呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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31話

 

 

 大陸のいずこかにある深い森の奥。一概に樹海と呼ばれる場所がある。

 人の手があまり入っていないその場所は木々が雄々しく茂っており、奥があまり見えない状態となっている。

 そしてその樹海の奥に古代の遺跡が存在する。

 旧時代に建てられた建物の残骸であり、時折遺跡調査団が現れる場所。しかし遺跡は朽ちており、朽ちた場所に穴が空いて、崩れた場所が見られる。また遥か古代に栄えた文明の名残が発見されることもある。

 その遺跡の中に数人の人影が存在する。現時刻は深夜。満月の光がその場所の灯となっていた。

 全員がローブを纏っており、フードで素顔を隠していた。

 アヴェンジャーとロスト、そして二人の隣にいた者もそこにいる。奥の方に夜色のローブを纏った女性がおり、そこにいる一同を見つめている。最後に銀色のローブを纏った何者かが瓦礫に腰掛けていた。

 

「しっかしまぁ、生きて帰ってくるとは思いもしなかったな」

 

 アヴェンジャーが感慨深く呟いた。そのローブの下には仮面がない。ここには仲間しかいないので顔を隠す必要がないのだ。

 

「まったく、笑いたくても笑えねぇなぁ、クッヒヒヒ……!」

「……笑ってるだろうが、阿呆が」

 

 やれやれと溜息をつきながら呟くと、またアヴェンジャーが低く笑った。

 

「わりぃな。なんていうか漏れてしまうわ、クッヒッヒッヒ」

「……よし。今なら居合い斬りによるツッコミがついてくるが、受けるか?」

 

 ローブの中に手を入れながら呟くと、その手を掴んで小さく首を振る。

 

「いや、いらねえからな。ってか恒例になってるけど、俺様を斬ってもしゃーねえって。斬るなら奴らを斬れってな。イッヒッヒヒヒヒ……!」

 

 その様子を見守っていた女性がパン、と一度手を叩いた。それでアヴェンジャーたちが静かになる。

 

「確かにクシャルダオラが彼らを全員殺せなかったのは惜しいこと。二人は消えたけど、死体はまだ見つかっていないようだから、安心できないけどね、くすくす……」

 

 彼らは以前より世界の動きはある程度把握している。その中であのクシャルダオラの動きも把握していた。あれは大陸の北部分を飛び回っていた。その行路にベルト山脈が含まれていたので、アヴェンジャーたちは手出しせず、クシャルダオラに任せることにしたのだ。

 

「でも朝陽さんはあの場所にいたよね?」

 

 ロストがおずおずと手を挙げると女性が小さくうなずいた。

 赤衣の男たちが気にしていた『朝陽』。それは彼女の名前である。

 

「ええ。一応近くにいたから様子を見に行ったのよ。でも、そのおかげで足止めは出来たけどね」

 

 フルフル討伐が順調だったので、狂化竜にして暴走させる。あとは新米二人を抱えているため、討伐時間が延びる。そして時間が延びるということはクシャルダオラがやってくる時間までそこにいる、という流れになる。

 古龍であるクシャルダオラならば、間違いなく昴たちを始末してくれるだろう。自分たちが手を出さなくても、勝手に死んでくれる。

 そう思っていたのだが、結果は少しだけ予想外のものとなった。

 昴と優羅は生死不明、行方不明。

 紅葉はトラウマが発動して会話不能。

 ライムは無理して魔法を行使し、現在意識不明。

 シアンはクシャルダオラの尻尾を両腕で受けたことにより、骨にひびが入っただけに落ち着いてしまった。

 クシャルダオラと遭遇してそれだけの被害で済んだというのが彼らにとっての不幸の中で授かった幸運だろう。

 

「まぁ、俺様たちが行ったところで、クシャルダオラに邪魔されるのがオチだわなぁ……。クッヒッヒヒヒ」

「そうだね。お兄ちゃんたちじゃ古龍には勝てるかどうかは怪しいから」

 

 古龍に対しては彼らも太刀打ちできるほどではない。とはいえ朝陽ならば可能かもしれないが、たった一人では撤退させるくらいが関の山かもしれない、とアヴェンジャーたちは思っている。

 

「さて、まだあれらが生き残っているから、貴方たちに任せることにするわね。機を見て始末しなさい」

「了解しました、朝陽様。クッヒヒヒヒ……!」

「わかったよ」

「……了解した」

 

 三人がうなずくのを見て、朝陽は瓦礫に腰掛けている銀のローブの者へと視線を移した。先ほどから一言も言葉を発していないその人物は、朝陽から向けられている視線に気づき、微かに顔を動かした。

 

「アキラ、貴方はラティオ火山であれらの観察を。フルフル、ドドブランゴ、ギザミのデータはもう揃ったから充分よ」

「うむ。確かに承った」

 

 厳格な男の声がフードの中から聞こえてきた。

 

「ジンもご苦労なこったな。常に世界を飛び回って観察たぁ……」

「それが儂の役割故な。貴様も観測者、観察者がどれだけ重要かわからんでもあるまい?」

「クッヒッヒヒ……違いねえ」

 

 この男、名をアキラ・ジン・ウェスタン。通り名は『世界(ワールド)()観測者(オブサーバー)』。通り名の名が壮大すぎるので、彼は名前で呼ばれている。

 役割は狂化竜や世界の観察。そしてその先を読み取り、伝える観測者でもある。常に裏で動き、狂化竜のその後の動きなどを知らなければいけない彼らにとってなくてはならない必要な存在だった。

 

「朝陽様はこれからどうされるので?」

「私はここで新しい種を作るわ。ヒプノックはすでに終了しているから、ナルガやエスピナスでも試してみることにするわ。くすくすくす……」

「おぉぉぉぉおおおお!?」

 

 その言葉にアヴェンジャーが大げさに驚いて見せた。

 その二種類の飛竜は危険度でいえば高位に属するものだ。今まで順当に狂化させていったが、ついにそこまで至ろうというのか。

 

「クッヒヒヒ……! 遂に迅竜に棘竜もか……! こりゃぁ楽しみで仕方ねぇなぁ! 想像するだけで高ぶって、おぉ、おぉぉぉお、イきそうになるぜぇ……! クハッ、クハハハハ……! 」

「……おい」

 

 じろりと睨みつけるがすでに遅し。アヴェンジャーの隣にいるロストが小さく小首をかしげて頬に指を添えた。

 

「イく? どこに行くの?」

 

 あまりにも純情な言葉に、アヴェンジャーの目から涙が流れる。だがその首元に黒塗りの太刀が添えられ、下から凍えきった眼で見上げてくるその様に苦笑が漏れてしまう。

 

「一遍死んでみるか? こいつの前でシモの話はするなと言ってるだろう?」

「まぁまぁ、落ち着け。ささ、黒刀をしまおうぜ?」

 

 カンタロスの羽で作られた切れ味抜群の黒刀をそっと摘まんで刃を遠ざけていく。しばらく見つめあっていたが、溜息をついて黒刀をローブへとしまった。

 ロストがくいくいっとアヴェンジャーのローブを引っ張って小首をかしげた。

 

「お兄ちゃん、どこに行くの?」

「いや、行かないぜ。これが終わったら一緒にドンドルマに戻るさ」

「??」

「まぁ、もう少し大人になったら教えてやれなくもねぇが……、ロスト。お前はそのまま純情で無垢なまま成長してくれや、クッヒヒヒ……。今時そんな娘っ子はすくねぇからなぁ……」

 

 また涙を流しつつ、ぐっと拳を握り締めて感慨深く呟いた。

 狩るか狩られるかの世界だが、それなりに年をとれば自然とそんな知識は付く。だがロストの場合は、ある意味閉じた世界で育ったためにそんなものとは無縁だった。だからこんな風に綺麗なままで育った。

 その役割で世界に溶け込んでいるというのに、何も知らずに育ってきたのである。これはある意味奇跡の結晶といえよう。

 

 やがて数時間もすれば日が昇る時間になる頃合いになった。アヴェンジャーたちはドンドルマに戻らなくてはならないので、ここでお開きとなる。

 

「では、これで解散とするわ」

「お疲れ様です、朝陽様」

「おつかれさまです」

「……おつかれさん」

 

 それぞれ挨拶を交わすと、アキラも瓦礫から腰を上げる。

 

「では、儂はこれで失礼する」

 

 小さく頭を下げると、そのまますぐに立ち去っていった。

 アヴェンジャーたちも立ち去ろうとすると、遺跡の隙間から小さな影が現れた。

 

「キ?」

 

 小柄な体躯で妙な被り物をしている。体形は人と変わらず、鉈のようなものを手にしていた。

 

「おう、チャチャブーか」

 

 獣人種の中で奇面族と呼ばれる種族であり、森や樹海の奥に集落を作って生活をしている。小柄ながらも戦闘力はバカに出来ず、鉈を振り回すだけでなくアイテムを使用してハンターたちに襲いかかってくる。飛竜が近くにいようともかまわず攻撃してくるため、防具が弱ければ大けがをする可能性もある、少々危険な種族だ。

 

「キー、キー!」

 

 両手を振り上げて奇声をあげると、そのまま鉈を振り回して接近してくる。だが離れた所にいる朝陽がローブの下からギロリ、と睨みを利かせた。

 

「キッ!?」

 

 その迫力と殺気に押されてチャチャブーが立ち止まる。朝陽だけでなく、アヴェンジャーも殺気を放つとチャチャブーは反転して逃げ出していった。

 その後ろ姿を見ていた朝陽が口元に手を当てて小さくうなずいた。

 

「……そうね。奇面王にも手を出してみる、というのも悪くはないかもしれないわ」

「なんとっ!? アレにまで狂化をかけるつもりでっ!?」

 

 奇面王、キングチャチャブー。チャチャブーの集落の王であり、集落をまとめ、統括する者である。一回り大きな体をしており、ハンターの使う肉焼き器を被り物としており、鉈ではなく棍棒を武器としている。

 チャチャブーたちの上に立つ者だけにその強さは驚異的であり、個体によればドスランポスたちを軽く凌駕している。あるいは、イャンクックに等しいほどでもあり、小柄な体で驚異の攻撃力で暴れまわるのだ。それは飛竜よりもやっかいにとるハンターも少なくない。

 そしてキングチャチャブーは元から荒々しい。集落に足を踏み入れた侵入者がいればチャチャブーたちと共に侵入者を排除しようと暴れまわる。怒りが高まれば肉焼き器の火が燃え盛り、辺りに火種をまき散らして炎に包むか連続的な爆発を引き起こす。

 例えるならそれは怒れる火山の噴火。怒髪天とでもいうのだろうか。とにかく怒らせれば危険極まりない。

 そんな相手を狂化させるのだ。それを世に解き放てばどれほどの被害が出るのか。

 

「クッヒヒヒヒ! ドンドルマの街に放てば大騒動だなぁ! それは非常におもしろくなりそうだぜぇ……クッヒヒヒヒヒ!!」

 

 その時の光景を想像したのか、アヴェンジャーの笑い声がいつも以上に喜色が含まれていた。その様子を見てロストはどこか嬉しそうだ。慕っているアヴェンジャーが嬉しいと、どうやら自分も嬉しいようである。

 

「予定、だけどね。でも本当に奇面王も狂化させるかもしれないわ。近いうちに『作戦』を行なうから、その際に投入する可能性も高いわね。くすくす……」

「やっぱそうですか? イッヒッヒヒヒ……!」

「ええ。その『作戦』の時にあの『吹雪(ブリザード)』の生き残りを始末してもいいけど、それは貴方たちに任せるわ。今なら楽に殺せるし、さっさと殺してもかまわない。……でも――」

 

 そこでローブの下にある藍色の目が細まった。

 

「――私たちを嗅ぎまわる別の存在の気配がするわ。『吹雪』、月、それらに含まれない何者か。誰かは知らないけど、注意しておきなさい」

 

 それは赤衣の男と雷河のことだが、朝陽たちはその正体に気づいていない。うまく気配を消して監視しているようで、幸い存在こそ気付かれているが、それ以上には至っていないようだ。

 それ以上の情報は欲しいが、これ以上の情報は漏洩したくない。

 相反しているが、道理でもある。

 

「了解しました。それなりに注意は払っておきますよ、クヒヒヒヒ……!」

 

 アヴェンジャーが先行し三人は遺跡の前に待機させているアプトルに乗る。そして手綱を引いてアプトルを走らせ、遺跡を後にした。

 残った朝陽は一息つくと、自分も遺跡を後にする。向かう先はチャチャブーの集落。さっそく奇面王でも狂化させてみようと思ったのだ。

 思い立ったら吉日。

 素早く動くナルガクルガや、めったに姿を見せないエスピナスよりはまだマシだろうと思い至った結果である。

 

「第二段階は近い。絶対に成功させないといけない。そのためにもっと、もっと力を……。奴に勝てる力を……!」

 

 誰にも聞こえない微かな声で呟きながら、夜色のローブ樹海の奥へと消えていった。

 

 

 ○

 

 

 ドンドルマの宿の一室。

 『吹雪(ブリザード)』のメンバーが宿泊しているその部屋は重い空気に包まれていた。

 まず、リーダーである昴は行方もわからず、生死も不明。ギルドの者が辺りを捜索したものの、その姿は発見できなかった。一緒に落下したと思われる優羅も同様に不明である。

 そして紅葉はトラウマが発動してしまった。ドンドルマに戻ってきてからもその目は光を映しておらず、虚空を見つめている。

 生きているのに死んでいる。

 そんな言葉が浮かぶ光景だった。話しかけても言葉は返ってくることはなく、ただ二人の名前を呼び、「どこ?」「置いていかないで……」「いやだ、いやだ……」と繰り返すだけ。

 まさに、会話が成立していなかった。

 普段が普段だけに、その姿にシアンは衝撃を受けることとなった。頼れるお姉ちゃんだった紅葉は消え失せ、そこには子供か、あるいは人形のようだった。

 そのシアンは両腕に包帯とギプスを巻いており、指がかすかに突き出ている状態だ。クシャルダオラの鋼の尻尾は小柄なシアンの両腕を装備の上から亀裂を生みだし、その機能を著しく奪う形になった。

 しばらくこのままであり、当然ながらハンターとして行動はできない。というより両腕が使えないのでいろいろと生活に支障が出てきた。

 同じ女性である紅葉はあの状態なので、ヘルパーを頼むことになった。

 最後の一人、ライムは今もなお眠ったまま。月から治療を受けたとはいえ、やはりそれを超えるだけの力を揮ってしまったようだ。その反動で意識が飛び、体に少しだけガタがきた。

 治療は施されたものの、今なお意識は戻っていない。

 ふと、部屋の扉がノックされた。

 

「はーい、どうぞ」

 

 両腕が使えないので外の人に呼びかけるしかできない。とてとてと扉の前に向かうと、ゆっくりと扉が開かれた。

 

「失礼するよ」

 

 やってきたのはレインだった。後ろにはサンとゲイルもいる。

 ギルドナイトの三人組が入ってきたことでシアンは少し呆けてしまった。

 

「調子はどうかね?」

 

 シアンを見下ろしながらレインが問いかけると、はっとして、レインを見上げる。

 

「あ、えっと……。変わらず、ですね」

「そうか」

 

 部屋を見回すレインが奥の部屋を見つめる。開かれた扉の先に紅葉が座っているベッドがある。相変わらず瞳に生気はない。隣のベッドにはライムが眠っており、そちらも目を覚ます気配はなかった。

 借りている部屋は中心に集まるための広めの部屋があり、右側に部屋が二つ用意してある。それぞれが寝室となっており、ベッドが二つ用意されていた。

 紅葉とライムはその一室に寝かされている。シアンは中心の部屋にあるソファーで眠ることにしていた。その方が何かあった時のために対処できると思ったのだ。扉は常に開かれたままであり、開け閉めする、という行為を省いている。

 

「あの……、大丈夫、なんですか?」

 

 ゲイルが恐る恐る、といった風に声をかけてきた。やはり見た目の印象通りどこか気弱で大人しそうな少年だった。

 

「あ~……うん、まぁ、ね。ちょっと痛むけど、たはは……」

 

 苦笑しながら軽く腕を振ってみる。

 ハンターになれば怪我を負うのは日常茶飯事だ。しかし骨までやられたのはこれが初めてだったりする。今までは切り傷や打撲が多かったが、まさかドンドルマに来て二回目のクエストでこれほどの怪我になるとは思いもしなかっただろう。

 ましてやクシャルダオラという古龍と遭遇してしまったのだ。冗談ではなく死ぬと思った。しかし状況が変わった。

 昴から生きろ、と言われ、紅葉がトラウマを発動させてしまった。

 動けるのは自分とライムだけ。

 ここで引けば自分は一生後悔する、と思ったのだ。

 それに引いたところで生き残れる保証はない。だったら、前に出て何か行動しなければいけない。だから震える体でしっかりとクシャルダオラを見据えたのだ。

 怖かった。

 内側からくる恐怖にあらがうので精一杯だった。

 でも、自分たちはこうして生きている。

 負傷したけど生きている。

 生きているなら、まだ何かができる。

 その気持ちがシアンの中に広がっていたのだ。

 骨のヒビだけで済んだだけでも儲けものだ。狂化竜に会っているのに生きている、ということもあるから、どうやら悪運だけは強いようだ、となんとなくシアンは思っていた。

 

「シアンさん、でしたね」

 

 そこでサンがじっとシアンを見つめていた。

 

「あ、はい。そです」

「私たちは話があって参りました。少し時間、いただけますか?」

 

 おそらくクエストに関しての話だろう。ギルドの者として把握しておく必要があるようだ。シアンはうなずき、部屋の中央にある椅子へと向かっていく。その後ろを三人がついていき、シアンとレインが向かい合って着席した。レインの右側にサン、左側にゲイルが着席する。

 

「まずはフルフルのことだ。死体を回収した者が言っていたが、あれは正面から幾重のかまいたちのようなもので、外から、中から切り裂かれたようだ、と言っていた。あれを仕留めたのはクシャルダオラ。そうだな?」

「……はい、そうです」

「どういう経緯でそうなったのか、説明してもらえるかね?」

 

 うなずいたシアンが全てを話した。

 最初のうちは普通に戦っていたが、何者かが現れてフルフルを狂化させた。それからなんとか戦いは続けられたものの、紅葉と昴が負傷する。そして優羅が現れて助太刀するが、それから数分後にクシャルダオラがやってきた。クシャルダオラは狂フルフルを見ると、一撃のもとに葬り去った。

 そこまで説明すると、レインはうなずき、隣のサンがメモ帳にその話を書き綴っていた。どうやら彼女は記録する役割を持っているようである。

 

「そしてクシャルダオラとの戦闘を行った、と。そうだな?」

「はい。撤退しようにもそれは無理な状況でしたから。吹雪がひどく、強風でわたしとライムは思うように動けず、昴さんは大怪我、紅葉さんも負傷していました。まともに戦えるのは優羅さんだけでした」

 

 だから時間を稼ぐために自ら前に出た。続くように紅葉が接近、そして昴も肉薄する。しかし優羅が風弾を受けて崖から落下しそうになり、昴が何とかそれを止める。

 助けに入ろうとした紅葉も強風に足止めされ、クシャルダオラは二人へと風弾を放ち、二人は落下していった。

「そして竜宮紅葉はあの状態となった、と」

 

 小さくうなずきながら呟いた。それにシアンもうなずく。

 

「あとは何とかあそこから離脱するためにわたしとライムが戦いました」

「その際にライムが魔法を使ったわけだね? 使えばその身を傷つけるのをわかっていながら」

「はい」

「……ふっ、なかなか男を見せるものだね。とてもそうには見えなかったが、人は見かけによらない、ということか」

 

 二度会った時の光景を思い返し、小さく笑みを浮かべている。隣でメモをしているサンは表情を変えずにペンを走らせ続けている。そしてゲイルはじっとして二人の会話に耳を傾けていた。

 

「……なるほど。君たちは一つのクエストで二度も想定外の事象に出くわした、というわけか。しかも内容がそれとは……。ふっ、そんなこと、めったにあるものじゃあないと思うがね」

「あはは……、やっぱりそうですよねぇ……」

 

 苦笑を浮かべるシアンに、レインは目を細めてニヤリと笑う。

 

「そして生きて帰って来れたのもまた奇跡といえよう。本当に幸福なことだ。……白銀昴は残念だったが」

 

 小さく溜息をついて首を振る。だがシアンはそれにむっとした顔を見せ、ダンッ! と手……は使えなかったので足で机を叩いた。

 

「昴さんは死んでませんっ! もちろん優羅さんもですっ! お二人は絶対に生きていますッ!!」

「……ほう」

 

 少しばかりきょとんとすると、小声で笑い声が漏れてしまった。口元に拳を当ててシアンを見つめて小さく頭を下げた。反射的だったとはいえ、ギルドナイトの前で足で机を叩いてしまった。紅葉ならやりそうなことをついやってしまったことに、少し後悔してしまう。

 

「いや、申し訳ない。早計だったな。彼のことだ。どこかで生きていると信じよう」

「……はい! お二人は生きています! 誰もが信じなくても、わたしは信じ続けます!」

 

 そう言うシアンの目には強い意志がある。“絶対”にそうだと信じきっている、澄んだ、強い瞳だった。

 元々ライムはクロムが生きていると信じている。それも5年間も、だ。

 ギルドの者は死んだと処理しても、ライムは頑なに探し続けている。“絶対”に“どこか”で生きているのだと信じ続けているのだ。

 強い意志は力を持つ。

 そして願いもまた力を持つことがある。

 そうありたい、そうなってほしいなど、強く思うことで力を持つのだ。

 信じ続けることで強い力が発現することがあるのだ。しかし大抵はそれが叶うことはわずかなこと。誰もが願いを持っていても、それが“絶対”に叶うなんてことは有り得ない。

 そしてライムはそんなことは無関係に信じ、願い続けている。たった一人の家族の生を信じるのに理由なんて必要ない。

 でもシアンはその姿をずっと見続けてきた。だからシアンも願っている。クロムが生きていてくれることを。その願いが叶えられることもまた願って。

 そして今度は昴と優羅の生を願う。これもまた理由などない。『吹雪』の仲間が、自分たちを導いてくれる大切な人たちなのだ。ただ純粋に信じなくてどうするのだ。

 

「……ふっ、君もまた見かけによらず強い少女のようだ。いいことだな」

 

 そのレインの表情は皮肉ったものは一切なく、ただ優しい兄のような表情をしていた。

 

「……さて、そろそろ私たちは失礼しよう。時間をとらせてすまなかった」

「いえ。そんなことはありませんよ」

 

 立ち上がったレインに続くようにサンとゲイルも立ち上がり、そして頭を下げあった。そして三人は玄関に向かうと、レインが振りかって微笑を浮かべた。

 

「また時間が取れれば来ると思う。その際はよろしく頼むよ」

「はい」

「失礼いたします」

「では、また……」

 

 サンとゲイルも頭を下げ、三人は静かに去っていった。

 

 

 ○

 

 

 宿屋を出て街を歩きながら心の中で微笑する。

 まだ彼らは調子を取り戻していない。ならば、始末するならば近いうちがいいだろう。

 

(今夜か明日にでも決行した方がいいかな?)

 

 ロストは考える。

 彼らだけでなく、ここにいる二人も自分の正体に気づいていない。

 当然だ。

 完璧にこなしている。

 今まで誰にも見破られたことはないのだから。

 でも油断は出来ない。

 見破られたことがないからといってこれからも見破られない、ということはないのだから。

 

(さて、帰ったらお兄ちゃんに報告しないと)

 

 共に歩く二人のギルドナイトと共にロストは仕事を続けるのだった。

 

 

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