呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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3話

 

エリア3にやってくると、奥のほうにアプトノスが数匹いるのが見えた。向かって右手は崖になっており、左手は山岳地帯が続いている。エリア2の左手の高台はヴェルカ森丘の中心部にある山へと繋がっている。

 このエリアの先に進めば左手に坂がある。これは山へと繋がる道となっており、他と比べて高めであるエリア4となっている。その先には山の中へと入り込む穴があり、そこは時折飛竜が巣として利用していることが多い。

 だが今回はそちらに用はないので、この道はスルー。先に進むとまた左手に下り坂がある。この道は先ほど問題となったエリア9へと繋がる道だ。例えこの先にイャンクックがいるとしても、この道はスルーする。

 そして最後に前方にも森へと繋がる下り坂がある。この先がエリア10へと繋がっている。シアンによればエリア10はモンスターたちの水飲み場として利用されており、飛竜も時々ここで水を飲んでいる光景が見られるそうだ。

 しかし高い木々の覆われているため、日光が多少遮断されており、多少視界が悪くなっている。もし戦うならば少しでも開けた場所であるこのエリアが望ましい。

 

「さて、どうしよっか」

「イャンクックは見当たらないね。ここにはいないのかな」

「…………」

 

 一行は立ち止まり辺りを見渡してみる。だが何度見てもこの場所には自分たちと数匹のアプトノスがいるだけだ。

 移動するか、ここで待ってみるか。今与えられた選択肢はこの二つだろう。月は何も言わず、二人の様子を見守るだけだ。

 

「……よし、エリア10へと行ってみよう」

「わかった」

 

 シアンの選択に頷き、移動を開始しようとした時、アプトノスが何かを感じ取ったかのように顔を上げた。月もまた同じように空を見上げる。

 

「その必要はないようだね」

「え?」

 

 どういうことかとライムが振り返ると、シアンが気づいたように空を見上げる。少し遅れて風を切る音が聞こえてきた。同時にアプトノスがエリア2へと逃げ出すように走り出した。

 

「ライム! 来たよ! 準備して!」

「う、うん!」

 

 ライムがうなずいてポーチを開けて一つのアイテムを取り出した。同時にシアンも荷車へと向かっていく。

 

「ちょっと失礼します!」

「ん」

 

 月はうなずいて取っ手を置き、そこから離れて岩肌に背を預ける。入れ替わるようにしてシアンは荷車の中から大タル爆弾を取り出す。そうしている間に離れた場所でライムがそのアイテムを地面に設置した。ピンを引き抜くと、パシュッ! と音がして地面にネット状のものが広がった。そこから少し離れた場所に大タル爆弾を置く。

 そうしている間にそれは崖の近くに空から舞い降りようとしている。

 青めの翼膜をした翼を力強く羽ばたかせ、体は桃色の甲殻に覆われている。鳥のような顔に黄色く大きなくちばしを持ち、たたまれた大きな耳が特徴的な飛竜。

 怪鳥イャンクックである。

 イャンクックが翼を羽ばたかせるたびに力強い風圧が発生し、近くに生えている木々の葉がざわついている。そしてそれはゆっくりと着地した。力強く地面を踏みしめたと同時に鈍い振動が発生している。

ライムとしては初めて見る存在だ。その生命力、その雰囲気にすっかり呑まれていた。ランポスなどのモンスターとは比べ物にならない存在感を前にして、呆けたような顔で見つめてしまう。

 

「ほらっ! ライム! しっかりして!」

「……あ、う、うん!」

 

そんなライムの背中を叩いて正気を取り戻させる。

 

「わたしが誘いをかけてくるから、ライムはもう一つ爆弾設置してね。大丈夫、ライムなら出来るよ」

「わかった」

「しっかりね!」

 

 ウインクをするとシアンがそのままイャンクックへと接近していく。その間にライムが荷車へと向かい、もう一つの大タル爆弾を手にする。少しだけよろめきながらも何とか仕掛けた罠へと近づいていくと、シアンがイャンクックの近くまで向かっていた。

 

「ク?」

「ハロ~。元気?」

 

 のんきに手を振って自分の存在を確認させる。するとイャンクックの耳がゆっくりと開かれ、顔の側面を覆い始めた。翼を広げて威嚇するようにして鳴き声を上げる。

 

「クア、クア! クワアアァァ!!」

「はいは~い。こっちこっち」

 

 シアンとしては何度か戦っているため、イャンクック相手に怯えるようなことはなかった。というよりも、シアン自身があまりにも緊張感がないというのもあるのだろう。元気よく走り出してライムの元へと戻っていく。

 そんなシアンの背後からイャンクックが走りながら追いかけていく。近づいてくるイャンクックを見据えながらライムの体は震えていた。やはり初めての飛竜との戦いだから、こうなってしまうのも無理はないだろう。その手にはペイントボールが握られているが、今にも取り落としてしまいそうだ。

 

「ライム! 大丈夫! わたしがついているから!」

「……っ、シアン……!」

 

 近づいてくるシアンがじっとライムを見つめている。自分は信頼されている。何も言わずに自ら囮を買って出て、こうしてイャンクックを引きつけた。

 そして罠を通り過ぎ、ライムの隣を通り過ぎた時イャンクックの体が地面に沈みこんだ。ライムの仕掛けた落とし穴に嵌ったのだ。

 

「クワッ!? クワ、クワァ!!」

 

 穴から出ようともがいている。今がチャンスだ。ライムは震える体に鞭を打ち、勢いよくペイントボールを投げる。それが大タル爆弾に当たると、その刺激で大タル爆弾が爆発する。二つの爆音が響き、イャンクックを爆風に包み込んだ。

 人間ならばそれだけで絶命するような衝撃。

 だがイャンクックはまだ生きている。

 顔や体が所々ボロボロになりながらも、穴から出ようともがき続けていた。ならばまだ追撃する。シアンがチーフシックルを抜いてイャンクックへと接近する。

 

「行くよ、ライム!」

「……うん!」

 

 ライムもまたサーベントバイトを抜いて走り出した。シアンが左、ライムが右側へと肉薄して武器を振るい続ける。飛竜の甲殻だけあってその体は硬く、ランポスとは比べ物にならない。時折弾かれながらも二人は切り続ける。

 

「くっ……やっぱり硬い!」

 

 サーベントバイトではイャンクックの作り上げた天然の鎧では全然決定打を与えることなど出来ない。だが爆弾の一撃もあったことで所々甲殻や鱗がはがれ落ちた箇所もあり、広がった剥き出しの肉へとどんどん斬り続ける。

 

「すぅーっ……」

 

 そしてシアンは大きく息を吸って両手を頭上で交差させると、そのまま刀身を交えたまま横へと広げると同時に息を吐く。

 

「……ふんっ!」

 

 チーフシックルにシアンの気が纏われ、気のせいかシアンの周りの空気が揺らめいていた。

 双剣の技術の一つ、鬼人化。己の気を高めて解放することで、双剣の威力を高める技だ。しかしそれと引き換えにスタミナがかなり消費される。まさにここぞというときにしか使えない技だ。

 

「はあああぁぁぁ!!」

 

 そしてシアンは隙だらけになっているイャンクックの体へと連続して刃を振るい続ける。その攻撃は甲殻と甲殻の隙間を狙うと同時に、鱗も狙っていた。その速さによって素早く隙間が広げられて甲殻がはがれ、何度も斬られることで鱗が傷ついていく。そしてはがれ落ちて剥き出しになっている肉へと更に斬り続ける。血が噴出して頬などに付着するのも構わず、シアンはまだまだ刃を振るう。

 これが鬼人化の時に使用する乱舞。鬼人化が、スタミナが続く限り、敵を斬り続けるという隙だらけなことを代償に大きなダメージを与える技である。

 

「クワッ! クワッ! クワアアァァァ!!!」

 

 一際大きな声を上げたイャンクックがようやく穴から這い出てきた。翼をはためかせてゆっくりと地面に着地する。

 

「ライム、離れて!」

「うん!」

 

 顔を覆いながらライムがイャンクックから距離を取っていく。そんな二人を見て、イャンクックは大きく息を吸った。

 

「クア、クワッ、クワアアァァァ!!!」

「どうやらお怒りのようだね! 気をつけてね!」

 

 黄色いくちばしから時折オレンジ色の吐息が漏れている。それは飛竜たちが怒りの状態に入った時に見られるものだ。飛竜によって漏れると息の色が変わるが、総じて力と速さが上昇している。

 己の闘争心を刺激することで血流を活性化させ、自身の身体能力を向上させているのだろうと言われている。獲物を必ず殺す、それを体現するための得物。それはまさしく獲物を狩り、敵を排除するためのモンスターの大牙。

 それが剥かれたのだ。

 

「クワァア!!」

 

 突然イャンクックが走り出し、ライムへと接近した。

 

「うわっ!?」

 

 咄嗟に盾を構えて防御体勢を取るが、くちばしが連続して襲い掛かり、バランスが崩れてしまう。そこに体を捻って強靭な尻尾がライムの横っ腹を薙ぎ払った。

 

「ぐっ……ふ……」

「ライム!?」

 

 岩肌の方へと飛ばされ、このままでは大怪我を負いかねない。しかしそこに月が立つとその体を受け止めた。

 

「……え?」

「大丈夫かい?」

「あ、はい……。ありがとうございます」

 

 腕から離れて何とか立ち上がると、背後ではシアンが双剣を振るいながら気を引いていた。一撃一撃を与えつつ距離を離し、くちばしや尻尾の攻撃を回避している。

 

「君たち新米ハンターは、あのように一撃離脱が望ましい。それは小型だろうと大型だろうと変わらない。もちろん先ほどのように、咄嗟に彼らが襲ってくることもある。だからまずは観察することだ。彼らの動きをね」

「観察……」

「さ、行くといい。パートナーが待っている」

 

 ポンと背中を押すと月がうなずいた。しかしその時にはイャンクックは月たちのほうへと視線を向けていた。

 

「おっと」

 

 チラッと荷車へと視線を向けるとぱちんと指を鳴らす。すると荷車が浮かび上がり、イャンクックの攻撃の射程外へと移動させる。同時に月が横へと飛び、ライムもまた横へと転がることでイャンクックのくちばしから逃れた。

 

「荷車のことは心配しなくていい。私が守っておこう」

「ありがとう! ……大丈夫? ライム」

 

 駆け寄ってきてライムの体を心配そうに見つめるシアンに、小さく微笑しながらうなずいた。

 

「大丈夫。続けられるよ」

 

 ポーチから回復薬を取り出して口に含む。

 まだじんじんと痛むが体を動かす分には問題なかった。イャンクックがゆっくりと振り返り、じっと二人を見つめる。まだ吐息が漏れているところをみれば怒り状態は解けていないのだろう。

 

「グプ……」

「っ! 火炎液が来るよ! 横に飛んで!」

 

 シアンの言葉に従って横に飛ぶとイャンクックのくちばしから燃えている液体が吐き出された。それは先ほどまで立っていた場所に着弾すると小さな火柱が立ち上がる。

 

「わたしが引き付けておくから、隙を見て閃光玉を投げてね」

「閃光玉、了解!」

 

 ポーチに手を入れて閃光玉を取り出す。

 

「やあぁ!」

「クワッ!」

 

 懐に潜り込んで足を斬り、そして移動してまた斬る。くちばしや尻尾がシアンを捉えようとするものの、彼女の速さにイャンクックがついていけなかった。そこで彼は一端距離を取ろうと考えたのだろう。少しだけ浮かび上がって後ろへと下がっていく。

 

「うっ!」

 

 翼から生み出される風圧にシアンが顔を覆うが、それは同時にチャンスでもあった。

 

「閃光玉、投げるよ!」

 

 ピンを抜いてイャンクックの視界へとそれを投げる。小さな破裂音の後に眩いばかりの光が辺りを包み込んだ。

 

「クワ!? クワァア!!」

 

 その光に視界を奪われて混乱したイャンクックがたまらず墜落する音が聞こえた。光が消えるとそこには地面に倒れているイャンクックがあった。悶えているイャンクックへとシアンが先陣きってその顔へと斬りかかっていく。ライムも後を追って体へと回ってサーベントバイトで斬りつけていく。

 それを離れた場所で月は黙って見つめていた。

 

「……なるほど。悪くないコンビかな。完全に流れは二人にある。ライムも少し疲労が溜まっているようだが、討伐は時間の問題だろ――ん?」

 

 その時妙な感覚が体を巡った。何かが迫ってきているような気配がする。加えて小さな集団がこのエリアを囲い始めている。

 

「……ランポスか? いや、ランポスだけにしてはこれはおかしい」

 

 辺りを見渡しながら呟いていると、遠くの方から小さな影が迫ってくるのが見えた。エリア10の森地帯から現れたのは4匹のランポス。

 

「さっきのランポスが仲間を呼んだか? これは、少しまずいか」

 

 後ろを振り返って二人の様子を見つめる。

 

「クワ! クワ!」

 

 閃光玉による効果はもう治っているらしく、左右から斬りつける二人を薙ぎ払おうと尻尾を振り回すものの、距離を取った二人に当たらない。

 ライムも何とかイャンクックの動きについていけているようで、たどたどしくも攻撃を回避しながら隙を伺っていた。だがやはり慣れていないために時折くちばしがライムに襲い掛かり、盾で何度も防いでいる。

 

「く、は……」

 

飛竜だけあってその衝撃は強い。その巨体から繰り出されるついばみはさながらハンマーで何度も打ち付けられるかのようだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

呼吸は緊張と疲労ですでに荒れている。やはり飛竜の初戦というのは誰しも長時間の戦闘は厳しいものなのだろう。休憩を挟まなければ倒れる可能性もある。

 そんな中でランポスの包囲網が完成してしまえば離脱は難しくなるだろう。

 

「ここは私が止めるか」

 

 背中に背負っているオベリオンに手をかけると、一気に抜き取って接近してくるランポスたちへと一瞬で距離を詰めて振り下ろした。その衝撃によって2匹が一瞬にして絶命し、月が纏う雰囲気に恐れをなした残りの2匹を横薙ぎに払うと、体が上下に分かれる。

 

「……まだ来るか。いや、ランポスだけではない。奴もいる」

 

 気配はまだ消えていない。まだまだランポスたちはやってくるだろう。ここは一時的な離脱をするのが手だと月は判断した。オベリオンを背中に戻して二人の下へと駆け寄る。

 

「二人とも! 攻撃は中止だ! すぐにここから離れるよ!」

「……え? ど、どうして?」

 

 シアンが意外そうな顔をしながらイャンクックから距離を取って振り返る。そんなシアンの右側、エリア2から続く坂道に1匹のランポスが駆け上がってきた。

 

「シアン! 右っ!」

 

 ライムが叫ぶと同時にそのランポスがシアンへと飛び掛った。

 

「きゃっ!?」

 

 咄嗟に右手の刃を盾にして受け止める。しかしそのまま地面に倒されて上乗りにされた。

 

「この……!」

 

 左手に持っている刃をランポスの首に横から突き刺し、そのまま切り払う。顔に血が降りかかるが、その体を取り払って起き上がる。

 

「クワ!」

 

 それがチャンスだと思ったらしい。イャンクックが岩肌を背後にしているシアンへと火炎液を吐き出した。

 

「くっ、この……!」

 

 横へと転がって回避すると、視界の端に新しくランポスたちが登ってくるのが見えた。月の背後にも新しくランポスたちが集まってきている。さらにイャンクックがシアンに追撃をかけようと飛び掛ってくる。横にもう一度転がって回避すると地面がくちばしによって抉れる。同時にエリア2への道が少々塞がる形になってしまった。

 

「ベースキャンプ方面は危険だな。二人とも、こっちにくるんだ!」

 

 呼びかける月の背後から1匹のランポスが飛び掛ってくる。しかしそれを見ずにオベリオンを握り締めて柄を突き立てることで撃退する。

 

「荷車は……あそこか」

 

 岩肌の上に止めてある荷車の位置を確認すると背後に集まっているランポスたちに首をしゃくってライムを見つめる。

 

「ライム、道を切りひらくんだ。出来る限りでいい。私もサポートする。シアン、閃光玉をクック方面に投げるんだ」

「わかりました!」

「わかったよ!」

 

 それぞれ集まると周りを囲んでいる敵を見据える。エリア2側へはイャンクックと3匹のランポス。エリア10側へはランポスが5匹。

 シアンがポーチに手を入れて閃光玉を取り出してピンを外す。

 

「クワ、クワァ!」

「ギャオ、ギャオ!」

 

 何かするのを感じたのだろうか。それを止めるために彼らはシアンへと向かっていく。そんな彼らの眼前に閃光玉を放り投げると、シアンは背を向ける。そのすぐ後に光が炸裂し、背後で悲鳴が上がった。

 

「よし、こっち側も効いている。このままエリア10へと向かうよ」

「はい!」

 

 オベリオンを握り締めて月が走り出してランポスたちを薙ぎ払っていく。オベリオンの射程外のランポスをライムが斬り捨てていき、シアンがその後に続くのを確認すると、荷車を再度浮かび上がらせ、自分たちの上空で運んでいく。そうやってエリア10へと向かおうとしたが、不意に月の足が止まる。

 

「待つんだ」

「え? どうしたんですか?」

「……君たちは下がっているんだ」

 

 穏やかで柔らかな目が、今では多くの死地を乗り越えた戦士の目をしている。その先を見据えるのはエリア10へと繋がる下り坂。すると数匹のランポスがそこから新たに出てきた。そしてその背後に一際大きなランポスが1匹。

 否、それはランポスではない。

 特徴的な赤く大きなトサカに、手足の爪の一つは赤黒く大きく伸びている。そして黄色い瞳がライムたちを見据え、そして彼は天を仰いで雄たけびを上げた。

 

「ギャオ! ギャルァア!」

「ど、ドスランポス……!?」

 

 ランポスの群れを束ねるリーダー。それがドスランポス。群れの中の闘争に勝ち、一回り大きく成長したものをそう呼ぶ。

 だがそのドスランポスは普通のドスランポスとはまた違った雰囲気があった。

 

「……なんだ、こいつは」

 

 その殺気があまりにも冷たく突き刺さるようだった。ただ仲間を殺されただけでは説明がつかない何かを持っていた。それを示すように、黄色い瞳に時折赤い光が灯っている。それはドスランポスには見られないもの。

 そして月は外観的な特徴とはまた違うものが見えていた。それはドスランポスの体を巡る異質なもの。どす黒い力が彼を包み込んでいたのだ。それは自然的にはありえないもの。そんなことを考えていると、ドスランポスが一際大きな声で雄たけびを上げる。

 

「ギャルァアアァァア!!」

 

 するとドスランポスの体に異変が起きる。青い皮が黒く染まっていき、黒い縞模様は赤く変色していく。瞳は完全に血走ったように赤く染まり、ギロリとライムたちを睨みつけていた。

 

「あ、ああ……」

「なに、これ……」

 

 その瞳に睨みつけられた二人は体の震えが止まらない。ただ睨みつけられただけじゃない。そのドスランポスが纏う雰囲気が明らかに異質なものだと感じていたのだ。

 それに当てられたものは、体を動かすことを忘れ、ただただ震え続けるだけだ。そしてそのものによって命を絶たれるのを待つしかない。

 

「くっ……」

 

 月が指を鳴らして二人の体を浮かばせ、エリア9側の道近くへと移動させる。

 

「二人とも! しっかりするんだ! 気持ちはわかるが、そうやっていると死ぬよ!」

 

 チラッと月が二人に視線を移したのに気づいたのだろう。黒く染まったドスランポスが走り出して月へと牙を向けた。それを軽いステップで回避すると、爪を立てて横に振りかぶった。

 

「……っ」

 

 それは顔を掠めたが、蒼い髪がいくつか持っていかれた。ドスランポスへと視線を向けているだけでは命は守られない。

 背後からランポスたちが攻撃しかけてくるからだ。3匹が同時に攻撃を仕掛けてくるが、それを跳躍して回避する。3匹はぶつかり合ってよろめき、抜き取ったオベリオンによってその体を潰される。

 

「やれやれ、しょうがない。クックの件もある。手早く終わらせるために、私も戦うとしよう」

 

 そう言ってオベリオンの切っ先を黒いドスランポスへと向けると、彼は月を見据えて低く唸った。

 

 

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