エリア1に出ると早速目の前に2匹のモンスターがいた。アプケロスと呼ばれる草食竜である。亀の甲羅のようなものを持っており、これが大抵の攻撃から身を守る鎧になっている。尻尾には複数の棘が生えており、これを使って外敵を攻撃するのである。
そして何より特徴的なのが草食竜にしてはなかなか攻撃的であり、縄張り意識が強い。ハンターを見つければ威嚇をしてのっそりとした動きで近づき、頭突きや尻尾で攻撃を仕掛けてくる。飛竜が近くにいようとも逃げずに戦う種族なのだ。
だがそんな彼らの肉は独特の食感をしながらも美味とされ、また卵もまた美食人にとって好まれており、狩りの対象となることが多い。
「ブオオオ! ブオォオオ!」
昴たちに気づいたアプケロスたちが早速威嚇行動を取る。だが彼らには用がないので、そのまま無視して先に進むことにした。昴たちが足早に進むと、アプケロスは後ろに置いてけぼりとなり、襲われることはない。
そしてエリア4へと到着すると、目の前に5匹のゲネポスが辺りを警戒していた。岩肌に身を隠しているため幸いまだ気づかれていないが、前に出れば仲間を呼ばれるだろう。ならばその方がいいのだろうが、ここで呼ばれればあっという間に囲まれる可能性も否めない。本命はこの先にあるエリア10だろうが、そこはほぼ間違いなく彼らの本陣と思われる。また左手にあるエリア3は水飲み場となっており、数匹のゲネポスが配置されているだろう。
失敗を恐れるわけにはいかないが、いき過ぎた行為は無謀となる。ちゃんと行動を決めてからでないと死ぬ可能性がある。
「……よし」
そこで昴が右手を掲げる。すると指の間に1本の氷柱が挟まれた。その太さはだいたい木の棒ほど。先端が尖っており、貫通力がありそうだ。それを狙いをつけて投擲する。それは1匹のゲネポスの頭を貫き、絶命させた。それを見たゲネポスが辺りを見回すが、そのゲネポスもまた頭を貫かれる。一間を置かずに1匹、また1匹と貫かれる。何がなんだかわからない、といった風なゲネポスがうろうろとし始める。
そこで近くにあった石を拾いゲネポスの背後目掛けて放り投げる。音がした方を見やった瞬間、最後のゲネポスも頭を貫かれた。
「はわぁ~……」
「すごいですね」
鮮やかな手並みにシアンが呆けた声を上げる。ライムも立ち上がりながら思わずそう呟いてしまった。
「まぁ、あたしたちはいつも二人でやってきたからね。遠距離の援護がないから自然と身につけたようなもんよ」
「それに本来なら砂漠では使えん技術だ。だが今回はそこに水があったからな」
あごをしゃくった方を見れば、そこには確かに水辺があった。水辺があるということはある程度空気中に水分があるということ。だから氷の魔法が使えたということらしい。
「ここを主な戦場にするか。準備しておけ」
このエリア4はある程度の広さを持っており、離脱する道も充分だ。あとは敵をおびき寄せるのみ。
「ライム、シビレ罠を設置」
「はい」
ポーチからシビレ罠を取り出すと、歩き出した昴の後に続く。それを見て紅葉が隣にいるシアンの頭を撫でる。
「じゃああたしたちはお客さんを呼んできますか」
「りょーかいです!」
びしっと敬礼したシアンを連れて二人はエリア10へと向かう。
両側にある岩山によって少しだけ細くなった道を歩いていると、少し先に開けた場所がある。息を潜めながらその先、エリア10を見つめる。
「……っ!?」
思わずシアンが声を漏らしそうになったが、咄嗟に口元に手を当てた。
そうしてしまうほどのものがそこにあった。
見渡す限りのゲネポスたち。目視できるだけで30匹はいるだろうか。所々に生肉や死体が散らばっており、それを数匹のゲネポスが首を突っ込んで食事をしている。食事をしていないものはそれぞれ辺りを警戒していたり、眠っていたりしている。
そしてその中で頭一つ二つ突き出た大きさを持つもの。
ドスゲネポス。
リーダーの証である大きく二つに分かれたトサカを持ち、群れのゲネポスたちを見守るようにして佇んでいる。
「大丈夫?」
「……あ、はい。なんとか」
だがその体は震えている。ゲネポスと戦闘経験があるとはいえ、これだけの数を前にすれば竦んでしまうのも無理はないだろう。だが、別にここで戦うわけじゃない。
「あたしたちの役割はドスゲネポスをあっちに誘い込むこと。つまり走らないといけない。速さは自信あるんでしょ?」
「も、もちろんです!」
「ならいつものように走らないとね」
その胸に軽く手の甲で叩くとシアンはいつものような笑顔に戻る。何度か呼吸を整えるとやれる、といった風な目をした。
「あたしが前に出る。そこで何匹かゲネポスを始末するから、シアンはそこで誘いをかけといて」
そこ、と開ける場所の辺りをあごで示す。うなずいたのを確認して紅葉がクックジョーに手をかけた。
「じゃ、行くよ!」
「りょーかいです!」
紅葉が走り出してゲネポスたちのもとへと向かっていく。それを見送ってシアンが道の途中で立ち止まり、角笛を取り出した。角笛はモンスターの意識をこちら側へと向けさせるためのアイテム。主に罠を設置した後に誘い込む時に用いるアイテムだ。
「はいはいはいぃぃ!!」
クックジョーを振り回しながら近くのゲネポスたちを殴り飛ばしていく。突然のことにゲネポスたちが混乱し始めた。
「ギャウワァアアア!!」
だがそれを沈めるかのように叫び声が響き渡る。ドスゲネポスが走り回る紅葉を見つめていた。
「どうもー」
立ち止まってクックジョーを肩にかけ、空いた手をドスゲネポスへと振ると、彼の目が少しだけ細まった。そしてエリア10に角笛の音が響き渡る。見れば両手で角笛を支えながら少しだけ紅潮した顔で必死に音を鳴らしていた。
「ギャルァ! ギャウアア!」
そこでドスゲネポスが指示らしきものを出す。それを受けてゲネポスたちが4匹ずつの小隊を組んで二手に分かれ始める。
「っと、もういいよ! そのまま逃げなさい!」
「はい!」
角笛をしまってシアンがエリア4へと向かっていった。それを追うのは小隊を組んだ3組のゲネポスたち。あの場所近くにいたゲネポスたちのようである。そして紅葉にもまた複数の小隊を組んだゲネポスたちが取り囲み始める。奥にはじっと見下ろしてくるドスゲネポス。
「ふ、残念だけどここでさよならね」
不敵に笑いながら二度ほど片足で地面を叩くと、ドスゲネポスに背を向けて跳躍する。空気がはじけて後ろを塞いでいたゲネポスたちを跳び越し、そのまま加速をつけてエリア4へと逃げ出す。
「ギャルア! ギャウアッ!」
逃がすな、といわんばりの声を上げると、リーダーの指示に従ってゲネポスたちが追いかけ始める。そしてドスゲネポスもまた動き出し、舞台はエリア4へと移される。
「はぁ、はぁ」
シアンが走りながらちらちらと後ろを振り返る。
「ギャウ!」
「ギャギギ!」
ゲネポスたちは絶対に逃がさないと言っているかのようだ。彼女の速さに置いていかれないようにぴったりと後ろにくっついている。
「はぁ、く、もう少し……」
もう少しすればエリア4へと戻れる。額に流れる汗を拭うのを忘れて彼女は走り続ける。すると背後で悲鳴が聞こえた気がした。
「じゃまじゃまぁああ!!」
「ギャ!?」
「ギギッ……」
何事かと肩越しに振り返れば紅葉がクックジョーを振り回して後ろについていたゲネポスを数匹岩山へと打ち付けていた。視線を合わせれば先に行け、という風にうなずいた。それを受けてシアンはまだ走る。
後ろでは紅葉がゲネポスたちを始末しながら自分の背後を見ていた。少しだけ砂煙を巻き上げつつ多くのゲネポスが近づいている。もちろんドスゲネポスもその中にいた。どうやら誘いは成功しているようである。
「ギャルァ!」
先頭にいるゲネポスが見つけた、とでも言ったのだろうか。
紅葉は加速をつけすぎて少しばかり彼らを置いてけぼりにしてしまった。そのため少しだけ待ちつつ、シアンを追いかけていたゲネポスを始末することにした。
「ほいほい、こっちこっち」
今度は加速をつけずに普通に走り出す。その後をゲネポスの大軍が続き、ドスゲネポスがその中で更に加速をつけた。リーダーだけあってその速さはゲネポスたちよりも速く、前を行くゲネポスたちが少しずつリーダーに道を空ける。
「お?」
「ギャルァアア!!」
怒りが篭った雄たけびをあげるとその口を開けて牙を見せる。少しずつその距離が詰められていると感じたのか、紅葉が更にスピードを上げる。
視界が広がり、エリア4へと戻ってくる。
「こっち! 紅葉さん、こっちです!」
ライムが手を振って自分の居場所を教えてくれる。彼の前にはシビレ罠が設置されており、その周りに大タル爆弾が数個設置されている。今回は爆弾は直に持ち込まず、ライムの調合によって作り出すことにした。荷車を引いている際に襲われればひとたまりもないためにこのような形になったのである。
そしてライムの隣で昴が紅葉を見つめている。視線を合わせると小さくうなずいた気がした。シアンも二人の後ろで何とか呼吸を整えようとしていた。どうやら無事に逃げられたようだ。彼女を追っていたゲネポスたちはすぐそこで死体になっていた。すでに微生物によって死体が溶解されている。
肩越しに振り返ればドスゲネポスがもうすぐそこまで迫っている。その距離はだいたい30メートルだろうか。左折してみんなのところへと向かうと、背後の軍団も砂煙を巻き上げながら左折してくる。
目の前には大タル爆弾とシビレ罠。ドスゲネポスを罠に嵌めるならば、迂回せずにここを飛び越えるしかない。足元に意識を向けて跳躍してそれらを飛び越した。
「ギョルァ!? グガ、ギギギ……!」
すぐさま聞こえてくるドスゲネポスの悲鳴。身動きがとれずに痙攣している。紅葉が膝をついて着地すると、背後で凄まじい爆発が聞こえてきた。大タル爆弾が爆発し、激しい爆風が体を打ちつける。すぐそこで身を低くしてライムとシアンが顔を庇っていた。
あれだけの爆発だ。ひとたまりもないだろうとライムは思っていた。だが煙が晴れるとそこにはドスゲネポスが平然と立っていた。じろりと自分たちを睨みつけている。
しかしやはり爆弾の効果はあったようだ。その体は焼け焦げた部分があり、出血している部分がある。立ってはいるが、効いていないわけではない。
「ガルル……!」
周りには爆発に巻き込まれて絶命しているゲネポスがごろごろ転がっている。部隊もまたかなりダメージを受けていた。
「ギャルァア! ギャルァア!」
そこで召集をかけるような雄たけびを上げる。その声に応え、あちこちから新たなるゲネポスが少しずつ姿を見せ始める。同時にドスゲネポスはバックステップをして昴たちから距離を取る。ゲネポスたちはリーダーを守るように周りを囲み、昴たちに威嚇を始めた。
「これからが本番だ。気を引き締めろ」
飛竜刀【紅葉】を抜きながら忠告すると、ライムとシアンが同じように武器を抜いて返事をする。
「狙うのはドスゲネポス。リーダーさえ倒せれば、ゲネポスたちは逃げていくから。けどゲネポスもそれなりに倒しておきなさい。そして前だけを見ないように。周りにも気を配ること」
クックジョーを構えつつ紅葉もまた忠告する。
「一人にならず、それぞれ離れすぎるな。前に出すぎるな。そして、死ぬな。以上。かかれ!」
その声と同時に昴が斬りかかる。紅葉も続きながらも二人からそれほど離れない位置でクックジョーを操る。一呼吸遅れてライムとシアンも続く。
「ギャルァアア!!」
そしてリーダーも攻撃命令を下す。
ゲネポスの数は現在30匹前後。ここに来るまでや爆弾によって数は減らしたが、また追加でどんどん現れる。昴は飛竜刀【紅葉】を振り、周りを囲むゲネポスたちを切り裂きながら道を作る。その後ろにはライムが付き、同じようにヴァイパーバイトを縦横無尽に振りゲネポスを払っていた。
「ギャル!」
口を開けて噛み付いてくるのを盾を使って受け止め、その首を切り払う。だが止まるわけには行かない。ライムの後ろからまたゲネポスが噛み付いてくる。
「くっ」
体を捻ってそれをかわし、そのまま後ろのゲネポスの体を横薙ぎに切り、とどめとして切り上げた。
昴や紅葉の忠告どおり周りにも気をつけつつ頑張って昴の後を追う。見れば昴は自分が止まっているのを感じると離れすぎないように彼も止まってくれていた。そのまますり足で移動しつつ周りから群がるゲネポスを切り払っている。
「ギャゥア!」
そこにドスゲネポスが口を開けて噛み付いてきた。
「ぬっ?」
気づいた昴は後ろに下がって回避し、下がった首元に飛竜刀【紅葉】を突き立てようとする。だがリーダーを守るゲネポスがその腕を狙って飛び掛った。
「ちっ……」
柄を使ってその口にねじ込み、右手でゲネポスの首に手刀を当てる。
「ギ、グギ……」
気の抜けた声を漏らして噛み付く力が抜け、柄を抜いてそのゲネポスを蹴り飛ばす。そして肩越しにライムの姿を確認すると、再びドスゲネポスに視線を戻した。
離れた場所では紅葉とシアンが波状攻撃を繰り広げていた。
「おらおらぁぁあ!! 暴走クックのお通りってねぇ!」
紅葉が前に出てクックジョーを両手で回転させつつ、道を作ると同時にゲネポスのチームをかき乱している。巻き込まれたゲネポスたちは、クックジョーによる殴打と、漏れ出た小さな爆発で吹き飛ばされている。その取りこぼしのゲネポスはインセクトオーダーを構えたシアンによって両断されていた。
虫の素材を使っているインセクトオーダーは、素材のイメージに反してなかなかの切れ味を持っている。元々ランゴスタの羽は剣のように鋭く殺傷能力が高い。それをうまく利用した虫の剣は高い威力と、持続した切れ味を持つためハンターたちの間ではよく使われている。
切り裂かれたゲネポスは妙に綺麗な切断面をしていた。それを見たシアンは改めてインセクトオーダーの切れ味を実感することになる。
「ちゃんとついてきてる?」
前で暴れている紅葉が肩越しにシアンに振り返る。飛び掛ってきたゲネポスの腹に右手の剣をねじ込み、左の剣で首を刎ねて体を蹴り飛ばす。
「もちろんです!」
にっと笑って応えると、またゲネポスが飛び掛る。双剣を交差させて防ぎつつ弾き返し、そのまま切り払ってX字の切り口を作り出した。その死体が崩れ落ちるのを確認せずに再び紅葉の後を追う。
「ギャルァ!?」
背後に紅葉とシアンが迫ってくるのを感じたドスゲネポスが振り返る。そこにいるのは先ほど自分たちの本陣にやってきた女二人。ドスゲネポスの意識は完全にそちらに向けられた。
「ギャルァアアァアア!!」
号令一つ。あの二人を襲え、だろうか。追加で現れたゲネポスたちが二人を一気に取り囲もうと動き出す。だがドスゲネポスの周りのゲネポスは少し離れた所で戦っている昴とライムを狙う。恐らくこっち側はリーダーに一番近く迫っている敵を排除する、という役割が与えられているのだろう。
「ふ、二人が……!」
「心配するな。信じろ」
不安そうなライムの声に振り返らずに昴が言う。元より双方の距離は50メートルほど離れている。加えて中心部でドスゲネポスがいるのだ。助けになど行けやしない。
「それより準備出来てるだろうな?」
「はい!」
「よし、投げろ」
昴の言葉に従ってライムはピンを抜いて閃光玉を投げた。光が炸裂し、ドスゲネポスと周りのゲネポスたちが目をくらませる。
閃光玉が投げられたのを感じたのか紅葉の視線が少しだけそちらに向けられた。だがこちら側には効果はない。ゲネポスたちの視線は紅葉たちに向けられおり、光をまともに見ていない。
取り囲むゲネポスの数はおおよそ20前後。だが問題ないだろう。隣にいるシアンもまた紅葉がいることで負ける気がしていない。最初こそその数に恐怖を感じていたが、紅葉の頼もしさが彼女の支えになっていた。
確かにまだ怖さはある。でも紅葉と一緒ならば怖くない。やっぱり彼女は自分にとって頼れるお姉ちゃんだった。
「囲まれてるけど、ま、何とかなるでしょ。ね?」
「はい! もう大丈夫です!」
インセクトオーダーを構えながら笑顔で応えると、紅葉も不敵に笑う。
「囲まれたのなら一点突破よ。ドスゲネポスは昴たちに任せる」
そのドスゲネポスは自分たちの視界の奥。ライムが閃光玉を用意しているのが見えたので、彼らから一時的に視線をそむけたのだ。そして紅葉がクックジョーをぐっと握り締める。
「このゲネポスたちはあたしたちを狙うように命じられてるから、こいつらを足止めし、昴たちに向かわせないようにする」
「りょーかいしました!」
「突破したら後ろから来る奴らを相手にする、という風にやる。じゃあ行くわよ! シアン!」
「イエッサー!」
再び紅葉が巻き起こす旋風により、ゲネポスの包囲網に穴が作られた。
「ギョルア!?」
「ギャア! ギャア!」
閃光玉の光によってその場でもがき始めるゲネポスたちを切り払いつつ、昴は一気にドスゲネポスへと接近する。飛竜刀【紅葉】を構えて切り上げると、腹から首元まで赤い線が走る。
「ギョウァ!?」
突然の痛みにドスゲネポスがたまらず身を引いた。それを逃さずに袈裟斬り、斬り払いと続けて攻撃を仕掛ける。
「グルァ! ギャルァア!」
そこで視界が回復したのかドスゲネポスが昴を見下ろし、そのまま噛み付いてくる。それをバックステップで回避し、大地を踏みしめて下がった頭に切り下ろす。
「ギャァア!?」
完全に昴のペースに嵌っていた。後ろでライムがその動きに息を飲む。だが見物している暇はない。昴の元へとゲネポスたちが向かわないようにヴァイパーバイトを振るって迎撃する。そこでドスゲネポスの視線がそのライムへと向けられた。昴よりライムの動きがどこかたどたどしく、そして弱いのだと感じたのだろう。
「ギャルァア!」
その場から跳躍して昴を飛び越し、ライムへと襲い掛かる。
「っ!?」
その殺気を感じたのかライムがその場から前へと飛びついた。そしてさっきまでいた場所にドスゲネポスの体が着地する。
「うあ……」
ぎろりとその目がライムを射抜く。振り上げられた足がライムへと下ろされる。横に転がりながら避けると、すぐそこで振動音がした。逃さないとばかりに口が開き、そのまま顔が迫る。
「く、んっ!」
咄嗟に盾を突き出してその顔を防ぐ。
「グルル、ガルル!!」
盾がぶつかるのも構わずにライムに噛み付こうと力ずくで押し返してくる。だが突然その首を貫通した褐色の刃がある。
「グ、アァ……」
それは飛竜刀【紅葉】。ライムに意識を向けすぎたのだろう。迫ってきた昴の攻撃に反応できていなかった。そのまま切り上げると首から大量の血が噴き出した。
「グルァアア!!」
たまらずのけぞって痛みにもがく。その間に昴がライムを起き上がらせてその場を離れる。
「大丈夫か?」
「は、はい……。ありがとうございます」
その体は震えていた。無理もないだろう。すぐそこまであの顔が迫っていたのだ。命の恐怖が襲い掛かっていたに違いない。
「ギャルァ、グルァア!」
ドスゲネポス口元から吐息が漏れる。どうやら完全に怒りが高まっているようだ。周りのゲネポスたちも警戒するように様子を窺っている。
「こうなったら一気に仕留める。もう一度閃光玉を用意してくれ」
「はい」
ポーチから閃光玉を取り出そうとすると、ゲネポスたちが動き出す。ライムの前に出て迎え撃ち、時間を稼いでいると準備が整ったらしい。昴の頭上を閃光玉が越え、そして炸裂した。
「ギョルァア!?」
再び視界を奪われてドスゲネポスがもがきだす。
「俺が前をやる。お前は横から斬りつけろ!」
「わかりました!」
ヴァイパーバイトを抜いたライムが走り出してドスゲネポスに接近する。首や腹を飛竜刀【紅葉】によって斬りつけられ、手足や体をヴァイパーバイトで斬られるドスゲネポスの息はもう絶え絶えになっている。至るところから血が噴き出し、黄色の体に赤が広がっていく。
視界が回復したドスゲネポスが手を動かして昴を振り払おうとするが、昴は下がって、ライムは盾によって防ぐ。周りのゲネポスたちもリーダーを救わんとするが、すかさず昴がリーチの長さを利用して体を貫いていく。その間にライムが更にドスゲネポスへと追い討ちをかける。
これがチームで戦うことなのだ、とライムが実感していた。囮、援護、メインの攻撃。これらが重なって強大な敵に立ち向かう力となる。そうやって人は長い時の間モンスターと戦い続けている。
近くに仲間がいるということの何とも心強いことか。
自分を支え、仲間を支える。なんて素晴らしいことなのか。
「うおおぉぉ!!」
昴が自分を守っている間ライムはとにかく斬り続ける。時折攻撃を盾で防ぎ、回避しながらも攻撃の手を止めない。首を切り上げると、その体がのけぞって大きな隙が生まれた。
「ふんっ!」
それを逃さずに昴が飛竜刀【紅葉】を勢いよく胸を貫いた。刃から炎が噴き出し、さらに背中側へと切っ先が突き出ている。
「ギ、ガ、アガガ……」
大きく目を見開いたドスゲネポスからかすれた声が漏れた。それを確認するとそのまま刀身を抜く。そしてドスゲネポスはそのまま呆然と立っていたが、ゆっくりと横へと倒れていき、その目に生気が消えた。
「ギャウ! ギャウ!」
リーダーが倒れたことを感じたゲネポスたちが慌ててその場から逃げ出した。紅葉たちを囲んでいたゲネポスたちもその後に続く。
それを見届けると昴が刀身に付いた血を払うように数度振る。背中に戻すとライムの頭を軽く叩いた。
「……」
何も言わないがよくやった、お疲れ様、と言っているのだろう。ヴァイパーバイトを数回振って腰に戻して小さく頭を下げた。
「お疲れ様でした、昴さん」
「……ん」
小さくそう言うとこちらにやってくる紅葉とシアンを迎える。
「おつかれ」
「おつかれさまでしたー!」
ゆっくりと近づく紅葉と、ぶんぶん手を振って駆け寄ってくるシアン。ライムはシアンを迎え、昴は腕を組んで紅葉を迎える。
そして早速剥ぎ取りを開始する。皮や鱗、牙を剥ぎ取ると、昴も剥ぎ取りに参加する。何をするのかと思うと、体を解剖し始めた。目的のものは体の中にある内臓。そのうちの一つである麻痺袋が目的だ。
ゲネポスたちを超える麻痺毒を生成する部分であり、これは武器を強化する際に使用されることがある。手袋を取り出して慎重に麻痺袋を取り出すとそれを袋に包んだ。
「これはヴァイパーバイトの最終形態に使用できる。持っていけ」
「あ、ありがとうございます」
うなずいてその袋を受け取った。
そして一行はベースキャンプに戻り、クエスト達成をギルドに知らせた。
帰路についている時のこと、再びシアンが紅葉に話しかけていた。疲れはあるが、それを吹き飛ばすかのような喜びようを見せるシアンを見つめて紅葉が苦笑する。
「いやー、シアンも頑張ったよ。うん。このあたしにあそこまで頑張ってついてくるなんてね」
あのような動きをしている紅葉はまさに暴風状態。彼女の前にいる小型モンスターたちは、ほぼ全員巻き込まれて吹き飛ばされる。それは人間も同じ。ハンマーこそ振り回さないものの、酔った状態で暴れまわれば屈強の男だろうが、たちまち蹴り飛ばされるか殴られて沈められる。
そのことを思い出したのか一瞬昴の体が震え上がった。
「もちろんです! もう今回のクエストで決めました! わたしは紅葉さんを目標とさせていただきます!」
「「っ!?」」
その発言に手綱を操る昴だけでなく、ライムも本から視線をあげてシアンを見つめる。
「ほうほう。あたしのようにとな?」
「はい! 紅葉さんのようにかっこよくて頼りがいのある女性ハンター! これが目標です!」
「あら~。可愛いこと言っちゃって、まあ」
その頭を胸元に抱き寄せて撫で始めた。ニヤニヤとしているが、その心情はかなり嬉しいのだろう。自分を目標にしているなんて言われれば、テンションがあがるというものだ。
だが反対に男組の心情は複雑だった。紅葉のようになるということは、要するにこういうことだろう。
道を切り開くような突貫をする。
格闘戦がすこぶる強い。
キレるとかなり怖い。
テンションが上がれば暴走する。
これらを兼ね備えたシアン。少しだけ想像してみた。
「はっはっは!! 行くよ、おまえらぁ! はいはいはいぃぃぃ!!!」
双剣を縦横無尽に操りながらモンスターたちを切り払いつつ突進する光景。
「はぁ? そんなことも出来ないんですかぁ? どうかしてんじゃないですかね?」
腕を組みながら冷ややかな目で見上げてくる光景。
「うりゃぁああ!! わたしにさわんじゃねえですよ!!」
そして、キレて暴走しようという光景。
「「…………」」
ちょっと可愛いなんて思ったライムだったが、すぐにそんな考えを振り払うようにぶんぶんと首を振る。
困る。非常に困る。
でも止められるような雰囲気じゃない。このまま紅葉色に染められてしまうのを見守るしかないのだろう。そして手綱を操っている昴が溜息をついてボソリと呟いた。
「……ま、頑張れ。ライム」
テンションが上がっている女組とテンションが下がっていく男組。
果たしてこれからいったいどうなるのだろうか。
色々な心情を乗せて一行はココット村へと帰還していった。