呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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102話

 

 

 最初はただの気のせいかと思った。ここは闇が多く充満している。だからそれによる影響でこういう感覚があったのだろうと思ったのだ。

 しかし違った。

 こうして目の前にそれを見てしまった。

 自分と同じ無感情な瞳、自分と似たような闇の波動。

 何よりも人を殺した事による人の血の匂いが僅かに感じられる。

 それをひしひしと感じ始めた時、その紅い瞳を見た瞬間――

 

 ――気づけば体が勝手に動いていたのだ。

 

 

「……殺人鬼か」

「……堕ちかけた殺人鬼、ねえ」

 

 優羅は夜烏【小羽】を、セルシウスは黒刀【参ノ型】を握りしめ、それぞれの姿を改めて目に焼き付ける。同時にお互いの力の波動を感じとり、どちらともなく笑みを浮かべていく。

 

「……一度すれ違った?」

「ああ、すれ違ったな。確か……ドンドルマだったか」

 

 じりじりとすり足で移動しつつお互いの動きを読み取り、機を見て飛び出す。再び打ち合わされる得物は一合、二合と斬り結び、また距離を取ると得物へと気を流し込んでいく。

 夜烏【小羽】を逆手で構え、ぐっと低い体勢へと移行。この一撃が決まれば一気に持って行ける。

 黒刀【参ノ型】を鞘に納めて同じく腰を落として居合いの構えへ。決まれば一瞬にして終わらせられる。

 

「閃刀――」

「居合い――」

 

 十分に纏われた気を解放するように二人は同時に得物を振り抜く。

 

「――弧月!」

「――二鷹(にたか)!」

 

 夜烏【小羽】からは漆黒の三日月が、黒刀【参ノ型】が動いたかと思えば閃剣がお互いの敵へと向かっていく。しかも黒刀【参ノ型】から放たれた閃剣は振り抜きと鞘に納める二つの太刀のため、地を割る斬撃も二つ。

 一手多いセルシウスの方が有利だ。

 それを一瞬で察知した優羅はぶつかり合う閃剣を避けるように廻り込み、ローブからテッセン【狼】を一つ取り出して左手に構える。当然セルシウスもその動きが見えているため、また黒刀【参ノ型】を抜いて閃剣を放つが、素早くそれを全て回避し夜烏【小羽】で斬りかかる。

 

「……ちっ、やり辛いな……!」

 

 ここまで接近されれば優羅に分がある。双剣を構えて近距離戦をやられれば太刀を得物としているセルシウスは防戦一方となる。隙を見て切り返しにかかるが、それを全てテッセン【狼】で受け止め、夜烏【小羽】で反撃に出る。

 テッセン【狼】の素材の硬さを生かした守り、夜烏【小羽】の素材の鋭さを生かした攻めを両立させた変則双剣。それば優羅のもう一つの双剣スタイルだ。そしてこれが対人戦での本気の構えとされる。

 刀を使うのが主流だが、お互いの技量はほぼ同率。有利な立ち回りをされればこちらが不利になってしまう。

 ならばと判断を下すのは素早く。自ら距離を取るように後ろに下がりつつ黒刀【参ノ型】をローブへと納め、代わりに抜いたのは二つの剣。

 右手にヒドゥンエッジを、左手に独龍剣【蒼鬼】を。彼女もまた片手剣を両手に構えて双剣とする事が可能であり、それも一つの戦術として手にしている。

 

「はあっ!」

 

 四つの剣が織りなす高速の剣戟。お互いが相手を殺す勢いで斬り結ぶその戦いは昴達にとってははらはらさせる出来事だ。止めようと数メートル離れた所までやって来たはいいが、あまりにも速い剣戟と二人から発せられる殺気が鋭すぎてどう止めていいのかわからない。

 下手に踏み込めば自分も斬られかねない程の戦い。

 でも止めなければならない。仲間同士で殺し合いなんて誰も望んじゃいない。

 

「止めようにも……どうやって入り込めばいいんだ?」

「そりゃ横から蹴りの一発でも喰らわせればいい……いや、あの二人の速さは本気か。お前には厳しいか?」

 

 相談している間も二人は一進一退の斬り合いをしている。相手が前に出てくれば防戦に、やり返せば同じように剣で軌道を逸らして受け流しつつ致命傷を避ける。そうやって均衡状態になれば一旦下がり、またぶつかり合っている。

 そんな中に入れるだけの身体能力。

 これは鍛錬ではないため二人は本気で殺し合っているのを忘れてはならない。そんな中に入り込めるのか? 鍛錬ならば大丈夫かもしれないが、そうでない今は昴には難しい。

 歯噛みしながら高速の剣戟を行う二人を睨んでいると、軽く肩を叩かれた。振り返るとそこには獅鬼がいる。仮面の奥からじっと二人を見つめる彼の表情はわからないが、やれやれと呆れているような、困ったような雰囲気が感じられる。

 

「……まったく、止める間もなく殺り合いおって……仕方ないといえば仕方ない、か」

「あれはやはり……」

「ああ。シュヴァルツの血統同士……それも堕ちた者同士反応しあった結果だな。これは二人が満足するまで殺し合わないと止まらんだろう」

「おいおい、それまで待ってたらやばいんじゃないんで?」

「然り。故に――」

 

 頷いた獅鬼は一瞬でそこからいなくなり、

 

『……はあっ!』

 

 一度距離を取って更に深い一撃を与えようと剣を振りかぶった二人の間に入り込み、両手でその剣を受け止めてしまう。はっとした二人が反応するよりも早くその手から一つの剣を落とし、反撃しようともう片方の剣を振るうその手を掴んで捻り上げる。

 

「――大人しくしろ」

 

 肘で一度体にダメージを与えつつ足を払って優羅を転ばせて背中を踏み付け、セルシウスからはもう一つの剣を奪って頭突きして怯ませた後に彼女も転ばせる。それでも二人は立とうとする。まだ目は紅いままで、まだ続行する気満々だ。

 だから一度溜息をついてその頭を掴み、ぐっと地面に押し付けながら「まあ落ち着け。気持ちはわからんでもないが、それを抑えつけろ。敵は別にあるのはわかっているだろう?」と囁きかける。

 続けて、

 

「あとでオレの立会いの下鍛錬という形で殴り合ってもいい。今は手を引け」

 

 と告げれば、二人はそれに思うところがあったらしく、無言で何かを考え始めた。

 しばらくそうやって大人しくさせ、セルシウスの瞳が鈍色へと戻っていくのを確認した獅鬼は一度抑えつけていた手を離して二人を立たせる。

 それぞれの武器を手にしながら立ち上がり――二人はそれらをローブへとしまって離れていく。どうやら衝動は一度おさまったようだ。それに安心して昴達は二人へと近づいた。

 

「はぁ……まったく、ひやひやさせんなよ」

「…………ふん」

 

 頭を掻きながらクロムがセルシウスへと話しかけるも、セルシウスは小さく鼻を鳴らしてそっぽ向くだけ。彼女の中ではまだ力の動きがあるように視えるが、それが解放される様子はないようだ。

 ちらっと優羅の方へと視線を移すと、彼女もまた燻ぶっている様子はあるが、彼女も攻撃に移す雰囲気はない。

 

「突然動くから驚いたぞ」

「……すみません」

「やっぱ衝動、なの?」

「……恐らくは。あれを見た瞬間、気づけば体が動いてたから」

 

 無表情、無感情な二人でも衝動的に動く程のもの。それだけシュヴァルツの血に刷り込まれた影響力が凄まじいという事。ちらりとお互いを見合い、また視線を逸らす二人。

 これが初対面なのに、衝動的に殺し合いたくなる。同じシュヴァルツの血統で、尚且つどちらも堕ちた存在。多くの命を殺し、その手に血を濡らせて匂いをこびりつかせ、修羅場を潜り抜けた事で高められた力。

 これらに反応したが故に衝動的に動く。冷静になれば抑えられるが、あの時は心の準備もなしに出会ってしまったからそうなってしまった。

 ついでにいえば、今は狩猟をしていないのでお互い私服だ。武器の威力を軽減させる装備はなく、気の鎧でしか身を守る事が出来ない。そんな中で斬り合っていたのだ。よく致命傷にならずに済んだと思う。

 

「落ち着いたならそろそろここから離れようか。一応即席の結界を展開させておいたけど、今のを誰かに見られでもしたりしたら面倒なことになるからね」

 

 月の言う通り、二人が斬り合いを始めた瞬間に彼女は不可視の結界を展開させて、自分達以外の者らに見られないようにしておいた。ハンター同士の殺し合い以前に、王都付近でこんな真似をして誰かに見られれば、手配されかねない程の事件となる。

 決戦前にそんな事になって逮捕でもされれば目も当てられない。

 決壊を解除し、ヴェルドの門まで移動して手続きを済ませた彼らは何とかヴェルドへと入る事が出来た。

 

 その様子を見ている人物がいる事は月も獅鬼も気づかず。シュレイド軍の兵士が外壁の上で見張りをしているその顔ぶれの中に、彼女もまた混ざっていた。一体いつからそこで見張りをしていたのか。

 自然に彼女はヴェルドに近づく異常を監視する兵士となり、月達の事をずっと見つめていたのだ。

 

(ついに来ましたか。さて、この世界では一体どのように終わるのやら。……あまり変わらないような気もしますけどね)

 

 ふぅ、と軽く息をついた彼女は一度周りを見回してその城壁から街の方へと飛び降りる。その途中で体は霧のように霧散し、一つの建物の上に移動していた。その外見を消し去るため「変身(トランスフォーム)(ヌル)」と呟き、その外見を白いローブで覆い隠す。

 

(それにしても図らずもいいものを見てしまいましたね。あれも利用させていただく事にしましょう)

 

 フードの下に見えるその唇が妖しく笑みを形作る。その顔の輪郭から素顔は見えずとも美人という事はわかり、そんな彼女があのように笑みを浮かべればどこか艶やかに見える。

 口元へと指を寄せ、眼下に広がるヴェルドの街並みを観察するようにローブの陰に隠れた瞳を動かしていけば、街を歩くハンター達の姿が小さく目に映る。例年のヴェルドにない程のハンターの活気。これは本当に珍しい事だろう。

 王家がどれだけ必死なのかがよくわかる光景だ。

 名声や実績、報酬を求めてこれだけの数が集まった。しかし、この中でどれだけの比率でハンターが消える事やら。

 

「せいぜい頑張っていただきましょうかね。最終的にあの方の予定通りに収まってくれるために……ふふふ」

 

 全てはあの方のために。

 自分はそのためにこの世界で動く存在。姿を変え、人形を操り、裏で動いて調節する。自分が属している組織もグループも意味はない。彼らを、その立場を利用するだけだ。

 一度人形の動きを確認する事にしようか、と彼女はまたしても姿を消し、何処かへと移動していった。後に残されたのはこの最近と変わらないヴェルドの活気が聞こえてくる光景だった。

 

 

 ○

 

 

『確認しよう。あそこに集まったシュヴァルツの血統はどれくらいだ?』

 

 燃え盛る火山の中、赤い獅子はそう問うた。その背後には腕を組みながら佇む少女が一人いる。肩まで伸びた紫色の髪、やる気のなさそうな鈍色の瞳、夜空を描く暗い色合いの和服。

 “世界”の領域まで上り詰めたオオナズチにして伝説の情報屋とされる香澄だ。

 彼女の手には高温の熱を放つ赤い珠があり、それを指や腕で弄りながらだるそうに欠伸をしている。

 

「……ん……ふぅ、神倉のあの二人を含めてっていうんなら……普通に確認して……六人。流れのハンター、血の中に眠っているのも入れれば……大体八人前後、ってところか」

 

 眠そうな、あるいはだるそうな声で香澄はそう答えていく。彼女の手にあるそれは紅い獅子、テオ・テスカトルが作り出した炎のエネルギーや魔力を凝縮させた炎の宝玉だ。それを対価としてテオ・テスカトルは香澄に情報提供を求めたのだ。

 香澄はあの時風花へと情報を提供したが、それは情報屋としての仕事をしただけ。風花の味方として情報提供したわけではない。そのためこうして風花らにとっては敵とされるこのテオ・テスカトル相手でも普通に情報を与える事が出来る。もちろん彼女はテオ・テスカトルの味方でもなんでもない。

 中立。

 どちらの勢力でもないからこそどちらにも情報を流す。それだけの話だ。

 弄るのに飽きたのか香澄は炎の宝玉を軽く上に放ると、それはどこかへと消え去った。

 

『その顔ぶれには当然あの白い死神や黒崎優羅もいるな?』

「…………ん、いるね。後はあのルシフェル夫妻の息子らもいる。…………ははっ、あの二人の成長度合いといったら、さすがというべきかな。才能ある奴ってすごいよねぇ……死ねばいいのに」

『……ここはお前が言うな、と言うべきか? お前も才能があったかと思うがな?』

「……ははっ、言ってみただけじゃん。何本気にしてんの? 死ぬ? いいよ? さくっと殺るよ?」

 

 相変わらずだらけた雰囲気だというのに、その鈍色の瞳に見詰められるだけでテオ・テスカトルはうっすらと冷や汗をかきそうになる。しかしそれを抑えつけて気をしっかりと保ち、緊張を吐きだすように息をつく。

 まったく人は見かけによらない、を地でいくこの香澄というものは全然読めない存在だ。その佇まいと雰囲気で真意を悟らせず、表情もその雰囲気からあまり外れないものだから喜怒哀楽もわかり辛い。だというのにこちらの隠し事も全て見通してしまい、それを情報として回収していく。

 かといって戦闘を挑めばこれまた見かけによらない実力で全て返り討ち。

 これほどやり辛い相手は他にいない。

 だがそれでもやらなければならない。

 

『……香澄よ』

「……ん? なに?」

『お前はやはり儂と共に来ないのだな?』

「……ははっ、何を言うかと思えば……わたしは完全なる傍観者。それはお前もよく知っているはず」

 

 テオ・テスカトルはそのシュヴァルツの血統を皆殺しにするためにヴェルドへと飛ぶ。単騎でも十分効果があるが、香澄がそれに加われば間違いなくヴェルドを滅ぼすだけの戦力となる。

 他の命、王家も含めて全て皆殺しにするが、目的であるシュヴァルツの血統がそれに含まれていれば問題ないと考えるテオ・テスカトル。だからこうして香澄を誘ってみるだけみたが、やはり返ってきた答えは想像通り。

 

「わたしは事象に関わる事はない。めんどくさいし、だるいし。……それにわたしはただの情報屋。情報屋が何かに関わる事はない。だからわたしのやり方に反する」

 

 それに、と続けながら一度大きな欠伸をしつつ香澄はこう言った。

 

「…………シュヴァルツが生き残ろうが滅びようが、わたしは知った事じゃないし」

『……本当に、白皇様の意志に従わぬのだな』

「白皇の意志? んなもんクソ食らえってね。わたしはわたしの道を歩くだけ。例え白皇がそれを阻んだとしても、わたしはただ裏の道を通るだけ。シュヴァルツ殲滅なんて、お前らが勝手にやってろ」

 

 本当にやり辛い相手だ。自分達竜種の祖なる者であり、神である彼女の意志に反するばかりか、ある意味反逆の意志とも取れそうな言葉の並び。さすがにそれは聞き逃せずテオ・テスカトルが振り返り、正面から香澄を睨み付ける。

 だがそれでも香澄は自分のペースを崩さずにだるそうな雰囲気を見せるだけ。

 

『香澄よ、今回はこの先の流れに関しても大きな転機となろう。今回だけでいい。儂と共にヴェルドへと赴き、かの者らを抹殺する手助けをいただけぬか?』

「……必死だね、炎耶(えんや)。その身にシュヴァルツの因子があるというのに」

『ああ、そうだな。全てが終われば自ら命を断とう。だが今はただあの方の意志に従って行動するのみ。香澄、お前の力があればそれも容易となるだろう。今回だけでいい。力を貸してくれぬか?』

「……はっ、残念だけど、わたしはやらない。見ているだけに留めるよ」

 

 獅子の顔が頭を下げたというのに、香澄は相変わらずの様子だ。そのまま立ち去ろうとしたようだが、何かに気づいたように視線を動かして辺りを見回す。

 その気配に小さく笑みを浮かべながら肩をすくめて肩越しにテオ・テスカトルへと振り返ると、「……どういうつもり?」と微かな声で問う。

 

『……ふ、どうやら足止めを買って出たようだ』

 

 顔を上げたテオ・テスカトルもまたその気配を察して香澄の周囲へと視線を巡らせる。

 すると鈍い振動音を響かせながら四つの影が岩陰から姿を現したのだ。重厚な鎧と化した外殻に覆われ、飛竜種の中でも上位に食い込むほどの体長を誇り、尚且つ重量級とされる存在。

 火山に生息し、鉱石を食べることで長い年月をかけてその硬く重い外殻を作り上げていく飛竜。岩竜バサルモスの成体。

 鎧竜グラビモス。

 それが香澄の三方の逃げ道を止めるように姿を現したのだ。しかも前方は二頭も現れ、その内の一体は他のグラビモスと違って黒々とした外殻に覆われている。

 黒グラビモスと呼ばれるグラビモスの亜種だ。だが厳密には亜種というわけではなく、その体内には原種以上の熱を蓄え、排熱機能が原種以上に高まった結果とされている。

 とはいえこうして見る限りでは、全員狂化の種を持っているようだ。

 いや、違う。

 どうやら全てこのテオ・テスカトルから狂化の因子を注入されたらしい。そうやって駒を増やしているとは、そうまでしてシュヴァルツを抹殺したいか。

 だが残念。こうして自分に力で干渉するならそれ相応の対価は払ってもらわなくてはならない。香澄は半目になりつつも口の端を歪める。

 

「…………命は投げ捨てるものじゃない、と誰かが言っていたけど……お前の駒らは投げ捨てるつもり?」

『……それでも、やらねばならぬ時もあろう。香澄、最後の願いだ。儂に力を貸してくれぬか?』

「……ははっ、死ね。わたしは……表舞台には立たない」

『――――そうか、残念だ』

 

 ふう、とため息をつくテオ・テスカトルに反応したのか、グラビモス達が各々目配せし合い、香澄が主の敵と認識したらしい。それぞれ唸り声を上げたかと思うと大きく息を吸い始めた。

 それに香澄が視線を巡らせて小さく笑みを浮かべた瞬間、三方から高温の熱線が四つ同時に放たれる。それらは全て香澄を狙い、彼女を焼き尽くさんと地面もろとも抉るように全てを焦土へと変えていく。

 グラビモスにはリオレウスら火竜にあるような火炎袋はない。リオレウスは火炎袋によって火種を作り、それを高めて圧縮する事で火炎ブレスを吐きだす。イャンクックやサラマンドラもまた同様で、火炎袋があるからこそ炎のブレスを吐ける。そのため火炎袋がなければそのブレスは吐けない。

 ではなぜグラビモスは熱線を吐けるのか。

 それは彼らの熱線は自分の体に篭った熱をそのまま吐き出す、すなわち排熱する事で熱線を放っているのだ。厚く硬い外殻を持つ彼らは熱や炎に耐えることを可能としている。これはマグマの高温にも耐えられるように進化しており、短時間であればマグマに潜航して移動する事すら可能としてしまう。

 だがその溜まった熱は自然と引いていく事は難しく、長時間熱が溜まったままならば生命維持にも関わる。そのため彼らは進化の過程でその熱を圧縮し、口から強制的に吐き出す技術を習得したとされる。それがあの熱線だ。

 つまり攻撃手段ではなく、排熱行動そのものが攻撃にも繋がってしまったという事になる。大抵の生物ならばこの熱線を受けただけで全身を焼かれて死亡ないし重傷、または灰塵と化してしまう。

 しかし、熱線が収まった後にはそこには誰もいなかった。

 

「――やれやれ、狂化の因子の影響か。このわたし相手に……ほんと、めんどくさいったらありゃしない」

 

 何事もなかったかのように一頭のグラビモスの顔の近くへと現れ、軽く伸びをするように両手を挙げる香澄。この危機的状況においてもなお彼女は自分のペースを崩す事はない。

 驚くグラビモスをよそに、香澄の両手に緑色のもやが立ち上っていく。それはグラビモスの顔、鼻、口へと向かっていき、それを吸い込んだグラビモスの様子が少しずつ変化していく。

 

「グ、ゴ、ガガ……グオオォォォ……」

「……さて、炎耶。お前の駒、一つ失うけど、問題ない? ……ああ、問題ないよね。というわけで、わたしはこれで消えるよ。またの利用をお待ちしています……ってね」

 

 にやり、と冷たく笑えばその姿が消えていき、彼女が立っていた場所には今度は紫色のもやが立ち上ってグラビモスの体内を侵していく。そうやって弱ったグラビモスを頭上から踵落としで頭部を砕き、一撃のもとに沈める。

 どうして彼女の踵落としが通用したのかと言えば、最初に発した緑色のモヤが酸性であり、グラビモスの鎧のような外殻を脆くさせてしまった事が影響している。

 また踵には彼女の気が纏われ、その一撃はハンマーの一撃に匹敵する。その衝撃は頭部の外殻を砕くだけでなく脳にまで影響を与え、先ほど体内に注入された猛毒霧によって体内からも死に至らしめる。

 

「――――ま、炎耶。お前が生きていたら、の話だけれどね」

 

 そんな言葉を最後に香澄は完全にこの場から消え去った。

 残されたのはテオ・テスカトルと、二頭のグラビモス、一頭の黒グラビモスのみ。対価として支払われたグラビモスの命は既に消えている。地面にうつぶせになったまま血を流す事もなく息絶えたグラビモス。

 たった一撃で狩られた飛竜種の中でも上位に位置する存在。鮮やかに決めてみせた香澄の狩りに、テオ・テスカトルはやれやれと首を振って残った三体に視線を向ける。

 

『まったく……喧嘩を売る相手を間違えるな。……とはいえ、狂化の因子の影響故に致し方なし、か』

 

 呟きながら三頭の(グラビモス)へと近づいたテオ・テスカトルは彼らを見回す。仲間を一頭失ったというのに、悲しみを感じさせないグラビモスはテオ・テスカトルの前へと集まり、一度頭を垂れる。

 

『さて、貴様らはこれより移動を開始しろ。目的地は北にあるハンター共の本拠地、ドンドルマだ。そこで奴らの気を引いておくのだ』

 

 その言葉に一度グラビモスらは頷くように頭を下げ、それぞれ山を下り始める。鈍い振動を再び響かせながらマグマが煮えたぎるこの地から離れていく。それを見送ったテオ・テスカトルは一度背後にあった一つの火口へと向かい、湯浴みでもするかのようにマグマの海へと飛び込むとその体を浸らせた。

 人にとっては死に至るこの海も彼にとってはただの風呂。体が温まる中テオ・テスカトルは目を閉じて頭の中にその光景を思い描く。

 ヴェルドの辺境の草原にハンター達が展開し、自分がその場に舞い降り、一気に薙ぎ払うように業火の炎を展開する。それでも立ち向かってくるハンター達を薙ぎ倒し、その中に混ざるシュヴァルツの血統達。

 自分達にとって最大の敵であり、討つべき存在。

 彼らを抹殺する事こそ一番の目的。彼らをこの業火でその罪もろとも焼き尽くしてくれよう。

 そのための休息を。

 今日から明日の夜まで休み、グラビモスらがドンドルマのハンター達の気を引いている間にヴェルドまで移動し、襲撃する。予定を立てたテオ・テスカトルはそのままマグマの海に体を浸らせたまま眠りについた。

 

 

 ○

 

 

 ヴェルドの街に侵入する三つの人影。黒装束に身を包んだ彼女らは建物の陰に身を潜めながら誰にも気づかれずにヴェルドの街の奥へと侵入していき、スラム街の近くまで入り込むと一度足を止めて顔を隠していたフードを取り払う。

 それにより、フードによって隠されていた素顔、その艶やかな金髪があらわになる。しかし髪の色はわかっても素顔は建物の影に入り込んでいるせいで見えづらくなっていた。

 

「簡単に潜り込めたね」

「そうね。ハンターが増えているせいで対応が慎重になっているけど、それによってどこかしら穴も出来る」

「そこを突けばいとも簡単に侵入できます」

 

 薄く笑いあいながら彼女らはこの先の事について話し始めた。

 まもなく決戦の時が訪れる。自分達はその時までハンター達の動きを監視し、特に鍵となっているであろう昴達の動きを監視する事にする。

 朝陽が移動している事は一人がすでに確認済みだ。後は彼女が予定通りに旧シュレイド城へと向かい、月達もまたかの場所へと移動する。

 そこで自分達も主と共に登場し、後は主の意向のままに。主の願いを叶えるための補助をするまでだ。

 

「全ては我が主の予定通りに進んでいるわ。その予定を崩さないように気をつけなければならない」

「……そうだね。ご主人様の予定通り、だね」

「……ふふ」

 

 姉の言葉に妹たちは小さく笑って頷く。

 この戦いに勝つのは主だと信じて疑わない。彼女はそのために裏で動いてきた。そうしてここまで来たのだ。旧シュレイド城という決戦の地で全てが終わる。

 数多の犠牲のもとに願いが叶うのだ。絶対に達せさせなければならないと彼女は強く拳を握りしめる。ソルの一件で失敗した汚名を返上するため今度は失敗できない。

 妹らも今まで裏で動きつつ少しずつ結果を積み重ねていっただろう。オルド峡谷のエスピナス亜種の一件も、聞けば裏でそれなりに動いていたらしい。結果は昴達の勝利であり、結局は狂化もしなかったらしいが、それでも彼らを殺す手前まで持って行けたのだ。

 主からのお咎めは結局はなかったが、姉の完全な失敗よりはマシか。

 

「じゃ、その時まで一時解散という事でいい?」

「そうですね。各々監視する相手をあらかじめ決めていますし、それでいいでしょう」

「では散開」

 

 その言葉に従って三人はそれぞれ別の方向へと跳び、すぐに姿は見えなくなってしまった。

 (シャドウ)()(アイズ)もまたヴェルドへと潜入。彼女らもまた予定通りに事が流れていることを確信し、当初の取り決め通りにヴェルドへとこうしてやって来た。

 

 ――そう、朝陽によって主であるアキラが殺された。それもまた予定通りなのだ。

 

 だから彼女らは動じていないし、行動をやめる事もない。

 ただ自分達の与えられた役目を黙々と遂行していくだけ。

 

 

 そんな様子を見つめるのがいつの間にかヴェルドの建物の屋上に腰掛けている菜乃葉だ。ぶらぶらと足を遊ばせながら黒い目でじっと陰で動いていた三人を見つめていた。どういう手段を用いたのか、彼女らの話も耳にしていた。

 その上で彼女は冷たく微笑する。

 まるで彼女らを憐れむように、嘲笑うかのように。

 

「これで揃ったのかしらね」

 

 自分の駒である獅鬼をはじめとするメンバー。

 その敵である朝陽とアキラが用意した三人の駒。

 こうしてシュレイド地方に揃った。外からはテオ・テスカトルがやってくるだろう。

 これで全部。

 またこうしてシュレイド地方で決戦が行われる。よもや自分がその決戦前に立ち会う事に成ろうとは思いもしなかったのだが。今までならば世界の狭間から様子を観察するだけだったのに、全く世の中何が起こるかわからないというものだ。

 これもあの女狐のせいだと菜乃葉は小さな苦い表情を浮かばせる。

 そんな事を考えていると、数メートル離れた所で突如として一人の人物が現れた。

 白い長髪を風になびかせ、白い毛を使った扇を手にし、白い和服と金の線で狐を描いた緋色の和服を着こなす少女――九尾だ。

 そんな彼女を一瞥するように視線を動かし、すぐに元の景色を眺めるように戻すと足を組んで頬杖をつく。

 その菜乃葉の様子に扇を口元に当てながら九尾はくっく、と小さく笑った。

 

「不機嫌そうだのう、菜乃葉。ほれ、我主(わぬし)の友である此方(こなた)が来てやったのだ。……そら、手土産もあるぞ。そんな顔をするでない」

 

 どこからともなく取り出したのはフラヒヤ酒。しかもその中で結構な高級品とされる一品だ。普通の一般人からすれば呑む機会すら出会えない代物を取り出している。

 

「…………誰のせいだと思っているのかしら? そんなだから女狐と呼ばれるのよ。それと、誰が友よ」

「はて、なんのことやら。……ふむ、そんな事を口にしながらそれを持っていく辺り、これは俗にいう“つんでれ”で良いのかのう?」

「絶対に違うから」

 

 不機嫌そうな表情をしながら応えつつ、軽く手を振って九尾の手からフラヒヤ酒を奪って自分専用のグラスを取り出してなみなみと注いでいき、一気に飲み干した。その見事な飲みっぷりは見かけによらないが、それを見慣れている九尾は特に何も言わずに笑みを浮かべるだけ。

 

「さて、もうすぐ一つの終わりが迫ってきておるが、我主の目的の方は如何ほどのものかの?」

「……この流れでいけば変わらないでしょう。私にとって問題となるのはこの先なのだから。それは貴女だって同じでしょう?」

「くっふふふ、そうだのう。故にこの決戦は大きな一つの節目と言えよう。此方らの目的、そしてあの(ひと)の目的……駒らの生死が関わる大きな節目。だからこそ目が離せぬものよな」

 

 ゆっくりと扇をあおぎながら九尾は空を見上げる。その先に恐らくあの女がいるであろうと感じながら。

 

「貴女の目的、あの女の目的とはなんら関係ないでしょう?」

「そうだのう。それは否定しない」

「……貴女自身はどうなのかしら? 殲滅? 保護? それとも中立?」

「くっふふふ、やはり心配か? そうであろうな。我主の目的にはそれはどうあっても関わる」

 

 冷たく笑いながら九尾はゆっくりと菜乃葉へと近づいていく。フラヒヤ酒を飲みながら菜乃葉は近づいてくる九尾を横目で見上げ、その表情の奥に潜む感情を見抜こうと視線を逸らさない。

 そうしてすぐそこまでやってきた九尾はじっと菜乃葉を見下ろし、そっと顔を寄せて口元近くに会った扇を引いて笑みを形作った唇を動かした。

 

「……そう、我主はシュヴァルツを守りたいのではない。本当に守りたいのは――」

「――黙ってろ、女狐」

 

 瞬間、周囲の空気の温度が一気に低下した。見上げる菜乃葉の漆黒の瞳がぎらぎらと輝く紅に染まっていたのだ。それに合わせて菜乃葉から突き刺すような程殺の気が鋭く放たれ、九尾を強い重圧と共に襲い掛かっていた。

 目の前にいる菜乃葉から鋭い殺気を浴びせられているというのに、九尾は動じることなくその紅い瞳を見つめ、ただ笑みを浮かべるだけだ。

 またくっく、と低く笑いながら背筋を伸ばし、扇をあおぎながらまた菜乃葉を見下ろし、「本当にわかりやすいのう」と笑ったが、菜乃葉も殺気を放ちながら「貴女に言われたくないわね」と言い返しつつ立ち上がる。

 

「それに女狐、貴女だってそんなに私と変わらないんじゃないの? 貴女もまた――」

「――くっく、その先を口にするのは野暮というものよ」

「……貴女から言い出したんでしょうが」

 

 九尾は扇をあおぎながら、菜乃葉は右手にフラヒヤ酒を左手にグラスを手にしながら、お互い紅い目で睨み合いながら火花を散らしている。気のせいか先ほど以上に温度が低下していき、寒気を覚えるほどにまでなっている。

 だがそれでも彼女らは睨み合い、殺気をぶつけ合っている。

 みしみしと二人が立っているこの建物が軋みだし、うっすらと亀裂まで入り始めているではないか。

 

『…………』

 

 それでも二人は止まらない。

 片や小さく笑みを浮かべながら、片や不機嫌さを表したかのような渋い表情を浮かべながら。

 そうやって睨み合っていたのだが、不意にそれがお互い消え去る。

 表情も自然と無表情になっていき、そのまま同時に同じ方向を見やった。

 

「……相変わらず監視者はいるか」

「そのようね。ま、あれはそういう役割なのだから仕方ないか」

 

 その視線の先にはここと同じように建物が広がる街並み。住宅街ではなく店が並ぶ繁華街のようなもののため、下の道には多くの人がひしめきあう。事で人の声がここまで届く程に活気がいい。

 そのため二人の声は下の人々に届かず、気配も消し、同時に不可視の結界の影響で姿も見られない。つまり誰にも二人の姿が見えないはずなのだ。

 

「…………」

 

 しかし突如二人の視界に現れた白い影はしっかりと二人の姿を視認していた。

 体を包み込む白いローブに素顔を隠すフード。一見して怪しい人物と言える存在だが、それは菜乃葉達とて別の意味で怪しい人物なので問題ない。

 

「……久しぶり、と言うべきでしょうか。それとも、初めまして、と言うべきでしょうか」

「くっふふふ、そうだのう……此方としてはその姿で会うのは久しぶり、と言うべきかのう」

「そうね。私もこの世界の駒としては初めてかしらね。……でもあえてこう言うわ――久しぶりね、リーゼロッテ。それともこの世界の駒の名前で呼べばいいかしら?」

「いいえ。リーゼロッテで構いませんよ。お久しぶりですね、七禍。そして九尾」

 

 フードの下にある漆黒の瞳が交互に二人を見つめ、唇が小さく笑みを作る。そんな彼女の姿を二人はじっと睨み、それを受けた彼女――リーゼロッテは笑みを作ったまま小首を傾げる。

 

「しかし、世界の中で二人が揃うというのは珍しい光景ですね。世界の狭間ではそれなりに会っているようですが」

「くっふふふ、此方らは友であるが故」

「だから友じゃないと言っているでしょう。……そう、ただの腐れ縁。それだけの事よ」

「まったく、つれないのう」

 

 また扇を口元に当てながら九尾は目を細める。だがそれでも菜乃葉の不機嫌そうな表情は和らがない。そんな二人を見てリーゼロッテはまたくすくすと微笑み始める。

 

「仲がよろしくて何よりです」

「くっふふふ。……それで? 何故(なにゆえ)ここに現れた? どうせあれは人形だったのであろう?」

「……ええ、その通りですよ。あれは所詮人形でしかありません。……あなただってそうでしょう?」

「くっく、然り。やはり気づいておるか」

「ええ。それが私ですので」

 

 彼女はあくまで世界に舞い降りて対象を監視し、あの女の望みを叶えるための補助をする。そのため九尾の変化についても見破れるだけの技量がなければ話にならない。

 自分がそうであるように九尾もまた変化や分身を多用して他の者達を欺き、本体を隠して裏で行動し続けている。その欺きを見破り、対象の行動を監視しなくてはならない。そしてあの女へと報告するのだ。

 それが彼女の役割。

 だから――この先起こる事も見届けるし、機会があれば裏で細工もするだろう。

 

「……やはり何かするつもりなのかしら?」

「さて、どうでしょう。七禍にそれを教える義理はございませんね」

「それもそうだのう。……それでリーゼ、もう一度問おう。何故ここに現れた?」

 

 あおぐ手を止め、リーゼロッテを睨むように目を細めながら九尾に問いかける。さっきよりはマシだが今、九尾は殺気を放っている。だが距離が空いているせいか、あるいはそれそのものがそよ風のようなものなのか、リーゼロッテは動じた様子はない。

 相変わらずフードを被ったまま薄く笑い続けるだけ。

 数秒ほど間を開け、リーゼロッテは軽く息をつくと「そうですね、ただ警告を」と答えつつ顔を上げて漆黒の瞳で二人を見据えた。

 

「おわかりでしょうが、私はずっとあなた方を見ています。九尾は言わずもがな、七禍も世界に降りてきてからほぼ見ていますよ。……この先の出来事、あなた方の行動も当然見届けさせてもらいます。……運命を変えるのも結構ですが、例え変えたとしてもあの方は修正いたしますので」

「……上等よ。私は私の目的を達成させる」

「結構ですよ。でも残念ながら私はあの方に従う者。七禍、あなたの願いは叶わない。あの方の意志が成し遂げられれば、自然とあなたの願いは消えるのですから」

 

 微笑を浮かべたままただ淡々と告げるようにリーゼロッテは告げ、菜乃葉はそれに表情を変えずにリーゼロッテを見つめ続けるだけだ。

 そんな彼女から九尾へと視線を移すと、リーゼロッテは口元に指を当ててまた小首を傾げる。

 

「あなたは……そう、微妙でしたね。あなたの目的は曖昧でしたか」

「……くっふふふ、そうだのう。此方の目的は達成条件が曖昧。それは否定せぬよ。だが、それでも此方はこの目的でこのゲームに臨んでいる。何があろうとあれの行く果てを見届けるのみよ」

 

 扇を口元に当てながら九尾はそう答えた。

 菜乃葉もそれを聞いてやはりか、と目を細める。この九尾と言う存在についてはもう遥か昔からの縁だ。数百年どころじゃなく、千年以上にわたる縁と言ってもいい。だからこの九尾の性格、どういう思考、元の世界の縁というのも知っている。

 その上で今回のゲームの目的が何であるかはおぼろげながら察していた。自分の目的に関しては早々に気づかれていたが、九尾の目的に関してはそんな感じだった。

 そうして察した結果、その目的は達成条件が曖昧じゃないかと感じてしまう。

 

「……そうですか。何にせよあなたとの繋がりはもう少しで終わりますが、私達の邪魔をするのであれば私も困りますよ?」

「くっふふふ、さて、どうかのう」

 

 睨むようにしながら牽制するも、九尾は涼しい顔で流してしまった。そんな風にするのも彼女の性格上わかりきっている事。リーゼロッテはそれ以上何も言わず、やれやれと首を振りながら背を向けた。

 

「では、またいずれ」

 

 そして一瞬にして姿を消してしまう。

 それを見送った二人は無表情になり、一度お互いを横目で見合った。

 

「では此方も一度去るかの。我主は……」

「…………」

「……くっく、まあゆっくりするがよい。もう賽は投げられている。運命の流れはほぼ決定したようなものよ」

 

 そう言い残して九尾もまた姿を消した。

 残されたのは菜乃葉のみ。また一度溜息をつくと、手にしたフラヒヤ酒をそのままラッパ飲みし始める。

 

「んく、んく、んく…………ぷはぁ」

 

 およそ半分ほどを飲み干して一度口を離し、菜乃葉は眼下の光景を眺め始める。その顔に朱は差さず、酔った様子などまるでなかったかのように菜乃葉はただそこ佇むだけ。

 

「……運命は変わらない。……そう、この流れは変わらない。だから懸念すべきは――」

 

 また瓶を傾けて残った液体をすべて飲み干し、濡れた口元を拭いながら……菜乃葉は姿を消しつつその言葉を残す。

 

「――生き残るか、死ぬか。そのどちらか、か」

 

 菜乃葉の目的が先に進むかは、その二つの結末に委ねられた。

 

 決戦まであと二日。

 

 

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