまどかの横を同じように歩き始めた。

 

 

コツコツコツ、コツコツコツ。

 

かすかに蟲の鳴く声と、二人の靴音だけが響く。

 

何か話さないと、何か言わないと。

 

そんな考えとは裏腹に、この沈黙は不思議とまどかにとって心地良いものだった。

 

横を歩く少女をチラリと横目で見る。

 

背はまどかより幾分高く、身長でいえば親友である美樹さやかと同じくらいだろうか。

 

髪は長くきれいなポニーテール。そして中性的な顔たち。

 

明るい緑のパーカーに、デニム生地のショートパンツ。

 

目つきが鋭いので、人によっては怖い印象を受けるかもしれないが、まどかはそうでなかった。

 

むしろその逆で

 

(この人、女の子なのにすごくかっこいいって感じちゃうなぁ……)

 

まどかの瞳に、少女はそう映った。

 

窮地を助けてくれた王子様効果も相まってか、まどかに彼女はとても眩しく思えた。

 

名前も知らない、どこの誰かも知らない、出会ってまだ数分の関係。

 

それなのに、こんなにも彼女が眩しくて、こんなにも居心地がいいと思えるのはなぜだろうか?

 

ドクン……ドクン……

 

鼓動が早くなり、体中が熱を持つのを感じる。

 

(わわわっ、何だか緊張してきちゃったよぉ)

 

まどかは慌てて少女から目をそらす。今が夜で良かったかもしれない。

 

(……あっ)

 

気が付けば、いつも見慣れた道に出ていた。

 

目印となる分岐路に差し掛かれば、まどかの家はもうすぐそこだ。

 

つまりそれは、この少女とのお別れの時間を告げる目印でもある。

 

(もう、お別れなのかな……?)

 

何だかそれはすごく寂しいようで、すごく切なくなるようで、

 

急激に胸が締め付けられる気がした。

 

ここに来るまで会話という会話は無かったのに、

 

少女がどんな人であるか全く知らないというのに、

 

それでも、まだこの少女と一緒にいたかったと、まどかは思った。

 

「あ、あの・・・・・・」

 

「ん?近くまできたのかい?」

 

「あ、はい。ここの路地を左に曲がればすぐに家です」

 

「そっか。ならもう大丈夫だな」

 

「あの、今日は本当にありがとうございました」

 

ここにきて、まどかは今日最後となるお礼を少女へと伝える。

 

「いいって。ホント礼儀正しい奴だな~」

 

少女はそんなまどかを見て明るく笑う。

 

「それじゃ、アタシはこれで。もう絡まれるんじゃねーぞ!」

 

それだけ言い終えると、彼女は踵を返して歩いていく。

 

次第に小さくなっていく背中を眺めながら、まどかはいてもたってもいられなくなり、

 

とうとう走り始めた。

 

(このままじゃいやだっ!せめて……せめて名前だけでもっ)

 

「あ、あのっ……!!」

 

「・・・・・・ん?何?なんか忘れ物?」

 

さほど距離は無かったが、少し乱れた息を整えながら、まどかは努めて冷静に切り出す。

 

「あの!やっぱり今日のお礼をどうしてもしたいんです!」

 

「お礼~?いやだから、そんなの求めてないって」

 

「で、でもっ!!」

 

「あのさぁ、言っただろ?別にあんたを助けようとしたわけじゃない。あれは怪我の功名だよ」

 

「けど、私を助けてくれたことには変わりありません!」

 

「いや、だから……」

 

「兎に角!!私はお礼がしたいんです!お願いします!お礼をさせてください!!」

 

もうどうにでもなれ、と言わんばかりに、まどかは押せ押せモードだった。

 

そしてお礼をさせてくれと懇願するまでに至る。

 

そんな珍妙なまどかに対して少女はワナワナと肩を震わせると、途端に大きく笑いだした。

 

「あーはっはっ!!降参降参!!アタシの負けだわ!!」

 

「えっ、あのっ??」

 

突然笑い出した少女に対して、まどかは何か変な事でも言ってしまったのかと自問自答する。

 

「アンタ気に入ったよ!今まで会ったことのないタイプだ」

 

「へっ、あっ、ありがとうございます??」

 

自分の発言のどこが面白く、何が気に入られたのかイマイチ理解できないまどかだったが、

 

まどか自身が想像したよりも、事は上手く運べたようだった。

 

「今週末なんかはどうだい?平日は学校だろうし」

 

「週末・・・・・・はいっ!大丈夫です!」

 

「オッケー!なら週末の正午に今日の公園でいいな?えーっと……?」

 

「まどかです!私、鹿目まどかって言います!」

 

「鹿目まどか、ね。あたしは佐倉杏子。予定は決まりでいいな?まどか」

 

「はいっ!杏子さん!」

 

「あー、あとさ、その敬語やめてくんない?多分だけどアタシら同じ年だろ?」

 

「あ、はいっ!えっと……杏子ちゃん!」

 

 

「よしっ!それじゃ、またそん時にな」

 

「うん!またね!」

 

 

作戦通りとはいかなかったが、期待以上にまどかは少女、佐倉杏子と仲を寄せることに成功した。

 

名前だけでもと思い追いかけた背中は、いつしか遠く消えていたが、

 

それは先ほどまでの心情とは違い、とても温かく幸せに満ち溢れていた。

 

杏子が去っていった道をもう一度見返すと、まどかは軽やかなステップを刻みながら、家路を進む。

 

不思議なもので、つい数分前に感じていた恐怖は、もう完全にその体から姿を消し、

 

いつしか、不思議な安心感とほんのりと熱い胸のときめきがまどかを包んでいた。

 

 

「ただいま!」

 

「おかえり、まどか。遅かったようだけど、どうかしたのかい?」

 

家に帰ると、まどかを心配していたのか、父親である知久がまどかを待っていた。

 

「ごめんね、パパ。友達の家にお邪魔してたの」

 

「そっか。今度から遅くなる時は一応連絡を入れておいてね」

 

「うん!」

 

「いい返事。ほら、手を洗っておいで。夕ご飯にしよう」

 

「はーい!」

 

 

それからまどかは夕ご飯を食べ、課題を済ませ、お風呂に入り、一日を終えようとしていた。

 

(明日は朝一番にさやかちゃんに謝らないとね)

 

風呂上がりの熱気で唐突に睡魔に襲われ、まどかは自室にたどり着くとすぐに、ベッドに潜り込んだ。

 

親友のさやかの事、初めて不良に絡まれたこと、そして不思議な女の子、佐倉杏子に会ったこと。

 

それら全てをひっくるめて、まどかは眠りながらに思うのだった。

 

―今日もいい一日だった、と。

 

 

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