Fate/staynight_Kyoukai-「」 作:天津毬
長らく方針や物語の土台を考えておりましたので…。
あ、ちなみにタイトルの「」は空の境界でお馴染みの ” から ” と読むものです。
今回はまだ日常の学校回です。
2月1日午前7時01分
私立穂群原高等学校
「––––––なんだろう?」
登校して早々、梓真は違和感を感じた。
空気が少し濁っているような––––––軽い光化学スモッグに晒されているような、そんな感じの違和感。
––––––異常には違いないが今は微々たるものだ。
『––––––詳しくはないが、おそらく結界の類であろう。…まだ、張っている途中のようだが。』
霊体化したアサシンがふと、呟いた。
霊体化––––––簡単に言えば言葉通り実体を持たない幽霊のような状態になること。
メリットとしては人目にサーヴァントを晒すことなく護衛として連れて歩けること。
デメリットは物理的干渉が出来なくなること。壁などを通り抜けることは出来るが、それは逆に言えば敵の攻撃を受け止められないことでもある。
他のサーヴァントに奇襲を仕掛けられた場合は霊体化を解除しなくてはならない。
そうなれば隠密性も何もなくなる。
––––––もっとも、人目につく場所でサーヴァントを戦わせるなどという馬鹿にもほどがあることを仕出かすアンポンタンはそう居ない……居ないと、信じたい。
そもそも、なぜ魔術を人目に晒してはならないかと言えば、それは人に知られることで魔術の持つ神秘性が劣化、あるいは喪失してしまい、魔術の質が落ちて弱くなってしまうから––––––といえば分かりやすいだろうか?
まぁ、追加で言うならば、魔術師になる人間は……暴論だが、魔術師という人間はだいたい犯罪者みたいなロクデナシ集団だからだ。
連中は『常識の外』にいる人種であり、人間社会の常識(ルール)は通じない。
ごく稀に例外として常識が通じたり、良心を持った魔術師がいたりするが、それは大体根源の渦への道を諦めたか最初から視野に無い魔術使いになった者か、生まれつきの性格か育った家庭に影響された者に限定される。
一応魔術使いである自分は、常識の通じる人間の中では前者に該当する。
––––––もっとも、常識の通じるだけで、自分は異常者でないわけでは無いのだが。
閑話休題。
そういう輩を放置すれば魔術の存続に関わる。
故にそんな輩を排除する封印執行者によってぶち殺されるハメになる。
ざっと纏めると魔術を隠匿するのは魔術の神秘性を保つこととそれを魔術協会に強制されているから––––––と言うと、分かりやすいだろうか。
ふと、玄関の入り口にまで行くと––––––不機嫌そうな顔を隠しきれていないワカメ……いや、海草頭が1人。
面倒臭そうなので視線を逸らす。
「…あ?衛宮の舎弟じゃないか?何見てんだよ?」
––––––しかし、残念ながら向こうから勝手に絡んで来てしまった。
非常に面倒臭いし鬱陶しい。
「…別に見てないし。後、いつも言ってるけど俺は衛宮の舎弟なんかじゃない。」
冷めた声で応じる。
––––––いつも衛宮といるからか、自分はこの海草頭こと、間桐慎二にはよくそう言われる。
これが今日だけならまだしも、毎日毎回顔を合わすたびに絡んで来るのだ。
ああ、本当に鬱陶しい。
陰湿で鬱陶しい。
「はっ、そうかい…けどいつも衛宮といるから舎弟だと思うんだけでなぁ…」
それを無視して歩き出す。
––––––この手の輩は下手に刺激して炎上させるより無視して勝手に自爆させる方がいい。
「…おい、無視するなよ。」
無視する。
理由は先程述べた通りだ。
しかし、こうも毎日絡まれて来るとやはり限界で。
「用があるなら、単刀直入に言ってくれる?」
冷ややかに、けれど妥当だと思えた言葉を放った。
「ちっ…ま、いいや。衛宮にも僕の弓道部に来るよう伝えといてよ。部長直々のお願いだって。」
––––––かちん。
今度は頭に来た。
そんな下らないことのためかという慎二への怒り。
衛宮をやめさせておきながらそんな腑抜けたことを抜かすのかという慎二への怒り。
「じゃあ伝えとくね。美綴綾子部長のお願いとして。」
「––––––は?」
慎二は驚く。
もちろん、意味は察している。
つまりこれは嫌味だ。
間桐は動揺するけれど無視して、声を放つ。
「だって間桐、副部長でしょう?じゃあ、部長直々のお願いって、美綴からってことになるじゃない。」
「なっ、え…」
––––––動揺するワカメ。
ああ、なんだろう、何か楽しくなって来た。
「僕の弓道部っていうのも、自分が所属する弓道部って意味でしょ?つまり訳すと、自分の所属する弓道部にも来てくれ。美綴からのお願いでもある––––––じゃあ、伝えておくから。」
「ちょ、ちょっと待––––––」
「ああ、そうそう。今弓道部は朝練でしょ?間桐は真面目にやらずにサボってるから、衛宮は見に行かないんじゃない?」
嫌味たっぷりの声を吐くと、さっさと下駄箱の並ぶ昇降口を抜けて行く。
あいつはすっごく面倒臭いのだ。
『なにやら、お主も苦労させられているのだな––––––』
霊体化したアサシンが言う
「…うん、おかげ様でね…あのワカメ、性格さえマシだったらいいんだけどなぁ……てか、衛宮も『アレが慎二の味なんだよ』って言って更生してくれないし…正直、疲れる––––––衛宮といる分にはいいんだけど、そしたらあのワカメが絡んで来るからさ。」
日々溜まっていた鬱憤を口にする。
『ふむ…時に、何故彼奴をワカメと呼んでいるのだ?』
「髪型がワカメの形のソレだもの。」
梓真が言うと、アサシンは納得したように、ああ、と言う。
そんなところに、
「おっ、今日は珍しく朝早くから来てるのでござるな!山邑殿‼︎」
「あ、おはよ。後藤。」
クラスメイトの後藤劾以(ごとう がい)が話しかけて来た。
彼はテレビの影響を受けやすく、最近は時代劇にハマっているため口調はいかにもそれらしい侍口調のものとなっていた。
実際、仲は良い。
梓真自身も日本刀に興味があるので話が合ったりする。
––––––もっとも、梓真が日本刀に興味を抱いているのは、【時代を長く積み重ねたモノはそれだけで神秘に対抗し得る存在となる】からだ。
特に日本刀は500年クラスのものならば鞘から抜刀しただけで結界を丸ごと切り裂いてしまう対結界礼装となるからだ。
それは当然、魔的な存在にも対抗することができるからこそ、集めようと思っていたのだ。
––––––しかし問題が浮き彫りとなる。
それは500年クラスの刀が中々見つからないことと、刀一本の値段が馬鹿にならないことだ。
そして何より、街の骨董屋に求めている太刀は売られていない。
世間ではネット通販が普及し始めているだろうが、生憎山邑家にネット環境なんて贅沢なモノはないので無理だ。
今はコツコツと貯金を貯めながら、近所の骨董屋に500年クラスの刀が入荷するのを待つしかないのが実情だ。
「なぁ後藤〜今度骨董屋行かないか?」
「む、良いでござるね!それに骨董屋にもしかすると名刀があるやも知れませぬ‼︎」
あっさり誘いを受諾する後藤。
––––––まぁ名刀なんて入荷してるのか怪しいけどなぁ…。
梓真は内心そう呟いた。
「丁度今日は午前の部だけだしね––––––」
そんな他愛ない会話をしながら教室に入って行った。
「––––––時に、美綴殿に恋文は渡したのでござるか?」
––––––ぴしり。
教室に入る直前に後藤に投げかけられた言葉に、脳が凍結した。
その脳とは対照的に、暴走したように身体は火照って行く。
凍結した脳を羞恥心という感情が解凍し、侵食し、支配していって––––––、
「な、ななな……何言ってんだお前はァ⁈」
うわぁぁぁぁぁぁ!とパニックに陥り赤面した顔のまま、あたふたしてしまう梓真。
––––––先程の慎二に嫌味たっぷりの言葉を吐いた時とは正反対の状態となっていた。
「なにを慌てておるのだ?お主は美綴殿が好きなのでござろう?山邑殿––––––」
「シャラーーップ‼︎」
掌で後藤の口を塞ぐ。
––––––確かに美綴に好意を抱いているのは事実だ。
だが、そういうのは口にされたら恥ずかしい。
「あ、よっ、後藤。山邑。」
––––––ふと、声がした。
振り返ると、赤みを帯びた栗色の髪をした少年がいた。
「あ、おはよ衛宮。」
「おはようでござる。」
––––––衛宮士郎。
中学生の頃からの同級生であり、何処にでもいそうな御人好しというか愛想が良いというか、他人に優しいというか––––––けれど、奇妙なことに、 ” 心からは笑わない ” 少年。
感動する心が無いのか、それとも内心は醒めた性格なのか。
普段から仲良くはしているが、常日頃から秘めた衛宮に対する疑問はそれだった。
––––––だが決して悪い奴なんかでは無いのだが…というか、衛宮の場合悪事を働いたり他人を侮蔑するなんてことはまず有り得ない。
なにせ、昔から『悪い事は駄目だ‼︎』といって街の悪ガキをバンバン倒していっていたし、先に相手の心が折れてしまうくらいの鋼の精神力も持ち合わせているし、学校の部室の掃除とかを自主的にやったり居残りの生徒に差し出し物を持って来たり……エトセトラ。
けれど極め付けはコイツ自身の将来の夢である。
将来の夢は、【正義の味方】––––––––––––。
中学生の頃、道徳の授業で五つ程将来の夢を書いた時に見せて貰った内容である。
いや、普通に考えて欲しい。
確かに純粋というか健気というか…衛宮らしいと言えば衛宮らしいのだが……しかし、将来の夢––––––しかも進路希望を書くプリントで、である。
普通は自衛官とか弁護士とか警察官とか消防士とか…そういったモノを記入するべき代物でその内容である。
––––––当然、教師からはその後激しく怒られたようだった。
しかし逆に凄いのが、『これだけは譲れないんです。』と言って、一歩も譲らない姿勢を貫き通したために教師が先に折れてしまったのだとかなんとか。
「今日も備品の修理してのか?」
「ああ、ストーブを軽く5台ほど。困ってる人が居たら助けるのは当たり前だからな。」
「よく続けられるなぁ…そのへんの根性、コッチが見習いたいもんだ。」
ちなみにストーブの修理をしたのは今日で3日連続ということになる。
朝早くに学校前の坂を登って来てやる事が仮眠でも友達との会話でもなく早弁でもなく備品であるストーブの修理。
しかも理由は、誰かが困っていたから。
行動力があるというか、勤労奉仕っぷりが凄過ぎて呆れるというか……さすが、正義の味方を目指す穂群原のブラウニーは伊達じゃない。
内心呆れながらも、衛宮のその行動力には尊敬と憧憬を抱きつつ、他愛ない会話をしなながら自分たちの教室へと歩いて行く。
––––––そして、その途中。
「…え?」
ふと、士郎の手を見た梓真は冷水をかけられたような衝撃に固まってしまった。
ーーーーーーーーーー
「…どうした、梓真?具合でも悪いのか?」
視界には、まるでお化けでも見たように血の気を引かせて真っ青になった顔のままフリーズしている梓真。
俺は思わず声をかけた。
「え、あ、いや––––––…」
俺が声をかけると我に帰り、2秒ほど身を泳がせた後、
「衛宮…左手の甲のそれ…」
やはり、血の気が失せた顔で聴いて来た視線の先にあった自身の手の甲の痣を見て、ああ、と思い出した俺は応えた。
「朝見たら付いてたんだ。多分、どっかにぶつけたんだと思う。」
けれど梓真はさらに困惑して、まるで、 ” 大事に首を突っ込んだのに事の大事さを理解していない子供 ” を見るような顔になる。
––––––昔から俺が無茶をやると大体梓真は心配そうに何かと言ってくる。
心配性なのは何処と無く嬉しいから良いのだが、少しばかり心配が過ぎる感じなので、安心させるために笑みを浮かべながら回答する。
「大丈夫だって。本当に心配性だなぁ…。」
––––––その言葉をどう受け取ったのかは分からない。けれど、梓真の顔は先ほどより張り詰めた感じなくなった様子を見るに、少しは安心してくれたらしい。
––––––けれども、それは一瞬で、顔は自然でありながらも硬さを内包した表情に変わると、
「––––––衛宮、ごめん。ちょっと便所で用足してくるから、先行っといて。」
「あ、おい」
そう言うなり、俺の制止も聞かずに駆けて行ってしまった。
「…漏れそうだったのかな?」
なんて、呟く衛宮士郎だけが、廊下に取り残された。
ーーーーーーーーーーーー
『––––––マスター、今の男…』
「…分かってる」
一方、梓真はトイレには向かわず、屋上へと足を運んでいた。
魔術関連の事を口にするなら人目を避ける。
その鉄則に従い朝のHRが始まるこの時間、無人となり、人目にも付きにくい屋上に向かうことにしていた。
「…あいつが…衛宮がマスターだって言うんだろ……そんなの分かってる。」
その間に霊体化しながら声をかけて来たアサシンに対し、返答する。
––––––令呪が完全に現れてはいないものの、衛宮士郎はサーヴァントを喚び出す権利を与えられた人間…すなわちマスターである。
今後障害になり得る存在である以上、倒しておくのが当然––––––なのだが。
「…けど、あいつ自身は自覚してないみたいだし……」
…もちろん、先のやり取りに嘘が混じっていた可能性だって否定出来ない。
しかし、伊達に四年も付き合っている訳ではなく、多少は衛宮士郎の性格を把握している梓真からすれば、
「衛宮は嘘を付くのが下手だし、多分本当に自覚ない……な。」
そう、捉えた。
……梓真からすれば、実に頭の痛い話である。
友人である衛宮が危険極まりない大事に首を突っ込んでしまった事を憂いてでもある。
だが衛宮が危険極まりない大事に首を突っ込むのはもう慣れた。
故に今頭を抱える理由は、衛宮が聖杯戦争に巻き込まれている事を自覚していない事だ。
「––––––どう、説明しよう。」
はぁ…と溜息を吐きながら呟く。
そもそも、衛宮は魔力の量からしてまず魔術師ではなく一般人だ。
一般人を魔術師の界隈に巻き込んでしまった場合、その一般人は処理しなくてはならない。
––––––早い話が、抹殺である。
けれど梓真はそんな事は望んでいない。というか『人殺し』という選択肢が、例え梓真自身が衛宮を巻き込んだとしても脳内には存在しない。
それは友人だから…という理由ではなく、自分が【常識の中】に居たいという自己欲求から来ているものである。
しかし適切に処理しなくては魔術協会からの刺客である封印執行者によって梓真が抹殺される。
「うーん…令呪を無理矢理にでも奪って忘却系の呪術をかけようかな……いや、でもアレってひょんな事からすぐフラッシュバックして思い出しちゃうし……うーん、困った。」
––––––本当に、頭が痛い。
内心呟きながら、屋上への階段を登りきり、その先にあった屋上へと通じるドアノブに手をかけ、梓真は鉄製のドアを開けた。
「––––––あら、山邑くん。貴方もサボり?」
––––––先客が居た。
黒髪のツインテール。
澄んだ翡翠色の瞳。
制服の上から羽織っている印象的な赤いコート。
そして左手の甲に刻まれた、何処と無く林檎の果実に見えなくもない形の赤い聖碧––––––令呪。
「遠、坂––––––」
冬木の霊脈を管理するセカンドオーナーであり、聖杯戦争に参加するマスターである遠坂家当主の遠坂凛が、そこに居た––––––。
今回はここまでです。
次回あたりでアーチャーVSランサーやるかもしれません。
ちなみに梓真、普通そうなキャラですが、実はそんな事はありません。
ちゃんと型月特有の、どこかオカシイ系です。
今回は描写してませんですが、今後書いていきたいです。
次回も不定期ですが、よろしくお願い致します。