呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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41話

 

 ポッケ村からクストルを走らせること数時間。向かった狩猟場はフラヒヤ山脈とベルト山脈の中腹に位置する場所。ここからベルト山脈の行路周辺に、今回の標的であるヴァニクスが縄張りを作ったといわれている。

 ベースキャンプを作り、準備を完了させる。目の前には川が流れており、崩れ落ちた雪や氷の塊が流れている。また、雪山の中腹だけあってベースキャンプの時点でもう寒風が吹き荒れており、クストルを走らせている前にホットドリンクを飲み干していた。

 

「ここは雪山ではなく一概に凍土と呼ばれる狩猟場ですわ。主に氷の大地と冷気が篭る洞窟で成り立っている狩猟場です」

「それにこの辺りまでくると東方地方の北西部に含まれているからな。こっち側では見かけないモンスターも混ざってくるんだわ。ヴァニクスがいい例だな」

 

 ドンドルマの北東部は東方地方の北西部とベルト山脈で繋がっており、二つの地方のモンスターが混合して生息している。北の連絡線と呼ばれるベルト山脈は、二つの地方の北部分を結ぶ行路として利用されているため、よく行商人がこの山を越えている。だからこそ今回のように、行路を確保するためのクエストはよくみかけられる。

 ちなみに昴たちが東方からこの大陸にやってきた際は、ここから南東に広がっている大砂漠を越えてきている。砂漠のオアシスに作られたロックラックと呼ばれる町から、砂上船を用いて一気に越えてきたのだ。

 聞けば優羅もロックラックから砂上船で砂漠を越えてきたそうだ。しかし時期がずれていたようであり、両者は出会うことはなかったらしい。

 さて、凍土と呼ばれる狩猟場は常に寒風が吹いているため、ホットドリンクは必需品。支給品ボックスから追加のホットドリンクを取り出して飲み干していく。続いてそれぞれのローブから今回の武器を取り出す。

 昴は飛竜刀【紅葉】、優羅は蒼桜の対弩。加えてチップが嵌められているベルトを取り出し、左腕の裏側へと装着した。そして翡翠が取り出したのは鈍色のギターのようなものだった。弦が張られており、それを軽く鳴らして小さくうなずいて背負う。

 ヴォルカニックロック。

 狩猟笛と呼ばれる武器の一種。ハンマーと同じく鈍器に属する武器なのだが、他の武器たちと大きく異なる効果を持っている。

 それは音を奏でることにより、周りにいる味方のハンターに影響を与える効果を持つということだ。狩猟笛には三つの音を持っており、旋律を奏でることで耳から脳へと影響を与え、様々な効果をもたらしてくれる。

 これは鬼人笛や硬化笛と同じく、旋律者の意思に反応し、音が奏でられることで粒子に影響を与える。その粒子が音という形で人々に影響を与えていく、というシステムらしい。つまり、魔法や粒子という概念に気づいたからこそ、狩猟笛が作られたといってもいい。

 そしてヴォルカニックロックは岩竜と呼ばれるバサルモスの素材で作られた狩猟笛だ。火属性を内包しており、今回のヴァニクスには相性がいい。

 装備はクックUシリーズを装備していた。どうやら上位クエストをなかなかやりつくしているようだ。旅をする昴たちと違い、拠点を持っているから上位クエストを進めることが出来る、といったところだろうか。

 加えて装備には装飾品がかなり付けられている。そのことから彼はスキルにも気を配っていることがわかる。

 そして桔梗が取り出したのは、黒塗りの光沢に赤色の先端を持つランスだった。これはカンタロスの素材を使用した、ダークと呼ばれる上位のランスだ。麻痺毒を持ち、先端を打ち込むことで相手に麻痺毒を注入していくのが特徴である。

 ローブを脱ぎ取ると、下から少しだけ鈍い色合いをした黒色の装備が現れた。上位のゲリョスの素材を使用したゲリョスSシリーズと呼ばれるものだ。ゴム皮を使用しているせいか、彼女の体にぴっちりと張り付いており、そのプロポーションがはっきりとわかる。

 こうして見るとわかるが、彼女は優羅に負けず劣らないほどの綺麗な体つきをしている。聞けば17歳ということだが、そうとは思えないほど落ち着いた雰囲気をしているので、同い年と勘違いしていた昴である。

 ローブをテントの壁に掛けると、いよいよクエストの始まりだ。

 

 まずベースキャンプを出ると、目の前に広がるのは凍りついた大地と、高く聳える氷山が広がっている。左手に道が二つ分かれており、奥のほうでは倒れた樹氷が道を塞いでいた。

 そして中央の広場ではダストルが数匹たむろしている。昴たちに気づいても気にした風はなく、気ままに過ごしている。ならば無視しても問題ないので、次のエリアに向かうことにする。

 

「こういう場所だと……エリア2辺りかねえ」

「そうですね。次いでエリア3でしょう」

 

 地図を広げて相談する翡翠と桔梗の後ろで、昴は辺りを見回していた。その隣では腕を組みながらぼうっと佇む優羅がいる。彼女がそうしているということは、危険は近くに存在しない。

 彼女のセンサーと視力の高さは、敵の接近を感じ取ることに優れていた。そのため、『雪花』において移動では重要な役割を持っている。無反応に佇んでいれば外敵はいない、警戒し始めた時は戦闘体勢に入る、という風に周りが対処している。

 

「じゃ、エリア2に行ってみるか」

「はい」

「美星」

「……」

 

 相談を終えた翡翠が優羅に振り返るが、優羅は相変わらず無反応だ。だが気にせず彼女に質問する。

 

「エリア2に気配は?」

「…………バギィが十から二十まで」

「そうか。なら問題ないな」

 

 先導して翡翠が歩き出し、一行はエリア2へと移動する。

 すると前方に青白い体を持つランポスに近しい体格をしたモンスターが十数匹集まっていた。鋭い目つきで辺りをキョロキョロとしているところから、このエリアは彼らの狩猟場の一つなのだろう。

 あれはバギィと呼ばれるモンスターであり、凍土や雪山に生息している。ランポス種とはまた違った鳥竜種で、体格こそ似ているが外見は全く違う。微弱な睡眠効果を持つ液体を吐き出し、獲物を眠らせてから喰らいつく攻撃手段を持つ。リーダーであるドスバギィの指示の下、狡猾な狩りを行うことで知られている。

 

「ドスバギィはいないようだな。おし、ここを主な戦場にするか」

「では、あのバギィたちを始末することにいたしましょうか」

「了解」

「……」

 

 各々武器を抜き、そして走り出した。その足音に気づいた数匹のバギィが鳴き声を上げると、優羅が疾走しながらそのバギィの頭へと通常弾Lv1を撃ち込んだ。通常弾Lv1といえばボウガンの基礎の基礎といえる弾だが、優羅の爆発によって推進力を得た弾は、バギィの頭を貫いてしまう。

 

「……」

 

 倒れていくバギィを確認しながら隣で鳴き声を上げているバギィを狙撃し、走り去っていく昴たちを見送った。そのまま辺りを見回し、センサーを広げていく。これ以上敵が来るようならば引くのも手。また途中でヴァニクスが乱入してくるのを察知する役割も彼女にはある。

 

「ふっ、はっ!」

 

 最初に集団に突入したのは昴。飛竜刀【紅葉】を振るって数匹纏めて切り払っていく。続いて桔梗が到着し、離れた場所でバギィをダークで貫いていく。右手では翡翠がヴォルカニックロックを振るって頭を殴りつけ、体を強打させて吹き飛ばす。

 

「ギャルァア!」

「ギョァアア!」

 

 数でいえばバギィたちのほうが上。しかしリーダーのいない集団はすぐには立て直せなかった。中央を切り払う昴が群れを散開させ、左右を挟み込むように翡翠と桔梗が攻撃を仕掛けていく。

 一匹のバギィが睡眠液を吐き出したが、桔梗が構える黒塗りの盾がそれを防ぐ。同時に踏み込んでその喉元をダークで貫き、そして薙ぎ払って頚動脈を切り裂く。大量の血を撒き散らしてそのバギィが絶命し、それを確認しながら別のバギィへと向かっていく。

 

「よっと」

 

 そして反対側では、翡翠がバギィの攻撃を器用にかわしながらヴォルカニックロックをかき鳴らしている。ステップを踏みながら器用に弦を鳴らし、紫色の波紋を生み出していた。

 

「ギョルァ!」

「おっとぉ」

 

 そこで背後から牙をむいてバギィが噛み付いてくるが、それもステップで回避する。そのままヴォルカニックロックを後ろへと振りかぶって頭を殴打し、また弦をかき鳴らす。

 

「そらよっ!」

 

 紫色の波紋を広げつつ体を捻り、怯んでいるバギィの横っ腹を蹴り飛ばした。その時にはヴォルカニックロックの旋律が完成し、翡翠に影響を与える。

 

「さぁて、ついてこれるか?」

 

 ステップを踏んでいた翡翠がニヤリと笑みを浮かべると、その姿が一瞬にして近くのバギィの目の前まで移動してしまう。その速さを乗せたヴォルカニックロックを振りかぶり、そのバギィの顔面が不自然に曲がってしまい、絶命してしまった。

 さらに移動を重ね、荒れ狂う旋風となって次々とバギィたちを打ち倒していく。

 先ほど奏でた紫・紫の波紋によって生み出された効果だ。これは奏者の足の力を強化させて速さを上げる、といったものだ。この凍土においては、速さが上がればそれだけ滑る確率が上がるのだが、彼の装備しているクックUグリーヴの底には普通はないスパイクがついていた。

 これは彼の土魔法によって作り出されたスパイクであり、凍土のような氷の大地で疾走する際に、滑り止めの役目を果たしていた。ちなみに昴たちにもクエスト開始前に施してあり、作り出しておけばあとは魔力を消費することはないので、持続させるために魔力を消費して疲れることはない。

 

「おらおらぁぁ!!」

「ぎ、がが……!」

 

 足の強化効果がまだ続く中、翡翠は走り回りながらヴォルカニックロックを巧みに操っていき、バギィの右集団を殴打と火花の欧州を与えていく。

 

「……凄いな」

 

 中央で飛竜刀【紅葉】を振るいながら翡翠を見ていた昴の口から、思わずそんな言葉が漏れてしまう。やはり伊達に上位クエストを何度もこなしているだけあって、その実力は高いようだ。

 反対側では桔梗が盾と槍で攻守を兼ね備えた重厚な砦、と例えられるランスを構えたまま、バギィを着実に倒している。ステップと盾で確実に攻撃を防ぎ、突きと払いで相手の急所を狙って攻撃している。

 ランスは重量級といわれているが、彼女の軽やかなステップはそれを感じさせない。

 

「はっ、はっ」

 

 小さなジャンプとすり足で移動しつつ、時に相手の攻撃に合わせて前に出つつ盾を構える。それで攻撃を防ぐと同時にダークを突き刺して相手を倒す。

 ランスの扱いにかなり慣れている感じだ。加えて的確に急所を狙って突き刺しているため、そのダメージが大きい。

 まさに難攻不落の砦がそこにある。

 昴たちの立ち回りにより、たった2、3分で十数匹のバギィの集団は壊滅してしまった。

 続いて剥ぎ取りを行う。大陸には見かけないバギィの素材だけあり、昴は皮や鱗を重点的に剥ぎ取っていく。

 その最中に優羅のセンサーに一つの気配が引っかかった。

 

「……来る」

 

 その一言で昴たちは戦闘体勢に入る。見上げればエリア1側の氷山の一角に白い影が舞い降りてくる。それは眼下に昴たちを認めると、そのままこちら側へと飛行し、離れた場所へとゆっくりと降りてくる。

 その姿は鳥のようだった。イャンクックのような甲殻に覆われた鳥ではない。樹海に生息するといわれている眠鳥ヒプノックのような体格をしている。しかしヒプノックとは違い、全身が白い毛に覆われているのだ。その翼も翼膜ではなく、白い羽によって構成されている。まさに鳥そのものを大きくしたような印象だ。

 (くちばし)は鈍色で鋭く尖っており、頭からは白と水色に煌く飾り羽が伸びていた。それは雪が混ざる風によってなびき、どこか高みに位置する者の威風さえ感じさせる。尾羽は少し長めに伸びており、白い羽による鞭のようなものを思わせた。

 これが雪山に生息する鳥竜種の飛竜、白毛鳥ヴァニクス。

 鈍い振動を立てて着地し、その青い目が昴たちを見据える。

 

「ク、ク、クウゥゥゥェェエエン!!」

 

 翼を広げて飾り羽を立て、身を低くして威嚇してくる。

 それに対して昴たちは武器を構えることで応える。

 

「さぁて、戦いの始まりだな。旋律を奏でる。先鋒は頼むぜ、空夜、桔梗?」

「おう、任せてくれ」

「私もサポートいたしますわ。まずはヴァニクスの動きを記憶してくださいませ」

 

 昴にとってはヴァニクスは初見。だからヴァニクスの動きを覚えるため、桔梗が一番前に出ることになった。

 後ろでは翡翠が旋律を奏で、優羅が狙撃をする。これが『雪花』の基本陣形となった。

 

「クゥゥェェエエン!」

 

 繁殖期に入った雄は気性が激しくなる。昴たちが話している間に、ヴァニクスは攻撃態勢に入っていた。

 翼をはためかせて少しずつ浮上していくと、鋭い爪を立ててそのまま滑空してくる。

 

「散れッ!」

 

 掛け声一つで一斉に横へと跳ぶ。先ほどまでいた場所に爪が氷にめり込み、鈍い振動を立ててヴァニクスが着地する。

 ヴァニクスの爪は雪や氷に滑らないように鋭く尖っており、それは同時に鋭利な武器となる。また厳しい環境で過ごしているため、獲物を逃さないようにするために足の力も強いため、その足から繰り出される攻撃は高い威力を持っている。

 

「クルルゥゥ……!」

 

 青い目を動かして敵を見定め、一番近くにいた桔梗へと狙いを定めた。その背後では翡翠がヴォルカニックロックを構え、弦をかき鳴らしている。まずは黄色の波紋が広がっていく。

 それを確認した優羅はチップから赤い弾丸を取り出して蒼桜の対弩に装填する。そしてヴァニクスの目の前にいた桔梗は盾を構えて正面から相対する。

 

「さあ、まずは何から?」

「クエェェェン!」

 

 勢いよく踏み出しながらその嘴を振り下ろす。それを見据え、盾を構えつつその嘴を受け流すようにして動かした。自分から左へと嘴が突き刺さると同時に、右手に持ったダークをがら空きになっている胸へと突き刺した。

 加えて離れた場所にいる優羅が尾羽へと装填した火炎弾を狙撃していく。尾羽は弱点部位の一つであり、相性のいい火属性を内包する火炎弾ということもあってヴァニクスへと大きなダメージを与えていく。

 

「クエェェェ!!」

 

 たまらずその場を飛びのき、体を捻って伸びた尾羽を桔梗へとぶつけていく。しかし落ち着いて盾を構えてその攻撃を防ぎ、そのまま踏み込んで尻へとダークを突き刺し、離れるように後ろへとステップを踏んでいく。

 

「クェン!」

 

 そこでヴァニクスが離れた場所で傍観している昴へと標的を変える。大地を疾走して大きく首を引き、勢いをつけて振り下ろす。

 

「ふっ」

 

 横へと滑るように移動すると、氷を突き破った嘴を引き、もう一度振り下ろしてきた。それも回避して切り上げるようにして胸へと飛竜刀【紅葉】を振るう。しかしその白い毛は見た目と反してなかなかの硬さを持っており、刃は浅く傷を作るだけだった。

 

「なに……?」

 

 そのことに驚きながらも飛竜刀【紅葉】振り下ろしつつ、距離を取るように一歩引く。

 ヴァニクスの毛は確かに普段は、見た目通り柔らかく、そして厚く生え揃っている。厳しい寒さから身を守るために、胸を通る空気を暖めるようにするため柔らかいのだ。しかし繁殖期に入った雄の毛は、外回りは鋭利な毛へと変化していく。内側は柔らかさを残しているが、ライバルである雄を打ち倒すための武器となり、雄の攻撃から身を守るために硬くなるのである。

 

「クエェェ!!」

 

 大きく息を吸ったヴァニクスの嘴から、冷たい液体が吐き出された。それを回避し、今度は飛竜刀【紅葉】をヴァニクスの胸へと突き刺す。今度は肉へと吸い込まれ、そして引きながら薙ぎ払う。

 白い毛の内側から赤みが染み出てきたことから、今の攻撃が通用しているのがわかる。

 

「なるほど、斬るより突き、か」

 

 前述の通り硬いのは外側だけ。その硬さを抜ければ柔らかい毛と体があるので、そこまで到達すれば充分ダメージを与えられる。

 だが傷を付けられたことでヴァニクスが大きく一鳴きしてその足を振り上げた。その攻撃に危険を感じた昴が大きく後ろへと跳び引くと、勢いよく地面を踏みつける。その周辺に鈍い振動が広がり、大地を揺るがせた。

 そのまま身を低くすると力を込めて一気に羽ばたいて跳躍し、滑空しながらもう一度昴へと爪を立てて襲い掛かる。

 

「おいおいっ!?」

「目を閉じてください!」

 

 背後から桔梗の声が聞こえ、それに従って目を閉じると、闇の中に強い光を感じた。同時に悲鳴が聞こえ、何かが落ちたような音が聞こえる。

 桔梗が閃光玉を投げてヴァニクスを墜落させたのだ。氷の大地に墜落したことで、少し苦しげな声でもがいている。

 離れたところでは翡翠が笑みを浮かべながらヴォルカニックロックを鳴らす。

 

「よぉし、これで乗るぜ!」

 

 紡がれた音は水色の波紋を作り上げた。その瞬間、翡翠だけでなく昴たちの体に力が宿っていく。黄色、紫、水色の旋律によって奏でられた波紋によって、昴たちに氷属性に対する守りが備わった。

 しかしこれで終わりではない。もう一度水色の旋律を奏でていく。

 その間にもがき続けているヴァニクスへと昴と桔梗が接近する。顔は桔梗が、胸は昴が攻撃を仕掛けていく。そして変わらず尾羽は優羅が狙撃している。

 

「ク、ク、クェェェエエエエ!!」

 

 嘴から青い吐息を漏らしながら起き上がり、そのまま体を捻って尾羽をぶつけてくる。桔梗は盾で防ぎ、昴は身を低くしてそれをやりすごした。

 だが捻った体を逆再生するようにして捻り、その嘴から青白い吐息がそのまま吐き出される。

 

「むっ……!?」

 

 それは冷気を篭らせたブレスだった。咄嗟に身を引いたが、その両手がブレスによって冷やされてしまう。冷気に慣れている昴だったが、その冷気ブレスよって飛竜刀【紅葉】と両手が繋がってしまった。

 

「……昴!?」

 

 ブレスを受けたことに気づいた優羅が、火炎弾を射出しながら昴へと近づいていく。その間に桔梗がヴァニクスの正面で引き付けるようにして立ち回る。

 

「……大丈夫ですか?」

「ああ、ダメージとしては問題ないよ」

 

 先ほどの翡翠のヴォルカニックロックによって、氷属性に対する耐性がついているため、ダメージとしては問題なかった。しかしこのままくっついたままならば、立ち回りに問題がある。

 そこで優羅が熱気を操り、くっついた手の冷気を溶かしていく。火属性を操る優羅ならではの魔法だ。

 そして後ろでヴォルカニックロックを奏でていた翡翠が二人の元へと接近してくる。ヴォルカニックロックからは黄色い波紋が生み出される。それによって新たな効果が発現した。

 水色、水色、黄色の旋律により、寒さに対して完全な守りが成され、そして雪に対する守りも加わった。これは一定時間ホットドリンクと同じ効果と、雪を浴びて雪玉状態になるのを防いでくれる効果を与えてくれる。

 更に弦を押さえる指の位置を変えて音を奏で、再び水色の波紋が生み出される。

 水色、黄色、水色の旋律により、振動に対して守りが成された。これによって先ほどのような地面を揺るがす振動に対して、体が揺るがないように感覚が鋭くなる。

 

「よぉし。これで準備は完了だ。空夜、もう出れるか?」

「ああ。すまない」

「いやいや、初見だからしゃあねえよ。じゃあ、俺も出るぜぇ!」

 

 ヴォルカニックロックを構えると、また弦を鳴らしながら走り出す。生み出される波紋は紫。その後ろから昴が続き、優羅は再び距離を取ってチップから新しい弾を取り出した。

 

「クエェェエエ!!」

 

 いい加減桔梗が落とせないことに苛立ったのか、力を込めて足を振り上げつつ浮上し、連続して蹴り飛ばしてくる。だが盾を構えてその全てを受けきる。

 

「く……」

 

 だがその力が強いせいか、盾を構えている左手に強い振動が与えられ、体が後ろへと下げられていく。しかしそれに変わるように、翡翠が着地しようとしているその頭へとヴォルカニックロックを振り上げる。

 

「ク、エェェエ!?」

 

 頭を殴られたことで少しだけバランスを崩すが、すぐに地面を踏みしめて耐え切る。

 

「ケェェエエ!!」

 

 反撃として勢いよく嘴を振り下ろしたが、軽く横に跳びつつ紫の波紋を生み出した。これによって再び翡翠のスピードが上昇する。

 

「おらぁぁああ!!」

 

 下ろされている頭へと体を捻ってヴォルカニックロックを振りかぶるが、ヴァニクスは頭を上げてそれを回避する。しかし振りかぶられたヴォルカニックロックはそのまま胸元へと向かっていく。

 胸元へとヴォルカニックロックを殴打するが、火花が散った後に弾き返された。やはり硬くなった毛の硬さが高く、ヴォルカニックロックでも弾き返されてしまうようだ。

 

「まあ、そうだろうなぁ。だが……!」

 

 体を捻ったヴァニクスの尾羽から離れるようにバックステップしつつ、再び弦をかき鳴らして紫の波紋を作り上げる。

 離れた翡翠に代わって、昴が飛竜刀【紅葉】を構えて側面から斬りかかる。胸元は硬いが、側面はどうなのか。その結果は胸元よりも若干柔らかいものの、やはり硬いという結果だった。

 だが斬れないほどではない。昴は側面から攻撃をすることにした。

 そしてもう一つ紫の旋律を奏でつつ、翡翠が力を込めて胸元へとヴォルカニックロックを振り上げた。

 繁殖期の雄のヴァニクスで一番硬い部分であり、昴たちの攻撃を弾き返した場所へとあえて打ち込む。だが今度は弾かれることなく、ヴァニクスの胸元を強打させた。

 

「グ、ェ、エエエェェ……!?」

 

 その衝撃に溜まらず吐血しながらたたらを踏む。衝撃はヴァニクスの内臓までダメージを与えたようだ。

 先ほど翡翠が奏でたのは紫、紫。自身の速さを上げる効果を出した後にもう一度この二つの音を奏でると効果が変化する。

 奏者に影響を与える効果であり、主に狩猟笛へと効果をもたらす。一定時間奏者が繰り出す攻撃は弾かれない、というもので放たれた衝撃は内部へと一気に貫かせる。

 そしてたたらを踏んで隙だらけなヴァニクスの正面前に位置取った優羅が蒼桜の対弩を構え、その頭へと貫通弾Lv2を狙撃する。だがふらついたヴァニクスによって着弾点がずれてしまい、頭を掠めるだけに終わる。

 

「……チッ」

 

 よもや外れることになろうとは思わなかったのだろう。実際ふらつかなければ頭の中心部へと吸い込まれるはずだった。だがこういうことは時にはあること。そんなものでは心は揺れない。

 落ち着いて再び狙いをつけて引き金を引こうとすると、目の前を見据えてヴァニクスが大きく息を吸った。

 

「クエエェェェエエエエン!!」

 

 それは飛竜の咆哮に等しいほどの大音量。実際に近くにいた昴たちは一斉に耳を塞いでいる。だが耳栓スキルに加えて離れていた優羅には効果がない。

 

「……チッ、これでは……!」

 

 貫通弾Lv2を取り出し、徹甲榴弾Lv2へと切り替えて装填する。さらにポーチから閃光玉を取り出して走り出す。

 

「クエェェエエ!!」

 

 翼を広げ、後ろに下がりながら口から冷気ブレスを吐き出す。それによって正面にいた桔梗と翡翠がそれをまともに浴びてしまう。

 

「くっ……」

「……っ」

 

 氷属性の耐性がついているとはいえ、怒りが高まって冷気の濃度も同じように高まっている。それによって体が硬直したように動きづらくなるが、後ろから接近してきた優羅が熱気を操ってそれを溶かしていく。

 更に正面へと閃光玉を投げ、飛行しているヴァニクスを地面に落とした。

 

「サンキュー、美星」

「ありがとうございます、美星さん」

「……」

 

 礼を言う二人に小さくうなずくことで応え、墜落しているヴァニクスの頭へと徹甲榴弾Lv2を狙撃した。今度は避けられずに頭へと着弾し、そして大きな爆発を起こす。

 

「グェェエエエ!?」

 

 その衝撃にたまらずヴァニクスが悲鳴を上げた。頭から血が流れ、白い体に赤を生み出していく。それを確認しながら翡翠と桔梗が体勢を立て直し、それぞれ回復薬を取り出して中身を飲み干す。

 

「クエェェェ!!」

 

 怒りも高まってきたのだろう。体を震わせながら青白い吐息が漏れ続けている。だがそこに昴が接近して飛竜刀【紅葉】を突き刺す。そのまま胸元まで切り払うと、血が噴き出して再びたたらを踏む。

 

「ふっ!」

 

 引いた飛竜刀【紅葉】を再び構えて気を込めていく。チャンスがあれば気刃斬りを放つ。自らの気を刀身に纏わせる、このやり方もやはり体が覚えていた。赤いオーラが纏われ、そのまま袈裟斬りを放っていく。

 

「ケェェエエン!!」

 

 だが全部やらせてはくれない。体を捻って尾羽をぶつけてくるが、身を引いてそれをやり過ごす。だがそれでヴァニクスの攻撃は終わっていない。

 体を震わせて自身の胸元の毛を抜いていく。翼を広げてそれを目の前まで舞い上げると、漏れている吐息に触れてそれが一気に固まる。

 

「いけねぇ……! 空夜! 離れろ!!」

 

 翡翠の叫びに反応し、昴がヴァニクスから距離を取る。

 

「ケェェエエン!!」

 

 体を捻りつつ翼を横へと振りかぶると、固まった毛がヴァニクスから扇状に一斉に飛ばされる。それは硬い氷の大地に弾かれることなく突き刺さり、その鋭さをうかがわせる。

 これがヴァニクスの特徴的な攻撃だ。

 自身の毛や羽を舞い上がらせ、それを冷気ブレスで固めて飛ばす。彼らの毛は抜けようともすぐに生え揃うため、いつでも武器として使用することが可能なのだ。

 身を守るためのものが攻撃手段へと切り替わる。それがヴァニクスの外敵への対処方法だ。

 

「まだまだこれからってか。行くぜ、桔梗!」

「はい」

 

 まだ自身の強化の効果が続いているため、一気に大地を駆け抜けてヴァニクスへと近づいていく。その後ろからランスを構えて桔梗が疾走してくる。彼女のスキルとしてランナーが発動しており、スタミナの消費がある程度抑えられている。そのため走ることに関しては昴たちよりも長く持つ。

 一方優羅は徹甲榴弾Lv2から別の弾へと切り替えつつ、狙撃するタイミングを計っていた。ヴァニクスは怒り状態になり、加えて周りにも昴たちがいる。

 こうなれば標的がめくるましく変化するため、狙いがなかなか定められない。これが一人でやる戦いと、集団で行う戦いの違い。

 ガンナーは遠距離からの攻撃を主とするため、狙いというものが重要になってくる。確かに他のメンバーが火力を担当するだろうが、優羅もまた大きな火力を持つと自負する狙撃手。

 急所を狙い撃つのが彼女のスタイルの一つだ。それ以外も狙うこともあるが、主に狙っているのが相手の急所。そのため狙いを上手く定められない、となれば優羅はなかなか引き金を引けない。

 

「……」

 

 とはいえ、これもまたいい鍛錬になるだろう。今まで一人で対処し、動き回る標的を狙ってきたのだ。他のメンバーへと向かう標的を狙い撃つ、ということ名目で鍛練を行う、と考えることにした。

 装填したのは火炎弾。今度は尾羽ではなく翼を狙って狙撃する。

 

「クェエエ! ケェェエエエン!!」

 

 足元にいる昴へと勢いよく嘴を落としていくものの、やはりそれは当たることはない。逆に隙を生み出し、側面が斬られていく。そこで尾羽を打ちつけようとするも、それは後ろに下がられて回避される。

 だが体を捻りながら口元に氷液を溜め込んでいき、それを近づいてくる翡翠もろとも命中するように数度に分けて吐き出していく。

 

「ふんっ」

「おぉっとぉ!」

 

 昴は横に転がって、翡翠は間をすり抜けるように回避し、ヴォルカニックロックを構える。だがヴァニクスは大きく翼をはためかせて後ろに下がりつつ、もう一度氷液を吐き出した。

 

「まあまあ、待てや。そう逃げるな、よぉ!」

 

 飛行するヴァニクスを追撃するように跳躍すると、その頭へとヴォルカニックロックを振りかぶっていく。だが空というのはヴァニクスら鳥にとっては優位に立てる場所。軽く羽ばたいてそれを回避すると、無防備になっている翡翠を狙うように足を引いていく。

 

「……へっ、あめぇ!!」

 

 その足元に冷気が集まって足場を作り、そのままバック転をするように空中で方向転換。勢いをつけて足を突き出したときには、もうそこに翡翠はいなかった。ヴァニクスの頭上へと移動し、両手でヴォルカニックロックを握り締めて振り下ろした。

 

「ゲェェエエエ!?」

 

 その衝撃に耐え切れず、そのまま地面に墜落してしまった。更にその衝撃によってめまい状態を起こしている。

 

「チャンスだ! かかれ!」

 

 その掛け声により、昴と桔梗がヴァニクスへと接近していく。優羅も着弾時の火花で邪魔にならぬよう、貫通弾Lv2を選択した。

 頭は翡翠が、両側面は昴と桔梗が攻撃を行い、胸から反対側へと突き抜けるように位置を取って優羅が狙撃をしていく。

 何度も攻撃しているうちに、ダークから染み出た麻痺毒によってヴァニクスの体が痙攣を始める。

 

「ク、クェ、ケェェエエ……!?」

「おぉし! これでもう討伐は目前だ!」

 

 もはや白毛鳥と呼ばれた白い体は、自身の血で赤く染め上げられている。漏れる吐息は弱々しくなっており、その命が消えようとしているだろう。だがそれでもヴァニクスの目に闘志は消えていない。

 

「ク、ケ、ケェェェエエエエ!!」

 

 力をつけて麻痺から無理やり体を動かし、翼を振るって昴たちを振り払った。その際に舞い上がった羽と自身の血を、大きく息を吸って冷気ブレスを吐き出して固めていく。

 

「っ、とぉ……!」

「ぬ、く……」

「ふっ……」

 

 だが冷気ブレスは何とか回避するが、舞い上がっている羽と血が今のブレスでヴァニクスの弾丸へと切り替わった。

 

「ケェェエエエン!!」

 

 それを翼を振るって一斉に射出する。勢いよく地面に突き刺さっていくそれらを何とか回避していくが、重量のあるランスを手にしている桔梗は盾を構えてそれを防ぐしかない。

 

「く……!」

 

 その際足元に固められたヴァニクスの血が着弾し、舞い上がった氷の破片が足を傷つける。だが小さな傷のため、たいしたものではない。だが外気に晒された傷はそれだけでも痛みをもたらす。

 追い詰められたものは、最後の力を集結させて敵を排除しようとする。ヴァニクスもまた同じ。例えこの命が消えかかろうとも、敵が去るまでは戦おうとしている。

 

「ぐぷ……」

 

 口元に氷液を集めていき、翼を羽ばたかせて浮上しながら地面へと吐き出した。氷液は爆発するように大きく地面に着弾し、辺りに冷気を撒き散らす。

 これによって昴たちの行動範囲が一時的に狭まってしまった。氷液が着弾することはなかったが、ある意味でダメージを受けたといってもいい。

 

「……チッ」

 

 優羅が舌打ちしながら飛行しているヴァニクスへと銃口を向け、その胸元を狙って引き金を引く。体を貫通したが、それでもヴァニクスは墜落しない。足に力を込めて滑空して翡翠へと向かっていく。

 

「おっとぉ……」

 

 弦を鳴らしながらそれを回避するが、再びヴァニクスは地面を蹴って空へと舞い上がる。ここは閃光玉で行動を封じた方がいいだろう。見れば桔梗がダークをしまってポーチに手を伸ばしている。だがそれを目ざとく見つけたヴァニクスが空中から氷液を吐き出した。

 

「くっ……!?」

 

 閃光玉は取り出したが、それで投げるタイミングを潰されてしまった。

 

「ケェェェエエン!!」

 

 そこをすかさず勢いをつけてヴァニクスが滑空して空襲を仕掛けていく。

 

「氷河さん、お願いしますわっ!」

 

 そこで閃光玉を昴へと投げつけ、左手に持っている盾でその攻撃を防いだ。勢いをつけて襲い掛かったその攻撃の重みは強く、両手で構えなければ防ぎきれない。

 

「く、うぅ……!」

 

 勢いよく後ろに下がるその体を、足で踏ん張って何とか防ぎきろうとする。その背後に昴が回りこみながら、受け取った閃光玉のピンを抜き、桔梗の背後からそれを投げた。

 強い光が発生し、ヴァニクスが視界を潰される。そしてそれは狩猟の終焉を告げるための光となる。

 

「決めるぞ、美星!」

「……了解」

 

 とどめをさすならば取り出す弾は決まっている。チップから貫通弾Lv3を取り出して装填する。そのまま疾走して有効距離まで接近し、ヴァニクスの背後から昴たちへと当たらぬように位置を取り、胸から突き出るように引き金を引いた。

 そして翡翠は紫の旋律を奏で終え、貫通弾Lv3がヴァニクスの胸から突き出た後、跳躍して勢いをつけてその頭へと振り下ろした。

 

「グ、ゲェ……!?」

 

 貫通弾Lv3は心臓と肺を突き破り、ヴォルカニックロックは頭蓋を陥没させてしまう。そしてもう一回貫通弾Lv3を背後から撃ちぬいたことにより、ヴァニクスはその命を散らしてしまった。

 これにより、ヴァニクス討伐が完了する。

 

「……ふぅ、お疲れさん」

「お疲れ様です」

「お疲れ様」

「……おつ」

 

 お互いに労いの言葉を掛け合い、動かぬヴァニクスへと集まっていく。一度死体に手を合わせてその命に黙祷を捧げると、それぞれ剥ぎ取りを開始する。白い毛、飾り羽、嘴、爪とヴァニクスの素材を剥ぎ取っていく。

 使える素材を剥ぎ取り終えると、一行はベースキャンプへと戻っていった。

 死体は後にバギィたちの糧となる。こういった場所の死体は貴重な食料になるのだ。だからこのまま放置することとなる。

 支給品ボックスからクエスト成功の報せ終えると、ギルドからの迎えを待つ。

 

 そして今日もまた『雪花』の一日が終わりゆく。

 敵からの干渉もなく、昴の記憶も影響はなく。平穏な空気が続いているのだった。

 

 

 ○

 

 

 だがそれは着実に進んでいる。陰に隠れて行動するため、誰にも気づかれることなく進んでいく。

 とある場所にて、朝陽はアヴェンジャーからの報告を受けていた。狂化リオレイアが発見された件についてどうするのか、と相談が入ったがもはやそれは意味のないものとなっている。

 何故ならば、もう時は迫っているのだ。

 作戦に必要な駒はもう揃いかけている。

 あと一つのピースが揃えば作戦は始動する。だからこそ狂化リオレイアが発見されようが、もうそれは遅いのである。彼らは何もかもが後出に回りすぎている。

 

 そしてそのピースはすでに動き始めている。

 

 ズシンッ、ズシンッ、と音を立ててゆっくりと近づいてくるその存在(ピース)。遥か遠くにいるはずだが、その影はもう視認出来るほどだ。

 

 それは天災。

 それは大自然を揺るがすもの。

 それは長い時が生み出した驚異。

 

 そんな存在(ピース)が遥か遠くに存在している。

 

「くすくす、さあ、進路を変えてもらいましょうか」

 

 連絡役である鳥を空へと舞い上がらせ、両手に力を込めていく。

 かの存在はそう簡単に進路を変えるような真似はしないが、全力を持ってすれば問題ないだろう。

 加えてアキラも呼んである。ここにはいないが、彼の気配は近くに感じている。二人がかりで当たれば問題ない。

 準備を終えたアサヒとアキラはその存在(ピース)へと疾走していく。

 

 

 ――そして数時間後、ソレは彼女の思惑通りに進路を変えた。

 

 

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