診療所に運ばれたシアンはすぐに医者に容体をチェックされる。アイルー達も医者と共に動いて持っている道具を用いて彼女の傷の具合を治していく。彼女が付けていたレイアメイルも持ちこまれており、その背中部分には彼女が流した血がべっとりと付いている。
その量からして残っている血が危ういものである事は明白だった。ギルドに登録された際に血液型もどこかで調べる事になっており、受付嬢が持ってきた書類に医者は目を通す。
そこには確かに血液型が記入されており、以前に調べているという事がわかった。ならば大丈夫。この血液のストックはあった。
「輸血パックを!」
「はい!」
書類を看護婦に手渡し、それに目を通した彼女が部屋を飛び出していく。続いてこれで大丈夫かという事をチェックするため、少量の血を採ってクロスチェックに備えておく。輸血の血がシアンの体に受け付けないものならば輸血は出来ないからだ。緊急ではあるが、だからこそ慎重にならなければ逆にシアンを殺すことになる。
背中の傷を診ているアイルー達はそれぞれ何とかして傷を治そうとしているようだが、やはり傷跡が深いのかそれが消える事が出来ないようだ。出来るのは応急処置で塞がった傷を何とか調節する事だけ。傷跡があるというだけでも見栄えが悪いが、不自然な塞がり方をしていればより一層見栄えが悪い。それを綺麗にしてやるだけでもまだいい。
また隊長と呼ばれていたアイルーが、独自に調合したアイルー族に伝わる薬をシアンにゆっくりと飲ませてやった。
「……さて、これで大丈夫なはずにゃ」
飲ませたものは体の調子を整え、呼吸を和らげてやる薬だそうだ。薬が効いているのか荒かった呼吸が落ち着き始めていた。
「先生! 輸血パックです!」
「よし、こっちへ!」
輸血パックが運ばれてきたので、クロスチェックに移る事にする。
検査の結果は……良好。輸血可能と出た。
「オーケー、輸血していこう!」
腕に針を通し、チューブを繋いで輸血パックに連結。つまみを回して速さを調節すればチューブを伝って赤い血がシアンの体へと流れ落ちていく。
これで処置は完了した。あとは経過を見守るだけだろう。
シェリーと同じく刻まれた傷跡はアイルーの手では治せない。つまり背中の傷跡はこれからも残り続ける。
一息ついた医者とアイルー達だったが、隊長アイルーが何かに気づいたかのようにじっとシアンを見つめている。
「隊長、どうしたにゃ?」
「…………まだ、終わってないにゃ」
「どういう事だい?」
医者も困惑したような表情を浮かべる中、隊長アイルーはシアンの横に回り込み、背中の一部を示してやる。そこは傷跡の一つであり、先ほど処置を終えたばかりの所だった。
「この娘さん、闇に少し侵されているにゃ。普通は気づかないような小さな鼓動がここから感じられるにゃ」
「にゃんだって? …………確かに、小さいけど闇が感じられるにゃ……」
他のアイルー達もシアンの中にある闇に気づいたようだ。その量が少なすぎたために気づかなかった。確かにこれは量こそ少ないが、普通の人間であるシアンにとっては小さな
これを取り除かなければ完全に安心できる事はないだろう。しかし残念ながらアイルー達でも闇を取り除くこと技術はなかった。アイルー族の治癒術は積み重ねた経験からくる技術と薬だけ。魔力を持つアイルーならば治癒魔法は使えるが、残念ながらこのアイルー達にはそれはない。
となれば手詰まり。この癌を除去する方法はこの場にいる者達は持っていなかった。
「闇の粒子を除去するには光魔法か闇魔法を扱えないといけないと聞く。使える人はかなり限られているそうですが……」
「その通りにゃ。うちの救護アイルーの中でも数匹しか使えにゃいんだが、あれらはあちこちを駆けまわっているという話にゃ。だからここに来ることを期待しても無意味だと思うにゃ」
となればシアンはしばらくはこのままという事か。手を打つ事が出来ないならば経過を見守るしかない。
そうするしかないのか、と医者が唇を噛んだ時……診療所の扉がゆっくりと開かれた。ゆっくりと足音を響かせながらその人物は診察室へと近づき、扉を開けてその姿を現した。
「……あ、神倉……さん」
医者が驚いたような表情を浮かべ、小さな呟きにも似たように彼女の名を呼んだ。彼女――月は開かれた扉にもたれかかるようにしてそこにいた。見るからにボロボロで、彼女が行っていたというクエストでかなり負傷していることがわかる。
彼女の綺麗な蒼い長髪は所々黒く焦げ、左肩から左手にかけても黒い焦げが見られる。火に焼かれたというわけではなく、髪の一部が逆立っているように見受けられ、まるで強い電流に焼かれたかのようだ。
しかし月はキリンXアームロングという防具を装備している。雷を操る幻獣キリンの、それもG級のものを使ったそれが一部とはいえ電流に焼かれるという事があるのだろうか。一見して信じられないようなものだったが、驚きの硬直から解放された医者は看護婦に目配せした。
それに気づき、看護婦が月を連れて椅子へと向かっていった。椅子に座ると身を包む防具を脱いでいき、医者とアイルー達は傷の具合を確かめていく。それは確かに雷属性の何かによって負傷したものだった。
しかも目立つ傷を負っていた左腕だけでなく、まるで全身が雷に打たれたかのように点々と傷があるのだ。
もちろん雷の傷だけではなく、普通に戦った際に受けたであろう傷もあるのだが、どうにも雷に焼かれた傷が目立ってしまってしょうがない。
雷耐性が高いキリンXアームロングを装備してこれなのだ。一体何があったのだろうか。
「……なに、ちょっとラージャンと戦ってただけだよ。それで、そこで寝かされているのはシアンかい?」
「え、ええ……そうです。手当てが完了したところですが少々問題がありまして……」
「それは?」
医者と隊長アイルーが詳しい事情を説明する。医者に関しては聞かされた事とシアンの容体について説明し、隊長アイルーはクエストに関する事と、そこに突如として乱入してきた狂ティガレックスの事などを伝えていく。
それを聞いた月は表情を歪め、ひどく心を痛めたようにシアンを見つめる。「……そうか」と自分にも聞こえないような呟きを漏らして重い溜息をついた。
「……私のミスだ。私があのティガレックスを逃がしたせいで、シアンとシェリーは負わなくてもいい傷を、一生残る傷を負ってしまったんだね……」
右手を硬く握りしめ、爪が食い込んで血が流れるのも気にしないで月は拳を震わせる。唇も噛みしめた事で切ってしまい、流れる血をぬぐう事もせずに俯いてしまった。
誰もが認め、誰もが届かない領域まで上り詰めた女性は今、至って普通の女性のように悲しんでいる。自分のせいで二人の少女に消えない傷を刻ませてしまったと心を痛めている。
どうして油断してしまったのだろうか。
どうして仕留められなかったのか。
後悔してもしきれない。
「……ごめんね、本当に……ごめん……」
手当てをしている看護婦も、その独白を聞いていた医者とアイルー達もかける言葉が見つからず、ただ俯いている月を見守るしか出来なかった。
彼女の言葉からして、彼女自身も傷跡を消す術は持っていないのだろう。だからこんなにも悲痛な表情を浮かべ、そんな声で言葉を漏らしている。
だが傷に関しては無理でも、闇の粒子ならば何とかなるだろうか、と思いはしたが、こんな月に聞くのも躊躇われる。どうしたものかと考えていたが、こうしている暇もないだろう。
意を決して医者は月に声をかけた。
「神倉さん、一ついいでしょうか」
「……何かな?」
「あなたは闇の粒子を除去する術をお持ちでしょうか?」
「闇の粒子? …………なるほど、そういうことか」
医者の言葉に顔を上げて彼を見つめ、少し考えながらシアンの方へと視線を移し、なるほどと納得したようだ。僅かに感じられるそれに目をつけた月だが、自身の中に残っている魔力を考える。
戦い続け、終わらせるために振るった力は更に増し、残量は全体の1、2割程か。これで闇の粒子を除去出来るかどうかは少し不安はあるが、出来ない事はないかもしれない。
魔力が回復すれば確実性は上がるが、その分だけシアンの中にある闇の粒子は少しずつ影響を与えていくだろう。手を打つなら早いうちがいいだろうが、自身の総魔力量がとんでもないために、1、2割の残量でも他の人からすれば多い。
その中で行使するとなれば使った後の残量で倒れそうになるかもしれない。
そう、それが問題なのだ。
総魔力量がとんでもない量である事が普通のため、それがかなり消費されていると体調を崩してしまう。今負傷している月が更に魔力を消費すれば、最悪ベッドがまた一つ使われることになるだろう。
「そこの君、魔力回復の薬を作ってくれるかな?」
「にゃ、了解したにゃ」
敬礼するともう一匹のアイルーと共に持ってきた樽の中を漁って薬制作を開始した。薬を飲んだところで回復するのは少量だろうが、ないに越したことはない。回復し、倒れるほどまでの量を使わなければいいのだから。
眠っているシアンの髪を撫でながら月は彼女の中にあるそれを探る。確かに小さなものではあるが、まぎれもなくこれは闇の粒子。場所としては背中の傷の下の方。背中を裂かれた際に粒子が侵入したとみて間違いない。
小さな種だろうが、これは将来的にシアンの体を侵していくだろう。
それに侵入させた存在が存在だ。これは普通のものじゃなさそうだろう。何せ今までとは違うモノを持っていた奴だ。それがラ―ジャンにも伝染し、狂化させた。
ラージャンもまた今までとは違う狂化の仕方をした。いや、あれは狂化していたというのも怪しいものとなってしまった。意志があり、普通のラ―ジャンが数段強化されただけ、というのが一見での判断だろう。
だがただの狂化でもなく、強化でもなかったのが現実。
(あの状況から切り抜けられたのは幸運かもしれないね。よもやティガレックスが、ラージャンがあの因子を持つなんて誰が想像しただろうか)
そう、あの因子が鍵なのだろう。
最初から狂化の種に含まれていたのか、あるいは後から追加したのか。その辺りに関してはわからないが、あの因子はこれからの事と朝陽の目的に大きな意味があるのだろうと月は推測する。
どうしてティガレックスにそんな因子を含めたのかと考えれば、そうした方がより一層被害を生み、意志を確立させる事で命令を下しやすくなるのが目的かもしれない、というのが思い浮かぶ。
だがそれだけではないだろう。あれはそう生易しいものじゃない。というより、どうしてその因子を得たのかが不明だ。
自分の血液からブラッド・ルーツで抜き取ったのか?
自分達もまたその因子を持っているからあり得ない話ではないだろう。そこから抽出し、狂化の種に組み込んだ。そう考えれば可能性としてはあるだろう。
(でも朝陽は私を倒すための力を集めているはず。……因子を組み込んで戦わせることで闇をさらに高めるという事かな? それに因子を組み込ませれば今回のように容易に倒されることも少なくなる。損をすることは少ないだろうね)
あの時狂ティガレックスを逃がしてしまった後、ラージャンは月を仕留めるための雷光を放った。普通ならばそれを受けて死亡するのがオチだ。しかし月は左肩から先を被弾し、反撃として圧縮した冷気を射出するというカウンターに出た。
それからは1対1のタイマン戦。傷ついてはいても月はG級クラス以上のハンターだ。混戦ならば長引いただろうが、タイマンならばその限りではない。ラ―ジャンが弱点としている氷属性はあのフィールドならばいくらでも調達できる。
懸念するのはこれ以上被弾ダメージを増やさない事、魔力が尽きないようにする事、放つ攻撃が当たるかどうかという事。それに注意しつつ戦い、ラージャンもまた月が放つ攻撃に注意しながら攻撃しかけてきた。
結末は辛勝といったところか。
倒しはしたが、放たれる闇を浄化するのは少ししか出来なかった。それは月が疲労していたこともあってすぐに動く事が出来なかったからだ。動けるようになってラージャンの死体から立ち上る闇の浄化に当たったものの、元々植えつけられてから数時間しかたっていない事もあって量は少ない方。
残量は少しだけであり、解き放たれた闇もまた少量。数時間の狂化ではあったが、それだけの時間がラ―ジャンにとっては濃厚だったのか。三つ巴の戦いで刺激されて種は充分成長したらしい。少量でも中身がなかなか濃いものだった。
となればあの狂ティガレックスの種に含まれる闇の濃度はどれ程のものか。
倒してしまえば狂ティガレックスから生み出される被害は抑えられる。しかし死体から立ち上る闇は対処法を持つ者がいなければ世界に満ちていく。それはやがて朝陽の下へと還元され、彼女を強くさせる。そういうシステムになっているのだろう。
「にゃ、完成したにゃ」
「ありがとう」
出来上がった薬を運んできたアイルーに微笑みかけてそれを受け取り、中身を飲み干していく。少し苦みが強いがそれは慣れた苦みだったため、難なく飲み干す。ブレンドされた薬は月の中へと浸透していき、ゆっくりと魔力が蓄積されていく。
傷の手当ても医者と看護婦に身を任せ、意識を集中させてより多くの魔力を取り込めるようにして回復に専念する事にした。
(でも……問題はある)
目を閉じて月は思う。
先ほどの話でシアンがここに送られた状況も聞かされた。ライムはあの場に残り、クロムともう一人の少女があそこに入ってきたという。その少女の特徴からして恐らくセルシウスだろうとあたりをつける。
となれば、シュヴァルツの血統が三人あそこに集まったことになる。今花梨と桔梗が向かっているという話だが、恐らくクロムとセルシウスが現場に向かわなかったら、ライムとシアンは死んでいただろう。
そう考えればやはり自分はとんでもないミスをしでかした事になり、自己嫌悪に陥りそうだ。
でも、三人集まる事で起こりかねない危険性もある。
あの因子は恐らくクロムとセルシウスも気づくだろう。となればお互い反応し合う可能性だってある。それに倒すことで吹き出す闇にも反応する可能性も否めない。
(彼らに浄化の術はない。信じるしかないのか……?)
吹き出す闇に彼らが堪え切れるか、それが鍵だろう。それ以前に倒せるかも問題だろうが、クロムとセルシウスの強さと、向かっていった二人が揃えば可能性が高まる。
自分のミスの尻拭いを彼らに任せる形になってしまったことにも心を痛めるが、自分はここからあまり動けない。使い魔を呼び出して派遣してもいいが、そうすると魔力がどんどん消費していくため現実的ではない。
「では塗っていきますね」
看護婦が塗り薬を手にして声をかけ、月は目を閉じたまま静かにうなずいた。
色々思う所はあるだろうが、今はただ信じるしか出来ないか。
彼らに秘められた力を信じ、生き残ってくれることを信じ、何よりも同じ因子を持つ闇に取り込まれない事を信じよう。
○
静かだった川のほとりでは随分と騒がしい音が響き渡る。
砂利を踏みしめる音。
川に入る事で水面が跳ねる音。
森の木が倒れ、あるいは幹が切られて倒れる音。
そして楽器らしきものが奏でられる音。
クロムが手にしているブラッドフルートに口を当て、息を吹きかけて音を奏でつつクロムは立ち回っていた。フルフルの口を模した穴からは奏でられる音が発せられ、それに合わせて三色の粒子が広がっていく。
最初に紫、紫と音を奏でれば狩猟笛の旋律が生み出される効果の基本、クロム自身を強化させるものが発動した。紫の音に繋げるようにして赤、赤と音を奏でれば、クロム達を包むように攻撃力強化【大】をもたらす。
更に赤から繋がるように緑、赤と光が広がると防御力強化【大】をもたらす。
狩猟笛の旋律によって生み出された力はクロム達へと纏われて、彼らを守り、強化させる力となる。これを繰り返す演奏を行いながらクロムは狂ティガレックスの周りを動き続けている。
特に防御力強化【大】はありがたいものだ。例え恩恵としては小さかろうと、これがあったからこそ命を繋げられた事例は少なくない。それにあるからこそ精神的にも重圧が和らぐ事もある。つまり、ないよりはマシなのだ。
その音を響かせているクロムが鬱陶しいのか、狂ティガレックスは両手を交互に振り下ろして捕えようとしている。しかし足を強化せているクロムの動きを捕えられず、ブラッドフルートを持ち変える際に振りまわす事で殴られている。
顔を、頬を、腕をブラッドフルートが接触する事で、内包されている雷属性が光を放って弾ける。またブラッドフルート自体の鈍器としての威力も合わさって、狂ティガレックスへとダメージが与えられる。
加えて響くのは雷が弾ける音。極力狂ティガレックスの視界に入らぬように走り回り、横や背後から左手に纏った雷を収束して放っているのがライムだ。近距離を担う者が二人もいるため、ライムは遠距離から援護する事にした。
オデッセイブレイドは腰に佩けられ、盾は左手に嵌められたままであり、左腕に纏われた雷属性を纏って淡く光っている。新しく集められるたびに盾に集まる雷が少しずつ強くなるが、フルフルアームが感電するのを防いでくれている。
とはいえ下位のフルフル素材を使っているため、あまりに強いものになれば完全に防ぐ事が出来ないのがネックか。月が行使したような高電圧となれば間違いなくライムは感電してしまうため、その辺りの調節が必要になる。
音が響き、殴られ、雷の攻撃を受けるたびに狂ティガレックスが唸り声を上げるが、その横からもう一人攻撃してくる人物がいる。
黒刀【参ノ型】を握りしめて斬りかかるのはセルシウスだ。先ほどまで均衡していた状況とは違い、クロムとライムがいるため積極的に斬りかかっていた。ライムに治癒魔法を掛けられているとはいえ、セルシウスの傷はまだ治っていない。
止血され、傷口は閉じられているが相変わらず疼いている。耳も完全に音を取り戻しておらず、さっきのライムとの会話も彼の口の動きを読み取り、僅かに聞こえる声を拾って会話していたにすぎなかった。
しかしそれでもセルシウスは斬り続ける。今の彼女に狂ティガレックスの唸り声も聞こえないが、視界に納め続けるならば音がなくとも戦える。
それに自分の中にあるものが相変わらず叫び続けているのだ。
――戦エ! 奴コソ斬ルベキ相手!
――コレクライノ傷ナド問題ナイ!
――ダカラ、斬レ! 奴ハ斬ラナケレバナラナイ存在ナノダ!
相変わらず騒がしい、とセルシウスは思う。先ほど興奮したせいだろうか、中にある存在が随分と元気になっている。その気持ちはわからなくもないのだが、周りの音がほとんど遮断されている今は、この叫びは少し邪魔になってきた。
何せ頭に響くような声で叫び続けているのだ。普段なら周りの音が重なってくるからそんなに気にならないのだが、今は少しセルシウスを苛立たせるような程やかましく感じた。
(うるさい、黙れ。あまりオレをいらつかせるな、屑が)
自分の中にいる存在へと吐き捨てるかのように心の中で告げる。すると彼女の苛立ちが高まり、その精神力が研ぎ澄まされていくのが雰囲気から悟れた。高ぶる気質と共に彼女を纏う空気が変化していき、それは鈍色の瞳を真紅に変えていくほど。
(そのまま静かにしていろ。オレをあまり惑わし、いらつかせるな)
この先ダメージを受けずに戦っていくには集中力が大事だ。この叫びを聞き続けるようではその集中力が乱れてしまうだろう。
両手で黒刀【参ノ型】を握りしめて顔の前に水平に構える。鈍く光る黒い刀身には斬った際に付いた狂ティガレックスの血が薄らと残っている。流れ落ちるその血を見つめれば、血に含まれる僅かな因子が視えそうだ。
それがまた興奮を呼びそうになる。
「グルァアアア!!」
高まった気に反応したのか、狂ティガレックスがセルシウスへと首を動かして振り返った。そこでセルシウスの背後に回り込んでいたライムが閃光玉を投擲した。主に視界を奪う事で足止めする事に利用される閃光玉、これで狂ティガレックスを止める事で一気に攻撃できるチャンスを生み出そうとしたのだ。
閃光玉で飛竜を足止めする。それはハンターにとって基本といえる戦術の一つ。
だがその基本は狂ティガレックスには通用しない。
「グルァッ!? グルァアアアア!!」
発生した強い光によって視界を奪われた狂ティガレックスは一瞬だけ怯んだのだが、きょろきょろと辺りを見回して両手をがむしゃらに振り回し始めた。近くにセルシウスとクロムがいる事はわかっている。しかし見えないから繰り出される攻撃は場所を選ばず暴れるかのように全方位に放たれていく。
時に飛びかかるように、時に噛みついて、時に回転する。その場に縫い付けるはずが、近接武器ならば近づこうにも近づけない状況を生み出してしまった。
「なんで……」
「はっ、どうやら戦意が高まりすぎているから視界を潰されようと、オレ達を倒す為に暴れているだけか。とことん奴は殺る気満々らしい」
確かに閃光玉は視界を潰して飛竜たちをその場に縫い付けてしまう便利な道具だ。しかし何事も例外はある。視界を潰されることで気が動転し、あるいは戦意が高まりすぎている相手にはそれが通用しない。
そんな飛竜達は見えなくなってしまったからこそ暴れる。見失った敵がどこにいるのかわからないから適当に走り回ったり飛び回ったり、がむしゃらに攻撃を仕掛けていく。
近接武器を主流としているハンターからすれば、何をしでかすかわからないから容易に近づく事は出来ず、遠距離武器でも気づいたらあらぬ方へと飛びかかっていく事で一気に距離が離されてしまったり、狙ったところから消えてしまったりするため攻撃が当たらなかったりする。
逆にそれが回復のチャンスだったり砥石や装填のチャンスだったり、またはエリアから離脱するチャンスだったりするのだが、前述の通りなにをするかわからなくなるため必ずしも安全とは言い難い。
これが確認される飛竜は少なく、ティガレックス以外ではナルガクルガぐらいなものだ。飛竜ではないものならばラージャンが挙げられ、奴もまた敵を見失ったために暴れまわるという。
狂ティガレックスがその場で回転し、腕で薙ぎ払うようにして攻撃した。その先にはブラッドフルートを担いでいたクロムがいる。何とか体を逸らして爪を回避しているようだが、なかなか苦しいタイミングだったらしく表情が少し歪んでいる。
(チッ、傷が……!)
セルシウスがそうであるようにクロムもまた傷を負っている。自己治癒力と秘薬で塞がれた傷が疼き、気を抜けば薄らと傷が開きそうだ。掠めれば容易に新たな傷が生み出され、更に不利になりかねないだろう。
黒刀【参ノ型】で刻まれた傷は十に近い。しかもそれがセルシウスの闘気によって大きく開かれたこともあって深手に近しいものになっていた。それが完治していないからこそクロムもまた不安定。
いつも通りに戦えず、全力を出せばもれなく反動が返ってきそうになる。それはセルシウスも同じであり、暴れる狂ティガレックスの攻撃を回避していてもその表情は少し苦しげだ。
「ガアアアアア!!」
叫びながら狂ティガレックスは右手を振り上げて跳躍する。その方向はライムがいる場所であり、三人は息をのむ。何とかライムは体を動かして回避しようとするが、狂ティガレックスは着地と同時に体を捻って回転した。
爪の直撃は免れたが、回転する事で遠心力が乗った尻尾がライムの横っ腹を直撃してしまう。
「がっ、ふ……っ!?」
フルフルの素材を使用したため打撃には強い方であるフルフルシリーズでも、狂ティガレックスの尻尾から生み出された衝撃は完全に殺す事は出来なかった。地面を何回も転がってしまい、川へと落ちてしまった。
口の中に砂利や水が混ざったものが入り込み、傷の痛みも相まって咳き込んでしまうが、音に反応した狂ティガレックスが顔を上げてライムの方へと顔を向けた。見えないならば音で位置を探る。それに加えて狂ティガレックスの狂化の種に含まれている因子がライム達に共鳴している。
それの導くままに狂ティガレックスはライムへとさらに攻撃を加えていこうとした。それを止めるかのようにセルシウスが気刃を放って足止めにかかる。しかし狂ティガレックスは斬られようともその足を止める事はない。
クロムは狂ティガレックスの後ろに位置取っていて走り出しても間に合いそうになく、セルシウスも気刃を放った硬直がある。ライムはまだ完全に立ち上がっていないから逃げようにも逃げる事が出来なかった。
それでもクロムは走り出して何とか弟を助け出そうとした。セルシウスも無理やり硬直を解いて狂ティガレックスの足を斬るように気刃を放つが、完全に断つ事が出来ずに終わってしまう。
痛みがあるはずなのに狂ティガレックスはただ愚直に疾走してライムへと向かっている。それは閃光玉の効果が切れ、その瞳に光を取り戻していたからだ。視界にはまた倒れているあの弱そうなハンターがいる。
奴を殺せと誰かが言う。
奴を喰らえと何かが叫んでいる。
狂ティガレックスはそれに従うように動くだけ。
喰らうべき敵がいて、そのチャンスが目の前で転がり込んでいるならばそれを逃すわけにはいかない。
(避ける手段……! この状況を切り抜けるには、これしかない!)
迫りくる狂ティガレックスは既に口を開いて鋭い牙を覗かせている。このままあの牙に身を切り裂かれて喰らわれるわけにはいかないのだ。
そのイメージを形にする。何も難しい事はない。
緊迫した状況だけれどやっていることはいつもの変わらない。彼女がよくやっているあれを実現させるだけ。あのイメージをここに結び付けるのだ!
強風が発生した。
それはライムの横から吹き抜け、彼と彼が入っている川の水と共に吹き飛ばしてしまう。そのすぐ後に噛みつくように狂ティガレックスが入り込んだが、その口には何も捉える事は出来なかった。
ぎろりと視線が動いたが、その左目めがけて水が弾丸のように射出される。
「ッ!?」
だが反応できたらしく首を逸らしてその弾丸を回避したが、体に着弾して鱗が弾ける。川の水を圧縮して作り上げた水の弾丸は見た目に反して高い威力を誇る。それが今度は連続して襲い掛かってきたのだが、狂ティガレックスは目に当たらないように注意し、体に何度も弾丸を受けながらライムへと接近する。
一方風魔法でその場を凌いだライムだが、水の弾丸を多く射出しても接近するのをやめない狂ティガレックスの執念に汗を流すしかない。先ほど斬られて強引に塞がった傷口を抉られようとも、鱗や皮が穿たれようとも狂ティガレックスは止まらない。セルシウスに足を斬られても止まらないのだから当然といえば当然か。
痛みという感覚をその精神力で抗っているのだろうか。それでも残っている左目を守ろうという心はあるらしい。
息を荒くしながら次の手を考えるライムだが、彼を掻っ攫うようにクロムがやってきた。担いでいたブラッドフルートは背中に固定され、両手でライムを担ぎ上げて一気に離脱する。
逃がしてしまった獲物を追うように転進する狂ティガレックスだが、離脱する二人を守るようにセルシウスが黒刀【参ノ型】を構えていた。だがそれでも狂ティガレックスは止まらない。むしろ敵が変わろうと関係ないとばかりにスピードを上げてセルシウスへと向かっていく。
「足の傷も関係ない、か。はっ、よほどオレ達を殺したいらしいな。……居合い――」
「ガアアアアアアアアアアアア!!」
疾走しながら息を吸い込んでいたらしく、突如咆哮を上げてセルシウスの耳をまた封殺しにかかった。元から耳がやられていたセルシウスはそれによって動じる事はなかったが、咆哮によって発生した衝撃波とそれによって吹き飛ぶ砂利で構えが崩れそうになった。
そこを狙って狂ティガレックスは一気にたたみかけていく。疾走の勢いを乗せて跳躍して頭上からセルシウスへと爪を振り下ろしていった。それを横に跳んで回避したが、叩きつけた勢いで踏みしめてまた跳躍し、回避した先へと回り込みながら押しつぶしにかかったのだ。
「ちっ、暴れすぎだろう……がっ!」
舌打ちしながら押しつぶしてくる狂ティガレックスが逃れるようにまた跳び、地面を滑りながら着地した狂ティガレックスの次の動きを見逃さぬようにする。
狂ティガレックスの後ろではクロムから降ろされたライムが礼を口にし、ポーチから落とし穴を取り出して地面に設置し始める。その様子を見たクロムはブラッドフルートを手にして演奏を始める。
奏でるのは最初に演奏した三つの旋律。再び三人に力が纏われ、音に反応した狂ティガレックスが背後を振り返った。それはすなわちセルシウスから視線を外したという事。そのチャンスは逃さない。
静かに気を高めて黒刀【参ノ型】を構えたセルシウスは攻撃態勢に移る。再度黒刀【参ノ型】に電撃が収束していき、ライムが放っていた雷の残骸をも巻き込んで黒刀【参ノ型】に纏われていく。
自分の気と充分に混ざり合い、脱力したセルシウスはその場から弾けた。
「雷剣・
「!?」
一瞬で狂ティガレックスの背後上空に回り込み、二つの傷を作り上げる剣術。一度その身に受け、少しずつセルシウスたちの攻撃に反応していく狂ティガレックスはまたもや目を守るように顔を動かした。
反応できているのはその学習能力もあるが、三人の前に月と戦っている事が大きい。彼女の動きを見て、攻撃を受け続けたからこそ狂ティガレックスの反応が鍛えられている。だから普通の攻撃よりも大きな威力を持つ攻撃、剣術を察知した時の反応がいいのだ。
今度は顔と左目を斬る二撃だったが、顔を動かされたことでまたしても左目が斬れなかった。だが首へと繋がり、なおかつさっき斬った部分に上乗せされるように黒刀【参ノ型】の傷と雷撃が走り抜け、狂ティガレックスが悲鳴を上げてしまった。
顔から首にかけて出血しながら怯んでいる今はまだ好機。クロムの演奏による援護があるならば攻撃して体力を削るべきだろう。落下していくセルシウスは自身に風を集め、足元で弾けさせることで頭上から狂ティガレックスへと接近していく。
その際黒刀【参ノ型】は左手に持つ鞘に納め、体は横に回転させて力を溜めていく。それに狂ティガレックスが気づくよりも早く、回転によって遠心力が乗った右足で左目を直撃させるように回し蹴りを放った。
「グアアアアアアアアアァァァァァ!?」
守ってきた左目が砕けるような音が聞こえた後、狂ティガレックスはたまらず咆哮に近い程の声で悲鳴を上げる。それを間近で聞きながらセルシウスは着地していきつつ右手を黒刀【参ノ型】の柄に添え、体を飛び越しながら一太刀の下に斬り捨てていく。
その動きを察知し、狂ティガレックスは血涙を流しながら身構える。また視界を潰され、今度は永久に視力が戻らない。ずきずきと痛む中セルシウスの気配を頼りに動き出す。刻まれた傷は強引な応急処置は施されず、漆黒の鱗を染めるように赤い血が流れ落ちていた。
今までは強引ながらも強い治癒力で塞いできたのに今回はそれがない。
(視力を完全に奪われ、俺達の動きを捉える事に意識が向けられているからか? なんにせよこいつぁ有利になってきたな。落とし穴に嵌めれば一気に叩き込める。流れは俺達にある!)
落とし穴の設置が完了され、少し後ろに下がっていたクロムは狂ティガレックスの様子を見てそう考えた。クロムの後ろには持ち込んでいた大タルを弄っているライムがいる。今の彼はボマーのスキルを発動させているため、彼の手で作られた爆弾は強化される傾向にある。
既に作っていた爆弾は、試験を行っていたフィールドに置いてきた竜車に積まれたままであり、ここまで持ってくる事が出来なかった。その為一から作りなおさなければならない。
その様子を感じながらクロムはブラッドフルートから口を離し、片手を挙げてセルシウスへと呼びかける。
「セルシィ、準備完了だ! こっちに来てくれ!」
大タルは大タル爆弾へと変化し、更に大タル爆弾Gとなる。手際よく作られていくそれは既に一つ出来上がっていた。一つだけでもボマーの恩恵を受けたそれは充分な威力を持っている。
声に気づいてクロムの方を見れば、もう一つの大タルを弄るライムの様子にも気づき、セルシウスは肩越しに狂ティガレックスの動きを確認しながらクロムの方へと駆けだした。
遠ざかっていくセルシウスの気配を追うように狂ティガレックスも動き出す。設置されている落とし穴を飛び越すセルシウスは宙で回転し、迫りくる狂ティガレックスに向き直り、その時に備える。
視界を奪われている狂ティガレックスは地面の変化に気づかず、セルシウスと隣にいるクロムへと喰らいつこうと口を開いて接近したが、突如としてその巨体が地面に沈み込む。
「ガッ!? ガァアアアア!?」
何も見えないからこそ自分の身に何が起きたのかわからずに暴れ出す。そうして生まれた隙をつくように、ライムが作り出した大タル爆弾Gを狂ティガレックスの傍に置こうとクロムが風魔法を行使する。
その間にセルシウスは狂ティガレックスの後ろに回り込み、黒刀【参ノ型】で何度も斬っていく。太刀本来の技術である錬気を高め、自身の気を混ぜ込んで気刃斬りの威力を向上させて一気に狂ティガレックスの生命力を奪い取る。
背中は次々と傷が刻まれ、濁った赤い血を噴き出し続け、セルシウスと黒刀【参ノ型】を赤く染める。
「出来ました!」
慣れない魔法行使をしているクロムの後ろでライムが叫んだ。目の前には一回り大きくなった大タル爆弾、すなわちG級となったそれがある。一つ目の大タル爆弾Gを操作しているクロムに続くように、ライムも二つ目の大タル爆弾Gを浮かばせて狂ティガレックスへと近づけていく。
そんな三人の行動を感じ取り、自分がどうなっているかをおぼろげに感じ取った狂ティガレックスはもがくのをやめて大きく息を吸い始める。それにいち早く気付いたのは背後を取っているセルシウスだ。
斬るのを一度中断させ、大タル爆弾Gを運んでいる二人へと叫ぶように呼びかけた。
「離れろ! 咆哮が来るぞ!」
『っ!?』
それが意味する事を察知して二人は風魔法を中断して後ろへと跳ぶ。セルシウスもまた一気に後ろに下がるように跳躍しつつ、ローブを翻してその衝撃に備えた。
「グアアアアアアアアアァァァァァ!!」
そのすぐ後、狂ティガレックスは落とし穴に嵌ったまま大咆哮を上げる。狂ティガレックスを中心として衝撃波が広がり、耳を劈くような咆哮と共に襲いかかる。それは当然ながら狂ティガレックスの近くに運ばれていた大タル爆弾Gにも衝撃を与え、中に含まれている爆薬が破裂してしまう。
通常よりも強化されているその爆弾が生み出す爆音と衝撃波は、狂ティガレックスの大咆哮に負けず劣らない。だがその衝撃波は狂ティガレックスの大咆哮が生み出す衝撃波よりも大きな破壊力を生み出す。
「くっ、こいつぁすげぇ……」
ライムに覆いかぶさるようにしつつローブで身を隠しながら、襲い掛かる爆風の衝撃波に吹き飛ばされないように地に伏せるクロムが呟く。ローブは勢いよくなびき、足に力を入れなければライムと共に吹き飛ばされそうになる。
だが爆風の衝撃波はクロム達に襲い掛かるだけではない。当然ながら落とし穴に嵌り、大タル爆弾Gを起爆させた狂ティガレックスにもダメージが行かないはずがない。大咆哮の衝撃波と大タル爆弾Gの衝撃波がぶつかり合い、やがて爆風が狂ティガレックスへと届いてしまった。
落とし穴に嵌っているからこそ、襲い掛かってくる二つの大タル爆弾Gの爆風から逃れる事は出来ず、ただただ煽られるしか出来ない。強化されている大タル爆弾Gの爆風は凄まじい。爆心地の下の地面はクレーターのように数センチ窪んでおり、これは風魔法で浮いていたからこそこの程度で済んだのだろう。
そして大咆哮を感じ取ったからこそ、大タル爆弾Gは狂ティガレックスのすぐ傍へと設置される前に爆破されてしまった。距離が空いていたから爆風の最大威力で受ける事はなかった。
それが狂ティガレックスを生かす要因となる。
鱗が吹き飛び、肉が焼かれようとも狂ティガレックスの命は繋がれていた。もし傍で起爆させていたら、ようやく狂ティガレックスを倒す事が出来たのかもしれない。しかしそれは仮定の話。現実はああして生きている。
唸る事もなく、沈黙したまま狂ティガレックスは静かに怒りを溜めこんでいる。それは闘気へと姿を変え、狂ティガレックスから立ち上る殺気と共に具現化される。
それを見たライムはまた本能が恐怖に包まれる感覚がした。同時に黒い感情がまた刺激される感覚も覚える。それはやはりあの因子と共鳴しているからだろうか。
そしてライムだけでなくクロムも共鳴している。クロムは表情を硬くし、一筋の汗を流しながら狂ティガレックスを見つめている。今まで何てことないように振る舞っていたが、クロムも本能が叫ぶ声を聴いていたのだ。
桔梗という守るべき人がいて彼女のために落ちないように気を張り、また彼女を守るからこそ既に守る者へと覚醒を終え、そうであることを数年続けていたクロムは闇からの囁きはほとんどなかった。
覚醒以前は時折聞こえていた声が狂ティガレックスを前にして久しぶりに語りかけてくる。だが持ち前の精神力ではねのけ、戦い続けていたのだが、あれほどまで高められて放ち続けられては心が揺さぶられてしまっていた。
(くそっ、冗談じゃねえぞ……! こんなところで堕ちるわけにはいかねぇんだよ……!)
歯を食いしばり、恐怖と誘いから抗おうとするが、体は硬直し、汗は次々と流れ落ちる。それはライムも同じだった。がちがちと歯は打ち鳴らされ、顔だけでなく手汗も流れ出している。フルフルアームの下でぬめる感触を感じながらも、ライムは地面に膝をついたまま固まるしか出来ない。
一方セルシウスもまた高まる殺気に本能が反応しているが、彼女の場合は慣れてしまっているため固まるほどまでではなかった。汗も流していないが、表情は少し歪んでいる。それはまた叫びを聞いて不快な思いをしている事と、クロムとライムが同じような境遇にある事を感じ取ってしまったからだ。
(ちっ、元からこっち側にいないから弱いか。落とし穴から這い出ようとしているし、少し引き付けておくか)
あの状態になってしまっては感情が不安定になり、それが体にも表れる。元に戻すためには少しの時間が必要だろうと判断し、セルシウスは走り出す。
狂ティガレックスも落とし穴から抜け出し、一鳴きして固まってしまっている二人へと体の向きを合わせる。見えないからこそ雰囲気と気配で位置を探っているようだ。後ろから迫ってきているセルシウスにも気づいているようだが、走り出せばいいとでも考えているのだろうか。
「グアアアアアア!」
今から行くぞ、とでも言うかのように声を上げて狂ティガレックスが走り出す。その後ろからスピードを上げてセルシウスが接近していくが、狂ティガレックスの放つ殺気に反応して相変わらず本能の叫びが収まらない。
それはついに頭痛まで引き起こし、強引にセルシウスを引き戻そうとしていた。
まるで「お前はそっち側の者じゃない、あるべき所へと帰るのだ」とでも言うかのような本能の誘いはセルシウスの行動を阻害していく。
(うるさい、邪魔をするな……!)
ついに体にも影響が表れ、スピードが少し落ちてしまう。それは距離の差を生み出し、狂ティガレックスはどんどんクロムとライムに近づいていく。クロムもライムを抱え上げて離脱しようとしているようだが、それよりも早く狂ティガレックスが攻撃するのが早いだろう。
(ちくしょうがッ! 何とかライムだけでも……!)
そんな事を考えながらクロムは離脱しながらライムを放り投げようとする。自分の身を犠牲にしてでも弟を守ろうという気持ちからの行動だろう。それを感じ取ったライムは何かを言おうとするが、緊張した体は声を発する事が出来ずにただ口を開くだけだった。
狂ティガレックスはすでに口を開いて攻撃態勢に入っている。そのまま二人をまとめて喰らいつこうというのだろう。
だがそれを防ぐように天空から高温の炎が降り注ぐ。
狂ティガレックスを包囲するように炎は展開し、続いていくつもの気刃が降り注いで狂ティガレックスの体を斬り、貫いていく。
「なっ……!?」
「これは……」
セルシウスはその光景に息をのみ、クロムは呆然としたように口を開いている。そんな彼の前に膝を折って一人の人物が空から着地した。見覚えのある銀色のセミロングヘアーの両端に結ばれた黒いリボン。舞い上がった山吹色のローブの下にはゲリョスSシリーズが見えた。
見間違う事なんてあるはずがない。彼女は自分のパートナーなのだから。
「……桔梗、か?」
「ええ、お待たせしました。ライム君、そしてクロムさん。あなたがたを助けに参りました」
肩越しに浮かべたその微笑は、仮面と呼ばれる彼女のいつもの笑顔と違い、ちゃんとした感情が含まれているかのように思えた。それだけクロムに見せたその微笑は頼もしく、安心感があるものだったのだ。
そして空からはもう一人、褐色の翼を広げて飛行する女性がいる。有翼種の魔族であり、ポッケ村のハンターでもある花梨だ。真紅のローブをなびかせて空に舞い、真剣な表情で狂ティガレックスを見下ろす彼女は、状況と相まって天使……戦乙女の降臨のように思わせた。
彼女が手にしているのは黒い峰と桜色の刀身をした大剣。名をブラッシュデイム。上位の桜火竜の素材とした龍殺しの剣の一つだ。ちなみにクロムが持っているペイルカイザーとは対を成す大剣でもある。
そんな花梨がそこにいるということは、ポッケ村から桔梗を抱えてここまで飛んできたという事なのだろうか。恐らくシェリーがライムとシアンを助けるために派遣してくれたのだろうが、よくここまで飛んできてくれたとクロムは感謝せざるを得ない。
それを口にしたいが、色んなことがぐちゃぐちゃになって言葉に出来ない。それでも駆け付けてくれた桔梗に何か言おうとしたが、彼女は前を向いて狂ティガレックスを見つめている。
身を突き刺すほどの殺気を放ち、クロム達の本能をかき乱すその雰囲気を前にして桔梗は少し体を震わせている。だが狂ティガレックスもまた別のものらと違えども狂化竜の一つ。
彼女にとって忌むべき相手であり、彼女の理性を崩してしまう相手でもある。桔梗が握りしめている黒いランス、ダークの先端が少し震えている。彼女もまた恐怖を感じざるを得ないのだ。
それでもその恐怖を跳ねのけ、この状況を何とかするためにやってきたのだ。
クロムがいたというのは驚きだったが、助け出す事には変わりない。向こうに知らない人物がいるようだが、狂ティガレックスと戦っている様子なので味方なのかもしれない。
(く……タガが外れる以前にこの殺気……。これが
目を潰されているから自身の周りで今も燃えている炎に反応し、きょろきょろと辺りを見回すかのように顔を動かしている。そんな隙だらけの狂ティガレックスめがけて、上空からブラッシュデイムを振るって気刃を放つ。
クロムと同じく右手で軽々と大剣であるブラッシュデイムを振るっている辺り、彼女が魔族である事を実感させる。身を斬る気刃が空からくることに気づいた狂ティガレックスは顔を上げるが、その先にいた花梨は滑空するように移動している。
炎が消えれば背後からセルシウスが疾走し、黒刀【参ノ型】を鞘から抜いて居合斬りですれ違いざまに斬り捨てる。あの恐怖を前にしてあそこまで動ける事は桔梗にとって驚くべきことだが、自分も動かなければ何も変わらないし、ここに来た意味がない。
ぐっと唇を噛みしめ、ダークと盾を手に桔梗は走り出す。空から攻撃する花梨と、横から斬りかかるセルシウスの邪魔にならない位置からダークを突き出して攻撃していく。ダークには麻痺毒が含まれており、突き刺していけば毒が入り込んで狂ティガレックスの行動を阻害する事が望めるだろう。
またダーク自身の切れ味の鋭さは素晴らしいものがあり、上位武器の中でも優秀といえる。狂ティガレックスの強化された鱗だろうと貫き、繋ぎ目ならば容易く貫いて肉まで届かせる。
同じ虫武器である黒刀【参ノ型】も性能が似通っているが、黒刀【参ノ型】には麻痺毒は含まれていない。しかし切れ味の良さと鋭さから生み出される斬撃は侮れない。しかもセルシウスの腕の良さと気刃から黒刀【参ノ型】の性能以上の結果を生み出している。
見えないからこそ三人からの攻撃に対応しきれていないらしく、だからこそセルシウスは先ほど以上に手数を増やして斬りかかっている。
「グルルル……!」
近くにいる事はわかっているため、唸り声を上げた狂ティガレックスはその場で回転して薙ぎ払おうとした。しかし花梨は上にいるから当たらず、セルシウスは飛びのいて回避し、桔梗は盾を構えて身を守る。
重い衝撃が盾から左腕に伝わってくるが、桔梗はそれを耐えて反撃としてダークを突き出す。目を潰されてから狂ティガレックスの回復力は落ちており、爆風で鱗が吹き飛ばされたりしたため肉が露出している所は増えている。
その部分を狙って突き出せば、麻痺毒が素早く注入できるだろう。
だが狂ティガレックスはまだ攻撃してくるセルシウスたちを感じ取り、また大きく息を吸い始めた。耳栓スキルでは防げない程の大咆哮を防ぐには高級耳栓でないと無理だろう。それがないセルシウスはまた距離を取ってやり過ごすしかなく、ゴールドルナシリーズを纏っている花梨も更に上に上がってやり過ごす。
一方桔梗はまた盾を構え、ぐっと唇を噛みしめながらその時に備えた。
「ガアアアアアアアアアアアアア!!」
衝撃波と共に周囲に大咆哮が響き渡る。盾に衝撃波がぶつかり、じりじりと後ろに押しやられそうになるのをふんばって耐える桔梗。耳をつんざく咆哮も盾の内側に顔を寄せ、川の水を少し調達して耳栓をして遮断しようとしたのだが、その守りも打ち破りそうな程に咆哮がきつい。
「く、うぅ…………」
びりびりと空気が震え、更に恐怖が湧き上がって体が硬直しそうになるが、それを堪えて桔梗は動く。
「はあああああ!」
自分を鼓舞するように声を張り上げ、大咆哮による隙だらけな狂ティガレックスの体へとダークを何度も突き刺していく。その度先端から麻痺毒が注入され、それは少しずつ狂ティガレックスの体を侵していく。
ふと狂ティガレックスがゆらりと体を傾かせる。麻痺毒が効いたか、と桔梗が視線を上げれば、勢いよく左手を振り上げながら体を捻っている狂ティガレックスが見えた。
「っ!?」
素早くダークを引いて盾を構えると、振り下ろされる左手に合わせて滑るように横に移動し、狂ティガレックスの力を受け流すようにして身を守る。しかし受け流そうにもその力が重すぎて顔をしかめてしまう。
それでも何とか受け流す事が出来、反撃として一歩踏み出しつつダークを突き上げる。
狂ティガレックスから付かず離れず、距離を保ちながら戦い続ける桔梗はきちんと攻守を使い分けている。心を侵す恐怖を感じながらも、彼女は戦えていた。
「桔梗が戦ってるんだ、俺もいかないとな!」
そんな桔梗の姿を見てしまっては、このまま硬直する事などクロムは出来ない。例え自分達を助けに来て、ああして戦っているのだとしても、クロムはそれを黙って見つめ続けるのは性分じゃなかった。
ブラッドフルートを構えて旋律を奏でつつ疾走し、花梨と桔梗にも強化を施してやる。更に緑、赤、緑、紫と音を奏でて味方の自己治癒力が高められる効果を発動させて体力回復を促す。
その後ろでは荒くなっている呼吸をと問えながらライムが意識を集中させる。視える限りでは狂ティガレックスの生命力は遭遇した時に比べて弱くなっており、あと少しで落ちる可能性があるところまできている。
(ダークに含まれる麻痺毒もいい感じに全身を回っているようだし、僕も手を加えれば麻痺させる事が出来るはず。そうなれば討伐が早くなる。……うん、これでいいはず!)
麻痺させる武器としてデスパライズがあるが、自分がそれをやったところで反撃されてクロム達の手を煩わせることになるだろう。だから遠距離で雷魔法を行使してやるのみ。
左腕に纏われた雷を右手で引くように集めれば、微弱の電気が網のように姿を変える。麻痺させることを狙いとしているから威力は微弱でも構わない。これを狂ティガレックスにぶつけて絡ませれば、狂ティガレックスはその動きを止めるだろう。
問題はぶつけるタイミングだ。これを誤ればクロム達へと絡んで邪魔してしまうだろう。
「グアアアアア!!」
突如狂ティガレックスが吼え、四肢に力を入れて高く跳躍する。あまりにも突然の行動に反応できずクロム達はただ上を見上げるしか出来ない。
当の狂ティガレックスは跳躍しながら口を開け、その先にいる花梨へと喰らいつこうとしていた。見えていないのにその位置が割り出せたのはやはり気配を探っていたからだろう。
花梨はさっきから気刃を放って攻撃しつつ移動していたため、その位置を捉えきれなかったが、大咆哮を避けるために上へと上がっていった。横ではなく上へ移動したため、ようやくその位置を探り当てたに違いない。
飛ぶ鳥を落とす勢いで接近する狂ティガレックスから逃れる事は出来ず、花梨は舌打ちしながらブラッシュデイムを構えて防御の体勢を取る。
ガチリッ、と音を立ててブラッシュデイムが狂ティガレックスに喰われる。だが噛み砕くまでには至らず、柄と刀身に手を当てて押しやられないようにするのだが、狂ティガレックスの体重に競り負けてしまう。
狂ティガレックスは強引に花梨を喰らおうと前のめりになり、それによって花梨は後ろに追いやられ、いつの間にか狂ティガレックスの下に位置していた。目の前から漂う血と異臭に鼻がやられそうになり、更に狂ティガレックスが放つ気配が花梨から力を奪う。
長寿の魔族にとって40歳に満たない花梨はまだまだ若い。経験を重ねていても上位ハンターでも彼女は魔族全体から見れば青二才といえる。
「こないなことが……! ここまでやばいもんなんか、狂化竜っちゅうんは……!」
花梨にとって実際に狂化竜に相対するのはこれが初めてだ。他の狂化竜を知らないから、異常といえる狂ティガレックスから感じられる殺気と雰囲気にあてられてしまっている。
(甘く見とったわ……なるほど、これはやばいもんや。……でも何やろか。この気配、どこかで……ってそないなこと考えとる場合やない! こないなとこでやられるわけにはいかないんや!)
かっと目を見開いて花梨はぐっと両腕に力を入れ、一瞬だけブラッシュデイムで狂ティガレックスを押しやる。たったの数センチだけだったがそれだけでも充分だった。その隙にブラッシュデイムを狂ティガレックスの口から抜き、右手で狂ティガレックスの頭を叩いてその上を取る。
そのすぐ後に狂ティガレックスが地面に着地し、唸りを上げて首を持ち上げた。獲物を逃してしまったことを悔しがるような唸りだったが、すぐにセルシウスとクロムが接近している事に気づいた。
持ち前の速さと機動力の高い武器を持っているだけあって二人の動きは俊敏だ。対して桔梗はダークを構えたまま走っているも、その速さは二人よりも遅く感じる。それはランスが大剣と同じく重量がある武器だからだ。
重いランスと盾を両手に構えているからこそその動きは鈍重なものになる。だがそれを引き替えに高い守りの性能を持ち、カウンターの要領で攻撃する事を可能にするのがランスだ。
「おらぁっ!」
上がった顔めがけてブラッドフルートを振り上げ、アッパーの要領で顎を打つ。一瞬怯んだところで頬を殴り飛ばすように回転し、下がった頭を勢いよくブラッドフルートを振り下ろして地に伏せる。
後ろではセルシウスが尻尾から足にかけて黒刀【参ノ型】で斬り捨て、体を中心として立ち回りながら連続して斬り続けている。頭を叩き落されているからその場に縫い付けられており、絶好の攻撃チャンスだった。
それは同時にライムにとって麻痺させるチャンスが訪れたことを意味している。
「麻痺させます!」
そう呼びかけて右手に纏った雷の網を放出する。それは狂ティガレックスに纏わりつき、ダークによって注入されていた麻痺毒の影響もあって狂ティガレックスは体を痙攣させてその場で動けなくなってしまった。
「グ、ガ、ガガ、ァアアア……!?」
動こうにも動けない体に戸惑い、震える声を上げながら狂ティガレックスが何とか動こうとしている。だが麻痺毒がそれを許さず、好機と見たクロム達は一気に狂ティガレックスへと攻撃を仕掛けていく。
このチャンスを生かして討伐しなければ、怒髪天を突き抜けるであろう狂ティガレックスの反撃を受ける事になりかねない。
「うおおおおおおお!」
高まっていく怒りを感じながらもクロムは狂ティガレックスの顔の前に立ち、ブラッドフルートを振るって何度も顔を殴りつける。何度も何度も頭を揺らすように鈍器であるブラッドフルートで殴る事で眩暈も起こさせようとしているのだ。
桔梗もダークを構えて走って狂ティガレックスへと接近し、尻尾から右足へと突き抜けるように突進を仕掛ける。ランスの技の一つであり、ランスを構えて疾走する事で何度も先端で飛竜の体を突き抜けるようにして攻撃するのが特徴だ。
小さな相手だとそんなに効果はないが、大きい相手ならば弾かれない限り後ろから前へと突き抜ける事が可能だ。
「ふっ、はあっ!」
横っ腹で桔梗は滑るようにブレーキをかけ、転進しながらダークを薙ぎ払うように振るって攻撃しつつ向き直り、横っ腹を穿つように何度も突き刺していく。
その対面、狂ティガレックスの左側では相変わらずセルシウスが位置取り、何度も体と足を斬り続けている。
「ふぅ……」
一方花梨はブラッシュデイムを両手で構えている。ぐっと力を篭めて握りしめれば少しずつ彼女の気がブラッシュデイムに伝わっていく。また両腕に静かに力が蓄えられていき、次の一撃に備えて狂ティガレックスを斬る位置を取る。
大剣には溜め斬りというものが存在する。
その場に留まり大剣を方で担ぐように構えて力を溜め、一気に振り下ろすという技だ。力を溜めている時は無防備な姿を晒すことになるが、最大の力で振り下ろされたその一撃は全部の武器の中でトップクラスといわれている。
そして彼女が溜めに入っている場所は狂ティガレックスの背中の上。さっきまで気刃によって斬り続けた場所を狙い澄まし、溜めこんだ力を解放するように勢いよくブラッシュデイムを振り下ろす。
「どっせぇええええええい!!」
背中から左の横っ腹にかけて縦に刻まれた傷から勢いよく血しぶきが噴き出す。鱗から肉も断たれ、あばら骨も薄らと見えそうな程の傷だ。それだけ今の一撃がどれほど重くて鋭いのかよくわかるというもの。
「ゴアアアアアアアアアァァァァァ!?」
「ぬぐぉっ……!?」
その激痛に悲鳴を上げる狂ティガレックスの顔付近に位置取っていたクロムは、その声量にたまらずすくみ上ってしまった。クロムもまた耳がいいため、悲鳴といえども声量が大きければ耳をやられてしまう。
「グルァアアアア! ゴルァアアアアアアアア!!」
これでも仕留められない。体から血を噴き出しつづけても狂ティガレックスはまだ死んでいない。それどころか危惧していた通り怒りも高まってさっき以上に嫌な空気が辺りにまき散らされている。
吐き気を催しそうなほど不快な空気だ。闇の粒子が空気を汚染し、感情に訴えかけるような不快感も相まってそう思わせている。それに追い打ちをかけるような狂ティガレックスの殺気。
「……はは、ははは……」
桔梗から乾いたような笑い声がその口から漏れ出る。はっとしてクロムが桔梗へと視線を移せば、彼女の緋色の瞳から光が少しずつ消え、虚ろなものへと変わっていく様子が見えた。
「う、ああ、あああああアアアアアアアアアアアア!!」
「き、桔梗!?」
突如として吼える桔梗。その叫びは獣のようで、普段の彼女からは考えられない程に異常な光景だった。
彼女は暴走を始めた。