呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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99話

 

 

 翼を振るって強い風を生み出したベリオロスはそこにブレスを吐きだして一瞬だけそこに発生するブリザードを作り上げた。それを横に滑空する事でやり過ごし、スイ【狼】を構えたままローブを翻して銃口を覗かせ「掃射(ファイア)!」と叫ぶ。

 ベリオロスへと一気に向かっていく貫通弾の嵐。それを感じとったベリオロスが回避するように、自分が作り上げた風の通り道の残留に乗って撫子の背後に回り、ブレスを吐きだした。

 それを翼を強く羽ばたかせて飛び退きつつ前のめりに回転。強引に振り返りながら地面を滑り、そこに一瞬だけ発生した氷の竜巻を見据える。

 今度は持続せずすぐに消えた。これが原種のブレス。

 よく見て感じてみてわかったが、あのベリオロスは風の粒子を操る事を可能としていた。それを用いて翼を強く振るって強風を巻き起こし、瞬間的なブレスの爆発力を上昇させているらしい。

 だが飛竜という枠は越えられず、その粒子を集めるのに時間がかかるらしく、その間は防御や回避に徹している事も観察してみてわかった。

 つまりあの数秒だけ続く激しい氷の竜巻も風の粒子の恩恵があってこそ生まれたもの。

 しかしそこまでわかれば集めさせるだけの時間を与えなければいい。背後から火炎を纏って迫る花梨がブラッシュデイムを一閃。炎を纏った剣閃がベリオロスを薙ぎ、そのダメージの怯みで更に接近。

 

「はあっ!」

 

 尻尾から前転しながら移動し、背中へと到達するまで十回以上もベリオロスを斬るその攻撃は大車輪。飛行可能な彼女らならばその技で大抵の飛竜相手ならば連続して斬る事を可能とする。

 ブラッシュデイムの切れ味だけでなく、ベリオロスの弱点である火属性を火竜の力で纏っているが故にそのダメージは跳ね上がる。狂化の影響で甲殻が硬くなっているとはいえ、それは焼切る攻撃だ。少しずつ綻びが生まれていく。

 その痛みに怯むベリオロスへと追撃入れるようにスイ【狼】を構えて撫子が振りかぶるも、それを翼で受け止めて弾き返し、二人から距離を取るように横へと跳び、更に跳躍して氷山へと張り付いて反撃の一撃を与えていく。

 だが瞬間的な加速は撫子達の方が軍配が上がる。

 翼を羽ばたかせて一度浮き、足元を爆発と噴き出す火炎で飛び退くだけで距離は稼げる。それを背後に噴き出せば体は前へと進み、前に噴き出せば体は背後に進む。

 そのコントロールを幼い頃に習得し、翼を使ってバランスとかじ取りする事で高速移動を可能とした。

 だから彼女達はその瞬間的な加速と高い機動力をものとしているため、緊急離脱や肉薄を武器とした超アタッカータイプだ。

 当たらなければどうという事はない。

 しかしこちらの攻撃は加速を乗せた重い一撃だ。

 それを信条としたとんでもない攻撃的な思考をしており、それを証明するように先ほど逃げたはずの撫子がいつの間にかベリオロスへと肉薄していた。

 

「ふんっ!」

 

 加速を乗せた一撃を横薙ぎに振るい、ベリオロスの翼を潰そうとしたが、ベリオロスもそれを迎え撃つように体全体の体重を乗せたショルダーアタックを仕掛ける。

 スイ【狼】と翼がぶつかり合い、力で競り負けた撫子が弾かれると、それを追いかけるようにしてベリオロスが跳んで反対の手で撫子を潰しにかかった。

 だが吹き飛ばされながらも撫子は体勢を立て直し、体を捻りながら空中で旋回してそれを逃れる。その際足を振り上げながらその足の裏から火炎を放射し、ベリオロスへと一撃当てて離脱する。

 

「ヴルルルル……!」

 

 撫子達を捕えられない。それだけでなく彼女の操る火炎がいい所でぶつけられてくるため、ベリオロスは苛立ちが募るばかりだ。

 しかも休息の時間は与えられない。今度は花梨が自分の吐きだした火炎の中に飛び込んでそのまま突進を仕掛けてくる。そのまま下段に構えたブラッシュデイムを振り上げ、その勢いに従って火柱が刃となってベリオロスへと襲い掛かってきた。

 

「ヴォオオオン!」

 

 それを回避するために横に跳んだが、火柱を立ち上らせた花梨がそこから追いかけるように突進を仕掛けてきている。ならばとそんな彼女へと噛みつきにかかったが、振り上げたままのブラッシュデイムに左手を添えて盾のようにしたまま当たりに来た。

 ガッ、と牙とブラッシュデイムがぶつかり合い、そのまま競り合う状態になる。普通ならばそのまま力勝負に持ち込んでしまえば花梨の方が分が悪い。

 しかし今はもう一人いる。

 接近しながら「掃射(ファイア)」と叫んで貫通弾Lv1を超速射しつつ、スイ【狼】に再び火炎を纏わせて力を篭めてやる。その頭へと叩き落とせば一気に持っていけるだろう。そう判断して体を貫く貫通弾Lv1と共にベリオロスへと接近して一気にスイ【狼】を振り下ろしてやったが、そんな撫子の意図に気づいたのか、はたまた野性的な勘で危機を悟ったのか。

 力比べをしていたベリオロスが突如後ろへと下がるように翼をはためかせてバックし、振り下ろされたスイ【狼】から逃れた。その際に口から打ち出したブレスによって、また強い氷の渦を作り上げる。

 

「うーん、逃げたな?」

「まだこれからや。それに、逃がさないんならあれをやってみたらどうや?」

「……あれ、か。せやな……あれ使うか」

 

 避けながらそんな会話をする二人。

 ぐっとスイ【狼】を持ち直して離れたベリオロスを追いかけるように加速して接近しつつ、自分の周りに再び火炎を発生させて円環のように展開していく。それを追いかける花梨もまた同じように円環状に火炎を発生させ、撫子に続いてベリオロスへと接近。

 接近してくる二人へと睨みを利かせたベリオロスは一度ブレスを吐いて牽制し、それを避けるように左右に分かれた二人の内片方を狙って跳びつつ接近。

 

「っ!?」

 

 接近したのは撫子だった。彼女へとショルダーアタックを仕掛けて体勢を崩そうとしたが、その白い体を飛び越えるように前転しつつショルダーアタックを回避し、ベリオロスを取り囲むように円環の火炎を一気に広げる。

 

「ヴォルッ!?」

 

 自分を取り囲む炎の壁。それはさながら炎の檻に囚われたベリオロス、といったところか。この極寒の地に燃え上がる炎は、勢いを殺されかけてもそれを操る撫子によってまた勢いを取り戻す。

 大抵のものはこれに囲まれる事で動く事を躊躇する。無理やりにでも突破すれば負傷は免れず、そこを叩いて一気に体力を奪う、と流れを掴んでいた。また上空に逃げようとしても、上手く頭を殴り落とす事で墜落させ、再び檻に閉ざす。

 それが花梨から伝授され、自分で磨き上げた炎の檻という火竜の技。

 当然ベリオロスもここから逃れるならば上へと跳ぶしかないと判断したらしい。四肢に力を篭めて跳躍したが、そこを出迎えるように撫子がスイ【狼】を振るって頭を殴り落とす。

 

「ヴォァアア!?」

 

 更に追撃入れるように花梨が特攻し、その左翼へとブラッシュデイムを振り下ろして切り裂き、翼を使い物に出来ないようにしてやろうとする。続けて背負う円環の炎を操作して傷口を抉るように左翼へとぶつけてやった。

 焼けるだけでなく焼き(ごて)を押し当てられたかのような痛みに、ベリオロスが声にならない悲鳴を上げて数歩下がり、自分を取り囲む檻の一端に触れてまた体を焼かれる。

 

「悪いな。手ぇ抜いとる暇はあらへんねん。あんたがウチらの村へと向かっていたんやったら、ウチらは家族らを守るために鬼にもなったろう。この極寒の地で織りなす灼熱地獄、見せたるわ」

 

 炎を背景に立つ花梨はそう不敵に笑って見せる。ブラッシュデイムを振るって肩に乗せ、足元からまた新たな火炎を作り上げて佇むその姿。

 空には撫子が翼を羽ばたかせながらローブをなびかせ、その一点からはまた銃口が僅かに覗かせてベリオロスを狙っている。

 そんな二人を見たベリオロスは戦慄する。

 そこにいるのは人の姿をした火竜だ。燃え盛る火炎が生み出す光景と二人が纏う雰囲気による幻視なのか、二人の背後に燃え盛る炎の姿をした火竜が視えた気がした。

 牙を剥き、自分の家族を守るために怒り狂うリオレイア。それがぎろりと自分を睨み付けているその姿。

 まさしくそれは火竜の姿。我が子を守る為ならば奴らは怒り狂う竜となる。

 元々相性が悪かったのだ。

 火竜と氷牙竜。環境を味方に付けたならばベリオロスの方が軍配が上がっただろうが、それがどうしたとこの二人は機動力の高さと意志の強さが勝っていた。

 

「……炎鎚!」

 

 自身を包み込みかねない程に燃え上がった紅蓮の炎をスイ【狼】へと圧縮。イャンガルルガの顔の部分は完全に赤く染まり、それでもパーツは溶ける事はない。自分の炎に耐えられるように改造を施した結果だ。

 この瞬間スイ【狼】は高い火属性を帯びることになる。

 

「逃がさへんでぇ……これで終わらせたるわ!」

「その意気や撫子! 吶喊(とっかん)!」

 

 二頭の火竜が自分を仕留めるために迫ってくる。その瞬間、ベリオロスは狂化しているにもかかわらず、恐怖を覚えた。

 理性を狂わせる狂化の種を跳ねのけるように本能が叫んだのだ。

 

 アレは……自分が勝てる相手ではない。

 喰らいついて離さず、この身を骨まで焼きつくしてくる、と。

 

 二人の闘志がその身に流れる火竜の血に影響を及ぼし、その火竜の血を活性化させすぎたのだろう。炎を纏って迫るその姿が幻視などではなくはっきりとそこに火竜の姿を映し出す程まで殺気を撒き散らしている。

 殺られる。

 そう察したベリオロスはこの恐怖を吹き飛ばす為に天を仰いで咆哮を上げた。

 その瞬間、ベリオロスを包み込んでいた冷気が風の粒子に影響を与え、ベリオロスを中心として竜巻を発生させてしまう。それは肉薄しかける程まで迫っていた二人を吹き飛ばし、更にベリオロスを囲んでいた炎の檻を凍らせて吹き飛ばしてしまった。

 

「ヴォルル……ヴルルルル……」

 

 何とか受け身を取って体勢を立て直した二人は、荒い息をついているベリオロスを見てなるほど、と頷いた。自身の危機に咄嗟とはいえ狂化の力を振るって自分達を弾き飛ばしたのかと推察した。

 しかしそれは一時の凌ぎにしかならない。もはや自分達の炎は止まらないし、消えはしない。ベリオロスが幻視したように自分達は目の前にいるものを喰らって離さない炎を行使してやる。

 

『吶喊!』

 

 逃げる暇も与えてやらない。前に花梨が出て再びベリオロスを取り囲むように炎の蛇を二匹生み出して放出。その勢いに一瞬怯んだベリオロスだったが、低く唸って花梨へと迎え撃つように跳びかかった。

 だが高速旋回して側面に回り込みつつブラッシュデイムを斬り上げて翼を斬り、その背中へとブラッシュデイムを投擲して勢いよくベリオロスを地面に墜落させる。狙った場所は先ほど大車輪で斬った場所。

 肉を貫くように突き刺さったそれは深く刃を埋め込ませ、投擲した衝撃でベリオロスが肺の空気を吐きだしてしまった。

 そうやって動けない間に撫子が追い付き、構えたスイ【狼】を顎を穿つようにして振り上げ、そこから今まで以上に強く握りしめて内包させた火属性を一気に開放。

 

「終わりや――熱波(バーニング)衝撃(ブレイク)!」

 

 上がった顔を叩き割るようにフルスイングしたスイ【狼】をぶちかましていく。スイ【狼】には纏われた炎があたかも盾のように正面が覆われており、轟々と燃え上がって獲物へと食らいつこうとしているかのようだった。

 

「ヴォオオオオオオオッ!?」

 

 スイ【狼】が叩き込まれた瞬間、展開されていた炎はベリオロスへと衝撃を伝え、その象徴である牙を両方とも負っただけでなく顔面を焼き尽くしていく。その頭を揺さぶるだけでなく対象を焼き尽くし、とどめとしてインパクトした部分を爆発させる事で締める。

 生命の急所である顔に叩き込めれば一気に優勢に持ち込めることは可能だが、熱気を溜めるのに時間がかかるし、タイミングを合わせて叩き込まなければ意味もない。

 だが決まればこうして一気に敵を討ち倒す。

 自慢の琥珀色の牙を失い、衝撃と爆発で数メートルも吹き飛ばされただけでなく意識を奪うだけでは止まらない領域まで負傷してしまった。もう立ち上がる気力も残されていない。

 抵抗らしい抵抗が出来たのも最初だけ。気づけばペースを握られて一気に持っていかれてしまった。失われる意識の中ベリオロスは完全敗北を感じ取ってその命を失った。

 

 

 

 

 轟剣【虎眼】を逆手に構えたライムとガンチャリオットを構えた桔梗が並び、先陣切って向かっていくキリンの動きを窺いながら少しずつ距離を詰めていく。

 キリンはセルシウスの斬り込みを回避し、角を突き立ててタックルを仕掛けたが、それを回避して反撃。しかし自身の周りに落雷を発生させて一度セルシウスから距離を取らせるようにし、離れた所を縮地で撥ね飛ばす。

 が、やはりセルシウスはそれを読み切って最小限のダメージで済ませ、離れた所で振り返るキリンへと閃剣を放った。それをサイドステップで回避し、セルシウスを飛び越えるように跳躍したキリンは自身に落雷を発生させ、標的をライムと桔梗へと定めた。

 それは先ほどクロムに行った攻撃方法。それを察知したライムは桔梗へと風を当てて強制的に弾き飛ばし、自分も勢いよく横へと跳んで落下してくるキリンから逃げる。

 そこでライムは逃げた先に先ほどオオナズチが口をつけていた泉がある事に気づく。

 水。

 これは使える、と左手を泉につけて水を操って空気中の水分を多くさせておいた。後はタイミングを見計らって彼のように行使するだけだ。下準備が出来たらすばやくここから離脱しておく。

 水は電気をよく通す。ここにいれば泉に落雷が発生した際に一気に感電してしまいそうだ。

 

『蒼雷!』

 

 桔梗からクロム、セルシウスと全てを巻き込む蒼い雷を呼び寄せて攻撃しかけるも、桔梗は雷の盾を発生させながらガンチャリオットの盾を構えてどっしりと守る。クロムはクロムでまたペイルカイザーを盾のようにしつつ気の鎧で、セルシウスは雷の盾を展開させつつ疾走して突き抜けようとしている。

 三者三様の身の守り方。だがその中でキリンにとって、クロムは攻撃を仕掛けやすい身の守り方だった。ペイルカイザーを前ではなく上へと構えているのだから前からの攻撃に対処するには遅れるだろう。

 そこを縮地で一気に突き破り、背後から桔梗へと仕掛ける。

 そんな道筋を頭の中に組み立ててキリンは縮地を実行。

 

「……っ、くぅ……!?」

 

 狙い通りクロムを撥ね飛ばし、続けて背後から桔梗も撥ね飛ばしてやる。桔梗は自分に向けられた殺気で咄嗟に盾を構えたようだったが、それでも撥ね飛ばせたのならば問題ない。

 そこから近くにいたセルシウスへと突貫したが、やはり彼女には通用しない。それどころか背後から斬りかかられ、続けて傷ついた部分も斬られて離脱される。

 やはり一番注意しなければならないのはセルシウスか。彼女の機動力の高さと一撃の鋭さが馬鹿にならない。爆弾の影響か自身の守りの力も若干弱まってしまっている。

 それにヒドゥンサーベルという、黒刀【参ノ型】より威力の上がった太刀を使用しているという事も関係しているだろう。

 

『滅殺!』

「こっちのセリフ!」

 

 雷を纏った角で突き立ててくるが、紙一重で回避してヒドゥンサーベルを突き出すも、それはキリンがバックステップで回避した。そこを狙ってシアンが気刃を放ち、ライムが轟剣【虎眼】から魔力を帯びた刃を放って援護。

 ちらりと横を向けば、盾を構えて体勢を立て直している桔梗が見える。反応速度も上がり、身体強化も相まって耐えられている。兄のクロムが気になるところだが、彼があらかじめ打ち合わせていたように気に掛けるのはここまで。

 今は戦いに集中だ。

 

(それにしても……さっきからチリチリと胸の辺りがざわつく。やっぱり影響力がある?)

 

 自分の中にあるシュヴァルツの血。キリンが何としてでも勝たなければならないと自分を奮い立てるたびに、その闘志に呼応するように僅かな鼓動を刻んでいる。抑えこまなければ少しずつ広がっていきそうな気配がするこれには覚えがある。

 狂ティガレックスと相対した時、奴の殺気に飲み込まれて心が折れそうになったあの時だ。本能の叫びが聞こえてきて自分を堕とそうと誘いをかけてきた時の気配だ。

 あれがあったからこそ自分は闇を知り、光を知った。

 今も視える。

 落雷が発生する度に光は発生し、少しずつであるが周囲に漂い始めている事が。

 だが光を使ってキリンを浄化しても状況が好転するわけでもない。むしろあの狂化があってキリンを興奮させる事で冷静さを奪っているからこそ、自分達の優勢があるといってもいい。

 自分は古龍。人など容易に蹂躙できる力を持つ存在。そういう認識があり、シュヴァルツを滅ぼす事こそ役目だと信じて疑わない驕りがあるからこそ、今この状況を作り上げた。

 だから光は使わない。

 使うのは別の属性。

 

『召雷!』

 

 キリンが再び囲んでくるセルシウス達を引き離す為に雷撃を落とす。そうやって距離を稼ぎ、標的を定めてステップを刻んで突進するか、一気に撥ね飛ばす為に縮地をするか。

 それだけの攻撃手段ではあるが、それ自体がハンター達にとっては脅威となる。雷撃だけでハンター達は意識を奪われかねない程のダメージを受けるし、縮地を受ければ柔い装備ならば一瞬にして破壊されてしまう。

 今までならばそれだけで十分だったのだろう。だからキリンは驕る。

 そこに付け入る隙がある。

 雷に対する備え、防御を上げるための手段。これが揃っていれば一瞬にして片を付ける事は出来なくなる。そこから反撃し、チームで戦ってキリンを翻弄し、ダメージを積み重ねる。

 そうする事で勝利への道を作り上げる。

 

『人間が……人が……シュヴァルツが……! どうしてここまで抗えるというんだ!?』

 

 今までならばもう終わらせている。自分を見つけ出したハンター達はごそって自分を討伐しに来た。幻獣と謳われ、その素材に価値があるからと彼らは自分に刃を向ける。

 キリンは……ライトニングは降りかかる火の粉を払うように全てを返り討ちにしていった。持ち前の身体能力の高さと雷を操る力で全てを殺してきた。

 先ほども自分を止めようとした者、オオナズチを追っていた者も全て始末した。生きているか死んでいるかなんて知らない。道を阻む者がいれば全て薙ぎ払っていくだけだ。

 そうやってがむしゃらに道を作り、その上を疾走してきたライトニングは、気づけばただのキリンではなく“大地”の領域へと昇格されていた。

 そして風の噂で知る。

 この世界には竜を生み出した神がいる事を。

 彼女の名は白皇。全ての竜種の祖なる者であり、この世界を見守る神である事を。

 龍神。

 本当にそんな存在がいるという事をライトニングは驚き、そして彼女の力が本物である事をおぼろげ悟る。世界に満ちる力の一種にその白皇の力が混ざっていた事、遥か昔に出会った一人の男が彼女の力について語った事があったからだ。

 そういえば、とライトニングは思い出した。

 いつしか彼は言っていた。

 

(ヒトというものはなかなか面白いものでね。彼らは無限の可能性を秘め、尚且つどんな逆境に陥ろうとも僅かな可能性を見出して這い上がる。……私はそんな彼らが気に入っているのさ)

 

 薄く笑いながら彼はそう言った。あの領域にまで上り詰めているというのに、彼は人に対して友好的だ。今もどこかで人の近くにいるらしいが、その足取りは掴めずにいる。

 

(あの人はシュヴァルツを滅ぼそうとしているらしいが、私はそれは少しいただけない。彼らは一つの進化の形さ。私は見守るべきだと考えている。……ああ、そうだね。あの人の意志に反する事なんだろうさ。どうする? ライトニング、私を殺すかい?)

 

 笑みを消さずに彼はそう言った事を覚えている。竜種ではなく獣の身で上り詰めた彼。

 通称、『夢幻(むげん)』。

 白皇と共に古くから存在した“世界”に属する存在であり、現在行方知らずの彼は白皇の意志に反した思考を持ちながらも、白皇からは一目置かれる存在。シュヴァルツを滅ぼせ、という思考が蔓延している中でも香澄らと同じくそれに従わないというのに、今もなお対処されずにいるのがその証拠か。

 

(ライトニング、ヒトを侮ってはならない。いつまでもそんな思考を持っているようでは、いつしか足元をすくわれ、そして後悔するぞ? ヒトは……強い。私はそれをよく知っている。……ふふふ、信じていないね? まあ、それもいいさ。君はまだ若い。今までそうやって勝ってきたのだから無理もない。だが忘れるな、シュヴァルツを滅するという意志を持つならば……知る事だ。ヒトの強さというものをね)

 

 ……ああ、彼の言う通りだ。

 いつしか彼の下へとたどり着こうと力を付け、白皇の意志に従って香澄を捜索し、シュヴァルツを陰で滅してきたというのに……なんだこの体たらく。

 今の自分は無様。

 あの男の手によって狂気に堕ち、シュヴァルツ三人に遭遇したと心躍らせれば、今はこうしていいようにされている。

 これが人の強さというものか?

 一人一人は小さくとも、集団で戦う事でここまで変わるというのか?

 あるいは信頼できる仲間がいるからこそここまで戦えたのか?

 わからない。今の自分には理解できない。

 でも、それでもやらなければならない。ここで終わっていては彼の領域まで届かない。まだ自分は疾走を止めるわけにはいかないのだ。

 

(その強さを……潰す! 私はここでは終わらない! 人の強さがどうした!? 私はそれ以上の力で……!)

 

 そう意気込むライトニングに、凄まじい圧力が圧し掛かった。今の今までなかったその覇気。感じた事のない程の鋭くも凄まじい覇気は一体どこからきているというのか?

 視線を動かして見回せば、縮地で吹き飛ばされたはずのクロムが疾走してきている。真紅に染まったその瞳はじっと自分を睨み付け、構えたペイルカイザーにも今まで以上の量で気が纏わりついている。

 ナンダアレハ?

 あんなもの、自分は知らない。

 どうしてこの状況になってあれだけの覇気を放てるというのか?

 逆境? シュヴァルツ?

 理解できない。

 

「火事場、か。いい殺気。オレも……それに乗っかりたいもの!」

 

 セルシウスはセルシウスでクロムの覇気に嬉々としたような笑みを浮かべたかと思うと、彼女もまた一気に自分を鼓舞するように気を高めていく。二つのシュヴァルツの覇気が双方からライトニングへと襲い掛かり、そしてライトニングは咄嗟に跳躍して二人から逃げ出した。

 逃げた? 自分が?

 

『ッ!?』

 

 そんなことあってたまるものか!?

 この自分が撤退する事を選ぶなどあってはならないのだ。

 跳躍から一転。雷を纏ってライトニングは稲妻となって地上へと帰還。自分へと迫っていた二人へと逆襲しかけるように急降下していく。

 だが二人は昂りながらも冷静だった。一度離れるように転進すると、そこから落下地点へと向かってそれぞれの武器を強く振りかぶったのだ。

 

「おらあああああああああ!!」

「はああああああああああ!!」

 

 着地と同時に襲い掛かる放たれた剣閃。ライトニングを着弾点として交錯するその剣閃を受け、ライトニングは意識が飛びそうになった。今まで以上の威力を秘めた剣閃。これが……彼らの底力だとでも言うのか?

 自分の守りが、意味を成さない。

 まるで飛竜の鱗を斬っているかのように彼らは攻撃の手を止めはしない。

 地面を強く踏みしめて電磁網を展開させ、接近してくる二人を絡め取ったが、それで攻撃の手が止まるわけではなかった。いつの間にか接近していた桔梗がガンチャリオットを振るって砲撃を仕掛け、シアンが遊撃として傷ついた部分を狙って気刃を放つ。

 桔梗が離れればライムが電磁網を断つように、別の属性の刃を生み出して切断。二人を網から救出していく。

 個々の実力だけではない。チームが崩壊しないようにそれぞれをフォローしながら彼らは動いている。

 これが人というものなのか?

 

『ッ、くそ……! うおおおおおおお!!』

 

 自身を巻き込むほどの雷撃を呼び出し、ライトニングは高らかに咆哮を上げた。

 負けるイメージが頭をよぎってしまった。負けてしまう、という感情が気づけば湧き上がっていたのだ。こんなこと……夢幻と初めて会った時以来だった。

 それを吹き飛ばすように降り注ぐ雷撃を操り、自分の周りへと一気に放出。全てを薙ぎ払い、吹き飛ばしてしまえばいい。そうすればいくらなんでも奴らは倒れるだろう。

 しかしそんな淡い願いも無意味だった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 荒い息をつきながらライムが両手を前に出している。彼の背後にはセルシウスとシアンがおり、向こうには再び両手に盾を構えてクロムを守っている桔梗がいた。

 雷の盾。

 咄嗟に動いて防御に全力を注いだ結果、何とか被害を食い止めることに成功した。誰かを守るためならばその力をいつも以上に発揮する。その力はこうして生かされた。

 その代償として少々無茶をしてしまっただけでなく、両手から腕にかけての感覚が怪しくなっているのがネックか。

 あるいはそれだけで済んだと喜ぶべきか。

 恐らく向こうにいる桔梗も同じだろう。両手に盾を構えているものだからライムと同じく両腕の感覚が怪しいはずだ。

 

『……はぁ、はぁ……倒れ、ない……だと』

「残念だったな。終わらせてもらうぜ」

「……斬る!」

 

 それぞれ守ってくれた人の横を通り過ぎ、二人はこの一撃で終わらせるために疾走する。当然ライトニングもまたそれを防ぎ、反撃に出ようとしたのだが……いつの間にかその足が封じられている事に気づいた。

 一体いつからあったのだろう。その四肢は足元に広がる氷によって縫い付けられている。

 

『な……に?』

 

 どういう事だ!?

 どうしてこんな所に氷があるというのか!?

 混乱する頭で右目を動かせば、ライムが荒い息をつきながらまだ両手を前に出していた。

 それで理解した。

 彼だ。彼が空気中の水分を操作して凍らせたのだ。最後の仕事を果たしたとばかりに不敵に笑った彼は、ゆっくりと膝をつく。そんな彼を支えながらシアンも冷や汗をかきながらも口元に赤い笛を当てて高らかに吹き鳴らした。

 鬼人笛。これを聴いた味方はその筋力を増幅させるというアイテムだ。最後の最後までシアンはサポートをした。

 上出来だ。クロムとセルシウスは知らず笑みを浮かべた。

 二人の体もさっきの雷撃の余波で傷ついている。ライムと桔梗が守ってくれたとはいえ、流石は最後の一撃を込めただけあってその余波だけでもかなりの威力を誇っていた。

 でもそれがあったからこそ二人はこのスキルを発動させる事が出来た。

 一定の体力を減らされた逆境内で力をいつも以上に引き上げるスキル、火事場力。

 縮地を受けて立ち直ってきたとはいえ、二人はその体力を回復はしていない。応急手当てこそしてあるが、回復薬を口には含んでいないのだ。つまりこうして不敵に笑ってはいるものの、その体力は減る一方。

 それをライトニングに悟らせないようにするために今まで笑って見せ、気力を振り絞って覇気を放ってみせたのだ。自分達はたった一瞬の状況変化で不利になる事を悟らせないように。

 こうして疾走して気力を高めている今も、二人の呼吸は乱れていないように見えて僅かながら乱れている。心臓の鼓動も暴れ、顔を流れる汗は僅かでも装備の下では結構濡れている。

 でも知られてはならない。味方であるライム達でも気づかせてやらない。

 自分達はこのチームでの主力であり、前線に立つ者だ。自分達が倒れれば状況は一気に不利へと変化する。

 だから笑みを浮かべてやる。

 それに仮面の笑みを浮かべようと思っても無理だ。

 だって――本能が叫ぶ。本能が楽しんでいる。

 ようやく切羽詰った状況になってくれたと喜びの叫びをあげているのだ。そんなの今更じゃないかと冷静な自分が言うも、それでも本能に引きずられるように唇は笑みを形作ってしまう。

 やっぱり自分達はそんな血統なのだろう。それを自覚しながら最後の一撃への道を駆け抜ける。

 セルシウスは鞘に納めたヒドゥンサーベルを握りしめ、クロムはそこに鞘があるようにペイルカイザーを下段に構え、

 

『居合い――』

『――ッ!?』

 

 息を呑み、動けないライトニングへと引導を渡してやる。

 

「――鳳翔(ほうしょう)!」

「――虎薙(くなぎ)!」

 

 首を落とすようなセルシウスの一撃と、心臓を薙ぎ払うような一撃がライトニングへと刻まれ、二人は交錯してそれぞれ武器をしまった。その背後で声にならない悲鳴を上げ、ライトニングは静かに地面にその身を横たえる。

 生命の急所を狙った一撃だ。いくら生命力があろうとも、そこを斬られ、重傷となればもはや命はない。

 

『わ、私は……役目を……』

 

 それでもライトニングは立ち上がろうとする。狂化の種もそんな意志に応えるように力を振るおうとしたが、それでもライトニングの消えゆく命の灯に薪をくべるには至らない。

 だがそれでもライトニングは立ち上がろうとする。そんな様子を見てセルシウスは一息つき、介錯しようとヒドゥンサーベルに手を掛けて近づこうとした。

 が、そこで何かに気づいたように辺りを見回した。

 何かがいるような気がしたのだ。しかしその何かがわからない。一瞬だけ自分達以外の存在の力を感じ取った気がしたのだが、今はもう何もない。

 そんなセルシウスの様子に気づく様子もなく、ライトニングはなおも立ち上がろうとした。

 そこで声が聞こえた気がした。

 一体誰の声だろうと右目を動かしてみるも、見えるのは倒れる自分を見つめるクロムらの視線のみ。でも聞き覚えのあるような声だった。もう一度その声を聞こうと試みる。

 

『もう十分だ、ライトニング』

『あ、あなたは……』

『お前は十分に役に立ってくれた』

 

 聞き覚えのある女性の声。ライトニングは声を震わせながら頭の中に響く声に応える。倒れ伏す自分を助けに来てくれたのか、あるいは労いに来てくれたのか。ライトニングは体を震わせながらも、彼女の言葉の意味を考える。

 役に立ったとはどういう事だろうか。

 自分は全然役割を果たしていないはずだ。実際そこにいるシュヴァルツの血統三人を葬れなかった。

 

『今の奴らの実力は把握した。その成長度合いは予定調和の内に入る。無自覚ながらもあの兄弟も己の呪縛からは逃れていないようだ。それを見せてくれただけで十分というものよ。ライトニング、お前の役目は果たされた』

『ど、どういう……』

『お前の役目はこれで終わりという事よ。今後の憂いは必要ない。お前はここで果てるといい』

『――!?』

 

 告げられたあまりにも無慈悲なる言葉。つまり、彼女は自分に死ねと言っているという事だ。

 どうして? 何故?

 そんな疑問ばかりが頭を覆い尽くしていく。そんなライトニングに追い打ちをかけるように彼女は言葉を続けていく。

 

『勘違いしているようだから言っておこうか、ライトニングよ。お前の役目は余の意志に従ってシュヴァルツを消していく事でも、真眼を追いかける事でもない。あ奴の手によって狂化し、今日、ここでその者らと一戦交える事。……ただそれだけよ』

『な、……わ、私は……』

『その役目を果たした今、お前に用はなくなった。……ふふ、苦しかろう? 今もなお狂化の種がお前を侵し続けているはずだ。余もそこまで無情ではない。今、楽にしてやろうぞ』

 

 彼女を呼び止めようとするライトニングの言葉など聞こえない、とでもいうかのように彼女の言葉はそこで消え、ライトニングの頭上の空は一瞬の内に変化した。今までライトニングが召雷したものとは別の力が働き、赤い雷が一本ライトニングへと降り注いだのだ。

 しかしたった一本とはいえそれは凄まじい勢いでライトニングの体に直撃し、その体を焼いていく。

 雷など通用しない、というキリンの耐性なんてなかったかのようなその一撃は虫の息だったその息の根を止めてしまった。

 その突然の出来事にクロムをはじめとする彼らは唖然とするしか出来ない。とどめを刺そうとしたセルシウスでさえ一体何が起こったのか理解できていなかった。

 討つべき相手は死んだ。

 それはいい。いいとして……あの雷は一体何なのだ? 明らかにライトニングによる自殺、とは考えにくいような気がする。あの赤い雷、戦闘中に呼び出せば自分達の命が危なかったくらいの力を秘めていた。

 ならば戦闘中に使ってもおかしくない。でも使わず、自殺に使った? 有り得ない。そんな愚かな真似をするような存在とは思えない。

 では誰が殺した?

 わからない。わからないからこそ恐ろしい。

 自分達の知らない何者かが干渉してきたかのような恐怖をセルシウス達は味わっていた。

 

 

 ○

 

 

 深い森の中、彼はそこにいた。

 誰かと一緒にいるらしく、何かを小さな声で話している。

 

「――最後の務めを果たせ」

 

 そこで話は終わり、一人は後ろに跳びながら木々の奥へと消えていく。そしてもう一人、彼はゆっくりと振り返る。相変わらず不敵な笑みを浮かべつつ、フードの下からじっと彼女を見据えて彼は言う。

 

「何か用か? 朝陽よ」

 

 いつものように彼はそう言った。彼女の……朝陽の目的は感じ取っているはずなのに、いつもの調子を全く崩す様子などない。それが無性に腹が立つ。だがそれを表情に出さず朝陽は彼の前に姿を現し、じっと彼を見下ろしてやる。

 隆起した地に姿を見せたため、朝陽はこうして彼を見下ろしているのだが、どういうわけかそれは逆転しているように感じられる。

 それは彼が放つ力が、雰囲気が朝陽よりも上回っているからだろうか。下にいるはずの彼が、まるで自分を見下ろしているかのような幻視をする。だがそれを気を強く持って振り払い、朝陽は口を開いた。

 

「アキラ、貴方の目的は何?」

「目的? それは以前伝えたはずだが? 儂はただ闇を追求したいだけだ」

「それは表面的な答えよね? アキラ、腹を割って話をしようじゃない」

 

 ぎろり、とフードの陰に隠れた藍色の瞳で睨みつけながら朝陽は強く問う。

 

「――貴様の目的は何だ!? 私を強くさせて一体その先に何を求める!?」

 

 朝陽の興奮に従って藍色の瞳がうっすらと赤みを帯びていく。そんな変化を見詰めながらアキラは冷たく笑みを浮かべていく。彼もまた真紅の瞳をしているが、そんなものに意味はない。

 くつくつと低く笑いながらアキラは小さく首を振った。

 

「なぁに、儂は闇を追求したいだけ。これに嘘はない。そして貴様を強くさせる……これにも嘘はない。……そう、それは儂に……我にとっての通過点の一つよ」

 

 大仰に両手を広げながら笑みを浮かべ、朝陽へと語りかけるようにアキラは話し始めた。

 

「我は追い求めているのだよ。力とはどこまで伸びるのか、とな。貴様はあの月を殺す為に力を求めた。復讐を原動力として神倉の理念に則って力を収集した。狂化竜を作り出し、闇を収集してその領域まで上り詰めた。……くく、なかなかのものだ。だがそれだけではなかろう?」

 

 掌を上に向け、人差し指を伸ばして朝陽の目を指し示す。

 

「シュヴァルツ。貴様の生まれる過程で刻まれたその因子。闇を収集する度にそれが力を与えたはずだ。でなければお前がそこまで力を得ることはなかったはず。我にはないその力が我は知りたいのだよ。力を追い求めた結果、それが与えられる影響力がどれほどのものかな」

「だから……私の下に付いた、と?」

「その通り。なかなか面白い見世物だった。本来ならば届かない領域まで成長を促したその影響力! なるほど、流石はシュヴァルツといったところよ。……だからこそ、利用価値がある」

 

 そこでアキラは言葉を止め、今まで以上に冷たい笑みを浮かべて朝陽を見詰めた。その視線は朝陽を人として見ていない。その目に浮かぶ感情は、ただの物を見ているかのようなもの。

 それには覚えがある気がした。遠い昔、どこかでよく見ていた視線。

 それは一体どこだったか、と思い出す前にアキラは冷たく告げた。

 

「朝陽よ、貴様の望みは叶わん。貴様はどれだけ力を付けたとしてもあの女には勝てん。生まれ持った才能が違うのだ。弱者はただ、地べたに這いつくばって利用されているがいい」

「――ッ!? そう、それが貴様の本性かッ、アキラぁあああ!?」

 

 完全に見下したかのようなその言動に、朝陽の感情は振り切れた。溢れだす力の奔流に任せて怒りを爆発させ、素顔を隠すフードが激しく暴れて取れてしまう。怒りにまみれた瞳は真紅に染まり、ぎらつく殺気をむき出しにしていた。

 力の奔流は殺気と共にアキラへと襲い掛かり、彼の素顔を隠す銀色のフードも取れ、彼の素顔もそこに現れる。

 うなじで揃えられた短く赤い髪に、鋭く細められた真紅の瞳。外見的には二十代後半の男性のものだが、短く尖った耳が竜人族である事を示している。そんな彼は鋭く冷たくも熱い朝陽の殺気を真正面からぶつけられても全く動じていない。

 むしろそよ風のように感じないようだ。

 

「我を、殺すつもりか?」

「ええ、殺してあげるわ。そしてその力をワタシのものとしてあげようじゃない」

「くっくくく……出来るのか? 貴様に?」

 

 アキラもまた朝陽の力に対抗するように殺気と力の奔流を放出してやれば、力と力がぶつかり合って衝撃波を生み出した。森の木々は悲鳴を上げるようにざわめき、枝から葉が舞い上がって衝撃波に乗って撒き散らされる。

 

『っ!!』

 

 両者が同時に動き、突き出した拳がぶつかり合って大きな衝撃が生み出され、爆発する。

 拳の衝撃だけでなくそれに纏われた力がぶつかり合った結果だ。二人の中心の大地がクレーターのように凹み、瓦礫が舞い上がって吹き飛ばされていく。

 そんな中二人は一度離れ、またぶつかり合いながら移動していく。

 

 人外達の戦闘により、樹海の一帯は激しい戦場へと切り替わった瞬間だった。

 

 

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