その世界は実に簡単な理によって成り立っている。
広大な自然の中に存在するは人とモンスター。
様々な場所に生息し、自然に適応するように進化してきたモンスター。遥か昔より存在していた彼らは己の世界の中で暮らし、時に人の世界へと進出してきた。
対する人もまた長い時の中で生きてきた。人は歴史の中で大きく分けて三つの種族にわかれ、それぞれの歴史を紡いできた。人は己の世界を守るため、モンスターに対抗するための牙を磨き上げ、モンスターの驚異から守るための盾を作り、築き上げる。
モンスターと戦う者をハンターと呼び、ハンターは様々な思惑を持ってモンスターと戦い続ける。
曰く戦いを、曰く名声を。
様々なものを求めて彼らは戦いの場へと向かっていった。
それが幾度となく繰り返され、世界は動き続ける。
そしてハンターとモンスターの戦いは簡単にいえばこれに尽きる。
すなわち、狩るか、狩られるか。
それぞれ賭けるものは己の命。生き延びるために戦いを繰り広げること数百、数千を超えた長い時の中で行われてきたこと。
モンスターは進化によって己を高め続け、人は知恵と技術によって個々と集団を高め続ける。
今日もまたハンターは生きるために広大な自然へと足を踏み入れ、果てのない戦いの世界へと身を投じていく。
西シュレイド王国から南へ下ること数日。ココット山の麓にその村はあった。
ココット村。
かつて一角竜モノブロスをたった一人で討伐したというココットの英雄を村長とした村である。村でありながらなかなかの数のハンターが集まる。次なるココットの英雄になるものを夢見るものもいれば、村長に教えを請うもの。あるいは辺境のモンスターと戦うため、あるいは街へと向かう途中に身を休めるものなど、実に様々だ。
訪れるのはハンターだけではない。行商人や旅人もまた少なくない。そのため村は毎日それなりににぎわっていた。酒場では連日ハンターたちによって宴会に近いほどの騒々しさが続いており、彼らの武勇伝や情報を肴に酒を飲み交わしつつ料理を消費していく。
冬も終わり、花が咲き、命が活気づいてくる季節。
そんな酒場に二つの人影が訪れた。扉を開けて中に入ると、真っ直ぐに受付へと向かう。
「……あら、いらっしゃい。ライムにシアン」
「こんにちは。エレナさん」
「こんにちはー」
金髪のセミロングヘアーに赤い目をした受付嬢の一人であるエレナが、見事な笑顔で二人に挨拶した。
ライムと呼ばれたのが淡い緑の長髪をした少年。名をライム・ルシフェル。一見ハンターには見えない白い肌に穏やかな雰囲気を纏っており、明るめの青い目をしている。身を包むのは、小型の肉食竜であるランポスと呼ばれるモンスターを素材としたランポスシリーズの防具。腰に挿している武器は片手剣のサーベントバイトである。
ハンターナイフを強化していく過程で、ランポスの素材によって強化された片手剣で新米ハンターがよく使う武器だ。つまりは武器も防具も全てランポスを素材としていた。
そしてもう一人の少女。少し淡い水色のセミロングヘアーをツインテールにした少し小柄な少女が笑顔で佇んでいる。名をシアン・フリージア。翡翠の瞳はくりくりと大きく、穏やかなライムとは対照的に見た目も相まって活発で元気な子供の印象をしている。
身を包むのはバトルシリーズと呼ばれる防具。鉱石を使用しながらも軽量であり、こちらも初心者ハンターが愛用する代物だ。腰に挿しているのはチーフシックルと呼ばれる双剣。骨系統の双剣であるボーンシックルに、ランポスたちのリーダー種であるドスランポスの爪を使用して更なる強化を施した武器だ。
二人はこの村に幼い頃から暮らしており、親もまたハンターだった。親同士の付き合いもあって二人は幼馴染と言える関係にある。
だがライムの一家は普通の人間ではない。
ライムの耳は人間のものとは違い、細長く尖っている。
これは魔族と呼ばれる種族の証だ。
魔族とは人間や竜人族とはまた違った種族であり、最も自然に触れてあっている種族といえる存在といわれている。モンスターと同じく暮らす場所で独特の進化をしており、地域によって身体的特徴が変わっている。
ある一族は海の近くに暮らすことで水に適応し、指の間に水かきやヒレが生まれる。ある一族は高山に暮らすことで肺が強化されたり、脚力が強化されたりする。そしてある一族はモンスターの因子を血に取り込んでしまい、人に近しいモンスターの姿になったり、モンスターの力を内包することもある。
そして魔族は総じて人にはない力を持っていた。
自然とふれあい、共に過ごすことで自然に干渉する術を会得したのだ。自然に満ちる力を操り、火を起こしたり風を操ったりする術。人間たちは初めてそれを目の当たりにしたときは、神の力などと称し崇めたという。
これは魔法と呼ばれ、歴史書によれば遥か昔は魔族だけに扱える神秘の力とされた。しかし時が進むに連れて人間や竜人族の中でも才能が眠っている者、両種族と交わることで誕生した子供もまた魔法を習得したが、元祖である魔族よりも数段階力が落ちている。
だが人間の大半は魔法を扱うことは出来なくてもそれを道具や武器、防具に応用する技術を開発して人としての力を昇華させた。当時の人々はそれによってモンスターに対抗する力として振るっていたが、同時に人間同士の争いにも持ち込んでしまったという。
その結果が旧時代の崩壊を招いた要因とされた。現在時折見つかる古代の武器はその名残ともいえ、現在の技術では生み出すことの出来ないものとされている。
魔族の大半は過ぎた力をもたらしたことを後悔し、自ら姿をくらました術者も多い。それでも少数はまだ人々との交流を続けているが、自らの技術を伝えることはほぼなくなってしまった。
ルシフェル一家もまたそんな魔族の末裔であり、代々伝わる力をあまり広めることはなかった。その代わりハンターとして人々の暮らしを支える道を選んだようであり、ライムの両親も兄もハンターとして名をはせた。
しかし数年前に両親はあるモンスターとの戦いで命を落とし、兄のクロム・ルシフェルもまた行方不明となってしまった。ライムは行方不明となったクロムを探すため、あえてハンターの道を歩むことを選んだ。
華奢な見た目に違わず体を動かすことは苦手であり、どちらかというと術者や調合師としての人生が合っていたため、村長などが何度もハンターとなる事を止めた。
だがライムは諦めることはなく、体を鍛え続けた。そして数ヶ月前にハンターとして独り立ちをすることとなった。
そんなライムを支えるのが幼馴染であるシアン。シアンはライムより半年前にハンターとして活動をしていた。とはいえ経験でいえばまだまだ新米ハンターといえる。
最初のうちはそれぞれ一人で活動していたが、今日からはコンビとして活動することになっていた。
シアンの両親は村ではなくドンドルマと呼ばれる大陸の中心部の街で活動をしている。数年前から拠点を移すことで金銭を稼ぎ、仕送りとして幾らかシアンたちに送っている。そのおかげで今日まで生活していたが、これからはコンビとして活動するため自分たちで生活金を稼ぐと決めていた。
つまり今月で仕送りは終わる。これからは今まで以上に頑張っていくのだ。二人はコンビで狩りに行くということで緊張と興奮を感じていた。
エレナはそんな二人に微笑みかけて掲示板を示した。
「じゃあコンビで狩りに行く初戦のクエストを選んでね」
二人は頷くと壁にかけてある掲示板へと移動した。選ぶのは星が一つのクエストが妥当だろう。ライムはざっと目を通していく。
森のキノコ狩り、ランポス討伐、巨大昆虫駆除などなど、二人でも出来そうなものを探していく。一方シアンはというと……。
「ねえねえ、ライム。これなら結構稼げるよ!」
そう言いながら一つの依頼書を指差した。
何だろうと目を向けると、ライムは絶句する。
雌火竜リオレイア討伐。
「いやいやいや! 無理だから! 絶対に無理だからね! 僕ら死ぬよ!?」
「あっはっは! 冗談だよ、冗談」
雌火竜リオレイアといえば熟練ハンターだろうと気を抜けば死亡することもありえる飛竜種の一種。異名として『陸の女王』と呼ばれるほどの危険なモンスターであり、当然新米ハンターである二人が行けば、5分で、いや、下手をすれば一瞬で死んでしまうことは冗談でも何でもない未来として想像するに難しくない。
「こっちこっち。こっちなら何とかなるでしょ」
「……どれ?」
そこに張られているのは『怪鳥イャンクック討伐』と書かれた依頼書。
イャンクックといえば鳥竜種と呼ばれる飛竜であり、ほとんどのハンターが初めて飛竜に属するモンスターとして相対する存在だ。そのため所謂ハンターとして一人前になるための登竜門ともいわれる。
しかしシアンは何度か経験はあるがライムはまだイャンクックとは戦った経験はない。そのためライムは少しだけ顔をしかめる。そんなライムの肩をポンポンと叩いたシアンは笑顔で言う。
「大丈夫、大丈夫! わたしがついてるから! 二人で戦えば怖くないってね!」
「……うん、そうだね。でも村長がなんて言うか……」
ココットの英雄といわれた村長はハンターとしての力量を見る目を持っている。もし村長が止めたら、絶対にこのクエストは受けられない。ココット村を預かる村長である彼は、力量が足りないハンターをむざむざ死地へと送り込むような真似はしない。
ライムがハンターとして認められるまでは長い時間を有したことからもわかる。自分を鍛え続け、何度も何度も村長に頼み込むこと数十回。新米ハンターになるには問題ないほどの体になって初めて認められたときは、ライムは声にならない涙を流したものだ。
そんな村長が果たしてイャンクックと戦うことを認めるのか。
そんな風に悩んでいる間にシアンはその依頼書を取ると村長へと持っていった。
「ちょ、シアン!?」
「そんちょーそんちょー。わたしたち、初戦はこれで行こうと思うんだけど?」
クエストカウンターに腰掛けている小さな老人。キセルをふかしながらシアンが持ってきた依頼書を見つめる彼こそが村長である。今でこそ年老いて現役を退いているものの、纏っている雰囲気は只者ではないことがわかる。
「……イャンクックか。お主らがのぅ」
眉に隠れた目をライムとシアン、交互に見つめる。
「わたしは経験あるし、ライムもアイテムを使う技量はあるよ。わたしたちが力を合わせれば問題ないと思うな」
「まぁ、シアンのいうことも一理あるが、それでもまだ心配じゃの」
「え~?」
頬を膨らますシアンだが、村長が言うならばそうなのだろう。まだ危険だと思われるならば村長の権限でクエストを受ける許可は下りない。
「だが、あと一人付けるならば認めてやらんこともない」
「え? ホント?」
顔を上げるシアンに小さく頷くと、村長は酒場を見渡した。酒場には数十人のハンターがそれぞれ自由に過ごしている。だが一人でいるハンターなどほぼいないといってもいい。ほとんどのハンターは既にチームを組んでおり、そのチームで行動しているのだろう。だから一人だけ借りる、なんてことなど出来ないだろう。
それがわかったのかシアンがまたむくれる。
「無理でしょ」
「いいや、一人だけいるぞ」
手にしたキセルがある一角を示した。シアンとライムがその方へと目を向けると、酒場の隅で一人で飲んでいるハンターがいた。
「おい、月。ちょっと来てくれるかの」
「……」
月、と呼ばれたハンターが顔を上げると、立ち上がってこちらに近づいてきた。
それは長身の女性だった。平均的な身長をしているライムよりも少し上くらいの高さをしている。深い蒼に染まった長髪は腰元まで届いており、少し切れ長な蒼い瞳が二人を見下ろしている。加えてその耳は竜人族の特徴である短く尖った耳があった。
身を包んでいるのは蒼火竜とよばれるリオレウス亜種の素材を使ったリオソウルシリーズだった。数が少なく、原種よりも強いとされるリオレウス亜種のシリーズを身につけているというだけで、この女性の実力がわかるというものだ。
「月。この新米二人についていってくれんかの?」
「……ふむ、クエストは?」
村長が無言で依頼書を手渡すと、月はその依頼書に目を落とす。そして小さく頷くと少しだけ柔らかく微笑した。
「いいよ。私でいいなら一緒に行こう」
「え? ホントに?」
「よろしいのですか?」
パッと喜ぶシアンに、少し申し訳なさそうな顔をするライムを見つめながらもう一度うなずいた。
「構わないよ。あと、私は報酬は要らない。素材も賞金も君たちが持っていっていい」
「い、いや、そこまでは……」
「その代わり村長、黄金芋酒の無料を4日分よろしく頼むよ」
依頼書を村長に返しながら月が微笑しながら注文する。村長は少し考えて指を2本立てた。
「2日じゃ」
「……2日か。では間を取って3日で」
「…………」
「…………」
村長と月の視線が交差する。その間でオロオロするライムと、シアンもまた村長を見つめて呑んでくれ、といった顔をしている。
少しして村長は依頼書を取り、エレナへと手渡した。
「いいじゃろう。黄金芋酒、安くはないんじゃがのう……。よい、3日で手を打とう。おいベッキー! それで頼む」
「はい、かしこまいりました」
厨房の方からそんな声が聞こえてきた。間を置いて茶髪をした少女がにこやかに現れる。
「さっそく黄金芋酒の手配をしておきますね」
「うむ。支払いは儂の金でいい」
「あの、なんていうか……すみません」
ライムが本当に申し訳なさそうな顔をして村長に頭を下げた。だが村長はキセルをふかして低く笑う。
「構わんよ。これは言うなればお主の未来への投資じゃ。お主の家族はハンターとして素晴らしい実力を持っていた。それに対してお主はハンターとしてはまだまだ未熟じゃし、本当にハンターに向いているかなど不明な点はある。じゃがハンターとしてやっていく覚悟がある。ならば、この先大成する可能性もあるのじゃ」
天井へと煙を吐き出しながらキセルの先をライムへと突きつけた。
「じゃからお主の未来に投資する。じゃからこのクエスト、頑張って達成することじゃ。月がついとるから死ぬことはありゃせん。じゃが基本はお主とシアン、二人でやれ。月はただ近くにおるだけ。それでよいな?」
「ああ、了承した。二人に経験を積ませようってわけだね?」
「そうじゃ。どうしても無理だと月が判断すれば介入しても構わん。それまでは二人で戦う。それでパーティで戦う経験を積め。よいな、お主ら?」
「わかりました」
「オーケー、そんちょー」
うなずくライムと敬礼するシアンを見て村長はうなずき、エレナが依頼書に手続きを済ませた。
「はい、ここに名前を書いてね」
ペンと依頼書をカウンターに置く。ライム、シアンと名前を書くと月もまた名前を書いた。しかしその文字は二人が知る文字ではなかった。
「……東方文字?」
ライムが少し驚いた顔でその名前を見つめる。ペンを置いて月が微笑し、その名前をなぞっていく。
「ああ、そうだね。私は東方の出身でね。これで神倉月、と呼ぶのさ」
「カミクラ・ツキ……。あれ? どこかで聞いたことがあるような?」
首を傾げるライムだったが、シアンがポンポンと肩を叩く。
「家に帰って準備しないと」
「あ、ああ。そうだね」
「では村の北口で落ち合うとしよう。それでいいかな?」
「はい。それでお願いします」
「了承した。ではまた後で」
微笑して出口を潜って宿泊していると思われるところへと帰っていった。それを見送って二人もまた自宅へと戻るのだった。
数分後準備を終えた二人は北口へと向かう。一見先ほどと外見が変わっていないように思えるが、実際には荷物が増えている。
北口にはすでにアプトノスと荷車、そして月が待機していた。先ほどとは違って蒼いローブが纏われている。二人に気づくとにこやかに小さく手を振ってきた。
「お待たせしてすみません」
「いや、構わないさ。準備は整ったのかい?」
「はい」
「大丈夫だよ」
「……なるほど、君たちも持っているのか」
腰に下げているポーチやバックを見つめて納得したようにうなずく月。
3人は荷車に乗ってクエストのフィールドであるヴェルカ森丘へと向かうこととなった。
ココット村から南東へ数時間に位置するその場所は気候も穏やかで、アプトノスやランポスが多く生息している。ココット村の新米ハンターが利用する場所として適しており、村の多くのクエストがここで行われている。
アプトノスの手綱を操っている月を見つめてライムは首を傾げていた。先ほど酒場で見た彼女の名前。どうにも記憶の端に引っかかっており、なぜか思い出せない。
まるで小骨が喉に刺さったようにもどかしい感覚がライムを包み込んでいた。そんなライムを見てどこか不機嫌な顔をしているシアンがじっとライムの目を見つめる。
「ねえねえ、さっきからどしたの?」
「ん~ちょっとね」
「月さんのこと?」
「おや? 私のことかい?」
肩越しに振り返って月がライムを見つめる。そんな彼女にうなずいて口元に指を当てつつこのもどかしさについて問いかける。
「ええ。月さんのことをどこかで聞いたことがある気がしまして……もしかして有名なハンターだったりしますか?」
「まあ、そうかもしれないね。私はそれなりに有名らしいからね」
苦笑しながら言葉を続ける。
「いったい誰が付けたのか、私のことを『蒼天の戦乙女』なんて呼ぶ人が出てきたんだよ」
「…………あ、ああ! そうだよ! 『蒼天の戦乙女』!」
月を見つめてかなり興奮したように彼女のことを話しだす。
「ハンターとしての実力もさながら、魔法の実力もあるというハンター。そして上から下まで蒼で統一され、さながら彼女は遥かなる高みに存在する生ける伝説のようだ、と例えられた有名ハンターだよ!」
「……え? そんなにすごい人だったの?」
さすがにシアンも呆然として月を見つめるが、彼女は苦笑したままだ。
「いやいや、私はそんなに大層なハンターじゃないさ。私としては不本意な異名だよ」
謙遜しているように見えるが、本当にそう思っているといった雰囲気が感じられる。なにか昔にあったのだろうと思い、ライムはこれ以上突っ込むことをやめることにした。
「まあ私としてはある目的を持って行動していてね。ココット村には昔の知人である村長に会いに来ただけさ。クエストをしに来た、というわけではないのだけどね。だから本来のランクからかなり落としているこんな装備で過ごしているのさ。でも、ちょっと体を動かしたい気持ちもあったから今回のクエストは丁度いい」
そう言ってまたあの穏やかな微笑みを浮かべた。
「とはいえ、メインは君たちの経験積みのようだけどね。ふふ」
その気さくさと友好的な態度は生ける伝説に例えられるような屈強なハンターには見えなかった。そんな彼女を見て二人はどこかリラックスしていく感覚を覚えた。
同時刻、ヒンメルン山脈を歩く影が二つ。この山を越えればココット山へと出られ、その麓に二人の目的地がある。
片や黒いローブを、片や赤いローブを纏っている。その手には杖があり、バランスをとりながら山を降りていた。
「この調子なら今日中にはココット村に着けそうだな」
黒いローブを纏っている人物から若い少年の声がした。それに応えるのが後ろについている赤いローブを纏っている人物。そこからは若い少女の声がする。
「情報、手に入るといいわね」
「そうだな。もし手に入らなくても、また別の場所に行けばいい。そうやって追い求めていけば、いずれは奴に辿り着けるんだからな」
滑り落ちそうなほど足場の悪い山道を、杖を使って慎重に降りていく二人。ここでモンスターに遭遇しようものならまさに命の危険に晒される。だから山道だけでなく周りにも気を配っていた。
「……っと、ここ、気をつけろよ」
「ありがと」
時折少年が注意すべき場所を呼びかけ、後ろにいる少女に気を使う。少女はどこか嬉しそうに礼を言いつつ、それを越えていく。そうやって進みながら、二人は着実にココット村を目指していた。