呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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29話

 

 

 エリア6へと戻ってくるとフルフルが鼻を鳴らして辺りを警戒していた。体には所々傷が残っている。一部は持ち前の回復力ですでに回復済みだった。

 フルフルの体液は回復力を増進させる力が含まれている。そのため、少しの時間で微かな傷ではすぐに回復してしまうのだ。

 

「よし、シアン。俺の後に続け」

「はいっ!」

 

 昴の言葉にシアンがうなずくのを感じると、二人が一斉に走り出した。二人の接近を感じたフルフルが鼻を鳴らしながら振り返る。その顔へと飛竜刀【紅葉】を振り下ろすと、悲鳴を上げてフルフルがたたらを踏む。その間に足元にもぐりこんだシアンがインセクトオーダーを構えて斬りかかっていく。

 フルフルには打撃武器はあまり相性がよくない。いつも先陣きって走り出す紅葉が今回は後に続くのはこのためだ。フルフル、ゲリョスなどを相手にする際は昴が先陣きって攻撃を仕掛けるのは通例となっている。

 

「ヴォウ、ヴォルルルォォオオ!!」

 

 またも襲い来る敵を感じ、フルフルが少しだけバチバチと電気を放ちながら首を動かした。それを回避しながら斬りかかろうとしたが、放たれる電気が強くなるのを感じたために後ろに下がる。

 それは正しい判断であり、電気を纏ったフルフルが体を捻って肉薄しようとする二人を振り払うようにした。

 放電が終わると同時にシアンが斬りかかっていき、続いてライムもやってきて反対側の体へと斬りかかっていく。

 

「ヴォルル、ゴオォォオオ!」

 

 体を回転させて遠心力をつけて尻尾と伸ばした首を使って追い払おうとすると、身を低くしてやり過ごし、ライムが再び斬りかかる。すると、フルフルが突如体を痙攣させてうめき声を上げ始めた。蓄積された麻痺毒が効いてきたのだろう。

 これは好機と昴が飛竜刀【紅葉】を構えて気を込めていく。それを見てライムが昴から距離を取った。その反対側ではシアンが同じように気を高め、呼吸を整えている。

 

「すぅーっ……」

 

 両手を挙げて刃を交差させ、そして息を吐きながら横に広げる。

 

「……ふんっ!」

 

 鬼人化の発動である。そのまま攻撃の体勢に入り、先ほど斬りつけた足へと乱舞を行う。昴は首元で数度飛竜刀【紅葉】を振るって気を高め、そのまま袈裟斬り、逆袈裟斬りをする。それだけでも切れ味が高まった飛竜刀【紅葉】の鋭さと熱波で絶え間なくフルフルから血が噴き出される。

 

「ふっ、ふっ、……ふんっ! ……しっ!」

 

 数度低く切り払いつつ勢いよく振り下ろす。そして顔を横薙ぎに払うように体を回転させてフルフルの横を抜けていき、飛竜刀【紅葉】を背に戻す。太刀の気刃斬りの応酬を終えると飛竜刀【紅葉】に纏われた気が解放されて一段階威力が増幅された。

 

「ゴァァァァアアアアアアア!!」

 

 その痛みに悶えていると、乱舞によって足の力が弱まってしまい、フルフルが転倒する。更なる好機に紅葉も加わってきた。

 狙いは頭。クックジョーを構えて横薙ぎに何度も振るって頭を何度も揺さぶっていく。麻痺から転倒、そしてめまい。飛竜の動きを封じる連続的な攻撃にフルフルは悲鳴や呻きを漏らすしかない。

 このままいけば楽にフルフルを討伐することが出来るだろう。ライムももう一度デスパライズを構えて斬りかかる。再び麻痺毒を蓄積させようという試みか。しっかりと自分の役割を認識して実行しようとしている。

 まだ未熟だろうが何だろうが、チームで行動する際はそれぞれ役割を自ずと持つ。一人では強大な敵には立ち向かえないことが多い。チームで行動することで初めて勝てる相手がいる。

 チームで行動するということはお互いの命はそれぞれ共有されたようなもの。一人がミスをすれば、全体に危機が及ぶこともある。

 だから各人に役割というものが与えられる。

 攻撃、囮、遊撃、補助……。

 これらを与えられ、それを遂行していくことでチームでの狩猟は行われていく。もちろんそれが完璧に行われたからといって勝てる保証などない。だがそれをすることで危険が少しでも減らされる。

 そして今もこうやってそれぞれの役割を果たしていた。だからチームの、『吹雪(ブリザード)』のペースに持ち込み、こうして討伐が無事に終わる。

 この調子で進めれば吹雪が来る前に終わりそうだ。

 昴はそう思っていたのだが、彼のセンサーがもう一つの存在を捉えた。

 

「っ!?」

 

 振り返って上を見る。

 

 そこには誰かがいた。

 

 暗い夜の色合いをしたローブを纏った誰か。それが山の上からじっと昴たちを見下ろしていた。

 

「……誰だ?」

 

 思わず呟いた。それに気づいた紅葉がどうしたのかと顔を向けてきた。

 昴がフルフルではなく背後の上部に視線を向けているのに気づき、自分もそっちに視線を向けた。

 

「…………誰?」

 

 そして気づく。そこに誰かがいることに。

 その誰かはローブの中から右手を伸ばし、それを昴たちに向けた。

 掌に強い魔力が集まっていき、何らかの魔法が行使されようとしているのがわかる。

 

「っ!?」

 

 つまりは攻撃。そう感じた時昴と紅葉はそれぞれライムとシアンへと駆け寄った。二人を掴んでその場から離れると、右手から魔法が放たれた。それは昴たちが立っていた場所ではなく、フルフルへと着弾した。

 

「ゴァッ!?」

「な……!?」

 

 着弾したものは黒い塊だった。それは着弾した場所からフルフルへと広がり、そして浸透していく。

 

「……まさか」

 

 それを見て思い当たることがあった。もう一度上を見上げると、夜色のローブを纏った者はそこから離れていくところだった。

 

 

 ○

 

 

「……まだそこにいてもらわないと困るのよね。あなたたちには死んでもらわないといけないんだから。……くすくすくす」

 

 夜色のローブの下から冷笑が漏れる。

 これは保険。

 昴たちを確実に死なせるための保険だ。

 本来ならば手を出す気はなかった。しかし思った以上にフルフル討伐が順調だったからあれを撃ちこむ事にした。

 これでほぼ確実だろう。

 狂化竜に、この自分たちに近づく者には死を。

 この自分の計画に支障をもたらす者には死を。

 進む道を阻むようなものならば、やはり死を。

 

「さようなら、『吹雪(ブリザード)』。せいぜい苦しみながら死ぬといいわ。その名の通り、吹雪の中へとね……くすくすくす」

 

 その言葉と笑い声を残して彼女はそこから姿を消した。

 

 

 ○

 

 

「ゴアッ、ゴォォオオ、ヴォルォォオオオオオ!!」

 

 あの黒いものが完全に消えると、フルフルはのた打ち回るようにして暴れている。口から涎がだらだらと流れ、空気を取り込もうと首を何度も振り回している。

 その様子を昴たちが呆然と見守っていた。

 

「これって……」

「ま、まさかとは、思うんですけどぉ……」

 

 着弾点はまだ黒く染まっている。そしてそれは少しずつ、確実にフルフルの体を包み始めていた。その度にフルフルは痙攣し、苦しそうに呻いている。

 

「……汚染、ですね」

 

 ライムがボソリと呟いた。それを聞いて昴が舌打ちして歯噛みする。

 飛竜を汚染する。

 これが何を意味するかなど、今の昴たちには容易にわかることだ。

 

「そうなる前に仕留めるっ!」

 

 昴が苦い顔をしながら飛竜刀【紅葉】を構えて走り出した。紅葉もクックジョーを構えて走り出す。あのフルフルが完全にそうなってしまう前に仕留めれば問題ない。

 クックジョーを振るって頭を揺らし、昴が体に回りこんで心臓がある胸を狙って斬りかかる。生き物の急所である部分を狙って一気に仕留めにかかるが、フルフルは二人の接近を感じ、苦しみながらも放電を開始した。

 

「ちぃっ……!」

 

 放電してしまえば体に攻撃は出来ない。しょうがなく昴は距離を取る。頭を狙っていた紅葉は一歩引いてその放電から逃れて力を溜めていく。そして放電を終えた瞬間力を解放し、力いっぱい頭へと叩き込んだ。

 

「ゴォォオオオオオ!!」

 

 だが迫り来る力に何か感じるものがあったのだろう。フルフルは苦しみながら力いっぱい後ろへと跳躍して下がった。同時に放電の残留である電気の一部を口から吐き出した。

 

「ん、なっ!?」

 

 残留とはいえそれは圧縮された電気だ。それを正面から受けてしまい、紅葉の体を電気が駆け巡る。そのダメージに紅葉はたまらず膝をつく。

 

「ぐ、う……う、うぅ……はぁ、はぁ……」

 

 クックジョーを落としてしまい、胸を押さえてうずくまってしまう。ザザミシリーズは電気に耐性はない。むしろめっぽう相性が悪い。それを受けてしまってはこうなってしまうのも無理はない。

 

「大丈夫かっ!?」

 

 そしてそれは昴もよくわかっている。紅葉に駆け寄り、ポーチから回復薬グレートを取り出した。蓋を開けてそっと口元へと持っていく。何とか紅葉が縁に口をつけると、そっと傾けて飲ませていく。

 

「……はぁ、はぁ、……ありがと……」

「昴さん! フルフルがっ!」

 

 安心するのはまだ早い。シアンの声に顔を上げれば、呻き声から唸り声へと切り替わったフルフルがいる。

 

「ヴォルルルル……!」

 

 その体はすでに全身が漆黒に染まっていた。所々血管らしい紫の線が浮かび上がって脈動している。そして口からは青白い吐息が漏れている。あれはフルフルが怒り状態になった時に見られるもの。どうやらそこは変わっていないらしい、とどこか冷静な部分で思考していた。

 

「……ちっ、遅かったか」

 

 紅葉に肩を貸しながら立ち上がらせつつ舌打ちをする。

 そこにいるのは、間違いなく狂化竜となってしまったフルフル。だが同時にわかったことがある。あそこにいた者こそが狂化竜を作り出している術者なのだ。

 後ろを振り返れば、狂フルフルを前にしたライムとシアンが、ガタガタと体を震わせている。狂フルフルから放たれる殺気に竦みあがっているのだろう。すでに狂ディアブロスと戦闘経験がある昴は、突き刺さるような気を感じるだけだが、二人にとっては完全に恐怖の対象になりえる。

 

「はぁ、昴。いいよ。もう立てるから……」

「……」

 

 肩から離れると、ポーチから回復薬グレートを取り出してまた飲み干した。そして足元にあるクックジョーを持ち上げて構える。頬には汗が流れていたが、それでもやらなければならない。

 ここで引けばこの狂フルフルがどのような行動に出るかわからない。だがあの二人には無理だろう。二人はモドリ玉で退散してもらうしかあるまい。

 

「おいっ! お前らはモドリ玉を使って逃げろ!」

 

 二人に叫ぶとハッとなって我に返る。だが二人の目は逃げるような目をしていない。自分たちも戦う、といった心意気が見えていた。

 実際に二人はそれぞれの武器を構えている。

 

「大丈夫、です……!」

「わたしたちだって、戦います!」

「何を言っている!? 死ぬつもりか!?」

 

 その言葉に、二人は苦笑を漏らした。

 

「……僕たちにだって、出来ることはあります……!」

「アイテムのサポート、遊撃……。わたしたちはチームです。だから、チームで戦うべきです……!」

 

 体を震わせながらも二人ははっきりとそう言った。その眼差しと言葉に少し呆然としていると、狂フルフルが体を縮こませた。

 

「昴! 来るよ!」

 

 紅葉の言葉に我に返り、その場から離れる。少し遅れて狂フルフルが飛び上がり、その体が昴たちが立っていた雪に沈みこんだ。

 

「ゴァァァアアアア……!」

 

 のっそりと首を持ち上げるとまた体が電気を帯び始めた。

 

「……まあ、確かに死ぬかもしれないけどね。でもハンターとして、チームとして一緒に戦うって言うなら無下には出来ないか。それにあんたが人のことを言える性質じゃないってのはわかってる?」

「……」

「狂化したディアを前にして一人で戦おうとしたあんたが人のことを言えるわけないよね?」

「……」

 

 それを言われると昴は何も言えない。それにこのまま離脱など出来るような状況ではない。モドリ玉を使用したらすぐにベースキャンプに帰れるわけではない。

 転送される前に攻撃を受ければその効果は無効となり、モドリ玉がむなしく一つ消費されるだけに終わる。だから使用する際はその隙を窺わなければならない。

 その隙をあの狂フルフルは作り出してはくれそうにはなかった。

 

「ヴォルルォォオオ!!」

 

 電気が口に集まっていき、圧縮されて口から放たれる。それは地面を這うものではなく、ただの光弾として放たれたのだ。それは通常のフルフルでは使用されない攻撃。

 狂化することで嗅覚もさらに高まったようだ。的確に位置を把握してその光弾を放っている。光弾は昴と紅葉、そしてライムとシアンへも放たれていく。

 全員が横へと飛んで回避するが、狂フルフルは完全に体を起き上がらせて鼻を鳴らす。それでそれぞれの位置を確認したのだろう。

 

「ヴォルルルルォォォオオ……!!」

 

 狂フルフルは一番近くにいた昴と紅葉に狙いを定めたようだ。また発電を開始する。尻尾のアースは使われておらず、普通に青白い電気を纏っている。どうやら体のつくりが強化されたようで、普通に発電することは問題ないようだ。

 そのまま更に発電を高めていき、バチバチと空気が弾ける音が響き始めた。

 

「ヴォォオオ、ゴァァアアアアアッ!!」

 

 体を縮こませて力を込めると昴たちがそれから逃れようと走り出した。だが狂フルフルはそのまま跳躍して二人の中心へとダイブした。

 普通ならそれで終わるはず。

 通常のフルフルも怒り状態ならば時折使う攻撃手段だった。

 だが狂フルフルは違う。

 高まった電気が狂フルフルが雪に沈んだ瞬間、狂フルフルの体から高電圧が放出された。それは狂フルフルを中心として波紋状に広がり、バチバチと電気を空気中に放出されていく。

 

「く、おぉ……!?」

「や、ヤバッ……」

 

 背後から迫る電気の奔流に二人はそれぞれ己の魔法を行使して離脱していく。

 それで何とか範囲外に逃れることが出来たが、二人の頬には冷や汗が浮かんでいた。

 

「……なるほど。これならまだ狂化ディアの方がマシ、という気がしてきたぞ」

 

 ディアブロスならばブレスも使わず、ただ体の一つで戦うだけ。変わるのは体の強度と筋力。もちろんその速さも通常の怒り状態よりも速まったが、それでも特に大きな変化は見られない。

 あと変わったことといえば体の変化に伴い、新たな攻撃手段が加わったということだろう。通常状態では使えない力を使って、更なる攻撃を繰り出す。

 それは体が強化され、狂化したことで見られた最大の変化だろう。

 そして狂フルフルもまたそれに当てはまった。

 フルフルの特徴の一つである嗅覚は更に高まったらしく、離れていても昴たちの位置を確認できていた。

 そして電気にも更なる耐性が出来たようで、尻尾のアースを使用せずとも発電をし、通常より多くの電気を体に纏わせることが出来るようになったようだ。

 その結果が高電圧のダイブ。着地と同時に纏われた高電圧が放出され、周囲一体を電気の奔流の網に捕らえる。

 こんな特殊な攻撃法を行使するなど、厄介なことこの上ない。昴からすれば、こんなのを相手にするよりディアブロスの方がまだマシということなのだろう。

 

「……よし」

 

 そこでシアンが一つのアイテムをポーチから取り出した。それに倣ってライムも同じようにアイテムを取り出した。

 それは笛のようだった。だがそれぞれ効果が違う。

 シアンのものは硬化笛。ライムのものは鬼人笛。

 それぞれ吹くことでそのエリアにいる味方の体を硬質化させ、そして筋力を増強させるもの。入手するにはそれなりに高価なものを調合しなければならないのだが、二人の場合は両親が残してくれたものを補助用として持ってきたものだ。

 今まで使う機会がなかったが、今こそ使うべきだと思って取り出した。

 二つの笛がそれぞれ音を奏でていく。それはエリア6に響き渡り、昴たちに確かな力を与えていく。

 これはそれぞれの素材となったものが笛の元となったものの粒子に作用し、音を奏でることで粒子が音に乗せて響き渡る。それは吹奏者の意思に従って対象を選ぶという。

 そして粒子が対象者の体内に取り込まれることで対象者の身体能力を強化する、という作用を起こすらしい。

 

「よし、これで多少なりとも立ち回れるか」

「補助、頼むね」

 

 それを伝えると二人は再び狂フルフルへと近づいていく。それを見送ってシアンは左へと走り出す。その手には硬化笛から別の笛を取り出した。

 それは回復笛。回復効果を味方へと与える力を持つ笛だ。

 そしてライムは右手に走って様子を窺っていた。出来るならばデスパライズを持って切り込みたいが、今は観察するだけだ。

 自分はフルフルは初めて。それが狂化してしまったのだ。ならばまだその動きを観察しなければいけない。でなければ死ぬ可能性があるのだ。

 そして昴は狂フルフルが電気を発することがないことを悟ると、飛竜刀【紅葉】を構えて斬りかかる。

 

「ゴルルルォォォォ……!!」

 

 狂化して体が少しだけ硬くなったようだが、それでも一段階解放された飛竜刀【紅葉】ではまだ斬れるようである。

 

「ヴォルルァァ!!」

 

 首を伸ばして昴へと噛みつくが、身を引いて飛竜刀【紅葉】を突き刺す。その反対側から紅葉がクックジョーで殴りかかる。しかしやはりというべきか狂フルフルの体はクックジョーを弾き返す。だが火属性の爆発で狂フルフルへと少しずつダメージを与えていく。

 

「ヴォルルォォォオオオオ!!」

 

 伸ばした首を戻しながら身を捻りつつ、更に発電を開始した。遠心力をつけて振り回される首に電気が纏われていき、バチバチと音を鳴らして回避する昴たちに襲い掛かる。

 

「う、おぉ……」

 

 さながらそれは電気を帯びた鞭のよう。柔軟な首と発電能力を持つフルフルだからこそ出来る芸当だろう。

 

「ゴオオォォォォ!!」

 

 そのまま発電して体に電気を纏わせると、身を低くして足に力を込め始めた。

 

「まずいっ! 離れろ!」

 

 昴の言葉に紅葉がうなずき、同時に後ろへと下がった。同時に狂フルフルもまた翼を大きく振りながら、勢いよく後ろへとバックステップする。どうやら狂化した際に足の力も強化されたようである。

 そして口から圧縮された電気エネルギーが発射され、二人が立っていた場所に着弾して大きな爆発と高電圧が放出される。

 

「……レウスかよ」

 

 あの光景はリオレウスにも見られることだが、まさかフルフルでも見ることになるとは思いもしなかったろう。

 着地したと同時に鼻を鳴らして昴たちの位置を確認する。それによって少し離れた場所にいるシアンにも気づいたようだ。

 

「ゴルォォォ……!」

 

 首を持ち上げ、シアンへと狙いを定める。一方シアンは睨まれた、と感じたのか体を振るわせ始めた。

 それは間違いなく恐怖に囚われてしまっている。

 

「シアン、逃げて!」

「……っ!」

 

 ライムが気づいてそう叫ぶと、シアンが震える体を何とか動かして走り出す。

 

「ゴォアッ!」

 

 口から光弾を放ってシアンへと攻撃を開始する。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 シアンは何とか足を動かしてそれから逃れるが、フルフルは一つの標的を絞ると、しつこく攻撃する性質がある。狂フルフルになろうともそれは変わらず、さながら電撃弾の砲台となっていた。

 そこで昴が砲台となっている狂フルフルへと接近していき、紅葉がシアンの救出へと向かっていく。

 

「ゴォォオオ……!」

 

 接近してくる昴の匂いを感じたのだろう。狂フルフルはゆっくりと首を昴へと向けると、接近を阻むように昴へと光弾を放っていく。尻尾は地面についており、体は絶えず発電している。

 どうやらまだまだ弾は絶えないようである。

 そして紅葉はへたり込んでいるシアンに駆け寄った。

 

「大丈夫?」

「は、はい……」

「……あてられた?」

 

 狂化竜となって殺気と纏われる気が高まっている。新米であるシアンやライムでは、高密度の殺気を向けられることで、内から来る恐怖心に体がいうこと利かないのは無理ない。

 それでも走ることが出来たのは凄いことだ。だがここで立ち止まるわけにはいかない。すぐに立たせて狂フルフルへと視線を向ける。

 その際ライムはどうしているだろうかと視線を向けた。彼はなにやら地面に座って何かの作業をしているようだった。よく見れば何をしているのかはすぐにわかった。ならばあのまま置いておくとしよう。

 そして昴は飛んでくる光弾を避けながら狂フルフルに接近していた。しかし足元は新雪が積もっている。今なお降り注ぐ雪で柔らかくなっているため、少しだけ足を取られそうになっている。

 そうなることでいくつかが肩や腹を掠めていくが、昴は止まることはない。昴が装備しているフルフルDシリーズは雷属性に耐性がある。掠めたぐらいではなんてことはない。

 そのまま昴の間合いに狂フルフルへと入れたとき、踏み込みながら飛竜刀【紅葉】を切り上げる。それは綺麗に胸から顔へと一文字を作り上げた。

 

「ゴァァァアアアアアア!!」

「おおおぉぉぉぉ!!」

 

 そのまま刃を返して振り下ろし、そして更に踏み込んで体へと斬りかかり、離脱しながら切り払う。流れるように繰り出された攻撃に狂フルフルが悲鳴を上げる。だが強化された体は、弱点である火属性の力を持った飛竜刀【紅葉】の攻撃を受けてもまだ耐えられる。

 

「さて、あたしも……くっ……!?」

 

 紅葉もクックジョーを手にして狂フルフルへと接近しようとすると、突如胸を押さえてうずくまってしまった。

 

「紅葉さんっ!? 大丈夫ですか?」

「……あ、うん。はは、さっきのやつがまだ残ってるみたいね……」

 

 あの電気ブレスのダメージが残っているようだ。体内に電気がこもり、それが紅葉に影響を与えているようだ。見ると右手が少し痙攣している。

 その様子を見てシアンがぐっと拳を握り締めて目に闘志を燃やした。

 

「わたしも戦います……!」

「それは駄目。このまま補助をお願い。今のシアンの役割はあたしたちの補助だよ。遊撃じゃない」

 

 にっと笑って軽くシアンの肩を叩いた。その顔を見てシアンは逆らえないということを実感した。

 

 

 ○

 

 

「……」

 

 一方雪山を足早に歩きながら優羅は迫ってくる黒雲に視線を向ける。

 胸騒ぎは収まらない。

 そして第六感がさっきから警鐘を鳴らしている。

 まだポポとガウシカたちは大移動を続けている。それだけじゃない。何故かギアノスやブランゴたちまで大移動をしている。

 優羅の周りを慌てたように走り続けているギアノスやブランゴたち。優羅に襲い掛からず、ただただ逃げ続けるだけだ。

 ふと、遠くの方で何かが見えたような気がした。

 

「……? あれは……」

 

 立ち止まり、目を凝らしてそれを見つめてみる。距離にしてだいたい2キロといったところか。それでも人を超えた視力を持つ優羅にはうっすらと見えている。そこで普通はつけないスコープを取り出し、蒼桜の対弩につけて覗き込んでみる。

 倍率を最大。それでようやくそれがはっきりと見えた。

 

「……昴? あれは……、狂化したフルフル?」

 

 狂化したフルフルと戦う昴。なにやらうずくまっている紅葉に、介抱しているようなそぶりをしているシアン。そして離れた場所で何かの作業をしているらしいライム。

 それらを視界に納めると、蒼桜の対弩をしまう。

 

「……」

 

 さてどうするか、と考える。

 このまま介入しても仕方がない。

 この世界にはジンクスが存在する。自分が介入すればそのジンクスが本当になってしまうかもしれない。

 そのせいで昴が、紅葉が死んでしまったらどうするんだ?

 そういう恐れが優羅の中に微かにあった。

 

「……ん?」

 

 そんなことを考えていると、西の空から強い風が吹いてきた。

 

「……っ、く……」

 

 バサバサとローブが音を立てるほどの風の強さ。どうやら吹雪が追いついてきたようだ。

 

「……これは、非常にまずい状況か」

 

 あの進路はこっち、そしてその先は昴たちにある。

 となれば、狂フルフルと戦闘しているあの場所を通過する可能性がある。

 

「……悩んでいる暇は、ない、か……」

 

 決意を固めると優羅は走り出した。山を駆け下り、岩山を飛び越えながらあそこへと向かっていくことにした。

 

 

 ○

 

 

「ヴォルルルルォォォオオオオ!!」

 

 放電しつつ首を伸ばして鞭のように薙ぎ払う。これを縄跳びのように飛び越える、という回避方法は使えない。放電しているため、足が電気に捕まればアウトである。後ろに跳んでやり過ごしたが、その口から数メートルほど電気が放出され始めた。

 

「く、ぬっ……!?」

 

 バチバチと口からそれが放出されて射程が延長される。だが圧縮されたブレスでないだけまだましだ。それはただ放出されているだけである。

 そこで少しだけ跳躍して足元に氷を形成し、それを足場にしてもう一度跳躍して射程外に逃れる。

 

「ヴォルルルル……!」

 

 匂いが上へと上がっていくのを感じたのか首を戻してゆっくりと持ち上げる。

 

「……ふんっ!」

 

 飛竜刀【紅葉】を構えて力を込めて振り下ろす。持ち上げられた顔から首へと飛竜刀【紅葉】によって斬りこまれる。落下速度と相まってその威力は高まっており、狂フルフルへと大きなダメージを与えることとなった。

 

「ヴォォォオオオオオオ!!」

 

 その痛みに悶える狂フルフルに好機と見た昴は、着地と同時に踏み込んで次々と斬りこんでいく。気を開放して気刃斬りを数度放ち、再度体を捻って薙ぎ払う。これで第二段階の気の解放が達成された。

 

「……よし、このまま……!」

 

 背に手をやって飛竜刀【紅葉】を抜こうとしたが、狂フルフルの体が青白い電気を帯び始めるのを感じた。そこですぐさま後ろへと下がり始めるが、狂フルフルが大きく息を吸い始めた。

 

「ぬ、く……」

 

 飛竜刀【紅葉】から手を離し、両手で耳を押さえつつ大きく後ろに下がろうとしたが、間に合わない。

 

「ヴォォォォォオオオオオアアアアアァァァァァ!!!!」

 

 先ほどよりも大音量で響き渡る不快な咆哮。それを間近で聞かされればたまったものではない。

 

「ぐ、お、おおぉぉ……」

 

 体の芯へと響き渡る声に苦い顔をしながらも竦みあがってしまう。必至に抗おうとしても無理な話だった。足は縛り付けられたように動けず、ただその場で耳を塞ぐしかできない。

 横目で見れば紅葉たちも耳を押さえてうずくまっている。あそこにいる紅葉が駄目ならばライムとシアンも駄目だろう。

 

「ヴォォォォオオオオオ……!!」

 

 そして狂フルフルは咆哮を上げながら着実に発電を進めている。体から電気が弾ける音が聞こえ、どんどんエネルギーが溜め込まれている。いつの間にやら尻尾が伸ばされて地面にくっつき、いつでもそれを放てる体勢になっている。

 

「昴、さん……!」

 

 背後にライムの声が聞こえるが、その声に力がこもっていない。やはり竦みあがって動けないようだ。

 

「ヴォォオオオオオアアアアアァァァ!!」

「ぐ、お、これ、は……」

 

 自分はまだ動けない。

 相手は攻撃態勢に入っている。

 味方の救出の手は望めない。

 

 ――これらが意味することは一つ。

 

「す、昴ッ!?」

 

 紅葉が気づいたように声を上げるが、まだ体が動けない。加えて狂フルフルの纏う電気に当てられたのか、紅葉の体に一筋の電気が奔って紅葉を動けなくした。

 

「あ、ぐ……」

「も、紅葉さんっ! ……あ、ああ……」

 

 耳を塞ぎながら紅葉へと屈みこむが、視界の端で狂フルフルがその攻撃を実行するのが見えた。

 

「昴さんっ!!」

 

 シアンが声を張り上げるが、それでも現実は無情だ。

 

 この世界はただ狩るか、狩られるか、なのだから。

 

「ヴォォォォォオオオオオオオオオォォォ!!!」

 

 大きく翼を広げながら体が昴へと沈みこんでいく。同時に持ち上げられた首を勢いよく叩きつけるように振り下ろされる。

 

「ぬぉぉぉおおおお!!」

 

 鎖で縛られたかのような足を無理やり動かして押しつぶされるのだけは回避する。だが狂フルフルの攻撃は押し潰すだけに留まらない。

 雪に沈むと同時にその体に纏われた高電圧が解放される。それは周りに波紋状に広がっていき、昴に容赦なく浴びせられていく。

 

「ぐおおおおぉぉぉぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 昴の悲鳴が響き渡る。

 それを紅葉たちはただ見つめることしか出来なかった。

 

 

 

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