呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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36話

 

 

 セクメーア砂漠。

 ドンドルマから南東に数日進んだ先にある砂漠であり、それなりの規模を持つ。周りには村や町がいくつか展開されており、砂漠の中心部にあるオアシスの町を経由して東西南北へと移動する。また南に展開されているジャンボ村やアヤ国から多くの行商人も多く通っており、大陸の南東部分の行路として利用されている。

 しかしこの砂漠はよくダイミョウザザミが出没し、知らずに近辺を通りかかって襲われる話がよく耳にされる。そのためよくドンドルマからハンターが派遣されて討伐されるか、護衛として同行することが多い。

 さて、そんなセクメーア砂漠のベースキャンプを完成させて地図を確認。この付近はタイタン砂漠やゴル砂漠北部のような地点になっているようだ。ベースキャンプから見て東から南に砂漠があり、西から北へは岩山地帯となっている。

 

「こういう地形だと、ザザミは砂漠でうろついていることが多い。おそらくはここ、エリア5にいるんじゃねえかな」

 

 とんとん、と指を叩きながら言う。

 雷河が地図を広げ、それをライムとシアンが覗き込む形になっている。焔はテントの周辺に腰掛けてのんびり欠伸をしていた。なんともやる気のない光景だ。

 

「ザザミは気をつければそんなに苦戦する相手じゃねえ。元々あいつらは好戦的じゃねえからな。でも気を抜けばその巨体に似合わぬスピードで押し切られるから気をつけな」

「はい、わかりました」

 

 うなずくライムに口の端を釣り上げ、そして視線をシアンに移す。

 

「嬢ちゃん。お前さんはとりあえずは砂に足を取られずに動けるようなコツを掴んどけ。嬢ちゃんの武器の一つは手数だろうが、親父の言う通りその腕は治りたて。あまり激しく動かすな。ならば隙を窺い、ここぞで斬り込み、離脱する。つまりは一撃離脱。その鍵は足にある」

「……そうですね」

 

 手数で攻める双剣だが、腕が上手く使えない今ではその攻撃力は著しく低下しているだろう。ならば一撃離脱の作戦を取るしかないのは雷河に言われなくてもわかっている。

 そして小柄な彼女の一番の武器は足にある。素早く動き回って翻弄しつつ攻める。それが彼女の狩りのやり方だ。

 今回はそれを重点的に行うことにする。

 加えて密林や森丘のように普通の地形ではなく、砂に足を取られる可能性がある砂漠での狩り。岩山地帯ならばまだ普通に戦えるだろうが、ダイミョウザザミがよく出るのは砂漠。

 ならば主な戦闘場所は砂漠になるのは必至。砂漠で戦うのはドスガレオスでよくやっているが、そこでもあまり速く動けたためしはない。それに火力を担当したのはスバルやモミジだったため、自分たちはドスガレオスの動きを完全に把握するために一撃離脱を主としていた。

 ドンドルマにやってくる以前に戦った際は自分たちも前に出て戦ったが、やはり同じように速さは制限されていた。

 だが今回は意識して行動する。ならばもしかすると足が鍛えられる可能性があるだろう。

 

「嬢ちゃんが修行すると同時に、坊主。お前さんも攻めるということを覚えろ。もちろんデスパライズは補助用武器だ。だが、それを利用して自分に出来うることを模索し、火力を無理やり生み出せ」

「……」

「そのための準備の指示はした。あとは自分で考えな」

「……はい!」

 

 ドンドルマから出る前に雷河はもちこむ道具を指示してある。そのための資金は雷河が用意した。それらを組み合わせていかに攻めるか。それを考えさせるのである。

 ライムがアイテムの使い手であることは事前に知っている。その調合の腕前や器用さは雷河も驚くほどだった。『随分と器用な魔族だな。人間のようだわ、……くく』と彼に言わしめるほどだった。

 ちなみに用意させたのは音爆弾、閃光玉、シビレ罠、落とし穴、投げナイフ、小タル爆弾、大タル爆弾、小タル、大タル、爆薬、ハレツアロワナ、バクレツアロワナ、カクサンデメキン。

 気づく人は気づくだろうが、この中で無意味なものがいくつか紛れ込んでいる。だがそのミスリードに気づくかどうかも試されている。あるいは、効かないということをわからせるためでもあるのだろう。

 

「俺は後ろで見守っている。だが焔も時には介入させる。まあ、出るかどうかは本人の気分だな。何せ気難しいからな、くくく」

「……ふん。猫の手も借りたい、とでも言いたいわけ? 笑えないんだけど」

 

 鼻を鳴らしてジト目で睨んできた。やはりアイルーなのに怖い猫だ。

 

「まったくよぉ、どうにかならんのか? アイルーなのに『にゃ』とか言わねえし」

「なに? 喧嘩売ってるの? 別ににゃーにゃー言おうが言わまいが、焔の勝手」

 

 それは確かにライムとシアンも思っていた。ギルドで働くアイルーたちはいつも「にゃ」がどこかについているのに、この焔はそれがない。

 いや、獅鬼にからかわれた時についていたことから、慌てた時などで地が出てくるんだろう。つまり意図的に「にゃ」を隠している。もしかすると「にゃ」をつけないことがプライドなのかもしれない。

 

「ホントによう、親父が言ったようにやはりいじらしい焔が懐かし……うぉうっ!?」

「おみゃーらは揃いも揃ってにゃにを言っとるかぁぁッ!? そんにゃにニャーをダシにしたいようだな、ああッ!? 頭を差し出すがいいにゃ! ぶんなぐってやるから、それで忘れるがいいッ!!」

「「…………」」

 

 なんというか、ある意味平和なんじゃないだろうか?

 少しだけ紅潮した焔が、跳躍して雷河に殴りかかっている。数発受けるも、次々と受け流しつつ焔をなだめているが、それでも焔は止まらない。

 そんな光景を見ていた二人はなんだか懐かしい感覚に包まれていた。

 昴や紅葉と一緒に過ごしていた時も、紅葉によって色々とからかわれたり、いじられたりしていた光景が思い出される。

 紅葉が楽しそうに笑ってライムとシアン、時に昴をいじり倒す。

 それをあたふたしながら困った表情をするライム。

 頭を撫でられ、胸元に抱き寄せられて表情をほころばせるシアン。

 そしてそんな光景を柔らかな笑みを浮かべて昴が眺めている。

 今ではもう見ることが出来ない四人の日常の一部。

 楽しかったあの時の気持ちが胸の内に広がっていく。

 感慨深くなっていると、無意識に瞳から雫が流れ落ちていた。

 

「……ん?」

「……にゃ?」

 

 気づいた雷河と焔が二人を見つめる。そして二人が何で泣いているのかを考えると、高まった気分が落ち着いてくる。

 頭をかいた雷河がローブの中に手を入れて布を取り出し、無言で二人に差し出した。

 

「……すみません」

 

 それで自分たちが泣いていることに気づいたのだろう。涙を拭きながら頭を下げる。

 

「まぁ、なんだ。大丈夫だろ。あの姉ちゃんはもしかすると、もうすぐ正気に戻るかもしれないからさ」

「……なんで、そんなことが言えるの?」

 

 涙を拭き、布を返しながら見上げると、にっと笑ってわしわしと頭を撫でてきた。

 

「何せあの神倉月さんだ。あの人なら何かやらかしてくれるだろうさ」

「……そう、ですね」

 

 月ならばまだ打つ手があるかもしれない。長く生きて知識もあるはずだ。もしかしたら、という気持ちがシアンの中に広がっていく。

 

「だから涙を拭きな。嬢ちゃんに涙は似合わねえよ」

「……はい!」

 

 泣きやんだシアンを見てまた雷河が笑いかけ、後ろを振り返る。そこには井戸があり、その下にはエリア6の地底湖が広がる場所へと繋がっている。ロープを取り出して近くの岩に括りつけ、残りを下に下ろす。

 

「ほんじゃあ狩りに行こうか。準備は出来ているな?」

「「はい!」」

 

 ローブを脱ぎ、下からクックシリーズが現れる。ライムの武器はデスパライズ、シアンの武器はインセクトオーダー。

 そして雷河は竜車に近づき、ローブから一つの箱を取り出した。蓋を開けると、それを竜車に当てる。するとみるみるうちに竜車が縮み、箱の中へと入ってしまった。

 

「今回は爆弾を持ち込むからな。一応俺が運んでおくよ。使うときになったら言え」

「ちなみに持ち込んだ大タル爆弾は焔が持ち歩く。でも竜車を出したらそっちに乗せておく。あとは自分たちで使うタイミングを考えておくこと」

 

 爆弾に関しては人よりもアイルー族が扱いに長けるといわれている。人の作る爆弾はアイルー族に比べると少々威力が落ちるといわれており、また使い方も違う。人は設置して使用するが、アイルーは持ち上げて投げたりそのまま特攻したりするのだ。

 また雨の中では使用できない人の爆弾に比べ、アイルー族はどういう技術を用いたのかは不明だが、防水加工をしており、雨の中でも爆発する。

 その技術をいつかは教えてもらいたいと思っている人族だが、未だにその技術は伝授されていない。

 

「じゃ、俺から先行しよう。安心して下りて来い」

 

 ローブを脱ぐと下から金色装備が現れる。そして武器は大鬼薙刀を選択したようだ。テントの中にローブを放り投げると、ロープを掴んで井戸の中へと飛び込んだ。

 続いてシアン、ライムと続き、焔もロープを掴んで下へと下りていった。

 

 

 エリア5へと出ると、砂漠特有の強い日差しが差し込んできた。クーラードリンクを飲み干して暑さを緩和するが、それでもやはり暑い。後ろからついてきている雷河の手には竜車を引く取っ手が握られている。中には焔がローブから取り出した大タル爆弾がいくつか乗せられている。

 洞窟から外に出て数分。前方数百メートル先に妙な物体が見えた。

 少しだけ砂煙が巻き上がっているが、それでもあれが何なのか朧げにわかる。

 

「……モノブロスの骨?」

 

 ライムがぽつりと呟いた。

 首付近にある襟飾りに、鼻先から伸びる一本角。骨になってはいるが、図鑑で見たようなモノブロスの頭部だった。それが不自然にぽつんと置いてある。

 

「……まさか、あれが?」

「うん、ダイミョウザザミのヤドじゃないかな?」

 

 彼の疑問にシアンがうなずいた。恐らく本体は砂の中に息を潜めているのではないだろうか。

 なにはともあれ、早速見つかったのだから僥倖だ。あとはどうやって攻めるかが問題である。戦うのはライムとシアンだけ。雷河は傍観、焔も恐らくほとんど傍観だろう。

 ならばどうやってダメージを稼いでいくかが鍵になる。丁度爆弾も用意しているが、普通に設置するだけじゃ意味がないだろう。

 またここは砂だ。落とし穴は無意味。だから罠を設置するならシビレ罠になるだろう。

 普通にシビレ罠を設置し、誘い込んで爆弾を設置するのがデフォだろうが、それだけでは足りない。

 そこで浮かんだのが魚。

 調合書を読み漁っているライムは、大タル爆弾を上回る爆弾の存在を覚えていた。

 大タル爆弾G。

 Gの名がつくのは伊達ではなく、大タル爆弾よりも大きな爆発を起こして相手にダメージを与える爆弾だ。当然ながら店で買うことは出来ず、ハンターが自ら調合することで作り上げる。

 

「確かレシピは……」

 

 記憶の中の海を越えていき、設置してある本棚に近づいていく。そして調合に関する本からその記述を引きずり上げる。魚があるのだからどれかが正解だ。手繰り寄せ、手繰り寄せ、そして調合手順を思い出す。

 

「……よし」

 

 振り返って竜車に近づき、大タル爆弾を置いて肉焼き機も取り出した。ポーチからカクサンデメキンと細長い筒を取り出す。カクサンデメキンを筒の中に入れ、肉焼き機の棒に固定して暖めていく。しばらく回転させて熱すると、筒の中で小さな爆発が起こる。

 筒を開けて粉末状になった粉のようなものを確認すると、大タル爆弾の信管を抜き、そっと中へと流し込んだ。すると信管の筒から小さな粒子が立ち上り、それを確認しながら棒でゆっくりとかき混ぜていく。しばらくそれを続けると、棒を抜いて距離を取る。

 すると、タルが膨張し始めて一回り大きくなった。様子を窺い、何事もないことを確認してふう、と息をついた。

 これで大タル爆弾Gの完成だ。

 タルが膨張したのはカクサンデメキンに含まれる粒子が爆薬に反応を起こし、粒子が周りを包む爆発効果を持つ粒子を増幅させる。するとそれに合わせてタルが膨張する、ということらしいが、詳しいことは不明。

 これを繰り返し、合計4つの大タル爆弾Gを作り上げた。

 続いて投げナイフを用意し、ポーチからネムリ草を取り出した。それをすり潰し、染み出た液体を投げナイフの先端に塗りこむ。これで眠り投げナイフの完成だ。

 その様子を窺っていた雷河が腕を組んで何度かうなずいた。

 

「調合書もないのに、大タル爆弾Gを作ったのも驚きだが、投げナイフだけ買わせたのにネムリ草も自分で用意しているとはな」

「単体ではただの爆弾の起爆役、で思考が止まるのを狙った?」

「まあな。調合するにしてもマヒダケとか毒テングダケも候補にあるだろうに、よもやネムリ草を持ってくるとはな。やはり道具に関しちゃあの坊主はなかなかの知識量だわ」

 

 爆弾もあるから眠らせることで、更なるダメージを上乗せする。これくらいのことは熟練のハンターになれば容易に思いつくことだが、新米ではその辺りの知識は乏しいことが多い。

 雷河の言うように安全に起爆できるということで、『投げナイフ=起爆するためのもの』で考えが止まることが多いのだ。

 だがライムはそうではなかった。それすらも調合の種にしてしまった。混ぜるアイテムが指示になかったため、自分で持ち込み作り上げてしまう。

 まだまだ新米のハンターだというのに、そこまで頭が回ったことに雷河は驚きを隠せないでいた。

 

「さて、ダイミョウザザミは……」

 

 振り返ればまだあそこに潜んだままだった。恐らくは休憩中なのだろう。まだ大丈夫のようだった。

 大タル爆弾Gを竜車に乗せ、一行はダイミョウザザミへと近づいていく。

 その距離が残り200メートルほどになると、ライムはデスパライズを抜いて少しずつ足を速めていく。その後ろからシアンが続き、インセクトオーダーを構えた。

 竜車を引いている雷河は変わらぬ足取りで続き、砂によって動きが鈍くなっている竜車をあまり揺らさずに後を追う。

 そして焔はその隣で接近していくライムとシアンを眺めていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 足を取られないように、シアンは走ることに意識を集中させてみる。走ることで体温が上がり、砂漠の日光と相まってなかなかの暑さになるが、そんなものは気にならない。

 どういう走り方をすれば普通の足場に近しい速さで走れるのかを考える。しかしそんなに簡単につかめるものじゃない。相変わらずスピードが落ちているが、それでも意識して走ってみることで少しはマシな速さになっている。

 先頭を行くライムはモノブロスの角目掛けてデスパライズを振り下ろす。しかし骨だけにそれなりに強度はあった。何度か刃を入れるが、時折弾かれてしまう。反対側に回り込んだシアンは頬の辺りにインセクトオーダーを斬りこんでいく。

 何度かそうやって攻撃を加えていくと、地面が少し揺らぎ始める。外敵を感じてようやく起き上がるようだ。

 距離を取ると、赤い体が砂の中から姿を現す。

 

「ギギギ……! ギチッ、ガチッ……」

 

 両爪を振り上げて何事だ、と言っているのだろうか。キョロキョロと目を動かして外敵を探している。眠り、あるいは休憩を邪魔されたことで少々腹を立てているようだ。

 体が出てきたのならばそれでいい。デスパライズを腰に戻し、ポーチから作り上げた眠り投げナイフを取り出した。それを見たシアンもインセクトオーダーをしまって背後へと回り込んでいく。

 

「ギギ……!」

 

 爪を掲げて横歩きでライムへと接近していくダイミョウザザミ。だが後ろに下がりつつ眠り投げナイフを投擲する。それは腹へと刺さり、眠り成分がダイミョウザザミへとしみこんでいく。

 ポーチに手を入れつつ、爪から逃れるように距離を取るが、振りかぶられた爪から少し風圧が発生した。それは少量の砂を巻き上げるが、関係ない。更に回り込んで次の眠り投げナイフをどんどん投擲する。

 それが4回ほど行われると、ダイミョウザザミの動きが鈍り、ゆっくりと眠りにおちていった。

 

「……ふう」

 

 息をつき、そのまま竜車へと向かっていく。すぐそこまで竜車はやってきており、大タル爆弾Gを運んでいく。両爪の隣に一つずつ、顔の前に二つ設置し、距離を取る。何も塗られていない投げナイフを取り出し、爪の隣に設置している大タル爆弾Gへと投擲すると、それが大きな爆発を引き起こした。

 

「ギギィィィィイイイイ!?」

 

 連鎖反応として次々と他の大タル爆弾Gも爆発し、ダイミョウザザミは爆風に包まれてしまう。普通ならばあれほどの爆発に包まれれば即死だろう。

 しかし爆風の中に揺らめく影が動いたのを視認し、二人は同時に武器を構えた。

 

「ギギギ、ギ、ガガ……!!」

 

 両爪を振り上げて体を震わせ、怒りが高まっているのか口から泡が吹いている。だが爪や体からは甲殻がはがれ落ちて肉が見えている。そこから青い血が流れているところからダメージは確実に与えているのがわかる。

 そしてこれからが本番だ。

 

「僕が前に出るよ。シアン、後からついてきて」

「りょーかい!」

 

 返事を聞くと同時に、ライムが走り出した。

 それに対し、ダイミョウザザミは息を吸い込み、爪を口元で交差させた。

 

(……ブレス?)

 

 ああいう構えをしたときや、息を吸うということは大抵の場合においてブレスが来る。ならばこのまま正面に立つのは危険だ。

 

「横へ!」

 

 後ろに続くシアンに叫ぶと同時に、自分もブレスから回避するために横へと跳んだ。ライムは左へ、シアンは右へと跳ぶ。両爪が開かれ、口から収束した泡が放出される。

 しかし見切っていたライムによって被害はない。回り込んでその右爪へとデスパライズを振り下ろした。

 

「やぁぁああ!」

 

 普段ならば弾かれることもあるだろう。だが大タル爆弾Gによって所々甲殻がはがれている。露になっている肉へと勢いよく振り下ろす。

 

「ギ、ギギ……!」

 

 ダイミョウザザミの甲殻は硬く、大抵の攻撃は弾かれるが、露になった肉はそれほどでもない。デスパライズの刃が肉を切り裂き、青い血を巻き上げる。

 

「ギギ!」

 

 抵抗するようにぶんぶん爪を振り回すが、落ち着いたライムがその動きを見切って回避していく。反対側ではシアンが接近し、インセクトオーダーで足を狙っている。

 

「ギギギ!」

 

 接近してきた敵を振り払うように左爪も動かし始めた。

 

「ふっ、ほっ」

 

 しかし一撃離脱ということで後ろに下がると同時に、頭上を通り過ぎていった爪へとインセクトオーダーを振り上げる。甲殻に触れたものの、弾かれることなく肉へと到達している。

 インセクトオーダーの切れ味によればダイミョウザザミの甲殻はデスパライズよりも鋭い。容易に甲殻を切り裂いたが、時折周りに比べて硬い部分を切り裂くことで、振動がシアンの腕に伝わってしまう。

 

「くぅ……」

 

 動かせるようになったとはいえ、治りたての腕にこの振動はなかなか辛いものがある。ライムを見れば爪を回避しながら隙を見て数度斬り、そして離脱する。

 なかなか攻撃が当たらないことに、温厚なダイミョウザザミも限界になってきたのだろう。

 

「ギ、ギュリイィィィィ!!」

 

 爪を下ろし、足に力を入れていく。

 その動きにシアンは見覚えがあった。

 それはフルフル。

 奴はボディプレスをする際、いつも足に力を入れていた。となれば、これからダイミョウザザミがこれからすることは……!

 

「ライム! 後ろに下がって!」

「う、うん!」

 

 同時に後ろへと下がっていくが、ライムが砂に足を取られてしりもちついてしまった。

 

「あっ……!?」

「ライムっ!?」

 

 思わずシアンが走り出そうとするが、遮るように手を挙げた。

 

「大丈夫! そのまま下がって!」

 

 もうダイミョウザザミは力を溜め終え、今まさにその場で高くジャンプしている。そのまま重力落下に従ってその巨体が落ちてくるだろう。

 

「……んっ!」

 

 イメージするのはモミジの風。彼女はいつだって風を用いて助けてくれている。ならば、自分にだってそれが出来るはずだ。

 足元に風を集めて一気に放出。その勢いでライムの体が一気に後ろへと下がる。見ればシアンも何とか距離を取って射程外へと逃れていた。

 

「ギュリィィィイイ!!」

 

 砂に沈み込む勢いで落下してきたダイミョウザザミから砂煙が巻き上がる。目を動かしてライムとシアンの位置を確認し、ゆっくりと砂から足を出した。

 

「ギギ!」

 

 左爪を掲げ、シアンへと横歩きを始める。それを見据え、インセクトオーダーを腰に戻して走り出す。

 ぶんっ、と爪が振りかぶられ、軽く風圧が起こるが止まらない。

 何度も歩き方を試しているうちに先ほどの光景を思い返す。

 それは雷河の歩き方。竜車を引いているのに、体がぶれずに砂漠を歩いていた彼。普通大タル爆弾Gを4つも乗った竜車を引いているのだから、何かと体がぶれるはず。しかし彼は悠々と変わらぬ足取りで竜車を引いていた。

 力が強いから、とも考えたが、歩き方にもコツがあるんじゃないだろうか。何度か足運びや、体の姿勢を考えてみた。

 爪をかわしつつ何度も考えて体を動かしてみる。

 そして少し理解した。

 ぶれないための姿勢。体の重心が正中を真っ直ぐ通っている姿勢。それを維持し、膝を少し曲げたまま移動する。

 こうすることで体勢を崩さずに移動できることに気づく。そしてインセクトオーダーを抜き、爪をかわしつつその爪を切り裂く。

 

「ギ、ギギ……!」

 

 その動きを後ろで見つめていた雷河が腕を組んで感心したようにうなずいた。口元が緩んでおり、眼差しはシアンに向けられている。

 

「まさか俺の姿勢に目をつけるとはね。まあこれを引いているのにあまり体勢を崩さないで進み続けた、ってので何か思うところはあるかもしれねえけどな」

「でも、考えてそれを実行するのは評価できる」

 

 変化がない声色で呟いた焔を、少しだけ驚いた顔で雷河が見下ろした。

 

「珍しいな。お前さんが誰かを褒めるなんて」

「……あ? 誰も褒めてない。評価しただけ」

 

 その目が細められて少しだけ不機嫌そうな色を見せる。二人を褒めるのではなく、あの変化に評価しただけ。

 焔はアイルーだが、狩猟に関してはライムとシアンよりも長く経験している。つまりは二人よりも上にいるのだから、評価する立場にある、という上から目線だった。

 

「んー……まあいいか。今は優勢だが、ここからがザザミの逆襲ってな」

 

 うっすらと笑みを浮かべる雷河の視界には、まさに二人に反撃の手がかかろうとしていたダイミョウザザミが映っている。

 爪、足にライムがデスパライズによって剥き出しの肉へと切りかかるが、当然ながら抵抗するように爪で振り払おうとする。その手はもう何度も見ているので、当然のように見切って回避する。

 だがダイミョウザザミは攻撃の手を変えた。

 爪を開き、構えた盾へと振り下ろす。そのまま殴りつけるのではなく、その腕へと爪を挟み込む。

 

「な、く……」

 

 イャンクックシリーズの篭手で完全に挟まれてはいないものの、それでも鈍い痛みが走ってしまう。そのままライムを持ち上げ、ぶんぶんと振り回し、ライムを放り投げてしまう。

 

「うわぁぁぁあああ!?」

 

 宙を舞ったライムが砂に落ちてしまい、何度かバウンドしてようやく転がり終える。だがその勢いが少々強く、体中が鈍く痛む。

 

「ごほっ、ごほっ……」

 

 口の中に砂が入り込んでしまい、咳き込んでしまった。顔についた砂を払いつつ、ポーチから回復薬を取り出して中身を飲み干す。口元を拭って起き上がってダイミョウザザミを見つめた。

 あちらではライムが体勢を立て直すまでの時間稼ぎとして、一撃離脱を維持しつつ引き付けていた。

 

「やっ、とぉ!」

 

 切り込んで離れる、切り込んで離れるを繰り返している。ダイミョウザザミを翻弄しつつも着実にダメージを稼いでいく。

 

「ギギ!」

 

 いい加減小さい体が動き回るのも鬱陶しいらしく、泡を吹きながら乱雑に爪を振り回している。だが姿勢を正し、砂を踏みしめつつ足を運ぶシアンは体勢を崩すことはない。当たりそうになればインセクトオーダーを掲げつつ、体を動かしながら受け流している。そして空いた部分にインセクトオーダーを突きたて、また離れる。

 

「ギュリリ……! グジュ、グジュ……」

 

 そこで口元の泡が量を増してきているのに気づいた。泡のブレスが来る、と気づき、急いでその射線から離脱していく。だがそれがダイミョウザザミの狙いだったようだ。離れていくシアンへと爪を薙ぎ払い、その小柄な体を吹き飛ばしてしまった。

 

「あ、く……」

 

 咄嗟にインセクトオーダーを交差させて勢いを殺したが、それでもやはり大きく吹き飛ばされてしまった。その宙を舞っているところが狙い目だったのかもしれない。

 貯まった泡を、大きく息を吸って吐き出そうとしている。

 

「シアンっ!」

 

 ライムが叫ぶが、間に合うことはない。

 ならば風を起こす……!

 引き寄せるイメージで風を起こすと、そのままシアンの体がライムの方へと引き寄せられる。だがそれでも間に合わず、翻った際に背中に泡のブレスが命中してしまった。

 

「あ、ぐ……!?」

 

 ブレスによってさらに体が吹き飛ばされ、そのままライムの腕にダイブする形になってしまった。勢いを殺せず、そのまま後ろに転がってしまう。

 

「ギギ!」

 

 好機と見たのか両爪を振り上げ、そのまま前進してくる。だが蟹だけに、その歩みは少々遅い。

 

「く、大丈夫、シアン?」

「うん、なんとか……」

 

 砂に手をついて起き上がる。見渡せばインセクトオーダーは離れたところに転がっていた。ブレスを受けた際に痛みで落としてしまったようだ。

 ライムから離れると、ポーチに手を入れて回復薬を取り出す。それを飲んでいる間、今度はライムが時間を稼ぐためにダイミョウザザミへと向かっていく。

 

「もうそろそろ麻痺してもいい頃合のはず……! そうなったら一気に決める!」

 

 手順は頭の中にある。ポーチの中には大タルも爆薬もあるのだ。今は作れないが問題ない。

 この流れでやればダイミョウザザミを討伐できるはず。

 

「やぁぁああ!」

 

 自身を奮い立たせるように叫び声を上げてデスパライズを振りかぶる。迎え撃つようにダイミョウザザミが両爪を前へと押し出すように動かした。迫ってくる爪を見据え、スバルの動きを思い出す。

 彼は普通に立ち回って太刀を振るうだけには留まらない。地上だけが彼が扱う太刀の攻撃手段ではないのだ。彼はディアブロスと戦うことで、その攻撃範囲を空中にまで広げた。

 

「――っ!」

 

 足元に意識を向けて風を集め、そのまま跳躍して爪を飛び越える。体を回転させると同時に、デスパライズを立てて回転に合わせて爪を切り裂いた。

 

「ギギッ!?」

 

 そのままダイミョウザザミの体に飛びつき、その顔へと何度もデスパライズを振り下ろす。顔はダイミョウザザミの弱点だ。その効果も大きいだろう。

 

「ギガ、ギギ、ギィィィ!!」

 

 張り付いたライムを振り払おうと体を振るわせ、更に爪をふるってライムをつまみ出そうとしている。それでも何度も斬りつけ、ついにダイミョウザザミが体を硬直させた。デスパライズの麻痺毒が全身に回ったのだ。

 それを感じるとライムはそこから飛び降り、ダイミョウザザミから離れていく。入れ替わるようにインセクトオーダーを拾ったシアンがダイミョウザザミに接近し、顔の前で鬼人化を発動させる。

 

「ほいほい!!」

 

 いつもよりも若干控えめな手数でインセクトオーダーを振るって乱舞をする。そしてライムはポーチから大タルと爆薬を取り出し、大タル爆弾へと調合していく。管をタルの中に入れて爆薬を流し込み、かき混ぜていく。

 慌てることはない。

 急いては事を仕損じる。

 爆薬が大タルに含まれる粒子に反応し、シュッ、と音を立てる。それを確認し、信管を通して完成だ。それを二つ作ると続いてシビレ罠を取り出す。それを足元に設置する時には、ダイミョウザザミの硬直が解けている。

 

「シアン、こっち!」

 

 手を振ってシアンに呼びかけると、インセクトオーダーをしまって戻ってくる。離れていくシアンに両爪を振り上げて威嚇し、そのまま前進してくる。シビレ罠を踏み、再び体が硬直してしまった。

 

「ギギ、ガ、ギギ……!」

 

 シビレ罠の麻痺毒で硬直している間に、再び距離を取って投げナイフを投げる。

 大タル爆弾Gよりも控えめな爆発だが、それでも顔面で爆発したのだ。ダメージは大きいだろう。

 爆風が晴れると、ダイミョウザザミの姿が見えてくる。口から泡ではなく青い血がぶくぶくと吹き出ている。どうやらもう瀕死のようだった。

 

「ギギギ……!」

 

 すると地面を掘り始め、その巨体がどんどん沈んでいく。逃げるのか、と思いながらポーチから音爆弾を取り出す。その体が完全に沈んだところで、それを砂上へと投げつける。音爆弾が破裂して高周波を放つが、何も起こらない。

 そのままダイミョウザザミは地面を掘り進め、二人の足元へと接近してくる。

 

「くっ……!」

 

 どうやら地面の下に潜っても、音爆弾は効かないようだ。つまりは雷河によるミスリード。

 慌ててそこから離れると、地面からモノブロスの角が突き出てきた。しかしまたそれが沈み、ライムへと接近してまた突き出てくる。

 

「こ、の……!」

 

 肩越しに振り返りながら突き出ている角へと手を向ける。右腕に電気が奔り、そのまま角へと放出する。

 

「ギギッ!?」

 

 骨を伝って本体へと電気が奔ったのだろう。地面の下からくぐもった声が聞こえてきた。角が引っ込み、そのまま体が砂上へと持ち上げていく。

 

「ギギ!」

 

 また両爪を振り上げると同時に大きく息を吸い始めている。それを見てブレスが来ると判断。ポーチに手を入れて小タル爆弾を取り出し、火をつけながら横へと走ってそれをダイミョウザザミへと投げつける。

 ブレスが吐き出される前に、眼前でそれが爆発した。

 

「ギッ!?」

 

 爆発こそ小さいが、それはダイミョウザザミの動きを止めてしまった。その間に回りこんでいたシアンが足元へと切りかかっていく。

 更にポーチから小タル爆弾を2つ取り出し、ダイミョウザザミが何かをしようとするたびに投げつけて止めつつ、自分も目の前へと接近していく。

 小さなことでも、それは何らかの要素を持っている。大タル爆弾と比べて小さな爆発だろうが、弱っているダイミョウザザミの動きぐらいは止められる。同時に爆発によるダメージも与えられる。

 だから色んな手を用いて戦う。たとえアイテムによってダメージの大半を稼いでるとはいえ、それが勝つための手段ならば躊躇わない。

 

「やぁぁあああ!!」

「はぁぁあああ!!」

 

 動きが止まっている今こそ止めをさすとき。

 痺れ始めている両腕を感じながらも、シアンは再度鬼人化を発動させる。

 あまり激しく動かすな?

 それは出来ない。ここで乱舞をしてこそ狩人(ハンター)

 今まで押さえてきた力をここで解き放つ。確かに痺れは出ているけれど歯を噛み締め、痺れを振り切って乱舞をする。

 そしてダイミョウザザミの眼前で、ライムもデスパライズを激しく動かして斬りつけていく。

 

「ギギギ!!」

 

 最後の抵抗だろう。爪を動かしてライムを打ちつけようとするが、すり足でギリギリの所でかわしていく。しかし肩や背中を打ちつけられてしまうが、それでもライムは止まらない。

 取り落としそうになるデスパライズを握り締めて何度も斬りつける。

 振り上げられたインセクトオーダーが勢いよく振り下ろされる。そして力を込めて振り下ろされたデスパライズが顔を両断する。

 

「ギギ、ギ、ガ……ギ……」

 

 その傷口から青い血が噴き出され、ゆっくりとダイミョウザザミの体が砂に沈んだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 頬についた青い血を感じながらライムは荒い息を漏らす。

 同じようにシアンもインセクトオーダーを握り締めながら呼吸を整えている。そして二人は砂にへたり込んで空を見上げた。

 

「終わった……」

「ダイミョウザザミ……討伐完了、です……!」

 

 そんな二人に雷河と焔が近づいてくる。

 

「お疲れさん。よく頑張った」

「……ふん、まあまあだった」

 

 にっと笑って労う雷河に、そっぽ向きながら労う対照的な言葉に、ライムとシアンが苦笑する。

 

「まあ、なかなかの道具扱いだったな。あそこまで道具で立ち回る新米ハンターはそうそういねえわ」

「……はは、どうも」

 

 褒められているのか、どうなのかわからないので苦笑しながら雷河を見上げる。その顔にはまだ青い血がついており、ポーチから布を取り出して手渡してやる。

 

「……ん?」

 

 ふと、その顔から笑みが消える。じっとライムの顔を見つめたまま無言になる。

 

「ん? どうかしましたか?」

「……」

 

 見つめ合う二人の視線。

 中性的な顔で小首を傾げるが、その顔はまだ血がついたまま。だが傍から見れば男と女が見つめ合っているように見えなくはない。

 

「……ふんっ!」

「ご、はぁっ!?」

 

 その脇腹に焔が一発ねじ込み、雷河がたまらずその場に膝を付いた。その頭を踏みつけて、ぐりぐりとねじ込みながら焔が冷ややかな目で見下ろす。

 

「なに雄同士で見つめ合ってる? きめぇよ」

「い、いやいや、別にそういう意味で見ていたわけじゃ……」

「うるさい、黙れ」

 

 そんな様子に苦笑しながら布で青い血を拭い取っていく。そんなライムの隣にシアンが近づき、そっと手を差し出した。

 

「おつかれ、ライム」

「……うん、お疲れ様」

 

 その手を握り締め、ライムが立ち上がる。

 二人だけで戦ったのは恐らくイャンクックの時以来かもしれない。でも、あの時よりも成長しているのは実感していた。立ち回り方も、アイテムの扱いもあの時とは違っている。

 これも昴と紅葉と一緒に経験を積んできた結果なのだろう。

 でも、まだ足りない。

 自分たちはあの二人から教わっていないことは山ほどあるのだ。

 だから、早く四人で集まりたい。

 

 ……いや、五人だ。

 

 優羅も加えて五人で集まりたい。

 あの二人には優羅が必要だ。

 ライムとシアンが一緒にいるように、あの二人も優羅を混ぜて三人でいたほうがいい。

 だから、早く見つかって欲しい。

 そして紅葉にも早く帰ってきて欲しい。

 そんなことを思いながら、ダイミョウザザミのクエストを完了させるのだった。

 

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