二人が先ほどまでいた場所はエリア10であり、エリア7から南西に位置する洞窟である。洞窟から出てエリア7に戻ると空は茜色で日も暮れかかっている。
思った以上に時間が過ぎていたようだ。気絶したのは何時間ぐらいだろうか。
「……だいたい2時間でしょうか」
2時間とはこれはまたなかなか長い時間眠っていたようだ。
ただみぞおちを殴られたからだけじゃない。左肩の傷の痛みと戦闘による疲れも加わったのかもしれない。
そろそろ気温も低下してくる頃だろう。そして夜になればあの体だ。赤い模様でまだ何とかなるかもしれないが、見えづらくなってしまう。
ふと、ペイントの匂いが漂っていることに気づいた。
「ペイントしたのか?」
「……一応ですが」
あの状況で後に姿を消そうとも考えていたのにペイントをしておいてくれるとは。なかなかいい仕事をしてくれる。
「……あくまで一応です。アタシとしては本当に戦おうなんて思いもしませんでしたが。……というか、逃げ出す際に使えるかとも思っただけですんで」
そう言いながらそっぽ向く。
そんな優羅の弁解に昴が思わず苦笑する。
10年ぶりに再会した優羅は思った以上に変わっている。あの頃は大人しく周りを窺うような仕草ばかりしていた。人前にあまり出ず、昴や紅葉以外の人にはあまり関わろうとしなかった。
そして話すことも少なく、主に紅葉がリードしていくように話をするくらいだった。それに加えてほぼぼそぼそとしたような大きさで喋る。
性格とその話し方のせいで仲のいい友人に恵まれず、孤立していたところを紅葉が連れてきて交流が始まったのである。
それが今ではどうだ。
それなりに会話が出来る。顔色を窺うような様子はない。話を吹っかければそれなりに答えてくれるようになっている。それに対しては嬉しく思う。
しかしその目には感情が見えない。自信の感情を覆い隠す仮面をつけているのだろう。人を苦手としていた娘は、今ではこうして人と関わらない孤高の存在となったようだ。
一人で生きていくのが慣れてしまったようで、人と関わる必要性を感じなくなったのだろう。それに関して昴は悲しく思っていた。
「……」
だが今だけはこうして組んでくれている。恐らく彼女にとってこれが初めての複数人での狩りなのかもしれない。そして昴にとっては初めての後方支援つきの狩りでもある。
お互いが初めての狩り。
コンビネーションは期待しない。だがお互いが出来ることをやっていこう、という方向で進めることにした。
優羅がつけたペイントボールの匂いは隣のエリア3方面から匂ってくる。とりあえずそちらへと進んでみることにする。
長い道を進んでいくと、奥のほうに狂ディアブロスが見える。そして周りにはゲネポスの死体が転がっていた。
体を貫かれたもの。
引き裂かれたもの。
有り得ない方向に体が曲がっているもの……実に様々だ。
そしてその前にはドスゲネポス、周りには複数のゲネポスの生き残りがいる。
恐らくドスゲネポスの群れに突っ込んでいったのだろう。両目が潰されているから音を頼りに敵へと突っ込んでいった、といったところだろうか。
「ブルォォォァァアアアアア!!!」
その咆哮にゲネポスたちがすくみ上がる。ドスゲネポスもまた恐怖に顔を歪ませている。
「ギ、ギギ……」
「ブルァァアアアア!!」
わずかに漏れた声を感じ取り、狂ディアブロスが尻尾を振り回す。それに巻き込まれてゲネポスが吹き飛ばされ、岩山に打ち付けられて絶命した。
「ゴルァ、ブルァアアア!!」
さらに前にいるドスゲネポスへと角を振り回す。震える体を無理やり動かしてそれから逃れ、止まったところを飛び掛る。目が見えていないなら顔は有効だろうと野生のカンが働いたのだろうか。
リーダーであるドスゲネポスが動いたところでゲネポスたちも行動を開始した。その体に群がって何度も噛み付いていく。麻痺毒を打ち込んで動きを止めようと言う魂胆だろうか。だがそれでも狂ディアブロスは止まらない。
「ゴルァァアア!! ブルォォォオオ!!」
群がるゲネポスたちを振り払うように体を振り回す。回転して纏わり付くゲネポスを引き剥がし、尻尾を振り回して薙ぎ払う。顔に張り付いていたドスゲネポスは首を動かして振り払い、そして片角を突き立てるように動かした。
「ギョルァッ!?」
先端こそ当たっていないが、太い角の側面だけでも攻撃なりえる。振り回した拍子に角に打ち付けられてドスゲネポスの体が吹き飛んだ。
「ギャウッ!?」
体が宙を舞い、そのまま離れた場所で転がされる。しかしすかさず立ち上がり、威嚇するように身を低くする。
「ギュルル……。ギョルァ! ギャルァ!」
周りのゲネポスたちに指示を出すように叫ぶと、周りのゲネポスたちもそれぞれ声を上げる。周りから声をかけてその数をごまかそうというのか。
目が見えていない今、狂ディアブロスの状況把握の頼りは音と匂いだけだ。匂いは体に付けられたペイントである程度遮られているだろう。
しかし今、ゲネポスたちによって音までかき乱されている。
そんなことをすればどうなるか……。
「グルル……、すぅー……」
「ま、まずい……!」
慌てて氷を耳につけて耳栓をしつつ、両手で耳を塞ぐ。ガルルガシリーズを装備し、装飾品をつけている優羅もまた狂ディアブロスの行動で把握したのか、慌てて耳を塞ぐ。
「ブルァァァアアアアアアアァァアアアアアアアアアア!!!!」
今まで以上の大音量。一体どこからそんな声を出しているのだろうか。その声による衝撃は衝撃波を生み出し、足元付近に群がっていたゲネポスたちが耳から血を噴き出し、泡を吹いて気絶した。
また離れた場所にいるゲネポスやドスゲネポスは耳をやられたのかよろめき始めている。
狂化している今、あのディアブロスに更なる苦痛を与えれば更に怒りが高まるのは必至。案の定暴れだし始めた。足元にいたゲネポスは踏み潰され、周りにいるものも尻尾に薙ぎ払われている。そしてドスゲネポスの位置も特定され、その体が角によって貫かれてしまった。
「ぎ、が、がが……」
「ゴルァァアアアア!!!」
そのまま体を持ち上げ、勢いをつけて顔を振り上げる。体に空けられた風穴から鮮血が宙を舞い、そして死体が地面に無残に転がる。その死体を踏み潰し、狂ディアブロスは勢いよく翼を広げた。
「ブルァァアアアアア!!!」
戦いの終わりを告げる咆哮。ドスゲネポスの群れはここに壊滅した。
そして離れた場所で傍観していた二人は今の戦いの事を思い出しながら相談を開始する。
「視界が閉ざされようが、発達している耳を使って音で居場所を特定、か」
「……なかなかやっかいですが、どうするんです?」
昴は口元に指を当てて考え始める。
狂ディアブロスはゲネポスにあれだけ噛まれていたのに麻痺することはなかった。狂化しているからか、と考えるがそうではないだろうと思い至る。
元々ディアブロス種は状態異常に耐性がある種類だ。狂化することでさらに耐性がついた、と考えれば、麻痺毒が蓄積している今がチャンスじゃないかと考える。
「優羅」
「……なんです?」
「状態異常の弾が撃てるボウガンは持っているのか?」
「……まあ、持ってますが。それなりに種類は揃えてるんで」
ならばいい、と昴がうなずいた。しかしボウガンはあっても弾はあるのだろうか、と考えると優羅は既にローブの中に手を入れていた。
取り出したのは蒼と桜色の甲殻を使用しているライトボウガン。
蒼桜の対弩。リオレウス亜種である蒼火竜と、リオレイア亜種である桜火竜の素材を使用したライトボウガンだ。それぞれ単体で素材を使用したライトボウガンの特徴を併せ持つライトボウガンであり、亜種を使用しているせいか価値が高い武器でもある。
更にポーチからいくつかの四角形の欠片を取り出した。それをマントから取り出したベルトらしきところに固定し、左腕の裏側に固定させた。
欠片の一つを叩くと小さな穴から弾が射出され、それを掴んで蒼桜の対弩へと装填する。
この欠片は空間収容術と圧縮収容術を施した欠片で、主にボウガンを使用するハンターに利用されている。ベルトに固定し、そのベルトは体のどこかへと固定させる。欠片に刺激を与えると収容した弾が射出し、すぐに装填するという時間短縮を図ったものだ。
一々ポケットから取り出す手間を省かれたことで、開発されてからガンナーに普及され、隙がなくなったことである程度狩りを進めるのが楽になったと声が上がっている。しかしやはりというべきか、二つの魔法を使用しているため高級品というのがネックか。
ローブにこの装備を持っていることから見ると、優羅は思った以上に稼いでいるようだった。
「……麻痺弾、準備完了しました」
「そうか」
「……一応大タル爆弾もありますが?」
「……ほう」
昴は大タル爆弾を持ち込んでいないので、その一撃があるなら大いに助かる。
「……もちろん、毒弾、睡眠弾も完備しています」
「…………」
ローブがあるという利点があるせいなのか、それとも何も言わなくてもどんどん有効打を挙げてくれる優羅が優秀なのか。
というか、優羅はなかなかに気配り上手じゃないか、と思い始めてきた。洞窟の一件でも無言でこんがり肉Gなどを渡してくれたし、ペイントボールも当ててくれた。
何気に支えてくれる人だ、と思う。これも昔と比べていい方向へと変化したことだ。
「ならば……」
順序を立てて行動することにする。それを伝えると、優羅がうなずいてサイレンサーをつける。
スコープを使わずに狙いを定めると、ためらいなく引き金を引いた。
「おいおい……」
ガンナーはほとんどスコープを覗いて撃つのだが、優羅はただ銃口を狂ディアブロスへと向けただけで引き金を引いた。
だがそれは狂ディアブロスの首元へと着弾する。
「ゴル……?」
首元に感じた違和感に狂ディアブロスが辺りを警戒し始めた。視界が奪われているので音で判断しようとしている。
動き始めた狂ディアブロスに動じず、微かに銃口を動かしながら引き金を二回引く。それは動いているはずの狂ディアブロスの首元に連続して着弾した。
ディアブロスの弾での弱点部位は尾、次いで首だ。あれだけの距離が離れているのに、優羅は狙いを外さずに3連続も当てている。
それが当然といわんばかりに無表情で追加の麻痺弾Lv1を取り出し、慣れた手つきでさっと装填する。再び銃口を向けると歩き始めている狂ディアブロスへ追尾するように動かし、そして引き金を引いた。それはまたもや外さず、まるでそこに向かうのが当然というように首元へと吸い込まれていく。
「…………」
思わず優羅を見つめてしまう。だが優羅は視線を外さずに引き金を引く。
いったい優羅には何が見えているのだろうか。驚くべき視力と胆力だ。普通距離が離れれば離れるほど慎重になり、手が震えることもあれば精神が擦り切れるような感覚に襲われると聞いたことがある。
新たな弾を補充しつつ優羅が狙いを定め、そして狙撃。
「グ、グルォォオオ!?」
その瞬間、狂ディアブロスの体が痙攣し始めた。どうやら麻痺したらしい。
「よし!」
それを確認した瞬間、垂れ下がっている尻尾へと昴が疾走する。今こそ尻尾を切断するチャンスだ。
一方優羅は麻痺弾Lv1から別の弾へと切り替える。それを装填し、再び首元へと狙撃をしていく。
「ふんっ、ふんっ!」
これを落とせばまた有利になる。先ほど斬りつけた場所を見つけて何度も何度も斬りつけていく。横目で見れば、また首元へと見事に狙撃していた。ディアブロスの時点で麻痺毒には耐性があるので、狂化している今も麻痺している時間は短いだろう。その間が勝負だ。
「切れろ、切れろ……!」
思わずそんな願いが口から漏れてしまう。そしてその願いが通じたのか、勢いよく振り下ろした白猿薙【ドド】が弾かれずに尻尾の肉を切り裂いた。
「ゴァァアアアア!?」
尻尾を切断されたことで狂ディアブロスが痛みにもがきだした。体を何度も捻り、痛みから逃れようとしている。
「ゴルァァアアアアア!!」
その顔が昴へと向けられる。そしてその顔にはどこか別の色合いが浮かび始めている。また一つ、狙撃によって弾が着弾すると、狂ディアブロスの声色に苦しみが混ざり始める。
「……毒ったな」
優羅が今まで撃っていたのは毒弾Lv1とLv2。文字通り相手を毒にする効果を秘めた弾だ。そしてまた別の弾が着弾し始める。
「ゴルァァ……!」
いい加減飛来してくる弾に我慢できなくなったのか、飛来する方へと顔を向ける。だがその時にはまた別の方から弾が着弾してくる。見ればあの場所から移動しつつ狙いを定め、隙が出来れば引き金を引いている。
「ゴルァ、ブルァアア!?」
どこだ、という風に辺りをきょろきょろしはじめる。その間に昴が静かに近寄っていき、胸から足へと斬りかかった。
「ブル……!?」
敵は足元か、と狂ディアブロスの顔が昴へと向けられる。だがその曲げられた首に弾が着弾し、ゆっくりとその動きが鈍っていく。
「グ、グルォォ……」
追い討ちをかけるようにまた一つ着弾すると、その体がゆっくりと地面に倒れる。そのまま寝息を立て始めた。
「眠ったか」
白猿薙【ドド】を背に戻し、優羅へとうなずく。優羅は蒼桜の対弩を仕舞って近づいてくる。そしてローブの中に手を入れてゆっくりとその顔近くに大タル爆弾を二つ設置した。
だが気のせいか大タル爆弾にしては巨大だ。
「……おい」
「……はい?」
「まさかとは思うが、Gじゃないだろうな?」
「……そうですが、なにか問題でも?」
「…………」
いや、問題はないのだが。まさかGを取り出してくるとは思っていなかったのだろう。
大タル爆弾G。Gとはグレートのことだ。Gがついたことで、その名に反せず威力は折り紙つきであり、またタルの大きさもでかくなっている。
威力を取るならGなのだが、というか昴としてはその方が喜ばしい。しかしいいのだろうか、と視線を向けると優羅は無表情なままうなずいた。
「……別に構いませんよ。後のためにとっておくより、使うべきところで使った方がいいんですから」
その言葉には一理あるので昴はうなずいた。
Gだけあって爆風も凄まじいので充分に距離を取ると、優羅が再び蒼桜の対弩を取り出して弾を装填する。大タル爆弾Gへと銃口を向けると発砲した。
刺激に反応してそれが爆発を起こす。
「ゴアアアァァァアアアア!?」
それはまさしく大爆発。
眠りによって体の緊張が解けている今、その爆発によって与えられたダメージは凄まじいことだろう。爆風の中から残された片角が宙を舞った。鈍い振動を立ててそれが地面に転がる。これで角竜の象徴である角は両方失った。
両目、両角、尻尾と失われた狂ディアブロスは今も爆風の中。
はたしてこれで倒れてくれるのだろうか。
「……グルル」
だが爆風の中からそんな声が聞こえてくる。大きな影がゆっくりと揺らめき、そのまま地面を掘るような音が聞こえてきた。しばらくしてそれは完全に沈み、どこかへと移動していく。
「……逃げた?」
優羅がそんなことを呟いた。
だが狂化しているあのディアブロスが逃げる、を選択するとも思えない。一時的な撤退だろう。あれだけの爆風に包まれたのだ。一端退いて態勢を立て直す、といったところと予想する。
少ししてペイントの匂いがエリア7方面から漂ってくる。どうやら決戦はあそこになりそうだ。
移動する前に転がっている尻尾と片角を回収しておくことにした。持ち帰ることで何かがわかるかもしれないと考える。
それらは巨大だが、ポーチから取り出した袋にかかっている圧縮収容術で問題ない。回収を完了すると、続いて砥石を取り出して切れ味を直しておく。あっちに移動すればもう休んでいる暇はないと予想したからだ。
優羅も予め使う弾を装填している。更に素材を取り出して麻痺弾と毒弾を追加していた。いつも調合しているからだろうか、ライムに迫る速さで調合を終えて収容している。
準備を終えた二人は、エリア7へと戻っていった。
エリア7へと戻ると、狂ディアブロスは川に口をつけて水を飲んでいた。とりあえず喉を潤わせて体力回復を図ったのだろう。加えてその色合いが気のせいか元の色合いに戻ってきている。
どうやら気分が落ち着けば狂化は解けるようだ。
だが狂化と言っておきながら元に戻ることは有り得るのだろうか、という疑問が出てくる。とはいえ昴は魔法に関してはほとんど知識がない。考え込んでもしょうがないので、ハンターらしく討伐に意識を向けることにした。
「グルル……?」
そこで二人の気配を感じ取ったのか顔を上げてゆっくりと振り返ってくる。その視線は二人とは別の場所へと向けられていたが、方向としては間違っていない。
「さて、あの爆発でどうやら甲殻が所々剥がれているようだな。これは大タル爆弾Gのおかげだろう。これはありがたい」
「……どうも」
眉を動かさず、声色に変化なくそう言う。すぐ隣にある顔、というかガルルガキャップのせいで目元しか見えていない。その目に変化は見られなかった。
しかし相変わらずの仮面っぷりだ。
その無表情さは昴にどこか似ていて違う。
昴も無表情だが、それなりに変化はある。呆れる時にも笑う時にもある程度の目の動きがある。だが優羅のそれは変化などない。
まさに仮面。
仮面に加えて声色にも変化があまり見られないので、その心があまり見えていなかった。
「じゃあ、援護を頼む」
「……はい」
蒼桜の対弩を構えて小さくうなずく。
昴が白猿薙【ドド】へと手を伸ばし、ゆっくりと助走をつけるようにして歩き出す。その数歩後ろから優羅が続き、岩陰に身を潜めた。
「グル……?」
近づいてくる足音に気づいたのだろう。狂ディアブロスは昴が近づいてくる方へと顔を向けた。その瞬間昴が走り出し、その顔へと勢いをつけて袈裟斬りを放った。
「ゴァァアアアアア!!」
大タル爆弾Gによってその顔はボロボロだった。ある程度は修復されているようだが、やはり肉が露出している部分が多い。
そして昴という敵を認識した瞬間、戻りかけていた部分に汚染が進んで再び完全なる狂化竜となる。
大きく息を吸って首を引くと、昴は後ろに下がりながら耳に氷を詰め込む。だが離れた場所にいる優羅には関係ない。その顔に弾を撃ち込み、すぐさま口に咥えている弾を装填して引き金を引く。
それは一間置いて爆発を起こす。
「ゴアアァァアア!?」
咆哮を上げようとした時に爆発したため、思わず顔を振って痛みを振り払う。
いいタイミングだ、と思いながら再び接近して振っている顔から首へと突き立てて切り裂く。身を捻り、足元へと薙ぎ払いつつ側面へと向かい、地を蹴って跳躍しつつ翼と側面へと白猿薙【ドド】で切り払っていく。
体もまた大タル爆弾Gの影響で所々甲殻がはがれ落ちていた。剥き出しになった肉に直に切り裂かれた蒼き刃は、確実に狂ディアブロスへとダメージを与えている。
「ゴアァァアア!? ブルァァアアア!!」
背後に着地した昴へと尾を振り回す。先端こそなくなっているが、それでもディアブロスの尾はなかなか長い。
「ふっ、ふ」
振り回されるタイミングを見て回避しつつ、尾の根元を突き刺していく。
「ゴアアアァァ!! ゴァ、ゴァァアアア!!」
すると狂ディアブロスが地面を掘り始めた。どんどん掘り進めて完全に地面に潜ってしまう。
「ちっ……」
思わず舌打ちする。この距離では回避は難しい。
だが逃げなければ。
白猿薙【ドド】を背に戻して昴が走り出す。するとすぐそこで地面を掘り進める音がする。同じ場所ということは方向を変えているのだろうか。
そして移動を開始する。それは着実に昴へと近づいている。地下では完全に音だけを頼りにしているので、目を潰されていようが関係ない。昴の走る音を辿って距離を詰めてくる。
「ならば……」
あの岩を飛び越える。
優羅はすでに移動を開始しており、エリア10方面の岩山へと離れていた。だが蒼桜の対弩の準備は完了しており、いつ狂ディアブロスが出てこようとも撃てるようにしている。
昴は目の前の空気に意識を向ける。
頭痛がし始め、呼吸が乱れるが、今はそれをしなければ命の危険性がある。
そして走るスピードを落とさずに跳躍した。
「おおおぉぉぉぉ!!」
「ブルァァァアアアアア!!!」
空中に氷を作り出して足場を作り、そのままもう一度跳躍する。
すぐ後に背後で狂ディアブロスが地上へと飛び出してきた。
瓦礫が舞い、その顔が体すれすれで上がってくる。もし角があれば体が切り裂かれている。
何度かそれを繰り返して岩を飛び越え、受身を取って着地をする。振り返れば優羅が狙撃を開始しているのが見える。見れば狂ディアブロスの首元をまた狙っていた。
おそらく状態異常を起こす弾なのだろう。それで再び状態異常になれば僥倖。
だが無理して魔法を使ったせいで昴の呼吸が乱れてきた。今日はいつも以上に魔法を使っている。普段はここまで使用しないだけに無理がきている。
「はぁ、はぁ……」
回復薬グレートを飲んでも、これは微量しか回復しない。魔法を使うのは体力だけじゃなく、一概に魔力と呼ばれるものを消費している。精神力や自然に満ちる力とされており、詳しいことは昴は知らない。
だが確かなのは、魔力を回復させるには体を休めるか、何か別のもので補うしかない。生憎昴はあまり使わないので、そんなものは持っていない。
すると、自分の体に何かが刺さった。見れば弾が装備の隙間を通って体に直に着弾していた。
「……ん?」
だがちくりとしただけで、大した痛みがない。加えて体の中から活力が沸いてきた。
「な、魔力が回復していく、だと?」
優羅を見れば蒼桜の対弩をこちらに向けていた。だがすぐに別の弾を装填して狂ディアブロスを狙撃していく。
昴の様子を見て魔力が切れかかっているのを悟り、こうして回復してくれたのだろう。だがこれを持っているということは、一人で行動している優羅もまた魔法が使えるということになる。
だが今はそんなことを考えている時間はない。白猿薙【ドド】を抜いて狂ディアブロスへと接近する。
「ゴルァァアアア!!」
再び昴の接近を悟り、今度は翼で振り払い始めた。眼前すれすれを通っていく翼をやり過ごしつつ、足や腹へと切り払う。今度は体全体を使って体当たりをしようとした。
すかさず反対側へと転がり出て回避し、足を払って切り上げる。
「ゴ、ゴアアアァァア!?」
すると狂ディアブロスの体が痙攣し始める。どうやら麻痺毒が回ったようだ。
このチャンスを逃すわけには行かない。足元に接近して何度か斬りかかり、呼吸を整えて袈裟斬りを放つ。
気刃斬り。今こそ解放する時。
弱点部位である尾へと狙撃している感覚を感じ取りつつ、昴は気刃斬りを放っていく。時間は恐らく10秒もないだろう。
だが10秒あれば充分だ。それだけの時間止まっていてくれたら、この白猿薙【ドド】の舞は終了する。
「ふっ、ふんっ! ……しっ!」
最後に回転して両足を切り払う。
「ゴ、ゴアアァァァ!?」
背後で転倒する音。すると優羅が駆け寄ってきた。遠くからの狙撃ではなく、有効距離からの狙撃に切り替えたようだ。
「……一応毒弾も全部撃っておきました。アタシも殺しにかかります」
「おう」
それを聞いて再び昴は狂ディアブロスへと接近する。狙うはボロボロの顔。
優羅は装填を終えると一定距離を取って尾へと撃っていく。
まさに完璧な銃撃戦。
有効距離で有効部位への容赦ない射撃。これが彼女が一人で狩り続けた結果なのだろう。
白猿薙【ドド】を抜き、まず振り下ろして切り払って振り上げる。
それを繰り返して斬る力を戻しつつ呼吸を整え、蒼い刀身に気を纏わせていく。
「ふっ、ふっ!」
再び気刃斬りを放っていく。1段階高まった更なる斬撃の力から放たれる気刃斬りに、肉は鋭く斬られ、斬るたびにどんどん血しぶきを撒き散らす。
「ゴアッ、ゴアァァァアアアアアア!!」
至近距離から上げられる悲鳴に耐えられるよう氷の耳栓はしてある。
「ふっ、ふんっ! ……しっ!」
力強く振り下ろした後に、両目を切り払うように身を回転させる。そして気の更なる解放により、斬撃の力は第2段階へと上昇された。
「ゴアァァアアッ! ブルァァアアアアア!!」
血涙を流しながら狂ディアブロスが起き上がり、目の前にいるであろう昴へと両翼を振り下ろした。それを横に飛んで回避するとそのまま地面を掘り始めた。
「またかっ……!」
逃げることはないだろうが、攻撃手段として使われればひとたまりもない。二人は武器を仕舞って距離を取っていく。その際お互いの位置は図らずも狂ディアブロスから見て横に平行、そして距離は200メートルほど。
狂ディアブロスが方向を変える地響きがしたと思うと、今度は優羅へと向かっていった。
「……アタシか」
そんな呟きをすると同時に優羅が走り出した。昴のほうではなくその反対側へと回り込むように走る。狂ディアブロスは先ほどまでいた場所まで行くと、方向転換して優羅を追尾していく。
「……鬱陶しい」
スピードを上げてさらに引き離そうとしても、人とディアブロスの速さなど比べるまでもない。ましてや今は狂化してスピードが増している。
だが狂ディアブロスはまだ距離があるというのに、何らかの行動をし始めた。
地響きがやんだと思うと、何度か地面を突き上げるかのように地面を打ち鳴らしている。
「……?」
優羅はそれに疑問を感じながらも距離を引き離すように走り続ける。昴もまた走りつつ、その行動について考え始める。
二人の疑問をよそに狂ディアブロスは行動に移した。
地面を突き破り、勢いよく地上へ飛び出してきたばかりでなく、放物線を描くように優羅へと迫っていく。
「……ん、なっ……!?」
「……っ!?」
それには流石に昴だけでなく、優羅も仮面が剥がれるように目を見開いた。狂ディアブロスの巨体は真っ直ぐに優羅へと向かっている。加えてまた両翼を前にやっており、顔を低くして頭突きをするかのような体勢になっている。
「ゆ、優羅アアァァァ!!」
思わず昴が叫ぶ。助けようにも距離が開いている上に、今更何が出来るのか。このまま優羅が押しつぶされるかと思ったとき、優羅は目を細めて体を低くした。
「……っ!」
走り続けたまま横に飛ぶと、足元に小さな爆発が起こる。それは彼女の体を更に奥へと押しやり、そしてもう一度爆発して完全に狂ディアブロスの射程外へと逃げることに成功する。
爆発とそれによる燃焼ガスによる推進力増幅。
彼女はそれを応用したのだろう。銃などが射出されるのは火薬の爆発などによるもの。それによって銃口から射出され空気を切り裂くように弾丸は目標へと向かっていくのだ。
彼女は足元でそれを行うことで自らの推進力を更に押し上げたと思われる。
そして爆発は恐らく火の魔法。彼女はハンターであると同時に魔法を使う術者でもあったようだ。
「ゴァァアア!?」
突如目標が謎の爆発によってどこかへと離れていくのを感じたのだろう。狂ディアブロスは地面に両翼を突き立てるが、すぐに引いて優羅の方へと振り向いた。
だがその時には蒼桜の対弩を取り出して銃口を狂ディアブロスへと向けていた。離れた後に反転した後、すかさずローブへと手を入れて蒼桜の対弩を取り出す体勢に入っていた。着地と同時に足でブレーキをかけつつ、地面を滑ったままで狙いを定めている。
有り得ないほどに慣れたような手つき。
無理やりすぎて思わず笑みが浮かんだ。だが見とれている場合じゃない。優羅が無事ならばよかった。
白猿薙【ドド】を抜いて自分も狂ディアブロスへと接近していく。
「ゴァアアア!!」
突進体勢に入ったようで狂ディアブロスが地面を何度も蹴っている。だがその顔を狙って引き金を引いた。すると一回引いたのに銃口からは弾が3発射出された。それは顔を貫き、内部へと抉りこむように入り込んでいく。
「ゴァァアアアア!?」
普段ならば甲殻という装甲によって守られているが、微かに剥き出しになっている肉へとそれは吸い込まれていった。
彼女が撃ったのは貫通弾Lv1。貫通と銘打たれているだけあってそれは貫通力に特化した銃弾。貫通弾の基本形であり、推進力は少ない方だが、それでも内部を通過していくので威力はある。
そして3発放たれたのは、蒼桜の対弩が貫通弾Lv1を速射できるためだろう。
速射とはライトボウガンの一部に備わっている仕掛けであり、特定の弾を1回で数発撃てるようにしてある。内部に複製の魔法をかけてあり、弾を読み取って射出と同時に同じ位置に、まったく同じものを周りの魔力を取り込んで作り出す力がある。
弾が消費されるのは1発。しかし実際に打ち出されるのは数発という画期的な試みを行ったが、その魔法が適合する素材と仕掛けの複雑さにより、今はライトボウガンしか実装されていない。
だが元々攻撃に向かず、支援を主としていたライトボウガンに、そんな試みを図ったことでライトボウガンを使用するハンターが増えてきている。支援だけでなく速射という火力増幅の試みは、一応成功をみている。
速射された貫通弾Lv1は一回の装填で9発撃たれることとなった。9回も頭部を撃ち抜かれて狂ディアブロスがたたらをふむ。
すかさず優羅の隣を走りぬけ、白猿薙【ドド】を抜いて横へと立てる。顔は優羅が撃っている。ならば自分は体に回りこむ。
後ろで装填をするような音を聞きながら、突き立てた刀身をねじ込みつつ走り抜ける。首が切り裂かれ、背後に血を感じながら足へと回りこんで切り払っていく。
「ブルァァアアア!?」
両翼を動かし、さらに体で足元にいる昴を振り払おうとするが、何度もやられてはもう慣れてくる。位置を取って回避しながらどんどん斬り続ける。
「ブルォォォオオオ!!」
ならば前にいる優羅を狙おうとしたのだろう。翼を広げて走り出した。
「……っ!」
片膝をついて狙撃していた優羅は立ち上がって横へと飛ぶ。振り返りながら通り過ぎる尾へと狙いを定めて引き金を引く。貫通弾Lv1が尾を綺麗に貫いていき、体へと吸い込まれる。
「ブルァァアアア!!」
ブレーキをかけながら体を捻って方向転換してきた。完全にブレーキをかけると同時に走り出し、また突進してくる。
「……ちっ」
思わず舌打ちが漏れた。横に走りつつ銃口を向けて一度引き金を引く。頬の肉から中へと吸い込まれる貫通弾を確認して足元に意識を向ける。
だが突進していた狂ディアブロスはそのまま地面を蹴って飛びかかってきた。
「またかっ!?」
昴が思わずそう叫ぶ。あのまま地面に着地すれば潜っていくだろう。あるいは優羅の回避が遅れて翼によって切られるか。
だがその点は心配ない。また足元で爆発が起き、優羅は射程外へと逃れる。だがすぐに振り返って装填してある最後の貫通弾を撃つ。それは頬に吸い込まれて更なる穴を作り出した。
狂ディアブロスが地面を掘り始めている間に一つの弾を取り出し、そして装填した。
狙いを定めて引き金を引くと、それは狂ディアブロスの頬の穴を通って中へと吸い込まれる。少しして顔が沈み始めたその時、頬の中から爆風が微かに溢れてきた。
「ゴアアアアアァァァァアアアアアアア!!?」
顔の中からの衝撃でたまらず狂ディアブロスの顔が上がる。
撃ったのは徹甲榴弾Lv2。Lv1よりも爆発の威力が高まった徹甲榴弾であり、それが顔の内部で爆発したのならば、その激痛は推して知るべし。
先ほどから顔を狙っていたのはこの機会を作るための布石。
容赦などいらない。人が強大な相手に立ち向かうにはこれくらいしかない。
どこが有効打を与えられるかの知識。
急所への狙撃。
そして更なるダメージを与えるための順序立てた布石。
それが優羅が今まで一人で立ちまわれた三原則だった。
新しく徹甲榴弾Lv2を装填し、再び別の穴を狙って引き金を引く。またも顔に吸い込まれて爆発する。
「ゴアアァァアアアアア!!」
「……凄まじいな」
思わずそんな言葉が漏れてしまう。だがあれのおかげで地中からの攻撃が止められたのはよかった。
そろそろ終わらせる。
体の下へと潜り込み、剥き出しになっている腹へと突き上げていく。上から血が降り注ぐのも構わずに何度も突き上げ、狂ディアブロスを仕留めにかかる。
「ゴアアァァ、ブルァァアアアア!!」
ばたばたと顔を動かしていくうちにその足が数歩下がっていく。横から来るならばその弾道から逃れる、と本能で感じたのだろう。
そして敵は下にいる。
それは攻撃で感じていたこと。翼を交互に振り下ろしてくる。回避しても巻き起こった風圧によって昴の動きが微かに止められた。そして次いで襲ってくる翼に右肩に撃ち当てられ、思わず白猿薙【ドド】を取り落としてしまった。
「ぐっ……!?」
「ブルァァアア!!」
そこにいる、と感じた狂ディアブロスが体を捻って尾を振り回してきた。
「ちぃ……!」
両腕を交差させた上に氷を何重にも張って守りを固める。
「……くっ!」
昴が危ないと感じて優羅の声が漏れる。顔は既に後ろへと回っている。今から狙いを定めてもしょうがない。ならば彼が斬っていたあの傷を利用させてもらう。
狙いを定めて引き金を引くと、新たなる徹甲榴弾Lv2が射出された。それは胸の傷へと着弾し、爆発した。
「ゴアアァァアア!?」
その爆発で足取りが崩れる。そのおかげで腕には当たらなかったが、風圧でその体が吹き飛ばされた。
「ぐ、は……っ」
地面を転がり続け、何とか止まる。だが左肩の傷が開いたようで血がにじみ出てきた。
「ち、まずいな……」
もうすぐ討伐が出来そうな気配はある。実際至るところから出血しており、優羅の徹甲榴弾で大ダメージは与えられているだろう。というより、優羅がいなかったらここまで出来なかったかもしれない。
改めて彼女の存在に感謝する。
「ゴルァァアアア!!」
ディアブロス種は瀕死になればなるほど怒りが増していく。口からは血と共に黒い吐息が漏れていた。やはり顔の内部に爆発が起これば、血はひどいものとなっている。
「ゴ、ゴォ、ゴルァ……」
大きく息を吸おうにも体内で爆発した際に肺をやられたのだろうか、呼吸が荒れている。あの咆哮はほぼ封じられたようだ。足は何度もふらついており、巨体を支える力がなくなりつつある。
瀕死だ。
その命が消えようとしている。
だがその命を完全にとめるまでは油断できない。
右肩は打突、左肩は貫通のダメージがあり、白猿薙【ドド】を持つ力が弱い。斬ることは出来ないならば、突くしかないだろう。
だが右肩は痺れる感覚がある。そんなに強く突き上げることは出来なさそうだ。
どうする?
少し考え、そして一つの案が思い浮かんだ。
「……だが一回だけだな。それも、絶対に仕留めないと続行できん」
これをやろうとするならば、優羅の援護が不可欠だろう。そんな風に視線を向けると、優羅が蒼桜の対弩を構えながら横目で視線を合わせてきた。
少しだけ昴の様子を窺うと、新しい弾を装填していく。
昴はその機会を窺うために無手で移動する。昴が移動すると感じたのか、狂ディアブロスが振り返ってその方向を確かめる。だがその方向は優羅がいる方向でもある。
振り向かれた顔へ狙って引き金を引く。それは額に着弾すると一間置いて爆発した。
「ゴァァアアアッ!?」
その爆発が肉を焼き、また顔を振って暴れだす。そのまま体を捻って向き直る。
「ブルァァァアアアア!!」
優羅がいる方へと顔を向けて走り出した。すかさず横へと飛び体を捻らせて反転し、地面を滑りながら狙いを定める。
新しい弾を装填し、すぐに引き金を引いた。
「あの動き、とても真似できんな……」
狂ディアブロスから一定の距離を保ちながらその様子を見て呟く。実力は高いが、他人が真似できないような体の使い方だ。
だが効果はある。
回避からすぐに攻撃に転じることで相手にそれ以上行動させない。自分のペースを取り戻すということに関して有効である。
徹甲榴弾から貫通弾に切り替えたようで、速射された弾が顔をどんどん貫いていく。
そして肉が露出していき、その顔が紅く染め上げられていく。
息も絶え絶えでもう死にそうになっている。
今が好機。
白猿薙【ドド】を抜き、狂ディアブロスへと接近していく。それを見て優羅が顔から尾へと狙いを変えたようだ。弾を貫通弾から別の弾へと切り替えている。
「おおおぉぉぉ!!」
自らを鼓舞するように叫び声を上げ、ぐっと白猿薙【ドド】を握り締める。肩が痛み、左肩からも血が止まらない。じんじん痛み持つ手が震える。だが決めなければならない。
正面に回って跳躍する。
白猿薙【ドド】を引き、その額、脳がある場所へと狙いを定める。
「これで、終わりだ……!」
「ブルァァァアアアアアア!!!」
昴の叫びに狂ディアブロスの顔が上がる。だがそれも想定済みで投擲された白猿薙【ドド】。
その口が開かれて昴の体に噛み付こうというのか。
だが牙が昴の体を捉えるより早く、白猿薙【ドド】の蒼い刃が狂ディアブロスの額へと深く突き刺さった。
「ご、ゴァァアアア……!!」
さらに追い討ちをかけるように落下する途中に氷の塊を作り出し、それを足場にしてもう一度飛ぶ。そのまま突き刺さっている白猿薙【ドド】を掴んでぐっと押し込んだ。
「ガァアアアアアアアアアァァアアア!!!」
断末魔の叫びが響き渡る。ビリビリと空気が震えるが、それでも白猿薙【ドド】を離さない。例え体が痛もうと、このとどめは成功させないといけない。失敗すれば最後の抵抗をされる。それでやられないという保証はないのだ。
「ガアアァァ……が、がが……」
やがてその声が小さくなっていき、ぐらりと体が傾いた。顔から飛び降り、地面に着地すると同時に、狂ディアブロスの体も地面に倒れた。
「……」
呼吸は止まり、もう動き出す気配がない。
狂ディアブロスは、討伐された。
「……は、はは……。終わった、か……」
大きく息を吐いてそのまま地面に座り込んだ。そんな昴にローブに蒼桜の対弩を仕舞った優羅が近づいてくる。
「おう、お疲れさん」
「……」
優羅は何も言わず、小さくうなずいただけだ。相変わらず無表情だったがその呼吸は少し乱れており、優羅もそれなりに疲れているようだ。そして死体へと目を向ける。
動かない狂ディアブロスはまだ汚染されたままだ。それを見て何を思うのか。今の昴にはわからなかった。
こうして狂ディアブロスは討伐された。
日はとっくに暮れており、疲れが押し寄せてきた二人は、いったんベースキャンプに戻り、一夜を共に過ごすことにした。