ポッケ村の酒場に呼び出された月は届けられた手紙に目を通して小さく息をつく。遥か西、シュレイド地方の王家からの手紙という事で一体どんな内容かと思えば、現在シュレイド地方で騒がれている事に関する事だった。
他の地方よりも確認される狂化竜に対する戦力を揃え、奴らに備えていると噂に耳にしていたが、ここに書かれている事はそれだけでは収まらなかった。
何でも先読みの王女が未来を見通し、ミラボレアスとの戦場で月を見たという事らしい。そこで前もって月を呼び出し、対策を話したいという事のようだ。
決戦は旧シュレイド城。
予測はしていたがやはりそういう結末になるのか。
「……修行も十分やりつくした。今なら私も向かってもいいか」
ライムとシアンの修業もいい感じに進んでいる。初めて会った時と比べればかなりの成長をしたと言ってもいい。あとはクロム達に後を任せるとしよう。彼らならば更に上へと押し上げてくれるはずだ。
ライムの魔法に関しては師匠は自分くらいしかいないが、基本と応用は仕込んでおいた。後は彼のイメージ力と行使力にかかっている。術者のイメージ次第で魔法というものは千差万別に変化する。
自然の力なのだから定まった形はない。作り上げるのはあくまで行使する魔法使いなのだから。
あとは桔梗だが、時間があれば瞑想によって自分の心と対話していると聞く。時々様子を見てみたが、問題はなさそうだった。
「今からヴェルドへ飛んでいくよ」
「もう行ってしまわれるのですか?」
「うん、これは早いうちに行動した方がいいからね。ライム達には軽く挨拶しておくさ」
微笑して酒場を後にし、広場へと向かえばそこには既にライム達が集まってそれぞれ鍛錬を始めていた。シアンの相手はクロムが務めているが、ライムの相手はなんとセルシウスが務めている。
当然セルシウスが本気を出してしまえばライムは秒殺されるだろうが、少し抑えて戦えばそのスピードに慣らすようにして戦う事で、ライムの反応領域を上げている。その鍛錬の様子をあの双子と桔梗が見守る、というのがもう日常と化している。
花梨は現在他の村へと向かって情報交換をしている。以前のベリオロスといい東からどういうわけか飛竜や小型モンスターが移動しているのが確認されているのだ。まるでなにかから逃げているかのようだと囁かれ、その真偽を確かめに行っている。
月としてもそれは気になる所だが、シュレイド王家からの依頼とあれば無視するわけにもいかない。
桔梗達の下へと近づいていくと、足音に気づいて桔梗が微笑を浮かべて声を掛けてきた。
「月さん、ご用事はお済みになりましたか?」
「いや、これからというところかな。これからヴェルドへと飛ぶことになったんだよ」
「ヴェルド? それってシュレイドの首都だったっけ?」
瑠璃が首を傾げながら思いだし、月はそれに頷く。
シュレイド王家から呼び出しがかかったことを説明し、一度ライム達の鍛錬の様子を見守るように優しい眼差しを向ける。
そんな月の様子に気づき、クロムが手を止めるようにセルシウスに声を掛けて鍛錬が一時中断される。そのまま月の下へと寄り、「どうかしましたか?」とライムが声を掛けてきた。
彼らにもヴェルドへと向かう事を伝えると、「修行の件はどうするんで?」とクロムが尋ねる。
「それは君達に任せるよ。今の君達に必要な事は教えたつもりだからね。後はそれぞれの鍛錬と実戦で伸ばしていくといい。君達は若い。まだまだ伸びていく要素があるからね」
優しく語りながらライムとシアンの頭をそれぞれ軽く撫でてやる。そんな暖かな言葉と手に二人は「はい!」と返事し、また月の微笑みは優しくなる。
それからクロム達へと視線を向け、「もちろん君達だってそうだよ。才能溢れる若手だ。頑張れ、私は応援している」と声を掛けていく。そんな彼女へとセルシウス以外は頷き、お礼をするように一礼する。
「君も、落ち着いてきているようで何よりだよ」
「……ふん」
最後にセルシウスへと微笑みかければ、彼女は素っ気なく視線を逸らす。気がかりがあるといえば彼女の事なのだが、最後まで彼女とは打ち解けられなかった。それが残念だが、それを嘆いている暇はない。
「では、行ってくるよ。また決戦の地で会おう。
指を立てて空を切ればあの空間の裂け目が生まれて別の景色が向こうに見える。そこは高い外壁に覆われた街、ヴェルドだろう。遠く離れた地とここを一瞬にして繋いでしまった。さすがは神倉月というべきか。
軽く手を振って彼女はそれを超えていき、ゆっくりと亀裂は閉じる。
こうして神倉月はポッケ村を後にした。
だが、その次の日異変が届けられることになってしまう。
それを聞いた誰もが思った事だろう。
なんてタイミングが悪い、と。
「おいおい、冗談じゃねえぞ!? 古龍二種を相手に出来る人材なんてそうそういねえっての!」
伝令アイルーから届けられた報告。
テロス密林で調査していたギルドナイト達が幻獣キリンを確認。至急神倉月の応援を頼みたい、というものだった。
彼らはこの地で確認された霞龍オオナズチの動向、時折確認される黒雲の原因を調査していたのだが、そこにキリンが乱入してきたという事らしい。隊長をはじめとするメンバーの数人がその際に負傷し、離脱。しかもその際にキリンが普通じゃない何かを秘めている事が確認された。
もしかすると黒雲を生み出していたのはあのキリンではないかという推察もあるため、この事態を収拾できる月に応援要請がかかったという。
だがその本人は昨日ヴェルドへと飛んだ。しかもシュレイド王家の依頼を受けて、だ。呼び戻す事なんて出来やしない。
かといってクロムの言う通り、オオナズチとキリンを同時に相手する事が出来る人材が他にいるかと聞かれれば、否と答えよう。いるとすればそれは神倉獅鬼だろうが、彼もまたシュレイド地方にいるという話だったはず。
彼女らの言う決戦の地。
それがシュレイド地方なのだから仕方がないといえば仕方がない。彼らはもう朝陽の最終段階に備えているのだから。
「で、でも……今他の人材を探している暇は……」
「ないな。しかもキリンは狂化体という可能性があるんだろう? 朝陽の計画にキリンも狂化させるっていうのは聞いた覚えがないから、たぶんアキラが生み出したもの。一筋縄じゃいかないだろうさ」
ライムの言葉にセルシウスが答えていく。朝陽の下にいた彼女は、古龍をも狂化させるという考えはないという事を知っている。なにせなかなか確認できないばかりか、奴ら自身強い力を持っている。
そんな古龍を狂化させる時にしっぺ返しを受ければ、失うものが大きいだろう。メリットよりもデメリットの方が大きすぎて分の悪い賭けになってしまう。それを成功させてしまったアキラが異常だろう。
すっかり重い空気になってしまった酒場。ライムとシアンはおろおろとするばかりであり、ちらっとクロムを見てシアンがそっと声を掛ける。
「じゃ、じゃあ……どうするんです?」
「…………セルシィ」
「……やるのか? 今度ばかりはオレも止まらんぞ?」
苦い決断になる。クロムがセルシウスの顔をみやり、セルシウスは目を閉じて腕を組みながらそう答えた。飛竜ならばまだ抑えが効く。それは彼女自身がよく知っている。
しかし古龍種相手ならばどうにもならない可能性がある。この血統は相手が強ければ強い程強く反応するのだから。
「それに、お前ら自身も抑えが利かない可能性がある。特にライム、こいつはティガで堕ちかけた。今度は前回みたいに上手くいく保証なんてない。行くっていうんなら腹括って覚悟を決めろ――」
そこで一度言葉を止め、その紅い瞳を顕現させてセルシウスは二人に告げる。
「――己の奥に眠るシュヴァルツの血を呼び覚まそうが退かないという覚悟をな!」
彼女から吹き抜ける殺気が二人を貫き、それに呼応するように己の中の血が鼓動を刻む。シュヴァルツの血がセルシウスの殺気に反応しているのだ。でも二人はそれを抑え込む。
彼女の殺気も鋭いが、今回の敵の方がよほど鋭いだろう。
なにせ古龍に属する存在なのだ。長く生き、力を高めた存在の覇気や殺気こそ自分達を凌駕している。それに耐えきり、同時に反応するであろうこの力を抑え込まなければ自分達は堕ちる。
月との修行で気力も磨き、以前よりも抑えが効いている。今のセルシウスの殺気でも耐えられるようになっているのだ。自分達は成長している。
それに覚醒方向もセルシウスとは違っている。これに希望があるはずだ。第三の指針で活路を開き、その先へと至れば自分達は堕ちずに済むのではないかという推測をクロムとライムは立てている。
あくまでもこれは仮説。実際にそういう状況になったことがないのでなんともいえないが、今こそその仮説が真実か否かを確かめるチャンス。
ならば決意は揺るがない。
「退かねえよ。俺達に退路は元からねえ。奴らの企みを潰すって決めた時から腹ぁ括ってるに決まってんだろうよ」
「……僕もです。勝つために今まで修行してきたんです。更なる力を求めたんです。だから、覚悟はもう出来てます」
揺るがない視線で兄弟はそう答えた。クロムは最初からわかっていたが、よもやライムもそんな目をするとは思わなかった。一体いつから彼はそんな凛々しい目をするようになったのだろうか。
昔は、いや……再会した時はまだまだ甘い目をしていたというのに。これも幾多の戦いを超えた影響か、とセルシウスは小さく鼻を鳴らす。
「……だったらいい。……で、その相棒らはどうする? 特にお前。感情のコントロールは大丈夫なんだろうな?」
「……ええ。対処法は月さんから仕込まれています。以前の私とは変わっているでしょう」
桔梗にも課題はあった。己の狂気の制御は順調にこなせている。
またシアンもライムと同じく修行を重ねて成長している。装備も強くなっているし、戦闘技術も高められた。退くような真似はしないだろう。彼女はライムの相棒なのだから。
「……ということで、シェリーさん。ライムとシアン、そして俺と桔梗とセルシィの二チームで現場に急行するということでよろしく」
「本当に……行くの?」
「行くしかねえでしょうよ。月さんはいないが、俺達だってあの人に仕込まれ続けてんですよ。……それに、親父達だったらこの状況、見逃さないだろうしな」
シェリーが心配するのも無理はない。古龍という存在はそれだけで脅威なのだ。このメンバーで果たして勝てるのかと疑ってしまう程に。
彼らが成長しているのはわかっている。でも……それでも不安なのだ。
そんな心配を和らげるようにクロムとライムは笑う。自分達が目標としている両親ならば見捨てないと。困っている人がいるならば助けるために行動する。脅威がそこにあるならばその現場へと向かう。
それは過去の自分達の血統の罪滅ぼしだったとしても、あの二人はその生き方を貫き、誇りとした。そんな背中を知っているからこそ二人はその後に続きたいと願う。
知ってしまったならばそれを無視できない。
その意志の硬さはシェリーも知っている、いや知ってしまった。彼らはそれを曲げるようなことはしない。例え自分達より強大な敵が相手だったとしても、その在り方を曲げるようなことはしない。
そしてそれで前回は勝ってしまった。クロム達が助けに入って状況が変わった事もあるだろうが、ライムはその戦いで急速に成長してしまったのは間違いない。
今回ももしかしたら、という予感がある。
ならば信じるしかないのだろうか。彼らの可能性を、才能を。
ぐっと拳を握りしめて唾を飲み込む。そうして気分を落ち着かせてシェリーは書類を取り出してペンを走らせ、クロムとライムにそれぞれ手渡す。
緊急クエスト・狂化体キリン討伐。
場所・テロス密林。
サブターゲット・オオナズチ。
制限時間・無制限。
オオナズチがサブへと回されているのは奴自身が脅威性を感じさせなかったからだという。まるで戦意を感じさせず、一体何を考えているのかがわからなかったのだ。そのためメインをキリンへと据えることになる。
そして制限時間がないのは撤退をクロム達に任せるためだ。こればかりは制限時間を適応しても無意味。古龍というものは体力が馬鹿にならない。キリンはその中でもマシな方だが、耐久性が高いためなかなか倒れる事がない。
「撤退は各々の判断でお願いします。本当に無理だと感じたら迷わず退いてください。命を粗末にしてはいけませんよ」
「はいよ、気をつけよう」
それぞれペンを走らせてサインし、これにシェリーが判を押してクエストが受理される。その後一度解散して各々家へと戻って準備を進め、また酒場の前で集合するという形を取る。
当然ローブは準備し、道具も多く持ち寄る。罠に意味はない。古龍は罠が効かないという特徴があり、それはキリンも例に漏れない。更に閃光玉も通用しないというデータもある。道具の補助は爆弾ぐらいしかない。これではライムの調合の腕は爆弾しか生かせない。
それでも一応爆弾セットを持っていくのがライムだった。
ライムの装備は以前新調したレウスSシリーズ。メインの武器を轟剣【虎眼】へと切り替え、装備の面でも戦力アップを図った。
シアンの装備は強化させたレイアSシリーズ。メインの武器を同じように強化させたインセクトスライサーとしている。
クロムの装備はリオソウルUシリーズ。スキル調整として体力が減る事を防止するため体力珠を付ける。更に上位のベリオロス、白兎獣ウルクススと呼ばれる東方で確認されるモンスターの素材を使った底力珠【2】と、危険珠を使って火事場力+1を発動させている。
これによってスキルは高級耳栓、見切り+1、火事場力+1となっている。
桔梗は変わらずゲリョスSシリーズを装備しているが、彼女の武器は強化を施している。月の計らいでG級の虫クエストへと派遣され、素材を調達してダークはダークネスへと最終段階へと成った。出費がかなりかかったが、最高の切れ味を誇るそれはほとんどのものを貫き、内包されている麻痺毒を注入していく。……とはいえそれはキリンには通用しないのだが。
また近衛隊正式銃槍は二段階強化されてガンチャリオットとなった。これもまた出費がかなりのものになったが、これで龍属性を内包した武器を手にした事は大きい。またその際撫子が開発した新たな機能を搭載し、クイックリロードをはじめとする機能をその身に宿す事に成功している。
「わたしの新型ガンランスのお客様第一号ってことだね~」と笑顔で微笑みかけられたのは記憶に新しい。
最後にセルシウスは修復されたシルバーソルシリーズを身に包む。欠点と言えばキリンが内包する雷属性にかなり弱いという点だろうか。
そんなメンバーが酒場の前に集まり、伝令アイルーがモドリ玉を複数取り出した。これが登録されている場所はギルドナイト達のベースキャンプ。つまりここから一気に現場へと急行可能というわけだ。
「準備はよろしいですかにゃ?」
その言葉に一同は頷く。「では、クエスト開始ですにゃ!」という叫びと共に一気にモドリ玉が叩きつけられ、その煙に包まれたライム達はその場から姿を消した。
だが事件はこれだけに留まらない。
それから数時間後、空から花梨が急降下して酒場へと飛び込む。
「大変や!」
「こ、今度は何です!?」
その様子にシェリーは思わずそう言葉にしてしまった。確か花梨は東の雪山の様子について調査に行っていたはず。つまり……よからぬものを目にした、あるいは耳にしたという事だろうか。
そんな不安を的中させることが神妙な顔をした花梨から飛び出してくることになる。
「狂化しとると思われるベリオロスが東から侵攻しとるって話や。今までの奴らはそんなベリオロスから逃げてきとったっちゅうことやな。急遽チームを編成して討伐せなあかん状況になっとる」
「…………そう、ですか」
「そこでクロムらの手を借りたいんやけど、どこにおるん?」
本当に……タイミングが悪い。どうしてここまで悪い事が重なってくるんだろうか。
シェリーは小さく首を振って花梨が来る前に何があったのかを説明し始めた。それを聞いていく花梨の表情も驚きから脱力へと変わっていき、「どういうことやねん……」と呆れたかのような呟きが漏れて出る。
「……まさか、これも敵の策略やっちゅうんやないやろな? ここまで重なったら疑うで?」
「……あるいは本当に偶然だったのかもしれませんよ。月さんが呼ばれたのはシュレイド王女様が予知夢を見たからだっていう話ですし」
「ってことは何なん? ほんまに偶然って事なんか? 悪い冗談やな……」
そう言う花梨は頭を抱える。他の村のハンター達の戦力も低下しており、ポケット村のメンバーもそれぞれ他のクエストに出払っている状態らしい。ベリオロスは中級から上級に位置するランクであり、凍土という環境を生かして戦うため体感では上級にも感じられる存在だ。
そんなベリオロスが狂化している。ならば討伐に赴く戦力もそれに似合うハンターでなくてはならない。だから花梨はクロムらの力を借りたかったのだが、そんな彼らはテロス密林へと飛んで行った。
今頃かの密林を行動している事だろう。呼び戻すことは不可能。というより呼び戻しでもしたらあっちの状況が悪くなる。
このポッケ村のハンターは残り三人。
花梨とまだ未熟なあの双子の娘。あの二人は論外。下位ハンターの手におえる敵じゃない。あれは間違いなく上位以上の個体だ。あの二人では話にならない。
一人で特攻?
いや、それは危険すぎる。通常体ならばまだ何とかなるだろうが、狂化体ともなればもう一人欲しい。でなければ奴の動きを体に覚え込ませる事が出来ない。
「…………あの子の力を借りるしかないか」
頭に思い浮かんだ一人の娘。
自分の子供であり、現在は鍛冶屋として活動している撫子だ。彼女ならば戦力として申し分ない。
だが彼女の力は問題がある。まだ完全に制御しているわけではなく、あの眼鏡がないとそれが暴走する可能性があるのだから。時折溜まった鬱憤を晴らしたり、体が鈍らないように陰で戦ったりしているようだが、かといって完全に安全になっているわけじゃない。
あの子はまだ若い。この先ゆっくりと自分の力を制御していく算段だそうだ。
しかし今はそんな事を言っている場合じゃない。あのベリオロスの進路は南西だそうだ。その先にはここ、ポッケ村がある。
つまり村の危機。
何としてでも止めなければならない。
ならば迷う暇はない。抱えていた頭を上げて花梨は酒場を飛び出していく。そのまま自宅へと向かい、勢いを殺さないまま扉を蹴破って豪快な帰宅をすると「撫子はおるかぁ!?」とまるで討ち入りでもするかのように叫ぶ。
「な、なに!? 曲者かぁ!?」
とノリがいい返事が返ってきながら裏口の扉を開けて撫子が出てきた。そんな彼女へと駆け寄り、がしっと両手を肩において「頼む、力を貸してくれへんか!?」と勢いよく詰め寄った。
その後事情を説明すると、撫子は小さく頷く。その目は覚悟を決めた戦士のようであり、いつものほんわかした雰囲気はなりを潜めている。
「……じゃあ準備するよ。丁度あれも完成したしね」
「あれ? なんの事や?」
首を傾げながら花梨が問うと、撫子は薄く笑って扉を開けて裏庭へと向かっていく。そこにはベンチに立て掛けられている一つのボウガンがあった。イャンガルルガの素材を使ったそれは花梨にも見覚えがあった。
そして先ほど撫子が言った「完成」。
まさか――
「ついに実現したよ。上位以上G級以下の素材での超速射対応ライトボウガン。その名も『アサルトガルルガ【フェンリル】』、だよ」
そう言ってそのライトボウガンを手にした。一見普通のライトボウガンにしか見えないが、その内部が鍵を握っているのだろう。普通の銃を素体としてイャンガルルガの素材などを使用して改造を繰り返し、ようやく完成に至ったその銃を撫子は優しく撫でている。
「ガルルガの素材で軽量化と耐火性を、更にそれを高めるために獄炎石で補強。ベースの鉱石にカブレライトとユニオン……。残りは超速射のカスタマイズ。それに苦労し、失敗を繰り返してやっと完成したのがさっき。……おかーさんはタイミングが悪いって言ってたけど、わたしはそうは思わないなぁ」
「……どういう事や?」
「だって、こうしてアサルトガルルガ【フェンリル】が完成した後に飛び込んでくるんだもん。これがタイミングが悪い? 違うなぁ。タイミングがいいからこそわたしはこの子を実戦で使えるんだよ。これはタイミングが悪いんじゃない。最高にタイミングがいいんだよ」
そして撫子は眼鏡を取り、それを胸ポケットへと入れて母親へと不敵に笑いかける。鍛冶屋としての撫子はそこにはもういない。
そこにいるのは母親と同じく戦場へと赴く一人のハンターとしての姿を見せる少女。もう一つの顔を見せる撫子・暁・フレアウイングだった。
「――ほな、行こか。うちら二人やったら何とかなるやろ?」
「……ふ、せやなぁ。撫子がその気になってくれたんやったらええわ。ほな、さっさと準備してきぃ。クエスト受注はウチがやっとくさかいな」
「了解した。また後で」
二人して笑いあい、花梨は酒場へと戻っていき、撫子は家の中へと入っていく。自室へと向かうと棚の奥にしまっている自分の装備を取り出してじっと見つめた。
それは使われていないにしては埃をかぶっていない。定期的にメンテナンスしていつでも使えるようにしていたからだ。
それを着込んでいき、最後にヘッドセットを被って装備完了。
それは真紅の装備だった。所々黒い部分があるが、それはまるで血のような紅を基本色としている。しかし重々しくなく、むしろ軽装。両肩を出し、胸元が開き、さらにへそ出しとセクシーさも感じさせる。
ネブラUシリーズ。
それが撫子が着ている装備の名前だ。東方の雪山に生息しているギギネブラ亜種の素材を使用した、東方で流通している装備である。ベリオロスが確認されるように、このポッケ村でも時折そんなクエストが舞い込んでくる事がある。
撫子は昔その際にそれを受注し、討伐して一式を揃えたのだ。
スキルは基本として集中、スタミナ奪取、氷属性攻撃弱化が発動している。調整として抜刀珠と掘り出した王の護石の援護があったため抜刀会心+1が発動。また王の護石は運が良かったのかスロットが三つあり、穴埋めとして実力不足を補いつつ逆境で輝く底力を選択したのだった。もちろんこれでは足りず、武器のスロットがないと意味がないのだが。
そうして出来上がったスキルは集中、スタミナ奪取、抜刀会心+1、火事場力+1、氷属性攻撃弱化となった。
続いて武器としてイャンガルルガの顔を模したハンマー、スイ【狼】。現役時代の一番の相棒をぐっと握りしめ、壁に掛けてある火竜が描かれたローブを羽織って中へとしまう。
目を閉じれば思い返せる。
かの事件までフィールドを駆けまわり、スイ【狼】を振り回して薙ぎ倒していったあの頃。それ以降は自粛し、本気で戦う事はなかったが、ついにこの時が来たかと覚悟を決める。
自身の中で燃え上がる火竜の力。相変わらず血気盛んな事だ。敵を倒したい、灰塵へと変えたいと叫び続けている。それを冷静に制御し、かっと目を見開いてローブを翻しつつ部屋を出る。
作業場へと帰ってくれば、いつの間にか岩徹が撫子を待つようにして待機していた。彼も戦えるがもしもの時に備えて村で待機する事になった彼までいなくなってしまってはこの村のハンターは妹二人だけになってしまう。
「大丈夫か?」
「……うちの事?」
「決まってんだろう。お前の本気はあの時
岩徹にとって大事な娘だ。撫子の高い才能と力は親としても悩ませ続けてきた事だろう。ハンター稼業をやめて鍛冶職人に転職した時もそれでいいのか? とその心を確かめたが、撫子は迷いなく頷いた。
性格的にもスイッチを切り替えるように日常と戦闘とを使い分けたが、そのスイッチは眼鏡のオンオフで切り替わるようになった。まるで二重人格のようだと思うだろうが、これはあくまでも自分の中にある力の大きさに依存した性格変化だ。
火竜の力が高ければ戦闘向きの性格へ、低ければ日常的な優しげな性格へと切り替わる。
母親のかっこいい姿に憧れてハンターを志したが、その夢を自分の力の大きさで断念してしまう。夢は双子の妹に引き継がれることになったが、彼女としても未練があったんじゃないだろうかと岩徹は思った。
もちろん弟子が出来たという喜びも多少はあったろうが、それでも撫子の心変わりが気になったのだ。
時が流れるにつれて少しずつ力の制御も進み、もう大丈夫じゃないかというところまできているが、未だに撫子は鍛冶職人としての自分を大事にしている。もうハンターとして活動する気はないように見える。
でも今こうして緊急事態が発生し、再びハンターとして出動する。
本気を出してまた失敗すれば……もう撫子は立ち直れないんじゃないかという不安がある。しかも今回の相手は狂化竜。危険性はかなり高い。
「無茶だけはするんじゃねえぞ? ワシはまたあんなお前を見るのは勘弁だからな」
「……わかっとるよ。うちかてあれはもう御免やからな。気ぃつけるよ。それに、今回はおかんもおるしな。下手は打たれへんって」
苦笑しながら岩徹の傍を通り過ぎて入口へと向かっていく。その扉に手を掛けたところで背後から「ああ。気ぃつけていってこい。二人揃って無事に帰ってこいよ」と優しげな声がかかる。
それに微笑を浮かべ、肩越しに振り返って「ん。行ってくるわ」と応え、撫子は家を出ていった。
酒場へとやってくると、すでに入口の前に花梨が待機していた。それだけではない。瑠璃と茉莉もまた待機しており、じっと歩いてくる撫子を見上げていた。
「二人とも見送りか?」
「当たり前でしょ、姉さん。……まさか姉さんが出ていくだなんて思わなかったけど」
「でも、撫子姉さんしかいないというのも事実。……本当に大丈夫なんです?」
不安そうな表情をする妹二人に、また微笑を浮かべてそれぞれの頭を撫でてやる。
「大丈夫や。うちは昔よりも成長しとる。それにおかんもおる。心配する事はあらへん」
「せや。あの時とは状況も実力も全然ちゃう。せやから二人はここでウチらの勝利を祈っててや」
花梨も二人を安心させるように微笑みかけるも、瑠璃はまだどこか不安そうな表情で撫子を見ている。彼女ら双子も当然花梨の火竜の血を引き継いでいる。その濃さは撫子程ではないが、それでも幼い二人はそれを完全に制御していない。
だから実力がありながらも、未だに下位の下級から中級の相手しかクエストを回されていない。それは撫子という過去があるからこそ慎重になっているためだ。
撫子はふっと笑うと屈みこみ、そっと瑠璃を抱きしめてやる。
「ね、姉さん?」
「瑠璃は優しい子やな。うちを心配してくれてるんやろ? ……でも大丈夫。うちはもう大丈夫や。うちを信じ。そしてうちらの火竜を信じるんや。……あの頃のうちは舞い上がっとった。せやから火竜はうちを諌めた。うちを逆に焼く事でうちを止めてくれた」
高い火竜の力を過信した撫子は逆に自分の炎に焼かれてしまった。火竜の因子のおかげで大火傷にはならなかったが、それでも自分の力に喰われるというのは当時の撫子達にとっては驚くべき事だった。
そして同時に妹たちにとっても深い悲しみを味わう事になってしまう。自分の中にある火竜の力。それは恐るべきものだという認識が浮かび上がってくることになったのだ。
「あの時も言ったやろ? 火竜の力は本来怖がるようなものやない。これは代々受け継がれてきた自分のもう一つの手足のようなもの。体の一部を怖がることはないやろ?」
「……そう、だけど……」
「姉さん、撫子姉さんを信じましょう」
「茉莉……」
まだ不安そうにしている瑠璃に妹の茉莉が確かな意志をもって口にする。いつも気だるげにしている茉莉の瞳は力を感じさせるものだった。抱きしめている撫子は茉莉へと視線を移し、茉莉も撫子と視線を合わせ、瑠璃へと視線を向けた。
「姉さんの心配ももっともですが、撫子姉さんの言葉も確かです。私たちはこれを怖がりすぎたんです。これは相手だけでなく自分も傷つけるもの。そう思い込みすぎてしまったからいつまで経っても私たちは止まったままなんですよ。……だからこれはいい機会です」
そうして茉莉は開いた右手をじっと見下ろす。その掌に小さな火種が灯り、それは少しずつ大きくなって暖かな火を作り上げた。でもこれは基本的なもの。撫子達はこれを更に改良して力を振るう。
そんな火をぐっと握り潰し、茉莉はうっすらと微笑みを浮かべた。
「撫子姉さんがこの戦いを本気でやり、それで何の問題もなく終わらせれば私たちも恐れを吹き飛ばそうじゃないですか。撫子姉さんがそうであるように、私たちも変化の時ですよ」
「ええこと言ったな、茉莉。せや、これはええ機会なんや。撫子、ウチが何があってもフォローしたる。やから本気で暴れるんや。その上で勝つ。そうすれば二人も前に進めるはずや」
火竜の力は恐れる必要はない。それを改めて二人に認識させる。そのためにもこの戦いは負けられない。ぽん、と軽く瑠璃の頭を撫で、続いて茉莉の頭もくしゃっと撫でて撫子は立ち上がった。
一度二人は視線を交わし、双子へと「行ってくる」と声を掛けて背中から褐色の翼を広げて空へと舞い上がる。一度翼をはためかせて高度を上げ、空を切るように足元を爆発させて加速すると、東の空へと二人の姿は消えていった。
それを二人の娘が見送り、ぎゅっと拳を握りしめる。
先祖から息づく火竜の加護が本当にあるとするならば、今こそ二人に与えてほしいと願わずにはいられない。今度は何事もなく終わってほしい。
炎は敵を焼き尽くすのか、あるいはまた撫子達を焼いてしまうのか。
それは誰にもわからない。
○
テロス密林へとやってきたクロム一行。ギルドナイト達のベースキャンプにやってきた後、すぐにクロムとセルシウスが辺りを見回しながら気配を探る。支給品ボックスはあるが、あれはギルドナイト達の分だ。自分達の分ではない。
数分力の波動を探った結果、オオナズチとキリンの気配を感じ取った。しかも動きを探ってみると、どういうわけかオオナズチは逃げ、キリンがそれを追いかけているかのような雰囲気を感じた。
まだ両者の距離は開いているが、地上を走るキリンの疾走速度が馬鹿にならない。オオナズチも迷彩技術を使って振り切ろうとしているようだが、それに一瞬釣られながらもキリンは修正して追い続けているようだ。
そんな風に分析しつつクロム達も移動する。向かう先はオオナズチ。
なぜキリンではないかというと、話に聞く限りではキリンは立ちふさがったギルドナイト達に目もくれずに走り去っていったという。
ということは自分達がキリンの下に向かっても、相手にされずに走り去られそうだ。ならばオオナズチの方へと向かい、キリンを待つ作戦でいく事にする。
それに本当にオオナズチが逃げているだけならば、もしかするとキリンがオオナズチを抹殺する可能性もある。その現場に立ち会えば自分達が手を出さずとも敵が一つ消える事になる。
そうして追いかけ続けて数時間。視界の悪い木々を掻き分けて先に進んでいくと、少しだけ開けた空間に出る。ついでに言えばここは既に狩猟エリアから外れている。つまり何が起こっても自己責任というリスクがある。
そこでオオナズチは迷彩を解き、その広場にある泉へと近寄って水を飲み始めた。さすがに走り続けた事もあって喉を潤したくなったのだろう。そんな様子をクロム達は息をひそめて見守っていた。
「……来るぞ」
ぼそりとセルシウスが呟くのと同時に、オオナズチが顔を上げて焦ったように辺りを見回し、走り出そうとした。だがそれを封じ込めるように一つの影が頭上を飛び越え、それを追うように落雷がいくつか発生する。
「あれが……」
「キリン……」
ライムとシアンが思わず呟いた。
白を基準とした毛皮に蒼い模様が雷のようにはしり回り、淡く光る白いたてがみと尻尾が風に揺らめく。額から生える角はバチッ、バチッ、と電気を帯びて弾け、赤い瞳がじっとオオナズチを見据えている。
幻獣キリン。
幻という単語がつく程に姿を見せる事は稀であり、雷を操る事を可能とする古龍として分類されている。そのためキリンの素材は希少で高価であり、めったに出ないために入手する事はかなり難しい。
そんなキリンを前にしてオオナズチは後ずさるように距離を離していくが、キリンは堂々とした佇まいでゆっくりと接近していく。
『鬼ごっこは終わりだよ、
『く……』
ふと声が聞こえてきた。一体誰の声だと警戒したが、様子を見守ればあの二体が会話しているんじゃないかとしか思えなくなってきた。
『さあ、大人しく喋ってもらおうか。香澄はどこにいる?』
『……知らないね。あの人は自由気ままだからさ』
『そうやってとぼけていられるのも今の内だよ。私も今回ばかりは容赦はしない』
角を纏う電気が強くなり、それを振るえば天空より今まで以上の落雷が降り注いでオオナズチを直撃する。その強い雷撃にたまらずオオナズチが呻き声を上げるが、容赦なく雷は何度も降り注ぎ、やがてキリンが軽く体を震わせて雷はやんだ。
オオナズチの皮は焼け焦げ、その足はがくがくと震えている。あのオオナズチをそんな状態へと陥れる程の雷撃。どう考えてもオオナズチよりあのキリンの方が格上だった。
息を呑むライムとシアンをよそに、キリンの拷問は続く。
『もう一度訊こうか。香澄は、どこにいる?』
『……知らない、と言っているよ。ライトニング……』
『…………』
また角を振るい、雷撃がオオナズチへと襲い掛かる。苦しみ続けるオオナズチを何の感情も感じさせない瞳で見つめ、数秒後にまた雷を止めてやる。力なく倒れ伏しそうになるオオナズチの眼前へと迫り、その頭を強く踏みしめる。
『朧、君は香澄の眷属だ。知らないはずはないだろう? それに私がどうして香澄を追うのか、君も知らないはずもない。香澄はシュヴァルツに対して不干渉を貫き続ける。私はそれが気に食わない』
シュヴァルツという単語にライムは息を呑む。自分達はシュヴァルツの血統。香澄という人物が何物かは知らないが、あのキリンはシュヴァルツに対してよい感情を持っていない事が雰囲気からして何となく察する事が出来る。
クロムも苦い表情を浮かべ、セルシウスは相変わらず無表情。
そんなシュヴァルツの血統の視線に見守られながらキリンはオオナズチの頭に足を乗せたまま話し続ける。
『シュヴァルツは滅ぶべき種族。あれらは生まれてはならなかった。あの方の意志であり、私達もそう望む。そうだろう?』
『…………』
『そういえば君も不干渉だったね。嘆かわしい事だよ。あんな血統を放置しておくのかい?』
『……彼らも人族の一種。それに今はもうあの脅威はない』
そう言うオオナズチをまた強く踏みしめ、更に雷の追撃を加える。無表情だった赤い瞳が強く光り、その白いたてがみに少しずつ異変が訪れ始める。
毛の根元から少しずつ黒が侵食し始め、それはやがて黒いたてがみへと変色してしまった。明らかな汚染、そして狂化を示す変化だ。あのキリンは狂化体であることは疑いようもない。
『ふん、何を寝ぼけた事を。最近は堕ちたシュヴァルツがいるという話じゃない。それでも不干渉を貫くというのかな? 朧』
『…………それが香澄さんの意志だ。僕はそれに従うまで』
『そうかい、残念だ――』
やれやれとため息をつくと頭の上に乗せていた足をどかし、強く大地を踏みしめる。すると凄まじい破裂音を響かせながらキリンの足元から電流が走り抜け、オオナズチを押し上げるように地面から電磁網が立ち上っていく。
ゆっくりと空中へと上がっていくオオナズチを見据えながらキリンはゆっくりと身構えていく。はっ、とオオナズチが息を呑み、キリンは強い眼差しで睨みつけながら体勢を低くしていく。
『――もう用はない。お別れだよ、朧』
電磁網が解け、落下していくオオナズチへと勢いよく跳躍し、その角で胸を貫いていくではないか。しかもキリンは角から放たれた雷光に包まれ、あたかも雷のようにオオナズチの体を貫通していった。
その胸に風穴を開け、心臓を正確に貫いてしまったため高い生命力など無意味。その一撃を以ってオオナズチは絶命してしまった。ずんっ、と音を立てて物言わぬ肉塊と化したオオナズチの背後に音もなくキリンは着地し、ふん、と軽く鼻を鳴らす。
あのオオナズチを一瞬にして葬り去ったキリン。あれを倒せるのか?
『愚かな。あの方の意志に従わないとは、愚か以外の何物でもないよ、朧。本当に残念だ』
嘆くような言葉だが、悲しみは感じさせない。昔からの知人という雰囲気だったのに迷いなく手にかける判断。それだけ“あの方”という存在が大きいという事を窺わせる。一体誰だというのだろうか。
それが気になったところで、
『……さて、いつまでそこで見守っているのかな?』
じろりとクロム達が隠れている方を見やりながらそんな声が届く。やはり気づいていなかったわけではないらしい。覚悟を決めてクロムとセルシウスを先頭に隠れていた木々の間から姿を見せる。
すると軽く首を傾げながらうっすらと笑ったかのような気がした。
いや、外見的には馬にしか見えないため表情の変化がわかりづらいが、それでも笑ったかのような気がした。
『シュヴァルツの血統が三人、か。なるほど、これもあの方のお導きかな? 非常に都合がいい』
「そのあの方ってのは誰の事だ?」
『ふん、今から死ぬ者達が知る必要はないよ。……しかし、冥土の土産に頭に入れておいてもいいかな』
軽く体を震わせながら黒くなったたてがみを揺らし、強い眼差しと共に鋭い殺気を放ってきた。その冷たく体を痺れさせるような殺気を前に息を呑みそうになるが、セルシウスとクロムは表情を歪めるだけに留める。
しかし桔梗、ライム、シアンはぶるっと体を震わせてしまった。さすがは古龍種、鍛え上げられたといっても彼らにとってはきつい物がある。それでも気持ちを強く持って抗おうとする。
『白皇様の意志さ。シュヴァルツの血統を途絶えさせよ、とね。それに従い、私は君達を殺す!』
その叫びと共に後ろ脚で直立し、高らかに角を掲げた後一気に振り下ろす。その瞬間キリンの眼前に多くの落雷が発生してクロム達を飲み込まんとする。だがクロム達はそれぞれ横へと跳び、回り込むようにしてキリンを取り囲んでいく。
今、戦いは始まる。