呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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110話

 

 

 先陣切って突撃していくハンター達を、テオ・テスカトルは迎え撃つように火炎放射を放って対応する。それをハンター達は炎に対する障壁を張るか、横へと跳んで回避していく。だが回避が遅れた者らはそれだけで体を焼き尽くされる。彼らもまた炎に対する耐性がある装備を着ているようだが、それ以上にあの業火が凄まじい。

 そんな業火を超えた先、赤い体へとハンター達が辿り着けば次々と武器を振るって奴の体へと傷を入れようとした。

 その重さにより敵を叩き斬る大剣の一撃。

 その切っ先で敵を刺し貫くランスの一撃。

 その破壊力で敵を叩き潰すハンマーの一撃。

 重量級、威力の高い武器を揃えたハンター達の初撃は――

 

「グルォォァァァッ!」

 

 ――テオ・テスカトルに軽度の傷しか与えなかった。

 その程度の攻撃を気にした様子もなく、群がるハンター達を振り払うようにテオ・テスカトルは右手を振りかぶって体を捻り、左側にいるハンター達へと叩き落とす。

 鋭い爪が迫り、ハンター達はすぐさま離れてそれを回避したが、体を纏う龍炎と翼から放たれた塵を纏ったその右腕は、空気中の摩擦を受けて轟々と燃え上がり、小さな爆発を連続して起こしながら地面に叩き落された。

 続けて体の右側にいたハンター達は体を捻ると同時に、振り回される尻尾によって遠ざける。尻尾もまた地面を先端が叩くにつれて纏われた粉塵が爆発し、数人をその爆風で吹き飛ばしてしまった。

 

「グルルルル……」

 

 唸り声を上げながら散っていくハンター達や、自分の動きを観察しているハンター達を見回し、テオ・テスカトルは大きく翼を広げてみせる。すると淡く光る小さな粒が空気中に舞い上がって広がっていく。

 

「粉塵だ!」

 

 ハンターの誰かがそう叫ぶと、警戒するようにハンター達は粉塵の動きを見守る。その中で粉塵の影響がないだろうと踏んだガンナーの何人かが、攻撃チャンスとばかりに攻撃を加え始める。

 通常弾、貫通弾、徹甲榴弾、拡散弾といった攻撃の弾から、麻痺弾や毒弾といった状態異常まで選り取り見取りの弾が様々な方角からテオ・テスカトルを襲い掛かるが、それでもテオ・テスカトルは粉塵をばら撒く事をやめない。

 ライムとシアンも離れた所からじっとその粉塵の動きを見つめ、その特徴を把握しようとする中、ついにテオ・テスカトルが起爆させるために牙を強く打ち鳴らす。

 瞬間、テオ・テスカトルから離れた所で様子を窺っていたもの達のところまで舞っていた粉塵までその刺激が伝わり、それらは順次爆発していく。

 それは安全だと思っていたハンター二人をも吹き飛ばし、負傷させてしまう。それに目を向ける事もなく、テオ・テスカトルは標的であるライムらへと向かって突進を開始する。その疾走速度はなかなかのものだが、獣のような外見をしているためその四足による疾走は正確に標的を狙い撃つ。

 

「く……、ふんっ!」

 

 桔梗が前に出てガンチャリオットとダークネスの盾を取り出してテオ・テスカトルの突進を正面から受け止め、ぐっと堪える。あらかじめ身体強化をしている事と、ガード性能が付いている事で何とか受け止める事が出来た。

 しかし全力を出しているというのに、じりじりと押され始めている。流石は古龍種という事か。自分の突進を止めてきた桔梗に僅かな驚きを見せたようだが、テオ・テスカトルは左右から斬りかかってきたクロムとセルシウスを感じ取る。動じず突進をやめて一度後ろへとバックステップした。

 その動きで二人はブレーキをかけつつテオ・テスカトルの動きを視線で追い、そこにハンターが数人追撃に向かう。頭を狙ったハンマー使いが一撃与えるも、その角がそれを受け止める。

 だがテオ・テスカトルはそれを力で弾き返し、そのハンターめがけて飛びかかって喰らいつく。

 

「ちぃっ……」

 

 ハンターは何とかそれを回避する事が出来、そこから離れていく。彼が付けた傷はそれほどでもない。硬い角は僅かに軋むだけだった。そんなテオ・テスカトルへとクロムとセルシウスは同時に閃剣を放ち、それはテオ・テスカトルに命中するが、あまり効いた様子がない。

 しかし攻撃自体は通用している。その閃剣はあの赤い鱗を切り裂き、血を滲ませているのだ。それによりテオ・テスカトルの意識は再びクロムらへと向けられ、周りのハンターもろとも焼き尽くす勢いでブレスを放出した。

 

Barrier(障壁).炎の守りを我らに!」

 

 すかさずライムが詠唱し、自分達を囲むように炎に対する障壁を張って防御する。鍛えられた事で魔法の効果も高まっており、その障壁の厚さや範囲の広さもなかなかのものだ。

 あのブレスを受け止めてしまう程に強い障壁に、テオ・テスカトルも多少の驚きを見せる。薙ぎ払ってもライムの障壁は広く張られている為にハンター達に届く事はない。

 ブレスを止めた瞬間再びクロムとセルシウスが前に出、それに続くように眼鏡を外した撫子と花梨が翼を広げて低空飛行を開始する。このチームの中での斬りこみ隊が一気に攻め立てる瞬間だった。

 それに続くようにシアンとライム、アルテミスも動き、桔梗もダークネスの盾をしまってガンチャリオットを取り出して動き出す。

 一方焔はサラに騎乗したまま辺りを見回し、ハンター達の動きを観察していた。テオ・テスカトルの強大さに恐怖を感じ始めた者が数名確認されるが、それでもハンター達は撤退する様子は見せない。

 自分達が退けばどうなるか、わかっているのだ。

 負けはすなわち、ヴェルド陥落……西シュレイド王国の壊滅である。

 ドンドルマの時も街とギルドの壊滅の危機が迫ったが、何とかハンター達の活躍によりそれは防ぐ事が出来た。

 あれだけの脅威もハンター達の力で乗り越える事が出来た。ならば自分達にもできないはずはない。それに西シュレイド王国が壊滅すれば、文字通り現在のシュレイド地方の国政はほぼ崩壊する。

 そうなれば、このシュレイド地方は再び諸国の領土争いで戦争になるやも知れない。それだけは避けたい。

 

「突貫! 我らの刃は全てを斬り裂く刃なり!」

 

 そう言って叫ぶ一人のハンター。金色・真シリーズに身を包むあのハンターを見たクロムはあれが誰か思いだし、「ほう……」と息をつく。マスターオデッセイとミストラル=ダオラを両手に構えて疾走する彼は「刀刃(とうじん)」のリーダー武蔵だ。

 その後ろには同じように双剣、片手剣の二刀流、太刀を構える男女が続き、テオ・テスカトルへと次々と斬りかかっていく。テオ・テスカトルが纏う龍炎をもろともせず一瞬で肉薄し、次々とテオ・テスカトルの体を刃が斬り裂く。

 彼らが持つG級クラスの武器ならばあの硬い鱗も傷をつける事が出来るだろう。しかも武蔵が持つ武器の一つは、G級に認定されるクシャルダオラの素材を使用して作られた一品だ。これならばテオ・テスカトルとて守りきれない。

 その認識は正しい。

 いくらテオ・テスカトルの体が硬かろうとも、それでも完全に刃を防ぎきれるものではない。一瞬で顔付近から尻尾付近まで辻斬りするように斬りつけながら通り過ぎ、テオ・テスカトルの反撃をやり過ごしつつもう一度斬りかかろうとしていく。

 だがそんな彼らの進路に突如赤い粒子が降り注ぎ、それに反応した武蔵が「退避!」と叫んだ瞬間、テオ・テスカトルが牙を討ち鳴らして粉塵爆発を起こす。

 完全に後ろに回っていたというのに彼らの進路にピンポイントに粉塵を向かわせる。その技量はやはりただのテオ・テスカトルではないことを考えさせる。

 更に続けて周囲に点々と粒子が濃く集まる地点を作り上げたテオ・テスカトルは、向かってくるクロムとセルシウスを迎撃するように飛びかかりながら噛みつき、それを横に跳ぶ事で回避する二人を薙ぐように尻尾を振るう。

 当然舞い散っている粒子が尻尾にも付着しており、振るうたびに摩擦による着火で小さな爆発が起こって周囲を吹き飛ばしていく。尻尾付近にいたセルシウスはローブを翻しつつ飛び越えてやり過ごし、腰元を閃剣で斬りつつ背後に回る。

 

「はあっ!」

 

 その尻尾を斬る勢いで閃剣を放つものの、その一撃だけで斬れるものではなかった。イャンガルルガの翼をも切断するセルシウスの閃剣だったが、それでもテオ・テスカトルに通用しない。

 よくて先ほど以上に深い傷をつけるだけだった。

 

「……グルル」

 

 背後から再び斬りかかられる事を悟ったテオ・テスカトルは、一度翼を羽ばたかせて舞い上がり、空中からブレスを薙ぎ払うように放出する。空に上がられては剣士に出来る事は攻撃から逃げる事か、離れて気刃を放つ事のみ。

 セルシウス達は無理に攻撃する事はなく、ここは一度撤退を選ぶ。その間に離れた所にいるガンナー達はテオ・テスカトルを撃ち落とすべく麻痺弾を選択して射出していく。

 更に弓を手にしている者もそれに続き、その他のハンター達も打ち上げタル爆弾をテオ・テスカトルに向けて一斉に射出した。

 その巨体故にそれらは全段命中するも、テオ・テスカトルは動じた様子はない。視線を巡らせてガンナーらを睨むと彼らへ向けて一気に出力を上げてブレスを放出した。

 ガンナー達は狙われたことに気づくと一斉に退避するが、中には魔法使いを横に置き、彼らに守りを任せて撃ち続ける者もいる。

 その戦う意志が実ったのか、突如テオ・テスカトルは地面に墜落し、体を痙攣させ始める。麻痺毒が体を巡って効果を表したのだ。

 これこそ好機。

 「刀刃」のメンバー、セルシウスとクロムが一気にテオ・テスカトルへと肉薄し、それぞれの場所で一気にダメージを稼ぐべく斬りかかる。頭には撫子が向かい、手にしたスイ【狼】で殴りかかり、クロムと花梨は大剣を構えて力を溜め始めた。

 

『ぐ、ぬおお……っ!』

 

 頭の中にテオ・テスカトルの苦々しい呻き声が聞こえてくるが、それでもクロムらは攻撃する。前足を叩き斬る大剣の一撃、尻尾を切り落とすべく振るわれる黒刀【参ノ型】、「刀刃」らの踊るような乱舞や翼を狙う太刀の舞。

 それを支援すべくガンナー達の遠距離攻撃。これらがかみ合った数秒間の総攻撃。ただただ己の武器を振るい、テオ・テスカトルの体力を奪おうとするが、やはりというべきか硬い鱗を斬り続けるだけで中にある肉はなかなか露出してこない。

 露出したのは力を溜めた一撃を発揮した大剣の攻撃。クロムと花梨のパワーで叩き斬られた部分はその一撃で鱗を破壊し、他の者らよりも若干強い勢いで血を噴き出させている。

 

「グ、ググ、グォォォ……ォォオオオオオオオッ!!」

「っ、退避、退避ぃぃい!!」

 

 麻痺毒の影響がなくなり、テオ・テスカトルが一吼えすると、ハンター達は一気にテオ・テスカトルから離れていく。だがテオ・テスカトルはまた翼を広げて粉塵をばら撒き、再び点々と粉塵が集まった地点を複数作り上げる。

 そのまま流れるように牙を打ち鳴らせば、先ほどしかけたものも合わせて同時に一斉に爆発を起こす。

 

「ちぃっ、罠型の粉塵設置って事か……!」

「こういう能力持っとるテオ・テスカトルはかなり上の領域やったはずや。少なくとも上位やあらへんで」

 

 あちこちで悲鳴が聞こえる中、クロムと花梨が並んで大剣を構えなおしつつそう分析する。通常テオ・テスカトルの粉塵爆発は粒子をばら撒いた後に爆発させるが、それは上から見ると自分を中心とした円形で爆発させる事が多い。

 こんな風にあちこち濃く集まる場所を作り、ランダムに仕掛けるという行動はしない。時にハンターを狙ったように粉塵を移動させる事もあるが、稀だ。

 

「グオオオオオオオオン!!」

 

 テオ・テスカトルが天を仰ぎながら咆哮すると、龍炎が勢いよく燃え上がりそのエネルギーを撒き散らして熱風が周囲に放たれる。むわっとするような熱気は周囲にいるハンター達の体力を削り、咆哮と共に放たれる殺気はハンター達の心を冒す。

 それで動きを止めてしまったハンターに視線を巡らせ、テオ・テスカトルはまた息を吸いこんでブレスを吐き出そうとしたが、そこにサラに騎乗した焔が動いた。

 

「飛べ! アルファ1から5!」

 

 広げられたローブから大タル爆弾が射出され、テオ・テスカトルの顔へと次々と着弾して爆発を起こしていく。例えテオ・テスカトルといえども顔面に爆弾をぶつけられてはたまらないらしい。

 唸り声を漏らしながら怯み、その隙を狙ってクロム達は次々と気刃を放っていく。その中にはようやく攻勢に出たシアンとアルテミスもおり、それぞれ封龍剣【超絶一門】と黒剣インセクトフェザーで気刃を放っている。

 

『舐めた真似を……!』

 

 爆弾の影響か、顔の鱗が少しひび割れている。そこを狙われ、少しずつ顔が血に濡れ始めている。ぐっと四肢に力を入れると、テオ・テスカトルはクロム達めがけて一気に飛びかかってきた。

 しかも足元から連続して粉塵爆発を起こし、その加速度を上げての飛びかかりだ。

 その速さに息を呑んだが、クロムと花梨がすぐさま動いてシアンとアルテミスをそれぞれ抱えて横へと逃げる。一瞬でも遅れればあの巨体に押しつぶされていたはず。それ程の速さにクロムと花梨は冷や汗をかいたが、テオ・テスカトルの攻撃は終わっていない。

 着地すると同時に素早く転進しながら跳び退り、逃げていくクロムを狙ってブレスを放出する。

 

Barrier(障壁). 炎の守りを我らに!」

 

 だがライムが障壁を張り、それを纏った桔梗がガンチャリオットの盾を構えてブレスを防ぐ。盾を超えて熱気を感じるが、桔梗はそれでもしっかりとあのブレスを防いでいた。

 ライムが張ってくれた障壁のおかげであり、ガンチャリオットの素材が銀火竜という事も相まって火に対する防御力が高い。ついでにいえばキリンSシリーズのスキルによって全属性の耐性が高まっている事も関係し、徹底的にこの戦いのために守りを考慮しているスタイルとなっている。

 

「飛べ! ベータ1から3!」

 

 その隙に回り込んだ焔が大タル爆弾Gを射出し、テオ・テスカトルへと奇襲を仕掛けると、アルテミスがそれに続いて黒剣インセクトフェザーを操りながら爆弾の影響で傷ついた部分を抉るように斬り刻んでいく。

 そこを狙ってシアンが封龍剣【超絶一門】で追撃する。内包されている高い龍属性はテオ・テスカトルにとって脅威。露出した肉へとその刃を食い込ませて切り裂けば、次々と血が噴き出して封龍剣【超絶一門】を少しずつ赤に染めていく。

 しかもその動きは実に流れるようで、どこか美しい舞を思わせるものだ。ただ通り過ぎながら斬るのではなく、よどみなく運ばれる足運びと、体を回転させながら的確に傷口を抉るべく踊るように刃を振るう動き。

 これがシアンの一つの完成系。

 小柄でスピードがあるシアンは一瞬で敵へと斬りかかり、そのまま攻撃を貰わず離れるヒット&アウェイが合っている。その戦法で彼女の戦い方を見出すならば、その足運びと体の使い方を生かした剣舞スタイルが候補の一つだった。

 舞い踊るような動きで敵を翻弄し、攻撃を全て躱しつつ敵を斬る。

 それは一つの舞の形であり、同時に一つの武の形でもある。

 人を惹きつける踊りであると同時に、人を斬る剣術なのだ。

 そこにいるのは一人の剣姫。修行の成果をいかんなく発揮する成長したハンターだ。

 だがテオ・テスカトルは逃さない。離れようとしていく二人へと尻尾を振り回し、追撃として爆発を起こすが、素早く横へと跳んでやり過ごした。地面を転がりながら背後で起こる爆発を回避し、アルテミスは何かを考えるように眉を潜める。

 

「……うん、こっちかな」

 

 呟きながら黒剣インセクトフェザーをローブへとしまうと、代わりに取り出したのは蛇槍【ヴリトラ】。蛇槍【ナーガ】を強化した上位のランスである。高い毒を内包したランスではあるが、切れ味的にあのテオ・テスカトルを貫く事は少し難しいだろう。

 しかし今アルテミスが装備しているデスギアSシリーズは心眼を発動させている。これは弾かれるような攻撃を繰り出したとしても、弾かれる事なく攻撃する事を可能とするスキルだ。

 弾かれると隙が大きい武器には相性がいい。そう、このランスにとってはいいスキルといえよう。

 蛇槍【ヴリトラ】を両手で構え、ぐるぐると回転させるアルテミスは隣にいるシアンに「毒、仕込んでいこうと思うんだけど付いてきてくれるかな?」と訊けば、「うん、いいよ」と屈託ない笑顔でシアンは頷く。

 そんな様子を見ていたライムは小さく微笑し、轟剣【虎眼】を構えたままテオ・テスカトルを見据えてイメージを固めていく。そうしている間にまた武蔵が果敢にテオ・テスカトルへと斬りかかっていく。

 しかも今度は両足にも魔力の刃を顕現させており、両手に構える剣に続くようにステップを刻みながら足でもテオ・テスカトルを斬っていき、素早く離れていく。

 まさに斬る事を主体とした戦闘スタイル。チームの名に偽りなし。

 ならば自分もそれに続こうではないか。

 頭の中にスイッチを作り上げ、そのつまみを捻ってやれば赤いランプがつくイメージを作り上げると、

 

詠唱固定(セット・スペル)。水×光。複合……収束。其は呑みこみ切り裂く浄化の水刃」

 

 そこまで詠唱すると同時につまみを更に回し、青いランプがつくイメージを作る。

 

「奔れ、(みずち)!」

 

 現実では引いた轟剣【虎眼】に強い水の力が纏われていき、十分にその力が一定以上高められた瞬間轟剣【虎眼】を勢いよく突き出す。すると切っ先から蛇の姿を形作った水が放たれ、牙を剥き蛇行しながらテオ・テスカトルへと一気に向かっていく。

 これはただの水ではなく、テオ・テスカトルの奥にある闇をも消し去らんとする光を混ぜ込んだものだ。

 

以下省略(リピート・スペル)!」

 

 そ告げれば再び轟剣【虎眼】に水の力が収束していき、ライムはそれを振るって再び蛟を放つ。それを繰り返していき、テオ・テスカトルへと攻撃を仕掛けていくが、テオ・テスカトルはライムへと睨みを利かせ、ライムへと向かうように疾走を開始する。

 その進路を防ぐように再び桔梗が縦を構えて割り込み、更に、

 

「強化、腕力、脚力!」

 

 自身を強化させて衝撃に備える。

 テオ・テスカトルの突進がガンチャリオットの盾に直撃し、ガード性能と自己強化によってそれを堪えきる。そのまま目の前にいるテオ・テスカトルの顔面めがけて引き金を引き絞る事で溜めていた射撃を放ち、反撃に出る。

 

「グオッ!?」

「まだまだ!」

 

 クイックリロードからの溜め射撃、もう一度クイックリロードして勢いよく振りおろしてからのフルバースト。それらが全てテオ・テスカトルの顔に直撃し、その硬い甲殻を少しずつ壊していき、後ろへと下がる。

 そこに入れ替わるように撫子が高速で現れ、その加速度を乗せた一撃をテオ・テスカトルの角へと叩きつけ、テオ・テスカトルを軽く眩暈状態へと陥れる。

 ふらついた四肢を支えようとしたテオ・テスカトルだったが、右側からシアンとアルテミスが、背後からセルシウスと武蔵が、左側からクロムと花梨が。更に離れた所からはガンナー達が。

 小さな好機すら逃さす彼らはすぐに攻勢に出る。

 相手は強大な敵だ。一瞬で自分達を殺す事が出来る力を持つ存在だ。だから接近して攻撃する自信がなければ、最初はただただ逃げ回り、好機を見つけたらそれを逃さず掴み取らなければならない。

 そうしなければ戦いにならない。自分達は傷を負わせる事が出来ない。

 それを彼らは悟ってしまったのだ。

 

「ォォォォオオオオオオオッ!!」

 

 だがテオ・テスカトルはそれを容易に覆してみせる。今まで以上に強い殺気を放ちながら咆哮を上げれば、それに乗って龍炎が轟々と燃え上がり、近づいていたハンター達を焼き始める。

 武器を振るっていた両腕、体の全面が龍炎に焼かれたことでクロム達は顔をしかめる。それだけではない。テオ・テスカトルの殺気と同時に強い風圧が発生し、離れたハンター達全てが強制的に吹き飛ばされてしまった。

 受け身も取れずにゴロゴロと転がるクロム達。そんな彼らを業火に包まれるテオ・テスカトルはギラギラと輝く金色の瞳で見回す。

 そんな風貌をハンター達はただがたがたと体を震わせながら見つめるしか出来ない。

 完全に呑み込まれてしまっている。

 あれはまさしく王。炎国の帝王だ。

 ただそこに在るだけで全てを平伏させかねない威圧感を持っている。殺気と共に放たれる威圧の気はハンター達の心に作用し、彼らの心をへし折っていく。

 だから気づかない。

 龍炎と共に舞い上がっている粉塵が静かに周囲にまき散らされている事に。

 気づけたのはライムだけ。

 魔法使いとして離れた所からテオ・テスカトルを見るだけでなく、その力の動きをも視ていたため気づく事が出来た。

 吹き飛ばされたハンター達を追うように粉塵が動いている事に気づいたライムは必死に声を張り上げる。

 

「粉塵が動いています! 追撃が来ます!」

「ッ!?」

 

 必死にクロムらへと呼びかければ、すぐに起き上ってその場から離れる。彼らはわかっているのだ。テオ・テスカトルは決して手を緩める事はしない。あのままその場に留まって呼吸を整えていれば、容赦なく粉塵爆発の餌食になる事を。

 それは当たっていた。

 突然テオ・テスカトルが牙を打ち鳴らすと、テオ・テスカトルから離れた周囲で次々と爆発が起こったのだ。

 

『遊びは終わりだ。もう十分抗ったろう。そろそろ眠るといい』

「……ちっ、殺る気が出てきたってか」

「…………生命力はまだまだ余裕、か。これじゃ埒があかないな」

「ふむ、貴殿は少し特殊な力を持っているのか?」

 

 クロムが舌打ちし、セルシウスがその真紅の瞳でテオ・テスカトルを視て生命力を計ると、いつの間にか近くにいた武蔵がそんな事を問う。彼の後ろには「刀刃」のメンバーが控え、それぞれ武器を構えなおしながらテオ・テスカトルの動きを油断なく見張っていた。

 しかし武蔵の問いかけにセルシウスは答えない。仕方ないのでクロムが「ま、ちょっとしたもんさ。相手がどれくらい傷ついているのか、が何となくわかるってやつよ」と答えると、武蔵はなるほどと頷く。

 

「それで、どうする? 見たところ、あれは怒り状態へと移行したと推測するが、貴殿らはどう動く?」

「そうだなぁ……今は防戦に回るしかねえ。下手に動けば一瞬で終わるだろうさ。攻勢は……ガンナーに任せる」

「ガンナー……あそこにいる『碧空(へきくう)』のダグラス殿などか」

 

 そう言いながら視線がある一点を見つめる。クロムとセルシウスもそれに続いて見やれば、そこには緑色の髪をし、テオ・テスカトルへと着実に狙撃を続けている一人の男がいた。

 彼の横には同じようにボウガンを手にするハンターがおり、粉塵爆発の影響を受けず攻撃を続けている。

 

「あれって……老山龍砲・極か? ガチじゃねえか」

「当然であろう。『碧空』のダグラス殿はあの老山龍砲・極を手に次々と飛竜らを葬ってきた凄腕のヘビィボウガン使い。あの一撃、流石のテオ・テスカトルといえども効かぬわけもないようだ」

「……しかも自動装填スキル付き、か。ガチもガチだな」

 

 セルシウスがそんな事を言いながらテオ・テスカトルへと視線を移す。通常弾といえども老山龍砲・極の火力はトップクラスであり、それから放たれる弾丸は凄まじい威力を誇る。

 その反面弾を装填する速度が遅いのが難点だが、それを自動装填スキルで補い、ダグラスは一種の固定砲台と化している。

 そこまで見えているセルシウスの視力もなかなかのものだが、テオ・テスカトルへと命中していく通常弾の群れは確実にテオ・テスカトルの体力を削っており、彼の意識をダグラスらへと向けた。

 

「そしてダグラス殿らは有翼種で構成されたガンナーチーム。狙われればその翼で移動する。翼を持つ者らの利点を生かしたチームというわけよ」

 

 狙われた瞬間ダグラスたちは翼を広げて素早くその場を離脱し、置き土産として空から拡散弾をばら撒いてテオ・テスカトルへとダメージを与えた。

 だが翼を持つのはテオ・テスカトルとて同じ。翼を広げて空へと舞い上がると、ダグラスらへとブレスを吐き出す。しかしテオ・テスカトルと比べて小さいダグラスらは高速機動を誇る。

 素早く移動してブレスから逃れ、やり過ごしていった。

 だがテオ・テスカトルの攻撃は終わらない。空から粒子を降り注がせてきたのだ。その事に気づいたライムが障壁を張るか風を起こして粒子を跳ね返すかを考えたが、すぐに障壁を張る事を選択して術式を構築していく。

 

「オオオオオオオオッ!」

 

 しかしテオ・テスカトルはそれを起爆させず、ライムを狙って急降下していき、その体へと喰らいつこうとした。その速さにライムは反応が遅れ、しかも術式を構築していたために少し無防備になってしまっていた。

 

「ちっ! 阿呆が!」

 

 反応できたセルシウスが黒刀【参ノ型】をしまってライムめがけて疾走し、その体をひっつかんで離脱しようとしたが、横から当たりに来たテオ・テスカトルに撥ねられてしまった。咄嗟に気で体を守って衝撃に備えたが、それでも空から急降下した衝撃は凄まじい。

 しかしそれでもライムを抱きかかえて彼を傷つけまいとしながら地面を滑り、数メートル離れた所でようやく止まる。

 

「ね、姉さん……!?」

「……けほ、油断、するな……阿呆」

「す、すみません…………っ!?」

 

 謝るライムだったが、すぐに自分達に向けられた殺気に反応し、先ほど構築した守りを周囲に展開した。それは二重、三重、四重と展開されていき、放出されたブレスを防いでくれる。

 だがそれでも押し返されそうな程に放たれたブレスの勢いは強い。冷や汗を流しながらライムは何とか障壁を張り続ける中、セルシウスは起き上って衝撃を受けた場所へと視線を落とす。

 シルバーソルシリーズの防御力と気の鎧で守ったはいいが、それでも当たり所が悪ければマズイ事になっていた。さすがは古龍といったところか。

 回復薬グレートを飲み、立ち上がったセルシウスは真紅の瞳を一瞬ぎらつかせ、ローブから得物を抜く。それは黒刀【参ノ型】ではなく龍刀【朧火】。高い龍属性を持つ蒼ラオシャンロンの素材で作られた太刀だ。

 

「そのまま障壁張っとけ。今から一矢報いる」

「はい!」

「――閃剣・斬空鷲(ざんくうしゅう)!」

 

 下段から素早く切り払われた剣閃はライムの障壁を突き抜け、ブレスを両断しながらその先にいるテオ・テスカトルへと届いて斬る。その反撃に息を呑むテオ・テスカトルへとハンター達が接近しようとしたが、いつの間にかテオ・テスカトルの周囲には濃く集まっている粉塵がある事に気づいた。

 好機と見た愚か者らを嘲笑うようにテオ・テスカトルは牙を打ち鳴らして起爆させ、空から降り注がせた粉塵にも伝達して一気に爆発を起こす。

 そんな中テオ・テスカトルは標的であるセルシウスとライムへと飛びかかっていく。足元が連続して爆発し、誰も寄せ付けないまま攻撃を仕掛けたが、そこをダグラス達が通常弾と徹甲榴弾を放ってテオ・テスカトルの頭を撃ち抜く。通常弾の衝撃と、徹甲榴弾の爆発の影響でテオ・テスカトルが空中で進路を強制的に変えさせた。更に徹甲榴弾の衝撃で眩暈状態へと落とされ、墜落するように二人の横で転がっていった。

 あの動きの中確実に中てていく腕前、やはり彼らは只者ではない。それに驚くライムの傍でセルシウスは再び気を溜めて龍刀【朧火】へと纏わせていき、テオ・テスカトルを斬る準備を進める。

 向こうではクロムと花梨が再びテオ・テスカトルへと接近しながら力を溜めており、撫子もスイ【狼】を構えて頭に回り込んで攻撃を仕掛けていく。

 だがライムは異変に気づく。

 テオ・テスカトルの中から静かに高められていく力があるのだ。それは翼にある粉塵へと集っていき、粉塵は静かに周囲へと散らばっていく。

 

「みなさんっ! 粉塵が! 粉塵がばら撒かれています!」

「な、なにぃ!?」

 

 倒れているテオ・テスカトルは何かしている様子はない。しかし視線を上げてみると、確かに何かが動いているような気配がする。目を凝らせばそれがテオ・テスカトルの粉塵である事に気づくだろう。

 だがライムが叫んだ瞬間、その量は急激に増加し、テオ・テスカトルの周囲に降り注ぎ始める。それが意味する事に気づいた瞬間、クロムらは急いでテオ・テスカトルから離れだす。

 ライムらが火の守りをするが、テオ・テスカトルは呻きながら確かに牙を打ち鳴らした。

 瞬間、今までの粉塵爆発以上の大きな爆発が発生し、テオ・テスカトルの周囲を容赦なく吹き飛ばしていく。

 

「うわあああああああああっ!?」

「くううぅぅっ!?」

 

 あちこちから悲鳴が聞こえ、爆発の煽りを受けて吹き飛んでいく。ライムの視界にいる者全てに炎の守りをかけたが、それでも守りきれたかどうか怪しい。炎に耐性がある花梨と撫子は何とか体勢を立て直しているようだが、クロムなどはそのまま吹き飛ばされている。

 いや、クロムは持ち前の身体能力を生かして何とか受け身を取れたようだ。しかしそれでも爆発の影響力はあるらしく、守りを突破してきた爆風がクロムを焼いている。

 

「かなりやばかったな……ありがとよ、ライム」

「いえ、守れてよかったです」

 

 テオ・テスカトルの周囲でハンター達が何とか起き上っていき、自分の負傷具合を確かめている。幸い致命傷になっている者はいないようだが、ライムの力が及ばなかった者も若干いたらしい。

 彼らに関しては花梨が咄嗟に張った障壁で守れたようだ。しかしライム程の力はないようだ。完全に守りきれていない。

 荒い息をつくクロムらをよそに、テオ・テスカトルはゆっくりと起き上ろうとしたが、そこにダグラス達が狙撃をしていき、焔も遠距離から爆弾ミサイルを放って攻撃していく。

 顔、体、足へと狙って放たれる弾丸と、焔の爆弾ミサイルは確実にテオ・テスカトルへと命中し、その鱗を傷つけていく。着実にダメージを稼いでいるようだが、それでもテオ・テスカトルはこうして立ち上がる。

 

『あれを耐えきるか……やはり優秀だな。……ならば、真っ先に貴様を潰すべきか』

 

 その金色の瞳がじっとライムを見据える。

 自分のブレス、粉塵爆発に対して高い守りの術を持つ彼を真っ先に潰せば、他の者達も容易に抹殺する事が出来るだろう。

 支援をする者から始末する事で戦いを容易に進める、それは定石の一つだ。自分が本格的に狙われる事を悟ったライムは、自分に向けられる殺気に竦み上がりそうになるが、さりげなくセルシウスがライムの前に立ってテオ・テスカトルの殺気を遮る。

 

「殺るっていうんなら、オレはそれを止めるだけ」

『……いい殺気だ。どこか心地よく感じるものよ。しかし……儂はまだ倒れぬ。貴様も抗っているようだが、まだ足りぬ。儂を殺すというならば、もっと優れた力を保有するのだな』

「…………ああ?」

 

 どこか挑発するような物言いに、セルシウスは目を細めながら不機嫌そうな声を漏らす。気のせいかこめかみがぴくぴくしていそうな表情をしており、放たれる殺気が鋭さを増していく。

 

「……挑発、挑発か。それに乗ってやる義理はないが……、いいか。どうやら貴様はオレらを、オレ達の血統を殺す」

 

 龍刀【朧火】を鞘に収めながらセルシウスはぎらりとテオ・テスカトルを睨み付ける。その瞳に宿る力はテオ・テスカトルを貫き、しかしテオ・テスカトルは動じない。堂々とした佇まいでセルシウスを見据えている。

 そんなテオ・テスカトルへとセルシウスは――

 

「――オレはそれを許さない!」

 

 一瞬だけ腕をぶれさせた。たったそれだけだったはずだが、その一瞬はテオ・テスカトルにとって想定外の事態を産む。

 

「――――ッ!?」

 

 龍属性の力を帯びたその閃剣は反応出来なかったテオ・テスカトルの片角を切断してしまった。あまりの速さで抜かれた龍刀【朧火】の一撃の鋭さだけではない、セルシウスの目によって暴かれたテオ・テスカトルの僅かな鱗の綻びなどの影響によって切断したのだ。

 あまりにも突然の出来事にテオ・テスカトルから凄まじい勢いで殺気が漏れて出る。

 

『貴様……!』

「おぉ、やるねえセルシィ。いい一撃だ」

「うむ、貴殿は素晴らしい腕を持っているようだ。我らも負けてはいられんな」

 

 クロムの言葉に武蔵も頷き、揃って笑みを浮かべながら武器を構える。しかも武蔵の両足には再び魔力の刃を顕現させており、四刀流が本気のスタイルのようだ。それだけではない。

 彼の気がマスターオデッセイとミストラル=ダオラに纏われていき、二つの剣に内包されている力がどんどん高まっていく。マスターオデッセイには水の気が、ミストラル=ダオラには氷の気が、凄まじい力を以ってして渦巻き、武蔵はじっとテオ・テスカトルを見据えて斬りこむタイミングを窺っている。

 クロムもまたペイルカイザーを構えなおし、武蔵と同じようにタイミングを見計らっていた。

 

『……よかろう。来るがいい。貴様らがどれだけ抗えるか見させてもらおう。白き死神、特に貴様にはこの角の礼をしなければならんようだしな……!』

 

 再びテオ・テスカトルを包み込むように龍炎が再び轟々と燃え上がり、熱風が殺気と共にクロム達へと襲い掛かっていく。しかしその殺気に抗い、クロムらは歯を食いしばって睨み返す。

 戦いはまだまだこれからだった。

 

 

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