呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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82話

 

 

 ストロンボリ火山へは竜車で五日ほどかけた先に存在する島に聳える火山だ。まずココット村からアルコリス地方へと南下していき、そこから東に進んだ先にある港から船を出す事で上陸する事が出来る。

 ドンドルマとは同じく船に乗る事で二日程かけて向かう事が出来る距離にあり、ドンドルマで発注される火山クエストとしてラティオ活火山と並んでよく利用されている場所でもある。

 そんなストロンボリ火山の入口に利用される入り江へと船で接岸した昴達は船に積み込まれていた納品ボックスを陸へとあげる。支給品ボックスはクエストの都合上、入れられているのは地図とネコタクチケットだけだ。

 ネコタクチケットは素材採集ツアーで支給されるチケットであり、ツアーを終了させたい場合納品ボックスへと納める事でギルドアイルーへと信号が発信される。その後彼らが迎えに来てくれる決まりになっている。

 制限時間は五十時間。その間に好きなだけ素材を集めていけばいいが、大抵の場合必要な物だけ集めて、さっさとネコタクチケットを使って帰っていくハンターが多い。

 モンスターが近づかない薬品を撒き終えると、三人は支給品ボックスに入っていた地図を取り出して確認してみる。

 ここからは二つの道が存在するらしい。

 右手に進めば岩山地帯へと入る事が出来るエリア1。左手に進めばすぐに火山内部の洞窟へと入る事が出来るエリア4となっている。

 どっちに進んだとしても最終的には火山内部で全て繋がっているらしい。様々な通り道があるらしく一通り火山内部を回る事が出来そうだ。また火山という事もあって発掘ポイントはかなり多い。これはすぐに必要な分だけ集まりそうな予感がする。

 それだけならよかったのだが、このストロンボリ火山は僅かな異変があるという。こうしてベースキャンプにいるだけでもわかる程火山の活動が鈍い振動という形で伝わってくる。

 

「軽い地震が続いてるわね」

「……それだけじゃない。奥の方の火山だけれども、小規模の噴火が起こっている」

 

 目を凝らしている優羅が火山の奥を睨みながら呟く。昴達には小さな赤が見えるだけだが、彼女の目には山から火が噴きだしているのが見えているのだろう。あの周囲の空は火山灰によって少し濁っている所まで見えるらしく、大雑把な距離も打ち出してみせた。

 

「……周囲の山々によってマグマがこっち側へと流れ込むことはないようですが、地震という形で影響はあるでしょう。……それに、あの辺りからは奇妙な気配を感じます」

「奇妙な気配? それはやはり狂化竜がいるってことだろうか」

「……それは行ってみないとわかりませんね。ただ普通じゃない何かがいるという事だけはわかります」

 

 やはり調べる価値はありそうだ。ギルドナイトもストロンボリ火山に数隊かやってきているそうだが、全てを解明できていないらしい。大陸全土へと調査隊を派遣している上にドンドルマの一件で人手が減っている事もある。進行状況はあまり芳しくないようだ。

 自分達が行ったところで何か得られる保証はないが、それでも行動する事に意味があるだろう。

 

「じゃあ行こうか」

「ん」

「……はい」

 

 そして三人はエリア1へと向かって歩き始めた。

 

 岩山地帯に響くのは何かを打ちつける音。それ以外に響くのは時折起こる地震による鈍い音。モンスターの声は全く聞こえてこない。

 それは最初のうちに昴達が威嚇と排除を兼ねて攻撃を仕掛けたからだ。

 エリア1、エリア2と進んできた三人は周りにいたブルファンゴやイーオス、ガミザミなどがいれば優先的に排除しかける。誰もいなければそれでいいのだが、彼らはハンターを見かければ威嚇から攻撃へと移行して発掘の邪魔をしてくる。だから先に排除しておかなければ安全に発掘が出来ない。

 優羅の威嚇射撃や殺気で逃げてくれればそれでいいのだが、そうしなければやむを得ず狩るしかない。

 そうやって安全を確保した後、三人はただ無心に鉱石を掘り続ける。

 採れたのはドラグライト鉱石、カブレライト鉱石、紅蓮石を基本とし、装飾品を作るための元となる陽翔原珠に修羅原珠、瑠璃原珠だった。

 また火山で採れるのはなにも鉱石だけではない。ここに生息している珍しい虫もまたハンターにとっては恵みとなる。キラビートルにマレコガネ、ドスヘラクレスに虹色コガネは良質の装備を作る際のいい素材となってくれるのだ。

 十分に素材を採ればいよいよ火山内部へと入る事になる。人が生身で入ればその熱気によってたちまち体力を奪われ死に絶える過酷な環境。もちろんそれは環境に適応できないモンスターとて同じ事。

 この過酷な環境下で進化を果たしたモンスターだけが暮らしていくこの世界に、いよいよ昴達も立ち入る事になる。

 その為に必要な物がこのクーラードリンクだ。砂漠同様クーラードリンクに含まれる成分が熱気と中和させる冷気を作りだし、服用者を過酷な熱気から守ってくれる。

 とはいえその効果も永久的ではない。時間が来ればその効果を失い、たちまち熱気地獄へと引き戻されてしまう。またあまりにも暑い空間へと立ち入ればその効果も十分に発揮できず、効果が切れる時間が早くなってしまうのも特徴だ。

 だからこそ火山は実力あるハンターしか立ち入る事を許されない。そのあまりにも過酷な環境だけでなく、ここに適応したモンスターの実力が他のフィールドよりも高い事も挙げられるためだ。

 火山に生息するモンスターで有名なのがやはり鎧竜グラビモスだろう。火山にある鉱石を主食とするかの竜は、外殻が鉱石の成分によって硬く強固なものに進化してしまっている。並みの武器では傷一つつける事を許さず、逆に弾き返してしまうため、火山クエストを初めて受注するハンターにとっては強大な壁となってしまう。

 また体内に溜まった熱気を放出する際に放たれる熱線は、まともに受ければ容易にその命を散らしてしまうだろう。

 攻守ともにそこらの飛竜とは比べ物にならないグラビモス。もちろん昴達は戦闘経験があるから問題はないだろうが、もしこれが上位個体で狂化させられてしまえば、強力な敵となり得るのは目に見えている。

 その覚悟もクエスト開始時点で決めている。だからこそ三人はその身にローブを纏っていた。

 クーラードリンクを飲み干し、三人はエリア2からエリア3へと移動する。

 地図によればここは公開されているフィールドの中心部分に当たるらしく、ここからまた四つのエリアへと移動できるようだ。洞窟内部という事もあって天井が存在し、これはショウグンギザミが天井歩行をする際に利用される。

 また奥を見ればボゴボゴと煮えたぎった音を立てながらマグマが流れてきており、少し開けた先には先端が尖ったものや複雑に欠けた岩の柱が数本聳え立っている。

 マグマが流れてきている事もあり、この洞窟の熱気は外とは比べ物にならない。クーラードリンクによってある程度楽になっているとはいえ、肌が感じる熱気は明らかに違っていた。

 そんな中でも命は確かに生きている。洞窟の奥から数匹のアプケロスがやってきたのだ。砂漠でも見かけられる彼らは草食竜でありながら敵を見れば威嚇をし、攻撃を仕掛けてくるという事で知られている。

 固い甲羅や尻尾には棘が生え、体当たりや尻尾を使って外敵を排除しにくるのだ。しかしその肉は食用に利用され、彼らが生む卵は一部の美食家には人気である。

 

「ウボァアアア!!」

 

 体を震わせたり二足で立ち上がって見せたりしてアプケロス達が昴らへと威嚇をしてくる。それを見た昴はやれやれと首を振り、ローブの中にしまっている鬼斬破を抜く。

 紅葉は角竜鎚カオスレンダーを、優羅は蒼桜の対弩を構え、のしのしと駆けてくるアプケロス達へと相対する。あっちから威嚇をしてきたのだ。ならばこちらも一回威嚇ぐらいはしてやろう。

 

「――消えろ」

 

 ぽつりと呟く優羅から強い殺気が放たれる。真紅に染まった双眼がアプケロス達を見据え、殺気は一瞬の風となってアプケロス達へと吹き抜ける。それだけでアプケロス達は足を止め、数歩後ずさっていく。

 攻撃してくることがあったとしても、彼らは元々草食竜だ。そして何より生き物だ。身の危険を感じれば、恐怖を感じれば戦う意欲を失い、逃げ出してしまう。

 出てきた道へと引き換えしていくアプケロス達を見送り、昴達は武器と入れ替えるようにピッケルを取り出していく。そしてこのエリアにある発掘ポイントへと向かったのだった。

 

 

 ○

 

 

 その頃ストロンボリ火山の一角にて、小規模の噴火を続ける山がある。そう、最初に優羅が見つめた場所だ。今もなお音を立てて活動し続ける火口の近くにそれはいた。

 マグマや溶岩を噴き出す火口付近は普通の生き物ならばまず耐えきれない程の高温状態になっている。だがそれはどこ吹く風でその場に佇み、じっと別の山を見据えるかのように不動。

 その体毛は噴火によって発生した風を受けてなびき、金色の瞳がその一点を睨み続けている。

 

「…………グルル」

 

 小さく唸ったかと思うと踵を返して火口から下のマグマの海へと歩み寄る。そこは噴火の影響もあり、多くのマグマや溶岩が流れ込んでその規模を拡大させていた。

 煮えたぎるその海はまず生物がいるはずもない空間だろう。入った瞬間その身を骨まで焼かれてしまいかねない程に熱い海へとそれは躊躇いなく近づき、その身を沈めていく。足、膝へと沈めたそれはマグマの海にいる何かを睨むかのように目を細めた。

 少ししてそれは現れる。

 マグマの中から飛び出してきたソレは佇んでいた存在へと体当たりを仕掛けるように接近したが、金色の瞳から放たれる威圧がそれに襲い掛かり、恐怖に硬直してしまった。

 

「グルッ!」

 

 そして威圧を放ちながら飛びかかり、その背中へと牙をむき出しにしてかぶりつく。その体を覆っている溶岩の鎧をもろともせず、内部の鱗へと牙が到達してしまった。

 

「ギュゥゥゥウウウウウッ!?」

 

 背中から喰らいつかれたため振り払おうと体を震わせるも、それはしっかりと牙を打ち込んで動かない。やがて抵抗がなくなっていき、ソレはその場に硬直してしまう。それを感じ取り、牙を離して数歩下がってそれを見下ろすと、ソレはゆっくりと顔を下げて目を閉じる。

 そんなソレに軽く首を振ってやれば、まるで命令を下された部下のように一礼してマグマの海へと飛び込んでいった。ソレを見送り、マグマの海に背を向けてまた火口へと戻っていく。

 一つの火山という檻から解き放たれた魔物は、マグマの海を伝ってあの場所へと向かうだろう。

 自分はそれを傍観させてもらう。

 あのハンター達はどこまで戦えるのだろうか。

 楽しませてもらうとしよう。

 

 

 ○

 

 

 エリア6まで登ってくると火口が近くなってきているだけあって周りの暑さが他のエリアとは比べ物にならなくなってくる。こういう所まで来るとクーラードリンクの効果が短くなってくるものだ。

 命にとって過酷な状況ではあるが、こういう場所では珍しいものが掘れるのだ。

 

「……獄炎石」

 

 ピッケルを振るっていた優羅がぽつりと呟きながら割れ目から転がり出た物を見つめる。石でありながら高温を放ち、燃え盛る炎が揺らめいているような模様を持つその鉱石こそが過酷な火山にて採れる獄炎石。

 紅蓮石も常温で燃え続ける鉱石だが、獄炎石のそれは紅蓮石よりもかなり高い。それ故に火口付近などの高温の鉱床でしか採れず、採れたとしても回収には気を付けなければならない。だが危険を冒すだけの価値があり、良質の装備を作る際の素材になるのだ。

 ポーチから耐火性の高い手袋を出して手に嵌め、続いて高温でも溶けない袋を取り出してその獄炎石をそっと中に入れる。こうしなければ持ち帰る事すらままならないのだ。

 またこういう場所には太古の失われた技術で作られた武器の塊が眠っていたりするという。それはさびた塊や太古の塊と呼称され、鍛冶屋に持っていき大地の結晶によって研磨する事でその姿を現すといわれている。

 失われた技術で作られた武器という事もあり、その形状は今の武器とは大きく異なっていたり、秘められた力が高かったりなど様々な特徴を見せてくれるが中にはハズレもある。何が出るかはお楽しみであり、そもそもそれが見つかるかどうかも運次第だ。

 

「お、こっちはユニオンが採れたわよ」

「こっちはカブレライトだな。これで…………うむ、十個か。あとはドラグライトが集まれば強化出来るな」

 

 昴の目的である鬼斬破を強化するための鉱石集めは何とか達成できそうだ。他の二人もいずれ使うかもしれないためドラグライト鉱石やカブレライト鉱石、ユニオン鉱石は優先的に集めている。その中に紅蓮石や獄炎石があれば更に儲けものだ。

 使う装備は限られているがその分高い恩恵が与えられるだろう。いずれ出会う新たな装備が気に入れば優先的に使っていきたいところだ。

 数分後この発掘ポイントでの最終を終えた三人は次のエリアであるエリア8へと向かうために歩き始める。その際崖の下にあるマグマの海をそっと覗き込む優羅の姿に気づく。

 そういえばと昴は思い出した。数年前にラティオ活火山で彼女はテオ・テスカトルを見たのだった。こうやって崖の上から火口を覗き込んでみると、マグマの海を飛行するかの姿を見たのだと彼女は言った。

 異変があるとするならばまたこうしてマグマに表れるのではないかと考えたのだろう。

 

「何か感じるか?」

「……いえ、何も。敵はまだ来ていないようですね」

 

 そもそも敵がいるかどうかもまだ不明なのだが。こうして登ってきた今も異変は全く起こっていない。やはり最初と変わらず時折軽い地震が起こるだけで、イーオスやガミザミらが邪魔しに現れるくらいだ。

 小型のモンスターは現れるが大型のモンスターは現れない。素材採集ツアーならそれも有り得る話だが、これは上位の素材採集ツアーだ。どこからともなく突然現れる事があり得るのだが、それも全くない。

 火山で現れるとするならば岩竜バサルモス、鎧竜グラビモス、雄火竜リオレウス、鎌蟹ショウグンギザミ、そしてイーオス達のリーダーであるドスイーオスだ。

 飛竜クラスがなかったとしても、ドスイーオスぐらいは現れるかと思ったのだがそれもない。

 平和なのはいい事だとはいえこれは少し奇妙な感覚だ。威嚇が効いて近づいてこないのか、とも考えたのだが飛竜クラスがそうするとも考えにくい。となるとこの山には元からいないのだろうか。

 あるいは火山の異常に反応して退避しているのか?

 いや、だとしたらどうして小型のモンスターがまだうろついているのだろう。

 まだわからないことだらけだ、と考えながら外へと出る坂を登っていく。その先にはちょっとした岩山地帯となっており、ここもまた発掘ポイントがある場所だ。

 遠くからマグマが音を立てて燃えているのがわかるこの場所は火山の上層部分に位置する。少し鼻をつくような硫黄の臭いが漂うこの場所も岩山地帯とはいえやはり熱気がある。

 ローブからタオルを取り出して浮き出てきた汗を軽く拭うと、続けて水分を補給するために水筒からミネラルウォーターを飲んでいく。火山に入ってから約四時間。そろそろ昼を回った頃合いだろう。

 安全な場所に移動して昼食をとってもいい頃合いか、と考えながら昴は辺りを見回した。噴火した山から漂う火山灰が薄く空を覆う中、飛行する影がいくつか見える。数はおよそ十前後か。

 それは同じように汗を拭き、水分補給をしていた紅葉と優羅も気づいた。

 目を凝らしてその影をじっと見ると、それは細長い体に翼が生えたようなモンスターのように見える。この火山でそんな姿をしたモンスターといえば誰か、それを思い出してみると一種が合致した。

 

「ガブラス!?」

 

 蛇竜ガブラス。蛇の名がつく通り、その姿は黒い蛇に翼と足が付いたような姿をしている。体内で生成した毒を相手に吐きだしたり、空中から滑空して攻撃したりしてくるという行動を見せる小型の飛竜種だが、イーオスらと同じくハンターにとっては邪魔な存在でしかない。

 だがガブラスは主に腐肉を食用としており、弱った得物を見つければ積極的に攻撃を仕掛けて捕食するという生態をしている。その影響か古龍が襲撃してきた際にはその現場へと現れ、犠牲者の腐肉を食い散らかすという光景がよく見られる。

 その為ヴァナルガンドと同じく厄災の前兆として一般人からも忌み嫌われている存在だ。

 そんなガブラスがここを飛行している。

 生態を思い返してみるとガブラスが見かけられるのは火山や沼地と言われており、古龍がいなくても過酷な状況にある火山で時折飛行し、火山にやってきたハンターへと襲い掛かってくるという記述がある。

 だからあのガブラス達もそうだという可能性もあるが、今この火山には異常がある。ただ暮らしているガブラスではなく、その異常の元となった存在によって蹂躙された命を喰らおうという可能性も否定できない。

 紅葉の驚く声に続くように優羅が小さく舌打ちしつつ、蒼桜の対弩を取り出して貫通弾Lv2を装填する。敵は空を飛行し、その体の大きさから飛竜と違って小回りが利く。仕留めるならば一発で決める。

 

「…………」

 

 様子を窺うように離れた所で滞空するガブラスらへと視線で威圧すると、その目から放たれる殺気に一瞬竦み上がってしまった。それを見逃さず、引き金を引いて貫通弾Lv2を連続して射出していく。

 それは寸分の狙い狂わずガブラスらの頭を撃ち貫き、力を失って遥か下にあるマグマへと次々と落下していく。素早く次弾を装填した時、ようやく動き出したガブラスもまた逃げ切れずに頭を撃ち抜かれる。

 その目に睨まれればもう逃げられない。例え動いたとしても彼女の目は的確に頭を捉え、素早く銃口の向きを修正して弾を射出していく。そうして一、二分で全てのガブラスはマグマへと飲み込まれていってしまった。

 ガチャ、と音を立てて優羅が構えを解き、ローブへと蒼桜の対弩を戻す。実に鮮やかな狙撃だ。無駄なく取りこぼしもなく全て素早く処理してしまった。昴が崖に立って軽く覗き込んでみてみるが、下がマグマという事もあって死体の影は全くない。

 

「……どう見る?」

「……やはりこの火山には何かがいるのでは?」

「うん、あたしもそう思う。あいつら優羅に攻撃されるまで傍観していただけだったし」

 

 ガブラスが狩りをするのは弱った相手を襲う時か、普通に襲撃して捕食するときだけといわれている。前者は古龍など強力な存在がいる場合、後者は群れを成して狩りをする場合だ。

 その場合はまず獲物の動向を観察する。弱っているのかそうでないのか、狩りをするのが楽なのかそうでないのか。獲物を選別する狡猾な思考だ。だが今回は相手が悪かっただろう。

 優羅に睨まれれば大抵の場合は狩られてしまう。今回も例に漏れる事はなかったようだ。

 そんなガブラスが傍観するという行動を見せるのは強力な存在が来る場合だ。全てはその存在に任せ、獲物が死んだ後におこぼれにあずかるのである。そんな雰囲気をさっきのガブラス達に感じた。

 ならばこの火山にその強力な存在がいるとみていいだろう。

 だが今のところはやっぱりその気配が全く感じられない。となるとやはり別の山にそれが潜んでいるとみていい。

 

「ふむ、今はまだおいておくことにしよう。こっちから出向くにしても本当に小規模の噴火している火山にいるならば、そっちへと向かうのも危険だろう」

「そうね。行くとしても少し休んでからの方がいいだろうし、もう少し後の方がいいかもしれないか」

 

 そうと決まれば昼食をとりたいところだが、ここでは場所が悪いだろう。硫黄の匂いが鼻につき、いつまたガブラスのようなモンスターがやってくるかもわからない。昼食をとるならベースキャンプに戻った方がいい。

 その前にここの発掘ポイントで鉱石を掘っていく事にしよう。それぞれピッケルを手に発掘ポイントへと向かっていった。

 岩山地帯ではあるがマグマに熱されているのかここでも紅蓮石や獄炎石が採れる。もちろん良質の鉱石も採れるため、昴達は無言でどんどんピッケルを振るって鉱石を探っていく。

 

「…………ん?」

 

 ふと、優羅の振るっていたピッケルが何かの感触を捉えた。新たな鉱石だろうか、と慎重になりながら周りを掘っていくと、それはゆっくりと姿を現した。

 

「……? なにこれ」

 

 それは今までにない鉱石だった。いや、鉱石と言っていいのかどうかも分からない。まるで長い年月をかけて色あせてしまったような塊だ。大きさは両手に収まる程のもの。丸っこい岩のような塊ではなく、凹凸があるが平らに近しい。それを手に取り、様々な角度から眺めてみるが、一見するとただの岩の塊かなにかと勘違いしてしまいそうだ。

 しかしその勘違いのまま終わらせてしまってはならないのがこの塊。近くで採掘していた紅葉が優羅が手にしている物を見て首をかしげる。

 

「あれ? それって……」

「どうした?」

 

 紅葉の言葉に昴も反応して優羅の下へと集まっていく。そして彼女の手に握られているその塊を窺い見ると、昴の表情が変わった。

 

「……おい、これはもしかして……あの塊じゃないだろうか?」

「あの塊って……あ、もしかしてさびた塊?」

「……太古の塊という可能性もあるけど、これは……どれに当たるのやら」

 

 色合いからみて錆びている、という風には見えない。となればさびた塊ではなく太古の塊だろうか。優羅達の目では一体どういう代物かは判別つかないため、鍛冶屋に持ち帰って調べてもらった方がいいだろう。

 しかしそれでもめったに出てこないこの塊を見つけ出したという事は喜ぶべき出来事。紅葉はばんばん、と優羅の肩を叩きながら白い歯を見せて笑う。

 

「へえ、いいもの見つけちゃったじゃない。やったじゃん!」

「そうだな。もしこれがアタリならばかなりおいしいじゃないか」

「…………そう、ですね」

 

 まるで自分が見つけた時みたいに喜ぶ二人だが、当の優羅は特に変化もなく小さく頷くだけだ。優羅はそれを一通り眺めるとポーチから出した袋へとそれを仕舞った。

 やはり感情が薄いのは変わらないか、と思えるがそれも優羅らしいと感じてしまう辺りこんな彼女に慣れてきたのもあるだろう。

 それからまたそれぞれの発掘ポイントへと戻り、数分ほどただただピッケルを振るっては出てきたものを纏めつつポーチにしまうという単調な作業を繰り返す。十分な量の鉱石を得る事が出来た三人は、一度モドリ玉を使ってベースキャンプへと帰還した。

 

 ベースキャンプへと戻ってくればさっそく優羅が昼食を作ってくれる。ローブの中から調理器具と仕込みを終えている材料を取り出し、簡単なスープとこんがり肉Gをてきぱきと作り上げた。紅葉は消化を助けてくれる山菜でサラダを作り、ドリンクの用意を済ませていく。

 このようにクエストに行く際に食事をする際は二人が作ってくれるようになっていた。優羅がメインを、紅葉がその時のレシピに合わせてサラダなどを付け合わせる。これが通例になっていた。

 美味しそうな匂いを立ち上らせる昼食を進めながら、昴は優羅に先ほど見つかった塊について問いかけてみる事にした。

 

「で、あれを研磨したらどうするんだ?」

「……そうですね。品によっては……いえ、何が出たとしても恐らく使いません」

「え? マジで? なんでよ」

 

 こんがり肉Gにかじりつき、咀嚼し終えて紅葉が優羅に問う。さびた物だろうと太古の物だろうと、研磨して大当たりを引いたならば彼女にとって大きな戦力アップになるだろう。

 外れたとしても武器が増えるし、強化すればもちろん戦力アップになるのは間違いない。しかし優羅はそれを手放すという。

 

「……アタシはボウガン以外だったらアタシが気に入った物しか使わない。もちろん有用性も考えるけど、基本的にはアタシの手に馴染む武器でないとアタシはやりづらい」

「ああ……それは何となくわかるかも」

 

 ライトボウガンに関しては撃てる弾を考慮して選んではいるが、それ以外の武器に関しては完全に好みの問題らしい。テッセン【烏】はガルルガシリーズの余りで作ったが、開いても閉じても使えるという面白味があるという理由で使っている。

 夜烏【小羽】は小太刀の形状が気に入ったから作り上げた。今では十分に手に馴染む一振りとなっている。

 それ以外に増やすとなると、やはり優羅の好みの問題になってくる。斬る事に属性は必要ないと考えているからテッセン【烏】も夜烏【小羽】も無属性だ。同時に切れ味が鋭い物となっており、モンスターだろうと人相手だろうと問題なく斬れる。

 双剣と小太刀。この二つが一人だった彼女がやってこれた証であり、いうなれば彼女の愛用する剣。作ってから数年経った今でも夜烏【小羽】から剣士系の武器を増やしていない事から考えれば、彼女がもうこれ以上必要としていないのが何となくわかる。

 

「……殴るのは拳だけで十分だし、斬る為の物ならもう間に合っている。だからこれはアタシには必要ない」

「なるほど。しかしあの大きさとなると太刀ではなさそうだし、大剣でもなさそうだな」

「ハンマーでもないわね。ランスというのも有り得ないか。この大きさだと片手剣か双剣じゃない?」

 

 名づけるなら太古の小さな塊か。一体この塊にどのような武器が眠っているのだろうか。それを見る事もなく彼女は手放すのか。もし大当たりだとすればもったいなくないだろうか。

 そんな心配をしていると、何かを考えるように視線を落としていた優羅がそっと視線を上げて問いかけてきた。

 

「……そういえば片手剣と双剣を使う知り合いがいましたね?」

「ああ、ライムとシアンか。……もしかしてあの二人に渡すのか?」

「……ええ。使わない物を持っていてもしょうがないですしね。使う人物がいるのならば、その人物の手に渡らせればいいでしょう」

 

 珍しい物を見つけたのに特に様子が変化するわけでもなく、未練もなく手放すと口にする優羅。普通ならば失われた技術が詰まっているかもしれない一品を見つければ大きな発見をしたと喜ぶだろうが、こういう反応を見せるのは彼女らしい。

 

「わかった。今度あの二人に会う事があれば手渡してやるといい」

「……いえ、アタシからではなく昴からどうぞ。あなたの方が渡しやすいでしょう?」

「……まあそうだろうが……いや、わかった。俺から渡そう」

 

 優羅が手に入れた物なのだから彼女が渡せばいいだろうと考えはしたが、自分達以外の人物とあまり関わらない彼女にはやりづらいか、と思い至る。少しずつ人付き合いに関しては改善されつつあるが、あの二人とはドンドルマの一件以前ぐらいしか話した事がないからまだ難しいだろう。

 それにしても誰かに物をやると口にするとは珍しい。でも理由としても彼女らしいと考えてしまう。

 使わない、でも捨てるのももったいないからやる。

 こう考えるだけでも優羅は変化しているとみてもいいだろう。昴や紅葉にやるというならまだわかるが、この二人以外の人物に渡してもいいと考えるのは以前の優羅からすると信じられない。

 いい変化だ。

 この調子で少しずついい方向に変化していってほしいところだ。

 

「さて、この後どうするかだが……」

 

 昼食をとり終えればまた地図を広げてこれからの事を考える事にする。水分を効率よく吸収出来るようにと作られたドリンクであり、汗となって流れ失われた水分を補給するに十分な一品だ。

 朝廻ったルートを確認すると、まだ足を踏み入れていないエリアがあるのがわかる。

 エリア9とエリア10だ。

 エリア2から右手へと進んだ先にエリア10があり、そこは他のエリアよりもマグマの海が広がっているという情報がある。そしてそのマグマの海は別の火山へと繋がっているらしい。

 しかも洞窟ではなく外でもあるため、空は開けている状態だ。リオレウスが別の火山からそのエリアへと飛行してくる可能性も捨てきれない。

 

「気配はどう?」

「…………数時間前よりも強く……いや、近づいてきているような気がする」

「近づいてきている、か。ならば一戦交えそうだな」

 

 ぐいっとドリンクを飲み干して昴が目を細める。食事をとって体力も回復したしドリンクで水分補給もした。火山に登って失われた力も取り戻したといってもいい。戦闘になったとしても問題はない。

 紅葉と優羅もドリンクを飲み干し、準備は完了した。軽く目配せし合うと焚火を消して三人はローブを纏って立ち上がる。こんがり肉Gの骨もきちんと処分し、匂いが外へと漏れないようにするのも忘れない。

 

「ではエリア10へと行ってみようか」

「オーケー」

「……はい」

 

 そこに目標である存在がやってくるかはわからない。だが行ってみる価値はあるだろう。ベースキャンプから右手へと進み、岩山地帯であるエリア1へと再び歩み進めた。

 

 クーラードリンクを口にしてエリア10へとやってきた三人は軽く辺りを見回してみる。左手には少し高く聳える岩肌が壁のように覆われ、右手には隣の山まで続くマグマの海が広がっている。

 空は濁った雲が覆い始め、隣の山が少しずつ見えなくなってきている。優羅がじっと火山があった場所を眺めているようだが、その視線は普通に眺めるものではなくよく観察するように鋭くなっている。

 目がいいとはいえこうも濁った風景となればよく目を凝らさなければ見る事が出来ない。マグマの海を見渡すように優羅は何度も視線を動かしていく。昴と紅葉も同じようにしつつ、気配を探るように意識を集中させている。

 

「…………確かに何かが近づいているように感じるな」

「……ええ。しかも……飛行していません」

 

 妙な気配が移動しているのが感じられた。その大きさからして飛竜クラスの存在というのは間違いない。だがこの曇天の空を飛行しているのではなく、マグマの海を移動しているように感じられたのだ。

 その速さは歩いているのではなく疾走しているかのような速さだ。この高温の海をそのスピードで移動できるなど信じられない。それだけでマグマの海を歩行する事が出来るグラビモスという線はないだろう。

 飛行していないというだけでリオレウスも省かれる。深さもあるはずなのでショウグンギザミもないだろう。

 となると浮かんでくるのはたった一種。

 この大陸で確認されているモンスターで、マグマの海を泳ぐ事が出来るとされているのはこの一種だけなのだ。

 

 そうしてマグマの海を眺める事数分。それは確かな気配を以ってして存在を示してくれる。

 

「……あれは」

 

 目がいい彼女はその存在の欠片を視界に捉える事が出来た。赤く燃え盛る海に一点だけ別の赤が浮かび上がったのだ。それは昴達の気配を感じ取ったのか、急にスピードを上げて接近してきた。

 

「構えろ、来るぞ!」

 

 昴も気配の動きが変わったのを悟ったのだろう。素早くマグマの海から離れるように後ろへと飛びつつ、ローブの中に手を入れて鬼斬破を抜き取った。同じように紅葉も角竜鎚カオスレンダーを、優羅が蒼桜の対弩を取り出しながらマグマの海から距離を取った。

 いよいよ昴と紅葉でも目視できるようになった時、それは一度マグマの海へと潜航した。燃えるような赤い背中が完全に海へと飲み込まれたが、気配は全く消えない。海の中からどんどん距離を詰めてきているらしい。

 その距離がいよいよ十メートルとなったところで海から長い尻尾が姿を見せる。いや、それは尻尾といっていいのだろうか。普通の生き物が持つような尻尾ではなく、まるで魚の尾びれのような形状だった。

 それが勢いよくマグマを叩き、薙ぐように動かせばマグマから溶岩の塊が三つ弾き飛ばされて昴らへと襲い掛かってきた。

 

「ふんっ!」

 

 だが紅葉は冷静に角竜鎚カオスレンダーを振りかぶり、角竜鎚カオスレンダーへと纏われた気の塊を弾き飛ばした。気功弾の一種として習得した技術の一つであり、ハンマーに纏う事で大きな気功弾を作り出すのだ。

 岩をも砕くその気功弾は例え溶岩の塊だとしても問題はない。細かい欠片になった溶岩の塊は紅葉へと降り注ぎはしなかったが、熱い空気が僅かに紅葉へと届く。

 優羅もじろっと塊の一つを睨み付け、意識を向ける事でその塊は勢いよく爆ぜてしまった。彼女がいつも使っている爆発魔法の一種だ。視線を向けるだけで粒子を集め、爆発させる代物だ。紅葉の時と同じく塊は細かい欠片となる。

 そして昴は気を込めた鬼斬破を構え、何度も振りかぶって気刃を連続して放つ。その度に塊は何度も斬られ、少しずつ細切れになっていく。最後に中心に向かって気刃を放つことで斬られた塊を爆ぜてやる。

 初撃は無力化された。

 だがそれでも敵は攻撃の手をやめるつもりはないらしい。何度も尾びれで溶岩を飛ばしてくるが、昴らはそれを回避、破壊してやり過ごしていく。それを感じとり、敵はこれでは埒があかないと感じたらしい。一度攻撃をやめてその顔をマグマの海から現した。

 

「ギュルル、キュルルル……」

 

 それはまさに魚のような顔つきをしている。だがその顔にはごつごつとした物質が覆われており、しかも燃え盛るように赤く、いや赤というより紅く色づいている。だが腹へと繋がる部分は金色の鱗に覆われており、紅の中に目を引く鈍い光を放っている。

 あの紅い物質は高温の溶岩らしく、それが高い守りを担っている。つまり本来の体は金色の鱗でびっしり覆われているという事だ。

 

 溶岩竜ヴォルガノス。

 

 溶岩の鎧を纏い、マグマの海を泳ぐ魚竜種のモンスターだ。だが外気に触れた溶岩は冷えて鈍い色を放つ。普通のヴォルガノスの溶岩の鎧も同様だ。しかしあのヴォルガノスの鎧は今もなお隆々と熱気を放ち、紅く色づいている。

 それはあの鎧が紅蓮石や獄炎石を内部に含み、内部からも燃えているからそう見えるのだ。紅い鎧を纏いし魚竜の亜種、紅溶岩竜ヴォルガノスだ。

 

「…………視える」

 

 蒼桜の対弩を構えながらヴォルガノス亜種を睨んでいた優羅がぽつりと呟いた。ゆらりと揺れる赤い瞳の中に浮かぶ光。どうやらあのヴォルガノス亜種の内部を視ていたようだ。

 そして視える、という事はやはりあのヴォルガノス亜種は――

 

「アタリのようだな。ならば……」

「討伐、ね。地形が悪いけど……そんなの関係ないわよね!」

「……どのような状況だろうと、獲物は狩るのみ。それが――」

 

 各々武器を握りしめ、身構えながら獲物(ヴォルガノス)を見据えて息の合った相棒のように自然とその言葉を口にしていた。

 

『――ハンターだ!』

 

 火山での戦いが今、火蓋が切って落とされた。

 

 

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