穏やかな日光が降り注ぐ昼下がり、ポッケ村の広場では数人の人影があった。太陽の光があったとしても、ポッケ村はフラヒヤ山脈に存在しているだけあって吹き抜ける風は少し冷たい。
でもここに暮らし続ければこの冷たさにも慣れてくる。ライム達の行動に乱れがない事から見てもそれがよくわかる。
現在の鍛錬は気功術と魔力による自己防衛方法だ。上位ハンターになったのだからしっかりと身を守る術を覚えておけ、と最近はこれを繰り返している。
気功術はシアンが、魔力の操作はライムが。自分の持ち味を伸ばしつつ鍛え上げる。月がそれぞれ基礎を仕込み、どうやって身を守るのか。教えた後は実際に戦って身を守るためにそれを使う。
これで体に覚えさせていくのだ。
「ほら、反応が遅いよ」
「……っ、くぅ……!」
月がライムへと接近しながら拳を突き出すと、腕で受け止めながら魔力を纏わせる。気功術と同じく魔力を腕に纏わせる事で鎧のような役割を果たすのだ。タイミングが合えば少しの魔力で攻撃を防御する事が出来るが、タイミングがずれれば衝撃を殺せずに受けてしまったり、無駄に魔力を消費したりする事になる。
既に基礎は仕込んであるため、今は実戦形態でタイミングよく身を守れるように鍛える段階だ。魔力に関しては月の方が仕込みやすいだろうとライムの相手は彼女が務めている。
ではシアンは誰がやっているのかというとクロムが担当していた。彼もまた近接戦闘を得意とし、気功術もかなりの腕前を誇っている。
時たまセルシウスと鍛錬と書いてちょっとガチで戦う、な戦いをしている際に月達が観戦していたが、彼女曰く「才能ありすぎだね」と言わしめたくらいだ。ちなみに何でちょっとガチで戦うのかといえば、時々そうしなければセルシウスが鬱憤溜まって妙な事をしそうになるからだ。
溜まったものはきちんと消化しましょう、という事でクロムと月がフラヒヤ山脈の一角などで殴り合いをしているのが最近よく見かけられる。
それは置いておくとして、彼に師事される事でシアンの気功術はめきめきと上達していき、今では気功弾を撃てるようにもなっている。ついにシアン自身で行使できる遠距離技が使えると彼女は喜んだが、今は攻撃よりも防御を覚えろと封印されている。
気力の総量をチェックし、どれだけ消費すれば彼女が倒れるかをあらかじめ調べておいたのだ。その結果まだまだ気力については伸びる点が見られたため、今は防御にのみ使うだけに留めておくことにした。
「ほらほら、どんどん行くぜ!」
「ど、どんと来いです!」
ペースを上げて振るわれる拳を両手、両腕で受け止め続ける。本気で殴っていないので何とかなっているが、気功術で硬くしてもやはりクロムの力は強い。鍛錬で鍛えられた腕の筋力と気の鎧を通して伝わる衝撃が、少しずつ腕を麻痺させていくような感覚がするのだ。
さすが体術に特化したというだけある。それに彼は上位ハンターとして長く活動し続けている事もあり、その動きは洗練されている。
だからこそ――その動きをトレースする。
彼の動きをしっかりとこの目に焼き付け、記憶する。苦しくてもシアンが目を閉じないのはそういう意図があるのだ。彼女にとってこの鍛錬はただ気の鎧を作るだけじゃない。彼の動きをしっかりと見極めて己のものとする。
月や獅鬼の動きでは完全にトレースしきれなかったが、クロムならばまだ出来るんじゃないかと考えてこうしている。
「少し遅れてきてるぜ? ほれ、頑張れ頑張れ!」
「はっ、はい!」
ちょっとした変化も見逃さずに指摘しつつ激励する。いい先生だと思う。彼の言葉に返事しながら、呼吸を何とか整えつつシアンは攻撃を受け続けた。
それから数分後、ようやく鍛錬終了の言葉が告げられ、二人は大きく息を吐いて浮いた汗を拭うためにベンチで見守っていた桔梗の下へと近づいていく。終了の言葉と共に立ち上がった桔梗の手にはタオルが二人分あり、「お疲れ様です」と声を掛けつつ手渡してくれた。
昔は鍛錬の後は倒れそうになったが、今となってはこうして動けるくらいまで体力がついている。これも成長しているという証だろう。
浮いた汗を拭った後は疲れを癒すドリンクを口に含む。これは獅鬼のレシピを元に月が作ってくれた物で、彼の知識が詰まった一品だ。
そうして休憩する二人だが、師事していた一人であるクロムは軽く汗を拭いた後、自己鍛錬をするようにシャドーを開始した。仮想敵を作ってそれと戦うというものであり、殺気維持用の速さで動き、攻撃を繰り出し、回避している。
最近の仮想敵は聞いたところセルシウスらしく、彼女の本気をイメージして動いているらしい。実際殺し合った事もあるし、よく彼女とそういう
その動きを見つめるシアンの目つきは真剣そのもの。仮想敵と戦うという動きすらも彼女にとっては糧になる。全てを真似る事は出来ないが、その体の動かし方さえ覚えれば自分の出来る範囲で再現が出来る。
そんな彼女の脇でドリンクを飲み終えたライムは、離れた所でぼうっとしている茉莉に視線を向けた。最近こうして瑠璃と一緒に自分達の鍛錬を見に来ているのだが、本当にしっかり見ているのかどうかわからない目で見ているため、傍から見ればぼうっとしている風にしか見えない。
「……おー? どうかしましたか?」
「え?」
不意に彼女の視線がライムへと向けられる。突然声を掛けられたため驚いたが、元々自分が彼女を見ていたからということもあって、軽く咳払いするとすぐに落ち着きを取り戻す。
「いや……いつもそこで僕達の事を見ている割には、ちょっと……」
「ぼけーっとしていると? すみませんね、これが私なんですよー。はっはっはー」
言葉で聞く限りでは高笑いをしているようなイメージがあるが、いかんせんその雰囲気と脱力しそうな声のせいで全然そんな感じがしない。まさに脱力系少女というところだろうか。
本当にあの快活な瑠璃と双子なんだろうか、と疑いたくなるくらい性格が真逆すぎる。
でも彼女は竜魔族であり、見た目と違ってかなりの筋力を持っている。その小さな体でガンランスを扱い、フィールドを駆けまわるハンターの一人だ。
しかも下位ハンターという枠に収まっているが、素の実力としてはもう上位ハンター近くまで来ているんじゃないかと思う。自分の力を完全に制御しきれない危険性があるから、と制限をかけられているとはいえ、彼女とて立派な戦士の一人なのだ。
こうして鍛錬しているおかげで体力もついてきたし、近接戦闘もある程度こなせるようになっている。幼い頃のようなベッド生活を過ごしてきたライムはもういない。今ここにいるのは上位ハンターとなったライム・ルシフェルだ。
しかし魔法抜きで戦えば、たぶん自分は茉莉に負けるんじゃないかと思う。それくらい彼女からは高い身体能力を窺わせる雰囲気を感じるのだ。
そんな風に考えながらじっと茉莉を見ていたせいだろうか。彼女は少しだけ困ったように眉を動かしながら小首を傾げる。
「? そんなに見つめられれば照れますよー?」
「……え? あ、ご、ごめん。気を悪くさせてしまったかな?」
「いえいえ、そんなことはないですよ。それにしても熱心な視線……ライムさんはもしかして年下趣味がおありでー?」
「一体何の話をしてるの!?」
思わず全力でつっこんでしまったが、当の茉莉は気にした様子もない。それもにやりとした表情変化もなく、至って真面目な表情で訊いてきているものだから困る。少し顔が赤くなってしまったのは驚いてしまったからだ。決して興奮したとかそういうわけじゃない……と信じたい。
気分を落ち着かせるように何度か深呼吸し、気を取り直してからじーっと自分を見つめる茉莉を見つめる。
「茉莉ちゃんも鍛錬とかしないのかな、と思ってただけだよ」
「おー、そうですか―。んー、まあ鍛錬もしますが、今は見ているだけでいいですね。もう少ししてから私もちょっとやろうかと考えてます」
そう言うと視線はライムからクロムへと向けられる。どうやら茉莉もまたシアンと同じようにクロムに動きを観察しているようだった。恐らくさっきまでの鍛錬も同様にそれぞれの動きを観察し、自分の糧としているらしい。
シアンのようなほぼ完璧に自分に投影するトレース能力はないが、その視力の高さを生かして細かな動きまでも見据えるとの事だった。
「以前からクロムさんの動きを見て参考にさせてもらってますからねー。おかげさまで結構動きが良くなってるんじゃないか、って自分でも思ったりしてます」
「そうなんだ」
「ええ。武器の扱いに関しては桔梗さん、体の使い方はクロムさん、と参考になる人がいてくれますから嬉しいですねー。……月さんに関しては上手すぎて参考になりませんから残念ですよー……」
「はは……なんとなくわかるよ」
力を抑えていると本人は言っているようだが、それでもライム達にとってはとてつもない実力に見える。滲み出る本来の実力、無駄を省いた動き……あれでも神倉獅鬼より身体能力が低いというのだから神倉一族というものは怖い。
まだまだ未熟な自分達ではあの動きを物にする事が出来ないという大きな壁。参考になるのはもっと実力を付けてからというのが悲しい。でも目指すべき完成系、という風に考えればまだ前向きになれる。
クロム、月……どっちを完成系と考えるかによるだろうが、ああいう風にやれば無駄な力を使わずに動け、戦えると覚えておくだけに留めておこうと二人はそれぞれ落ち着いたのだ。
「……そういえばそろそろ撫子姉さんが呼び出した時間じゃないですか?」
「あ……確かにそうだね。ちょっと忘れかけてたよ」
太陽の位置を確認した茉莉がぽつりとそう言い、ライムは思い出したように小さく頷く。今日の朝、鍛錬へと向かう前に瑠璃がやってきて撫子の伝言を届けてくれたのだ。どういう用件で呼び出してきたのかといえば、シアンと共に数日前に鍛冶屋へと預けておいたものの調整が済んだんじゃないか、としか思いつかない。
「ありがとう。じゃあ行ってくるよ」
「いってらっしゃいませー」
礼を告げながら手を振れば、ちらりと視線を向けながら小さく手を振りかえしてくれる。集中してクロムの動きを観察しているシアンへと声を掛け、二人は揃って鍛冶屋へと向かっていくのだった。
「こんにちは」
声を掛けつつ扉を開けて中に入ると、奥から金属が打ちつけられるような音が聞こえてくる。どうやら作業中らしい。少し待つべきだろうか、と考えていると、作業場から岩徹が姿を現してきた。「おお、らっしゃい」とにっと笑いながら首に巻いたタオルで汗を拭く。
二人の姿を確認すると作業場にいる撫子へと「あの二人が来たぜ」と声を掛け、少しして音がやむ。どうやら作業していたのは撫子だったらしい。岩徹が道を空けてやると、作業場から箱を押しながら撫子が姿を現した。
「いらっしゃ~い。ごめんねぇ、ちょっと調整していたところだったから……」
「いえ、構わないですよ。もう少し後に来ればよかったですか?」
「ううん、大丈夫だよぉ。呼び出したのはわたしだしね~。じゃ、早速依頼の品を渡していこうか~」
にこにこといつものような柔らかな笑顔を見せながら箱を開けて中から一つの物を取り出す。それは少し禍々しさを感じさせるような剣だった。いや、それは剣といっていいのだろうか。まるで一つの爪をそのまま剣へと利用したかのようなものだ。
轟剣【虎眼】。
ティガレックスの素材を使用して作られた片手剣、それの上位武器である。ティガレックスの素材を使用しただけありその威力は折り紙つきであり、切れ味もかなり高い代物だが、その反面会心率がマイナス方面へと傾いている。
素材は一体どこから調達したのかといえば、以前乱入してきた狂ティガレックスの物を使用した。その価値が上位のものに十分匹敵していたため、倒した功績として何か作ってみたらどうだろうか、と振られたためこうして片手剣にしてみたのだ。
もちろん狂ティガレックスは月が後に浄化させたため、素材に闇は存在しない。安心して使えるようになっている。
防具には使わないのか、とクロムが訊いたが、カタログを見る限り外見がライムの性格と全然マッチせず似合わないという事で丁重にお断りする事にした。それを言うなら片手剣だってライムのイメージには似合わないじゃないか、と反論が来たが、全身包むか、それを握りしめるかどっちがいいかと考えたら、後者の方がまだマシじゃないかと答えたのだった。
何はともあれ、ライムはこうしてかなり威力の高い片手剣を手に入れる事に成功した。
続いて取り出されたのはシアンの武器。ずっと愛用してきたインセクトオーダーは二段階強化を経てインセクトスライサーへと進化した。その威力だけでなく切れ味も一気に上昇し、十分主力として使える一品となる。
シアンもティガレックスの素材で双剣作ったら? と一度は勧められたが、そもそも戦いへと参加していないし、ティガレックスの武器は無属性。インセクトスライサーと被るため遠慮した。
続いて取り出したのはライムのオデッセイブレイドとシアンのプリンセスセイバーだ。この二つはメンテナンスとして出しておいたものだ。時折こうして撫子達鍛冶職人にメンテナンスしてもらわなければ、ハンター達が使う武器や防具は戦闘の際に異常を起こして使い物にならなくなる時がある。
ハンターにとってこれらは相手を倒すための刃であり、自らを守るための生命線の一つだ。いつでも万全の状態にしておかねばならない。
それぞれの武器を受け取り、礼を口にしてローブへとしまう。それを見届けると岩徹が奥から三つのマネキンを持ってくる。それにはそれぞれ緋色の装備と純白の装備、そして新緑の装備が飾られていた。
「はい、新調と強化を施した二人の装備だよ。そこで着心地を確かめてみてね」
かのドンドルマの一件で入手していた素材で作り上げた一品を強化させた事で生まれた二人の新しい装備。この前二人が上位ハンターになり、更にクロム達から選別として鉱石をプレゼントされた。ドンドルマの一件などで支払われた報酬金を溜めこみ、一気に使用して作り上げたものだ。
緋色のものはレウスSシリーズ。狂化されたリオレウスの素材で作り上げられた上位の防具だ。火竜という事もあって高い耐火性を持ち、同時にリオレウスの気性を表すかのようにスキルが素で攻撃力上昇・大が付いている。
同時に雷属性にも耐性があり、自己治癒力を高める効果のダメージ回復速度+1も付いているのが特徴だ。
それと引き換えに龍属性にかなり弱く、次いで氷属性も結構弱い。なのでフラヒヤ山脈でクエストする際はもう一つの装備を使用する事になりそうだ。
元々持っていたフルフルシリーズを強化させ、上位素材を付け足した結果フルフルSシリーズへと進化を果たしたのだ。
こちらは高い雷耐性と水耐性を持っているが、かなり火に弱くなるというレウスSシリーズと相反する耐性を持っている。
スキルはダメージ回復速度+2と衝撃倍加のスキルだ。(気絶倍加をアレンジ)またもう少しスキルポイントがあれば広域化+1が付くが、これは護石を身につければ発動するので問題ない。
衝撃倍加が痛いのでこれを耐絶珠で消しておいた。その他のスロットにボマーを発動させるための物を付け足すか、また別の何かを付け足すかは現在思案中だ。
次にシアンの装備である新緑色のもの。これはレイアシリーズを強化させ、同じようにドンドルマのリオレイアの素材を使用して進化させたレイアSシリーズだ。
レウスシリーズと同じように耐火性に優れ、龍属性に弱い。しかしその他の耐性に差があり、雷属性に弱く水と氷属性は普通というものになっている。
スキルはレイアシリーズに使っていた達人珠と護石、インセクトスライサーを合わさる事で転用させることに成功した。護石とインセクトスライサーにスロットがそれぞれ一個空いているのが幸いしたと言ってもいい。
護石のポイントが6、千里珠のポイントが2。これを護石、インセクトスライサー、レイアSシリーズに三つ使う事で自動マーキングが発動。残りを達人珠で埋める事で見切り+1となった。
これに加えレイアSシリーズが発動していた体力増加・大、毒半減が合わさる事になる。
更衣スペースでそれぞれ試着し、着心地を確かめてみるが全く問題ない。ここで装備を作っている事もあり二人のデータは既に撫子達の下にある。
それを照らし合わせて作られているのだから当然といえば当然か。
「どうかな~?」
「大丈夫です。特に問題は感じられません」
「同じくだよ。ありがとう、撫子さん!」
「いえいえ~喜んでくれたのなら何よりだよぉ」
自分達が作り出したものを喜んでもらう。職人としてこれ以上ない喜びだ。自然と撫子の笑顔は見惚れるような綺麗な笑顔へと変わっていく。
彼女が腕を振るって作られた武具をこうしてハンターの手に渡り、その手に馴染む、体の動きを阻害されない事を喜ばれるという事は、自分の仕事が上手くいった証だ。
幼少より父親にして師匠である岩徹に仕込まれ、今では自分で考えた新たな可能性を切り開く武器を作る事を研究している撫子だが、それは自分がどこまでこの道を歩めるかを試しているという側面もある。
新しい技術を求めるのも、新しい武器を作るのもひとえにそういう側面があるからだ。鍛冶屋としての道をこの先数十年、あるいは百年と突き進むであろう彼女は若いという事もあって好奇心と探究心が旺盛だ。
岩徹も竜人族としては若い事は若いが、撫子ほどの心はない。持っている事は持っているのだが撫子のその探究心の高さと才能に圧倒されてしまっているというべきか。今では普通に鍛冶屋を経営するという事で落ち着いている。
そしてなぜそこまで撫子が行動的なのかというと、その心の根源に自分の作り出したものでお客さんが喜んでくれるのが嬉しいからという感情に行きつく。それは今こうして撫子の笑顔を見るだけでわかってもらえるだろう。
お客さんの喜んでもらえるように習得した技術を振るって一品を作り上げる。
それが撫子が目指す自分の鍛冶屋の道だ。
新調された装備の着心地を確かめた後、シアンは先ほどの音について訊いてみた。恐らく何かを作っているのだろうが、自分達の依頼の品は完了している。ならばまた何かを作っているんだろうと推測したのだ。
「ああ、ガンランスの新しいギミックを作ってみようかと考えてるんだよぉ」
「ガンランス? それって茉莉ちゃんが使ってる武器だよね?」
「うん、そうだよぉ。重量級の武器だけど、ランスとしての突きと砲撃というもう一つの攻撃手段で攻め、盾で身を守るというもう一つの攻守揃った武器だね~」
そう言いながら奥の作業場へと入っていく。その後を岩徹と共について行き、中を覗かせてもらうと、そこには金属製のガンランスが置いてあった。
ガンランスの基本形とされるアイアンガンランスだ。これを改造し、新しいギミックとやらを作ろうという事のようだ。
「ガンランスにはさっきも言ったように砲撃というものがあるけど、これは複製でそれぞれの装填場所へと弾薬を装填し、砲撃しているんだ~。そして装填されたものを全部撃ち終える、または何発か撃ってから自分でリロードする事でまた弾薬を装填する」
そこで撫子は人差し指を立てる。
「でもガンランスは盾があるとはいえ近、中距離で戦う武器。リロードするっていうのは結構隙だらけなんだよ~。しかもガンランスはボウガンと違って一回リロードする度に、一度全部の弾薬を放出して新たに複製して装填するっていう特徴があるんだよ~。それはハンターが装填するんじゃなく、ギミックで装填しているから仕方ないとはいえば仕方ないよねぇ」
「なるほど……。もしかして撫子さんはその装填について新しくギミックを作る予定で?」
口元に指を当てながらライムが訊けば、「そうだよぉ」と頷きながらアイアンガンランスをいとも簡単に持ち上げてみせる。その細腕のどこにあれだけの力があるのだろう。全然苦にしていない様子でアイアンガンランスを構えてみせる撫子。
やはり竜魔族としての特徴なのだろうか。あの茉莉もガンランスをメインとしているのだから頷けるし、撫子もまた鍛冶屋として毎日武器を触り、ハンマーを振り回しているのだから自然と筋力が付いてくるのは当然の事だ。
うん、そうに違いない。
そんな風に彼女の事を考えていると、二人の頭の中に一人の女性が浮かび上がった。
そういえばもう一人怪力の女性がいたな、とその女性……紅葉の事を考える。とはいえ彼女の場合は人間だ。だというのにとんでもない怪力の持ち主……いや、深く考えるのはやめよう。
アイアンガンランスを持ったまま作業場から裏口へと繋がる扉へと向かい、外に出る。するとそこには既に誰かがいるようだった。
「…………」
黒刀【参ノ型】を握りしめたまま佇んでいるのはセルシウス。白のブラウスと赤いジャケット状の上着、黒いズボンという私服を着こなした彼女は裏口から出てきたライム達に一瞥すると、視線を元に戻し、目の前にある岩を見つめる。
彼女は時折ここにやってきては黒刀【参ノ型】で巻き藁や岩を斬って時間を潰している。彼女曰く、何かを斬っていると心が落ち着くらしいのだが、やはりそういう性分だというのは消えないようだ。
呼吸を整えながら黒刀【参ノ型】を構えると、一瞬のうちにそれを振るい、鞘へと納める。すると少し離れているというのに岩が斜めへとずれ落ちていく。斬れた跡はまさに袈裟斬りそのもの。
黒刀【参ノ型】を振るった際の剣閃だけで斬ってしまったらしい。気刃を放たずとも真空の刃で斬ってしまうセルシウスの実力。
やはり彼女は強い。
そう実感していると撫子はセルシウスへと近づき、「調子はどうかな~?」と話しかけた。その言葉に一度横目で撫子を見たセルシウスは小さく頷く事で応えた。
「それは何よりだよ~。気になる所があったら遠慮なく言ってね~」
「……ああ」
笑顔で語りかけてもセルシウスは表情を変えずにまた小さく頷くだけだ。そして場所を譲るようにそこから離れ、ベンチへと向かって置いてあるローブを手に取り、中から飲み物を取り出して口に含んだ。
作業場から音は聞こえていただろうし、撫子の手にしているアイアンガンランスを試そうという事は一見してわかる。どうやら自分は休むからどうぞ試してください、と譲ってくれたようだ。
無言で素っ気ないが少しずつセルシウスは変わっているようだ。
「じゃあ見ててね~」
そう言うとライム達から少し離れてアイアンガンランスの砲身を上に向けながら構える。握りしめている柄の一部分についている引き金に指をかけると、砲身から爆発音と共に熱波が噴き出した。
それを確認すると同時に撫子は素早くアイアンガンランスを振るう。すると弾薬を装填する場所から一つの音が聞こえたような気がした。それに疑問を感じる間もなく撫子はまた頭上へと方針を向けると引き金を引く。
しかし弾薬は一発しか装填していないはず。だがまた砲身からはまた爆発音と共に熱波が噴き出したではないか。
「ほい、ほいっと」
またアイアンガンランスを横に振るい、引き金を引けば砲撃する。また振るって砲撃する。それを何度か繰り返すと撫子は満足そうに頷いてアイアンガンランスを構えるのをやめた。
「成功だねぇ」
「……撫子さん、今のはいったい……?」
繰り返した回数は明らかにアイアンガンランスが装填できる最大数を超えていた。ということは撃った後に横に振るう行動に意味があるという事だろう。
シアンの疑問に答えるように軽く眼鏡の位置を直しながら撫子は説明を始めた。
「撃った後にわたしはこれを横に振ってたよねぇ? ああする事でギミックに刺激を与えて弾薬を複製して装填出来るようにしたんだよ~。こうする事で素早く一発は装填し、連続で砲撃出来るようにね~。名付けてクイックリロードだよ~」
「クイックリロード……」
素早く装填。なるほど、納得できる名前だ。
「とはいえギミックで装填しているわけだから、一々振るわないといけないというのが欠点かなぁ。隙を見て全部装填するか、攻めながら素早く装填するかは使用者に委ねられるね~」
「でも選択肢が増えるというのはいいと思いますよ。状況に応じて使い分けるという風にも考えられますし」
チャンスがあればクイックリロードで装填しつつ攻め続ける。安全策を取るならば離れてリロードする、と使い分けられるのは大きな変化だとライムは考えた。
ライムの言葉に撫子は頷き、
「そう、その選択肢を増やしてみたかったんだ~。ガンランスは今はまだ発展途上の武器。昔は出たばかりという事もあって数も少なかったし、使い手も全然いなかった武器なんだよ。今は種類もそれなりに出てきて使い手が増えてるけど、それでもまだ少し伸び悩むんだ~……」
「だから」と撫子はぐっと拳を握りしめた。
「ガンランスの新しい可能性を開拓してみようと考えてみたんだよ。そうして出来上がったのがクイックリロードを含めた三つの機能~!」
「三つ? まだあるんですか?」
「うん、あるよぉ」
にっこりと笑って頷き、またアイアンガンランスを構えて上へと砲身を向ける。一度リロードして弾薬を装填すると、引き金に指をかける。しかし今度はぐっと引き金を押し続けている。
すると砲身から火がゆっくりと伸びていき、引き金が押されるに従ってその火の色が変化していく。あれは竜撃砲を発射する前にもみられるものだ。
熱波があの火から砲身へと圧縮されるにつれ、砲身からは音が漏れ出ている。だがそれも短い時間で終わった。ドンッ! とさっきよりも大きな爆発音を響かせて砲身から高まった熱波が放出される。
それに怯むことなく撫子は素早くアイアンガンランスを振るってクイックリロードを行い、また引き金に指をかけて押し込んだ。
そうしてまた繰り返される新機能のお披露目。鍛冶屋の裏庭で何度か響かせる爆発音は恐らく近所に響いている事だろう。それでも人が来ないのはもう慣れてしまっているからだ。
何度かそのお披露目を繰り返すと撫子一息ついてアイアンガンランスを岩徹に手渡した。
受け取ったそれを作業場へと持ち帰っていくのを見ると、溜まった熱を冷ます事と落ちた耐久性を戻す作業に入るのだろう。さっきから何度も撃ち続けているのだ。最後の機能を試そうにも、機能が落ちている状態では失敗する可能性があるからそれを避けなければならない。
作業場へと入っていった岩徹を見送ると、撫子はこほんと咳払いしてまた説明を始める。
「今のが溜め砲撃だよ~。一発撃つには引き金を引けばいいけど、それを押し込むことで一発の弾薬から生まれる爆発の効果を溜めてやる事が出来るようにしたんだ。当然威力も上がっているけど、その代わりこれまた隙を晒す事になるのが欠点だね~……」
「一人で戦う時には気を付けなければならない、って事ですね」
チームでクエストする際には引き付けてくれる存在がいるからクイックリロードも溜め砲撃もある程度安全に行えるだろう。クイックリロードから溜め砲撃、更にクイックリロードと繰り返していけば普通に攻めるよりも大きなダメージが期待できるに違いない。
そう考えればこれは素晴らしいアイディアではないだろうか。
「そしてもう一つの欠点は、溜めて撃っちゃってるから一発撃つたびに結構切れ味を落ちしちゃうんだよね……。ま、竜撃砲よりはマシだけどこれはどうしても避けられない事だね~」
元々ガンランスは砲撃する度に切れ味を落としているし、竜撃砲を撃てばそれもかなり落ちる。その為ガンランスを使うハンターは自然と砥石を多く持つようになっている。
そこに付け足された溜め砲撃。通常砲撃よりも高い威力を発揮できるというのはいいが、その分切れ味を落とす。ボウガンと違い弾薬の爆発を利用した攻撃のため、避けられない現実なのだ。そこは仕方がないと割り切るしかない。
「溜め砲撃から溜め砲撃へと移行、溜め砲撃からの竜撃砲も可能ですか?」
「うん、可能だね~。でも後者は暴発する可能性があるからやめといたほうがいいかもね~。……ん、でもその辺りも調節した方がいいかな? むむむ……」
ライムの疑問に答えた撫子だが、思うところがあったらしく口元に指を当てて考え始めた。溜め砲撃によって熱がこもった砲身に更に追い打ちをかけるような竜撃砲。隙あらばやってしまおうと考えるハンターもいるだろう。
それに関する調整も考えるべきかと考えているんだろう。そんな彼女の思考を止めるように作業場から出てきた岩徹が声を掛ける。
「調整、完了したぜ」
「ありがとう、おとーさん。それじゃ、最後の機能を紹介しようか」
岩徹からアイアンガンランスを受け取り、弾薬が装填されていることを確認した撫子はそれをゆっくりと構える。そのままセルシウスが斬ったあの岩へと近づくと、なんとアイアンガンランスを岩の手前の地面に叩きつけたではないか。
同時に微かに聞こえた作動音。そして撫子が引き金を引くと、砲身から連続して砲撃が行われ、それに煽られた岩は粉々に爆ぜてしまった。
今一体何が起こったのだろう。アイアンガンランスを叩きつけて? 何かの音が聞こえて? そして連続して砲撃? 岩が粉々?
響き渡った爆発音にも煽られ、ライムとシアンはちょっとした混乱に陥ってしまった。
そんな二人へと振り返ると、どこか誇らしげな笑顔を見せながら撫子が近づいてくる。
「今のがフルバーストっていう攻撃だよ~。ああして叩きつければその衝撃に反応してギミックが動いて、装填されている弾薬を砲撃可能状態へと移行させるんだよぉ。後は引き金を引けば全部の弾薬を使って砲撃、引き金を引かなければ待機状態へと戻すって感じだね~」
振るえばクイックリロード、叩きつければフルバースト待機状態。衝撃に反応するギミックを付け足し、なおかつ引き金の状態で溜め砲撃を可能とする。こうしてみれば弾薬に関するギミックを三つも作ったという事になる。
ガンランスは刃と砲身を同居させた武器。鍛冶屋として手を入れるならば刃か砲身のどちらかになる。しかしガンランスが刃として攻撃するならば突くか薙ぐか、あるいは今みせたように勢いよく振り下ろすかしかない。
しかもガンランスの刃はこのアイアンガンランスのように砲身に取り付けるタイプと、月が持っていたエンデ・デアヴェルトのように砲身と先端が尖った刃が同一しているタイプの二種類ある。
となるとどちらでも使えるような刃を考えなければならなくなり、それは難しくなる。
ならば砲身の方を改造してみようと思い立ったらしく、こうして三つも考えたようだ。
「ギミックっていいよね~。どうやって動かせばいいのか、とか一つの動きに反応して他が連動して動くとか考えると……ワクワクが止まらなくなるんだよ~」
スラッシュアックスやダブルセイバーのギミック機能を聞いただけで楽しくなってきた彼女は、シアンが持っているプリンセスセイバー……ダブルセイバーを改造したダブルソードを作ってしまったくらいだ。
今回のガンランス改造計画もそれはそれは楽しさ満点で取り組んできただろう。最近作業場で何かを作っていると噂で聞いていたが、まさかここまでのものを作ってしまうとは驚きだ。やはり撫子はいい才能を持っている。
それに彼女はまだ他に作ろうとしているものがある。以前実験として見せてくれたイャンガルルガの素材で作られた超速射機能を搭載したライトボウガンがそれだ。まだ完成へと至っていないが、小休憩としてこのガンランスの改造に手を付けた結果こっちが成功してしまったという事らしい。
とことん才能が有り余っている人だ。
「さて、何か質問はあるかな~?」
「……これらのギミックは全てのガンランスに対応可能なんでしょうか?」
「うん、それを目指しているよ~。今は実験段階だけど、他のガンランスでも対応可能だと目途が立ったらギルドに申請して採用してもらう予定だね~」
採用してもらえば恐らく撫子は多額の謝礼が貰えるだろう。新しい武器、新しい防具、新しい機能がギルドに認められれば、ギルドからその鍛冶職人へと報酬が支払われる。
それは職人にとって一つの目標でもある。
日々己の技術を磨き、伸ばし、その折に自分のアイディアを形とする事はあっても、それを公式が認めるかどうかはその出来栄えや機能の有用性にかかっている。有用性がなければ話にならないし、危険性が見つかればただちに流通は停止される。
安全第一、それでいて効果が期待できるもの。なおかつ技術さえあればほとんどの鍛冶職人でも作れるもの。
そうでなければその職人だけの専門技術となる。それでは各地のハンターにその技術を使用した武具が提供できないのだから困る。それを手に入れるためだけにわざわざその職人がいる所まで向かうのは効率が悪い。
だからこそ素材と技術さえあれば、どの職人でも作れるようなものでなければならないという制約もある。
恐らく撫子はそれもクリアしているんじゃないだろうか。でなければギルドに申請するとは言わないはずだ。
「今はもう少し調節して対応できるようにする課題が残っているんだ~。それさえ出来ればきっとどのガンランスでも対応可能だよ」
「ほえー……すごいですね」
「ふふ、ありがとう。じゃ、ちょっと手を加えてくるね~。ここは好きに使っていいから、ごゆっくり~」
小さく会釈するとアイアンガンランスを持ったまま岩徹と共に作業場へと戻っていった。少しすればまた作業している音が扉の向こうから聞こえてくる。休む間もなくすぐに作業に入るあたり彼女もまた一人の職人という事が窺わせる。
さてごゆっくりと言われたがどうしようか。
すぐそこにはずっとベンチに座って撫子のお披露目を眺めていたセルシウスがいる。多少刺々しさは消えているが、それでも無表情に佇む彼女はどこか近寄りがたい。優羅も無表情で壁があるが、彼女とはまた違った意味で壁を感じる。
優羅は他人を寄せ付けず、拒絶するかのような壁だが、セルシウスの場合は近づけば雰囲気で斬ってくるかのような刃付きの壁だ。きつい目つきをしている事も相まって近寄りがたいのだが、最近はそれも改善されつつある。
それでも硬さがとれないのだが、これはもう彼女の性格なので仕方がない。それにこうして話しかけてみればそれなりに応えてくれるだけマシだ。
「セルシィ姉さんはよくここに来るの?」
「……そう。今回はこれのメンテも頼んでいたからその斬り心地を試していた」
飲んでいた物を置くと脇に置いてある黒刀【参ノ型】を軽く撫でる。通常の太刀と違って東方の刀と同じサイズで作られたそれが彼女の愛刀だ。人も楽に斬れるようにと作られたそれは人だけでなく竜種ですら容易く斬り伏せる。
恐らく長く連れ添った相棒なんだろう。撫でる手の動きはどこか慈しみがある。
「そういえば他の武器はないのかな? ずっとそれしか使っていないように思えるんですけど」
ふとシアンが小首を傾げながらそんな質問をする。最近は二人についてくるようにセルシウスも同行するようになっており、三人でクエストをこなしている時がある。上位ハンターになったとはいえ二人はまだまだ未熟なハンターである事には変わりない。
その為何かあった時に備えてクロム達が一人ついてくるようになっているのだ。その時使用している武器が黒刀【参ノ型】だけだったことにシアンは気づいた。そしてライムもまた思い返す。
ドンドルマで自分達を襲った時も、ティガレックスの時もセルシウスの手にはいつだって黒刀【参ノ型】があった。彼女が他の武器を手にしているところを見た覚えがない。
その疑問にセルシウスは一間置いて答えてくれた。
「別にないわけじゃない。ただ、普通に使う際にはこれが一番馴染むだけさ」
「例えば何があるんです?」
「…………」
それに答えず、セルシウスはローブを手にして中へと右手を入れる。そうして取り出したのは漆黒の刀だった。黒刀【参ノ型】とはまた違った漆黒。しかしそれからは強い力を感じられる。
「ヒドゥンサーベル。ナルガの素材から作られた刀さ。……見てわかるようにこれも長さを調節してもらってる」
確かに太刀にしては若干短く感じられた。これもまた人を斬れるように鍛冶屋に依頼したのだろう。また黒刀【参ノ型】と違ってそれは刀というよりその名の通りサーベルという感じだ。
「オレは刀の方が合ってるんでな。純粋な威力でいえばこっちの方が高いけど、黒刀【参ノ型】の方を愛用している。……他にあるとすれば――」
ヒドゥンサーベルをベンチに立て掛けると、次の武器を取り出してくれる。これはまた黒い剣だった。黒い刀身に骨を思わせるような白いものが付いている剣。その一振りだけという事は分類は片手剣だろうか。
更にもう一つ取り出してきたのは蒼い刀身をした片手剣だ。恐らく何かの竜の角を使って作られた剣なのだろう。だがその剣からは凄まじい力を感じさせる。
「――こっちがヒドゥンエッジ。さっきのと同じくナルガの素材から作った片手剣。こっちが独龍剣【蒼鬼】。蒼いラオの素材から作った龍殺しの片手剣。……でも使わない理由はさっきも言った通り」
そう説明するセルシウスだが、ライムの視線はじっと独龍剣【蒼鬼】へと向けられていた。それから放たれる凄まじい力。なるほど、龍殺しの剣というだけある。その剣からは凄まじい龍の力が封じられているのが感じられた。
蒼いラオシャンロンとは岩山龍と呼称されるラオシャンロンのもう一つの姿だ。蒼と呼称されているが実際は灰色のようにも見られる外見をしている。
ラオシャンロンは長い年月をかけて山や洞窟で眠り続け、時折そこから出てきてゆっくりと世界を移動する事で知られる古龍種だ。その眠る場所の環境でその甲殻に付着する大地の粒子によってその外見が褐色か灰色かで変化すると近年の研究で明らかになったと言われている。
そしてラオシャンロンの素材から作られる武器は総じて龍殺しの力を持つ。その為龍属性を持つ武器を求めるならばラオシャンロンのクエストに参加すればいいと言われているが、そのラオシャンロンがめったに出てこないのが現実だ。
とはいえ出てこられたらその天災と呼称されるほどの移動によって、どこかが壊滅的な危機を受けるのもまた現実なのだが。
「じゃあ刀は黒刀【参ノ型】だけという事なのかな?」
「……いや、もう一本ある」
そうして取り出したのは蒼い刀だ。これもまた蒼いラオシャンロンの素材から作られた龍殺しの太刀、龍刀【朧火】。高い威力と龍属性を併せ持つ龍殺しの太刀の中でも素晴らしい一品といえる代物だ。
「使わないのは簡単な理由。龍殺しの力を使うより自分の力で斬った方がオレの性分に合うというだけ。だからこれを使うとするならば……古龍種を相手にする時ぐらい」
「おお……なるほど……」
こうして並べられたセルシウスの武器。黒刀【参ノ型】を除けばナルガか蒼いラオシャンロンの武器しかない。つまり無属性か龍属性の武器しかない。
何か理由があるのだろうか、とライムが訊いてみた。
「属性なんて必要ない。属性はオレが付け足す」
「? 付け足す?」
「そう。無属性とはすなわち普通の武器と何ら変わりない代物。属性を得るという事はその属性の向きに縛られる。……例えばレウスの武器を作れば火属性の剣になる。その剣に雷属性を付加すればどうなるか。火と雷が影響し合い、爆発するだろう。それでは攻撃するどころの話じゃなくなる。更に言えば、火ぐらいしかその剣で放てなくなる。だから、縛られる」
そう説明しながら立ち上がり、黒刀【参ノ型】を手にしてゆっくりと鞘から抜き放つ。静かに気を高めれば黒刀【参ノ型】にセルシウスの気が纏われていく。
「一方無属性は何の影響も受けていない。ということは、自分で思う通りの属性の向きを作れる。時に――火を!」
彼女の気で守られた黒刀【参ノ型】に炎が纏われ、勢いよく振りかざせば炎を纏った気刃が空へと放たれる。素早くその火を消し、今度は黒刀【参ノ型】に渦巻く風が纏われた。
「時に風を、時に雷を、時に水を、時に氷を……!」
風の気刃に続き、雷、水、氷の気刃が連続して放たれていく。セルシウスもまた全ての属性の基本を扱えるようで、それを気刃へと変化させる術を持っているようだった。呼吸を乱さずに気刃を放ち終えたセルシウスは一度深呼吸し、ライムとシアンへと肩越しに振り返る。
「オレが無属性の剣を持つ理由は、属性をオレが付け足すから。状況に応じて属性を付けたす事が可能とする、それは大きなアドバンテージになるからな。……ついでに言えば、実際の威力が一番高いのは無属性の剣」
「……そうなの?」
「ああ。属性剣は少し威力を落とす代わりに属性自身の威力を付加させている。それが特徴。基本的にその剣の威力で斬っているオレからすれば、無属性の剣の方が使い勝手がいい。そんな理由もある」
黒刀【参ノ型】を鞘へと納めながらそう説明し終えると、彼女の視線はライムへと向けられた。その鈍色の瞳でじっと見つめられたライムは少しだけドキリとしてしまう。
セルシウスは感情が読めないが、その顔のつくりは一見して男にも女にも見える中性的な顔つきをしている。それでいて綺麗だと思わせる彼女が目を逸らさずに自分を見つめているというのは、ライムにとって少し恥ずかしくなってくるものだ。
「ライム」
「は、はいっ、なんですか、セルシィ姉さん?」
「お前もこれは出来るはず」
「…………え?」
出来る?
何が?
「ちょうどいい具合に無属性の剣を手にしたんだったよな? あのティガの素材で作った剣を受け取ったんだろう?」
「あ、はい。先ほど受け取りました」
「お前は全ての属性を扱う事が出来る。後はその才能を上手く使い、あの剣に属性の力を纏わせて気刃を放つ。これをお前も出来るはずだと言っている」
そういえば確かに自分は全属性に適応があるんだった。でもこれは魔法使いとして撃つというある意味砲台のような才能だと考えていたのだが、今こうしてセルシウスが見せてくれたような使い方も確かにあるようだ。
セルシウスも小さく首を振りながら話を続ける。
「とはいえこれはお前の方針の問題でもあるな。術者として剣を媒介せずに自分のイメージ通りに属性の攻撃をするか、あるいはオレのように剣を通して斬撃を撃ち出すのか。これは使用者の合っている方法でやった方がいいのも事実。……でもお前も一応出来るという可能性を示しておこうと思った。何せお前はあれをやったのだから」
「あれ……ですか」
狂化したティガレックスを倒すとどめの一撃として振るったあの一撃。ただイメージが湧くまま無意識のうちに行使したあの術。雷と光を同化させて作り上げた純粋な魔力の剣。
その形状こそセルシウスが持っていた黒刀【参ノ型】を参考にしていたようだが、あれは間違いなくライムのイメージで作り上げられた一振り。
雷光剣タケミカズチとライムは口にした。これは東方に伝えられる雷神、刀剣の神の名前である。茉莉から借りた読んだ本に登場する名前を記憶していた。無意識のうちにその名前が浮かんだのかもしれない。
またそれ以前にも雷の槍をティガレックスへと投擲しているし、属性を武器へと変化させるイメージはある事がわかっている。つまり属性を武器に結び付けるイメージは揺らぎない。
後はそのスタイルを続けるか、武器へと纏わせるかに分かれる。
「やってみたいと言うならオレがある程度仕込んでやる。オレの戦い方は距離も場所も選ばない。だからお前でもある程度仕込める。……でも自分のスタイルを完全に確立させるのはお前。オレはただ道を示してやるぐらいしか出来ない。それは覚えておけ」
「……はい、わかりました。ありがとうございます、姉さん」
「……お前も、何か気になる点があるなら言え。武器は違うだろうが、オレの動きを真似るぐらいなら出来るだろう?」
「え? あ、はい、そうだね。ありがとうです、セルシウスさん」
自分も教えてくれる事に驚いたシアンだったが、すぐに笑顔になってお礼を口にする。自分に向けられる無邪気な笑顔に「ふん……」と素っ気なく息をつくと置いてあった武器をローブにしまいこんでそのまま去っていった。
あまりにも素っ気ない態度だったが、恐らくシアンのあの笑顔を前にどう反応していいのかわからないのだろう。ああいう性格になってしまっているのだからシアンのような人との接し方がよくわからないのがわかる。
撫子でも同じような反応を見せているのだからたぶん間違いないだろう。
それにしても無属性の武器の使い方か……とライムは考える。確かにセルシウスのあの黒刀【参ノ型】は様々な属性を纏わせて撃っていた。ドンドルマでもティガレックス戦でもそれは見られた。
説明されれば何となく理解できる。属性同士を掛け合わせる。それは似たようなものだったりすると上手くいく事があるが、大抵の場合は混ざりきらずに拒絶反応をみせる。
だから複合は腕の立つ魔法使いでなければ不可能だ。
セルシウスは魔法の腕は基本ぐらいしか出来ないので複合が出来ない。だから無属性の剣に纏わせて撃つスタイルが確立した。そう考えられる。
これを自分が行使する。
前提としては気刃が撃てるようにならなければならないだろう。でも自分は気を扱うよりも魔力を扱う方が得意だ。……ならば纏わせた魔力を撃ち出すというのはどうだろう。
剣に纏わせるのは魔力。それに属性を乗せていけばすぐに撃てるようになるんじゃないだろうか。
考え始めると色々イメージが湧いてくる。
……なるほど、たぶん撫子もこんな感じだったんだろう。一度考えてイメージが湧くとぽんぽんと次々と湧いてきて、それを試したくなってくる。何となく撫子の気持ちがわかってしまうライムだった。
そんな彼の隣でシアンは去っていったセルシウスの方を見つめる。
セルシウスの動きは速攻系。力で攻めるクロムとはまた違った動きだ。
クロムはたぶん紅葉に近しいスタイルだろうが、速攻系のセルシウスはたぶん……自分に近しい。その速さを生かして駆け回り、的確に敵を斬っていく。
「……うん、たぶん似ている。そうだよ、思い返せばセルシウスさんの動きは……」
彼女とクロムの鍛錬を思い返してみても、彼女は速さを生かして攻めていたじゃないか。体術を得意としているクロムばかり目がいっていたが、彼女だってそうじゃないか。
でも彼女は戦いというより相手をいかに素早く殺すかを目的とした戦い方だという。ハンターというより人斬りとして長年過ごしてきたのだから仕方ないといえば仕方ない。
だがそれは相手の急所を捉えて攻めるというスタイルとも言い換えられる。
だから少しはあの動きを参考にしてみようとシアンは考えた。そこから学べることがあるならば学び、取り入れるべきだ。今はただ実力を高めるための教材が欲しい時期。
意を決するようにシアンはぐっと拳を握りしめて頷いた。
新米ハンターという肩書きではもう呼べない二人は、もう中級ハンターとしての領域に足を乗せている。そんな二人の道はまだまだこれからだ。
今はまだ選択の時期。
どのようなスタイルを確立し、自分の道を定めるかは時間をかけて考えていけばいい。
その為にも今は自分を磨き続けよう。