呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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45話

 

 

 ドンドルマに朝が訪れる。

 これが運命の一日の始まりとなる。東方面を監視していた一人が、朝靄の中に大きな影を視認した。望遠鏡をよく覗き込み、その影を確認する。

 

「き、来たぞぉぉぉぉ!!」

 

 その一言でその場は厳戒態勢に入る。一人が大老殿へと向かい、その報せを届ける。

 そして報せを受け、大長老直々に指令が降る。

 

『老山龍、ラオシャンロンからドンドルマを防衛せよ』

 

 その指令はクエストへと変わり、ハンターズギルド本部に防衛クエストが張られることとなった。

 内容は至ってシンプル。

 

 ラオシャンロンを撃退せよ。

 

 もちろん撃退ではなく、討伐しても構わない。だが最低限のラインとして防衛は必須である。

 集まったハンターたちは我先にと受付嬢に参加表明を出す。

 もちろんそのクエストはチーム参加となり、チーム名で登録されることとなる。ほとんどは四人で参加だが、中には三人で参加している人もいる。

 その中に紅葉たち『吹雪』の姿がある。今現在は紅葉、ライム、シアンの三人だ。だから三人で参加することになる。

 ――と思っていたのだが。

 

「焔を付け加えておくといい」

「え? でも、いいんですか?」

「ああ。彼女はなかなか頼りになるよ。通常オトモアイルーはラオ戦には参加しないけど、彼女の腕前はギルドも知っているからね。特例で許可が下りるから」

「……ふん。緊急事態だし、月が言うから手を組んでやっても構わない」

 

 相変わらずの上から目線の言動だが、彼女が仲間に加わってくれるなら心強いだろう。月やギルドのお墨付きだ。ならば信頼するに値する。

 腕を組んでいる焔に屈みこんで紅葉は手を差し出した。

 

「じゃ、よろしくね。焔」

「……ふん」

 

 そっぽ向いていたが、差し出した手に一発はたいて紅葉の言葉に応えた。

 最初こそその態度に戸惑ったが、彼女はやはり猫。気難しく、天邪鬼なところがある。心を許さなければ近寄ることも反応することもあまりない。恐らく今はそういう状態なのだろう。

 ならば焦らずに少しずつ打ち解けていこう。そう決めていた。

 

「じゃあ月さんたちはどうするんですかー?」

「私は獅鬼と雷河で組むよ」

「……それってとんでもない戦力になるんじゃあ……」

 

 月は単体でとんでもない戦力になる。しかし彼女は普段から己の中に枷を嵌めこんで力を抑えているという。あの黒龍討伐戦から枷は嵌めこまれたままであり、一度も解放されていないという。

 恐らく今回の防衛戦ではその枷を外す、とライムは思っていたが、月は首を振る。

 

「いいや、そうでもないよ。私は抑えこんだまま戦うよ」

「え?」

「周りには人が大勢いる。そんな状態で力を振るったら、ハンターたちが巻き添えになる。それでは本末転倒だからね」

 

 なるほど、それなら納得だ。

 だがそれだけの理由ではないようだ。

 昨日行われた会議にて、獅鬼の話によれば最近ドンドルマ周辺の空気がおかしいらしい。加えて焔もここに来る途中に、狂化の種が植えられたと思われるリオ夫婦と遭遇している。

 これが奴らの一手と推測した。ラオシャンロンの防衛に手を回しているハンターやギルドの裏をかき、西側から襲撃を加えると予想する。

 そして防衛戦は参加したハンターチームは膨大となるのが恒例だ。そして全てのハンターが一斉に防衛戦に出るわけじゃない。いつまでも戦い続けるほどハンターたちの体力は多くはない。

 だから負傷したハンターたちに代わるように、待機しているチームが次々と出る形で防衛している。

 先発のハンターたちと、待機しているハンター。これらが入れ替わりながら防衛する形で戦いが進行していく。

 月たちはこの待機する枠で登録することにした。続いて紅葉たちも同じように待機枠で登録することにする。

 登録を終えると、本部の中を見回してみる。先発のハンターたちは自分たちの宿へと戻って早速準備を進めている。対して待機のハンターたちは、他の待機のハンターたちとどのように戦うかを話し合っている。

 その顔ぶれは上位ハンターに対して下位ハンターが多い。彼らが我先に出てしまっては大怪我を負うか、死亡するのがオチ。だから下位ハンターが登録するのは待機枠が常識だ。

 ラオシャンロンと戦う前に、どのように戦うかを先輩たちに聞くか、戦いの様子を後ろから眺めることで覚えていくのだ。とはいえ、上位ハンターといえどラオシャンロンと遭遇することは稀だ。だから上位ハンターの一部、特に若いハンターは待機に回ることもよくある話である。

 そんな中に若いハンターが数人目に映る。

 片や短めの紫色の髪をした少年。背負っているのは、ツキサシと呼ばれる上位のショウグンギザミの素材を使用した青いランス。装備しているのは上位に入ってすぐに作れるバトルSシリーズだった。

 その隣には白いおかっぱ頭をした少女がいる。背負っているのはエメラルドスピアであり、装備しているのはフルフルSシリーズだった。

 そしてその後ろにははねまわった黒い長髪をした女性が立っている。装備しているのはゲリョスXシリーズであり、恐らく噂に聞くG級ハンターと思われる。背負っているのは夜刀【月影】であり、その雰囲気と装備からかなりの実力者であることが容易にわかる。

 G級ハンターがそこにいることにライムとシアンは驚きを隠せない。彼女たちもこの防衛戦に参加するのだ、と思うとどこか心強い。

 隣にいる二人は彼女の昔からの知り合いなのだろう。その赤い目が優しげに見守っている。そしてその二人はというと……。

 

「はぁ、ドンドルマに来てまさかいきなりラオシャンロンと戦うことになるなんてな……」

「……なんです? 随分と弱気ですね、ナグル」

「いやいや、別にそういうわけじゃねえよ。あとレグルだからな? いい加減覚えてくれよ……」

 

 溜息つきながら少年はうなだれる。それを女性は苦笑しながら少年に話しかける。

 

「まあラオが来てしまったものはしょうがないよ。これもいい経験になるだろうさ。あとセアラちゃん、レグル君はただ緊張しているだけさ。……そうだろ?」

「あ、ああ。そうさ。だってあのラオシャンロンだぜ? 緊張しねえ方がどうかしてるっての」

「…………そうです?」

「……ああ、そうだな。セアラはそうだろうな。はぁ……」

 

 また溜息をつく少年の肩を軽く叩くと、女性は少女の背中も軽く叩いて歩き始める。

 

「ま、とりあえずは準備を進めよう。ラオについては私がいくつか教えてあげるよ。それに緊張するのは当然のこと。だから気にすることもないからね」

「……うっす」

 

 女性が歩き出すと、二人も後を追うように歩き始め、三人は本部から出て行った。

 その様子を見守っていたシアンはぽつりと呟いた。

 

「なんだかおもしろそうな人たちだったね」

「あ、ああ。うん、そうだね」

 

 主にあの二人が、という言葉はシアンは飲み込んだようだ。だがライムは別のことが気になっていた。

 それはあの三人の中に魔族の血の気配が感じられたことだった。それぞれ別々の特徴に進化したようだが、そんな魔族三人がチームを組むなんてあまり見られないことだ。

 とても珍しいものを見たことにライムは驚きを隠せなかった。

 

「まあ今回の件はドンドルマ周辺だけでなく大陸全土に一応触れが回ったらしいよ。ラオが現れる、というのはあまりないことだからね。だから遠くからわざわざラオを求めて現れるハンターも少なくはない。そして先ほどの彼らのように、魔族だけでなく竜人族も同様にちらほらと見かけるね」

 

 そう言って別の方向を見やる。

 そこには侍のような出で立ちをした男が佇んでいる。尖った耳は竜人族のものだった。ライムの目にも魔族ではなく竜人族の力を映している。そんな彼に双子だろうか。同じような顔つきをした、竜人……いや、竜魔族の男女が近づいていく。

 双子の片割れの少年が男へと何かを話すと、彼はうなずき壁を離れる。そして三人は本部を出て行った。

 まさか竜魔族まで来ているとは驚きだ。ライムは彼らが出て行った方を見つめながら、微かな声で呟く

 

「本当にいろんな人が集まっているんですね」

「そうだね。ドンドルマに古龍が襲来するのは昔からよくあることでね。そのたびにハンターが集まって防衛戦が行われた。一番多いのが今回のラオでね、こんな風に様々な人たちが集まってくるんだ」

 

 全モンスターの中で最大級といわれるラオシャンロンだけに、防衛に当たるハンターの数は一番多い。クシャルダオラやテオ・テスカトルなどでは数十人単位で防衛に当たるらしいが、ラオシャンロンはその一桁上の数で防衛に当たる。

 それだけの規模の違いから、どれほどラオシャンロンからの防衛がいかに大変かわかる。しかしそれだけの数を動員させるのは相手が強い、というだけではない。

 一番の理由はラオシャンロンの生命力の高さだ。どれだけ攻撃を与えようとも、かの存在は倒れることはない。確かにハンターの数が多いし、上位ハンターや多少のG級ハンターも動員する。彼らの武器の威力も高いことは高い。

 だがそれでもラオシャンロンは止まらないのだ。

 だからラオシャンロンで一番恐ろしいのは、数百、数千年の時を内包した生命力といわれている。

 

「それは同時にそれだけの時間をかけてハンターたちを足止めするといってもいい。だから私たちは西側に注意を払うよ」

「ええ、わかったわ」

「わかりました」

「りょーかいしました」

 

 紅葉たちは頷き、一行は宿に戻って準備を進めることにする。

 今回の防衛戦はローブ着用を許可されている。防衛戦だけにアイテムの出し惜しみなく戦え、ということなので、ローブを持っている人は中に直にアイテムボックスを収容している。

 アイテムボックスを収容することで、文字通りアイテムを出し惜しみしない。それは言い換えれば爆弾の出し惜しみがないといってもいい。とはいえ使用する際は周りのハンターたちを巻き添えにしない、という注意が必要だ。

 もし紅葉たちがラオシャンロンと戦ことになった場合も考えてある。

 ライムは爆弾調合を主としたサポートに回ることになった。彼の持っているデスパライズの麻痺毒はラオシャンロンには通用しない。

 ならばライムに出来ること、それは道具調合と使用である。彼には全力で爆弾調合を行ってもらうことになった。それを焔が受け取り、彼女が爆弾を使用することにする。

 これは例えラオシャンロンと戦わない場合でも採用することになった。朝陽たちがどのような策で来るかはわからない。だが間違いなくリオ系統の狂化竜が来ることは推測できる。

 彼らは火竜と呼ばれるだけあり、ただ爆弾を設置しているだけでは、置いた瞬間爆破される可能性がある。だから遭遇していない際はライムに調合を頼むことになった。

 爆弾は大きなダメージになる。それは火竜だろうと変わることはない。今回やってくる狂化竜の生命力がどれほどのものかはわからないが、この爆弾の一撃が勝負を分けるかもしれない。

 だからライムの仕事はある意味重要なことといえる。

 もちろん作り出すのは爆弾だけではない。閃光玉や罠も彼が作り出すことになった。

 続いてシアンだが、彼女は相変わらず遊撃を担当することになった。しかしこの数日の修行によって彼女の実力は以前よりも数段階高まっていることだろう。

 なにせ上位、下手すればG級に近いハンターからしごかれている。加えて何度も体を壊され、そして回復と同時に成長した体を手にしている。外見的にはさほど変わりはないが、腕や足に触れてみれば違いはわかる。

 紅葉のように最初は柔らかな白い肌をしているが、力を入れればすぐさま硬くなる。そのレベルは確かに紅葉には及ばないが、彼女の成長の証が現れている。

 最後に紅葉は変わらず前衛を努めることになった。またクックジョーは素材と資金が集まっていたのと、いい鍛冶屋があったのでデスヴェノムモンスターへと強化された。これによって火から毒へと属性が変化する。

 また同時にグラビィトンハンマーは溶解槌へと強化され、毒から火へと変化する。これによって火と毒のハンマーがそれぞれ入れ替わる形になった。

 一気に金が減ってしまったが、元よりドンドルマに戻ればいずれ強化させようと思っていたらしい。また、中途半端な堅骨槌改はどうするのか、というと――

 

「堅骨槌改はいずれカオスレンダーにするけど、まだ上位ディアには行ってないからね。だから今はまだ出来ないのよね。あれがあれば、結構いいダメージいくんだけどな……」

 

 ――ということらしい。

 今回の戦いでは、デスヴェノムモンスターを主流武器として立ち回ることにするようである。純粋な威力でいえば堅骨槌改の方が上だが、毒を持っているデスヴェノムモンスターで殴り続けることで毒を負わせ、後々のダメージに繋げることにしたようだ。

 また月がギルド側に狂化竜に対して警戒するように伝えてある。レインたち改革派はそれを受け、全方位に対して警戒態勢を強いているが、保守派は聞き入れなかった。

 改革派は狂化したリオレイアを発見しているので、月の言葉を信じた。しかし保守派は相変わらずそのような存在を信じていない。ラオシャンロンで警戒しているというのに、いるかどうかもわからないもののために人員をまわす必要はない、と突っぱねたのである。

 このことは予想していたが、月はその在り方に苦い顔をすることになった。これでは全てを守ることは出来ないだろう。

 だがもう出来うることはやり尽くした。あとは、その時を待つしかない。

 

 

 ○

 

 

 ドンドルマから西へと数キロ地点。ある山の中で彼らは集まっている。

 仮面を外しているアヴェンジャー――ゲイル。その隣にはフードを外しているロストが立っている。そして彼女から少し離れたところにスノーが佇んでいる。

 三人はここで朝陽を待っていた。彼女はどうやら別の場所で待機しているアキラと連絡をとりに行っているようであり、戻ってきてからが作戦開始といえる。

 ふと、ロストがゲイルのローブをくいくい、と引っ張った。

 

「ん? どしたよ?」

「お兄ちゃん、ちょっとお腹がすいちゃった……」

 

 少しだけしょんぼりした顔でロストがそう言った。ちなみに朝ごはんは食べているのだが、その時間が数時間前のことだった。加えて早朝だったためにそんなに多く食べられなかったのだ。育ち盛りの13歳の彼女にその量は足りなかったらしい。

 

「あ~……何かあったかねぇ……」

 

 そんなことを呟きながらゲイルがローブの中に手を入れる。取り出したのは一本の棒アイス。だがそれを見たゲイルは小さく首を振る。

 

「こんな時に冷たいもんはダメだな」

 

 ローブに戻して別のものを探すことにする。そして取り出したのは一本のバナナだった。

 

「あぁ、これでいいか?」

「うん。ありがとう、お兄ちゃん」

 

 にぱっと笑ってバナナを受け取ったロストは、さっそく皮をむき始める。その様子を見守りながら、ゲイルはまたローブの中を漁っていた。

 

「いただきまーす」

「……おう」

 

 向き終わったバナナに口を開けてそれを食べ始める。その小さな口に吸い込まれていくバナナを見つめながら、ゲイルは新しく食べ物を取り出した。それはアプトノスの肉を調理したフランクフルト。程よく温まっており、ジューシーな味わいが楽しめる一品だ。

 

「これもいるか?」

「んぐ、あ、うん。ちょうだい」

「おう。ケチャップつきだぜ」

「…………おい」

 

 その様子を離れた場所で見守っていたスノーがジト目でゲイルを見つめている。そのまま彼女は片手で頭を抑えながらゲイルへと近づいていった。

 

「どした?」

「食いもんを与えるのはいいが、なんで取り出すもんがソレ系統ばかりだ?」

「ソレってどれよ? クヒヒ」

「あ? 調子こいてんじゃねえぞ? 斬るぞ?」

 

 棒アイス、バナナ、フランクフルト。はて、ソレとはどれのことだろうか?

 そんな顔でバナナを食べ終えたロストに、ケチャップをかけてやったフランクフルトを手渡す。

 

「じゃ、これもいただきまーす」

「おう、食え食え。まずは先端を軽く味見するように舌をだな……ごふぁっ!?」

「やめんかッ!?」

「お、お兄ちゃんっ!?」

 

 いらない入れ知恵をしようとしたゲイルへと一発拳を入れて止める。地面に殴り倒されたゲイルを見て、ロストが驚いた顔で屈みこむ。

 だがその前にスノーがゲイルの首元を掴んで無理やり立ち上がらせた。

 

「ああ、気にするな。お前はそれを食ってていいから。私はこの阿呆を少しシメておくから」

「シメる? 何を締めるの?」

「……ああ、それも気にしないでいいから」

 

 軽く頭を撫でてやり、ゲイルを引っ張って少し離れた場所へと移動する。頭を押さえながら立ち上がったゲイルに、少しだけ怒りが篭った鈍色の瞳で睨みつける。

 

「おい、このロリコン」

「コラコラ、誰がロリコンだ」

「テメェ以外に誰がいる? 斬るぞ?」

「まったく、ひでぇな。あいつとは5歳しか離れてねえぞ? ってか13歳相手にロリコンはねぇだろうに。クッヒヒヒ」

 

 ゲイルは18歳、ロストは13歳。わかりやすくいうならば○校3年生と○学1年生、という感じだろうか。この世界にはないが。

 

「充分だろうが。……加えてあいつはあんな見た目だ」

 

 チラッとロストの方を見やる。

 13歳だけにその容姿はまだ幼い方だ。身長はシアンよりも低い。まだ女性らしさを見せるような変化はなく、子供のあどけなさが全面的に見られる。しかし13歳という成長期だけあり、少しは胸にふくらみがあり、体も少し丸みを帯びている。

 将来的な期待が持てそうな素材、というところだろうか。

 

「……どうだ? ロリコンといえるだろう? いえるよな? いえよ、コラ」

「まあまあ、ちょっと落ち着けや、セルシィ」

「……」

 

 その名前で呼んだとき、スノーの目つきが先ほどよりも変化した。

 それは明確な怒り。まるでその名で呼ぶな、と言った風な雰囲気だった。だがゲイルは苦笑してその白い髪をポンポンと嗜めるように軽めに叩く。

 

「まあ仮に俺様がロリコンだとして、別に俺様はアルテにそういう目は向けてないぜ?」

「……どの口がそれを言う?」

「誤解しているようだから言っておくぜぇ。俺様はな……」

 

 ぐっと拳を握り締め、至って真面目な顔でその碧眼を見開き、これまた真面目な声色で叫ぶ。

 

「ただ小さく可憐な花を愛でるように見守っているだけなんだぁぁぁ!!」

「うそつけぇぇぇ!!」

 

 真正面から拳を綺麗に入れられ、ゲイルはその場に沈み込んでしまった。

 それから数分後、ゲイルはロストに介抱されて目を覚ました。そして第一声はというと……。

 

「ああ、やはりアルテは俺様の心の癒しだぜぇ……クッヒヒ」

「お、お兄ちゃん……」

 

 そんなゲイルにロストは少しだけ頬を染めてまた介抱する。その光景が気に入らないのか、腕を組んでスノーはゲイルに聞こえるように舌打ちする。

 

「……チッ、ロリコンめ」

「いやいや、違うからな?」

 

 溜息をつきながら起き上がると、ゲイルのローブがまた軽く引っ張られる。そちらを見やると、小首をかしげてロストが尋ねてきた。

 

「“ろりこん”ってなに?」

「「…………」」

 

 流石にそのことについて説明する気にはなれなかった二人だった。

 

 

 それからしばらくして、ようやく待ち人が現れる。それを三人はいつもと変わらない調子で出迎える。

 

「いよいよね。ラオはドンドルマに到着したそうよ」

 

 そこに指先に鳥を止まらせた朝陽がいる。相変わらず夜色のローブを纏っており、その素顔は見えづらい。しかしその藍色の目が、少しだけぎらつくように燃え上がっているのは気のせいではないだろう。

 彼女もまたこのときを待ち望んだ人物なのだ。

 数年、いや十数年以上も時をかけて準備を進めてきた。ゲイルたちという仲間を加え、更に作戦を練ってきた。

 そしてようやく第二段階、とよべる時がやってきたのだ。

 

「さて、集まったのは総勢三十のシエルとガイア隊」

 

 背後には数匹のリオレウスとリオレイアが佇んでいる。今はまだ狂化していないので原種と変わりはない。ちなみにシエルとはリオレウス、ガイアとはリオレイアのことだ。

 アサヒたちは狂化させたものたちを原種と分けるために、別々の呼称を名づけたのである。空を意味するシエルに、R(レッド)、B(ブルー)、S(ソル)。大地の女神を意味するガイアに、G(グリーン)、H(ハート)、L(ルナ)。

 これが狂化したリオ系統の呼称だ。

 そしてこれらに加えて新たな隊が現れる。

 朝陽の足元に現れたそれは、肉焼き機を頭に乗せた獣人種、キングチャチャブー。そしてそれに付き従うチャチャブーたちが数匹後ろにずらっと並んでいた。

 

「樹海で新たにキングチャチャブーを三匹狂化させておいたわ」

「おぉ、これはすげぇっすねぇ! まさかホントに狂化させてくるとは……。しかもチャチャブーまで引き連れるとは、予想以上ですよ、朝陽様! クッヒヒヒヒ!」

「ええ。少し骨が折れたけど、彼らを三隊用意しておいたわ。そこでキングチャチャブーの呼称だけど……」

 

 そこで足元にいるキングチャチャブーに視線を落とす。彼は武器として棍棒を手にしており、時折奇声を上げながら両手を振り上げ、鼓舞するようにぶんぶんと棍棒を振り回していた。

 

「そりゃあ、一つしかないでしょ、クッヒヒヒ! キングチャチャブーはバーサー――」

「“バーチャーカー”」

「――カー……はい?」

 

 ゲイルが言い終える前にロストがその呼称を口にした。一同の視線がロストに向けられる。今聞いた言葉が嘘であることを願ったが、彼女はもう一度その呼称を口にする。

 

「キングチャチャブーだから、“バーチャーカー”でいいと思うよ?」

「……く、クヒヒヒ! ああ、なるほどねぇ。“バーサーカー”じゃなくて、“バーチャーカー”ね。いやいや、なかなかいいネーミングじゃねぇの! 俺様はそれでいいぜぇ」

 

 ロストが決めた名前にゲイルは実に楽しそうな笑みで同意した。彼の場合はおもしろそう、というだけでなく、ロストが決めたから、という要素が加わっていることだろう。ある意味彼はシスコンだ。

 だがスノーと朝陽はどこか乗り気じゃなさそうだ。まあ、気持ちはわからなくはない。“バーサーカー”ならまだしも、“バーチャーカー”なんてとても口に出来ないものがある。色々と問題があるのだ。例えばプライドとか。

 しかしロストがじっと朝陽を見上げている。「これでいいよね?」という彼女のあどけない上目使いに、朝陽は唇を噛み締めて冷や汗を流しているような気がするのは、恐らく気のせいではないだろう。

 

「……コホン、ええ、バーサー――」

「…………」

「――バー“チャー”カーの件だけど」

「……クク、ごふっ!?」

 

 思わず苦笑が漏れると、朝陽がロストに見えないように指を立ててゲイルを指差した。その瞬間ゲイルが何かに押し潰されるように地面にめり込む。

 

「お兄ちゃんっ!?」

「お、おお……大丈夫さ、ロスト。心配すんな、クヒヒ……」

「……阿呆め」

 

 当然の報いにスノーはそっぽ向いて溜息を漏らす。

 少しして復活したゲイルを確認し、朝陽は咳払いをして話を続ける。

 

「バーチャーカーの三隊はそれぞれシエル隊に騎乗してドンドルマに襲撃を入れるわ。つまりは竜騎兵ね。もちろんバーチャーカー単体ではなく、彼らの部下であるチャチャブーも同様に騎乗させるわ」

「なるほどねぇ。まぁ、それが一番の襲撃方法ですわな、クヒヒ」

 

 後ろを振り返ると、リオレウスが低く唸っている。その周りでは既にチャチャブーたちが待機しており、各々その時を待っていた。騎乗しているチャチャブーも数匹おり、その乗り心地がいいのか奇声を漏らしている。

 

「もちろんアヴェンジャー。あなたたちもシエルに騎乗して襲撃するのよ。それぞれが向かう場所はわかっているわよね?」

「もちろんですぜぇ。俺様とロストが西から、スノーが南からですよねぇ? で、朝陽様が北から回り込み、大老殿へと襲撃する、と」

「ええ、そうよ。そしてアキラがラオと戦っているハンターたちを荒らすように東から襲撃する。これらはちゃんとわかってるわね」

 

 その言葉にゲイルたちは頷いた。

 

「あとはそれぞれ好きに暴れなさい。そして奴らに狂化竜による洗礼を、闇を与えなさい。それは同時に、私たちの力となる」

「クッヒヒヒヒ! 了解しましたぜぇ!」

「わかりました」

「……了解した」

 

 三人の返事を聞き、アサヒはフードの下で微笑を浮かべる。

 闇こそが彼女の力。人々の負の感情もまた彼女の力。

 この第二段階は、一気にその闇を増幅させるための作戦だ。

 

「では位置につきなさい。奴らが戦闘を開始したときこそ、開幕の合図。私たちも戦闘を開始するわ」

 

 それが打ち合わせの終わりとなる。詳しいことは事前に終わらせてある。あとは、流れるままに動くだけだ。

 それぞれ騎乗するリオレウスに乗り、そしてキングチャチャブーもチャチャブーを引き連れてリオレウスに飛び乗った。

 

 あとは、ドンドルマのハンターたちが出動するのを待つだけだ。

 

 

 ○

 

 

 ドンドルマ東門。そこには数十人のハンターが集まっている。彼らはラオシャンロンと戦う先発組である。壁の上にはバリスタや大砲の前に立っているギルドナイトが集まっており、その時を待っている。

 彼らの視線の先には既に肉眼で視認出来るほど接近しているラオシャンロンがいる。

 その姿は改めてみると圧巻もの。

 なにせここまで聞こえてくるほどの鈍い足音と振動。その体は赤褐色の山と見間違うほどの巨大。それがゆっくりと迫ってくるのだ。

 その威圧感はここまで伝わってくるほどに大きい。中にはもう微かに震えている者までいる。

 ただ歩いているだけなのにこれほどのプレッシャーを与える存在。

 

 それが古龍が一種。老山龍、ラオシャンロン。

 

 かの存在はもうドンドルマまで三キロ付近まで迫ってきている。だがそこにはドンドルマが仕掛けた罠が存在している。

 歩みを進めていたラオシャンロンの前足がある場所を踏み抜いたとき、その足が沈み込んだ。その瞬間、ラオシャンロンの体の下が大きな爆発に包まれる。

 

 

 ――グオオオォォォォァァァアアアアアア!?

 

 遠くから響き渡る爆音とラオシャンロンの悲鳴。

 罠の一つである、対巨龍地雷が発動したのだ。

 これは文字通り地面の下に設置した爆弾。対巨龍を銘打たれている通り、ラオシャンロンに対して開発された爆弾だ。

 ラオシャンロンが接近してきた際にギルドが用意した罠で、一定の地点に数百メートルにわたって大地の魔法を使用する。これによって長方形の穴を作り上げる。そこに大タル爆弾で埋め尽くし、再び大地の魔法で埋めなおす。またその体全体に爆風が伝わるように、前足部分に特殊な仕掛けを施し、踏み抜けるようにしてある。

 あとはラオシャンロンがその地点を前足で踏み抜いたとき、爆弾が爆発するという仕掛けだ。一つが爆発すれば連鎖反応で全ての爆弾が爆発する。

 今回仕掛けたのは大タル爆弾200個。だが誰もがそれだけで倒せるとは思っていない。よくて外殻の一部がはがれ落ちたぐらいでいい。

 だが地雷を踏み抜いたのはただダメージを与えるだけでは終わらない。

 

 それは同時に、戦いの幕開けを知らせる爆発(のろし)でもあるのだ。

 

 

「かかれぇぇぇぇ!!!」

 

 

 ギルドナイトの一人がその掛け声をかけると同時に、ハンターたちが一斉に走り出す。

 大半の戦士タイプのハンターたちはその足で走ってラオシャンロンへと接近する。しかし一部のハンター、例えばランスなどの重量級のハンターは数頭のアプトルが引く二輪の荷車に乗って接近している。アプトルにはギルドナイトが騎乗しており、荷車にはハンターだけでなく、ガンナーのための素材や、回復薬などの回復アイテムが入った袋が乗せられていた。所謂補給のための存在だ。

 戦士タイプのハンターの背後からはガンナーが続く。大半は二輪の荷車に乗っているか、アプトルに騎乗して接近している者もいる。

 大地に人の波と砂煙が舞い上がり、さながらそれは戦争が行われているかのように圧巻だった。恐らく古代の戦争というものは、こういう光景がよく見られたことだろう。

 

 だがこれは人と人の戦争ではない。

 人と『天災』の戦争である。

 

 

「始まったか」

 

 ラオシャンロンの上空に放った鳥を通してアキラが呟いた。彼の背後には、今か今かと出番を待っているリオレウスとリオレイアが待機していた。

 朝陽に連絡を入れ、彼女たちにも出るように伝える。それを終えると顔を上げて微かに笑みを浮かべる。

 

「では――我も出るとしようか。ククク……」

 

 銀色のローブを翻し、リオレウスに飛び乗ると全員に指示を下す。

 

「グワアアアァァァァ!!」

 

 一斉にリオレウスたちが咆哮をあげ、翼をはためかせて浮上していく。同時にその体が原種のものから狂化竜の黒へと変化していく。そのまま森から飛び立ち、西のドンドルマへと複数の黒い影が向かっていく。

 

 同時刻、ドンドルマの西側の山から黒い影が一斉に飛翔する。その背にはゲイルたちとチャチャブーたちが確認できる。

 その様はまさしく竜騎兵。

 竜に騎乗した戦士たちの来襲である。そして彼らはそれぞれドンドルマの西、北、南へと移動していき、ドンドルマへと襲撃を開始する。

 

 

 ○

 

 

「で、伝令ッ! ドンドルマの西側から正体不明の影が接近してきます!」

「な、なんだと……!?」

 

 その数分後にハンターズギルド本部にそんな報告が伝わってくる。男は伝令にどんな姿をしているのかを聞き出す。

 答えは黒く染まったリオレウスとリオレイアだという。

 それを聞いた男が月の言葉を思い返す。

 

 恐らく、西側から狂化竜、黒く染まったリオ夫婦が襲い掛かってくる。だから全方位に厳戒態勢をしいた方がいい。

 

 彼女は確かにそんな忠告をした。しかし狂化竜なんてものがいると信じなかった彼らは、その忠告を無視し、自分たち保守派のギルドナイトは東側へと集めてある。

 

「ま、まさか……そんな……バカなことが……!?」

 

 体が震え、冷や汗が流れ始める。伝令はすでに部屋を出ており、室内には男が一人。

 男の頭の中に最悪の展開が広がっていた。

 ドンドルマが落ちる。

 よもや本当に襲撃が入るなど思いもしなかった。月たちはなぜこのことを知っているのか、という微かな疑問があるが、そんなことはどうでもいい。

 ドンドルマが落ちる、なんてことがあれば自分たちは終わる。

 だがそんな彼を救う声が掛かる。

 

「心配めされるな」

「……貴様」

 

 現れたのはレインの父親、ソルだ。彼は赤を中心としたG級装備であるギルドガード紅に身を包んでいる。その佇まいからその装備に反しない実力者であることは容易にわかる。

 彼を見た男は苦虫を噛み締めたような顔をするが、ソルはニヤリと男を気を逆なでするような笑みを浮かべた。

 

「我々の部下がそれぞれの場所を固めてある」

「なんだと……?」

「あなたが彼女に聞いているように、私もまた彼女から忠告を受けていてね。加えて先日報告したように狂化したレイアを確認している。だから早速指示を出して防衛に当たっている。もちろん普通のハンターも派遣してある」

 

 流れるように説明するソルに、男は拳を握り締めていく。

 それを見たソルはやれやれと首を振って背を向ける。

 

「かの神倉月の忠告を無視するとはな。その結果としてドンドルマを守りきれない、などとなればいい笑いものだよ。ドンドルマを守るギルドナイトが、街の危機を知らせる話を無視するなどあってはならぬこと。この件、上に報告させてもらう」

「お、おのれ……」

「ああ、それと」

 

 そこで肩越しに振り返り、男を睨みつけるような視線を向けた。その緋色の目は怒りによって彩られている。

 

「俺の親友の件、いずれ掴んでみせる。お前たちはギルドナイトにとっての汚点であることは変わりないのだからな」

「っ、貴様……まだ」

「……では、私はこれで失礼する」

 

 微かに頭を下げてソルは部屋を出て行った。

 残された男はうなだれ、汗を流しながら机を見つめている。机に広げられたドンドルマの地図に、男の汗が一滴、二滴と落ちていくがそんなことに気を向けられない。

 親友の件、それは男にとっての最大の人生の影。かつてギルドナイトに所属していた夫婦の件だ。

 彼らの暗殺。

 ソルはそのことを言っているのだ。

 

「く、そ……。どうすれば……」

 

 自分の立場を守るための策を考えるが、混乱した頭は良策を打ち出すことは出来ない。

 そんな彼の耳に微かな足音が届く。顔を上げれば見知った顔がそこにある。混乱した頭に更なる一撃が与えられることになった。

 

「……何の用だ?」

「さようなら。あなたはやはり、使えない駒でしたよ」

 

 その言葉と同時に一閃が放たれた。それは男の額を貫き、一瞬にして男を絶命させる。それを無表情に見下ろし、軽く鼻を鳴らしてその人物は部屋を出ていく。

 

「これで一人。さぁ、あの女が来る前に使わなくなった駒を処理していかなければ」

 

 うっすらと笑みを浮かべながら本部の廊下を歩いていく。

 こちらでも『作戦』が開始された。

 

 

 ○

 

 

 月は顔を上げてドンドルマの外を見やる。同じように獅鬼、雷河、焔もその気配を感じ取っていた。

 

「どうやら来たようだね」

「ああ。行くとしよう」

 

 月と獅鬼が立ち上がり、そして紅葉たちも立ち上がった。ローブを纏い、一斉に待機していた本部を飛び出していく。

 その背後では緊急伝令が届いていた。

 

 ドンドルマの全方向から黒い影が接近。

 待機しているハンターたちは襲撃してくる影に対処せよ。

 

 突然の伝令にハンターたちは混乱しているが、中にはあの気配に感じ取っていたハンターもいたようだ。それぞれ本部を飛び出してドンドルマの街を駆け抜ける。

 

「死なないようにね」

「頑張って来い」

「気をつけていけよ!」

 

 平行して走っていた月たちがそれぞれ声をかけてくれる。それにうなずくと、彼らは跳躍して屋根に着地し、そのまま北門へと向かっていった。紅葉たちはこのまま走り続け、西門へと向かっていく。

 

 

 ○

 

 

 ドンドルマ東の森。そこにはアプトルを走らせている昴たちがいる。上空ではすでに狂化したリオレウスたちが飛行しており、昴たちを追い越してドンドルマへと向かっていった。

 

「おいおいおい!? なんだアレは!?」

「黒いレウスにレイア……? ちょ、聞いてないわよっ!?」

 

 ケビンとスズネが翡翠に問いかけているが、翡翠は少しだけ引きつった顔であちこちに視線を彷徨わせている。そのまま優羅へと視線を向けたが、彼女は無表情に一言こう呟いた。

 

「……恐らくは奴らの策」

「……ああ、なるほど。つまりはドンドルマを落とそうってことかい」

「ちょっと、二人で納得してないで、説明を要求するわっ!」

 

 彼らからすれば、ラオシャンロンの迎撃に来たというのに、思わぬオプションがついてきたことになる。しかもそのオプションがとんでもないビックゲストということだ。

 ちなみに彼らは知らないが、こちら側から向かっていったのは四対の番である。

 

「まあようするに、だ。お前ら、腹ぁ括れ。通常よりも一段、二段階上のリオ夫婦も相手にするってことになったからよ」

「はぁぁ!?」

「うわっ、それは凄いことになったねぇ~♪」

 

 唖然とするスズネに対し、シェリルは陽気な笑顔を見せている。その隣ではガッツが肩を揺らしながら笑いを堪えていた。

 

「まったくよぉ、ポケット村のことといい、今回といい、お前ら、リオ夫婦に縁があるなぁ? コレはとんでもねえことになったもんだ」

「いやいや、笑い事じゃねえぞ、オッサン。下手すれば今度は間違いなく死ぬぞ?」

「ハッ、上等じゃねえの。そんな戦いが時にはあってもいいじゃねえか。それともなにか、坊主。ビビッたか?」

「なっ、だ、誰がっ!?」

 

 挑発的な笑みを浮かべたガッツに、少し頭にきたのかケビンが少しだけ顔を紅潮させた。

そんなケビンにまた低く笑って何度か頷く。

 

「そうだよなぁ。なんたってババコンガ8体に加えて上位キリン討伐、クシャルダオラ撃退もこなしてきたんだ。今更ラオとリオ夫婦なんざ怖くネエよなあ?」

「お、おう! もちろんじゃねえか!」

「くっくっく……、そうでなくちゃな! ま、気張れや坊主。俺たちだけじゃなくて、ドンドルマを防衛しているハンターたちが味方についてんだ。だが気ぃ抜くなよ? そうすれば、マジで死ぬぜ?」

「わぁってるよ!」

 

 そんなやり取りをしながら二人は走り続ける。そんな光景を眺めながら昴はぐっと手綱を握り締める。

 いよいよドンドルマだ。もう彼らの強い気配が肌に感じられるようになっている。遠くから聞こえていた振動は近づいてくる。

 森を抜ければ目の前に広がるのはドンドルマだけでなく戦場だろう。自分たちはそれに身を投じるのだ。

 

「……昴」

「ん?」

 

 隣を平行していた優羅がぽつりと声をかけてきた。その紅い目が横目で昴を見つめている。

 

「……気をつけてくださいね」

「ああ、わかっている。お前も気をつけて」

「……はい」

 

 小さく頷いてそれに応える。

 優羅は手綱を握り締めて近づく戦場を肌に感じる。戦場に入ったらその顔はハンターのものへと変化するだろう。だが心の根本にあるのはただ一つ。

 昴を絶対に守り通す。

 これは絶対に果たさねばならないこと。彼は死なせてはならない。

 戦場に出ようとも優羅は昴から離れることはない。彼の隣で、後ろで護衛と援護を同時に行ってみせる。それが今回の優羅の立ち位置だった。

 そして二人の前は翡翠と桔梗がアプトルに騎乗している。

 だが少し様子がおかしい。

 そこにあるのはいつもと変わらぬ桔梗の笑顔。彼女はいつだって笑顔を消すことはない。プライベートでもクエスト中でもそこにあるのは笑顔だ。

 

「…………」

「……ふぅ」

 

 隣を走っている翡翠は溜息を漏らした。

 彼からすればまさかここで狂化竜に遭遇するとは思いもしなかったのだろう。先ほどから彼の胸の中には不安が広がっている。それはドンドルマの危機、というわけではない。

 では何なのか。

 それは桔梗に関することだ。

 もう一度彼女の表情を盗み見てみる。

 

「……ふふ」

 

 彼女の口から微かに笑い声が漏れてきた。変わらぬ笑顔の奥に、影が見える気がする。

 

「……あぁ、やっぱり、か」

 

 不安は当たった。ならばそれなりにフォローしなければまずいことになるだろう。

 彼女のアレは消えない。あの日から消えたことはない。

 そして笑顔がそこにある限り、それは決して消えることはない。

 

「なんとか、しねえとな」

「……ふふふ」

 

 それぞれの思いを乗せて、彼らは走り続ける。

 そして森を抜ければ、そこに広がるのは戦場だ。

 遠くにはラオシャンロンが視認出来る。砂煙と共にハンターたちが戦闘しているのもわかる。

 空には黒く染まったリオ夫婦が飛行しており、火球を地上にいるハンターたちへと放っていた。

 

「行くぜ、おめぇらぁ!」

 ――応ッ!

 

 ガッツの叫びに昴たちが応え、彼らは一気に加速して戦場へと向かっていった。

 

 

 役者はここに揃った。

 ドンドルマを舞台とした戦いが――幕を開ける。

 

 

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