呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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30話

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 地面に倒れることも出来ないまま、ただただ放出される高電圧を浴び続ける昴。いくらフルフルD装備で守られているとはいえ、あのままでは命に関わる。

 

「く、うぅ……!」

 

 紅葉が何とか体を動かそうとするも、放たれる電波によって体に残された電機が邪魔をする。それでも手を伸ばして風魔法を行使しようとするが、集中できずに魔法が発動しない。

 

「す、昴……! なんとか、なんとかしないと……!」

 

 必至に手を伸ばそうにも、そんなことしても届かないのはわかっている。それでも伸ばさずにはいられない。

 あそこで昴が苦しんでいるのだ。

 昴が死に掛けているのだ。

 今動かずしていつ動けというのか……!

 

「助けないと、助けないと……!」

 

 その目に涙が浮かび始めている。気のせいか歯がガチガチと打ち鳴らされていないだろうか。体が震え始めているが、それは電気による痙攣や、恐怖によるものじゃない何かが含まれている。

 そこでシアンは思いだした。

 以前にライムから驚かされる事実を教えられた。

 竜宮紅葉はとてももろい女性であると。

 とても寂しがり屋であり、心の奥にトラウマを抱えている女性なのだと。

 最初は信じられなかったが、昴から教えられたことだと言われると、一応信じることにした。

 そして目の前の紅葉は昴が死ぬことを恐れ始めている。それは人として、仲間として、幼馴染として普通の光景なのだろうが、それにしては重い反応をしている。

 

「……っ!」

 

 これ以上放っておくわけにはいかない。じっとしていても状況は変わらないのだ。

 紅葉は負傷に加えてトラウマが出かかっており、体を思うように動かせないでいる。ならば自分が何とかしないといけない。

 ポーチを漁って何か使えるものがないかを探してみる。だが何も見つからない。

 

「……なにか、なにか……」

 

 ポケットや袋を探って持ってきたものを調べていくが、昴を助け出せそうなものは見つからない。小タル爆弾もあるが、これを使ったところで狂フルフルは止まらないだろう。むしろ放電によって体に当たる前に空中で爆発するに違いない。

 

「……あっ!」

 

 そこで思い出したものがある。

 

「コード・ノーマル!」

 

 その言葉を発してローブを通常状態に戻した。すかさず中に手を入れて探し物を取り出した。

 

「……これだ……!」

 

 小さくうなずいて狂フルフルへと駆け出した。充分距離を詰めたところで大きく振りかぶってそれを投げる。それは放電している電気に当たって破裂すると、独特の匂いを撒き散らした。

 

「……ゴ? ヴォ、ヴォ……ヴォォォォオオオオオオオ!!?」

 

 思わずのけぞって放電をやめてしまう。更に匂いによってのた打ち回っている。

 シアンが投げたのはこやし玉と呼ばれるものだ。

 素材玉にモンスターの糞を調合したものであり、破裂すればこやしの匂いが広がっていく代物である。

 その匂いは推して知るべし。

 人に対して不快な匂いであるものが、モンスターや飛竜に不快でないはずはない。もちろん嗅覚が通常のフルフルよりも鋭くなっている狂フルフルにとっては、さらに苦痛に感じることだろう。

 その結果があれだ。

 攻撃を中断するほどの苦痛のようだ。

 その間にシアンが昴へと駆け寄った。

 昴の体はひどいものだった。髪は焦げて逆立っており、フルフルDシリーズは所々焦げている。どうやらあの高電圧は電気に耐性があるフルフルDシリーズだろうとダメージを与えたようだ。

 

「昴、さん……!」

 

 小柄なシアンでは肩を貸して持ち上げたところですぐに体勢を崩してしまう。数歩歩いたところで紅葉が駆け寄ってきた。どうやらシアンが昴を助けに向かったところでのを見て、何とか体を動かせるようになったようだ。その顔は悲痛なものであり、さっとシアンの反対側の肩を持って歩き始めた。

 向かった先はライムのもと。彼の足元にはシビレ罠が設置されていた。そして彼の手には回復薬グレートが握られている。そしてライムの元へと運ぶと、シビレ罠から少し離れた場所に寝かせた。すぐさま回復薬グレートを飲ませようとするが、なかなか飲めないでいる。

 

「昴、飲んで……飲んでよ……!」

「……」

 

 微かな呼吸音が聞こえることから、どうやら死んではいないようだ。だがこのまま置いておけば死ぬことは間違いない。

 

「……くっ……コード・ノーマル!」

 

 そこで紅葉がローブを元に戻し、その中へと手を入れる。そして黄色い袋を取り出し、中から一つの塊を取り出した。このまま飲ませるか、と考えたようだが、少し考えて半分をかじり取る。

 そして昴へと顔を寄せて唇を重ねた。

 

「ん……ちゅ……」

「はわっ……!?」

「……!?」

 

 それが人命救助だとわかっていてもシアンとライムは赤くなってしまう。しかし気にした風もなく紅葉は唇を重ねたままかじり取ったそれを、舌を使って昴の口内へと入れていく。

 

「ん……ふぅ……。あとは……」

 

 今度は黄色い液体が入った瓶を取り出して中身を少量口に含む。そしてもう一回唇を重ねてそれを流し込んでいく。

 

「ちゅ、……ん、んん……」

「……ん、く……」

 

 喉が動いたのを感じて唇を離し、そしてもう半分を口に含んで再度重ねていく。

 

「ヴォルル……ヴォォォ……!」

 

 振り返れば狂フルフルがまだ悶えている。それほどまでにあれの匂いがきついようだ。まだ匂いがあの辺りに広がっているようで、何とかそこから離脱しようとよろめきながらも移動している。

 

「……よし、もう一度……!」

 

 まだ口移しで飲ませている途中だ。これが中断されるわけにはいかない。シアンは狂フルフルに駆け寄りながらもう一度こやし玉を取り出して投げつける。新たな匂いが充満し始め、狂フルフルは先ほどよりも苦悶な声を上げ始める。

 

「ゴ、ゴォォオオアアアァァァ!!!」

 

 また匂いによってのた打ち回る狂フルフル。これでまだ時間が稼げるだろう。

 見れば半分を飲ませ、もう一度液体を飲ませていくところである。

 

「じゅぷ……ちゅ、……ん、はぁ……」

 

 飲ませ終えて唇を離すと、二人の間に銀の橋がかかった。昴の喉が動いたので飲めたのは間違いない。

 昴に飲ませたのは秘薬と元気ドリンコだ。

 秘薬は昴が幼い頃に飲まされたものと同じであり、飲めば体の内側から傷を治していく効果を持つ。回復効果を持つアイテムの中ではトップクラスの回復効果をもたらしてくれる。だが高価であり、調合も難しいのでなかなか入手することは出来ない。

 そして元気ドリンコは落陽草の汁をハチミツと混ぜ合わせて作りあげた飲み物。スタミナを回復させ、体の内側から回復を促していく。

 早速効果が表れてきたのか昴が反応を見せ始める。

 

「……ん、ぐ、うぅ……」

 

 呻き声を漏らしながらゆっくりと目を開けた。

 

「す、昴っ!? 大丈夫!?」

「…………おう、紅葉」

 

 そんな声を上げてゆっくりと起き上がる。だが体を押さえて少しだけうつむいてしまった。

 

「……ぐ、あれは?」

 

 頭を振りながらそう言うと、未だによろめいている狂フルフルを見た。

 

「……なにがあった?」

「こ、こやし玉を投げたんですよ」

 

 少し恥ずかしそうにシアンが言った。

 

「……おぉ、その手があったか」

 

 どこか感心したような声を漏らしながら昴が立ち上がった。だが少しからだがよろめいているところを見ると、やはり完全な回復は見られない。

 

「ちょ、昴!? 別のエリアで休んだ方が……」

「心配するな……っと」

 

 心配そうな紅葉の声に苦笑しながら頭に手を置く。だがまだ電気が体に残っているようで、少しだけ静電気を発生させて紅葉の髪が少し逆立った。

 

「すまんな」

 

 すぐに手を離して謝罪すると、体を奔る電気に顔をしかめた。あれだけの電撃を浴びたのだ。フルフルDシリーズで多少は軽減されたとはいえ、長く浴び続けたダメージは大きい。少しだけ足元がふらついており、顔色も少々、いや、かなり悪そうだ。

 髪だけでなくフードの下の肌も焦げ付いているところからみて、ダメージは大きいだろう。というより、生きていること自体が奇跡に近いだろう。恐らくフルフルDシリーズでなかったら死んでいたかもしれない。

 だが生きている喜びを感じている暇はなさそうだ。狂フルフルが匂いから解放されて昴たちに顔を向けている。

 

「昴は下がってて。あたしが前に出る」

「……いや、俺も戦うぞ」

 

 飛竜刀【紅葉】を構えようとするが、すかさず紅葉が肩越しに振り返る。

 

「少しだけ休んでて! 今戦いに戻ってもいつものように戦えないでしょ!? お願いだから無理しないで!」

 

 どこか泣きそうな顔で紅葉が叫んだ。いや、実際に目が潤んでいる。どうやら少々トラウマを刺激してしまったようである。こうなったら少しだけ身を引くべきだろうか。

 昴がそんなことを考えていると、狂フルフルが少しずつ昴たちへの距離を詰めている。

 

「ヴォルルルル……!」

 

 こやし玉のせいで更に怒りが高まっているらしく、口から絶えず涎を撒き散らしつつ青白い吐息が漏れている。加えて発電しつつ歩いているため、空気がバチバチと弾けている。

 少しずつ電気が蓄積されているようで纏っている電気の量が高まってきている。

 昴たちは狂フルフルをシビレ罠へと誘い込むために、少しずつ後ろへと下がっていく。やがて狂フルフルが一気に距離を縮めようとしたのかその足が少し早くなった。

 そしてシビレ罠に足を乗せ、麻痺毒が体へと巡っていく。

 

「ゴ、ゴ、ヴォ、ゴルォォォォオオオ!?」

 

 そして体が痙攣し始め、身動きが取れなくなってしまった。それを好機と見るや紅葉が先陣きって走り出す。クックジョーを構えて力を込めると、頭へと殴りかかっていく。

 続いてライムとシアンが続き、それぞれ武器を構えて側面から斬りかかっていく。昴はポーチから一つのアイテムを取り出した。

 白い袋をしたそれの口を開け、宙に掲げて軽く放り投げる。それは小さな粒子を辺りに振りまき、昴たちの体へと吸い込まれていった。

 それは昴たちの自己治癒力を高めていき、回復を促していく。

 彼が使用したのは生命の粉塵と呼ばれるものだ。使用すると袋に入っている粉末がエリアへと広がっていき、人の体に吸い込まれていく。粉塵は回復させるだけでなく回復力を高めることで治癒を促してくれる。複数の味方を同時に回復させることが出来る貴重なアイテムである。

 このまま自分も参加しようかと思ったが、まだ体の調子が戻っていない。このまま参戦しても紅葉に何か言われそうだ。だが参戦しなければ早期の討伐は望めないだろう。

 どうしたものかと考えていると、シビレ罠の効果が切れたようで翼を広げた。その瞬間紅葉たちは一斉に距離を取った。

 

「ゴォォォァァアアアアア!!」

 

 首を伸ばして紅葉たちを薙ぎ払うようにする。もちろん電気を帯びて電気の鞭のようになっていた。

 

「っとぉ」

「はっ」

「やっ!」

 

 だが数度のバックステップで何とか射程外へと逃れる。発電しながら首を戻し、そのまま口元に集めて体を縮こませた。

 

「もっと離れて!」

 

 紅葉の言葉に二人はさらに後ろに下がった。同時に狂フルフルが後ろに下がりながら光弾を射出した。

 

「ゴォォオオオ……!」

 

 離れた場所に着地した狂フルフルが身を低くして唸り声を上げる。紅葉たちはもう一度集まって狂フルフルを見据える。次はどのような行動に出るのか様子を窺うことにした。

 

「……俺、も……、っ……! ご、ふっ……」

 

 昴もそろそろ混ざろうと思ったとき、喉元を何かがこみ上げてきた。思わず手で押さえてそれを止めようとするも、止められずに吐き出される。

 手に付いたそれは真っ赤な血。

 

「ごほっ、ごほっ……」

 

 紅葉たちに気づかれずに声を抑えて咳き込む。どうやら内臓に傷がついたようである。回復力が高まっているとはいえ、まだ傷は癒えていない。

 

「……」

 

 布を取り出して手に付いた血をふき取り、口も拭って何事もなかったようにする。不調は続いているが知られるわけにはいかない。

 

「……今なら混ざれるか」

 

 飛竜刀【紅葉】を構えて走り出そうとしたとき、狂フルフルの口元が淡い青が収束していく。そのまま首を持ち上げ、そして雪へと振り下ろそうとした。

 

「電気ブレスが来るよ!」

 

 その場から離れようとすると、狂フルフルの体を何かが貫いた気がした。それによって狂フルフルがのけぞり、あらぬ方へと電気ブレスが放たれる。

 

「な、なに……?」

 

 それが飛来した方へと視線を向けると、山の上から蒼桜の対弩を構えている優羅の姿が見えた。

 

「優羅っ!?」

「……」

 

 優羅は膝をつき、無表情で眼下の昴たちを見下ろしており、そのままもう二発狂フルフルへと撃ち込む。

 

「ゴ、ゴォォォオオオ……!」

 

 狂フルフルが優羅へと顔を向けて光弾のエネルギーを収束していく。

 

「……」

 

 優羅は蒼桜の対弩を引き、立ち上がってその場から駆け下りる。走り抜けた後に光弾が着弾していくが、優羅は冷静に山を駆け下りながら狂フルフルと紅葉、昴へと視線を向けていく。

 そして一度力を込めて跳躍し、昴の隣へと着地した。

 

「なぜ、ここに……?」

「……別の山でクエストをしていました。それより、負傷したのですか?」

 

 昴の顔色と装備の負傷具合で何があったのか大体の事を悟ったのだろう。何も言わずに狂フルフルを見て弾を装填する。

 

「……アタシも一応参戦します。早いところこの戦いを終わらせた方がいいです。でないと、危険です」

「何かあったのか?」

 

 優羅の様子に思うところがあったのだろう。出来うる限りの普段の表情で問いかけてみる。少し優羅は逡巡していたが、蒼桜の対弩を構えて呟いた。

 

「……あったというより、これから来ます」

「……来る?」

「……吹雪と共に」

 

 その言葉で昴は少し考えて一つの結論に至った。表情が少々崩れ、少しずつ目を見開く。一筋の汗が流れ、西の空を見上げた。

 黒雲はもうそこまで来ている。気のせいか風も強くなり始めている。

 

「…………わかりましたか?」

「……」

 

 うなずく昴を見て優羅は走り出した。

 

「ヴォォォオオオオ……!」

 

 一方狂フルフルは一度咆哮を上げて発電しつつ力を込めていく。何らかの攻撃をしようとしているのだろう。だがガンナーである優羅は接近しなくとも攻撃が出来る。

 

「……ホットドリンクでも飲んでおけ。アタシが引きつけておく」

 

 紅葉たちの横を通り過ぎながら呟くと狂フルフルへと火炎弾を射撃していく。

 

「ゴァッ、ゴァァアアアア!!」

 

 狙撃される優羅へと標的を変えたのか顔が優羅へと向けられる。その間に紅葉たちは効果が切れ掛かっていたホットドリンクを飲み干す。続いてライムとシアンが再び笛を取り出して音を奏でていく。

 笛の音を聴きながら火炎弾を撃っていた優羅は、狂フルフルの反応を見て弾を変えることにした。

 

「……貫通がいいか」

 

 弾を貫通弾Lv1へと切り替え、装填する。狙いは弱点である頭。だが頭は曲げられており、貫通距離は短いだろう。故に速射が出来るLv1を選択。

 

「……」

 

 光弾を素早く回避しながら頭へと貫通弾Lv1を撃っていく。それは確実に頭を貫いていき、何度も受けていれば当然のように狂フルフルの頭はのけぞっていく。

 その隙を突いて紅葉が接近していき、力を込めてクックジョーを振り上げる。

 

「ゴァアッ!?」

 

 その衝撃に狂フルフルが転倒した。先ほど何度も揺さぶられたせいか今の一撃が決め手となってしまった。

 

「……よし、今なら俺も……」

 

 飛竜刀【紅葉】を構えて狂フルフルへと駆け寄っていく。だがその速さは先ほどまでとは違って遅い。やはりあの高電圧のダメージが残っているのだ。

 

「ゴォォオアアア!! ヴォルォォォ!!」

 

 発電しながら力を込め、その場で跳躍して勢いをつけて着地する。それはあの高電圧ダイブだろう。昴は立ち止まり、紅葉は加速をつけて後ろに下がる。優羅も狂フルフルと昴たちの反応で悟ったのだろう。距離を取って装填している。

 そしてライムは狂フルフルから少し離れた場所にしゃがみこみ、新たなシビレ罠を設置していた。いつの間にやら新しいシビレ罠を調合したようである。

 

「ヴォルォォォオオオ!!」

 

 再び発電しながら身を低くし、どんどん発電してエネルギーを高めていく。これでは剣士は近づくことが容易ではない。

 

「ヴォォオオオオアアアァァァ!!」

 

 だが優羅も手出しできないよう咆哮を上げた。突然のことに紅葉たちだけでなく優羅も耳を塞ぐ。耳栓スキルが発動しているが、狂フルフルの咆哮では防ぎきれない。

 

「……く」

 

 これでは昴の時のように誰かが負傷する可能性がある。だが誰もが動けずにいる。狂フルフルは鼻を鳴らし、今度は紅葉に標的を変えたようだ。

 のっそりと体を動かして紅葉へと近づいていく。その体に纏われている電気は充分に高まっている。ザザミシリーズでは電気を受けきれるものではない。これが放たれれば、紅葉が死ぬのは目に見えている。

 

「ぐ、うぅ……紅葉……!」

 

 何とか紅葉を救出しようとするものの、体はいうことを聞いてくれない。

 

「ヴォォォオオオオオアアアアア!!!」

 

 そして狂フルフルは攻撃態勢に入った。

 誰もが昴の時のように見守るしか出来なかった。

 

 ――その時、空気が変わった。

 

 否、正しくは変わったではない。

 実際に変わっている。

 強くなり始めている風が更なる強さを持って吹き荒れている。

 これはまさしく吹雪だった。

 

 西から来た吹雪がここまでやってきたのである。

 

 そしてどこからか圧縮された風が狂フルフルを貫いた。

 

「ゴ、ゴォォァァアア……!?」

 

 貫くだけでなく、その体が崖の方まで吹き飛ばされてしまう。

 一体何が起こったのか。

 紅葉たちは耳を塞いだ体勢のまま呆然としている。だが優羅と昴は苦虫をかみ締めた表情をしたまま上を見上げた。

 だが巻き起こる暴風に体勢を崩し、紅葉たちも崖の方へと押しやられそうになってしまう。それでも、その姿を視界に納める。

 

「グルル……」

 

 それは天空より舞い降りてくる。鈍色に光る鋼のような甲殻に覆われ、大きな翼を力強くはためかせている。その度に強風が起こり、降り注ぐ雪と積もっている雪を巻き上げて白い霧状のものを作り出している。

 

「う、嘘でしょ……」

 

 紅葉が呆然とその姿を見つめて呟いた。

 それほどまでにその存在がここに存在しているのが信じられない。

 そんなことがあってはならないことである。よもや自分たちがその存在と相対するならばもう少し先になるのではと思っていたのだ。

 だが現実はそこにある。

 それは大きく翼を羽ばたかせた後、ずしん、と鈍い音を立てて着地した。

 顔を上げてその青い瞳がじっと昴たちを見据えている。その様は堂々としており、誇り高い存在であることを明確に知らしめていた。

 

「ヴォ……ヴォォォオオオ……!」

 

 そこで腹から血を流している狂フルフルがよろめきながら起き上がった。バチバチと電気を高めているところから見ると、まだ戦う気はあるようだ。

 

「……」

 

 それを見たその存在は昴たちから狂フルフルへと視線を移した。その青い目が細められ、ゆっくりと口をあけていく。強い風が収束していくのを見て、紅葉たちの表情が変わる。

 その射線上に立たないようその場から逃げるのと、それが放たれたのは同時だった。

 雪を巻き上げ、圧縮された風エネルギーが真っ直ぐに狂フルフルへと向かっていく。

 

「ゴ、ゴォォォォァァァアアアアア!!!」

 

 狂フルフルの断末魔の叫びが耳を劈く。そのエネルギーはかまいたちのようなものが圧縮されており、突風と切断の力が同時に存在している。体を切り刻まれながら血を撒き散らし、狂フルフルはその一撃の下に絶命させられた。

 

「……」

 

 それを見て昴たちが沈黙してしまう。

 そして再びそれを見据える。

 

「……本当に来るとはな、クシャルダオラ……」

 

 それは古龍と呼ばれる存在。

 鋼に等しい体を持ち、風を操り、空を翔けるように飛行する龍。

 鋼龍、風翔龍と呼ばれる古龍、クシャルダオラ。

 

「……グルル、グォォァァァアアアアアアアアアア!!!」

 

 天を仰いで甲高い咆哮を上げる。

 それを受けてライムとシアンが狂フルフルの時よりも青ざめて体を震わせている。

 古龍の雰囲気は普通の飛竜と比べて一線を画している。それはあの狂フルフルの冷たく刺すような殺気よりも深い。その堂々とした威厳に満ちた雰囲気に飲み込まれている。

 気質とは、時に殺気よりも、その者の放たれる気迫で凌駕している場合がある。クシャルダオラの気質はまさしくそれに当たった。

 

「……ここは離脱した方が……」

 

 昴が呟きながらその隙を窺うが、クシャルダオラはじろりと昴を見据える。するとクシャルダオラの周りで風が渦巻き、足元の雪が舞い上がる。

 そのまま身を低くすると昴へと突進を開始した。

 

「……っ!」

 

 咄嗟に横に飛んでそれを回避したが、クシャルダオラに纏われている風でバランスを崩してしまった。

 クシャルダオラは風を纏う古龍。

 クシャルダオラが現れればその地域は嵐に見舞われる。雪山では吹雪が巻き起こる。実際に今、先ほどまでの静けさはなく、激しさを増した吹雪に見舞われていた。

 

「グルル……」

 

 振り返って昴を見据えると、視線を動かしてライムたちを見回した。

 

「……ライム、シアン。お前たちは退け。これは無理だ。俺たちも退く」

 

 クシャルダオラを見据えつつライムたちに指示を出すが、二人はまだ体を震わせたままだ。

 

「……ちっ」

 

 舌打ちをした優羅が蒼桜の対弩を構えて走り出した。昴は負傷しているし、紅葉も回復してきたとはいえまだ不調だ。ここは自分が時間を稼ぐべきだと判断したのだろう。

 

「……」

 

 クシャルダオラは優羅に顔を向けると、口に風エネルギーを収束させて射出する。突風と共に風弾が優羅へと襲い掛かるが、弾道が見えていたのだろう。表情を変えずに落ち着いて回避し、銃口をクシャルダオラに向けて引き金を引く。

 だが纏われている風に阻まれて体まで届かない。

 

「……届かないか。なら」

 

 再び引き金を引くと今度は小さな爆発を起こし、先ほどよりも速い速度でクシャルダオラへと向かっていく。今度は風の守りを突破して頭へと着弾した。

 

「グッ……!? グルル……」

 

 それはクシャルダオラにとっては驚くべきことだろう。よもや飛来物が自分まで届くとは思いもしなかったらしい。

 纏われた風はそれだけで強固な守りの壁となる。飛来物は風によって勢いを失い、方向を変えてあらぬ場所へと向かっていくのが普通だった。

 だが優羅は彼女が編み出した方法によって無理やり突破させたのだ。

 

「グルル……」

 

 そのまま走り続ける優羅を見据えていたが、横から接近する気配に気づいて首を向ける。そこにはクックジョーではなく、骨の塊がそのままハンマーに加工されたようなものが握られていた。

 堅骨槌改。

 上位の骨を加工して作り上げられたハンマーである。上位になりたての頃に堅牢な骨を入手していたので、他の素材を集めて作り上げられたハンマーだ。シンプルな見た目に反して高い威力を持っている。

 

「おらぁぁあああ!!」

 

 振り返ってきた頭目掛けて振りかぶるが、風の守りがあって少し威力が相殺されてしまう。それでも紅葉は振りかぶり、クシャルダオラへと一撃を与える。

 

「グォウ……グルル、グァァァアアアア!!」

 

 着地する紅葉へと前足を振り下ろした。それを回避するが、下がってきた顔を感じて更に後ろに下がる。

 

「グォォオオ!」

 

 逆の前足を振りかぶりながら前に出ると、紅葉は加速をつけてそこから離脱した。その間に後ろから近づいていった昴が、飛竜刀【紅葉】から武器を変えて斬りかかる。

 取り出したのはシンプルな刀だ。だがその刀身には時折電気が走っている。

 鬼斬破と呼ばれる太刀。マカライト鉱石などの鉱石とフルフルの電気袋などを使用して作り上げられた雷属性の太刀だ。下位で作られる太刀の中では高威力を持つ太刀である。

 それを気を込めて振りかぶり、風の守りを突き破って斬りかかった。

 

「ゴァウッ!? グォォオオ……!」

 

 数度斬られたくらいではクシャルダオラは怯むことはない。加えて鋼龍と呼ばれるだけあってその体は硬い。何度か弾かれようとも離脱や攻撃を繰り返していく。

 だがクシャルダオラは一度距離を取り、翼を広げて風弾を放つ。そのまま低空飛行のホバリングを行った。

 羽ばたくたびに強い風が巻き起こり、攻撃が容易ではなくなってしまった。だが優羅はホバリングを行おうとも攻撃は可能だ。火魔法の爆発を応用して推進力を上げた貫通弾を撃っていく。

 

「……」

 

 落ち着いて攻撃を行うが、鋼の体はあまり傷がついていない。貫通弾を使用しているにも関わらず、微かな穴を作り出すだけだ。

 

「……これではだめか」

 

 流石は古龍といったところか。そんなものでは揺らがない。

 大きく息を吸うと、そのまま力強くそれを吐き出した。それはそのまま風のブレスとなり、優羅へと顔を向ければそのままブレスが周囲を薙ぎ払うように優羅へと向かっていく。

 

「……くっ」

 

 クシャルダオラが大きく息を吐くだけでそれがブレスとなりえる。足に熱をこもらせて走り出し、それを回避するがクシャルダオラはブレスを止めて滑空してきた。

 巨体が迫ってくるのを感じた優羅は熱から爆発へと切り替えて横に飛ぶ。

 

「グォォ……!」

 

 滑空をとめると同時に、翼を羽ばたかせて巨体が滑るように動く。そのまま優羅の前へと回り込んだ。

 

「……なっ……!?」

 

 驚くのもつかの間。回り込みながら口元に風エネルギーが集まっており、離脱するには遅かった。

 

「……くっ……!」

 

 ならばと守りに回るしかないと、ローブで体を包み込んだ。そして風弾が優羅へと直撃する。

 その体が突風によって宙に舞い上がる。

 そして彼女が吹き飛ばされる先には崖があった。

 

「ちぃ……!」

 

 昴が走り出して優羅の元へと向かっていく。紅葉たちはクシャルダオラを挟んで反対側だ。紅葉の風魔法の範囲外なので紅葉の救出の手は望めない。

 だから昴が助けに走るしかない。

 

「昴! 優羅!」

 

 紅葉も走り出そうとするが、その前にクシャルダオラが立ちはだかる。巻き起こる強風に煽られて足が止まってしまう。

 

「グルル……」

「ど、どきなさいよ……!」

 

 だがそんなことはクシャルダオラには通用しない。その口が開かれてまたエネルギーが集まっていく。

 そして昴は今、崖から落ちようとしている優羅へと手を伸ばした。

 

「……くっ……!」

「……な、昴……!?」

 

 右手は優羅の手を掴み、左手は鬼斬破を握り締め、地面に突き刺していた。

 

「が、ぐ……う、うぅ……」

 

 だが昴の体は不調だ。狂フルフルの攻撃のダメージが残っているというのに、こうして優羅を助けようと手を伸ばす。肩に負荷が掛かるが、それでも昴は手を離さない。

 

「昴っ!? あ、く……!」

 

 紅葉が昴たちの様子に気づいて駆け寄ろうとしたが、その前に風弾が着弾して風を巻き上げた。それに煽られて体が後ろに飛ばされる。

 

「昴さん! 優羅さん!」

 

 ライムも二人に駆け寄ろうとする。だが青い目がライムを捕らえ、彼の前に風弾を放って道を阻んだ。それだけでなく、彼の体が舞い上がって雪に投げ出される。

 

「グルル……!」

 

 クシャルダオラの唸り声が響く。力強く翼を羽ばたかせると、風と雪が舞い上がり、吹雪が更に酷くなる。近くにいた紅葉とシアンは顔を庇うようにするしかなく、ライムは雪に横たわっていた。

 そんな中で何とか優羅を引き上げようとする昴だが、優羅の表情に翳りが見えた。

 

「……は、離してください……。このままでは、昴も……」

「……却下、だ……!」

 

 苦しそうな声で言い放ちながら少しずつ引き上げていく。

 

「……な、なぜですか……?」

「何故もクソもない。絶対に、離さない……! 今度は、絶対に、な……!」

「……っ!」

 

 昴をここまで動かすのは過去の負い目があるからだ。

 あの時手を繋いで逃げ出そうとしていた昴たち。三人で一緒に行動していたからこそ、三人は一緒に村から逃げ出そうとしていた。

 だが、燃え盛る炎から舞い上がった火の粉の熱さによって優羅の手を離してしまった。だから彼女だけ爆発の奥へと消えていき、大人しかった彼女がこうまで変わってしまうほどの10年を過ごさせてしまったのだ。

 彼女に、寂しい思いをさせてしまったのだ。

 優羅が変わってしまったのは、根本的には自分のミスが原因だ。手を離さずにあのまま三人で逃げ出せていれば、こうはならなかったのだ。

 だから今度は絶対に離さない。彼女を引き上げてみせる。

 昴を突き動かすのは優羅に対する贖罪の気持ちと、絶対に助けてみせるという気持ちだ。

 幼馴染として、仲間として、兄として、必ず助け出す。

 そうやって引き上げていたが、両手が震え始めている。表情も苦しそうで、汗が大量に流れ始めている。

 

「……昴、もう、いいですから。手を……」

「却下だ! いいから、お前も上がって来い!」

 

 力を込めて一気に引き上げていく。ようやく優羅の手が雪に届きそうになった時、背後から声が聞こえた。

 

「昴さんっ! 危ないっ!」

 それはシアンの叫び。

 何事かと肩越しに振り返ると、自分たちを見つめるクシャルダオラの顔があった。口には風エネルギーが集まっており、今にもそれが昴たちへと放たれそうだ。

 

「昴っ!? やめてっ!」

 

 紅葉が叫びながらクシャルダオラへと走り出そうとしたが、強風は収まらず、逆に押し返されてしまった。

 

「昴! 逃げてぇぇぇぇえええ!!」

 

 すでに紅葉の顔は涙に濡れていた。

 それを見て、昴はなぜか落ち着いた顔になっていた。

 

 ――ああ、終わったか。

 

 世界がスローモーションに感じてきた。どうやら自分たちは死ぬようだとどこか遠い場所で思っていた。

 だがこの手を離すわけにはいかない。

 しかし優羅を引き上げる前にあの風弾が放たれ、そして自分たちは宙を舞うだろう。この下は深いのは間違いない。落下すれば命はない。

 氷魔法を使おうにも、体の調子が悪いせいで上手く形にならないだろう。守りも望めない。

 ならばこのまま身を任せよう。

 だが、紅葉のあの泣き顔を見て未練が浮かび上がる。

 恐らくトラウマが浮き上がるのは間違いない。そうなればどうなるか。その未来は容易にわかるというもの。

 だから紅葉を見つめる。

 

「……昴?」

 

 なぜか優しい顔で昴が見つめてきているのに気づいた紅葉が呆然とした顔で昴と視線を合わせた。隣にいるシアンも驚いた顔で昴を見る。

 そしてその口が動かされる。

 

 ――生きろ。

 

「……え?」

 

 紅葉が呆けた声を漏らすが、その時にはもうクシャルダオラの風弾が放たれていた。昴は鬼斬破を抜いて自ら崖へと飛び出した。風弾は昴が先ほどまでいた場所に着弾し、飛び出している彼を更に舞い上げる。それでも彼の表情は優しいものだった。苦しい顔を見せまいという彼の心が窺える。

 そして彼は優羅と共に、崖の下へと落下していく。

 それを紅葉たちは見つめることしか出来なかった。

 

「……あ、あ、ああ……」

 

 紅葉が体を震わせて両手を頭に持っていく。

 

「あ、ああ……」

 

 涙は流れ、震えは大きくなっていき、そして紅葉の悲鳴が響き渡った。

 

「いやぁぁぁぁあああああ!!!」

 

 腰が抜けたように雪に座り込み、うつむいて首を振っている。それはまるで今見たものが信じられない、という風にしている子供のようだった。

 

「いやだ……いやだ……、昴、優羅……行かないで……やだやだ……」

 

 すぐそこにクシャルダオラがいるというのに、無防備な姿を晒して呟き続ける紅葉を見て、シアンが泣きそうな顔になる。

 トラウマが発動してしまった。

 このままでは危険だ。

 

「グルル……」

 

 クシャルダオラがゆっくりと紅葉とシアンへと振り返る。昴たちの次は自分たちのようだ。

 

「あ、ああ……やだ、やだよぉ……。あたしを……置いて、いかないで……」

「なんとか、しないと……!」

 

 立ち上がって紅葉を庇うようにして立ちはだかった。だがインセクトオーダーは構えない。アイテムを取り出せるように両手を無手にしている。

 

「グルル……!」

 

 真正面からクシャルダオラを前にしているのにシアンは堂々としている、わけがない。今にも泣きそうな顔でクシャルダオラを見つめている。今でも体の震えが止まっていない。だが彼女は退くわけにはいかなかった。

 ここで逃げ出せば、誰が紅葉を守るというのか。

 昴は言った。

 生きろ、と。

 ならば生きなければならない。

 ふと、ライムを見れば、彼も同じようにして立ち上がっている。

 

「…………」

 

 ライムはじっとクシャルダオラを見据えて何かを考えるようにしている。何か手立てはあるのだろう。ならば自分も考えなければ。

 するとクシャルダオラが顔を上げて口をあけた。どうやら風弾を放とうとしているようである。ならば何かをするなら今しかない。

 ローブに手を入れてアイテムを探す。

 そして見つけ出した。

 

「閃光玉、使うよ!」

 

 ピンを抜いてそれをクシャルダオラへと放り投げた。同時に目を閉じると、眩い光があたりを包み込んだ。

 

「グ……!? グォォォオオオ!!」

 

 視界を奪われてクシャルダオラが苦悶の悲鳴を上げる。その間にシアンは紅葉へと屈みこみ、彼女のポーチからモドリ玉を取り出した。それを紅葉の足元に叩きつけ、彼女をベースキャンプへと転送した。

 続いて自分も、と考えたがクシャルダオラがシアンへと疾走してきた。

 

「うわっ……!」

 

 慌てて横へと跳んだが、クシャルダオラが体を捻って尻尾を叩きつけてきた。両手を交差させて身を守るが、小柄な体は大きく後ろへと飛ばされてしまう。

 

「あ、ぐ……」

「大丈夫!?」

 

 ライムが駆け寄ってきたので起き上がろうとしたが、痛みでバランスを崩してしまった。

 

「く、うぅ……」

 

 両腕がジンジンと痛む。これは骨がやられたようだ。

 

「グォォォオオオ!!」

 

 苦しげな声を漏らしながらクシャルダオラが暴れまわっているが、これはチャンスでもある。ライムとシアンがそれぞれモドリ玉を用意しようとしたが、そこで強風が巻き起こった。

 シアンが小柄なことに加えて両腕がやれれているため、バランスを崩して転倒してしまった。そんなシアンに気づいたクシャルダオラが二人に視線を向けた。

 

「グゥゥォォォオオオ……!」

 

 見るからに怒りが高まっている。それを見てモドリ玉を使う時間は与えられないことを悟った。ならば何か別の方法を考えなければ。

 

「グォォォオオオ……!」

 

 口をあけて風エネルギーが高まっていく。高まる力は今までよりも大きい。二人まとめて仕留めるつもりのようだ。

 周りは強風。思うように動くことは出来ないし、シアンは雪に座り込んだまま。

 それで悟る。

 あれは、逃げられない。

 

「……僕がやらないと……」

 

 クシャルダオラ力を高めていく今しかない。

 ライムが意識を集中させて両手を前にやる。

 

「ら、ライム? なにを……?」

「……大丈夫。月さんから少しは治療を受けているから」

 

 シアンはライムが魔法を使うのだと気づいた。確かに彼の言う通り、月に治療を施されている。しかし彼が使おうとしているのは恐らく高位の魔法。

 収束していく力の感じからそんな気がした。

 

「だ、だめだよ! 大きな力を使ったら、ライムが……!」

「……それでも僕は使うよ。ここで使わないで、いつ使うんだ……!」

 

 バチバチとライムの両手に電気エネルギーが集まっていく。イメージは狂フルフルの電撃弾。それを両手に収束させていく。

 さっきから観察したことであのイメージは頭にある。それを再現しつつ自分なりにアレンジを加えていく。

 右手をぐっと引いていき、それを雷の弾から槍へと変えていく。それは投擲型の槍のようなもの。完成したそれは充分な力を集められている。

 

「いっけぇぇぇええええ!!」

 

 大きく振りかぶってそれを投擲した。真っ直ぐにクシャルダオラへと向かっていき、胸へと吸い込まれていく。

 

「ご、ごぉぉおおおああ……!?」

 

 クシャルダオラがその一撃に苦悶の声を漏らした。風エネルギーが霧散し、クシャルダオラはたたらを踏んでいる。

 

「はは、成功、か。シアン……今が、チャンス……」

 

 そんな声を漏らして微かな笑顔を見せてライムが倒れていく。そのまま彼は意識を失ってしまった。

 

「ライムっ!? だい……だめ、今は離脱を……」

 

 気遣う声を漏らしかけたが、今はここから離れるのが先決だ。痛む腕を何とか動かし、ライムのモドリ玉を使用して彼をベースキャンプへと転送する。続いて自分の分も使用し、シアンもベースキャンプへと戻るのだった。

 

 

 ○

 

 

「グルル……」

 

 しばらくして何とか持ち直したクシャルダオラは顔を上げて辺りを見回した。崖の近くにはフルフルの死体が横たわっている。どうやら狂化の効果はなくなっていた。

 昴と優羅は崖の下へと落下していった。恐らく生きてはいないだろう。

 紅葉たちはどうやら離脱したようだ。何とか生き延びたようである。

 

「…………ふん」

 

 見苦しいものを見た。

 狂ったフルフルなど、この世界に存在してはならない。

 だから一撃の下に葬り去った。

 ついでに周りにいた人間たちも戯れてみたが、最後の最後になかなか面白いものを見たものだ。

 追い詰められた獣ほど恐ろしいものはない、ということなのだろう。

 それにしても……まさか本当にいるとは。あの女、やはり侮れない。一体どういう理屈でこういう予見をしたというのか。まあいい、仕事は果たした。

 顔を上げて空を見上げる。

 翼を広げて飛翔し、ベルト山脈より北、フラヒヤ山脈へと飛び去っていった。

 

 

 こうしてフルフル討伐クエストは幕を閉じる。

 クシャルダオラが殺したとはいえ、一応フルフルは討伐された。クエスト自体は成功とみなされた。しかしクシャルダオラの介入がギルドを騒がせることとなる。

 すぐに昴と優羅の捜索が行われたが、二人は見つけ出せずに終わった。一応行方不明とされたが、ギルドは彼らの死亡は間違いないとされた。

 紅葉は錯乱し会話不能、普通の生活もしばらく出来ない。彼女は部屋で寝かせることとなった。

 

 白銀昴 行方不明 死はほぼ確実

 竜宮紅葉 生存 しかし会話不能

 ライム・ルシフェル 生存 高位の魔法使用により意識不明

 シアン・フリージア 生存 両腕の骨にヒビがあり、しばらくは両手を使えない

 黒崎優羅 行方不明 死はほぼ確実

 

 『吹雪(ブリザード)』は――ほぼ壊滅状態となった。

 

 

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