呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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11話

 

 

 ゴル砂漠北部を一つの商隊が通過しようとしていた。商隊を護衛するように三人のハンターいる。彼らが歩いているのは岩山地帯ではなく砂漠地帯。

 見渡す限りの砂地が広がっており、モンスターの影が見当たらない。だがハンターたちは警戒を解かずに商隊についている。

 そんなハンターの背後から静かに迫る影が一つ。それは音を立てずに静かに、確実にハンターを狙っていた。

 

「ん?」

 

 何かに気づいたように一人が振り返る。だがモンスターの姿などどこにもない。

 

「……気のせいか」

 

 そう思ってまた歩き出す。

 数分後、影は三つに増えていた。そのうちの1匹が音もなく迫る。そのまま首を素早く突き出してハンターの足に喰らいつく。

 

「なっ、うわっ!」

 

 ハンターは強い力影に引き寄せられ、他の影もまたそのハンターに喰らいつき、完全に体が砂に沈む。

 

「な、なんだっ!?」

 

 突然のことにハンターたちがざわつき始める。商隊を率いている商人たちも混乱し始めた。

 

「うわ、も、モンスターなのか!?」

 

 慌てたようにアプトノスの手綱を叩く。アプトノスたちもカンが働いたのか慌てて走り出した。そしてハンターたちは砂の下から迫る影に気づく。それぞれ武器を構えて対処しようとするが、影の中で大きなものが見えたとき、一斉に周りからそれが現れた。

 

「う、うわあああぁぁぁ!!!」

 

 その悲鳴は砂漠に響き渡り、逃げ出した商隊の荷車に乗っていた人の一人が息をのんだ。恐怖に体が震え、ただそれを見つめるしか出来なかった……。

 

 

 早朝のこと、その報せがココット村に届けられた。酒場には既に昴と紅葉がおり、その報せを聞いて顔色を曇らせていた。少ししてライムとシアンも到着し、その報せを聞いて顔色を変える。

 本日未明、ゴル砂漠北部にて商隊がガレオスの群れに襲われる。命からがら逃げ出したが、現在洞窟で避難している形になっているようだ。西の出口は地底湖へと続いており、東の出口は今なおガレオスの群れによって出られない状態にある。

 報せはあちこちの村に届けられているが、救出に向かうハンターが集まるかどうかは不明。一刻も早い救出を求む、とのことだ。

 

「た、助けに行かないと!」

 

 ライムが昴に言うが、彼は腕を組んで目を閉じていた。シアンもまた助けに行こうという意志を持って紅葉を見上げている。だが紅葉もまた何も言わずにその視線を受け止めていた。

 

「……昴さん?」

「このクエスト、ドスガレオスもいるんだな?」

「そのようじゃのう。商隊の一人が群れの中に大きな影を見た、という声がある」

 

 ドスガレオスとは魚竜種に属する飛竜である。砂竜という俗称の通り、砂を泳ぐ飛竜だ。ガレオスを率いるリーダーであり、ガレオスよりも一回り大きな体と、黒ずんだ体が特徴である。また牙やヒレには麻痺毒をもっており、砂から飛び出して獲物に切り裂けば、それだけで獲物が麻痺して動けなくなる。あとは砂に引きずり込んで彼らの食事タイムが待ちうけている。

 そう。彼らは砂を泳ぎ砂の中から突然飛び出すのである。それはまさしく奇襲。一瞬の油断がそのまま死に繋がるのだ。

 

「……俺としてはこのクエストは反対だな」

「えっ!? どうしてですか!?」

 

 驚くライムに昴が横目で彼を見つめた。

 彼の装備はランポスシリーズからゲネポスシリーズへと変化している。先日のドスゲネポス戦で入手した素材を使用し、作り上げたものだ。ランポスシリーズより若干防御力が上昇しており、スキルは麻痺無効を発動させている。この装備によってドスガレオスの麻痺は効かなくなっているが、昴が心配しているのはそんなことではない。

 このクエストそのもの危険なのだ。

 1匹1匹のガレオスならば問題ない。通常のガレオス討伐くらいならば、経験させると言う名目で受けるだろう。だがリーダーがいるドスガレオスならば話は別だ。ガレオスも経験していないというのに、いきなりリーダーがいる群れを相手にするならば危険度に差がある。

 二人はまだ奇襲というものに慣れていない。陸上の奇襲に慣れていないのに、地面の下からの奇襲に対処など出来はしない。

 だからリーダーとしてこのクエストに参加することは許可できなかった。

 しかしライムとシアンは納得がいかないという表情をしていた。

 

「商隊を見捨てるんですかっ!? 昴さん!」

「…………」

 

 ライムの叫びに昴は何も言わない。

 

「紅葉さんも同じ考えなんですか?」

「あたしは昴がそう決めたなら従うだけよ」

 

 驚くほど冷静な声色でそう返ってきた。

 

「まあ、そうでなくてもあたしも反対かな」

「ど、どうしてです?」

「あんたたちにはまだ早いから。ガレオスと戦ったことないでしょ?」

 

 そして紅葉が前述のような説明をし、最後に「だから反対」、と締めくくった。確かに言い分はわかった。自分たちのことを心配してそう言ってくれているのだとわかる。でも、それでも納得できるものじゃなかった。

 昴と紅葉。二人がいればまだ何とかなるんじゃないのだろうか。そんな考えがあったのだ。

 

「村長。今ならまだ助けられるんですよね?」

「そうじゃのう。距離はあるが商隊も一応食料があるそうじゃ。じゃが、もって1、2日。助けるなら早いほうがよい」

 

 早いほうがよい。その言葉にライムがぐっと拳を握り締める。

 彼の頭の中には両親のことが浮かんでいた。

 あの二人は困っている人がいたら放っておけない人たちだった。商隊や旅人が襲われたと聞けば、率先してそのクエストを受注して彼らを助けに向かっていった。

 人間や竜人族なんて関係ない。そして魔族もまた関係ない。

 ただそこに危険が迫っている人がいる。だからハンターとしてクエストに参加して助けに行くのだ。

 そして二人の助けを受けた人たちもまた魔族だということも気にせず、「ありがとう」というお礼の言葉を二人にかけたという。二人は笑顔でそれに応える。

 

『命を助け、助けられるというものに人種の違いなど関係ないよ』

 

 それが父親の口癖だった。ライムは父親が理想だった。いつか自分も父親のように人々に何か出来ることはないのだろうか、と考えていた。

 彼を理想とするならば、今回のこともまた見捨てられない。

 顔を上げて机においてある依頼書へと名前を書き込もうとした。だがその手を横から伸ばされた手によって止められる。

 

「……行くつもりか?」

「……はい」

「やめておけ。言ったはずだ。お前にはまだ早い。むざむざ死に行くようなものだぞ」

 

 無表情ながらもその眼差しは強い。だがそれを受けてもライムは屈しなかった。

 

「それでも行きます。……いえ、僕は行かなければならない!」

「…………」

 

 今まで見たこともないような強い意志に、昴は驚きを感じていた。だから思わずその手の力が抜けてしまっていた。その隙にライムは依頼書に名前を書き込んだ。それに続くようにしてシアンもまた名前を書く。

 

「シアンも行くんだ」

「はい。ライムが行くなら、わたしも行かないと」

 

 シアンもまた強い意志を持っていた。幼馴染である彼女ならば、なぜライムがこの依頼を受けようとしているのかわかっているのだろう。だから彼を支えるためについていく。

 

「勇気と無謀は違うぞ。お前のそれは勇気じゃない。ただの無謀だ」

「それでもやらなきゃならないことだってあるはずです! それに僕たちはハンターだ! 死はいつだって隣り合わせです!」

 

 ぶつけられる強い言葉に昴は再び無言になった。

 

「それに昴さんも言ったはずです。『恐れず行動しろ。出来ないことが恥じゃない。行動しないことが恥だ』って。今行動すれば助けられる人がいるのに、助けに行かないのは恥じゃないんですかッ!?」

「…………」

 

 昔からライムを知っているシアンだけじゃなく、村長たちもライムの気迫に呆気にとられていた。キッと見上げてくるライムに、溜息をついた昴は頭をかき始める。

 

「……今ならまだ間に合う。最後の忠告だ。やめておけ」

「いいえ。行きます」

 

 変える意志はないということだろう。そんなライムの様子に昴は溜息をついた。

 

「……やれやれ。まさかこんなに頑固だとは思わなかった」

 

 ぼやきながらペンを取って名前を書き込んだ。もちろん紅葉の名前も書いてある。

 

「言ったからには絶対に成功させるぞ。いいな?」

「……はい! ありがとうございます!」

「じゃあ早速準備して来い。時間は待ってくれないぞ」

「はい! 行ってきます!」

 

 うなずいてライムが勢いよく酒場を飛び出していった。残された昴と紅葉に、シアンが少し申し訳なさそうな顔をする。

 

「……ごめんなさい。ライムが……」

「……いや、いいさ。元より、俺たちはお前ら二人を外して参加するつもりだったんだしな」

 

 その言葉に驚いたように顔を上げたシアンだったが、紅葉はわかっていたように同意している。二人は最初から商隊を見捨てるつもりはなかったのだ。

 

「だがあそこまで強い意志をぶつけてくるとは思わなかった」

「それはたぶんライムのご両親が関係していると思う……」

 

 そしてシアンが両親について説明すると、二人は納得したようだ。

 

「ライムもなかなか男を見せるねぇ」

 

 少しだけ感心したように紅葉がうなずく。腕を組んでいる昴も何も言わないがライムの事を少しだけ感心するようなそぶりを見せる。

 

「じゃ、わたしも準備してきますね」

「ん。あとで入り口で落ち合おう」

 

 それにうなずくとシアンも自宅へと戻っていった。

 

 

 ゴル砂漠へと向かう途中、ライムは少しだけ居心地が悪そうな顔をしていた。目の前には昴が腕を組んで眠っている。さっきはさっきであんな風に意志を貫いてしまったが、本当によかったのだろうか、と今になって思い始めている。

 元々ライムはあんな風に叫ぶようなことはない。性格は大人しく少しだけ気弱な方だ。

 啖呵きってしまったことを怒ってないだろうか?

 そんなことを気になり始めた。

 チラチラと本と昴を交互に見つめ、何か言おうと口を開きかけるが、ぐっと飲み込んでしまう。それを何度か繰り返していると、低く笑う声が聞こえてきた。

 

「クク……おいおい、なにそわそわしてるんだ? あんな風に強い意志を持って啖呵きった奴とは思えんな」

「っ!?」

 

 顔を上げればうっすらと目を開けて昴がライムを見つめていた。突然のことにわたわたと手を動かして挙動不審になってしまう。それを見てまた小さく笑うと、昴はじっとライムを見つめる。

 

「別に俺は怒っていない。だから気にすることはない」

「え? で、でも……」

「確かにお前らにはまだ早いクエストだ。死ぬ可能性もあるだろうさ。その点で言えば本当に俺たちは心配している」

 

 その言葉にライムは小さくうなずいた。

 

「だがお前の言うこともまた一理ある。いつだって俺たちは死と隣合わせ。そして初見のモンスターを相手にする際はどのハンターも危険だ」

「……はい」

「それを恐れている際は前に進めないことも事実。そこで経験を重ねる順番を飛ばした、と考えることにする。というか、めんどうだからすることにした」

 

 その言葉にライムとシアンが呆けた顔をする。

 

「だが順番を飛ばしてるんだから、お前ら頑張ってついてこい。お前らを死なせはせんが、お前らも足元に気をつけ、そして死ぬな」

「……はい!」

「はい!」

 

 返事をした二人に微かに口元に笑みが浮かぶが、再び無表情になって眠りについた。

 昴は自分たちのことをちゃんと心配してくれている。

 そう知ったことでライムの胸のつかえが少しだけ軽くなった。無理を通してしまったが、その分頑張りつつも生き残る。そして何としてでも商隊を救い出さなければならない。

 でなければ何のために啖呵をきってしまったのか。

 ぐっと拳を握り締め決意を固めるライムを、シアンが隣でどこか心配そうに見つめていた。

 

 

 アプトノスを無理して走らせることで、何とか次の日の昼頃に到着することが出来た。アプトノスは疲れ果てて眠ってしまっている。テントは張らず、薬品を撒くだけに終わる。緊急で向かってきたために支給品ボックスもそんなにアイテムが入っていない。

 

「商隊はここ、エリア4にいるという話だ。見ての通り、西に伸びる道からは地底湖に繋がっている。この先は壁があって行き止まりとなっており、荷車では通ることは不可能。となれば東、エリア2に出るしかないが、ここは聞いての通り。ガレオスの群れで塞がれている」

「幸いエリア2はすぐそこ。急いで救出に向かうよ」

 

 そう言いながら紅葉がローブを脱ぎ、中からハンマーを取り出した。だが今回はクックジョーじゃない。鈍い灰色の塊に所々突き出た穴がある。

 グラビィトンハンマー。

 鎧竜グラビモスと呼ばれる飛竜の素材を使用した重量級のハンマーだ。気を込めて握り締めれば、高ぶった気に反応して穴から棘が突き出てくる。その棘には毒が染み出る仕組みになっており、殴りつけた際に毒を負わせることもある。

 しかし重量級ということもあり、使えるハンターはそうそういない。女性である彼女がこのハンマーを持っていることは驚きに値することだ。

 そして昴も取り出した武器が変わっている。取り出したのは蒼い刀身をしており、先が二つに分かれて少し湾曲した太刀。

 白猿薙【ドド】。

 雪獅子ドドブランゴと呼ばれる牙獣種に属するモンスターの素材を使用した太刀だ。蒼い刀身は冷気を帯びた氷属性であり、なかなかの威力を持っている。

 これから戦うドスガレオスは火属性には耐性があるため、飛竜刀【紅葉】やクックジョーでは大したダメージが与えられない。そのため武器を変える必要があったためこれを選択したのだ。

 

「いいか? 奴らは主に下からやってくる。完全に体が砂に埋もれている奴や、背びれだけ突き出たまま泳いでいる奴もいる。とにかく周りと下に注意しろ。そしてライムは俺、シアンは紅葉から決して離れるな。お前たちだけじゃなく俺たちもまた周りを警戒する」

「シアン、あたしに遅れないように」

「はいっ!」

「そしてライム、アイテムとかの補佐はお願いね」

「わかりました」

 

 ライムがポーチに手をかけながらうなずいた。

 

「よし、じゃあ行くぞ」

 

 一行は坂を上り、砂漠へと向かっていった。

 

 

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