呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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13話

 

 

「ガァアア!」

 

 迫り来る大きな影。ガレオスよりも一回り大きな体と、麻痺毒をもつヒレを向けながらドスガレオスが迫ってくる。

 

「くっ……!」

 

 右手で白猿薙【ドド】を抜き、ライムへと飛び掛りつつ押し倒しながら自分も砂に飛び込んだ。その際ドスガレオスのヒレが昴の左肩を切り裂いた。フルフルDの皮から装備の隙間まで切り裂かれ、下にある昴の肩にまで届いている。

 

「ちっ……」

 

 その時ヒレから分泌されている麻痺毒もまた傷口から入り込み、左腕が痺れるような感覚に襲われる。

 

「す、昴さんっ!?」

「……大丈夫だ」

 

 自分の上に覆いかぶさっている昴にライムが呼びかけるが、昴は少しだけ顔をしかめながらもそう言った。だがいつまでもこうしてはいられない。すぐそこまでガレオスが迫っている。このままじっとしていれば襲われるのは必至。

 何とかポーチに手を入れて音爆弾を取り出し、スイッチを押して頭上に放り投げる。そのまま炸裂し、すぐそこまで接近していたガレオスたちが砂上に飛び出した。その間に昴がライムから起き上がって左肩を押さえる。

 思ったより傷が入っており、麻痺毒もそれなりに回っている。これでは白猿薙【ドド】を支える力があまり入りそうにもない。

 斬る力がなくなってしまった。

 それはすなわち、戦力がそがれたも同義。

 

「ガァッ!」

 

 砂の中へと飛び込み、そのまま離れていたドスガレオスが顔を出した。大きく息を吸い、砂弾を放とうとしている。その動きがスローモーションに感じている。

 ガレオスで銃弾ならば、ドスガレオスとなれば更に威力が上がっているはず。受けなくても頭の中でそれがわかる。

 だというのに足が竦んで動けなかった。自分がされたように昴に飛び掛って回避しないといけない。頭ではわかっていても体が動かなかった。

 なんてざまだ。

 無理を通してここに来たのに、自分が嫌になってしまう。

 こんな所で止まるのか。

 こんな所で、死ぬのか。

 

『お前を死なせはせん』

 

 そんな昴の言葉が思い出される。そして昴はその言葉の通り、自分を守ってくれていた。

 ――強い意志。

 

『強い意志を持って事に当たる。貫きたい事はそうやって心を強く持ってぶつかるものだよ』

 

 唐突に父親の言葉が思い出された。

 あの時もそうやって昴に意見をぶつけたのだ。父親を理想としているから、やらなければいけないと思ったから。だから反論した。

 自分の師とも言える相手に、そして人生で初めてあんな風に啖呵をきったのだ。

 そして今回もまた動かなくては。

 

『恐れず行動しろ。出来ないことが恥じゃない。行動しないことが恥だ』

 

 そんな言葉を思い返す。今こそ恐怖心を振り払い、昴を助けるために体を動かすのだ。

 

「うあああぁぁ!!」

 

 自分を鼓舞するように叫び声を上げながら昴へと飛び掛かった。

 

「……っ!」

 

 突然のことで驚きながらもそのまま昴はライムによって宙を舞う。そのすぐ後ろでドスガレオスが放った砂弾が命中し、砂が舞い上がって衝撃が巻き起こる。それによって二人の体がさらに吹き飛んだ。

 

「グウゥ……」

 

 外した、と呟いたのかドスガレオスがもう一度息を吸う。首を動かしてもう一度狙いを定めた。だが背後から迫る足音に気づいて後ろを振り返る。

 

「なにしてんのよ、あんたはぁぁああ!!」

 

 怒号を上げながら振り上げたグラビィトンハンマーを横薙ぎに振り払う。

 

「ガ、ハ……」

 

 その一撃にたまらずドスガレオスの頭が砂に沈む。

 

「おらぁあ!!」

 

 すかさず叩き潰そうとグラビィトンハンマーを振り上げると、その横からガレオスが飛び出してグラビィトンハンマーの棍に噛み付いてきた。

 

「くっ……」

 

 グラビィトンハンマー重量に加えてガレオスの力と重量が加わり、バランスを崩してしまう。ハンマーは叩き潰すか、横に振って薙ぎ払うしかない。あるいは棍の先を使って打ち付けるかだ。

 

 だが棍に噛みつかれてはどうしようもない。

 

「はなれな、さいッ!」

 

 その場で1回転して振り払おうとするが、噛みつく力が全然弱まらない。ぶんぶんとその巨体が宙で回転する姿は見るものを唖然とさせるだろう。

 

「はなれろつってんでしょうがぁぁああ!!」

 

 苛立ちが高まり、回転する力を上げて勢いをつけたまま右足を振り上げる。それはガレオスの首を蹴り上げ、その衝撃でようやく口が開いてグラビィトンハンマーが解放される。だが片足では立っていられず、そのままグラビィトンハンマーを離して砂にしりもちをついてしまう。

 足元を見ればすでにドスガレオスはいなくなっており、離れた場所で泳いでいた。

 

「ちっ」

 

 舌打ちして立ち上がり、グラビィトンハンマーを持ち上げると腹いせにそこにいるガレオスの頭を叩き潰す。ガレオスは小さな悲鳴を上げて絶命し、そこに血溜まりを作った。

 顔を上げて昴たちのほうを見ると、何とか立ち上がっているのが見えた。しかしそれは周りのガレオスたちも同じ。砂に潜らず砂上でゆっくりと動きつつも取り囲み始めている。

 

「ガァウアッ!」

 

 再び砂上に顔を出したドスガレオス。それに従ってガレオスたちが一斉に首をのけぞらせる。砂弾を放とうとしていると感じた紅葉は、グラビィトンハンマーを背負って二人のもとへと駆け寄っていく。

 昴は身を防ぐものは持っていない。ライムは盾を持っているが、周りから一斉に放たれれば防げない場所が存在する。

 だったら自分が何とかしなければ。

 イメージを固めて二人に近寄ると右手を横に払った。すると砂が舞い上がり、ガレオスたちが見えないほどの高さの壁となる。それは放たれた砂弾を防ぐほどの厚さであり、何とか一撃は防いだ。

 

「……はぁ、はぁ」

 

 だがそれほどの力を使えばやはり疲れるのだろう。さっきのガレオスとの戦いに加えて、これほどの砂を巻き上げた風魔法。一気に疲れが押し寄せてきたようである。

 だが危険はまだ去っていない。

 ドスガレオスはまだそこにいる。

 

「ライム、音爆!」

「は、はい!」

 

 手を出して音爆弾を握らせる。そのまま疲れを振り払うようにして走り出し、その勢いを乗せてドスガレオスへと投げつけた。音爆弾が迫ってくると感じて逃げようとしたらしいが、その時にはもう炸裂してしまい、高周波によってドスガレオスが砂上に打ち上げられた。

 

「ガァアアァツ!?」

 

 紅葉はグラビィトンハンマーに手をかけて接近していく。その頭目掛けて横薙ぎに何度も回転するようにして殴りつけていく。そのまま体へと少しずつ移動していくと、右足で強く砂を踏みしめた。

 

「おおぉぉぉらぁああああ!!」

 

 気合を込めてその勢いを殺さずにグラビィトンハンマーを振り上げる。その衝撃がドスガレオスの腹にぶつかり、一瞬だけその巨体が浮き上がった。

 

「ご、は、がぁ……」

 

 それにはさすがに耐えられなかったのだろう。口から血を吐き出した。たたらを踏んでドスガレオスが体勢を立て直し、そのまま砂の中へと飛び込んだ。

 そのままどこかへと去っていくと、ガレオスたちもそれに続いて姿を消した。

 どうやら紅葉の怒号の一撃で戦意を喪失したらしい。それほどまでの一撃だったようだ。

 

「……ふぅ」

 

 一息つくとグラビィトンハンマーを背中に戻し、昴とライムへと駆け寄った。

 

「大丈夫? どこかやられた?」

 

 屈みこんで問いかけると、左肩の傷に気づく。ライムが少しだけうつむいて説明する。

 

「それが、ドスガレオスのヒレを掠めたようで」

「ということは、麻痺してる?」

「……少しな」

 

 左手を動かそうとしても少ししか動かない。まだ麻痺は消えていないようだ。そこで紅葉がポーチから回復薬を取り出した。さらに布を取り出して少量を染み込ませ、傷口に当てて固定する。残りは昴に手渡して飲ませた。

 

「……すみません。僕のせいで」

「それは違う。誰のせいでもない。狩りをする以上、こうなることはよくある話だ。それにいちいち気に病んでいたら、お前の心が壊れるぞ?」

 

 怒ったような雰囲気はなく、どこかライムを気遣うような声色でそう言うと、ライムの目に少しだけ涙が浮かんだ。

 

「だから泣くな。……まぁ、それでも気になるというのなら、商隊を護衛際に出来る限りの範囲で挽回しろ。それで充分だ」

 

 軽く頭を撫でてやると立ち上がる。ライムはまだ少し顔色が優れなかったが、小さくうなずいて立ち上がった。それを見た紅葉が微かに笑って後に続く。

 洞窟に向かってシアンと商隊に合流し、移動を開始することになる。歩き出す前に武器に砥石を使って切れ味を戻しておき、回復薬を飲んで体力を回復させておいた。

 

 数分後、彼らは砂漠の横断を始めた。前方を紅葉、右をシアン、左を昴が護衛する。ライムは荷車に座り、新しい音爆弾の調合を行っていた。慎重に調合を行い、再び音爆弾が10個揃う。調合を終えると荷車から降りて左側へと移動した。入れ替わるようにして後ろを昴が護衛する。

 ベースキャンプの場所近くに戻ってくるが、彼らは立ち止まらずに通過する。そこから更に北へと向かい、ゴル砂漠を抜けるのだ。

 このまま抜けられれば僥倖。クエストは達成される。

 昴が麻痺によって戦力が低下している今、出来るならその方がいいと誰もが思っていた。

 しかし現実はそうは甘くはないようだ。背後から多くの気配が近づいてくる。

 

「……どうやらまだあきらめていないようだな」

 

 そう言いながら右手で白猿薙【ドド】を抜く。視線の先には何もない。だが砂の中に奴らは存在していた。

 

「おい! 先に行け! ここは食い止めておく!」

 

 後ろにいる商隊の人に叫ぶと慌てたようにアプトノスに手綱を叩いた。

 

「すまん! 恩にきる!」

 

 そう言い残して商隊と荷車は去っていく。残ったのは昴たち4人。

 

「斬れるの?」

 

 グラビィトンハンマーを構えながら紅葉が言うが、昴は右手で白猿薙【ドド】を何度か振って苦笑する。相変わらず支える左手はあまり力が入っていなかった上に動かしづらい。

 

「無理だな。よくて突くだけだ。だから音爆でも投げてるさ」

 

 白猿薙【ドド】を背中に戻してライムへと手を伸ばすと、いくつかの音爆弾が渡される。渡し終えるとライムが昴を見上げた。何か言いたそうだったので横目で見下ろすと、その目に強い意志が宿り始めた。

 

「……頑張ってきます」

「……ああ。無茶だけはするな」

「はい」

 

 ライムはしっかりとうなずいてヴァイパーバイトを抜いた。

 もうそこまで迫ってくると先頭にドスガレオスの背びれが見えた。そのまま加速をつけて砂上へと飛び出してくる。

 

「ガァアアッ!」

「散れっ!」

 

 その言葉に従って二手に分かれる。今度はライムと紅葉、昴とシアンの二人組だった。昴はドスガレオスの背後、ガレオスたちがいるであろう場所へと音爆弾を投げる。別々の方向に1個ずつ投げるとガレオスたちが砂上へと打ち上げられる。だが範囲外にいたガレオスが数匹、二人の方へと飛び出してきた。

 

「ガァッ!」

 

 横に転がってやり過ごすとガレオスが砂に潜り込む。それを無視し、打ち上げられているガレオスたちにシアンが向かっていく。

 

「せいやぁあ!」

 

 ガレオスへと飛び掛りながら両手に構えたインセクトオーダーを振り下ろす。鮮血が舞い上がり、ガレオスの顔に二つの赤い線が作られる。その後を昴が続き、白猿薙【ドド】を抜いてぐっと握り締める。

 二人はガレオスたちを止めて少しでも数を減らす役割を持つことになった。もがき続けているガレオスの顔に近づくとシアンが鬼人化を発動し、顔に乱舞を仕掛ける。体に回った昴は胸の辺りを何度も何度も突き刺す。

 

「……ふっ」

 

 背後に迫る気配を感じると、痺れた左手で音爆弾をたどたどしく取り出し、そのまま力をいれずに軽く上に投げる。地面に落ちる前に回し蹴りで蹴り飛ばすと、接近していたガレオスの頭上で炸裂した。

 

「ガ、アァ……」

「よしっ、まず1匹!」

 

 仕留めたことを知らせると、続いて昴の背後にいるガレオスへと接近していった。それに付きつつ、辺りを見回すと何匹かが既に砂の中へと飛び込んでいるようだった。

 ガレオスに近づいてその胸に白猿薙【ドド】を突き刺し、震える左手でぐりぐりとねじ込みながらポーチに手を入れる。取り出したのは音爆弾、ではなく小さなタルだった。

 しかし導火線が付いており、腰の辺りで摩擦を起こすと火がつく。それを振りかぶって投げると離れたところで爆発した。

 

「ガァッ!?」

 

 爆発音に驚いてガレオスたちが一斉に飛び上がる。

 投げたのは小タル爆弾だ。大タル爆弾と違って軽量であり、このように手で持つことが可能だが、大タル爆弾と違って威力は低くなる。だが大タル爆弾を起爆させたり、あのような使い方も出来たりするので、利用範囲は広い。

 

「2匹目仕留めました!」

 

 シアンの言葉に気づいて顔を向けると、確かにガレオスは絶命していた。ねじ込んでいた白猿薙【ドド】を抜き、先端が赤く染まっているのを見て右手で振り回して血を払う。

 

「では3匹目に向かいましょー!」

「おう」

 

 元気よく走り出すシアンの後を追い、昴たちは砂漠を走り回る。

 

 

「ガァアア!」

 

 再び砂上へと飛び出してきたドスガレオスから離れると、ライムは手にした音爆弾を振りかぶる。砂の中へともぐりこんだ場所辺りで炸裂し、驚いたドスガレオスが飛び上がってくる。

 

「はああぁぁ!!」

 

 グラビィトンハンマーを構えて紅葉が走り出す。ライムも辺りを警戒しつつヴァイパーバイトを手にして後に続いた。

 紅葉は何度も回転しながら頭を殴りつけ、そのまま頭を殴り上げる。

 

「ご、ふぁ……」

 

 腹に与えられたような衝撃が今度は頭に襲い掛かり、たまらずドスガレオスが力が抜けたように横たわる。これはめまい状態と呼ばれる現象だ。頭に鈍器で何度も殴られれば、脳が揺さぶられて力が抜ける。それはどんな生き物だろうと逃れられない。

 そうなればハンターにとってはチャンスとなる。すかさずその頭にグラビィトンハンマーを振り上げて殴り下ろし始める。

 体に回りこんだライムもまたヴァイパーバイトを斬りつけ始めた。その体はやはり飛竜だけあり、そしてガレオスに比べると固い。時折弾かれながらも何度も斬りつける。するとドスガレオスの体が突然痙攣し始めた。

 

「お、マヒったようだね。よくやった!」

 

 ドスガレオスは麻痺毒こそ持ってはいるが、自身が与えられる麻痺毒にはなぜか耐性がゆるい。めまいに加えて麻痺してしまうドスガレオスは完全にまな板の上の鯉のようだ。

 ただただ二人から攻撃を受け続けるかと思ったが、周りのガレオスがそれを許さない。

 

「ガァッ!」

「む?」

 

 横から飛び出してくるガレオスを感じたものの、またもやグラビィトンハンマーを振り上げていたため、後ろに下がることが出来ない状態にあった。

 

「同じ手は喰らわないってねッ!」

 

 ならば飛んでくる球へと打ち返すかのごとく、振り上げたグラビィトンハンマーを横へと振りかぶる。

 

「ご、がっ……!?」

 

 (ガレオス)はその衝撃に弾き返され、自身の推進力とグラビィトンハンマーの衝撃が加わって首の骨を折ってしまう。そして泡を吹いて絶命した。

 

「……っとと」

 

 勢いを付けすぎたのか多少よろめくが、何とか体勢を立て直した。

 

「……うわぁ」

 

 何とも有り得ない光景を見てしまった、とライムが気の抜けた声を漏らしてしまう。だが気を取り直して再びドスガレオスの体に攻撃を開始する。

 そんな彼の足元へと静かに迫ったガレオスが、突然飛び出して喰らい付こうとした。

 

「っ!」

 

 しかし多少は感じ取る力を身につけたのか、ライムはジャンプしてそれを回避する。そのまま盾を前にやってその頭へと殴りつけた。

 

「ガッ、ガァッ!?」

 

 頭を殴られてもガレオスは止まらない。体振るい、尻尾を使ってライムを振り落とそうとする。

 

「ライム!?」

「大丈夫です! 紅葉さんはそのままドスガレオスをお願いします!」

「オーケー!」

 

 うなずいた紅葉はグラビィトンハンマーを振り上げ、ドスガレオスへと殴りつける。

 

「ガ、ガッ、ガァッ!」

 

 いい加減無抵抗のままに殴られるのも限界のようだ。必至に首を振るって紅葉を振り払い、更に身を捻って追い払おうとした。

 

「っ、うわっ!?」

 

 それは体の側面に張り付いていたライムにも影響を及ぼす。次第に体の調子が戻り始め、麻痺から解放されたドスガレオスは大きく尻尾を振り払う。迫り来る巨大な鞭に、ライムはただ盾を使って防ぐしか出来ない。

 

「ぐ、はっ……」

 

 それを前にしては小さな人の体は大きく後ろに飛ばされるしかない。強い力によって打ち付けられ、盾から振動が伝わる。ようやく砂が近づいてきたと思えば、ごろごろと転がり続け、口から砂が入ってくる。

 

「ごほっごほっ……、く、さすがだ……」

 

 あれだけのダメージを与えながらもこれだけの力を持っている。人に比べて強大な力と生命力を持っている。

 だが戦いはやめられない。紅葉はまだ戦い続けている。恐らくこれは討伐戦に切り替わったのだろう。ならば自分はもう一度戻らないといけない。

 震える足に活を入れて立ち上がった。

 

「うああぁっ!」

 

 気を高ぶらせるように叫びながらドスガレオスへと接近していく。その時周りに複数の背びれが見えた。すかさずヴァイパーバイトの柄を口に咥え、ポーチから2個の音爆弾を取り出す。スイッチを押して同時に投げると、近づこうとしたガレオスたちが砂上に打ち上げられる。

 

「っ、はぁ」

 

 視界の端で確認すると、ヴァイパーバイトを再び構える。ドスガレオスの傍らにはまだガレオスがいた。首を伸ばして噛み付こうとするのを、走る勢いを殺さずに体を捻って回避し、足元を切り裂く。そのまま切り上げるように腕を動かしつつ、更に袈裟斬りを与える。

 

「ガァアア!? ガ、ガァァ……」

 

 最後に首元まで切り裂くと、そのガレオスは息絶える。

 

「はぁ、ごほ、ごほ……」

 

 息を整えるために落ち着いて呼吸すると、砂漠特有の熱い空気が入り込む。胸が熱くなって咳き込んでしまうが、まだ気を抜けない。すぐそこにドスガレオスがいる。

 顔は既にボロボロの状態であり、体もヴァイパーバイトによって複数の切り傷がある。それでも彼はこうして立っている。

 

「ガ、グ、ガガ……」

 

 息も絶え絶えだが纏われる雰囲気は戦意を残している。引くに引けないのだろう。

 

「はぁ、ふぅ……」

 

 そして紅葉も少し呼吸が乱れている。やはりどんなに怪力であっても、彼女は女性だ。砂漠という自然の猛威に加え、重量級のハンマーをあれだけ振り回しておいてまだ疲れていない、なんていうものならば、それはどんな化け物や超人だというのか。

 あんな風に凄い光景を見せられては少しだけ忘れそうになるが、彼女は人間で自分たちよりも少し年上の女性だ。

 種族の違いはあれど、自分たちとそう変わりない人なのだ。

 

「はぁ、はぁ……ライム、まだ戦える?」

「はぁ、はい。なんとか……」

「あっちももうヤバイようだから、もう少しだけ頑張りなさい」

「……はいっ!」

 

 何とか呼吸を整えて返事をする。

 

「ガァアッ!!」

 

 一声上げてそのまま飛び掛ってくる。その巨体を利用して押しつぶそうというのか。二人は同時に同じ方へと飛び出した。ズンッ! と砂が沈み込み、その重量を語っている。

 だがそれはチャンスでもある。起き上がる前に紅葉が体へと向かっていった。自身を回転させて何度も何度も腹を殴りつけ、そのまま横っ腹を殴り上げる。

 

「ご、が……!?」

 

 しかし今度は腹が砂に接しているため、最初のような威力は出せなかった。しかしその衝撃は相変わらず強く、その痛みに体が硬直する。

 その間に目の前にある首元へとライムが斬りかかっていく。

 

「せいっ、はっ!」

 

 振り下ろし、切り上げ、横薙ぎ、ととにかく切り続ける。まだまだ技量がない自分にはこれしかない。出来ることを精一杯やる。それが今の自分のやり方だ。

 

「ガァッ!」

 

 ドスガレオスが首を左右に振って振り払い、そして顔がライムの体へと伸びていく。

 

「くっ!」

 

 一歩引いてそれから逃れ、その頭を盾で殴りつけた。

 その一撃で怯んだところを逃さずに顎から切り上げ、そして鼻から切り下ろした。

 

「ガッ、ガァァア!?」

 

 顔は紅葉が振るったグラビィトンハンマーによってボロボロであり、ほとんど肉が見えていた。肉を斬られればそれは激痛に等しい。大きく首を振って痛みを振り払うようにしている。そして立ち上がり、一端砂に潜ろうと動き出した。

 

「逃がさないっての!」

 

 力を込めて腹の下へともぐりこみ、勢いをつけて振り上げる。

 

「グ、ガッ……!?」

 

 止まったところを更に追い討ちをかけるように、両足に当たるように体を回転させる。

 

「そぉらっ、転べぇえ!!」

 

 そのまま先ほど飛来したガレオスにしたように、遠心力が乗ったグラビィトンハンマーで横に振りかざした。

 

「グォォオ!?」

 

 骨が折れるような音がし、ドスガレオスが転倒する。

 

「決めなさい! ライム!」

「はい!」

 

 再び首に接近し、ヴァイパーバイトを振りかぶる。先ほどと同じ場所を狙い続けるとどんどん傷口が広がっていき、肉が見えてきた。紅葉はがら空きになっている腹へと何度も殴り続けており、そのたびドスガレオスの口から空気が抜ける音や血が吐き出されている。

 そして大きく振り上げたヴァイパーバイトを一気に振り下ろすと、首から大量の血が噴き出した。そのうちの一部がライムの顔に掛かる。

 

「が、が、がが……」

 

 そして大きく体が痙攣したドスガレオスは、静かに動かなくなった。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 血を拭うのを忘れてライムは荒い呼吸をしたまま動かなくなったドスガレオスを見つめる。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 そして今頃になって体が震えだし、ヴァイパーバイトを取り落としてしまう。そのまま砂にへたり込んでしまい、ぐっと砂を握り締めた。

 それだけじゃない。顔にかかった血の匂いがやけに強く感じ取れた。まるで感覚が鋭くなったような。疲れがたまっているせいなのか、それともまた別の何かの要因か。

 流れ落ちていく血の動きすらも鋭敏に感じ取れ、無意識にその血を舐めとろうと――

 

「――ふぅ、お疲れ様」

「……っ、はい。お疲れ様でした……」

 

 グラビィトンハンマーを背負った紅葉が近づいてきて優しくその肩をたたく。離れた場所ではガレオスたちが逃げていき、その奥からシアンと昴が近づいてきた。

 

「おつかれさまでしたー!」

 

 大きく手を振って近づいてくるシアンを見ると、紅葉は布を取り出してライムの頭に乗せる。

 

「ほら、顔の血を吹きなさい。そんな顔をシアンに見せられないでしょ」

「……そうですね」

「ま、よくやったわよ。恐怖を忘れるくらい熱くなってたみたいだし。大人しそうに見えて、なかなか熱い奴ってことね、ライムは。ともかく、よく頑張ったよ」

 

 どこかおもしろそうな声でそう言うと、軽く頭を撫でてシアンへと近づいていった。

 それに苦笑するライムの感覚は通常レベルに落ち着いていた。先ほどのは一体なんだったのだろう、と思いながら、渡された布で血をぬぐっていくのだった。

 

 そして剥ぎ取りを終えた昴たちは砂漠の出口で待っていた商隊と合流した。

 彼らは昴たちに多くのお礼と言葉をかけてくれる。それを聞いてライムは、両親の心境を感じたような気がした。

 ああ、あの人たちはいつもこんな風に言われていたのか、と。

 商隊の人たちは魔族のライムだろうと、ハンターに見えない小柄なシアンだろうと関係なく「ありがとう」と言ってくれる。感謝の言葉を言われていると、疲れを感じるのを忘れて胸が温かくなってくる。

 そして父親の言葉が思い出された。

 

『命を助け、助けられるというものに人種の違いなど関係ない』

 

 確かにそうだ。今この場所にそんな些細なことなど気にする人はいなかった。

 父親はハンターとして、そして人として誇りある道を進んでいた。

 ならば自分は父親のようなハンターになろう。

 ライムはそんな目標を掲げるのだった。

 

 

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